説明

リン脂質誘導体及びその製造方法

下記の一般式(1):


(式中、[PG]kは重合度kのポリグリセリンの残基を示し、kは2〜50を示し、RCO及びRCOはそれぞれ独立に炭素数8〜22のアシル基を示し、aはそれぞれ独立に0〜5の整数を示し、bはそれぞれ独立に0又は1を示し、Mは水素原子、アルカリ金属原子、アンモニウム、又は有機アンモニウムを示し、k1、k2、及びk3は下記の条件:1≦k1≦(k+2)/2、0≦k2、k1+k2+k3=k+2を満足する数を示す)で表されるリン脂質誘導体。生体に対して安全性が高く、リポソームなどのドラッグデリバリーシステムなどにおいて好適に利用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、ポリグリセリンを含むリン脂質誘導体及びその製造方法に関する。また、本発明は、該リン脂質誘導体を含む界面活性剤、可溶化剤、化粧料用分散剤、及び脂質膜構造体に関する。
【背景技術】
リポソーム製剤に代表される微粒子性薬剤キャリアー及び蛋白製剤等のポリペプチドは静脈内に投与した場合に血液中での滞留性が悪く、肝臓、脾臓などの細網内皮系組織(reticuloendothelial system:以下「RES」と略する。)に捕捉され易いことが知られている。RESの存在は、RES以外の臓器へ医薬を送達させるターゲッティング型製剤や、長時間にわたって血液中に製剤を滞留させ、医薬の放出をコントロールする徐放型製剤としての微粒子性医薬キャリヤーを利用するに際して大きな障害となる。
従来から、上記製剤に微小循環性を付与するための研究がなされてきた。例えば、リポソームの脂質二分子膜の物理化学的性質は比較的容易に調節可能であることから、リポソームのサイズを小さくすることで血中濃度を高く維持させる方法(バイオキミカ・エト・バイオフィジカ・アクタ、761巻、142頁、1983年)、相転移温度の高いレシチンを利用する方法(バイオケミカル・ファーマコロジー、32巻、3381頁、1983年)、レシチンの代わりにスフィンゴミエリンを用いる方法(バイオケミカル・ファーマコロジー、32巻、3381頁、1983年)、リポソームの膜成分としてコレステロールを添加する方法(バイオキミカ・エト・バイオフィジカ・アクタ、761巻、142頁、1983年)などが提案されている。しかしながら、これらの方法を適用して、血中滞留性がよく、かつRESに取り込まれにくい微粒子性医薬キャリヤーを提供した例は知られていない。
また、その他の解決方法として、リポソームの膜表面を糖脂質、糖タンパク質、アミノ酸脂質、又はポリエチレングリコール脂質などで修飾し、微小循環性を付与するとともにRESを回避する研究が行われている。例えば、グリコフォン(日本薬学会第106年会講演要旨集、336頁、1986年)、ガングリオシドGM1(FEBSレター、223巻、42頁、1987年)、ホスファチジルイノシトール(FEBSレター、223巻、42頁、1987年)、グリコフォンとガングリオシドGM3(特開昭63−221837号公報)、ポリエチレングリコール誘導体(FEBSレター、268巻、235頁、1990年)、グルクロン酸誘導体(ケミカル・アンド・ファーマシューティカル・ブレタン、38巻、1663頁、1990年)、グルタミン酸誘導体(バイオキミカ・エト・バイオフィジカ・アクタ、1108巻、257頁、1992年)、ポリグリセリンリン脂質誘導体(特開平6−228012号公報)などがその修飾物質として報告されている。
ポリペプチドを修飾する場合には、その結合点を減らしてポリペプチド中のリジン残基等の活性基の残存量を上げる目的で、トリアジンを用いて2本の水溶性高分子を導入した報告等がある。リポソーム製剤においても、水溶性高分子の分子量を上げる目的でトリアジンに2本の水溶性高分子を導入し、それを用いてリポソーム表面を修飾した報告がある。しかしながら、リポソーム表面の水溶性高分子の鎖の数を増やすためには、トリアジンを用いて水溶性高分子を導入する場合、トリアジン環には2本しか水溶性高分子を導入できないため、トリアジンに2本の水溶性高分子を含む化合物を多く配合する必要がある。さらに、高分子修飾剤として、2又は3本のポリアルキレングリコール鎖に1官能基を結合してなる化合物の報告があるが、この修飾は2又は3本までに限られており、またこの化合物ではポリアルキレングリコール鎖の1末端以外がメチル基又はエチル基で封鎖されているため1官能基以上を有しないものである。この場合、リポソーム表面に微小循環性を付与する効果が親水性基を有する場合より小さいことが考えられる。さらに、ポリアルキレンオキシド基を含むリン脂質誘導体は界面活性剤としても用いられているが、生体に対して安全性が高く、高塩濃度条件で安定に使用できるものは知られていなかった。
【発明の開示】
本発明の課題は、生体に対して安全性が高く、生理活性物質等の可溶化及び分散、あるいはリポソームなどドラッグデリバリーシステム又は化粧料の分野において好適に利用することができるリン脂質誘導体を提供することにある。本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、下記の一般式で表されるポリグリセリンを含む新規なリン脂質誘導体が所望の性質を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、下記の一般式(1):

(式中、[PG]kは重合度kのポリグリセリンの残基を示し、kは2〜50を示し、RCO及びRCOはそれぞれ独立に炭素数8〜22のアシル基を示し、aはそれぞれ独立に0〜5の整数を示し、bはそれぞれ独立に0又は1を示し、Mは水素原子、アルカリ金属原子、アンモニウム、又は有機アンモニウムを示し、k1、k2、及びk3は下記の条件:1≦k1≦(k+2)/2、0≦k2、k1+k2+k3=k+2を満足する数を示す)で表されるリン脂質誘導体を提供するものである。
この発明の好ましい態様によれば、1≦k1≦2である上記一般式(1)で表されるリン脂質誘導体;0≦k2≦1である上記一般式(1)で表されるリン脂質誘導体;8≦k1+k2+k3≦52である上記一般式(1)で表されるリン脂質誘導体;RCO及びRCOがそれぞれ独立に炭素数12〜20のアシル基である上記一般式(1)で表されるリン脂質誘導体;k2が0である上記一般式(1)で表されるリン脂質誘導体;a及びbが0である上記一般式(1)で表されるリン脂質誘導体;及び0<k2である上記一般式(1)で表されるリン脂質誘導体が提供される。
別の観点からは、本発明により、上記一般式(1)で表されるリン脂質誘導体を含む界面活性剤;上記一般式(1)で表されるリン脂質誘導体を含む可溶化剤;上記一般式(1)で表されるリン脂質誘導体を含む分散剤、好ましくは化粧料用の分散剤;上記一般式(1)で表されるリン脂質誘導体を含有する脂質膜構造体、好ましくはリポソームが提供される。
さらに別の観点からは、本発明により、上記一般式(1)で表されるリン脂質誘導体の製造方法であって、下記の一般式(2):

(式中、R、R、a、及びMは前記と同義であり、Xは水素原子又はN−ヒドロキシコハク酸イミドを示す)で表される化合物と下記の一般式(3):

(式中、[PG]kは重合度kのポリグリセリンの残基であり、kは前記と同義であり、k4は下記の条件:k4=k+2を満足する数である)で表されるポリグリセリンを反応させる工程を含む方法が提供される。この方法は好ましくは有機溶媒中で塩基性触媒の存在下に行うことができ、より好ましくは20〜90℃の範囲で、脱水縮合剤の存在下で行うことができる。
また、本発明により、一般式(1)で表されるリン脂質誘導体の製造方法であって、下記の工程:
(A)ポリグリセリンと2塩基酸又はハロゲン化カルボン酸とを反応させてカルボキシル化ポリグリセリンを得る工程;及び
(B)上記工程(A)で得られたカルボキシル化ポリグリセリンとリン脂質とを反応させる工程
を含む方法、及び一般式(1)で表されるリン脂質誘導体の製造方法であって、下記の工程:
(A’)ポリグリセリンとハロゲン化カルボン酸エステルとを反応させ、得られたエステル化合物を加水分解してカルボキシル化ポリグリセリンを得る工程;及び
(B)上記工程(A)で得られたカルボキシル化ポリグリセリンとリン脂質とを反応させる工程を含む方法が提供される。
さらに、本発明により、上記一般式(1)で表されるリン脂質誘導体(ただしk2が0である場合を除く)の製造方法であって、下記の一般式(4):

(式中、[PG]kは重合度kのポリグリセリンの残基を示し、kは2〜50を示し、Yは水酸基又は脱離基を示し、k5及びk6は下記の条件:1≦k5≦(k+2)/2、k5+k6=k+2を満足する数である)で表されるポリグリセリン誘導体と、下記の一般式(5):

(式中、R及びRは上記と同義である)で表されるリン脂質とを反応させる工程を含む方法も提供される。この方法は好ましくは有機溶媒中で塩基性触媒の存在下に行うことができ、より好ましくは20〜90℃の範囲で行うことができる。
さらに別の観点からは、上記一般式(1)で表されるリン脂質誘導体を含み、医薬を保持した脂質膜構造体(好ましくはリポソーム)を含む医薬組成物が本発明により提供される。該医薬が抗腫瘍剤である上記医薬組成物が好ましい態様として提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
一般式(1)で示される本発明のリン脂質誘導体において、[PG]kは、重合度kのポリグリセリンの残基を示し、k1+k2+k3はk+2である。kは重合度を示すが、一般的には平均重合度を意味する。ポリグリセリンの残基とは、ポリグリセリンから全ての水酸基を除いた残りの部分を意味している。式(1)で示されるリン脂質誘導体を構成するポリグリセリンは、2個以上のグリセリンがエーテル結合して連結した化合物であり、例えば、直鎖状の化合物として存在する場合には式:HO−CH−CH(OH)−CH−[O−CH−CH(OH)−CHk−2−O−CH−CH(OH)−CH−OHで表される(kは2以上の整数を示し、重合に関与したグリセリンの個数(重合度と呼ぶ場合もある)を意味する)。ポリグリセリンが分枝鎖状の化合物として存在可能なことも当業者は容易に理解可能である。従って、本明細書で用いられるポリグリセリンの用語を直鎖状の化合物に限定して解釈してはならない。ポリグリセリンとしては、具体的には、ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン、ペンタグリセリン、ヘキサグリセリン、ヘプタグリセリン、オクタグリセリン、ノナグリセリン、デカグリセリン、ジデカグリセリン、トリデカグリセリン、テトラデカグリセリンなどを挙げることができる。また、ポリグリセリンとしては単一物質を用いてもよいが、同一又は類似の重合度を有する直鎖状及び/又は分枝鎖状の2種以上のポリグリセリン残基の混合物を用いることもでき、このようなポリグリセリンの残基を有する化合物も本発明の範囲に包含される。
k1はポリグリセリンの残基に結合するリン脂質化合物の残基の数を意味しており、1〜(k+2)/2である。リン脂質化合物の残基の結合数がk1<1の場合、分子中に疎水結合部分が少ないため本発明の効果が得られない。また本発明の化合物を膜脂質構造体に用いる場合、1≦k1≦2が好ましい。リン脂質化合物の残基の結合数が2<k1≦(k+2)/2の場合、すなわち、k1が2個より多く存在する場合、本発明の化合物に含まれるリン脂質化合物の残基が多くなる、すなわち分子中に疎水部分が多く存在するため、ミセルを形成しやすくなり、可溶化や分散剤用途として好適に使用することができる。
k2はポリグリセリンの残基に結合する末端が−COOMで表される基の個数を示しており、0≦k2である。k2が0である場合には、本発明の化合物には末端が−COOMで表される部分構造が実質的に存在しないことを意味する。また、0<k2以上の場合、カルボキシル基が存在し、極性を有するため、イオン性界面活性剤として分散剤等に使用することができる。0≦k2≦1の場合には、カルボキシル基の数が少ないため、リポソーム等の膜脂質構造体を不安定化せず、リポソームを安定化することができ、好適に使用することができる。Mは水素原子、アルカリ金属原子、アンモニウム、又は有機アンモニウムを示し、好ましくは水素原子又はアルカリ金属原子である。具体的には、例えば、アルカリ金属原子としてナトリウム及びカリウム、有機アンモニウムとしてトリエチルアンモニウム、ジイソプロピルアンモニウムなどを挙げることができる。
k3はポリグリセリン残基に結合する水酸基の個数であり、k1+k2+k3=k+2を満たす整数である。k1+k2+k3の値は、4〜52、好ましくは8〜52の整数であり、より好ましくは8〜12の整数である。k1+k2+k3の値が4より小さい場合には、本発明の効果が充分に得られない場合がある。また、k1+k2+k3の値が52より大きいと、ポリグリセリンの粘性が大きくなり入手が困難になる場合がある。
CO及びRCOはそれぞれ独立に炭素数8〜24、好ましくは12〜20のアシル基を示す。アシル基の種類は特に限定されず、脂肪族アシル基又は芳香族アシル基のいずれを用いてもよいが、通常は脂肪酸に由来するアシル基を好適に用いることができる。RCO及びRCOの具体的なものとしては、例えばカプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、アラキン酸、ベヘン酸、エルカ酸、リグノセリン酸などの飽和又は不飽和の直鎖状又は分枝鎖状の脂肪酸由来のアシル基を挙げることができる。RCO及びRCOは同じであっても異なっていてもよい。炭素数が24を越える場合には、水相への分散が悪く反応性が低下する場合がある。また炭素数が8より少ない場合には、精製工程での結晶性が悪く、目的物の最終純度が低くなる場合がある。
一般式(1)において、bはそれぞれ独立に0又は1の整数であり、bが1である場合にはaが1〜4の整数であることが好ましく、aが2又は3であることがさらに好ましい。bが0である場合にはaが0であることが好ましい。
一般式(1)で表される本発明の化合物の製造方法は特に限定されないが、目的とする化合物の構造に応じて以下の方法により適宜製造することができる。
<製造方法A>
k2が0であるリン脂質誘導体は、例えば、一般式(2)と一般式(3)で表される化合物とを反応させることにより高純度に製造することができる。一般式(2)で表されるリン脂質化合物において、R、R、M、及びaは一般式(1)で説明したものと同じであり、Xは水素原子又はN−ヒドロキシコハク酸イミドである。
原料となる一般式(2)で表されるリン脂質化合物は公知の方法により製造することができる。例えば、リン脂質化合物とジカルボン酸無水物とを反応させることにより容易に製造することができる。用いるリン脂質はR及びRの定義を満たすものであれば、天然リン脂質でも合成リン脂質でもよい。例えば、大豆及び大豆水添ホスファチジルジエタノールアミン、卵黄及び卵黄水添ホスファチジルジエタノールアミン等の天然及び合成ホスファチジルエタノールアミンなどが挙げられる。
本発明の一般式(1)で表される化合物は、一般式(2)で表されるリン脂質化合物の活性化エステル誘導体と、一般式(3)で表されるポリグリセリン化合物とを反応させることによっても製造できる。上記活性化エステル誘導体は、例えば一般式(2)で表されるリン脂質化合物のXが水素原子である化合物と活性化剤とを脱水縮合剤の存在下で反応させることにより得ることができる。上記活性化剤の種類は特に限定されないが、例えば、N−ヒドロキシコハク酸イミド、N,N′−ジコハク酸イミドカーボネート、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール、4−ニトロフェノール、N−ヒドロキシ−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボキシイミド、N−ヒドロキシフタルイミド、4−ヒドロキシフェニルジメチルスルホニウム・メチルサルフェートなどが挙げられる。これらのうちN−ヒドロキシコハク酸イミドが好ましい。
一般式(2)で表されるリン脂質化合物と活性化剤との反応は、脱水縮合剤の存在下でカルボン酸と反応しない溶媒、例えばクロロホルム、トルエン等の反応溶媒中で反応温度15〜80℃、好ましくは25〜55℃で行うことができ、例えば、活性化剤をリン脂質化合物の溶液に分散撹拌することにより行うことができる。例えば、活性化剤としてN−ヒドロキシコハク酸イミドを使用する場合には、一般式(2)で表されるリン脂質化合物のカルボキシル基とN−ヒドロキシコハク酸イミドのイミド基とが反応し、一般式(2)で表されるリン脂質化合物のカルボキシル基側末端にN−ヒドロキシコハク酸イミドが結合した活性化エステル誘導体が得られる。
反応に使用する有機溶媒は、水酸基等の反応性官能基を有しないものであれば特に制限なく使用することができる。例えば酢酸エチル、ジクロロメタン、クロロホルム、ベンゼン及びトルエンなどが挙げられる。これらの中ではクロロホルム及びトルエンが好ましい。エタノールなどの水酸基を有する有機溶媒は、一般式(4)で示されるポリグリセリン化合物の末端のカルボキシル基と反応する場合がある。
一般式(2)で示されるリン脂質化合物と一般式(3)で示されるポリグリセリン化合物との反応は、通常は有機溶媒中で塩基性触媒の存在下に行うことができ、好ましくは脱水縮合剤を用いて行うことができる。塩基性触媒の種類は特に限定されないが、例えば、窒素含有物質としてはトリエチルアミン、ピリジン、ジメチルアミノピリジン、酢酸アンモニウム等が挙げられ、有機塩としてはリン酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、ホウ酸ナトリウム及び酢酸ナトリウム等が挙げられる。塩基性触媒の量は、精製などの工程を考慮すると、反応が完結するための最小量あればよい。塩基性触媒は、一般式(2)で示されるリン脂質化合物との反応率を考慮すると、通常、一般式(2)で示されるリン脂質化合物の1〜2倍モル、好ましくは1〜1.5倍モルが望ましい。有機溶媒としては水酸基等の反応性官能基を有しないものであれば特に制限なく使用することができる。例えば、酢酸エチル、ジクロロメタン、クロロホルム、ジメチルスルホキシド、ベンゼン、及びトルエンなどが挙げられる。これらの中ではシメチルスルホキシド、クロロホルム及びトルエンが好ましい。エタノールなどの水酸基を有する有機溶媒は、一般式(2)で示されるリン脂質化合物の末端のカルボキシル基と反応する場合がある。
脱水縮合剤を用いる場合、一般式(3)で表されるポリグリセリン化合物と一般式(2)で表されるリン脂質化合物の官能基とを脱水縮合できるものであればその種類は特に制限されない。脱水縮合剤としては、例えば、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド等のカルボジイミド誘導体が挙げられ、特にジシクロヘキシルカルボジイミドが好ましい。脱水縮合剤の使用量は特に限定されない。但し、一般式(3)で表されるポリグリセリン化合物は水酸基を数多く有するため、吸湿性があり、水分を多く含んでいることから、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド等のカルボジイミド誘導体は、ポリグリセリンの水分と反応する可能性があり、目的となる一般式(3)で表されるポリグリセリン化合物と一般式(2)で表されるリン脂質化合物の官能基との脱水縮合反応が完結しない可能性がある。そのため、脱水縮合剤の量は、例えば一般式(2)で示されるリン脂質化合物の1〜10倍モル程度が好ましく、好ましくは1〜5倍モル程度である。
N−ヒドロキシコハク酸イミドを反応系中に一般式(2)で示されるリン脂質化合物に対して0.1〜2倍モルを加えることにより反応率を高めることができる。
一般式(2)で示されるリン脂質化合物の量は特に限定されないが、1分子あたりのk1の数に対して1〜3倍モルが良く、好ましくは1〜1.3倍モルである。
反応温度は通常20〜90℃、好ましくは40〜80℃である。反応時間は1時間以上、好ましくは2〜8時間である。20℃より低温では反応率が低い場合があり、90℃より高温では反応に用いる一般式(2)で表されるリン脂質化合物のアシル基が加水分解する場合がある。なお、本発明の化合物は合成により単一化合物として得られる場合もあるが、k1、k2、及びk3がそれぞれ異なる混合物として得られる場合もある。このような混合物も本発明の範囲に包含される。また、原料として用いるポリグリセリンが単一物質ではなく、同一又は類似の重合度を有する直鎖状及び/又は分枝鎖状の2種以上のポリグリセリン残基の混合物である場合もある。このような場合にはポリグリセリン残基について複数の構造の混合物として目的物が得られる場合もあるが、このような混合物も本発明の範囲に包含される。以下に説明する反応工程においても同様である。
<製造方法B>
一般式(1)においてk2が0であるリン脂質誘導体、及びk2が0ではないリン脂質誘導体、すなわちポリグリセリン残基に末端がカルボキシル基である部分構造が結合した化合物は、上記工程(A)及び(B)を含む方法に従って、カルボキシル化ポリグリセリンとリン脂質化合物とを反応させることにより製造することができる。すなわち、工程(A)において、ポリグリセリン化合物と2塩基酸又はハロゲン化カルボン酸とを反応させることにより、カルボキシル化ポリグリセリンを得た後、工程(B)において得られたカルボキシル化ポリグリセリンとリン脂質とを反応させることにより容易に本発明の化合物を得ることができる。工程(A’)においては、2塩基酸又はハロゲン化カルボン酸の代わりにハロゲン化カルボン酸エステルを反応させた後、加水分解することにより、カルボキシル化ポリグリセリンを得ることもできる。
2塩基酸、ハロゲン化カルボン酸、又はハロゲン化カルボン酸エステルとしては、具体的には、無水コハク酸、無水グルタル酸、クロロプロピオン酸、クロロプロピオン酸メチル、クロロプロピオン酸エチル、ブロモプロピオン酸、ブロモプロピオン酸メチル、ブロモプロピオン酸エチル、ブロモヘキサン酸、ブロモヘキサン酸メチル、ブロモヘキサン酸エチルなどが挙げられる。もっとも、ポリグリセリン化合物と反応させる2塩基酸、ハロゲン化カルボン酸、又はハロゲン化カルボン酸エステルは上記の化合物に限定されず、カルボキシル化ポリグリセリンを得るものであればいかなる化合物を用いてもよい。工程(A)又は(A’)で使用する2塩基酸、ハロゲン化カルボン酸、又はハロゲン化カルボン酸エステルの量は特に限定されないが、反応率を考慮して、少し過剰に入れると良い。すなわち、目的とするk2のカルボキシル基の数に対して、ポリグリセリン化合物の1〜2倍モル、好ましくは1〜1.5倍モルである。
工程(A)又は(A’)に使用する有機溶媒は、水酸基等の官能基を有しないものであれば特に制限なく使用することができる。例えば酢酸エチル、ジクロロメタン、クロロホルム、ジメチルスルホキシド、ベンゼン及びトルエンなどが挙げられる。これらの中ではジメチルスルホキシド、クロロホルム及びトルエンが好ましい。エタノールなどの水酸基を有する有機溶媒は、ポリグリセリンと反応させる2塩基酸、ハロゲン化カルボン酸、ハロゲン化カルボン酸エステル化合物と反応するので好ましくない。ジクロロメタン等でも反応性には問題はないが、低沸点であるため作業上好ましくない場合がある。工程(A)又は(A’)の反応温度は特に限定されないが、例えば20〜110℃、好ましくは30〜90℃である。反応時間は特に限定されないが、例えば1時間以上、好ましくは2〜48時間とするのが望ましい。20℃を下回る反応温度は反応効率の観点から好ましくない場合がある。
工程(B)で使用されるリン脂質は天然リン脂質でも合成リン脂質でもよく、例えば大豆及び大豆水添ホスファチジルエタノールアミン、卵黄及び卵黄水添ホスファチジルエタノールアミン等の天然及び合成ホスファチジルエタノールアミンなどが挙げられる。工程(B)に使用する有機溶媒は、水酸基等の官能基を有しないものであれば特に制限なく使用することができる。例えば酢酸エチル、ジクロロメタン、クロロホルム、ジメチルスルホキシド、ベンゼン及びトルエンなどが挙げられる。これらの中ではジメチルスルホキシド、クロロホルム及びトルエンが好ましい。エタノールなどの水酸基を有する有機溶媒は、ポリグリセリンと反応させる2塩基酸、ハロゲン化カルボン酸、ハロゲン化カルボン酸エステル化合物と反応するので好ましくない。ジクロロメタン等でも反応性には問題はないが、低沸点であるため作業上好ましくない場合がある。工程(B)の反応温度は特に限定されないが、例えば20〜100℃、好ましくは20〜90℃である。反応時間は特に限定されないが、例えば0.5〜24時間、好ましくは1〜12時間とするのが望ましい。20℃を下回る反応温度は反応効率の観点から好ましくない場合がある。
工程(B)で示されるリン脂質化合物とカルボキシル化ポリグリセリンとの反応には、脱水縮合剤及び/又は塩基性触媒を使用することができる。脱水縮合剤としては、カルボキシル化ポリグリセリンのカルボキシル基とリン脂質化合物の官能基とを脱水縮合させることができる脱水縮合剤であれば特に制限なく使用できる。このような脱水縮合剤としては、ジシクロヘキシルカルボジイミド等のカルボジイミド誘導体が挙げられる。脱水縮合剤としては、ジシクロヘキシルカルボジイミドが好ましい。脱水縮合剤の使用量は、リン脂質化合物に対して1〜5倍モル、好ましくは1〜2倍モルであるのが望ましい。さらに、反応効率を高めるために、N−ヒドロキシコハク酸イミドを反応系中にリン脂質化合物に対して0.1〜2倍モル加えることが好ましい。本反応に使用する塩基性触媒の種類は特に限定されないが、例えば窒素含有物質としてはトリエチルアミン、ジメチルアミノピリジン、酢酸アンモニウム等を挙げることができ、有機塩としてはリン酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、ホウ酸ナトリウム及び酢酸ナトリウム等を挙げることができる。塩基性触媒の量は特に限定されないが、例えば、工程(B)で示されるリン脂質化合物の1〜5倍モル、好ましくは1〜2倍モルであることが望ましい。工程(B)で使用するリン脂質化合物の量は特に限定されず、目的とするk1の数に応じて適宜反応させることができる。例えば、1分子あたりのk1の数に対して1〜3倍モル、好ましくは1〜1.3倍モルである。
<製造方法C>
本発明のポリグリセリン修飾リン脂質において、一般式(1)においてk2が0であるリン脂質誘導体、及びk2が0でないリン脂質誘導体において、a及びb=0である化合物は、一般式(4)で示されるポリグリセリン化合物と一般式(5)で示されるリン脂質とを反応させることにより容易に合成することができる。一般式(4)で表されるポリグリセリン化合物において、[PG]kは重合度kのポリグリセリンの残基、kは2〜50、Yは水酸基又は脱離基を示し、k5及びk6は、1≦k5≦(k+2)/2、k5+k6=k+2を満足する数である。一般式(4)で示されるポリグリセリン化合物において、Yは水酸基又は脱離基を示す。本明細書において「脱離基」とは、ポリグリセリン化合物にリン脂質との反応活性を付与する基であり、電子吸引性基、その他の基が含まれる。このような基として、具体的には、イミダゾール基、4−ニトロフェニルオキシ基、ベンゾトリアゾール基、塩素、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、カルボニロキシ−N−2−ピロリジノン基、カルボニル−2−オキシピリミジン基、N−スクシンイミジルオキシ基、ペンタフルオロベンゾイル基などが挙げられる。この中でも、イミダゾール基、4−ニトロフェニルオキシ基、ベンゾトリアゾール基、塩素、N−スクシンイミジルオキシ基が好ましく、特にN−スクシンイミジルオキシ基、4−ニトロフェニルオキシ基が特に好ましい。
一般式(4)で示されるポリグリセリン化合物を得るには、例えば、ポリグリセリン化合物に、トリエチルアミン又はジメチルアミノピリジンなどの塩基性触媒下、有機溶媒中、N,N’−スクシンイミジルカーボネートやクロロ蟻酸p−ニトロフェニルエステルなどの活性化剤を使用して上記に示した脱離基を導入する方法などが挙げられる。もっとも、この方法に限定されることはなく、式(4)で示されるポリグリセリン化合物はいかなる方法で製造してもよい。活性化剤の量は、通常、リン脂質を導入するk1の数と同モル以上であればよい。但し、実質的には活性化剤の純度等も考慮し、k1の数の1〜2倍モルであることが好ましい。
一般式(4)で表されるポリグリセリン化合物を用いて、一般式(1)で示されるa及びb=0である本発明の化合物を合成する際に用いられるリン脂質は一般式(5)で表される。該リン脂質は、天然リン脂質でも合成リン脂質でもよく、例えば大豆及び大豆水添ホスファチジルエタノールアミン、卵黄及び卵黄水添ホスファチジルエタノールアミン等の天然及び合成ホスファチジルエタノールアミンなどが挙げられる。本反応には塩基性触媒を用いることができるが、その種類は特に限定されない。例えば、窒素含有物質としてはトリエチルアミン、ジメチルアミノピリジン、酢酸アンモニウム等を挙げることができ、有機塩としてはリン酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、ホウ酸ナトリウム及び酢酸ナトリウム等を挙げることができる。塩基性触媒の使用量は特に限定されないが、例えば、工程(B)で使用されるリン脂質化合物の1〜5倍モル、好ましくは1〜2倍モルであることが好ましい。工程(B)で使用するリン脂質化合物の量は特に限定されず、目的とするk1の数に応じて適宜反応させることができる。例えば、1分子あたりのk1の数に対して1〜3倍モル、好ましくは1〜1.3倍モルである。
本反応に使用する有機溶媒は、水酸基等の官能基を有しないものであれば特に制限なく使用することができる。例えば酢酸エチル、ジクロロメタン、クロロホルム、ベンゼン、ジメチルスルホキシド(DMSO)及びトルエンなどが挙げられる。これらの中ではクロロホルム、DMSO、及びトルエンが好ましい。エタノールなどの水酸基を有する有機溶媒は、一般式(4)で示されるポリグリセリン化合物の末端の脱離基と反応するので好ましくない。ジクロロメタン等でも反応性には問題はないが、低沸点であるため作業上好ましくない場合がある。本反応の反応温度は特に限定されないが、例えば20〜110℃、好ましくは30〜90℃である。反応時間は特に限定されないが、1時間以上、好ましくは2〜24時間とするのが望ましい。20℃を下回る温度は反応効率の観点で好ましくない場合があり、90℃を上回る温度では反応に用いるリン脂質化合物のアシル基が加水分解する場合がある。
上記一般式(1)で表される本発明の化合物を界面活性剤として用いることにより、可溶化液、乳化液、分散液を得ることができる。本発明の化合物は特に、水難溶性薬物の可溶化剤、乳化剤、分散剤として有用である。本発明の界面活性剤を乳化剤、可溶化剤又は分散剤として用いる場合、乳化剤、可溶化剤又は分散剤は、本発明の界面活性剤のみを用いてもよく、また乳化、可溶化又は分散に用いられている公知の他の成分を含んでいてもよい。可溶化液又は分散液の形態は限定されず、水あるいは緩衝液などの分散媒に脂溶性物質等を溶解させた溶解液、水あるいは緩衝液などの分散媒に脂溶性物質等を分散させた分散液等が挙げられる。
乳化液又は可溶化液の形態は限定されず、本発明の界面活性剤によって形成されたミセル溶液、すなわちその内部に脂溶性物質を含有したミセル溶液、また水あるいは緩衝液などの分散媒に本発明の界面活性剤と脂溶性物質等による分散粒子が、コロイド粒子あるいはそれ以上大きな粒子として存在するエマルション溶液等が挙げられる。ミセル溶液としては、分散粒子径が10〜300nmであるものを特に高分子ミセル溶液として挙げられる。エマルション溶液は、O/W型、又はW/O/W型でもよい。可溶化又は乳化できる脂溶性物質は特に限定されないが、例えば、高級アルコール、エステル油、トリグリセリン、トコフェロール、高級脂肪酸、水難溶性薬物等が挙げられる。
本発明の可溶化されうる水難溶性薬物としては、特に限定されるものではないが、例えば、25℃で水に対して1000ppm以下の溶解度を有するもの、溶解度が10mg/ml以下のものなどが用いられる。水難溶性薬物としては、例えば、シクロスポリン、アムホテリシンB、インドメタシン、ニフェジピン、タクロリムス、メルファラン、イホスファミド、ストレプトゾシン(streptozotocin)、メトトレキサート、フルオロウラシル、シタラビン、テガフール、イドキシド(idoxido)、パクリタキセル、ドセタキセル、ダウノルビシン、ブレオマイシン、メドロキシプロゲステロン、フェノフィブラート等を挙げることができる。
化粧料分野における分散剤としての使用形態も特に限定されないが、例えば、アスコルビン酸等の水溶性物質を脂質膜構造体の内水相に保持し、又はトコフェロール等の脂溶性物質を脂質二重膜に保持しておく場合などにおいて、本発明の化合物を脂質膜構造体形成剤として用いることにより、より安定に対象物質を水溶液中に分散できる。界面活性剤及び分散剤として用いる場合には、本発明の化合物の添加量は、例えば可溶化、分散、乳化などの対象となる物質の全質量に対して0.1〜20質量%、好ましくは0.5〜7質量%、より好ましくは0.5〜5質量%である。
また、水難溶性薬物の可溶化においては、本発明の化合物の添加量が薬物の溶解度等により変動するため、溶解度に応じて適宜添加量を決めればよい。本発明の化合物の添加量は以下の量に限定されないが、例えば、対象となる薬物の全質量に対して500〜100000質量%である。
上記一般式(1)においてk2が0である化合物は、特にノニオン界面活性剤として高塩濃度条件下で有効に使用することができる。一般に、ポリグリセリン修飾リン脂質等は、グリセリン基に由来する親水性とアシル基に由来する疎水性とを有しているので界面活性剤として使用することができる。しかしながら、通常、ポリアルキレンオキシド修飾リン脂質に代表されるオキシアルキレン基を有する界面活性剤は高塩濃度条件下で使用する場合に濁りを生じるという問題がある。その他、グリシドール誘導体のノニオン系界面活性剤を高塩濃度条件下で用いることについて報告があるが、その場合には皮膚刺激の問題等があり化粧料分野への応用には適さないという問題がある。上記一般式(1)で表される化合物は、塩濃度の高い状態においても高い可溶化能を維持できるという特徴があり、耐塩性に優れた界面活性剤として使用できる。また、化粧料の分野において皮膚との相溶性の高い界面活性剤として用いることができる。
上記一般式(1)において0<k2である化合物、すなわち分岐したグリセリン基の末端にカルボキシル基を有する化合物は、pH感受性のリン脂質として、例えば分散剤として使用することができる。カチオン性の物質(例えばカチオン性の生理活性物質など)や塩基性物質などを水中に分散する場合、例えばカチオン性物質又は塩基性物質を含む微粒子等の表面を上記化合物で被覆することにより、水中に安定に分散することができる。本発明の化合物はポリアニオン性基を有するのでイオン結合により安定に分散することができる。
上記一般式(1)で表される本発明の化合物は、リポソーム、エマルジョン、ミセル等の脂質膜構造体の構成リン脂質として用いることができる。本発明の化合物を用いることにより、脂質膜構造体、好ましくはリポソームの血中滞留時間を増大することができる。この効果は脂質膜構造体に本発明の化合物を少量添加することにより達成できる。いかなる特定の理論に拘泥するわけではないが、4以上の多分岐を有する本発明の化合物を脂質膜構造体の構成リン脂質として用いることにより、ポリグリセリン鎖が脂質膜構造体の膜中で三次元的な広がりをもつため、水溶液中での微粒子の凝集を防ぎ安定な分散状態が達成される。
脂質膜構造体中への本発明の化合物の配合量は、医薬の薬効を生体内で有効に発現させるのに充分な量であればよく、特に限定されることはない。例えば、脂質膜構造体に保持させるべき医薬の種類、治療や予防などの用途、脂質膜構造体の形態などにより適宜選択可能である。本発明により提供される脂質膜構造体に保持される医薬の種類は特に限定されないが、例えば、抗腫瘍剤として用いられる化合物が好ましい。これら化合物としては、例えば、塩酸イリノテカン、塩酸ノギテカン、エキサテカン、RFS−2000、Lurtotecan、BNP−1350、Bay−383441、PNU−166148、IDEC−132、BN−80915、DB−38、DB−81、DB−90、DB−91、CKD−620、T−0128、ST−1480、ST−1481、DRF−1042、DE−310等のカンプトテシン誘導体、ドセタキセル水和物、パクリタキセル、IND−5109、BMS−184476、BMS−188797、T−3782、TAX−1011、SB−RA−31012、SBT−1514、DJ−927等のタキサン誘導体、イホスファミド、塩酸ニムスチン、カルボコン、シクロホスファミド、ダカルバジン、チオテパ、ブスルファン、メルファラン、ラニムスチン、リン酸エストラムスチンナトリウム、6−メルカプトプリンリボシド、エノシタビン、塩酸ゲムシタビン、カルモフール、シタラビン、シタラビンオクホスファート、テガフール、ドキシフルリジン、ヒドロキシカルバミド、フルオロウラシル、メトトレキサート、メルカプトプリン、リン酸フルダラビン、アクチノマイシンD、塩酸アクラルビシン、塩酸イダルビシン、塩酸エビルビシン、塩酸ダウノルビシン、塩酸ドキソルビシン、塩酸ピラルビシン、塩酸ブレオマイシン、ジノスタチンスチマラマー、ネオカルチノスタチン、マイトマイシンC、硫酸ブレオマイシン、硫酸ペプロマイシン、エトポシド、酒石酸ビノレルビン、硫酸ビンクリスチン、硫酸ビンデシン、硫酸ビンブラスチン、塩酸アムルビシン、ゲフィニチブ、エキセメスタン、カペシタビン、TNP−470、TAK−165、KW−2401、KW−2170、KW−2871、KT−5555、KT−8391、TZT−1027、S−3304、CS−682、YM−511、YM−598、TAT−59、TAS−101、TAS−102、TA−106、FK−228、FK−317、E7070、E7389、KRN−700、KRN−5500、J−107088、HMN−214、SM−11355、ZD−0473等を挙げることができる。
また、本発明の脂質膜構造体には遺伝子などを封入してもよい。遺伝子としては、オリゴヌクレオチド、DNA及びRNAのいずれでもよく、特に形質転換等のイン・ビトロにおける導入用遺伝子や、イン・ビボで発現することにより作用する遺伝子、例えば、遺伝子治療用遺伝子、実験動物や家畜等の産業用動物の品種改良に用いられる遺伝子を挙げることができる。遺伝子治療用遺伝子としては、アンチセンスオリゴヌクレオチド、アンチセンスDNA、アンチセンスRNA、酵素、サイトカイン等の生理活性物質をコードする遺伝子等を挙げることができる。
上記の脂質膜構造体は、さらにリン脂質、コレステロール、コレスタノール等のステロール類、その他の炭素数8〜22の飽和及び不飽和のアシル基を有する脂肪酸類、α−トコフェロール等の酸化防止剤を含んでいてもよい。リン脂質としては、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファリジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、カルジオリピン、スフィンゴミエリン、セラミドホスホリルエタノールアミン、セラミドホスホリルグリセロール、セラミドホスホリルグリセロールホスファート、1、2−ジミリストイル−1,2−デオキシホスファチジルコリン、プラスマロゲン及びホスファチジン酸等を挙げることができ、これらは1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのリン脂質の脂肪酸残基は特に限定されないが、例えば、炭素数12から20の飽和又は不飽和の脂肪酸残基を挙げることができ、具体的には、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸等の脂肪酸由来のアシル基を挙げることができる。また、卵黄レシチン及び大豆レシチンのような天然物由来のリン脂質を用いることもできる。
本発明の脂質膜構造体の形態及びその製造方法は特に限定されないが、存在形態としては、例えば、乾燥した脂質混合物形態、水系溶媒に分散した形態、さらにこれを乾燥させた形態や凍結させた形態等を挙げることができる。乾燥した脂質混合物の形態の脂質膜構造体は、例えば、使用する脂質成分をいったんクロロホルム等の有機溶媒に溶解させ、次いでエバポレータによる減圧乾固や噴霧乾燥機による噴霧乾燥を行うことによって製造することができる。脂質膜構造体が水系溶媒に分散した形態としては、一枚膜リポソーム、多重層リポソーム、O/W型エマルション、W/O/W型エマルション、球状ミセル、ひも状ミセル、不定型の層状構造物などを挙げることができるが、これらのうちリポソームが好ましい。分散した状態の脂質膜構造体の大きさは特に限定されないが、例えば、リポソームやエマルションの場合には粒子径が50nmから5μmであり、球状ミセルの場合、粒子径が5nmから100nmである。ひも状ミセルや不定型の層状構造物の場合は、その1層あたりの厚みが5nmから10nmでこれらが層を形成していると考えればよい。
水系溶媒(分散媒)の組成も特に限定されず、例えば、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、リン酸緩衝化生理食塩液等の緩衝液、生理食塩水、細胞培養用の培地などであってもよい。これらの水系溶媒に対して脂質膜構造体を安定に分散させることができるが、さらにグルコース、乳糖、ショ糖などの糖水溶液、グリセリン、プロピレングリコールなどの多価アルコール水溶液等を加えてもよい。この水系溶媒に分散した脂質膜構造体を安定に長期間保存するには、凝集などの物理的安定性の面から、水系溶媒中の電解質を極力なくすことが望ましい。また、脂質の化学的安定性の面から、水系溶媒のpHを弱酸性から中性付近(pH3.0から8.0)に設定したり、窒素バブリングにより溶存酸素を除去することが望ましい。さらに凍結乾燥保存や噴霧乾燥保存をする場合には、例えば糖水溶液を凍結保存するに際して糖水溶液や多価アルコール水溶液をそれぞれ用いると効果的な保存が可能である。これらの水系溶媒の濃度は特に限定されるべきものではないが、例えば、糖水溶液においては、2〜20%(W/V)が好ましく、5〜10%(W/V)がさらに好ましい。また、多価アルコール水溶液においては、1〜5%(W/V)が好ましく、2〜2.5%(W/V)がさらに好ましい。緩衝液においては、緩衝剤の濃度が5〜50mMが好ましく、10〜20mMがさらに好ましい。水系溶媒中の脂質膜構造体の濃度は特に限定されないが、脂質膜構造体における脂質総量の濃度は、0.1mM〜500mMが好ましく、1mM〜100mMがさらに好ましい。
脂質膜構造体が水系溶媒に分散した形態は、上記の乾燥した脂質混合物を水系溶媒に添加し、さらにホモジナイザー等の乳化機、超音波乳化機、高圧噴射乳化機等により乳化することで製造することができる。また、リポソームを製造する方法としてよく知られている方法、例えば逆相蒸発法などによっても製造することもでき、分散体の製造方法は特に限定されることはない。脂質膜構造体の大きさを制御したい場合には、孔径のそろったメンブランフィルター等を用いて、高圧下でイクストルージョン(押し出し濾過)を行えばよい。
上記の水系溶媒に分散した脂質膜構造体を乾燥させる方法としては、通常の凍結乾燥や噴霧乾燥を挙げることができる。この際の水系溶媒としては、上記したように糖水溶液、好ましくはショ糖水溶液、乳糖水溶液を用いるとよい。水系溶媒に分散した脂質膜構造体をいったん製造した上でさらに乾燥すると、脂質膜構造体の長期保存が可能となるほか、この乾燥した脂質膜構造体に医薬水溶液を添加すると、効率よく脂質混合物が水和されるために医薬を効率よく脂質膜構造体に保持させることができるといったメリットがある。例えば、脂質膜構造体に医薬を添加することにより医薬組成物を製造することができ、該脂質膜構造体は疾病の治療及び/又は予防のための医薬組成物として用いることができる。医薬が遺伝子の場合は、遺伝子導入用キットとして用いることも可能である。
医薬組成物の形態としては、脂質膜構造体と医薬とが混合された形態のほか、該脂質膜構造体に医薬が保持された形態でもよい。ここでいう保持とは、医薬が脂質膜構造体の膜の中、表面、内部、脂質層中、及び/又は脂質層の表面に存在することを意味する。医薬組成物の存在形態及びその製造方法は、脂質膜構造体と同様に特に限定されることはないが、例えば、存在形態としては、混合乾燥物形態、水系溶媒に分散した形態、さらにこれを乾燥させた形態や凍結させた形態が挙げられる。
脂質類と医薬との混合乾燥物は、例えば、使用する脂質類成分と医薬とをいったんクロロホルム等の有機溶媒で溶解させ、次にこれをエバポレータによる減圧乾固や噴霧乾燥機による噴霧乾燥を行うことにより製造することができる。脂質膜構造体と医薬との混合物が水系溶媒に分散した形態としては、多重層リポソーム、一枚膜リポソーム、O/W型エマルション、W/O/W型エマルション、球状ミセル、ひも状ミセル、不定形の層状構造物などを挙げることができるが、特に限定されることはない。混合物としての大きさ(粒子径)や水系溶媒の組成なども特に限定されることはないが、例えばリポソームの場合には50nm〜2μm、球状ミセルの場合は5〜100nm、エマルジョンを形成する場合は50nm〜5μmである。混合物としての水系溶媒における濃度も特に限定はされることはない。なお、脂質膜構造体と医薬との混合物が水系溶媒に分散した形態の製造方法としてはいくつかの方法が知られており、通常は脂質膜構造体と医薬との混合物の存在様式に応じて下記のように適宜の製造方法を選択する必要がある。
製造方法1
上記の脂質類と医薬との混合乾燥物に水系溶媒を添加し、さらにホモジナイザー等の乳化機、超音波乳化機、高圧噴射乳化機等による乳化を行う方法である。大きさ(粒子径)を制御したい場合には、さらに孔径のそろったメンブランフィルターを用いて、高圧力下でイクストルージョン(押し出し慮過)を行えばよい。この方法の場合には、まず脂質類と医薬との混合乾燥物を作るために、医薬を有機溶媒に溶解する必要があるが、医薬と脂質膜構造体との相互作用を最大限に利用できるメリットがある。すなわち、脂質膜構造体が層状構造を有する場合にも、医薬は多重層の内部にまで入り込むことが可能であり、一般的にこの製造方法を用いると医薬の脂質膜構造体への保持率を高くすることができる。
製造方法2
脂質類成分を有機溶媒でいったん溶解後、有機溶媒を留去した乾燥物に、さらに医薬を含む水系溶媒を添加して乳化する方法である。大きさ(粒子径)を制御したい場合には、さらに孔径のそろったメンブランフィルターを用いて、高圧力下でイクストルージョン(押し出し慮過)を行えばよい。有機溶媒には溶解しにくいが、水系溶媒には溶解する医薬に適用できる。脂質膜構造体がリポソームの場合、内水相部分にも医薬を保持できる長所がある。
製造方法3
水系溶媒に既に分散したリポソーム、エマルション、ミセル、又は層状構造物などの脂質膜構造体に、さらに医薬を含む水系溶媒を添加する方法である。この方法の適用は水溶性の医薬に限定される。既にできあがっている脂質膜構造体に外部から医薬を添加する方法であるため、医薬が高分子の場合には、医薬は脂質膜構造体内部には入り込めず、脂質膜構造体の表面に結合した存在様式をとる場合がある。脂質膜構造体としてリポソームを用いた場合、この製造方法3を用いると、医薬がリポソーム粒子同士の間に挟まったサンドイッチ構造(一般的には複合体あるいはコンプレックスと呼ばれている。)をとることが知られている。この製造方法では、脂質膜構造体単独の水分散液をあらかじめ製造するため、乳化時の医薬の分解を考慮する必要がなく、大きさ(粒子径)の制御もたやすいので、製造方法1や製造方法2に比べて比較的製造が容易である。
製造方法4
水系溶媒に分散した脂質膜構造体をいったん製造した上でさらに乾燥させた乾燥物に、さらに医薬を含む水系溶媒を添加する方法である。この場合も製造方法3と同様に医薬は水溶性のものに限定される。製造方法3と大きく違う点は、脂質膜構造体と医薬との存在様式にある。すなわち、この製造方法4では、水系溶媒に分散した脂質膜構造体をいったん製造した上でさらに乾燥させた乾燥物を製造するために、この段階で脂質膜構造体は脂質膜の断片として固体状態で存在する。この脂質膜の断片を固体状態に存在させるために、前記したように水系溶媒として糖水溶液、好ましくはショ糖水溶液や乳糖水溶液を用いるのが好ましい。ここで、医薬を含む水系溶媒を添加すると、固体状態で存在していた脂質膜の断片は水の侵入とともに水和を速やかに始め、脂質膜構造体を再構成することができる。この時に、医薬が脂質膜構造体内部に保持された形態の構造体が製造できる。
製造方法3では、医薬が高分子の場合には、医薬は脂質膜構造体内部には入り込めず、脂質膜構造体の表面に結合した存在様式をとるが、製造方法4はこの点で大きく異なっている。この製造方法4は、脂質膜構造体単独の水分散液をあらかじめ製造するため、乳化時の医薬の分解を考慮する必要がなく、大きさ(粒子径)の制御もたやすいので、製造方法1や製造方法2に比べて比較的製造が容易であることが挙げられる。また、この他に、凍結乾燥あるいは噴霧乾燥を行うため、製剤としての保存安定性を保証しやすいこと、乾燥製剤を医薬水溶液で再水和しても大きさ(粒子径)を元にもどせること、高分子の医薬の場合でも脂質膜構造体内部に医薬を保持させやすいことなどが長所として挙げられる。
脂質膜構造体と医薬との混合物が水系溶媒に分散した形態を調製するための他の方法としては、リポソームを製造する方法としてよく知られる方法、例えば逆相蒸発法などを別途用いてもよい。大きさ(粒子径)を制御したい場合には、さらに孔径のそろったメンブランフィルターを用いて、高圧力下でイクストルージョン(押し出し慮過)を行えばよい。また、上記の脂質膜構造体と医薬との混合物が水系溶媒に分散した分散液をさらに乾燥させる方法としては、凍結乾燥や噴霧乾燥が挙げられる。この時の水系溶媒としては、脂質膜構造体単独の場合と同様に糖水溶液、好ましくはショ糖水溶液や乳糖水溶液を用いるとよい。上記の脂質膜構造体と医薬との混合物が水系溶媒に分散した分散液をさらに凍結させる方法としては、通常の凍結方法が挙げられるが、この時の水系溶媒としては、脂質膜構造体単独の場合と同様に、糖水溶液や多価アルコール水溶液を用いるとよい。
医薬組成物において配合し得る脂質は、使用する医薬の種類などに応じて適宜選択すればよいが、例えば、医薬が遺伝子以外の場合には医薬1質量部に対して0.1から1000質量部が好ましく、0.5から200質量部がより好ましい。また、医薬が遺伝子の場合には、医薬(遺伝子)1μgに対して、1から500nmolが好ましく、10から200nmolがより好ましい。
本発明の脂質膜構造体を含む医薬組成物の使用方法は、その形態に応じて適宜決定することが可能である。ヒト等に対する投与経路は特に限定されず、経口投与又は非経口投与のいずれでもよい。経口投与の剤形としては、例えば、錠剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤、カプセル剤、内服液剤等を挙げることができ、非経口投与の剤形としては、例えば、注射剤、点滴剤、点眼剤、軟膏剤、座剤、懸濁剤、パップ剤、ローション剤、エアゾール剤、プラスター剤等を挙げることができる。医薬の分野においては、これらのうち注射剤又は点滴剤が好ましく、投与方法としては、静脈注射、皮下注射、皮内注射などのほか、標的とする細胞や臓器に対しての局所注射が好ましい。また、化粧料の分野においては、化粧料の形態としては、具体的には、ローション、クリーム、化粧水、乳液、フォーム剤、ファンデーション、口紅、パック剤、皮膚洗浄剤、シャンプー、リンス、コンディショナー、ヘアトニック、ヘアリキッド、ヘアクリーム等を挙げることができる。
【実施例】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。以下の実施例において示した構造式においてPG(6)及びPG(8)などの標記は、それぞれヘキサグリセリン及びオクタグリセリンを意味しており、それぞれ平均重合度が6及び8のポリグリセリン混合物である。
合成例1
(1)ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンサクシネートの調製

ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン20.0g(26.7mmol)にクロロホルム150mLを加えて55℃で撹拌し、酢酸ナトリウム2.2g(267mmol)を添加しリン脂質クロロホルム溶液とした。その溶液に無水コハク酸3.5g(34.8mmol)を加えて55℃で3時間反応を行った。反応終点の確認はシリカゲルプレートを用いた薄層クロマトグラフィー(TLC)により行い、ニンヒドリン発色にてジステアロイルホスファチジルエタノールアミンが検出されなくなる点とした。展開溶媒にはクロロホルムとメタノールの体積比が85:15の混合溶媒を用いた。反応後、溶液を濾過して酢酸ナトリウムを除去した後、濾液を濃縮した。濾液を濃縮後、イソプロピルアルコール(100ml)を加え、室温で30分攪拌した。結晶濾過後、ヘキサン(80mL)洗浄、濾過、乾燥することによりジステアロイルホスファチジルエタノールアミンサクシネートの結晶(20.5g)を得た。
合成例2
(2)ジステアロイルホスファチジルエタノールアミングルタレートの調製

ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン20.0g(26.7mmol)にクロロホルム150mLを加えて55℃で撹拌し、酢酸ナトリウム2.2g(267mmol)を添加しリン脂質クロロホルム溶液とした。その溶液に無水グルタル酸4.0g(34.8mmol)を加えて55℃で3時間反応を行った。反応終点の確認は上記と同様にTLCにておこなった。反応後、溶液を濾過して酢酸ナトリウムを除去した後、濾液を濃縮した。濾液を濃縮後、イソプロピルアルコール(100ml)を加え、室温で30分攪拌した。結晶濾過後、ヘキサン(80mL)洗浄、濾過、乾燥することによりジステアロイルホスファチジルエタノールアミングルタレートの結晶(19.8g)を得た。
【実施例1】
(3)ヘキサグリセロールグルタリル ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンの調製

ジステアロイルホスファチジルエタノールアミングルタレート4.3g(5.0mmol)にクロロホルム(25ml)を加え、45℃で攪拌した。このクロロホルム溶液に、ジメチルスルホキシド(10mL)で溶解したヘキサグリセリン11.6g(25mmol)を加え、続いて、ジシクロヘキシルカルボジイミド2.1g(10mmol)、ジメチルアミノピリジン0.6g(5.3mmol)を加えた。反応は45℃で2時間おこなった。反応終点の確認はTLCにておこなった。シリカゲルプレートを用いた薄層クロマトグラフィー(TLC)により行い、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミングルタレートが検出されなくなる点とした。展開溶媒にはクロロホルム、メタノール、水の体積比が65:25:4の混合溶媒を用いた。反応終了後、析出したジシクロヘキシルウレアを濾過後、濾液をカラムに充填した陽イオン交換樹脂(DIAION SK1BH)に通した。溶出液は、メタノールを少量添加したリン酸水素二ナトリウム水溶液に受け、中和した。硫酸ナトリウムで脱水後、濾過、濃縮をおこなった。残渣をクロロホルム/アセトン/ジメチルスルホキシド、又はアセトン/ジメチルスルホキシドで3回晶析し、ヘキサグリセロールグルタリル ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンの結晶4.8gを得た。
H−NMR(CDCl)より、δ 0.88にステアロイル基末端メチル基プロトン、δ 1.26にステアロイル基のメチレン基プロトン、δ 1.95にグルタル酸由来の−NH(C=O)CHCHCHCOO−のメチレン基プロトン、δ 2.29、2.31に−NH(C=O)CHCHCHCOO−のメチレン基プロトン、δ 3.2−4.5にヘキサグリセリン由来のメチレンプロトン、メチンプロトンを確認した。
【実施例2】
(4)オクタグリセロールグルタリル ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンの調製

ジステアロイルホスファチジルエタノールアミングルタレート4.3g(5.0mmol)にクロロホルム(25ml)を加え、45℃で攪拌した。このクロロホルム溶液に、ジメチルスルホキシド(20mL)で溶解したオクタグリセリン15.3g(25mmol)を加え、続いて、ジシクロヘキシルカルボジイミド2.1g(10mmol)、ジメチルアミノピリジン0.6g(5.3mmol)を加えた。反応は45℃で2時間おこなった。反応終点の確認は上記と同様にTLCにておこなった。反応終了後、析出したジシクロヘキシルウレアを濾過後、濾液をカラムに充填した陽イオン交換樹脂(DIAION SK1BH)に通した。溶出液は、メタノールを少量添加したリン酸水素二ナトリウム水溶液に受け、中和した。硫酸ナトリウムで脱水後、濾過、濃縮をおこなった。残渣をクロロホルム/アセトン/ジメチルスルホキシド、又はアセトン/ジメチルスルホキシドで3回晶析し、オクタグリセロールグルタリル ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンの結晶4.5gを得た。
H−NMR(CDCl)より、δ 0.88にステアロイル基末端メチル基プロトン、δ 1.26にステアロイル基のメチレン基プロトン、δ 1.95にグルタル酸由来の−NH(C=O)CHCHCHCOO−のメチレン基プロトン、δ 2.29、2.31に−NH(C=O)CHCHCHCOO−のメチレン基プロトン、δ 3.2−4.5にオクタグリセリン由来のメチレンプロトン、メチンプロトンを確認した。
【実施例3】
(5)デカグリセロールグルタリル ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンの調製

ジステアロイルホスファチジルエタノールアミングルタレート4.3g(5.0mmol)にクロロホルム(25ml)を加え、45℃で攪拌した。このクロロホルム溶液に、ジメチルスルホキシド(20mL)で溶解したデカグリセリン19.0g(25mmol)を加え、続いて、ジシクロヘキシルカルボジイミド2.1g(10mmol)、ジメチルアミノピリジン0.6g(5.3mmol)を加えた。反応は45℃で2時間おこなった。反応終点の確認は上記と同様にTLCにておこなった。反応終了後、析出したジシクロヘキシルウレアを濾過後、濾液をカラムに充填した陽イオン交換樹脂(DIAION SK1BH)に通した。溶出液は、メタノールを少量添加したリン酸水素二ナトリウム水溶液に受け、中和した。硫酸ナトリウムで脱水後、濾過、濃縮をおこなった。残渣をクロロホルム/アセトン/ジメチルスルホキシド、又はアセトン/ジメチルスルホキシドで3回晶析し、デカグリセロールグルタリル ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンの結晶4.3gを得た。
H−NMR(CDCl)より、δ 0.88にステアロイル基末端メチル基プロトン、δ 1.26にステアロイル基のメチレン基プロトン、δ 1.95にグルタル酸由来の−NH(C=O)CHCHCHCOO−のメチレン基プロトン、δ 2.29、2.31に−NH(C=O)CHCHCHCOO−のメチレン基プロトン、δ 3.2−4.5にデカグリセリン由来のメチレンプロトン、メチンプロトンを確認した。
【実施例4】
(6)オクタグリセロールサクシニル ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンの調製

ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンサクシネート4.2g(5.0mmol)にクロロホルム(10ml)を加え、45℃で攪拌した。このクロロホルム溶液に、ジメチルスルホキシド(20mL)で溶解したオクタグリセリン15.3g(25mmol)を加え、続いて、ジシクロヘキシルカルボジイミド2.1g(10mmol)、ジメチルアミノピリジン0.6g(5.3mmol)を加えた。反応は45℃で2時間おこなった。反応終点の確認はシリカゲルプレートを用いた薄層クロマトグラフィー(TLC)により行い、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンサクシネートが検出されなくなる点とした。展開溶媒にはクロロホルム、メタノール、水の体積比が65:25:4の混合溶媒を用いた。反応終了後、析出したジシクロヘキシルウレアを濾過後、濾液をカラムに充填した陽イオン交換樹脂(DIAION SK1BH)に通した。溶出液は、メタノールを少量添加したリン酸水素二ナトリウム水溶液に受け、中和した。硫酸ナトリウムで脱水後、濾過、濃縮をおこなった。残渣をクロロホルム/アセトン/ジメチルスルホキシド、又はアセトン/ジメチルスルホキシドで3回晶析し、オクタグリセロールサクシニル ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンの結晶4.8gを得た。
H−NMR(CDCl)より、δ 0.88にステアロイル基末端メチル基プロトン、δ 1.26にステアロイル基のメチレン基プロトン、δ 2.29、2.31にコハク酸由来の−NH(C=O)CHCHCOO−のメチレン基プロトン、δ 3.2−4.5にオクタグリセリン由来のメチレンプロトン、メチンプロトンを確認した。
【実施例5】
(7)テトラデカグリセロールサクシニル ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンの調製

ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンサクシネート1.7g(2.0mmol)にクロロホルム(10ml)を加え、45℃で攪拌した。このクロロホルム溶液に、ジメチルスルホキシド(40mL)で溶解したテトラデカグリセリン29.8g(10mmol)を加え、続いて、ジシクロヘキシルカルボジイミド0.8g(4.0mmol)、ジメチルアミノピリジン0.3g(2.1mmol)を加えた。反応は45℃で2時間おこなった。反応終点の確認は上記と同様にTLCにておこなった。反応終了後、析出したジシクロヘキシルウレアを濾過後、濾液をカラムに充填した陽イオン交換樹脂(DIAION SK1BH)に通した。溶出液は、メタノールを少量添加したリン酸水素二ナトリウム水溶液に受け、中和した。硫酸ナトリウムで脱水後、濾過、濃縮をおこなった。残渣をクロロホルム/アセトン/ジメチルスルホキシド、又はアセトン/ジメチルスルホキシドで3回晶析し、テトラデカグリセロールサクシニル ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンの結晶3.8gを得た。
H−NMR(CDCl)より、δ 0.88にステアロイル基末端メチル基プロトン、δ 1.26にステアロイル基のメチレン基プロトン、δ 2.29、2.31にコハク酸由来の−NH(C=O)CHCHCOO−のメチレン基プロトン、δ 3.2−4.5にテトラデカグリセリン由来のメチレンプロトン、メチンプロトンを確認した。
実施例6:血中滞留性リポソームとしての評価
(1)リポソームの調製
表1に示した膜組成比率(実施例1〜5、並びに対照例1〜4)の脂質を各々秤取し、クロロホルム・メタノール混液(2:1)に溶解させた後、エバポレーターにより有機溶媒を留去し、さらに1時間減圧乾固させた。次に、この脂質乾燥物(リピドフィルム)に、予め65℃に加温しておいた155mM硫酸アンモニウム水溶液(pH5.5)10mlを加え、湯浴につけながらボルテックスミキサーにて軽く撹拌した(ナスフラスコから脂質が剥がれる程度まで)。この脂質分散液をホモジナイザーに移して、10strokeホモジナイズした後、種々孔径のポリカーボネートメンブレンフィルターを用いてサイジング(0.2μm×3回、0.1μm×3回、0.05μm×3回及び0.03μm×3回)を行い、粒子径100nm前後の空リポソーム分散液を調製した。
この空リポソーム分散液4mlを生理食塩水で2.5倍希釈し、この希釈したリポソーム分散液を超遠心用チューブに入れ、65000rpmで1時間遠心分離した後、上清を捨て、生理食塩水で遠心前のリポソーム分散液量10mlになるように再懸濁させた(この時点で、トータル脂質濃度として50mMとなるよう調整した)。上記の外水相を生理食塩水に置換した空リポソーム分散液(トータル脂質濃度50mM)及びドキソルビシン溶液(薬物濃度:3.3mg/ml 生理食塩水)を予め60℃に加温しておき、容量比で空リポソーム分散液4に対しドキソルビシン溶液6を加えた後(即ち、最終薬物濃度は2.0mg/ml、最終脂質濃度は20mM)、1時間、60℃でインキュベートした。更にこれを室温にて冷却し、ドキソルビシン含有リポソーム分散液とした。
(2)リポソームの物性
ドキソルビシンのリポソームへの保持率は、上記リポソーム分散液の一部を取ってゲル濾過(セファデックス G−50;移動相は生理食塩水)を行い、ボイドボリュームに溶出したリポソーム分画中のドキソルビシンを液体クロマトグラフィーにて定量することにより求めた。また粒子径は、上記リポソーム分散液の一部を取って準弾性光散乱(QELS)法にて測定した。その結果、表1に示すように、実施例2、4及び5、並びに対照例1及び2のリポソームでは、主薬ドキソルビシンの保持率はほぼ100%であったため、元のリポソーム分散液をそのまま用い、下に示すラット実験用に生理食塩水にて4/3倍希釈した(したがって、最終薬物濃度は1.5mg/ml、最終脂質濃度は15mM)。また、実施例1及び3、並びに対照例3及び4のリポソームは、超遠心分離(65000rpm、1時間)操作を行い、上清の未封入薬物を除去した後、生理食塩水にて最終薬物濃度が1.5mg/mlとなるように調製した(したがって、最終脂質濃度は実施例1が約20.9mM、実施例3が約19.3mM、対照例3は約17.2mM、対照例4は約18.7mM)。なお、いずれのリポソームもその粒子径は100nm前後であった。
(3)ラットでの血中滞留性実験
上記実施例1〜5、並びに対照例1〜4を用いて、SD系雄性ラット(6週令)における血中滞留性実験を行った。エーテル麻酔下でラット頸静脈より各リポソーム分散液を投与し(1群5匹;投与量は7.5mgドキソルビシン/5ml/kg)、その後、各採血時点(2、4、8、24、48、72、120、168時間)でエーテル麻酔下、頸静脈よりヘパリン採血(0.5mlから1ml)を行い、血漿分離を行った。その後、常法に従い、前処理してHPLC法にて血漿中薬物濃度を測定した。各リポソーム分散液処方の血漿中薬物濃度から台形法にてAUC(0〜∞)を算出した。表1に示すように、対照例1の本発明脂質誘導体を含まないリポソーム、対照例2の本発明脂質誘導体のリン脂質部分(DSPE;ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン)のみを添加したリポソーム、対照例3及び4の特開平6−22802号公報や文献(インターナショナル・ジャーナル・オブ・ファーマコロジィ、111巻、103頁、1994年)で開示されているポリグリセリン脂質誘導体を添加したリポソームのAUCに比して、本発明脂質誘導体を含むリポソーム処方(実施例1〜5)では1オーダー以上大きなAUCが得られ、明らかに高い血中滞留性が認められた。

実施例7:化粧水の調製(可溶化剤としての評価)
合成例4のオクタグリセロールグルタリル ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンを使用して化粧水を作製した。すなわち、表2の組成からなる基材のうち精製水にグリセリン、プロピレングリコールを加え均一に溶解した。その他の基材をエタノールに加え均一にした後、前述の精製水相部に撹拌しながら添加し可溶化し化粧水を得た。

実施例8:リポソーム乳液の調製(化粧用分散剤としての評価)
リポソーム調製法
大豆水添ホスファチジルコリン645mg、コレステロール299mg及びミリスチン酸23mg(モル比1:1:0.1)及びオクタグリセロールグルタリル ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンを混合脂質濃度5モル%となるように加えて、予め60℃に加温した生理食塩水10〜11mLを混合脂質濃度10質量%となるよう加えて攪拌し、さらに60℃の水浴中でホモゲナイザーにて10分間混合しリポソーム溶液を得た。そのリポソーム溶液を用いて表3の組成からなる基材のうち乳化剤を含む油相部を60℃に加温し均一に溶解した後、撹拌しながら水相部を同温度で添加しリポソーム乳液を得た。


比較合成例1
(1)モノメチルポリオキシエチレンカルバミル(分子量2000)ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンの合成
モノメトキシポリオキシエチレン(分子量2000)(20g、10mmol)にトルエン(80mL)を加え、110℃に昇温、還流し、脱水した。1,1’−カルボニルジイミダゾール(1.95g、12mmol)を加え、40℃で、2時間反応させた。ピリジン(1.58g、20mmol)、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(7g、9.36mmol)を加え、65℃で5時間反応させた。反応液にヘキサン(300mL)を入れ、結晶化させた。結晶に酢酸エチル(400mL)を加え、65℃で溶解し30分攪拌後、5℃に冷却した。析出した結晶を濾過した。同様に酢酸エチルでの工程を1回おこなった。結晶を酢酸エチル(400mL)にて溶解し、吸着剤としてキョーワード#700を1g加え、65℃にて1時間攪拌した。濾過後、5℃に冷却し結晶化させた。ヘキサン(200mL)にて結晶洗浄後、濾過、乾燥し、純度は98.3%のモノメチルポリオキシエチレンカルバミルジステアロイルホスファチジルエタノールアミンを15.3g(収率54.7%)を得た。生成物の分析は、シリカゲルプレートを用いた薄層クロマトグラフィー(TLC)により行った。展開溶媒にはクロロホルムとメタノールの混合比が85:15質量比の混合溶媒を用い、ヨウ素蒸気にて発色させて既知量の標準物質との比較により含有物質の定性定量を行った。
実施例9:耐塩効果の測定(界面活性剤としての評価)
実施例5で得たテトラデカグリセロールサクシニル ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンについて、硫酸ナトリウム5質量%の水溶液に1質量%溶解した時の曇点を測定した。測定した結果80℃まで温度を上げても曇点を検出することはできなかった。
比較例1:耐塩効果の比較(界面活性剤としての評価)
比較合成例1で得たモノメチルポリオキシエチレンカルバミル(分子量2000)ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンについて、実施例9と同様にして曇点の測定を行った。測定した結果曇点は50.0℃であった。この結果、本発明のリン脂質誘導体は高い耐塩性を示すことが分かった。
実施例10(界面活性剤としての評価)
オクタグリセロールグルタリル ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンを用いた大豆水添ホスファチジルコリンの高分子ミセル溶液の調整
大豆水添ホスファチジルコリン(0.1g、0.13mmol)とオクタグリセロールグルタリル ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(1g、0.17mmol)を蒸留水(5ml)に添加し攪拌混合した。均一な混合溶液に蒸留水(95ml)を徐々に添加攪拌し、透明で均一な高分子ミセル溶液を得た。得られた溶液について粒度測定装置(NICOMP Model 370:野崎産業株式会社製)を用いて粒度分布を測定した。その結果平均粒径は40nmであった。得られた高分子ミセル溶液を室温にて1か月間放置した。3か月後の高分子ミセル溶液の状態は、目視では変化が認められず沈殿物のない均一な高分子ミセル溶液であった。
【実施例11】
オクタグリセロール ノナグルタレート(下記式においてk=8、k2=9、k3=1である化合物)の合成

オクタグリセリン6.1g(0.01mol)をジメチルスルホキシド(50ml)に分散させ、酢酸ナトリウム9.0g(0.11mol)を加え、70℃に加温した後、無水グルタル酸11.4g(0.1mol)を加え、12時間反応をおこなった。反応終了後、酢酸ナトリウムを濾過し、減圧下、エバポレーターにて、ジメチルスルホキシドを留去し、オクタグリセロール ノナグルタレート15.9gを得た。
得られた化合物の酸価と水酸基価を測定した。酸化は310.8、水酸基価は36.1であった。これによりオクタグリセリンの約9個の水酸基がグルタル化されており、約1個の水酸基が存在することがわかった。すなわち得られた化合物はオクタグリセロール ノナグルタレートであった。
H−NMR(CDCl)より、δ 1.97にグルタル酸由来の−O(C=O)CHCHCOO−のメチレン基プロトン、δ 2.41、2.44に−O(C=O)CCHCOO−のメチレン基プロトン、δ 3.2−4.6にオクタグリセリン由来のメチレンプロトン、メチンプロトンを確認した。
オクタグリセロールヘプタグルタリル ホスファチジルエタノールアミングルタレート(下記式においてk=8、k1=1、k2=8、k3=1である化合物)の合成

ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン9.4g(0.012mol)にクロロホルム(150ml)を加え45℃にて攪拌した。このリン脂質/クロロホルム溶液にジメチルスルホキシド(15ml)に溶解した上記の粗オクタグリセロールグルタレート15.9g(0.097mol)を加え、続いて、ジシクロヘキシルカルボジイミド2.4g(0.012mol)、トリエチルアミン1.3g(0.012mol)、N−ヒドロキシサクシンイミド1.4g(0.012mol)を加え、3時間反応させた。
反応終点の確認はTLCにておこなった。シリカゲルプレートを用いた薄層クロマトグラフィー(TLC)により行い、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンが検出されなくなる点とした。展開溶媒にはクロロホルム、メタノール、水の体積比が65:25:4の混合溶媒を用いた。反応終了後、析出したジシクロヘキシルウレアを濾過後、濾液をカラムに充填した陽イオン交換樹脂(DIAION SK1BH)に通した。溶出液は、メタノールを少量添加したリン酸水素二ナトリウム水溶液に受け、中和した。硫酸ナトリウムで脱水後、濾過、濃縮をおこなった。残渣をクロロホルム/アセトン/ジメチルスルホキシド、又はアセトン/ジメチルスルホキシドで3回晶析し、オクタグリセロールグルタリル ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン18.1gを得た。
H−NMR(CDCl)より、δ 0.88にステアロイル基末端メチル基プロトン、δ 1.26にステアロイル基のメチレン基プロトン、δ 1.95にグルタル酸由来の−NH(C=O)CHCHCOO−のメチレン基プロトン、δ 2.29、2.31に−NH(C=O)CCHCOO−のメチレン基プロトン、δ 3.2−4.5にオクタグリセリン由来のメチレンプロトン、メチンプロトンを確認した。
【実施例12】
(8)ヘキサグリセロール ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンサクシネートエステルの調製

ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンサクシネート4.2g(5.0mmol)にクロロホルム(10ml)を加え、45℃で攪拌した。このクロロホルム溶液に、ジメチルスルホキシド(20mL)で溶解したヘキサグリセリン11.6g(25mmol)を加え、続いて、ジシクロヘキシルカルボジイミド2.1g(10mmol)、ジメチルアミノピリジン0.64g(5.3mmol)を加えた。反応は45℃で2時間おこなった。反応終点の確認は上記と同様にTLCにておこなった。
反応終了後、析出したジシクロヘキシルウレアを濾過後、濾液をカラムに充填した陽イオン交換樹脂(DIAION SK1BH)に通した。溶出液は、メタノールを少量添加したリン酸水素二ナトリウム水溶液に受け、中和した。
硫酸ナトリウムで脱水後、濾過、濃縮をおこなった。残渣をクロロホルム/アセトン/ジメチルスルホキシド、またはアセトン/ジメチルスルホキシドで3回晶析し、ヘキサグリセロール ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンサクシネートエステルの結晶4.7gを得た。
H−NMR(CDCl)より、δ0.88にステアロイル基末端メチル基プロトン、δ1.26にステアロイル基のメチレン基プロトン、δ2.29、2.31にコハク酸由来の−NH(C=O)CHCHCOO−のメチレン基プロトン、δ3.2−4.5にヘキサグリセリン由来のメチレンプロトン、メチンプロトンを確認した。
(可溶化剤としての評価)
サンプル管に、シクロスポリンA(25mg)(シグマ社製)を計りとり、ジメチルスルホキシド(1ml)に溶解し、シクロスポリンA/ジメチルスルホキシド溶液を調製した。実施例4で得られたオクタグリセロールサクシニル ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(30mg)に上記で得られたシクロスポリンA/ジメチルスルホキシド溶液を200μLを加え、加温し、完全に溶解した。得られた溶液に精製水800μLを加えて、十分に攪拌した。
同様に、実施例12のヘキサグリセロール ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンサクシネートエステルについても実験をおこなった。
次に、酢酸メドロキシプロゲステロン(シグマ社製)についても同様に実験をおこなった。
サンプル管に、酢酸メドロキシプロゲステロン(2.5mg)を計りとり、DMSO(1ml)に溶解し、シクロスポリンA/DMSO溶液を調製した。実施例4で得られたオクタグリセロールサクシニル ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(30mg)に上記で得られたシクロスポリンA/DMSO溶液を200μLを加え、加温し、完全に溶解した。得られた溶液に精製水800μLを加えて、十分に攪拌した。
同様に、実施例12のヘキサグリセロール ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンサクシネートエステルについても実験をおこなった。
完全に可溶化していることの確認は目視にておこない、完全溶解時は○、不溶時は×とした。
○ : 透明
× : 濁り
対照例14および15には、特開平6−22802号公報や文献(インターナショナル・ジャーナル・オブ・ファーマコロジィ、111巻、103頁、1994年)で開示されているポリグリセリン脂質誘導体を使用した。
対照例16は、クレモファーEL(ポリオキシル35ヒマシ油:シグマ社製)を使用した。
全ての結果を表4に示す。

【産業上の利用可能性】
本発明のリン脂質誘導体は生体に対して安全性が高く、化粧料の分野などにおける界面活性剤、可溶化剤、又は分散剤として有用である。ポリグリセリン誘導体である本発明のリン脂質誘導体をリポソームなどの脂質膜構造体の製造のために用いると、脂質膜構造体を不安定にすることなく、水系媒体中での微粒子の凝集を防ぎ、安定な溶液状態が得られる。さらに、本発明のリン脂質誘導体を含むリポソームは血中滞留性に優れているという特徴がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(1):

(式中、[PG]kは重合度kのポリグリセリンの残基を示し、kは2〜50を示し、RCO及びRCOはそれぞれ独立に炭素数8〜22のアシル基を示し、aはそれぞれ独立に0〜5の整数を示し、bはそれぞれ独立に0又は1を示し、Mは水素原子、アルカリ金属原子、アンモニウム、又は有機アンモニウムを示し、k1、k2、及びk3は下記の条件:1≦k1≦(k+2)/2、0≦k2、k1+k2+k3=k+2を満足する数を示す)で表されるリン脂質誘導体。
【請求項2】
1≦k1≦2である請求の範囲第1項に記載のリン脂質誘導体。
【請求項3】
0≦k2≦1である請求の範囲第1項又は第2項に記載のリン脂質誘導体。
【請求項4】
8≦k1+k2+k3≦52である請求の範囲第1項ないし第3項のいずれか1項に記載のリン脂質誘導体。
【請求項5】
CO及びRCOがそれぞれ独立に炭素数12〜20のアシル基である請求の範囲第1項ないし第4項のいずれか1項に記載のリン脂質誘導体。
【請求項6】
k2が0である請求の範囲第1項ないし第5項のいずれか1項に記載のリン脂質誘導体。
【請求項7】
a及びbが0である請求の範囲第6項に記載のリン脂質誘導体。
【請求項8】
0<k2である請求の範囲第1項ないし第5項のいずれか1項に記載のリン脂質誘導体。
【請求項9】
請求の範囲第1項ないし第8項のいずれか1項に記載のリン脂質誘導体を含む脂質膜構造体。
【請求項10】
リポソームである請求の範囲第9項に記載の脂質膜構造体。
【請求項11】
請求の範囲第1項ないし第8項のいずれか1項に記載のリン脂質誘導体を含む界面活性剤。
【請求項12】
請求の範囲第1項ないし第8項のいずれか1項に記載のリン脂質誘導体を含む可溶化剤。
【請求項13】
請求の範囲第1項ないし第8項のいずれか1項に記載のリン脂質誘導体を含む分散剤。
【請求項14】
請求の範囲第1項に記載のリン脂質誘導体の製造方法であって、下記の一般式(2):

(式中、R、R、a、及びMは前記と同義であり、Xは水素原子又はN−ヒドロキシコハク酸イミドを示す)で表される化合物と下記の一般式(3):

(式中、[PG]kは重合度kのポリグリセリンの残基であり、kは前記と同義であり、k4は下記の条件:k4=k+2を満足する数である)で表されるポリグリセリンを反応させる工程を含む方法。
【請求項15】
請求の範囲第1項に記載のリン脂質誘導体の製造方法であって、下記の工程:
(A)ポリグリセリンと2塩基酸又はハロゲン化カルボン酸とを反応させてカルボキシル化ポリグリセリンを得る工程;及び
(B)上記工程(A)で得られたカルボキシル化ポリグリセリンとリン脂質とを反応させる工程
を含む方法。
【請求項16】
請求の範囲第1項に記載のリン脂質誘導体の製造方法であって、下記の工程:
(A)ポリグリセリンとハロゲン化カルボン酸エステルとを反応させ、得られたエステル化合物を加水分解してカルボキシル化ポリグリセリンを得る工程;及び
(B)上記工程(A)で得られたカルボキシル化ポリグリセリンとリン脂質とを反応させる工程
を含む方法。
【請求項17】
請求の範囲第1項ないし第7項のいずれか1項に記載のリン脂質誘導体の製造方法であって、下記の一般式(4):

(式中、[PG]kは重合度kのポリグリセリンの残基を示し、kは2〜50を示し、Yは水酸基又は脱離基を示し、k5及びk6は下記の条件:1≦k5≦(k+2)/2、k5+k6=k+2を満足する数である)で表されるポリグリセリン誘導体と、下記の一般式(5):

(式中、R及びRは上記と同義である)で表されるリン脂質とを有機溶媒中で塩基性触媒の存在下に反応させる工程を含む方法。
【請求項18】
医薬を保持した請求の範囲第9項に記載の脂質膜構造体を含む医薬組成物。
【請求項19】
医薬が抗腫瘍剤である請求の範囲第18項に記載の医薬組成物。

【国際公開番号】WO2004/060899
【国際公開日】平成16年7月22日(2004.7.22)
【発行日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−564487(P2004−564487)
【国際出願番号】PCT/JP2003/015969
【国際出願日】平成15年12月12日(2003.12.12)
【出願人】(000004341)日本油脂株式会社 (896)
【出願人】(000002831)第一製薬株式会社 (129)
【Fターム(参考)】