説明

リボンマイクロホン

【課題】衝撃によるリボンの変位幅を、電磁制動よりも小さく押さえ込むことができるようにする。
【解決手段】リボン10を有する音響電気変換器1に加えられる外部衝撃により発電する圧電子(積層セラミック圧電子)140を有し、圧電子140の一方の電極141を昇圧トランス130の二次側巻線132の一方の引出線132aに接続し、圧電子140の他方の電極142をスイッチ150を介して二次側巻線132の他方の引出線132bに接続し、スイッチ150により、給電プラグの接続時(マイクロホン使用時)には圧電子140と二次側巻線132とを非導通とし、非接続時(マイクロホン不使用時)には圧電子140と二次側巻線132とを導通状態とし、圧電子140の発電による電流をリボン10に流し、リボン10にその変位方向とは逆方向の駆動力を発生させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動板に金属のリボン箔を用いるリボンマイクロホンに関し、さらに詳しく言えば、振動板を衝撃等から保護する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リボンマイクロホンは、図3に示すように、所定の間隔をもって対向的に配置される一対の永久磁石30,30により形成される平行磁界内に、厚さが数ミクロンの帯状に形成された金属箔(例えば、アルミニウム箔)を振動板10として配置してなる音響電気変換器(マイクロホンユニット)1を備えている。
【0003】
振動板10の両端部10a,10bには、一対の挟持用電極板20a,20bを含む固定電極20,20が取り付けられており、固定電極20,20は、図示しない昇圧トランスの一次巻線側に接続される。
【0004】
昇圧トランスの二次巻線側には、3極型(3ピン型)の出力コネクタが接続されており、マイクロホンを使用する時、出力コネクタにはファントム電源の給電プラグが差し込まれる。すなわち、リボンマイクロホンはファントム電源で動作する。
【0005】
リボンマイクロホンは、双指向性で制御方式は質量制御であることから、共振周波数をきわめて低くして低音域までの収音を可能にしている。
【0006】
リボンマイクロホンでの大きな問題点は、マイクロホンに衝撃が加えられると、振動板(以下、「リボン」ということがある。)10の慣性力でリボン箔が伸びきったまま塑性変形してしまうことである。このようにリボンが塑性変形して、磁極や周辺部品に接触すると性能が大幅に劣化する。
【0007】
そこで、輸送時に加わる衝撃に対しては、マイクロホンを収納する箱の内部および/または外部にマイクロホンに衝撃が直接伝わらないようにクッション材を取り付ける等の手当が行われている。
【0008】
しかしながら、マイクロホンに加えられる衝撃は、輸送時衝撃のみでなく、例えばマイクロホンをスタンド等に取り付ける際に誤ってマイクロホンを落とすことによる落下衝撃等がある。このため、輸送時以外でマイクロホンを使用しないとき(フントム電源が接続されていないとき)においても、リボンを衝撃から保護する必要がある。
【0009】
そこで、本出願人は、特許文献1において、マイクロホンを使用しないときには、電磁制動によりリボンの振動を抑制することを提案している。
【0010】
その構成を手短に説明すると、リボンマイクロホンの出力コネクタに、例えばファントム電源側のケーブル端部に設けられている給電プラグ(ケーブル端プラグ)が差し込まれていないときにはオン(閉)で、給電プラグが差し込まれることによりオフ(開)となる機械式のスイッチを設け、このスイッチによりリボンの両端間をオンオフする。
【0011】
これによれば、出力コネクタにファントム電源の給電プラグが差し込まれていないマイクロホン不使用時には、スイッチがオンでリボンの両端間が電気的に短絡され、リボンを含む閉回路が形成される。
【0012】
この状態で、マイクロホンに衝撃が加えられ、リボンが平行磁界(磁気ギャップ)内で移動するとリボンに逆起電力が発生し、その逆起電力による電流が上記閉回路に流れることにより電磁的な制動力が発生する。この制動力は、リボンの振動方向に対して逆向きに作用するため、衝撃によるリボンの振動が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2009−218685号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上記したように、特許文献1に記載された発明によれば、輸送時もしくはマイクロホン設置作業時等で、出力コネクタにファントム電源の給電プラグが差し込まれていない場合には、マイクロホンに衝撃が加えられたとしても、電磁制動によりリボンの動きが封じられるため、リボンの塑性変形を伴う伸びを防止することができる。
【0015】
しかしながら、衝撃力がかなり強い場合には、上記した電磁制動だけではリボンの変位幅を小さく押さえ込めないことがある。
【0016】
したがって、本発明の課題は、衝撃によるリボンの変位幅を、電磁制動よりも小さく押さえ込むことができるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するため、本発明は、平行磁界を形成する一対の永久磁石および上記平行磁界内に配置され到来する音波により振動する金属のリボン箔からなる振動板を含む音響電気変換器と、一次側巻線に上記振動板が接続され、二次側巻線に出力コネクタが接続されている昇圧トランスとを含み、マイクロホン使用時に上記出力コネクタにファントム電源の給電プラグが接続され、上記振動板により発電された起電圧を上記昇圧トランスにて所定に昇圧して上記出力コネクタを介して上記ファントム電源側に出力するリボンマイクロホンにおいて、上記音響電気変換器に加えられる外部衝撃により発電する圧電子を有し、上記圧電子の一方の電極が上記二次側巻線の一方の引出線に接続され、上記圧電子の他方の電極はスイッチ手段を介して上記二次側巻線の他方の引出線に接続されており、上記スイッチ手段により、上記給電プラグの接続時には上記圧電子の他方の電極と上記二次側巻線の他方の引出線とを非導通とし、非接続時には上記圧電子の他方の電極と上記二次側巻線の他方の引出線とを導通することを特徴としている。
【0018】
本発明の好ましい態様によると、上記圧電子の最大感度方向が上記振動板の収音軸と平行に配向される。
【0019】
また、上記圧電子は上記音響電気変換器を支持するフレームに一体的に取り付けられていることが好ましい。また、上記圧電子として、積層セラミック圧電子が好ましく採用される。
【0020】
上記スイッチ手段は、上記出力コネクタに対する上記給電プラグの接続・非接続に応じて切り替えられるスイッチで、上記出力コネクタのコネクタ基台に設けられ上記電源プラグにより駆動される可動接点を備えている態様であることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ファントム電源の給電プラグが出力コネクタに接続されていないマイクロホン不使用時には、スイッチ手段により昇圧トランスの二次側巻線に圧電子の両電極が接続され、この状態で外部衝撃により圧電子が発電すると、昇圧トランスを介してその一次側巻線に接続されているリボンに対して、リボンが慣性により変位する方向とは逆の方向の駆動力を発生させる電流が流れるため、電磁制動による場合に比べてリボンの変位をより小さな範囲に押さえ込むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態に係るリボンマイクロホンで、(a)出力コネクタに給電プラグが非接続の状態を示す断面図、(b)出力コネクタに給電プラグが接続された状態を示す断面図。
【図2】本発明の要部を示す模式図。
【図3】リボンマイクロホンの基本的な構成を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、図1および図2により本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0024】
図1(a),(b)に示すように、この実施形態に係るリボンマイクロホン100は、金属箔からなるリボン箔(帯状に形成された箔)を振動板とする音響電気変換器(マイクロホンユニット)1を一対として備えている。また、外筐として、収音部102とケース本体103とを連結板104を介して連結してなる円筒状のマイクロホンケース101を備えている。
【0025】
先の図3を参照して、各音響電気変換器1は、所定の間隔をもって対向的に配置される一対の永久磁石30,30により形成される平行磁界内に、厚さが数ミクロンの帯状に形成された金属箔(例えば、アルミニウム箔)を振動板10として配置してなる構成であってよい。
【0026】
この実施形態において、各音響電気変換器1は、その周りを囲む長方形状のフレーム110に支持されており、フレーム110およびその両端に設けられている支持ブラケット111,111を介してマイクロホンケース101の収音部102内に取り付けられている。収音部102には、風防としての金網等からなるガードメッシュ102aが設けられている。なお、音響電気変換器1は一つであってもよい。
【0027】
このリボンマイクロホン100は、図示しないファントム電源で動作することから、マイクロホンケース101のケース本体(マイクロホンボディ)103内に、ファントム電源の給電プラグ200が着脱可能に装着される出力コネクタ120を備えている。
【0028】
出力コネクタ120は、EIAJ RC−5236「音響機器用ラッチロック式丸型コネクタ」に規定されている3極コネクタで、合成樹脂製のコネクタ基台121に、接地用の1番ピン122,信号のホット側の2番ピン123および信号のコールド側の3番ピン124を備えている。図1(a)において、2番ピン123と3番ピン124は重なった位置にあるため、そのうちの2番ピン123のみが示されている。なお、3極コネクタに相当するものとしてキャノンXLR−3がある。
【0029】
また、ケース本体103内には、図2に示す昇圧トランス130が収納されている。昇圧トランス130の一次側巻線131には、振動板(リボン)10が所定の電気配線を介して接続されている。
【0030】
この実施形態において、リボン10の固定電極20,20から端子板21a,21bが引き出されており、この端子板21a,21bに所定の電気配線を介して一次側巻線131の両端が接続されている。
【0031】
昇圧トランス130の二次側巻線132は、出力コネクタ120の2番ピン123と3番ピン124との間に接続されている。
【0032】
図2に示すように、このリボンマイクロホン100は、圧電子140を備えている。圧電子140には、積層セラミック圧電子が好ましく採用される。圧電子140は、マイクロホンケース101に加えられる衝撃をリボン10とともに受ける位置に配置される。
【0033】
圧電子の取付位置は、例えば連結板104や支持ブラケット111もしくはケース本体103の内壁面であってもよいが、音響電気変換器1を直接的に支持しているフレーム110がもっとも好ましい。
【0034】
また、圧電子140は、加えられる加速度的な衝撃により発電量が最大値を示す最大感度方向を持つが、リボンマイクロホン100に搭載するにあたっては、その最大感度方向X2をリボン10の収音軸X1と平行(一致)させることが好ましい。
【0035】
この実施形態において、圧電子140の一方の電極141は、二次側巻線132の一方の引出線132aに接続されており、他方の電極142は、スイッチ150を介して二次側巻線132の他方の引出線132bに接続されている。
【0036】
スイッチ150は、引出線132bに接続される共通接点151a,ニュートラル接点151bおよびオン接点151cの3つの固定接点と、ニュートラル接点151bもしくはオン接点151cのいずれか一方を選択して共通接点151aに接続する可動接点152とを有し、可動接点152によりオン接点151cが選択されたとき、圧電子140の他方の電極142が二次側巻線132の他方の引出線132bに接続される。すなわち、圧電子140が二次側巻線132に接続される。
【0037】
スイッチ150は、手動切替スイッチであってもよいが、この実施形態において、可動接点152は、出力コネクタ120に対する給電プラグ200の着脱に伴って切り替えられる。
【0038】
すなわち、可動接点152は棒状の可動電極として、コネクタ基台121に摺動可能に貫設されており、図1(a)に示すように、出力コネクタ120に給電プラグ200が非接続の状態においては、コイルバネ153によりオン接点151c側に接続される。
【0039】
これに対して、図1(b)に示すように、出力コネクタ120に給電プラグ200が接続された状態では、可動接点152は、コイルバネ153の付勢力に抗して給電プラグ200により押し込まれ、ニュートラル接点151b側に切り替えられ、圧電子140が二次側巻線132から切り離される。
【0040】
図1(a)に示す出力コネクタ120に給電プラグ200が非接続の状態で、このリボンマイクロホン100に例えば落下等による衝撃が加えられると、圧電子140が発電し、それによる電流isが昇圧トランス130の二次側巻線132に流れ、一次側巻線131に誘起された電流ipがリボン10に流れる。
【0041】
電流ipがリボン10に流れることにより、リボン10には、永久磁石30,30により形成される平行磁界の磁界方向(磁界の向き)との関係で、フレミングの左手の法則により、図2において左向きもしくは右向きの駆動力が発生するが、圧電子(積層セラミック圧電子)140は、衝撃(加速度)が加えられる方向によって電極141,142の極性が反転し、これに伴って電流ipが流れる方向も反転する。
【0042】
例えば、図2の実線矢印Rで示すように、衝撃が左方向から加えられた場合、電極141側がプラス(+)で、電極142側がマイナス(−)になるとすると、図2の鎖線矢印Lで示すように、衝撃が右方向から加えられた場合には、電極141側がマイナス(−)で、電極142側がプラス(+)になり、電流ipの流れる方向が逆になる。
【0043】
ここで、衝撃によるリボンの慣性によって変位する方向が、例えば図2の+F方向(右方向)であるとすると、リボン10に−F方向(左方向)の駆動力が発生するように、リボン10に電流ipを流すことにより、リボン10の変位幅を可及的に小さくすることができる。
【0044】
上記平行磁界の磁界方向は一定であるから、衝撃が加えられる方向と圧電子140の電極141,142に現れる極性との関係をあらかじめ把握し、リボン10にその変位を押さえ込む駆動力が発生するような方向の電流ipが流れるように、圧電子140を二次側巻線132に接続するとよい。
【0045】
このように、本発明によれば、衝撃を受けると同時にリボン10をその衝撃に耐えうる方向に駆動することから、衝撃力がかなり強い場合においても、上記従来例で説明した電磁制動に比べて、リボン10の変位幅をより小さく押さえ込むことができる。
【0046】
また、スイッチ150の可動接点152が、出力コネクタ120に対する給電プラグ200の着脱に伴って自動的に切り替えられるため、スイッチ150を切り替える手間が省ける。
【0047】
また、出力コネクタ120に給電プラグ200を接続するマイクロホン使用時には、圧電子140が昇圧トランス130の二次側巻線132から切り離されるため、圧電子140による雑音等も発生しない。
【符号の説明】
【0048】
1 リボン型の音響電気変換器
10 振動板(リボン)
20 固定電極
21a,21b 端子板
30 永久磁石
100 リボンマイクロホン
101 マイクロホンケース
102 収音部
103 ケース本体(マイクロホンボディ)
110 フレーム
111 支持ブラケット
120 3極出力コネクタ
130 昇圧トランス
131 一次側巻線
132 二次側巻線
140 圧電子(積層セラミック圧電子)
141,142 電極
150 スイッチ
151a 共通接点
151b ニュートラル接点
151c オン接点
152 可動接点
200 給電プラグ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平行磁界を形成する一対の永久磁石および上記平行磁界内に配置され到来する音波により振動する金属のリボン箔からなる振動板を含む音響電気変換器と、一次側巻線に上記振動板が接続され、二次側巻線に出力コネクタが接続されている昇圧トランスとを含み、マイクロホン使用時に上記出力コネクタにファントム電源の給電プラグが接続され、上記振動板により発電された起電圧を上記昇圧トランスにて所定に昇圧して上記出力コネクタを介して上記ファントム電源側に出力するリボンマイクロホンにおいて、
上記音響電気変換器に加えられる外部衝撃により発電する圧電子を有し、上記圧電子の一方の電極が上記二次側巻線の一方の引出線に接続され、上記圧電子の他方の電極はスイッチ手段を介して上記二次側巻線の他方の引出線に接続されており、
上記スイッチ手段により、上記給電プラグの接続時には上記圧電子の他方の電極と上記二次側巻線の他方の引出線とを非導通とし、非接続時には上記圧電子の他方の電極と上記二次側巻線の他方の引出線とを導通することを特徴とするリボンマイクロホン。
【請求項2】
上記圧電子の最大感度方向が上記振動板の収音軸と平行に配向されていることを特徴とする請求項1に記載のリボンマイクロホン。
【請求項3】
上記圧電子は上記音響電気変換器を支持するフレームに一体的に取り付けられていることを特徴とする請求項1または2に記載のリボンマイクロホン。
【請求項4】
上記圧電子として、積層セラミック圧電子が用いられることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のリボンマイクロホン。
【請求項5】
上記スイッチ手段は、上記出力コネクタに対する上記給電プラグの接続・非接続に応じて切り替えられるスイッチで、上記出力コネクタのコネクタ基台に設けられ上記電源プラグにより駆動される可動接点を備えていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載のリボンマイクロホン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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