説明

リコイルスタータ

【課題】引手ハンドルが休止位置に戻された際に引手ハンドルのクロスバーの向きが2通り以下に自動的に規制されるようにしたリコイルスタータを提供する。
【解決手段】リコイルスタータは、リコイルスタータハウジング26の前面板56に設けられた開口部54を通して外部に引き出されるリコイルロープと、このロープに取り付けられて休止位置にあるときに開口部54に着座させられる引手ハンドル58とを備えている。引手ハンドル58が開口部54に着座させられる際に互いに係合し合う第1及び第2のガイド面50及び52がそれぞれ開口部54の内面及び引手ハンドル58の軸部60の外面に設けられている。ガイド面50及び52は、引手ハンドル58のクロスバー66が規定の方向に向いているときにのみ互いに係合し合うように、それぞれの横断面の輪郭が開口部の軸線18の回りに2回以下の回転対称性を有する形状を持つように形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンを始動するために用いるリコイルスタータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
船外機、農機具、消防ポンプなどを駆動するエンジンを始動する装置として、リコイルスタータが用いられている。特許文献1や特許文献2に示されているように、リコイルスタータは、リコイルロープが巻かれるスタータプーリと、スタータプーリにリコイルロープを巻き付ける方向に該プーリを付勢する付勢手段と、リコイルロープの端部に接続された引手ハンドルと、該引手ハンドルを引いてリコイルロープをスタータプーリから巻き戻す際にスタータプーリとエンジンの回転軸とを結合してスタータプーリの回転をエンジンの回転軸に伝達し、エンジンが始動した後にスタータプーリとエンジンの回転軸との結合を解くクラッチ機構とを備えている。引手ハンドルは、リコイルロープがスタータプーリに完全に巻き取られている状態にあるときに休止位置に配置され、エンジンを始動するためにリコイルロープをスタータプーリから巻き戻す際に運手者により引っ張られて該休止位置から離れる方向に変位させられる。引手ハンドルが休止位置から離れる方向に変位させられてリコイルロープがスタータプーリから巻き戻されるとスタータプーリが回転し、このスタータプーリの回転がエンジンの回転軸に伝達されてエンジンが始動させられる。エンジンが始動した後、引手ハンドルが休止位置に戻される過程で、付勢手段により付勢されたスタータプーリがエンジン始動時と逆方向に回転してリコイルロープを巻き取る。
【0003】
スタータプーリやクラッチ機構などのリコイルスタータの構成部品はリコイルスタータハウジング内に収容されており、リコイルロープは、このリコイルスタータハウジングに設けられた開口部を通して外部に引き出される。引手ハンドルは、リコイルロープがスタータプーリに巻き取られた状態にあるときに休止位置に達して上記開口部に着座した状態に置かれる。引手ハンドルは、一端がリコイルロープに接続された軸部と、該軸部の他端にあって該軸部と直角な方向に延びクロスバーとを備えたT字形の部材からなっていて、休止位置にあるときにその軸部がリコイルスタータハウジングの開口部内に着座させられる。
【特許文献1】特開平10−238440号公報
【特許文献2】特開2001−115889号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
船外機、消防ポンプなどを含む種々の用途においては、リコイルロープが巻き戻されて引手ハンドルがリコイルスタータハウジングの開口部に着座させられた際に、引手ハンドルのクロスバーが常に同じ方向を向くようにしておくことが望ましい。例えば、或種の船外機においては、引手ハンドルのクロスバーが水平方向に向いていないと、リコイルスタータのカバー(トップカウル)を取り外すことができないようになっている。この場合ユーザは、カバーを取り外す毎に、引手ハンドルのクロスバーを水平方向に向けるように、ハンドルの向きを調整しなければならない。また、船外機や消防ポンプにおいては、休止位置に戻された引手ハンドルのクロスバーが所定の方向に向いているときに外観が良好になるようにデザインが配慮されることがある。更に、ユーザの好みにより、引手ハンドルが休止位置にあるときにそのクロスバーが常に同じ方向を向いている方が、エンジンの始動の際に便利であるとされる場合もある。
【0005】
ところが従来のリコイルスタータにおいては、リコイルスタータハウジングの開口部の内面を円錐面状として該開口部を丸形ポケットの形にするとともに、引手ハンドルの軸部の先端部を円錐状として、引手ハンドルの軸部の円錐状の部分を開口部の内面に嵌合させることにより、引手ハンドルの軸部を開口部に着座させるようにしていたため、引手ハンドルを休止位置に戻した際にそのクロスバーを同じ方向に向ける(クロスバーの向きを180度離れた2通り以下の向きとする)ことができなかった。またリコイルスタータハウジングの開口部を丸形ポケットの形にし、引手ハンドルの軸部を円錐状とした場合には、エンジンの運転中に発生する振動により、引手ハンドルが開口部の軸線の回りに回転するのを阻止できないため、引手ハンドルの軸部と開口部の内面との接触面が摩耗させられるという問題があった。
【0006】
本発明の目的は、引手ハンドルを休止位置に戻した際に、引手ハンドルのクロスバーを自動的に同じ方向に向けることができるようにしたリコイルスタータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、エンジンを始動する際にリコイルスタータハウジングに設けられた開口部を通して外部に引き出されるリコイルロープと、このリコイルロープに接続されていてリコイルロープが巻き取られている状態にあるときには休止位置にあるがリコイルロープを引き出す際に休止位置から離れる方向に変位させられる引手ハンドルとを備えたリコイルスタータを対象とする。本発明が対象とするリコイルスタータで用いられる引手ハンドルは、一端がリコイルロープに接続された軸部と該軸部の他端側にあって該軸部に対して直角な方向に延びるクロスバーとを一体に備えた部材からなっていて、休止位置にあるときにその軸部がリコイルスタータハウジングの開口部の軸線方向に延びる状態で該開口部に着座させられる。
【0008】
本発明においては、引手ハンドルが開口部に着座させられる際に互いに係合し合う第1及び第2のガイド面がそれぞれリコイルスタータハウジングの開口部の内面及び引手ハンドルの軸部の外面に設けられる。第1及び第2のガイド面は、引手ハンドルのクロスバーが常に規定の一方向に向いているときにのみ互いに係合し合うように、それぞれの横断面の輪郭が開口部の軸線の回りに2回以下の回転対称性を有する形状を持つように形成されている。
【0009】
一般に、開口部の軸線の回りにn回の回転対称性を有するとは、該軸線の回りに360度回転させた際に、形状が区別できないように重なり合う状態(元の形状に戻る状態)がn回生じる(360/n度回転する毎に形状が元に戻る)ことを意味する。
【0010】
上記のように、開口部に設ける第1のガイド面及び引手ハンドルの軸部の外面に設ける第2のガイド面の横断面の輪郭が、開口部の軸線の回りに2回以下の回転対称性を有する形状を持つようにしておくと、第1のガイド面と第2のガイド面とが係合を完了した際に、引手ハンドルのクロスバーが必ず規定の一方向に沿う状態になるため、引手ハンドルの軸部をリコイルスタータハウジングの開口部に着座させた際に、引手ハンドルのクロスバーを常に同じ方向に向けるという要請に応えることができる。
【0011】
また上記のように構成しておくと、引手ハンドルが休止位置でリコイルスタータハウジングの開口部に着座させられた状態にあるときに、引手ハンドルが回転することができないため、エンジンの振動により引手ハンドルが回転してその軸部と開口部の内面との接触面が摩耗するのを防ぐことができる。
【0012】
通常リコイルスタータにおいては、エンジンに取り付けられた状態で、リコイルスタータハウジングがカバーで覆われ、引手ハンドルは、休止位置にあるときにその軸部がカバーに設けられた引手ハンドル挿通孔を通してリコイルスタータハウジングの開口部に着座させられる。またクロスバーが前記規定の一方向に向いているときにはカバーを取り外す際に該クロスバーが引手ハンドル挿通孔を通過し得るが、クロスバーが前記規定の一方向以外の方向に向いているときにはカバーを取り外す際にクロスバーが引手ハンドル挿通孔を通過することができないように、引手ハンドル挿通孔が規定の一方向に細長い形状を有するように設けられている。
【0013】
本発明の好ましい態様では、第1及び第2のガイド面の軸線と直交する平面に沿った断面の輪郭が、軸線と直交する1つの主軸に沿う方向に第1の寸法を有し、該主軸と直交する1つの従軸に沿う方向に第2の寸法を有して、第1の寸法が第2の寸法よりも大きい形状を有するように、第1のガイド面及び第2のガイド面が設けらられて、第1及び第2のガイド面の断面の輪郭形状により引手ハンドルのクロスバーの向きが2通り以下に制限される。
【0014】
本発明の他の好ましい態様では、上記開口部が、リコイルスタータハウジング内に向かって延びるポケットの形に形成され、リコイルスタータハウジング内に向うに従って先細りとなるように開口部の軸線に対して傾斜した雌形のカム面が開口部の内面に形成されて該雌形のカム面が第1のガイド面とされる。また引手ハンドルの軸部の外面に該軸部の一端側に向うに従って先細りとなるように該軸部の軸線に対して傾斜した雄形のカム面が設けられて該雄形のカム面が第2のガイド面とされる。
【0015】
本発明の好ましい態様では、上記第1及び第2のガイド面の横断面の輪郭線が、リコイルスタータハウジングの開口部の軸線を横切る方向に延びる一つの直径に対して対称であって、該一つの直径に対して互いに鏡像の関係を有する第1及び第2の部分を有している。この場合各鏡像は、一つの直径と平行な方向及び該一つの直径に対して直角な方向にそれぞれ第1の幅及び第2の幅を有し、第1の幅が第2の幅よりも大きく設定される。
【0016】
上記第1のガイド面及び第2のガイド面の横断面の輪郭は、楕円形、長方形、半円形、三日月形及び引き延ばされた菱形の中から選択された1つの形状を呈していることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明によれば、リコイルスタータハウジングの開口部に設ける第1のガイド面及び引手ハンドルの軸部の外面に設ける第2のガイド面のそれぞれの横断面の輪郭が、開口部の軸線の回りに2回以下の回転対称性を有する形状を持つようにして、第1のガイド面と第2のガイド面との係合が完了した状態で引手ハンドルのクロスバーが必ず規定の一方向に沿う状態になるようにしたため、引手ハンドルの軸部をリコイルスタータハウジングの開口部に着座させた際に、引手ハンドルのクロスバーを常に同じ方向に向けた状態にすることができる。
【0018】
また本発明によれば、引手ハンドルが休止位置でリコイルスタータハウジングの開口部に着座させられた状態にあるときに、引手ハンドルが回転できない状態に置かれるため、エンジンの振動により引手ハンドルが回転してその軸部と開口部の内面との接触面が摩耗するのを防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下図面を参照して本発明の好ましい実施形態を説明する。
【0020】
図1及び図2はリコイルスタータ14を有するエンジン12を備えた船外機10を示している。リコイルスタータ14は、リコイルロープ16が巻かれるスタータプーリ(図示せず。)と、スタータプーリにリコイルロープ16を巻き付ける方向に該プーリを付勢する付勢手段(図示せず。)と、リコイルロープ16をスタータプーリから巻き戻す際にスタータプーリとエンジンの回転軸とを結合してスタータプーリの回転をエンジンの回転軸に伝達し、エンジンが始動した後にスタータプリとエンジンの回転軸との結合を解くクラッチ機構(図示せず。)とをリコイルスタータハウジング26(図2参照)内に備えている。
【0021】
リコイルスタータハウジング26の前面板24にはリコイルロープを引き出すための開口部20が設けられている。リコイルロープ16は、エンジンを始動する際に開口部20の軸線18に沿って外部に引き出される。リコイルロープ16には引手ハンドル28が接続されている。引手ハンドル28は、リコイルロープ16がスタータプーリに完全に巻き取られている状態にあるときに休止位置(図1に示した位置)に配置されて開口部20に着座させられる。引手ハンドル28は、エンジンを始動する際に、運転者により引っ張られて開口部20(休止位置)から離れる方向(図1において右方向)に変位させられる。引手ハンドル28が休止位置から離れる方向に変位させられると、リコイルロープ16がスタータプーリから巻き戻されるためスタータプーリが回転し、このスタータプーリの回転がエンジンの回転軸に伝達されてエンジンが始動させられる。エンジンが始動するとクラッチ機構が働いてスタータプーリとエンジンの回転軸との間の結合を解く。エンジンが始動した後、引手ハンドル28が休止位置に戻される過程で、付勢手段により付勢されたスタータプーリがエンジン始動時と逆方向に回転してリコイルロープ16を巻き取る。
【0022】
図示の引手ハンドル28は、一端がリコイルロープ16に接続された軸部38と、該軸部38の他端側にあって該軸部に対して直角な方向に延びるクロスバー40とを一体に備えたT字形の部材からなっていて、クロスバー40をユーザの手により握ることができるようになっている。引手ハンドル28は、休止位置にあるときにその軸部38が、リコイルスタータハウジング26を覆うカバー44に設けられた引手ハンドル挿通孔42を通して、開口部20の軸線18に沿う方向に延びる状態で、開口部20に着座させられる。船外機の場合、カバー44はエンジンを上から覆う上部カウルを兼ねている。
【0023】
上記のようなリコイルスタータの基本的な構成及び動作は既に公知である。船外機10は下方に延びていて、下部に推進軸ハウジング32とプロペラ34とを有するドライブシャフトハウジング30を備えている。船外機はまた、前方に延びていて操舵を含む種々のコントロール機能を有するティラーハンドル36を備えている。
【0024】
既に述べたように、従来のリコイルスタータにおいては、リコイルスタータハウジング26の開口部20の内面を円錐面状に形成して該開口部を丸形ポケットの形にし、引手ハンドル28の軸部38の先端部を円錐状として、引手ハンドルの軸部の円錐状の部分を開口部20の内面に嵌合させることにより、引手ハンドル28の軸部38を開口部20に着座させていた。そのため、引手ハンドル28を休止位置に戻した際にそのクロスバー40を常に同じ方向に向ける(引手ハンドルの休止位置におけるクロスバーの向きを180度離れた2通り以下に規制する)ようにすることができなかった。また従来のリコイルスタータでは、エンジンの運転中に発生する振動が伝達されたときに、引手ハンドル28が開口部20の軸線18の回りに回転することができたため、引手ハンドル28の軸部38と開口部20の内面との接触面が摩耗させられることがあった。
【0025】
そこで、図2に示したように、横断面が正方形状を呈してリコイルスタータハウジング26内に向って先細りとなるように傾斜した形状の(正四角錐状の)雌形のガイド面をリコイルスタータハウジングの開口部20の内面に設けて該開口部20を角形ポケットの形にするとともに、引手ハンドル28の軸部38の外面に、上記角形ポケットの雌形ガイド面と係合し合う正四角錐状の雄形ガイド面を形成することにより、休止位置にある引手ハンドルがエンジンの振動により回転するのを阻止することが提案された。この場合、引手ハンドルの軸部38の雄形カム面は、開口部20の雌形カム面と相補的な形状を有していて、リコイル動作により引手ハンドルが休止位置に戻される際に、両カム面が互いにカム接触しながら引手ハンドル28のクロスバー40を互いに90度異なる2つの方向のいずれかの方向に向けるように、引手ハンドル28をガイドする。
【0026】
上記のように構成した場合、引手ハンドルの休止位置におけるクロスバー40の向きは4通りある。クロスバーの4通りの向きのうちの2つは、例えば垂直方向に沿う向きであり、他の2つの向きは、水平方向に沿う向きである。このように構成した場合、引手ハンドルがエンジンの振動により回転するのを防ぐことはできるが、引手ハンドルが休止位置に戻されたときにクロスバー40が常に一方向に向くようにするとの要請には応えることができない。
【0027】
またカバー44に設けられる引手ハンドル挿通孔42は、その開口面積をできるだけ小さくするために、一方向に沿って長く延びる細長い形状に形成される。通常は、引手ハンドル挿通孔42が水平方向に長く延びる形状に形成されている。引手ハンドルの軸部38が引手ハンドル挿通孔42を貫通している状態で、カバー44を外すためには、引手ハンドル28のクロスバー40が引手ハンドル挿通孔42内を通過し得るようにしておく必要がある。そのためには、引手ハンドルが休止位置にあるときに、そのクロスバー40が水平方向に向いていなくてはならない。もしそうでない場合には、ユーザは、クロスバー40がカバー44の引手ハンドル挿通孔42の内側の空所を通過し得るようにするために、引手ハンドルのクロスバー40の向きを、垂直方向に向いた状態から、水平方向に向いた状態に変更しなければならない。
【0028】
図3ないし図11は、上記の問題を解消するための本発明の好ましい実施形態を示したものである。理解を容易にするため、図3ないし図11において、図1及び図2に示した船外機の各部と同等の部分には同一の符号を付してある。
【0029】
図3においては、リコイルスタータハウジング26の前面板が符号56で示され、前面板56に設けられた開口部が符号54で示されている。また引手ハンドルが符号58で示されている。リコイルスタータハウジング26の前面板56の開口部54及び引手ハンドル58の軸部にそれぞれ雌形の第1のガイド面50及び雄形の第2のガイド面52が形成されている。第1及び第2のガイド面50及び52は、引手ハンドル58のクロスバー66が常に規定の方向(この例では水平方向)に向いているときにのみ互いに係合し合う形状に形成される。
【0030】
そのため、本発明においては、第1のガイド面50及び第2のガイド面52の横断面の輪郭が、開口部54の軸線18の回りに2回以下の回転対称性を有する形状を持つように形成されている。
【0031】
回転対称の回数が2である場合、ガイド面52を開口部の軸線18の回りに360/2度(=180度)回転させる毎に、ガイド面の横断面の形状が元の形状と区別できない状態になる。従って、上記のように、第1のガイド面及び第2のガイド面の横断面の形状を定めた場合には、引手ハンドル58が休止位置に戻された際に、そのクロスバー66が常に一方向に向くようにすることができ、引手ハンドル58が休止位置に戻された際のクロスバー66の向きを、互いに180度異なる2通りの向きのいずれかとすることができる。
【0032】
図示の例において、引手ハンドル58が休止位置に戻された際に該引手ハンドルのクロスバー66がとり得る2通りの向きは、水平方向に沿う2通りの向き(互いに180度離れた向き)であり、カバー44を取り外す際に、クロスバー66がカバー44の引手ハンドル挿通孔42内を通過するのが許容される向きである。このように、引手ハンドル58が休止位置にあるときに、そのクロスバー66が常に水平方向に沿う規定の一方向に向くようにしておくと、カバー44を取り外す際に、引手ハンドル58のクロスバー66の向きを変更する必要がなくなるため、カバー44の取り外しを容易にすることができる。
【0033】
図3に示された第1のガイド面50及び第2のガイド面52は、開口部54の軸線18と直交する平面に沿った断面(横断面)が図4に示したような輪郭形状を有している。ガイド面50,52の横断面形状は、軸線18と直交する主軸に沿った方向(図4において左右方向)に第1の寸法68を有し、主軸と直交する従軸方向(図4において上下方向)に第2の寸法70を有する形状であり、第1の寸法68が第2の寸法70よりも大きく設定されている。ガイド面50,52の断面形状により、引手ハンドル58がとり得る向きが2通りに規制されるようになっている。図4に示した例では、ガイド面50,52の横断面形状が楕円形である。リコイルスタータハウジングに設けられた開口部54により、リコイルスタータハウジング内に延びるポケットが形成される。このポケットは、図5に示すように、ハウジング内に向うに従って先細りとなるように軸線18に対して傾斜した雌形のカム面72を備え、このカム面が第1のガイド面50とされる。
【0034】
更に、本実施形態においては、引手ハンドル58の軸部が開口部54内に向って延びるように設けられていて、該引手ハンドルの軸部の外面に、開口部54内に向うに従って先細りとなるように軸線18に対して傾斜した雄形のカム面74(図3参照)が形成され、このカム面74が第2のガイド面52とされる。カム面72及び74によりそれぞれ形成される第1及び第2のガイド面50及び52は、引手ハンドル58がリコイル動作により図1に示した休止位置に戻る際に互いにカム接触して、引手ハンドル58の向きを、クロスバー66が水平方向に向いた状態になる2通りの向きのうちのいずれかに一致させるように規制する。
【0035】
本実施形態では、図4に示したように、カム面72及び74によりそれぞれ形成されるガイド面50及び52の横断面の輪郭線76が楕円状を呈している。輪郭線76は、軸線18を横切る図示の軸78に対して線対称をなしていて、軸78の両側にある周縁部76の第1及び第2の部分80及び82が軸78に対して鏡像の関係を有している。鏡像関係にある第1及び第2の部分80及び82のそれぞれは、軸78と平行な方向に第1の幅84を有し、軸78に対して直角な方向に第2の幅86を有している。ガイド面50及び52を軸線18の回りに2回の回転対称性を有する形状として、引手ハンドル58の休止位置においてそのクロスバーが常に一方向に向く(クロスバーの向きが2通りとなる)ようにするために、第1の幅84が第2の幅86よりも大きく設定されている。
【0036】
図6ないし図8は、本発明の他の実施形態を示している。これらの図の各部には、説明の便宜のために、前記実施例と同じような符号の付け方をしてある。図6ないし図8において、94はリコイルスタータハウジング26の前面板、92は前面板94に設けられた開口部、96は引手ハンドルで、開口部92は第1のガイド面90を有している。
【0037】
リコイルスタータハウジング26の前面板94に設けられた開口部92の第1のガイド面90は、該開口部の軸線18と直交する平面に沿った断面(横断面)の輪郭形状が楕円状を呈するように形成される代りに、図7に示したように矩形状を呈するように形成されている。
【0038】
引手ハンドル96の軸部100の一端側の外面には、該軸部の一端に向うに従って先細りとなるように傾斜した第2のガイド面98が形成されている。引手ハンドルの軸部100に設けられた第2のガイド面98の軸線18と直交する平面に沿った断面(横断面)の輪郭は、第1のガイド面90の横断面の輪郭と相補的な矩形状の形状に形成されている。引手ハンドル96の軸部100に設けられたガイド面98は、引手ハンドル96が休止位置に戻される際にガイド面90内に受け入れられて、引手ハンドル96をガイドしつつ該引手ハンドル96のクロスバー102の向きを水平方向に沿う2通りの向きのいずれかに規制する。図示の例では、第1のガイド面90及び第2のガイド面98が、開口部92の軸線18の回りに2回以下の回転対称性を有する形状を持つように設けられていて、これらのガイド面により、休止位置にある引手ハンドル96のクロスバーの向きが2通り以下に規制される。
【0039】
ガイド面90及び98の横断面の輪郭線104は、符号106で示された軸(軸線18と直交する軸)に対して線対称をなしていて、軸106の両側にある輪郭線104の第1及び第2の部分108及び110が軸106に対して鏡像の関係を有している。鏡像の関係にある第1及び第2の部分108及び110のそれぞれは、軸106と平行な方向に第1の幅112を有し、軸106に対して直角な方向に第2の幅114を有している。引手ハンドル96が休止位置に戻された際のクロスバーの向きを2通りとするために、第1の幅112が第2の幅114よりも大きく設定されている。ガイド面90及び98の横断面の輪郭形状は、軸線18と直交する方向に延びる主軸(軸106)に沿った方向(図7において左右方向)に第1の寸法116を有し、主軸と直交する従軸方向(図7において上下方向)に第2の寸法118を有する長方形の形状である。第1の寸法116は、第2の寸法118よりも大きく設定されていて、カバー44を取り外す際に、引手ハンドルのクロスバー102の向きを変更することなく、クロスバー102を通過させるためのクリアランスをカバー44の引手ハンドル挿通孔42とクロスバー102との間に生じさせるために、引手ハンドル96が休止位置に戻された際にクロスバー102がとる向きが水平方向に沿う2通りの向きのいずれかに一致するように自動的に規制されるようになっている。
【0040】
添付された特許請求の範囲から外れることがない範囲で、各部に種々の変形と修正とを行なうことができる。例えば、リコイルスタータハウジングの開口部及び引手ハンドルの軸部にそれぞれ設けられるガイド面の横断面の輪郭形状は、上記の例に限定されない。例えば、図9に示された半円形の形状120や、図10に示された三日月状またはバナナ形の形状122であってもよい。また図11に示されたように引き延ばされた菱形の形状124であってもよく、更に他の形状であってもよい。本発明のように構成することにより、エンジンが回転している間引手ハンドルが軸線18の回りを回転するのを阻止することができることは、本発明の好ましい特徴の1つである。
【0041】
上記の実施形態では、船外機のエンジンを始動するリコイルスタータに本発明を適用した場合を例にとったが、消防ポンプや農機具などの他の機器を駆動するエンジンを始動するリコイルスタータにも本発明を適用することができるのはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】船外機の外観を示す側面図である。
【図2】図1の一部の分解斜視図である。
【図3】本発明の実施形態を示した図2と同様の分解斜視図である。
【図4】図3の一部を示す正面図である。
【図5】図4の5−5線に沿って断面した断面図である。
【図6】本発明の他の実施形態を示す分解斜視図である。
【図7】図6の一部を示す正面図である。
【図8】図7の8−8線に沿って断面して示した断面図である。
【図9】本発明の他の実施形態の要部を示したす正面図である。
【図10】本発明の更に他の実施形態の要部を示した正面図である。
【図11】本発明の更に他の実施形態の要部を示した正面図である。
【符号の説明】
【0043】
16 リコイルロープ
18 開口部の軸線
26 リコイルスタータハウジング
44 カバー
42 引手ハンドル挿通孔
50 第1のガイド面
52 第2のガイド面
54 開口部
58 引手ハンドル
60 軸部
66 クロスバー
90 第1のガイド面
92 開口部
96 引手ハンドル
98 第2のガイド面
100 軸部
102 クロスバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンを始動する際にリコイルスタータハウジングに設けられた開口部を通して外部に引き出されるリコイルロープと、前記リコイルロープに接続されていて前記リコイルロープが巻き取られている状態にあるときに休止位置にあるが前記リコイルロープを引き出す際に前記休止位置から離れる方向に変位させられる引手ハンドルとを備え、前記引手ハンドルは一端が前記リコイルロープに接続された軸部と該軸部の他端側にあって該軸部に対して直角な方向に延びるクロスバーとを一体に備えた部材からなっていて前記休止位置にあるときに前記軸部が前記開口部の軸線方向に延びる状態で前記開口部に着座させられるリコイルスタータにおいて、
前記引手ハンドルが前記開口部に着座させられる際に互いに係合し合う第1及び第2のガイド面がそれぞれ前記リコイルスタータハウジングの開口部の内面及び前記引手ハンドルの軸部の外面に設けられ、
前記第1及び第2のガイド面は、前記引手ハンドルのクロスバーが常に規定の一方向に向いているときにのみ互いに係合し合うように、それぞれの横断面の輪郭が前記開口部の軸線の回りに2回以下の回転対称性を有する形状を持つように形成されているリコイルスタータ。
【請求項2】
前記リコイルスタータハウジングを覆うカバーが設けられ、
前記引手ハンドルは、前記休止位置にあるときに前記軸部が前記カバーに設けられた引手ハンドル挿通孔を通して前記開口部に着座させられるように設けられ、
前記クロスバーが前記規定の一方向に向いているときには前記カバーを取り外す際に該クロスバーが前記引手ハンドル挿通孔を通過し得るが、前記クロスバーが前記規定の一方向以外の方向に向いているときには前記カバーを取り外す際に該クロスバーが前記引手ハンドル挿通孔を通過することができないように、前記引手ハンドル挿通孔が前記規定の一方向に細長い形状を有するように形成されている請求項1に記載のリコイルスタータ。
【請求項3】
前記第1及び第2のガイド面の前記軸線と直交する平面に沿った断面の輪郭は、前記軸線と直交する1つの主軸に沿う方向に第1の寸法を有し、該主軸と直交する1つの従軸に沿う方向に第2の寸法を有して、前記第1の寸法が前記第2の寸法よりも大きい形状を有し、
前記第1及び第2のガイド面の断面の輪郭形状により前記引手ハンドルのクロスバーの向きが2通り以下に制限されている請求項1に記載のリコイルスタータ。
【請求項4】
前記開口部は前記リコイルスタータハウジング内に向かって延びるポケットの形に形成され、
前記リコイルスタータハウジング内に向うに従って先細りとなるように前記開口部の軸線に対して傾斜した雌形のカム面が前記開口部の内面に形成されて該雌形のカム面が前記第1のガイド面とされ、
前記引手ハンドルの軸部の外面に該軸部の一端側に向うに従って先細りとなるように該軸部の軸線に対して傾斜した雄形のカム面が設けられて該雄形のカム面が前記第2のガイド面とされている請求項1,2または3に記載のリコイルスタータ。
【請求項5】
前記第1及び第2のガイド面の横断面の輪郭線は、前記開口部の軸線を横切る方向に延びる一つの軸に対して対称であって、前記一つの軸に対して互いに鏡像の関係を有する第1及び第2の部分を有し、
前記各鏡像は、前記一つの軸と平行な方向及び該一つの軸に対して直角な方向にそれぞれ第1の幅及び第2の幅を有し、
前記第1の幅が第2の幅よりも大きく設定されている請求項4に記載のリコイルスタータ。
【請求項6】
前記第1のガイド面及び第2のガイド面の横断面の輪郭は、楕円形、長方形、半円形、三日月形及び引き延ばされた菱形の中から選択された1つの形状を呈している請求項1ないし5のいずれか1つに記載のリコイルスタータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−207550(P2006−207550A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−23750(P2005−23750)
【出願日】平成17年1月31日(2005.1.31)
【出願人】(000109945)トーハツ株式会社 (8)
【出願人】(592014436)ブランズウィック コーポレイション (4)
【氏名又は名称原語表記】BRUNSWICK CORPORATION