説明

リチウムイオン電池及びリチウムイオン電池の製造方法

【課題】耐衝撃性および注液作業性を向上することができるリチウムイオン電池およびその製造方法を提供する。
【解決手段】角型電槽14と渦巻き状の電極素子11との間の各コーナーに電極素子11に密着したスペーサー15を配置し、各スペーサー15の背側15Bに気泡の逃げ道としての空間16を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、角型電槽と、該角型電槽内に収容される渦巻き状の電極素子との間にスペーサーを備えたリチウムイオン電池およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、角型の電池缶に、扁平な渦巻き状の電極素子を収納しているリチウムイオン電池が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−214106号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種のリチウムイオン電池においては、電極素子と電池缶の角部の間に余剰空間ができるため、リチウムイオン電池の耐衝撃性が低いことに加え、余剰の電解液量が多くなるという問題がある。
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、耐衝撃性を向上することができるリチウムイオン電池およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明は、角型電槽と渦巻き状の電極素子との間の各コーナーに前記電極素子に少なくとも一部が密着したスペーサーを配置し、それぞれのスペーサーの背側に気泡の逃げ道としての空間を設けたことを特徴とする。
この構成によれば、電極素子に密着してスペーサーが配置されているため、角型電槽の外部から水平方向に衝撃を受けた場合、衝撃がスペーサーで分散され、電極素子を傷めることなく、リチウムイオン電池の耐衝撃性が向上する。また、スペーサーの背側に気泡の逃げ道としての空間を設けたため、電極素子への電解液の浸透性が向上する。また、この構成において、前記角型電槽の底面と前記スペーサーの下面との間に隙間を形成することが好ましい。この構成によれば、電解液の注液時にこの隙間とスペーサー背面の空間を通じて、効率よく気泡を逃して排気することができる。
【0006】
また、前記スペーサーの下端部に切り欠きを備えても良い。
電解液は、その成分が揮発性や可燃性であるために、未使用状態が続くと劣化するが、この構成によれば、スペーサーの背側に設けられた空間に溜まった電解液と、電極素子に浸透している電解液とが切り欠きを介して流通する。これによって、角型電槽内のスペーサー背側の空間に未使用状態の電解液が溜まることがないため、電解液の劣化を防止することができる。
【0007】
また、本発明は、渦巻き状の電極素子の各コーナーにスペーサーの少なくとも一部を密着し、前記電極素子及び前記スペーサーを一体化して角型電槽に挿入し、前記角型電槽を閉蓋して該電槽内を減圧し、電解液を注液し、減圧と注液を複数回繰り返す過程で、前記電極素子内の気泡を該電極素子の上面を通じ、及び前記角型電槽と前記スペーサー下端との隙間さらに前記スペーサーの背側の空間を通じて排気し、電解液注液後に、最終シールを行うことを特徴とする。
この方法によれば、電極素子とスペーサーとを一体化してから角型電槽に挿入するようにしたため、電極素子とスペーサーとを別々に角型電槽に挿入するのに比べて、リチウムイオン電池の組み立て作業性を向上することができる。また、注液時にスペーサーの背側の空間が気泡の逃げ道となるため、電極素子内に残留している空気を、電極素子の上面からだけではなく、電極素子の下面からも、該空間を介して逃がして、効率よく排気することができ、電極素子の電解液への浸透性が向上し、角型電槽への注液時間を短縮することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、角型電槽と渦巻き状の電極素子との間の各コーナーに、電極素子の少なくとも一部に密着し、さらに角型電槽の各コーナーに気泡の逃げ道となる空間を形成するスペーサーを配置したため、リチウムイオン電池が角型電槽の外部から衝撃を受けた場合には、電極素子の短側面のR部の頂部に衝撃が集中するが、スペーサーの配置により、衝撃がスペーサーで分散され、電極素子への衝撃の伝達が低減され、リチウムイオン電池の耐衝撃性が向上するとともに、角型電槽への注液時には、電極素子の上面からだけではなく、スペーサーの背側に設けられた空間からも気泡が逃げるため、電極素子の電解液の浸透性が向上し、注液時間を短縮できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本実施形態のリチウムイオン電池の構成を示す断面図である。
【図2】リチウムイオン電池の角型電槽への電極素子挿入後の上面図である。
【図3】本実施形態に係るスペーサーを示す斜視図及び背面図である。
【図4】別の実施形態のスペーサーを示す背面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1および図2は、本発明を適用した実施形態に係るリチウムイオン電池10の構成を示す図である。図1に示すように、リチウムイオン電池10は、金属製の略矩形の角型電槽14と、角型電槽14の内部に収容された電極素子11と、角型電槽14の各コーナーに配置されたスペーサー15,15…と、角型電槽14の上部開放部を閉蓋する蓋20とを備えて構成されている。角型電槽14および蓋20は、例えばステンレススチール等から形成されている。電極素子11は、図示は省略したが、アルミニウム箔或いはアルミニウム合金箔からなる正極集電体に正極活物質と結着剤、増粘剤などから成る正極合剤を塗布して形成された帯状の正極と、銅箔からなる負極集電体に負極活物質と結着剤、増粘剤などから成る負極合剤を塗布して形成された帯状の負極とを、これらの正極と負極との間に各極よりもわずかに幅広のセパレータを介して楕円渦巻き状に巻回して形成されている。なお正極と負極の合剤層の一部を剥離させた無地部には、それぞれ複数の正極リード12A、負極リード13Aが電極及びセパレータを巻回したときに同極性のリードが重なり合う位置に溶接されている。
【0011】
蓋20は、角型電槽14内に電極素子11およびスペーサー15,15…を収容後、角型電槽14の上部開放部に溶接される。なお、電極素子11の上部には、図示しない絶縁板が配置され、正極リード12Aの上端は、接続板12Cを介して正極端子12Bに、また、負極リード13Aの上端は、接続板13Cを介して負極端子13Bに溶接される。蓋20の略中央部には、開口21が形成され、開口21を通じて、角型電槽14内に電解液を注入すると共に、角型電槽14内の空気を排出して角型電槽14内を減圧する。開口21には、角型電槽14内への注液後、ボルト22が螺合されるとともに、その上部には封止板23が溶接され、角型電槽14の内部は密閉された状態となる。
【0012】
スペーサー15は、電解液と反応しない金属類、或いは、ポリプロプレン等のポリオレフィン類、エポキシ樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリスチレン樹脂、メラミン樹脂等の高分子材料の少なくとも1種類の樹脂から形成されている。スペーサー15は、図2および図3に示すように、断面略台形状に形成されている。また、スペーサー15は、電極素子11に接する内側15Aが電極素子11と密着するように、電極素子11の形状に沿って形成されている。なお、スペーサー15の内側15Aは、ほぼ全面が電極素子11と接することが好ましいが、この内側15Aに、例えば凹部が形成されて、リブ状になっていても良い。
図2に示すように、各スペーサー15の背側15Bには、角型電槽14の各コーナーに対応した空間16が形成され、各空間16は、後述するように、電解液注液時に気泡の逃げ道となる。空間16の断面積は、角型電槽14と電極素子11との間のコーナーの断面積の10%〜30%以内に形成されている。本発明者らの実証実験から、空間16の断面積が、角型電槽14と電極素子11との間のコーナーの断面積の10%未満の場合には、角型電槽14に電解液を注入する際に、空間16から気泡が効率良く排出されず、電解液の注液性が悪くなり、30%より大きい場合には角型電槽14内の余剰液量が多くなるということが判明している。
【0013】
また、スペーサー15の高さH2(図3(b)参照)は、電極素子11の耐衝撃性を向上するという観点から、電極素子11を形成する各極の高さよりもわずかに高く形成されているのが最も望ましいが、電極素子11の高さH1の75%〜105%の範囲で成形されていても良い。スペーサー15の高さH2が電極素子11の高さH1(図1参照)の75%以下の場合には、外部の衝撃から電極素子11を十分に保護できず、リチウムイオン電池10の耐衝撃性を向上できない。また、105%以上の場合には、スペーサー15を収容すると、その上部に配置される絶縁板が上に押し上げられるため、角型電槽14が大型化する。さらに、スペーサー15の下端部17に切り欠きが形成されていないときは、空間16と電極素子11の下面との気泡の流通を確保するために、スペーサー15の下端17と、角型電槽14の底面との間には、数mmの隙間が備えられることが好ましい。
【0014】
次に、リチウムイオン電池10を製造する際の電極素子の挿入方法について説明する。まず、楕円渦巻き状に形成した電極素子11の各コーナーにスペーサー15をそれぞれ密着させ、電極素子11及び各スペーサー15を一体化して、角型電槽14内に挿入していく。このとき、例えば、不図示のコ字状工具で、電極素子11及び各スペーサー15を側方から挟持して、電極素子11及び各スペーサー15の各下端部を、角型電槽14内に挿入し、下端の一部が挿入されたら、コ字状工具を外して、電極素子11及び各スペーサー15を一体に、上から押圧することにより角型電槽14内に挿入する。スペーサー15の下端17と、角型電槽14の底面との間には、電極素子11内の気泡が効率良く空間16を介して排気されるように、或いは、空間16内に溜まっている電解液と電極素子11に浸透している電解液が流通できるように、少なくとも数mmの隙間が形成される。例えば、スペーサー15の高さH2が電極素子11の高さH1よりも低く形成されている場合、スペーサー15の下端17と角型電槽14の底面との間に空間が形成されるように、スペーサー15を電極素子11の上側に寄せて配置する。
【0015】
電極素子11及びスペーサー15が角型電槽14内に完全に挿入されると、次に、角型電槽14の上部開放部に蓋20が溶接され、角型電槽14は閉蓋される。続いて、蓋20に設けられた開口21に、不図示の注液装置の注液口が装着される。図示は省略したが、該注液装置は、注液ポンプと真空ポンプに交互に切り替え可能に連通し、注液口は、例えば、注液ポンプに連通する注液ノズルが収容される注液管と、真空ポンプに連通する排気管との2重管構造に形成され、注液管と排気管との間には、開閉自在の電磁弁等が設けられており、電磁弁の開閉によって、注液管或いは排気管のどちらか一方が開き、他方が閉じた状態に制御される。
【0016】
注液装置が蓋20の開口21に装着されると、まず排気管側が開かれ、真空ポンプによって角型電槽14内の空気が吸引され、角型電槽14内は減圧される。この減圧の過程では、角型電槽14内部との気圧差で、電極素子11内の大気圧の気泡が、電極素子11の上面あるいは下面から吸い出されていく。
次に、注液管側を開き注液ポンプを作動し、開口21から所定量の電解液(電極素子11の上面が浸る程度)を角型電槽14内に注入する。そして、注液装置の注液管と注液ノズルとの間の微小隙間を通じて角型電槽14内を大気に開放する。このとき、電極素子11の上面は電解液が満ちており、電解液の液面の上下で気圧差が生じ、電解液が電極素子11に吸込まれて行く。電解液は、電極素子11の上面から内部に吸込まれ、或いは該上面から溢れてスペーサー15の背面の空間16を通って、電極素子11の下面から内部に吸込まれることになる。
【0017】
その後、再び、注液装置の排気管側を開き、真空ポンプによって角型電槽14内の空気を吸引し、角型電槽14内を減圧する。
この減圧の過程で、電極素子11内に残存している大気圧の気泡が、減圧中の角型電槽14内部との気圧差で、電極素子11の上面あるいは下面から吸い出されていく。本実施形態においては、電極素子11の上面から内部に吸込まれる電解液が、電極素子11内に残存している気泡を下方領域に押し下げると共に、スペーサー15の背面に気泡の逃げ道となる空間16を設けたため、電極素子11の下面から押し出された気泡が、スペーサー15の下端17と、角型電槽14の底面間の隙間を介して空間16を通り、真空ポンプによって吸引される。これによって、空気は、電極素子11の上面から吸い出されるだけでなく、下面からも効率よく吸い出され、角型電槽14の外部に排気でき、電極素子11内の気泡を効率よく抜くことができる。そのため、電極素子11に電解液を効率よく浸透させることができ、角型電槽14への注液時間を短縮して、リチウムイオン電池10の生産性の向上を図ることができる。
【0018】
続いて、再び注液管側を開き注液ポンプを作動し、所定量の電解液を開口21から角型電槽14内に注入し、その後、角型電槽14内を大気に開放して、電極素子11に電解液を浸透させる。この工程を複数回、例えば予め設定された量の電解液(電極素子11に完全に電解液が浸透した状態で、電極素子11全体が電解液中に浸る程度)が全て注入されるまで繰り返す。また、角型電槽14内を大気に開放する際に、角型電槽14内に加圧空気を供給できる装置を任意で設けて、電極素子11内の気泡を更に効率よく吸い出すことができる構成としても良い。注液後、開口21には、ボルト22が螺合され、ボルト22の上部から封止板23が溶接され、開口21が閉じられて、リチウムイオン電池10は最終的にシールされる。
【0019】
本実施の形態では、角型電槽14と楕円渦巻き状の電極素子11との間の各コーナーにスペーサー15を電極素子11のRに合わせて密着して配置したため、角型電槽14の外部からの衝撃がスペーサー15で分散され、リチウムイオン電池10の耐衝撃性を向上することができる。また、各コーナーにスペーサー15を配置したため、角型電槽14内の余剰空間を減らすことができ、角型電槽14内に注入する電解液の量を減らすことができる。また、スペーサー15の背側15Bに電解液注液時の気泡の逃げ道としての空間16を設けたため、注液の際の減圧時に空間16を介して、電極素子11から吸い出された空気を排気することができ、電極素子11の電解液の浸透性が高まり、角型電槽14への電解液の注液時間を短縮することができ、リチウムイオン電池の生産性の向上を図ることができる。また、電極素子11とスペーサー15とを一体化してから角型電槽14に挿入する構成としたため、電極素子11とスペーサー15とを別々に角型電槽14に挿入するのに比べて、リチウムイオン電池10の組み立て作業性を向上することができる。
【0020】
スペーサー15は、図4(a)に示すように、その下端17に切り欠き18を備えていても良い。切り欠き18の高さhは、スペーサー15の高さH2の3%〜30%の範囲以内で形成されているのが望ましい。切り欠き18の高さhが、スペーサー15の高さH2(図3(b)参照)の3%未満の場合には、切り欠き18を介しての電解液の流通が乏しく、一方、30%より高い場合には、角型電槽14内の余剰液量が増加する。切り欠き18の形状は、図示したように略矩形であっても良いし、或いは、略半楕円形状等であっても良い。また、切り欠き18の代わりに、例えば、スペーサー15の下部に複数の孔を形成しても良いが、スペーサー15の下端17を切り欠くように形成されている場合に、最も電解液の流通が良くなる。
【0021】
この構成によれば、例えばスペーサー15の高さH2を電極素子11の高さとほぼ同じ高さに形成し、角型電槽14内の余剰空間を減らすと共に、リチウムイオン電池10の耐衝撃性を向上させた場合においても、切り欠き18によってスペーサー15の下端17と角型電槽14の底面との間に空間が形成される。そのため、この空間を介して、角型電槽14の各コーナーに形成された空間16に溜まった電解液と、電極素子11に浸透している電解液が流通する。これによって、空間16に溜まった電解液が長期間にわたって未使用状態となることがないため、空間16内の電解液の劣化を防止することができる。そのため、リチウムイオン電池10が傾斜する、或いは、強度の振動が与えられた場合に、空間16内に溜まった電解液と、電極素子11内の電解液とが混合しても、劣化した電解液が電極素子11側に流入することが無いため、リチウムイオン電池10の充放電サイクル特性を向上することができる。
【0022】
また、スペーサー15の下端17は、図4(b)及び図4(c)に示すように、Rをつけて略半円形状に形成してもよい。この構成では、一体化された電極素子11とスペーサー15を角型電槽14に挿入する際に、スペーサー15の下端17の外縁と、角型電槽14の内壁との引っかかりを低減でき、電極素子11とスペーサー15の角型電槽14への挿入が容易になる。
【0023】
以上、実施形態に基づいて本発明を説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。本実施形態では、スペーサー15は、角型電槽14の各コーナー(4隅)に配置されているが、これに限らず、楕円状の電極素子11の短手方向の両側面に対して密着配置される2つのスペーサーから構成されていても良い。これによれば、スペーサーの部品点数が減るため、組み立て作業性を向上することができる。その他の細部構成についても、任意に変更可能である。
【符号の説明】
【0024】
10 リチウムイオン電池
11 電極素子
14 角型電槽
15 スペーサー
15B 背側
16 空間
17 下端
18 切り欠き

【特許請求の範囲】
【請求項1】
角型電槽と渦巻き状の電極素子との間の各コーナーに前記電極素子に少なくとも一部が密着したスペーサーを配置し、それぞれのスペーサーの背側に気泡の逃げ道としての空間を設けたことを特徴とするリチウムイオン電池。
【請求項2】
前記スペーサーの下端部に切り欠きを備えたことを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン電池。
【請求項3】
渦巻き状の電極素子の各コーナーにスペーサーを密着し、前記電極素子及び前記スペーサーを一体化して角型電槽に挿入し、前記角型電槽を閉蓋して該電槽内を減圧し、電解液を注液し、減圧と注液を複数回繰り返す過程で、前記電極素子内の気泡を該電極素子の上面を通じ、及び前記角型電槽と前記スペーサー下端との隙間さらに前記スペーサーの背側の空間を通じて排気し、電解液注液後に、最終シールを行うことを特徴とするリチウムイオン電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−216239(P2011−216239A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−81295(P2010−81295)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000005382)古河電池株式会社 (314)
【Fターム(参考)】