説明

リン回収材およびその製造方法

【課題】リンとの反応性が良く、かつリンを吸着して形成した凝集体の沈降性に優れているリン回収材およびその製造方法を提供する。
【解決手段】易溶解性シリカ原料中のアルカリ可溶性シリカをNaOHで溶解したシリカ溶解液に石灰を加え、加熱して非晶質珪酸カルシウム水和物を生成させ、不溶解残渣を沈降させて分離し、上澄液に懸濁している非晶質珪酸カルシウム水和物とCa(OH)2との凝集体を回収して乾燥することによって製造され、Ca(OH)2を2.5〜80wt%含み、Ca/Siモル比1.0〜7.0であることを特徴とするリン回収材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リンを吸着する性能に優れ、かつ、リンを吸着して形成した凝集体の沈降性に優れているリン回収材および製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
珪酸カルシウムを主成分とする脱リン剤が従来から知られている。例えば、特開昭61−263636号公報(特許文献1)にはCaO/SiO2モル比が1.5〜5の珪酸カルシウム水和物を主成分とする水処理剤が記載されている。また、特公平02−20315号公報(特許文献2)には空隙率50〜90%の独立気泡を有する珪酸カルシウム水和物からなる脱リン材が記載されている。さらに、特開平10−235344号公報(特許文献3)には珪酸カルシウム水和物を主成分とした直径数ミリ程度の球状または中空状に成形した脱リン材が記載されている。特開2000−135493号公報(特許文献4)には珪灰石を用いた脱リン方法が提案されている。
【0003】
従来の珪酸カルシウムを主成分とする脱リン材を用いる処理方法は、回収物の脱水性や有機物混入の問題をある程度回避できるものの、リンとの反応速度が遅いため、回収物のリン濃度を上げるためには長い反応時間を必要とする。また、回収物に含まれるリン含有量が少ないため、リン酸肥料として有効に利用できないなどの問題がある。
【0004】
この問題を解決するリン回収資材として、平均粒子径(メジアン径)150μm以下の微粉末であって細孔容積0.3cm3/g以上の多孔質珪酸カルシウム水和物からなるリン回収資材(特許文献5)、あるいはBET比表面積80m2/g以上、細孔容積0.5cm3/g以上の多孔質の珪酸カルシウム水和物からなるリン回収資材が知られている(特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61−263636号公報
【特許文献2】特公平02−020315号公報
【特許文献3】特開平10−235344号公報
【特許文献4】特開2000−135493号公報
【特許文献5】特開2009−285635号公報
【特許文献6】特開2009−285636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献5および特許文献6に記載されているリン回収資材は、リンとの反応性が高く、ヒドロキシアパタイトを生成し、排水中のリン濃度を急激に低減することができ、消石灰など他の石灰質資材よりもリンの回収率が高い利点を有している。
【0007】
本発明は、上記リン回収資材の利点を有し、リンとの反応性が良く、かつリンを吸着して形成した凝集体の沈降性に優れているリン回収材およびその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の構成によって上記課題を解決したリン回収材およびその製造方法に関する。
〔1〕易溶解性シリカ原料中のアルカリ可溶性シリカをNaOHで溶解したシリカ溶解液に、石灰を加えて水熱合成した非晶質珪酸カルシウム水和物とCa(OH)2との凝集体からなる組成物であり、Ca(OH)2を2.5〜80wt%含み、Ca/Siモル比が1.0〜7.0であることを特徴とするリン回収材。
〔2〕Ca(OH)2が10〜50wt%、およびCa/Siモル比が2.0〜5.5である上記[1]に記載するリン回収材。
〔3〕リン含有水溶液に添加したときに、凝集物形成から2分後の沈降部分の高さ(沈降高さ)が、同一沈降条件下において同量の消石灰を用いたときの沈降高さの1/2以下である上記[1]または上記[2]の何れかに記載するリン回収材。
〔4〕易溶解性シリカ原料を用い、該原料中のアルカリ可溶性シリカをNaOHで溶解したシリカ溶解液に、該アルカリ可溶性シリカ量に対するCa/Si配合比が1.0〜3.5になるように石灰を加え、30〜90℃に加熱して非晶質珪酸カルシウム水和物を生成させ、生成後、デカンテーションして不溶解残渣を分離し、上澄液に懸濁している非晶質珪酸カルシウム水和物とCa(OH)2との凝集体を回収するリン回収材の製造方法。
〔5〕易溶解性シリカ原料として、アルカリ可溶性シリカを含有する珪質頁岩、アモルファスシリカ、シリカゲル、シリカヒューム、オパール、および珪藻土から選ばれる1種または2種以上を用いる上記[4]に記載するリン回収材の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のリン回収材は、水熱合成した非晶質珪酸カルシウム水和物とCa(OH)2との凝集体からなる組成物であり、リンを吸着する性能に優れており、かつリンを吸着して形成した凝集体の沈降性が良いので、リンの除去効果が高く、かつ処理時間を短縮することができる。
【0010】
本発明のリン回収材は、易溶解性シリカ原料を予めNaOHで溶解した後に、このシリカ溶解液に石灰(消石灰、生石灰)を添加して水熱反応させた合成物を用いるので、シリカ原料の未反応残渣が少なく、かつ高温で反応させる必要がなく、経済的に製造することができる。
【0011】
また、この水熱反応後の上澄液には非晶質珪酸カルシウム水和物と共にCa(OH)2とが凝集体を形成して懸濁しており、この凝集体を回収することによって、沈降性のよいリン回収材を得ることができる。なお、非晶質珪酸カルシウム水和物とCa(OH)2との凝集体を形成しないものは、反応後に回収した非晶質珪酸カルシウム水和物に消石灰や生石灰を加えても本発明と同等の沈降性を有するリン回収材を得ることはできない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の製造例を示す工程図
【図2】水熱合成した珪酸カルシウム水和組成物のXRDチャート
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施形態に基づいて具体的に説明する。
〔リン回収材〕
本発明のリン回収材は、易溶解性シリカ原料中のアルカリ可溶性シリカをNaOHで溶解したシリカ溶解液に、石灰を加えて水熱合成した非晶質珪酸カルシウム水和物とCa(OH)2との凝集体からなる組成物であり、Ca(OH)2を2.5〜80wt%含み、Ca/Siモル比が1.0〜7.0であることを特徴とするリン回収材である。
本発明のリン回収材は、好ましくは、Ca(OH)2が10〜50wt%、およびCa/Siモル比が2.0〜5.5である。
【0014】
本発明のリン回収材は、Ca(OH)2を2.5〜80wt%含み、Ca/Siモル比が1.0〜7.0の水和組成物、好ましくは、Ca(OH)2が10〜50wt%、およびCa/Siモル比が2.0〜5.5の水和組成物を乾燥したものであって、比表面積(BET)30〜80m2/g、および細孔容積0.1〜0.3cm3/gの珪酸カルシウム水和組成物の粉体を含む。
【0015】
〔製造方法〕
本発明のリン回収材は、易溶解性シリカ原料をNaOHで溶解したシリカ溶解液に、石灰を加えて水熱反応させて製造することができる。この製造工程例を図1に示す。
【0016】
易溶解性シリカ原料とは、常圧条件で好ましくは30℃以上に加熱した条件で、アルカリ溶液に溶解するアルカリ可溶性シリカを含むシリカ材料である。易溶解性シリカ原料として例えば、アルカリ可溶性シリカ成分を含む珪質頁岩(オパールCTと称されるシリカ成分を含有する珪質頁岩など)、アモルファスシリカ、シリカゲル、シリカヒューム、オパール、および、珪藻土から選ばれる1種または2種以上が該当する。砂岩や頁岩などのように、シリカが結晶質石英として存在する場合は、アルカリ溶液への溶解特性が低いので、本発明の原料には適さない。
【0017】
溶解方法としては、例えば、蒸留水に0.5〜1.0wt%量(外割り)のNaOHを加えて30〜90℃に加温した水溶液に、易溶解性シリカ原料を投入して0.1〜1時間程度攪拌すると、易溶解性シリカ原料中のアルカリ可溶性シリカが徐々に溶解する。シリカの溶解量は液温が高く、攪拌時間が長いほど多くなるので、目的とするシリカの溶解量に合わせて液温と攪拌時間を適宜設定するとよい。また、別の溶解方法として、易溶解性シリカ原料に対し、NaOH水溶液を投入してもよい。
【0018】
このシリカ溶解液に石灰を加え、加熱下で、水熱反応させ、非晶質珪酸カルシウム水和物を生成させる。石灰は消石灰および生石灰の何れも用いることができる。石灰は、非晶質珪酸カルシウム水和物を生成する石灰量を上回る量を使用し、未反応の消石灰や生石灰から生じた消石灰を非晶質珪酸カルシウム水和物が取り込むことによって、凝集体内部にCa(OH)2が分散した凝集体が形成される。
【0019】
なお、易溶解性シリカ原料と石灰およびNaOHを同時に加えて加熱し、シリカの溶解と珪酸カルシウム水和物の生成とを同時に行って製造した珪酸カルシウム水和組成物は、これをリン回収材として用いた場合、本発明のリン回収材よりも凝集体の沈降性が低いものになる。
【0020】
シリカ溶解液に加える石灰の添加量は、水熱反応させて回収した凝集体がCa(OH)2を2.5〜80wt%含み、Ca/Siモル比が1.0〜7.0の水和組成物になる量、好ましくは、Ca(OH)2が10〜50wt%、およびCa/Siモル比が2.0〜5.5の水和組成物になる量がよい。
【0021】
例えば、易溶解性シリカ原料中のアルカリ可溶性シリカ量に対して、Ca/Si配合比(モル比)が概ね1.0〜3.5になる量であれば、シリカとカルシウムが反応して非晶質珪酸カルシウム水和物が生成したときに、未反応のCa(OH)2や生石灰から生じたCa(OH)2が非晶質珪酸カルシウム水和物と共に上澄液に概ね2.5〜80wt%含まれ、上記Ca/Siモル比の非晶質珪酸カルシウム水和物とCa(OH)2とからなる凝集体を回収することができる。
【0022】
易溶解性シリカ原料中のアルカリ可溶性シリカ量に対するCa/Si配合比が1.0未満では、添加した石灰が全て消費されるので、Ca(OH)2を含む非晶質珪酸カルシウム水和組成物を得ることが難しい。一方、Ca/Si配合比が3.5より大きくなると、石灰の未反応分が多くなるので好ましくない。
【0023】
水熱合成の液/固比は概ね6〜12が適当であり、液温30℃〜90℃の加熱下で1〜24時間程度攪拌するとよい。この水熱反応によって非晶質珪酸カルシウム水和物が生成する。
【0024】
非晶質珪酸カルシウム水和物の生成後、デカンテーションして不溶解残渣を分離し、上澄液に懸濁している非晶質珪酸カルシウム水和物とCa(OH)2を一緒に回収することによって、Ca(OH)2を2.5〜80wt%含み、Ca/Siモル比1.0〜7.0の珪酸カルシウム水和組成物を得ることができる。
【0025】
なお、リン含有水に添加したときに、リン吸収量が多く沈降性の高い凝集物を形成するには、Ca(OH)2を10〜50wt%含み、Ca/Siモル比2.0〜5.5の珪酸カルシウム水和組成物を製造するとよい。
【0026】
回収物を乾燥し、比表面積(BET)30〜80m2/g、および細孔容積0.1〜0.3cm3/gの珪酸カルシウム水和組成物を得ることができる。乾燥は24時間程度、100℃前後の温度下に置けばよい。
【0027】
本発明のリン回収材はリンに対する除去効果が優れている。例えば、リン濃度100mg/Lのリン含有水に対して、Ca(OH)2を約15wt%〜約30wt%含み、Ca/Siモル比が約2〜約3.5のリン回収材は、0.1wt%の添加量でリン濃度を約8mg/L以下まで低減することができ、Ca(OH)2を約45wt%〜約80wt%含み、Ca/Siモル比が約5〜約7のリン回収材は、0.1wt%の添加量でリン濃度を0.1mg/L未満まで低減することができる(実施例2、実施例5)。
【0028】
さらに、本発明のリン回収材は沈降性に優れる。例えば、リン含有水に添加したときに、凝集物形成から2分後の沈降部分の高さ(沈降部分とその上側の液との界面の高さ)が、同一沈降条件下において同量の消石灰を用いたときの沈降部分の高さに比較してその1/2以下である(実施例3、実施例6)。
【実施例】
【0029】
以下、本発明の実施例を比較例と共に示す。なお、非晶質珪酸カルシウム水和物をC-S-Hと云い、合成後に回収したCa(OH)2を含むC-S-HをC-S-H組成物と云う。また、実施例に記載のCa/Si配合比とは、添加する消石灰または生石灰の量と、易溶解性シリカ原料中のアルカリ可溶性シリカ量のモル比である。
【0030】
〔実施例1:C-S-HおよびC-S-H組成物の合成〕
表1に示す合成条件に従い、水道水に0.5wt%量(外割り)のNaOHを添加して70℃に加温した後に、珪質頁岩100gを投入し、同温で1時間攪拌し、珪質頁岩中のアルカリ可溶性シリカを溶解した。このシリカ溶解液に消石灰を加え、70℃に加熱し、3時間攪拌して非晶質珪酸カルシウム水和物(C-S-H)を水熱合成した。珪質頁岩の不溶解残渣は直ぐに沈降するので、C-S-Hの合成後、デカンテーションして不溶解残渣を分離し、上澄液に懸濁しているC-S-HとCa(OH)2との凝集体を吸引濾過して回収した。回収物を105℃に加熱して24時間乾燥した。Ca/Si配合比、配合量、液/固比等を表1に示す。
【0031】
本発明のCa/Si配合比の範囲に含まれる実施例を表1のNo.3〜No.7に示した。本発明のCa/Si配合比から外れる範囲の比較例を表1のNo.1、No.2に示した。また、NaOHと共にCa/Si配合比が1.5になるように消石灰を加えて70℃に加温し、3時間攪拌して非晶質珪酸カルシウム水和物(C-S-H)を水熱合成した比較例を表1のNo.8に示した。なお、比較例No.8は可溶性シリカの溶解と同時に水熱合成した以外は実施例No.5と同一条件である。
【0032】
【表1】

【0033】
実施例1において製造したC-S-H組成物(No.1〜No.7)のXRDチャートを図2に示す。図2に示すように水熱合成したC-S-Hはピークの高さが低く非晶質である。このC-S-H組成物について、Ca/Siモル比を規格(JIS R 5202「ポルトランドセメントの化学分析方法」)に準拠して測定した。さらにC-S-H組成物のCa(OH)2含有量を示差熱分析(TG-DTA)によって定量した。この結果を表2に示した。
【0034】
【表2】

【0035】
表2に示すように、Ca/Si配合比が0.6以下では、添加した消石灰が全て反応に消費されるので、合成後に回収したC-S-H組成物にはCa(OH)2が含まれていない(図2の試料No.1とNo.2のXRDチャートを参照)。一方、Ca/Si配合比が1.0以上では、Ca(OH)2を含むC-S-H組成物が回収される。これは図2のXRDチャートにも示されており、Ca/Si配合比が1.0以上の試料ではC-S-Hのピークと共にCa(OH)2のピークが現れており、このピークはCa/Si配合比が大きいほど高い。
【0036】
〔実施例2:リン吸着試験〕
リン酸水素ニナトリウム水溶液(リン濃度100mg/L)を調製した。この試験液50gに、実施例1で合成したC-S-H組成物(No.1〜No.7)を、おのおの外割りで0.1wt%、0.2wt%、0.5wt%、1.0wt%添加して1時間攪拌した。この試験液を濾過して沈澱部分を分離し、濾液中のリン濃度を規格(JIS K 0102「工場排水試験法」)のモリブデン青吸光光度法に従って測定した。また、実施例1の試料No.2のC-S-H組成物(Ca/Si配合比0.6)に試料No.5、試料No.6のCa(OH)2含有量と同量になるように消石灰を後添加した比較試料No.9、No.10を調製した。この比較試料についても同様の試験を行い、リン濃度を測定した。さらに消石灰を用いて同様の試験を行った。これらの結果を表3に示した。
【0037】
表3に示すように、試料No.5のC-S-H組成物は添加量0.1wt%でリン濃度は6.2mg/Lまで低下し、添加量0.2wt%以上でリン濃度は0.1mg/L未満まで低下する。また、試料No.6およびNo.7のC-S-H組成物は添加量0.1wt%でリン濃度は0.1mg/L未満に低下する。一方、比較試料No.9のC-S-H組成物は添加量0.1wt%でリン濃度は11.3mg/Lであり、比較試料No.10のC-S-H組成物は添加量0.1wt%でリン濃度は0.4mg/Lであり、消石灰は添加量0.1wt%でリン濃度は0.5mg/Lであり、何れも本発明の試料No.5、No.6に比べてリンの吸着効果は低い。
【0038】
【表3】

【0039】
〔実施例3:沈降試験〕
リン酸水素二ナトリウムを用いてリン濃度100mg/Lの水溶液(試験液)を調製した。この試験液100mlに、表4の試料(No.4〜No.10、消石灰)をおのおの0.2g(外割りで0.2wt%)を投入し、1分間攪拌する。その後、メスシリンダー(容量100ml)に懸濁した状態の試験液を移し、所定時間毎に沈降部分の高さを測定した。この結果を表4に示した。
【0040】
表4に示すように、試料No.5を用いると、1分後の沈降部分の高さは約8cmまで低下し、2分後には約4cmに低下する。試料No.6を用いると、1分後の沈降部分の高さは約10cmまで低下し、2分後には約4cmに低下する。また、試料No.7を用いると、1分後の沈降部分の高さは約11cmまで低下し、2分後には約5cmに低下し、沈降部分の高さが短時間に急激に低下する。
【0041】
一方、消石灰を用いた場合には、沈降部分の高さは1分後に約15cmで、2分後では約13cmであって沈降速度が遅い。また、比較試料No.8を用いた場合には沈降部分の高さは1分後に約11cmで、2分後では約6cmであり、比較試料No.9を用いた場合には沈降部分の高さは1分後に約13cmに近く、2分後では約7cmであり、何れも試料No.4〜No.7を用いた場合よりも沈降速度が遅い。
【0042】
表4に示すように、本発明の試料No.4〜試料No.7を用いた場合には、同量の消石灰に比べて、同一の沈降条件下において、沈降部分の高さは概ね1/2以下(具体的には約2/3〜約1/3)であり、格段に沈降性が良い。
【0043】
なお、試料No.6〔Ca(OH)2 47.0wt%、Ca/Siモル比5.27〕と試料No.7〔Ca(OH)2 79.3wt%、Ca/Siモル比6.85〕を比較すると、表3に示すように、リンの吸着効果は同等であるが、表4に示すように、凝集体の沈降部分の高さは試料No.6のほうが低く、沈降性が良いので、本発明のリン回収材(C-S-H組成物)はCa(OH)2を50wt%以下含み、Ca/Siモル比が5.5以下であるのが好ましい。
また、試料No.4〜試料No.7において、凝集体の沈降部分の高さは試料No.4〔Ca(OH)2 15.8wt%、Ca/Siモル比2.08〕が最も低い。
従って、沈降性の良い凝集物を形成するには、Ca(OH)2を10〜50wt%含み、Ca/Siモル比2.0〜5.5の珪酸カルシウム水和組成物が好ましい。
【0044】
また、シリカ溶解とC-S-H合成を同時に行った比較試料No.8を用いた場合には、凝集体形成1分後の沈降部分の高さは試料No.4〜No.7よりも高く、特にCa/Si配合比が同等である試料No.5に比べると沈降部分の高さがかなり高く、本発明のリン回収材(C-S-H組成物)よりも沈降性が劣る。
【0045】
また、実施例1の試料No.2のC-S-H組成物(Ca/Si配合比0.6)に試料No.5、試料No.6のCa(OH)2含有量と同量になるように消石灰を後添加した比較試料No.9、No.10の沈降部分の高さは、1分後で、それぞれ12.8cm、13.5cmであり、2分後で、それぞれ7.2cm、8.8cmであるから、試料No.5、No.6の沈降部分の高さよりも約1.5〜2倍も高く、本発明のリン回収材(C-S-H組成物)よりも沈降性が劣る。
【0046】
【表4】

【0047】
〔実施例4〕
表5に示す合成条件に従い、水道水に0.5wt%量(外割り)のNaOHを添加して70℃に加温した後に、珪質頁岩100gを投入し、同温で1時間攪拌し、珪質頁岩中のアルカリ可溶性シリカを溶解した。このシリカ溶解液に生石灰(CaO)を加え、70℃に加熱し、3時間攪拌して非晶質珪酸カルシウム水和物(C-S-H)を水熱合成した。C-S-Hの合成後、デカンテーションして不溶解残渣を分離し、上澄液に懸濁しているC-S-HとCa(OH)2との凝集体を吸引濾過して回収した。回収物を105℃に加熱して24時間乾燥した。Ca/Si配合比、配合量、液/固比等を表5に示す。
【0048】
【表5】

【0049】
実施例4において回収したC-S-H組成物について、Ca/Siモル比を規格(JIS R 5202「ポルトランドセメントの化学分析方法」)に準拠して測定した。さらにC-S-H組成物のCa(OH)2含有量を示差熱分析(TG-DTA)によって定量した。この結果を表6に示した。表6に示すように、Ca/Si配合比が0.4では、添加した生石灰が全て反応に消費されるので、合成後に回収したC-S-H組成物にはCa(OH)2が含まれていない。一方、Ca/Si配合比が1.0以上では、Ca(OH)2を含むC-S-H組成物が回収される。
【0050】
【表6】

【0051】
〔実施例5〕
リン酸水素ニナトリウム水溶液(リン濃度100mg/L)を調製した。この試験液50gに、実施例4で合成したC-S-H組成物(No.11〜No.14)を、おのおの外割りで0.1wt%、0.2wt%、0.5wt%、1.0wt%添加して1時間攪拌した。この試験液を濾過して沈澱部分を分離し、濾液中のリン濃度を規格(JIS K 0102「工場排水試験法」)のモリブデン青吸光光度法に従って測定した。これらの結果を表7に示した。
【0052】
表7に示すように、試料No.13のC-S-H組成物は添加量0.1wt%でリン濃度は7.9mg/Lまで低下し、添加量0.2wt%以上でリン濃度は0.1mg/L未満まで低下する。また、試料No.14のC-S-H組成物は添加量0.1wt%でリン濃度は0.1mg/L未満に低下する。
【0053】
【表7】

【0054】
〔実施例6〕
リン酸水素二ナトリウムを用いてリン濃度100mg/Lの水溶液(試験液)を調製した。この試験液100mlに、表5の試料(No.13、No.14)をおのおの0.2g(外割りで0.2wt%)を投入し、1分間攪拌する。その後、メスシリンダー(容量100ml)に懸濁した状態の試験液を移し、所定時間毎に沈降部分の界面高さを測定した。この結果を表8に示した。試料No.13を用いると、1分後の界面の高さは約8cmまで低下し、2分後には4.5cmに低下する。試料No.14を用いると、1分後の界面の高さは約10cmまで低下し、2分後には4.8cmに低下する。
【0055】
【表8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
易溶解性シリカ原料中のアルカリ可溶性シリカをNaOHで溶解したシリカ溶解液に、石灰を加えて水熱合成した非晶質珪酸カルシウム水和物とCa(OH)2との凝集体からなる組成物であり、Ca(OH)2を2.5〜80wt%含み、Ca/Siモル比が1.0〜7.0であることを特徴とするリン回収材。
【請求項2】
Ca(OH)2が10〜50wt%、およびCa/Siモル比が2.0〜5.5である請求項1に記載するリン回収材。

【請求項3】
リン含有水溶液に添加したときに、凝集物形成から2分後の沈降部分の高さ(沈降高さ)が、同一沈降条件下において同量の消石灰を用いたときの沈降高さの1/2以下である請求項1または請求項2に記載するリン回収材。
【請求項4】
易溶解性シリカ原料を用い、該原料中のアルカリ可溶性シリカをNaOHで溶解したシリカ溶解液に、該アルカリ可溶性シリカ量に対するCa/Si配合比が1.0〜3.5になるように石灰を加え、30〜90℃に加熱して非晶質珪酸カルシウム水和物を生成させ、生成後、デカンテーションして不溶解残渣を分離し、上澄液に懸濁している非晶質珪酸カルシウム水和物とCa(OH)2との凝集体を回収するリン回収材の製造方法。
【請求項5】
易溶解性シリカ原料として、アルカリ可溶性シリカを含有する珪質頁岩、アモルファスシリカ、シリカゲル、シリカヒューム、オパール、および珪藻土から選ばれる1種または2種以上を用いる請求項4に記載するリン回収材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−50975(P2012−50975A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−167374(P2011−167374)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(592012384)小野田化学工業株式会社 (20)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】