説明

リールの製造方法及びリール

【課題】 リールの製造タクトを低下させることなく、インサート成形によるリールプレートの取付強度及び取付位置精度を確保できるリールの製造方法と、それによって製造されるリールの提供を課題とする。
【解決手段】 樹脂材で成形され、記録テープTが巻回される有底円筒状のハブ22と、ハブ22の端部に設けられ、記録テープTの幅方向端部を保持するフランジ24、26と、インサート成形によりハブ22の底部28に露出状態で設けられ、ドライブ装置側のマグネットに吸着されるリールプレート46と、を備えたリール20の製造方法であって、リールプレート46を、ハブ22の成形用金型80の外部で、その金型80と略同じ温度に加温した後、その金型80内にセットする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンピューター等のデータ保存用として使用される磁気テープ等の記録テープが巻回されるリールの製造方法と、それによって製造されるリールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンピューター等の外部記録媒体として使用される記録テープカートリッジには、磁気テープ等の記録テープが巻回された単一のリールが回転可能に収容されている。このリールの底部外面には、ケースのギア開口から露出し、ドライブ装置側の回転シャフトに形成された駆動ギアが噛合するリールギアが形成されている。
【0003】
また、そのリールギアの内側には、ドライブ装置側の回転シャフトに設けられたマグネットに吸着される金属製のリールプレートが、インサート成形により、外部に露出した状態で設けられている(例えば、特許文献1参照)。すなわち、このリールプレートは、例えばリールハブと下フランジを一体成形する金型内にセットされ、リールハブと一体化されるようにして取り付けられている。
【0004】
ここで、その金型は、流し込む樹脂材の種類により予め所定の環境温度に加温される。これにより、流し込んだ樹脂材が金型内を固化することなく、スムーズに流れる。しかしながら、インサート成形のために金型内にセットされるリールプレートは、金型に比べ、その温度が著しく低いため、流し込まれた樹脂材がリールプレートに接触することで固化してしまい、その部位において樹脂材が流れ難くなるおそれがあった。
【0005】
リールプレート付近において樹脂が流れ難くなると、リールハブに対するリールプレートの取付強度や取付位置精度が低下するという問題が生じる。また、金型内にリールプレートをセットすると、そのリールプレートは金型に接触することで加温されるが、リールプレートが金型と略同じ温度になるまで待ってから樹脂材を流すようにすると、リールの製造タクトが低下するという問題が生じる。
【特許文献1】特開2000−48526号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、上記事情に鑑み、リールの製造タクトを低下させることなく、インサート成形によるリールプレートの取付強度及び取付位置精度を確保できるリールの製造方法と、それによって製造されるリールを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明に係る請求項1に記載のリールの製造方法は、樹脂材で成形され、記録テープが巻回される有底円筒状のハブと、前記ハブの端部に設けられ、前記記録テープの幅方向端部を保持するフランジと、インサート成形により前記ハブの底部に露出状態で設けられ、ドライブ装置側のマグネットに吸着されるリールプレートと、を備えたリールの製造方法であって、前記リールプレートが、前記ハブの成形用金型の外部で、該金型と略同じ温度に加温された後、該金型内にセットされることを特徴としている。
【0008】
そして、請求項2に記載のリールの製造方法は、請求項1に記載のリールの製造方法において、前記リールプレートを前記金型内へセットするときの該リールプレートの温度と該金型の温度との差が±10℃以内であることを特徴としている。
【0009】
請求項1及び請求項2に記載の発明によれば、リールプレートを金型内にセットする際、そのリールプレートの温度は金型の温度と略同じ温度(両者の温度差が±10℃以内)になっている。したがって、樹脂材がリールプレートに接触しても固化されるような不具合は起きない。つまり、金型内に流し込まれた樹脂材は細部までスムーズに流れる。よって、ハブに対するリールプレートの取付強度及び取付位置精度を確保することができる。また、リールプレートを金型内にセットした後、すぐに樹脂材を流し込むことができるので、リールの製造タクトが低下することはない。
【0010】
また、本発明に係る請求項3に記載のリールは、請求項1又は請求項2に記載のリールの製造方法によって製造されたことを特徴としている。
【0011】
請求項3に記載の発明によれば、ハブに対するリールプレートの取付強度及び取付位置精度が確保されたリールを得ることができる。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本発明によれば、リールの製造タクトを低下させることなく、インサート成形によるリールプレートの取付強度及び取付位置精度を確保できるリールの製造方法と、それによって製造されるリールを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の最良な実施の形態を図面に示す実施例に基づいて詳細に説明する。なお、本発明に係るリールは、単一でケース内に収容される1リールタイプでも、一対でケース内に収容される2リールタイプでも適用できるが、ここでは、1リールタイプの記録テープカートリッジを例に採って説明をする。また、その説明の便宜上、図1において、記録テープカートリッジ10のドライブ装置への装填方向を矢印Aで示し、それを記録テープカートリッジ10の前方向(前側)とする。そして、矢印Aと直交する矢印B方向を右方向(右側)とする。
【0014】
まず、最初に、記録テープカートリッジ10の全体構成について簡単に説明する。図1乃至図3で示すように、記録テープカートリッジ10は、略矩形箱状のケース12を有している。このケース12は、ポリカーボネート(PC)等の樹脂製の上ケース14と下ケース16とが、それぞれ天板14Aの周縁に立設された周壁14Bと、底板16Aの周縁に立設された周壁16Bとを互いに当接させた状態で、ビス70等によって接合されて構成されている。なお、上ケース14と下ケース16を接合する手段は、これに限定されるものではなく、例えば超音波溶着により接合しても構わない。
【0015】
ケース12の内部には、リール20が1つだけ回転可能に収容されている。リール20は、合成樹脂製の有底円筒状のリールハブ22と、リールハブ22の両端部に設けられた上フランジ24及び下フランジ26とで構成されており、情報記録再生媒体としての磁気テープ等の記録テープTはリールハブ22の外周面に巻回される。そして、その記録テープTの幅方向の端部を上フランジ24及び下フランジ26で保持するようになっている。なお、リール20の詳細については後述する。
【0016】
また、ケース12の右壁12Bには、リール20に巻装された記録テープTを引き出すための開口18が形成されており、この開口18から引き出される記録テープTの自由端部には、ドライブ装置の引出部材(図示省略)によって係止(係合)されつつ引き出し操作されるリーダーピン30が固着されている。
【0017】
リーダーピン30の記録テープTの幅方向端部より突出した両端部には、環状溝32が形成されており、この環状溝32が引出部材のフック等に係止される。これにより、記録テープTを引き出す際に、フック等が記録テープTに接触して傷付けることがない構成である。
【0018】
また、ケース12の開口18の内側、即ち上ケース14の天板14A内面及び下ケース16の底板16A内面には、ケース12内においてリーダーピン30を位置決めして保持する上下一対のピン保持部36が設けられている。このピン保持部36は、記録テープTの引き出し側が開放された略半円形状をしており、直立状態のリーダーピン30の両端部34は、その開放側からピン保持部36内に出入可能とされている。
【0019】
また、ピン保持部36の近傍には、板ばね38が固定配置されるようになっており、この板ばね38の二股状の先端部がリーダーピン30の上下両端部34にそれぞれ係合してリーダーピン30をピン保持部36に保持するようになっている。なお、リーダーピン30がピン保持部36に出入する際には、板ばね38の先端部は適宜弾性変形してリーダーピン30の移動を許容する構成である。
【0020】
また、下ケース16の中央部には、リール20のリールギア44(後述)を外部に露出するためのギア開口40が設けられており、リール20はリールギア44がドライブ装置の駆動ギア(図示省略)に噛合されて、ケース12内で回転駆動されるようになっている。そして、リール20は、上ケース14及び下ケース16の内面にそれぞれ部分的に突設されて、ギア開口40と同軸的な円形の軌跡上にある内壁としての遊動規制壁42によってガタつかないように保持されている。
【0021】
また、開口18は、ドア50によって開閉されるようになっている。このドア50は、開口18を閉塞可能な大きさの矩形板状に形成され、ケース12の右壁12Bに沿って移動できるように、開口18内側の天板14A及び底板16Aには、ドア50の上下端部を摺動可能に嵌入させる溝部64が形成されている。
【0022】
また、ドア50の後端部中央には、シャフト52が突設されており、そのシャフト52には、コイルばね58が嵌挿されている。そして、シャフト52の後端には、そのコイルばね58を脱落防止とする拡開部54が形成されている。また、下ケース16には、そのシャフト52に嵌挿されたコイルばね58の後端を係止する係止突起62を有する支持台60が突設されている。
【0023】
したがって、ドア50は、シャフト52が支持台60上に摺動自在に支持されるとともに、コイルばね58の後端が係止突起62に係止されることにより、そのコイルばね58の付勢力によって、常時開口18の閉塞方向へ付勢される構成である。なお、開口18の開放時、シャフト52を支持する支持台66を支持台60の後方側に更に突設しておくことが好ましい。
【0024】
また、ドア50の前端部には、開閉操作用の凸部56が外方に向かって突設されている。この凸部56が、記録テープカートリッジ10の前壁12A側からのドライブ装置への装填に伴い、そのドライブ装置の開閉部材(図示省略)と係合するようになっており、これによって、ドア50がコイルばね58の付勢力に抗して開放される構成になっている。
【0025】
また、図3で示すように、下ケース16の底板16Aには、ドライブ装置の位置決め部材(図示省略)が挿入される位置決め用の非貫通穴部48、49が形成されている。右壁12B側の穴部48は、底面視略正方形状に形成され、左壁12C側の穴部49は、左右方向に長い底面視略楕円形状に形成されている。また、底板16Aの後壁12D側には、図示しないライトプロテクトの一部が露出する底面視略楕円形状の開口68が穿設されている。
【0026】
更に、上ケース14には、非貫通穴とされたビスボス74が複数個(図示のものは4個)、所定位置(上ケース14のコーナー部近傍)に形成されており、下ケース16には、貫通孔とされたビスボス76が複数個(図示のものは4個)、上ケース14と下ケース16とを重ね合わせたときに、ビスボス74と当接可能となる所定位置(下ケース16のコーナー部近傍)に形成されている。したがって、上ケース14と下ケース16とを重ね合わせたときに、これらビスボス74、76が当接し、この状態で、底板16Aの下面側からビス70が螺合される。
【0027】
以上のような構成の記録テープカートリッジ10において、次に本発明に係るリール20及びその製造方法について詳細に説明する。図4で示すように、リール20は、軸心部を構成する有底円筒状のリールハブ22と、その底壁28側端部に設けられる下フランジ26とが樹脂材で一体成形されており、上フランジ24がリールハブ22の開口27側端部に超音波溶着されて構成される。
【0028】
したがって、リールハブ22と上フランジ24は、互いに相溶性がある樹脂材を用いて成形されており、これによって、リールハブ22と上フランジ24とを容易に超音波溶着できる構成になっている。なお、その樹脂材の種類としては、例えば、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)とアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)、アクリロニトリル・スチレン(AS)とアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)、ポリカーボネート(PC)とポリカーボネート(PC)等の組み合わせが挙げられる。
【0029】
底壁28の下面側には、環状のリールギア44が形成されている。このリールギア44は、下ケース16の中央に設けられた円形のギア開口40から露出し、ドライブ装置の回転シャフト(図示省略)に備えられた駆動ギア(図示省略)と噛合して、リール20に回転力を伝達するようになっている。
【0030】
また、リールギア44の内側には、環状の金属製リールプレート46がインサート成形により一体的に設けられており、底壁28の下面から露出している。このリールプレート46がドライブ装置の回転シャフトに備えられたマグネット(図示省略)に吸着されることにより、軸ずれが防止されるとともに、リールギア44と駆動ギアとの噛合状態を保持可能とされる。
【0031】
ここで、このリールプレート46は、図5で示すように、リールハブ22と下フランジ26を一体成形する金型80内にセットされてインサート成形される。すなわち、金型80内において、マグネットやエアーの吸引力により、リールプレート46が所定位置に固定され、その後、樹脂材がゲート78から流し込まれる。
【0032】
そして、この樹脂材が、リールプレート46の中央に穿設されている透孔46A及びそれと同心円周上となる所定位置に等間隔に3個穿設されている小孔46B(図3参照)内に、それぞれ流れ込み、その後、固化することによって、リールプレート46が底壁28の下面に一体的に固着される。
【0033】
また、その金型80は、流し込む樹脂材の種類によって適宜その温度が設定される。つまり、樹脂材が流れやすい環境温度に予め設定されてから(例えば、ポリカーボネート(PC)の場合には100℃に加温されてから)樹脂材が注入されるようになっている。したがって、樹脂材は細部までスムーズに安定して流れる。
【0034】
また、リールプレート46を金型80内にセットしたことで、その部位の温度が低下しないように(リールプレート46に接触した樹脂材が固化しないように)、このリールプレート46は、金型80の外部において、金型80と略同じ温度に加温されてから、その金型80内にセットされるようになっている。したがって、ゲート78から注入された樹脂材がリールプレート46に接触しても、その樹脂材が固化するような不具合は起きない。
【0035】
つまり、リールプレート46の温度が金型80の温度と略同じ温度であるため、ゲート78から流し込まれた樹脂材の流動性がリールプレート46によって損なわれるような不具合はなく、細部に至るまで樹脂材がスムーズに安定して流れる。よって、リールプレート46のリールハブ22に対する取付強度が確保される。また、リールプレート46付近において温度分布が一定となることから、リールプレート46のリールハブ22に対する取付位置精度が確保される。つまり、リールハブ22とリールプレート46の同心度が高められる。
【0036】
なお、ここで言う「略同じ温度」とは、金型80内にセットするときのリールプレート46の温度と金型80の温度との差が±10℃以内であることを言い、好ましくは±5℃以内である。また、リールプレート46を金型80の外部で加温する加温装置(図示省略)は、特に限定されるものではなく、任意の適切な装置を適宜採用すればよい。
【0037】
何れにしても、リールプレート46を予め金型80の温度と略同じ温度となるように加温してから、その金型80内にセットするので、従来のように、リールプレート46を金型80内にセットしてから、その金型80の温度に達するまで待つ必要がなく、すぐに樹脂材を注入できる。したがって、リール20の製造タクトが低下することはない。
【0038】
以上、説明したように、リールプレート46の温度を金型80の温度と略同じ温度にしてから、そのリールプレート46を金型80内にセットするので、リールプレート46をインサート成形する場合でも、金型80内において樹脂材が流れやすい環境を維持できる。したがって、リールプレート46の取付強度及び取付位置精度を確保することができる。
【0039】
また、リールプレート46を予め金型80の温度と略同じ温度となるように加温する工程は、リールプレート46の厚さが厚くなればなるほど必要となってくる。そして、リールプレート46は厚さが厚い方が高強度・高精度にリールハブ22に取り付けられる。したがって、本発明に係るリール20の製造方法は極めて有効となる。
【0040】
なお、上記実施例では、リールハブ22と下フランジ26を一体成形とし、上フランジ24をリールハブ22に溶着するタイプのリール20で説明をしたが、リールハブ22と上フランジ24が一体成形され、下フランジ26をリールハブ22に溶着するタイプのリールや、リールハブ22に上フランジ24及び下フランジ26の両方を溶着するタイプのリールでも同様である。つまり、本発明に係るリール20は、図示のものに限定されるものではない。
【0041】
また、例えば図6で示すように、リールハブ22の補強用(記録テープTが巻回されることによる倒れ込み防止用)として、そのリールハブ22の内周面側に、金属製の環状部材72が、インサート成形により着設される場合があるが、このときも、この環状部材72を金型の温度と略同じ温度となるように加温してからセットすることが好ましい。このように、リール20に設ける金属部品の温度を金型の温度と略同じ温度にしてからセットする製造方法にすれば、その金属部品の取付強度及び取付位置精度の向上が図れるので好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明に係るリールを備えた記録テープカートリッジの概略斜視図
【図2】本発明に係るリールを備えた記録テープカートリッジを上から見た場合の概略分解斜視図
【図3】本発明に係るリールを備えた記録テープカートリッジを下から見た場合の概略分解斜視図
【図4】本発明に係るリールの概略断面図
【図5】本発明に係るリールを成形する金型を示す概略断面図
【図6】リールハブ補強用の環状部材が設けられたリールの概略断面図
【符号の説明】
【0043】
10 記録テープカートリッジ
12 ケース
20 リール
22 リールハブ
24 上フランジ
26 下フランジ
28 底壁(底部)
30 リーダーピン
44 リールギア
46 リールプレート
50 ドア
72 環状部材
80 金型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂材で成形され、記録テープが巻回される有底円筒状のハブと、
前記ハブの端部に設けられ、前記記録テープの幅方向端部を保持するフランジと、
インサート成形により前記ハブの底部に露出状態で設けられ、ドライブ装置側のマグネットに吸着されるリールプレートと、
を備えたリールの製造方法であって、
前記リールプレートは、前記ハブの成形用金型の外部で、該金型と略同じ温度に加温された後、該金型内にセットされることを特徴とするリールの製造方法。
【請求項2】
前記リールプレートを前記金型内へセットするときの該リールプレートの温度と該金型の温度との差が±10℃以内であることを特徴とする請求項1に記載のリールの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のリールの製造方法によって製造されたことを特徴とするリール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−66468(P2007−66468A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−253724(P2005−253724)
【出願日】平成17年9月1日(2005.9.1)
【出願人】(000005201)富士フイルムホールディングス株式会社 (7,609)