ルックスルー突然変異誘発
【課題】新規のまたは改善されたタンパク質(またはポリペプチド)の生成のための突然変異誘発方法に、ならびに当該方法により生成されるポリペプチド類似体および特定ポリペプチドのライブラリーのスクリーニング、選択方法の提供。
【解決手段】予定アミノ酸が、ポリペプチド類似体のライブラリーを生成するためにポリペプチドの予備選定領域(またはいくつかの異なる領域)中の選定組の位置の各々および全ての位置に導入される突然変異誘発方法。所望のポリペプチド類似体のみを含有するそしてスクリーニングのための合理的サイズを有するライブラリーを生成する。ライブラリーを用いて、ポリペプチド構造および機能における特定アミノ酸の役割を試験し、そして新規のまたは改良されたポリペプチド、例えば抗体、抗体断片、一本鎖抗体、酵素およびリガンドを開発する。
【解決手段】予定アミノ酸が、ポリペプチド類似体のライブラリーを生成するためにポリペプチドの予備選定領域(またはいくつかの異なる領域)中の選定組の位置の各々および全ての位置に導入される突然変異誘発方法。所望のポリペプチド類似体のみを含有するそしてスクリーニングのための合理的サイズを有するライブラリーを生成する。ライブラリーを用いて、ポリペプチド構造および機能における特定アミノ酸の役割を試験し、そして新規のまたは改良されたポリペプチド、例えば抗体、抗体断片、一本鎖抗体、酵素およびリガンドを開発する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願および情報 本出願は、米国特許仮出願60/483282号(2003年1月27日提出)(この全記載内容は、参照により本明細書中で援用される)に対する優先権を主張する。以下の明細書全体を通して引用されるその他の特許、特許出願および参考文献すべての全記載内容も、参照により本明細書中で援用される。
【背景技術】
【0002】
発明の背景 突然変異誘導は、タンパク質の構造および機能の研究における強力なツールである。突然変異は、当該タンパク質をコードするクローン化遺伝子のヌクレオチド配列中に作られ、修飾遺伝子はタンパク質の突然変異体を産生するために発現され得る。野生型タンパク質および生成された突然変異体の特性を比較することにより、タンパク質の構造無欠性および/または生化学的機能、例えばその結合および/または触媒活性に不可欠である個々のアミノ酸またはアミノ酸のドメインをしばしば同定し得る。しかしながら単一タンパク質から生成され得る突然変異体の数は、突然変異を包含する選定突然変異体が単にタンパク質の推定的重量領域(例えばタンパク質の活性部位を作り上げる領域)中にある場合でさえ、情報提供するかまたは所望の特性を有する突然変異体を選択するのを困難にする。例えば特定のアミノ酸の置換、欠失または挿入は、タンパク質に及ぼす局所的または全体的作用を有し得る。
【0003】
ポリペプチドを突然変異誘発するための従来の方法は、制限的であり過ぎ、包括的であり過ぎるか、あるいは機能を獲得するまたは改善するというよりむしろタンパク質をノックアウトすることに限定されてきた。例えば高制限的アプローチは、特定機能部位の存在を同定するかまたは機能部位内の極特定変化の作製の結果を理解するために用いられる選択的または部位特異的突然変異誘発である。部位特異的突然変異誘発の一般的用途は、普通にリン酸化され、そしてポリペプチドにその機能を実行させるアミノ酸残基がリン酸化および機能的活性間のつながりを確証するために変更されるリンタンパク質の研究においてである。このアプローチは、試験されているポリペプチドおよび残基に非常に特異的である。
【0004】
逆に高包括的アプローチは、遺伝子またはタンパク質の限定領域内の全ての考え得る変更を包含する多数の突然変異を生じるよう意図される飽和またはランダム突然変異誘発である。これは、関連タンパク質ドメインの本質的に全ての考え得る変異体を生成することにより、アミノ酸の適正配置は、無作為生成突然変異体の1つとして産生されるべきものであると思われる、という原理に基づいている。しかしながら、実際には、生成される突然変異の膨大な数の無作為組合せは、非常に多くの望ましくない候補のいわゆる「ノイズ」の存在のため、望ましい候補を有意に選択する能力を妨げ得る。
【0005】
「ウォーク・スルー」突然変異誘発(例えば米国特許第5,830,650号、第5,798,208号参照)と呼ばれる別のアプローチは、所望組の突然変異を統計学的に含有する縮重オリゴヌクレオチドの混合物を合成することにより、ポリペプチドの限定領域を突然変異化するために用いられてきた。しかしながら縮重ポリヌクレオチド合成が用いられるため、ウォーク・スルー突然変異誘発は、所望組の突然変異のほかに、多数の望ましくない変化を生じる。例えば5つのみのアミノ酸位置の限定領域中に突然変異を逐次的に導入するために、一組の100を超えるポリヌクレオチドが作られ(そしてスクリーニングされ)ねばならない(例えば図6参照)。したがって作製し、スクリーニングするために、例えば2または3つの領域が漸増的に複雑になり、即ち10〜15だけの突然変異の存在のために、それぞれ200〜300を超えるポリヌクレオチドの作製およびスクリーニングを要する。
【0006】
さらに別のアプローチでは、タンパク質を突然変異誘発するために用いられてきたのはアラニンスキャニング突然変異誘発であり、この場合、タンパク質の機能が遮断されている位置を同定するためにタンパク質の部分の全体を通してアラニン残基が「走査」される。しかしながらこのアプローチは、機能の獲得または改善というよりむしろ、所定の位置での中性アラニン残基を置換することにより、タンパク質機能の損失を調べるだけである。したがってそれは、改善された構造および機能を有するタンパク質を生成するための有用なアプローチではない。
【0007】
したがって新規のまたは改善された機能に関してタンパク質を突然変異誘発するための体系的方法に対する必要性が依然として存在する。
【発明の開示】
【0008】
発明の要約 本発明は、新規のまたは改善されたタンパク質(またはポリペプチド)の生成のための突然変異誘発方法に、ならびに当該方法により生成されるポリペプチド類似体および特定ポリペプチドのライブラリーに関する。突然変異誘発のために標的化されるポリペプチドは、天然、合成または工学処理ポリペプチド(薗断片、類似体および突然変異形態を含む)であり得る。
【0009】
一実施形態では、本方法は、ポリペプチドのアミノ酸配列の限定領域(またはいくつかの異なる領域)内の本質的に全ての位置に予定アミノ酸を導入することを包含する。個別に1つ以下の予定アミノ酸を有するが、しかし包括的に限定領域(単数または複数)内の全ての一に予定アミノ酸を有するポリペプチド類似体を含有するポリペプチドライブラリーが生成される。本方法は、事実上、単一予定アミノ酸(および世t芸アミノ酸のみ)がポリペプチドの1つまたは複数の限定領域全体を通して位置単位で置換されるため、「ルック・スルー」突然変異誘発と呼ばれ得る。したがって本発明は、ポリペプチドの限定領域内の各アミノ酸位置で予定アミノ酸を別個に置換し、その結果望ましくないポリペプチド類似体(即ち「ルック・スルー」スキームに従うもの以外のアミノ酸置換を含有する類似体)の生成からの妨害または「ノイズ」を伴わない限定領域に特定タンパク質化学的性質を分離する構造および機能的成り行きを「ルック・スルー」するのを可能にする(例えば図6参照)。
【0010】
したがって本発明は、ポリペプチドの1つまたは複数の限定領域における特定アミノ酸変化の役割の非常に効率的な且つ精確な体系的評価を可能にする。これは、2つまたはそれ以上の限定領域を(突然変異化により)評価する場合に特に重要になり、そこで必要とされるポリペプチド類似体の数が非常に増大し、したがって望ましくない類似体の存在も増大する。本発明は、望ましくない類似体を完全に排除することによりこの問題を、したがって観察されるタンパク質構造または機能における任意の変化が予定アミノ酸の置換以外の全ての結果であるという可能性を未然に回避する。したがって特定タンパク質化学的性質を一つタンパク質に関してさらに多領域に分離する作用は、高精度および効率で試験され得る。これが、突然変異誘発がこのような領域の相互作用に影響を及ぼし、それによりタンパク質の全体的構造および機能を改善する方法を試験することを包含する、ということは重要である。
【0011】
本発明の特定の実施形態では、先ず、集合的にポリヌクレオチドが、本明細書中に記載されたルック・スルー判定基準に従って全ての考え得る変異体ポリヌクレオチドを現す限定領域またはポリペプチドの領域をコードする個々のポリヌクレオチドを合成することにより、ポリペプチド類似体のライブラリーが生成され、スクリーニングされる。変異体ポリヌクレオチドは、例えばin vitro転写および翻訳を用いて、および/またはディスプレー技法、例えばリボソームディスプレー、ファージディスプレー、細菌ディスプレー、酵母ディスプレー、アレイ化ディスプレーまたは当該技術分野で既知の任意のその他の適切なディスプレー系を用いて、発現される。
【0012】
次に発現ポリペプチドは、機能性検定、例えば結合検定または酵素/触媒検定を用いて、スクリーニングされ、選択される。一実施形態では、ポリペプチドは、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドと関連して発現され、それによりポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列の同定を可能にする。さらに別の実施形態では、ポリペプチドは、タンパク質化学反応を用いて直接合成される。
【0013】
したがって本発明は、一部は、ライブラリーが任意の望ましくない類似体ポリペプチドまたはいわゆるノイズを欠くため、スクリーニングのための実用的サイズを有するものであるポリペプチド類似体のライブラリーを生成するために用いられ得る突然変異誘発方法を提供する。本方法を用いて、ポリペプチド構造および機能における特定アミノ酸の役割を試験し、そして新規のまたは改善されたポリペプチド、例えば抗体、その結合断片または類似体、一本鎖抗体、触媒性抗体、酵素およびリガンドを開発し得る。さらに本方法は、「ルック・スルー」突然変異誘発を用いて産生され、試験されるべきポリペプチド類似体の初期サブセットを選択するために用いられ得る優先情報の助けを借りて、例えばコンピューターモデリングにより、実施され得る。
【0014】
本発明のその他の利点および態様は、以下の説明および実施例から容易に明らかになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の詳細な説明 本明細書および特許請求の範囲を明確に理解するために、以下の定義を下記に提示する。
【0016】
定義 本明細書中で用いる場合、「類似体」という用語は、1つまたは複数のアミノ酸置換を有する変異体または突然変異体ポリペプチド(またはこのようなポリペプチドをコードする核酸)を指す。
【0017】
「結合分子」という用語は、基質または標的と結合する任意の結合分子、例えばタンパク質、ポリペプチド、ペプチドおよび小分子を指す。一実施形態では、結合分子は、抗体またはその結合断片(例えばFab断片)、単一ドメイン抗体、一本鎖抗体(例えばsFv)、またはリガンドを結合し得るペプチドである。
【0018】
「限定領域」という用語は、ポリペプチドの選定領域を指す。典型的には限定領域は、機能性部位、例えばリガンドの結合部位、結合分子または受容体の結合部位、あるいは触媒部位の全部または一部を含む。限定領域は、機能性部位の多数部分も含み得る。例えば限定領域は、相補性決定領域(CDR)の全部、一部または多数部分、あるいは抗体の完全重鎖および/または軽鎖可変部(VR)も含み得る。したがって機能性部位は、分子の機能的活性に寄与する単一のまたは多数の限定領域を含み得る。
【0019】
「ライブラリー」という用語は、本発明の方法に従って突然変異化される2またはそれ以上の分子を指す。ライブラリーの分子は、ポリヌクレオチド、ポリペプチド、ポリヌクレオチドおよびポリペプチド、無細胞抽出物中のポリヌクレオチドおよびポリペプチドの形態で、あるいはファージ、原核生物細胞中のまたは真核生物細胞中のポリヌクレオチドおよび/またはポリペプチドとして存在し得る。
【0020】
「突然変異化する」という用語は、アミノ酸配列の変更を指す。これは、変更アミノ酸配列をコードし得る核酸(ポリヌクレオチド)を変更するかまたは産生することにより、あるいはタンパク質化学反応を用いた変更ポリペプチドの直接合成により達成され得る。
【0021】
「ポリヌクレオチド(単数または複数)」という用語は、核酸、例えばDNA分子およびRNA分子ならびにその類似体(例えばヌクレオチド類似体を用いて、または核酸化学を用いて生成されるDNAまたはRNA)を指す。所望される場合、ポリヌクレオチドは、例えば当業界で既知の核酸化学を用いて合成的に、または例えばポリメラーゼを用いて酵素的に作製され得る。典型的修飾としては、メチル化、ビオチニル化およびその他の当該技術分野で既知の修飾が挙げられる。さらに核酸分子は、一本鎖または二本鎖であり得るし、所望により、検出可能部分と(共有的にまたは非共有的に)連結されるかまたは会合され得る。
【0022】
「変異体ポリヌクレオチド」という用語は、本発明の対応するポリペプチド類似体(または
その部分)をコードするポリヌクレオチドを指す。したがって変異体ポリヌクレオチドは、異なるアミノ酸の発現を生じるよう変更された1つまたは複数のコドンを含有する。
【0023】
「ポリペプチド(単数または複数)」という用語は、ペプチド結合により連結される2またはそれ以上のアミノ酸、例えばペプチド(例えば2〜50アミノ酸残基)、ならびにより長いペプチド配列、例えば典型的には50個という少ないアミノ酸残基から1,000より多い朝残基までのアミノ酸配列を含むタンパク質配列を指す。
【0024】
「プールする」という用語は、ポリヌクレオチド変異体またはポリペプチド類似体を併合して、全ポリペプチド領域のルック・スルー突然変異誘発を表すライブラリーを生成することを指す。分子はポリヌクレオチドおよび/またはポリペプチドの形態で存在し、そしてサブライブラリーの形態で、固体支持体上の分子として、溶液中の分子として、および/または1つまたは複数の生物体(例えばファージ、原核生物細胞または真核生物細胞)中の分子として共存し得る。
【0025】
「予定アミノ酸」という用語は、突然変異化されるべきポリペプチドの限定領域内の各位置での置換のために選択されるアミノ酸を指す。これは、すでに(例えば天然に)予定アミノ酸を含有し、したがって予定アミノ酸で置換される必要のない領域内の位置(単数または複数)を包含しない。したがって本発明に従って生成される各ポリペプチド類似体は、所定限定領域中に1個以下の「予定アミノ酸」残基を含有する。しかしながら集合的には、生成されるポリペプチド類似体のライブラリーは、突然変異化されている領域内の各位置に予定アミノ酸を含有する。典型的には予定アミノ酸は、通常はアミノ酸の側鎖群と関連した粒子サイズまたは化学的性質に関して選択される。適切な予定アミノ酸としては、例えばグリシンおよびアラニン(立体的に小さい);セリン、トレオニンおよびシステイン(求核性);バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニンおよびプロリン(疎水性);フェニルアラニン、チロシンおよびトリプトファン(芳香族);アスパルテートおよびグルタメート(酸性);アスパラギン、グルタミンおよびヒスチジン(アミド);ならびにリシンおよびアルギニン(塩基性)が挙げられる。
【0026】
詳細な説明 タンパク質の研究は、ある種のアミノ酸がそれらの構造および機能において重要な役割を演じる、ということを明示した。例えば、離散数のアミノ酸のみが抗体と抗原の結合に参加し、あるいは酵素の触媒的事象に関与する、と思われる。
【0027】
ある特定のアミノ酸がタンパク質の活性または機能にとって重要であることは明らかであるが、しかしどのアミノ酸が関与するか、それらがどのように関与するが、そして置換がタンパク質の構造または機能の何を改善し得るのかを同定することは難しい。これは、一部は、ポリペプチド中のアミノ酸側鎖の部分形状の複雑性のため、そして機能性部位を形成するのに寄与するポリペプチドの異なる部分の相関関係のためである。例えば抗体の重鎖および軽鎖の可変部の6つのCDR間の相関関係は、抗原またはリガンド結合ポケットに寄与する。
【0028】
従来の突然変異誘発方法、例えば選択的(部位特異的)突然変異誘発および飽和突然変異誘発は、複雑なポリペプチド中の莫大な考え得る変異にかんがみて、タンパク質構造および機能の試験のための限定有用性を有する。これは、望ましい組合せがしばしば膨大な量の望ましくない組合せまたはいわゆるノイズの存在を伴う場合に言えることである。
【0029】
本発明の方法は、ポリペプチドの限定領域内の、ポリペプチドの構造または機能における、したがって改善されたポリペプチドを産生するための、特定アミノ酸およびそれらの位置の役割を評価するための、体系的、実用的且つ高度に精確なアプローチを提供する。
【0030】
1.限定領域の選択 本発明に従って、限定領域またはタンパク質内の領域が突然変異誘発のために選択される。典型的には、当該領域は、タンパク質の構造または機能にとって重要であると思われる(例えば図1参照)。これは、例えばどんな構造および/または機能的態様が既知であるかということから推定され得るし、あるいは限定領域(単数または複数)を他のタンパク質の試験から既知であるものまたはモデリング情報により手助けされ得るモノとを比較することから推定され得る。例えば限定領域は、機能的部位において、例えば結合、触媒またはその他の機能においてある役割を有するものであり得る。一実施形態では、限定領域は、抗原結合分子の超可変部または相補性決定領域(CDR)である。別の実施形態では、限定領域は相補性決定領域(CDR)の一部である。他の実施形態では、2またはそれ以上の限定領域、例えばCDRまたはその部分が突然変異誘発のために選択される。
【0031】
2.予定アミノ酸残基の選択 限定領域(単数または複数)内の置換のために選択されるアミノ酸残基は一般に、当該構造または機能に関与することが既知であるものから選択される。20の天然アミノ酸は、それらの側鎖に関して異なる。各側鎖は、各アミノ酸を独特にする化学的特性に関与する。結合を変更し、または新規の結合親和性を作製する目的のために、20の天然アミノ酸のうちのいずれかが一般に選択され得る。したがって全ての置換のための膨大な数の類似体を作製した従来の突然変異誘発方法は、20のアミノ酸の各々の置換のタンパク質結合に及ぼす作用を評価するためには実用的でなかった。これに対比して、本発明の方法は、各アミノ酸置換のための実用数の類似体を作製し、したがって一タンパク質の分離された単数または複数の領域内のより多数の種々のタンパク質の化学的性質の評価を可能にする。
【0032】
タンパク質結合と対比して、アミノ酸残基の一サブセットのみが典型的には酵素的または触媒的事象に参加する。例えば側鎖の化学的特性から、選定数の天然アミノ酸のみが触媒的事象に優先的に参加する。これらのアミノ酸は、極性および中性アミノ酸、例えばSer、Thr、Asn、Gln、TyrおよびCysの群、荷電アミノ酸、例えばAspおよびGlu、LysおよびArg、特にアミノ酸Hiの群に属する。その他の極性および中性側鎖は、Cys、Ser、Thr、Asn、GlnおよびTyrのものである。Glyは、この群の境界線成員であるともみなされる。SerおよびThrは、水素結合形成に重要な役割を演じる。Thrはβ炭素に付加的不斉を有し、したがって立体異性体のうちの1つのみが用いられる。アミノ酸GlnおよびAsnも水素結合を、水素供与体として機能するアミド基、そして受容体として機能するカルボニル基を構成する。Glnは、極性基をより柔軟性にさせ、そして主鎖とのその相互作用を低減するAsn以外のさらに多くのCH2基を有する。Tyrは、高pH値で解離し得る高極性ヒドロキシル基(フェノール性OH)を有する。Tyrは、荷電側鎖と多少似た振る舞いをする;その水素結合はかなり強い。
【0033】
中性極性酸は、タンパク質分子の表面に、ならびに内側に見出される。内部残基として、それらは通常は互いに、またはポリペプチド主鎖と水素結合を形成する。Cysは、ジスルフィド結合を形成し得る。
【0034】
ヒスチジン(His)は、6.0のpK値を有する複素環式芳香族側鎖を有する。生理学的pH範囲で、そのイミダゾール環は、溶液から水素イオンを取り込んだ後に、荷電されないかまたは荷電され得る。これら2つの状態は容易に利用可能であるため、Hisは化学反応を触媒するのに非常に適している。それは、酵素、例えばセリンプロテアーゼのほとんどの活性中心に見出される。
【0035】
AsPおよびGluは、生理学的pHで負に荷電される。それらの短い側鎖のため、Aspのカルボキシル基は主鎖に関してかなり剛性である。これが、多数の触媒性部位中のカルボキシル基がAspによって提供されるが、Gluにより提供されない理由であり得る。荷電酸は一般に、ポリペプチドの表面に見出される。
【0036】
さらにLysおよびArgは表面に見出される。それらは、類似のエネルギーを有する多数の回転異性体を提示する長く且つ柔軟性の側鎖を有する。いくつかの場合には、LysおよびArgは内部塩架橋の形成に関与する。ポリペプチドの表面でのそれらの曝露のため、Lysは、側鎖を修飾するかまたはLys残基のカルボニル末端でペプチド鎖を切断する酵素により頻繁に認識される残基である。
【0037】
アミノ酸の側鎖基の化学的性質は予定アミノ酸残基の選択を誘導し得る一方、所望の側鎖基化学的性質の欠如は、予定アミノ酸として用いるためのアミノ酸残基を除外するための判定基準であり得る。例えば立体的に小さいそして化学的に中性のアミノ酸、例えばアラニンは、所望の化学的性質の欠如のためルック・スルー突然変異誘発から除外される。
【0038】
3.ポリペプチド類似体ライブラリーの合成 一実施形態では、ポリペプチド類似体のライブラリーは、ポリペプチドの限定領域をコードし、そして予定アミノ酸に関する1つ以下のコドンを有する個々のオリゴヌクレオチドを合成することによりスクリーニングのために生成される。これは、オリゴヌクレオチド内の各コドン位置で、野生型ポリペプチドの合成に必要とされるコドンまたは予定アミノ酸に関するコドンを組入れることにより成し遂げられる。これは、飽和突然変異誘発、ランダム突然変異誘発またはウォーク・スルー突然変異誘発で産生されるオリゴヌクレオチドとは異なる。即ち各オリゴヌクレオチドに関して、多突然変異とは対照的に、唯一の突然変異が作製される。
【0039】
オリゴヌクレオチドは個別に産生され、次に所望により混合されるかまたはプールされ得る。野生型配列のコドンおよび予定アミノ酸に関するコドンが同一である場合、置換は作製されない。
【0040】
したがって限定領域内のアミノ酸位置の数は、作製されるオリゴヌクレオチドの最大数を確定する。例えば5つのコドン位置が予定アミノ酸を用いて変更され、次に5つのポリヌクレオチド+野生型アミノ酸配列を表す1つのポリヌクレオチドが合成される。2またはそれ以上の領域は同時に変更され得る。
【0041】
ライブラリーの生成のためのオリゴヌクレオチドの混合物は、DNA合成に関して既知の方法により容易に合成され得る。好ましい方法は、固相β−シアノエチルホスホルアミダイト化学の使用を包含する(米国特許第4,725,677号参照)。
【0042】
便利のために、ヌクレオチドの特定試薬容器を含有する自動DNA合成のための器械が用いられ得る。ポリヌクレオチドも、制限部位またはプライマーハイブリダイゼーション部位を含有するために合成されて、より大型の遺伝子情況への例えば限定領域を表すポリヌクレオチドの導入またはアセンブリーを促す。
【0043】
合成ポリヌクレオチドは、標準遺伝子工学処理技法を用いることにより突然変異化されているポリペプチドのより大型の遺伝子情況に挿入され得る。例えばポリヌクレオチドは、制限酵素のためのフランキング認識部位を含有するために作製され得る(米国特許第4,888,286号(Crea, R.)参照)。認識部位は、天然に存在するかまたはその領域をコードするDNA隣接した遺伝子中に導入される認識部位に対応するよう設計される。二本鎖形態への転換後、ポリヌクレオチドは標準技法により遺伝子に結繋される。適切なベクター(例えばファージベクター、プラスミドを含む)により、遺伝子は、突然変異体ポリペプチドの発現に適した無細胞抽出物、ファージ、原核生物細胞または真核生物細胞中に導入され得る。
【0044】
突然変異化されるべきポリペプチドのアミノ酸配列が既知であるか、またはDNA配列が既知である場合、遺伝子合成は考え得る一アプローチである。例えば部分的重複ポリヌクレオチド、典型的には約20〜60ヌクレオチド長が設計され得る。次に内部ポリヌクレオチドがリン酸化され、それらの相補的相手にアニーリングされて、二本鎖DNA分子を生じ、さらなるアニーリングのために有用な一本鎖伸長部分を伴う。次にアニール化対
は一緒に混合され、結繋されて、全長二本鎖分子を生成する(例えば図8参照)。便利な制限部位は、適切なベクター中へのクローニングのために合成遺伝子の末端近くに設計され得る。全長分子は、それらの制限酵素で切断されて、適切なベクターに結繋され得る。便利な制限部位は、突然変異原性カセットの導入を促すために、合成遺伝子の配列中にも組入れられ得る。
【0045】
全長二本鎖遺伝子を表すポリヌクレオチドを合成するための代替物として、それらの3‘末端で部分的に重複する(即ち相補的3’末端を有する)ポリヌクレオチドがギャップ化構造に集合され、次に適切なポリメラーゼで充填されて、全長二本鎖遺伝子を作製する。典型的には重複ポリヌクレオチドは、40〜90ヌクレオチド長である。伸長ポリヌクレオチドは次に結繋される。便利な制限部位が、クローニング目的のために末端および/または内部に導入され得る。単数または複数の適切な制限酵素で消化後、遺伝子断片は適切なベクターに結繋される。あるいは遺伝子断片は、適切なベクターに結繋された平滑末端であり得る。
【0046】
これらのアプローチでは、便利な制限部位は遺伝子アセンブリー後に利用可能(天然にまたは工学処理されて)である場合、縮重ポリヌクレオチドは、その後、適切なベクター中にカセットをクローニングすることにより導入され得る。あるいは縮重ポリヌクレオチドは、遺伝子アセンブリーの段階で組入れられ得る。例えば遺伝子の両鎖が完全に化学的に合成される場合、重複および相補的縮重ポリヌクレオチドが生成され得る。相補的対は、互いにアニーリングされる。
【0047】
部分的重複ポリヌクレオチドが遺伝子アセンブリーで用いられる場合、一組の縮重ヌクレオチドもポリヌクレオチドの1つの代わりに直接組入れられ得る。適切な相補鎖は、ポリメラーゼを用いた酵素的伸長により他の鎖からの部分的相補的ポリヌクレオチドからの伸長反応中に合成される。合成段階での縮重ポリヌクレオチドの組入れもクローニングを簡素化するが、この場合、遺伝子の1つより多いドメインまたは限定領域が突然変異化される。
【0048】
別のアプローチでは、当該遺伝子は、一本鎖プラスミド上に存在する。例えば遺伝子は、ファージベクター、あるいはヘルパーファージの使用に伴い一本鎖分子の増殖を可能にする糸状ファージ複製の起源を有するベクター中にクローン化される。一本鎖鋳型は、所望の突然変異を表す一組の縮重ポリヌクレオチドとアニーリングされ、伸長され、結繋されて、したがって、適切な宿主中に導入され得る分子の一集団中に各類似体鎖を組入れ得る(Sayers, J.R. et al., Nucleic Acids Res. 16: 791-802 (1988))。このアプローチは、多数のドメインが突然変異誘発のために選択される多クローニング工程を回避し得る。
【0049】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法は、遺伝子中にポリヌクレオチドを組入れるためにも用いられ得る。例えばポリヌクレオチドそれ自体は、伸長のためのプライマーとして用いられ得る。このアプローチでは、限定領域に対応する突然変異原カセット(またはその部分)をコードするポリヌクレオチドは、巣kも一部は、互いに相補的であり、そしてポリメラーゼを用いて、例えばPCR増幅を用いて、大型遺伝子カセットを生成するために伸張され得る。
【0050】
ライブラリーのサイズは、領域の長さおよび数、ならびに突然変異化される領域内のアミノ酸によって変わる。好ましくはライブラリーは、1015、1014、1013、1012、1011、1010、109、108、107未満のさらに好ましくは106またはそれ未満のポリペプチド類似体を含有するよう設計される。
【0051】
上記の説明は、対応するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを変更することによるポリペプチドの突然変異誘発およびポリペプチドのライブラリーに集中する。しかしながら本発明の範囲は、タンパク質化学を用いた所望のポリペプチド類似体の直接合成によりポリペプチドの突然変異化する方法も包含する、と理解される。このアプローチを実行するに際して、その結果生じるポリペプチドは本発明の特徴を依然として組入れるが、但し、ポリヌクレオチド中間体の使用は排除される。
【0052】
上記のライブラリーに関しては、ポリヌクレオチドの形態であれ、および/または対応するポリペプチドの形態であれ、ライブラリーは個体支持体、例えばマイクロチップにも結合され得る氏、好ましくは当該技術分野で認識された技法を用いて配列され得る、と理解される。
【0053】
4.発現およびスクリーニング系 上記の技法またはその他の適切な技法のいずれかにより生成されるポリヌクレオチドのライブラリーが発現され、スクリーニングされて、所望の構造および/または活性を有するポリペプチド類似体を同定し得る。ポリペプチド類似体の発現は、当該技術分野で既知の任意の適切な発現ディスプレー系、例えば無細胞抽出ディスプレー系(例えばリボソームディスプレーおよびアレイ化(例えばマイクロアレイ化またはマクロアレイ化)ディスプレー系)、細菌ディスプレー系、ファージディスプレー系、原核生物細胞および/または真核生物細胞(例えば酵母ディスプレー系)(これらに限定されない)を用いて実行され得る。
【0054】
一実施形態では、ポリヌクレオチドは、無細胞抽出物中で発現され得る鋳型として役立つよう工学処理される。例えば米国特許第5,324,637号;第5,492,817号;第5,665,563号に記載されたようなベクターおよび抽出物が用いられ、そして多くは市販されている。ポリヌクレオチド(即ち遺伝子型)をポリペプチド(即ち表現型)に関連させるためのリボソームディスプレーおよびその他の無細胞技法、例えばプロヒュージョンTMが用いられ得る(例えば米国特許第6,348,315号;第6,261,804号;第6,258,558号および第6,214,553号参照)。
【0055】
あるいは本発明のポリヌクレオチドは、便利な大腸菌発現系中で、例えばPluckthunおよびSkerra(Pluckthun,
A. and Skerra, A., Meth. Enzymol. 178: 476-515 (1989); Skerra, A. et al.,
Biotechnology 9: 273-278 (1991))により記載されたものにおいて発現され得る。突然変異体タンパク質は、M. Better and A. Horwitz, Meth. Enzymol. 178: 476 (1989)により記載されているように、媒質中でおよび/または細菌の細胞質中での分泌のために発現され得る。一実施形態では、VHおよびVLをコードする単一ドメインは各々、シグナル配列、例えばompA、phoAまたはpelBシグナル配列をコードする一配列の3’末端に結合される(Lei, S.P. et al., J. Bacteriol.
169: 4379 (1987))。これらの遺伝子融合物は、それらが単一ベクターから発現され、そして大腸菌のペリプラズム空間中に分泌され、ここでそれらは再フォールディングされて、活性形態で回収され得る(Skerra, A. et al., Biotechnology 9: 273-278 (1991))。例えば抗体重鎖遺伝子は、抗体軽鎖遺伝子と同時発生的に発現されて、抗体または抗体断片を産生し得る。
【0056】
さらに別の実施形態では、ポリヌクレオチドは、例えば米国特許第6,423,538号;第6,331,391号および第6,300,065号に記載されているような酵母ディスプレーを用いて、真核生物細胞、例えば酵母中で発現され得る。このアプローチでは、ライブラリーのポリペプチド類似体は、酵母の表面で発現されディスプレーされるポリペプチドと融合される。本発明のポリペプチドの発現のためのその他の真核生物細胞、例えば哺乳類細胞、例えば骨髄腫細胞、ハイブリドーマ細胞またはチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞も用いられ得る。典型的には、ポリペプチド類似体は、哺乳類細胞中で発現される場合、培地中で発現されるよう、またはこのような細胞の表面で発現されるよう設計される。抗体または抗体断片は、例えば全抗体分子として、または個々のVHおよびVL断片、Fab断片、単一ドメインとして、または一本鎖(sFv)として産生され得る(Huston, J.S. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85: 5879-5883 (1988)参照)。
【0057】
発現ポリペプチド類似体(または直接合成により産生されるポリペプチド)のスクリーニングは、適切な手段により実行され得る。例えば結合活性は、標準イムノアッセイおよび/またはアフィニティークロマトグラフィーにより評価され、そして触媒活性は、基質転換のための適切な検定により確かめられ得る。タンパク質分解機能に関する本発明のポリペプチド類似体のスクリーニングは、例えば米国特許第5,798,208号に記載されたような標準ヘモグロビンプラーク検定を用いて成し遂げられ得る。
【0058】
5.コンピューターモデリング援用ルック・スルー突然変異誘発 本発明のルック・スルー突然変異誘発はまた、所望の改善機能を有する類似体を生成するための能力が増大されるよう、生成されるべきポリペプチド類似体に関する構造またはモデリング情報の利点を用いて実行され得る。構造またはモデリング情報は、限定領域中に導入するよう予定アミノ酸の選択を誘導するためにも用いられ得る。さらに、本発明のポリペプチド類似体を用いて得られる実際的結果は、反復方式で作製され、スクリーニングされるべきその後のポリペプチドの選択(または除外)を誘導し得る。したがって構造またはモデリング情報を用いて、本発明に用いるためのポリペプチドの最初のサブセットを生成し、それにより改善ポリペプチドを生成する効率をさらに増大し得る。
【0059】
特定の実施形態では、インシリコモデリングを用いて、不十分なまたは望ましくない構造および/または機能を有することが予測される任意のポリペプチド類似体の産生を排除する。このようにして、産生されるべきポリペプチド類似体の数が明確に低減され、それによりその後のスクリーニング検定におけるシグナル−ノイズを増大し得る。別の特定の実施形態では、インシリコモデリングは、インシリコ データベースがその予測能力においてより精確になるよう、任意の関連供給源から、例えば遺伝子およびタンパク質配列からの付加的モデリング情報、ならびに三次元データベースおよび/または前に試験された類似体からの結果を用いて継続的に更新される(図19)。
【0060】
さらに別の実施形態では、インシリコ データベースは、前に試験されたポリペプチド類似体の検定結果とともに提供されて、応答体または非応答体として、例えば良好に結合するかまたはそれほど良好には結合しないポリペプチド類似体として、あるいは酵素的/触媒的であるかまたはそれほど酵素的/触媒的ではないとして、単数または複数の検定判定基準に基づいて、類似体を分類する。このようにして、本発明のガイド・スルー突然変異誘発は、一連の機能的応答を特定の構造情報と同等とみなし、そして試験されるべき将来的ポリペプチド類似体の産生を誘導するためにこのような情報を使用し得る。したがって本方法は、特定の機能、例えば結合親和性(例えば特異性)、安定性(例えば半減期)および/またはエフェクター機能(例えば補体活性化およびADCC)に関して抗体または抗体断片をスクリーニングするために特に適している。したがって領域内の不連続残基の突然変異誘発は、例えばインシリコ モデリングにより、領域内のある種の残基が所望の機能に参加しない、ということが既知である場合には、望ましいものであり得る。限定領域間の配位構造および空間的相関関係、例えばポリペプチドの限定領域中の機能性アミノ酸残基、例えば導入された予定アミノ酸残基(単数または複数)が考慮され、モデリングされ得る。このようなモデリング判定基準としては、例えばアミノ酸残基側鎖基化学、原子距離、結晶学的データ等が挙げられる。したがって産生されるべきポリペプチド類似体の数は、インテリジェントに最小化され得る。
【0061】
好ましい実施形態では、1つまたは複数の上記の工程がコンピューター援用される。本方法は、一部または全部が、例えばコンピューター駆動デバイスのような装置によっても容易に実行される。したがって本方法を実行するための命令は、一部または全部が、命令を実行するための電子装置に用いるのに適した媒体に付与され得る。要するに本発明の方法は、ソフトウエア(例えばコンピューター読取り可能命令)およびハードウエア(例えばコンピューター、ロボティクスおよびチップ)を含む高処理量アプローチに改善可能である。
【0062】
6.多限定領域の組合せ化学の探究 本発明は、同時的に、ポリペプチドのいくつかの異なる領域またはドメインの突然変異誘発による評価を可能にするという重要な利点を提供する。これは、各領域内の同一のまたは異なる予定アミノ酸を用いて実行されて、立体配座的に関連する領域、例えばポリペプチドのフォールディング時に機能性部位(例えば抗体の結合部位または酵素の触媒部位)を作り上げるために会合される領域におけるアミノ酸置換の評価を可能にする。これは次に、新規のまたは改善された機能性部位を作製する効率的方法を提供する。
【0063】
例えば図14に示したように、抗体結合部位(Fv領域)の独特の態様を作り上げる抗体の6つのCDRは、この部位における選定アミノ酸の三次元相関関係を試験するために、VHまたはVL鎖内で同時にまたは別々に突然変異化され得る。一実施形態では、3つまたはそれ以上の限定領域、好ましくは6つの限定領域、例えば抗体重鎖および軽鎖可変部の6つのCDRの組合せ化学は、ルック・スルー突然変異誘発を用いて、体系的に探究される。CDRに関するルック・スルー突然変異誘発を実施するために、典型的には、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25またはそれ以上のアミノ酸位置が変更される。
【0064】
したがって本発明は、多数の異なる種類の新規の且つ改善されたポリペプチドの設計の新しい可能性を開拓する。本方法を用いて、タンパク質の既存の構造または機能を改善し得る。例えば抗体または抗体断片に関する結合部位が導入され得る氏、あるいは先在抗原、エフェクター機能および/または安定性が改善され得る。あるいは酵素の触媒ドメインへの付加的な「触媒的に重要な」アミノ酸の導入が実施されて、基質に対して改質されたまたは増強された触媒活性を生じる。あるいは全体的に新しい構造、特異性または活性がポリペプチドに導入され得る。酵素活性のde novo合成が、同様に達成され得る。新規の構造は、本発明の方法により関連領域のみを突然変異化することにより、先在タンパク質の天然のまたはコンセンサス「足場」上に構築され得る。
【0065】
7.新規のまたは改善された抗体を作製するためのルック・スルー突然変異誘発 本発明の方法は、抗体分子を修飾するために特に有用である。本明細書中で用いる場合、抗体分子または抗体とは、抗体またはその部分、例えば全長抗体、Fv分子、またはその他の抗体断片、その個々の鎖または断片(例えばFvの一本鎖)、一本鎖抗体、ならびにキメラ抗体を指す。変更は、抗体の可変部におよび/またはフレームワーク(定常)部に導入される。可変部の修飾は、良好な抗原結合特性を、そして所望により触媒特性を有する抗体を産生し得る。フレームワーク領域の修飾も、化学−物理的特性、例えば溶解度または安定性(例えば半減期)(これは例えば商業的生産において特に有用である)、生物学的利用能、エフェクター機能(例えば補体活性化および/またはADCC)ならびに抗原に対する結合親和性(例えば特異性)の改善をもたらし得る。典型的には突然変異誘発は、抗体分子のFv領域、即ち2つの鎖(一方は重鎖(VH)から、もう一方は軽鎖(VL)から)の可変部を作り上げる抗原結合活性に関与する構造を標的にする。所望の抗原結合特質が一旦同定されれば、可変部(単数または複数)は適切な種類の抗体、例えばIgG、IgM、IgA、IgDまたはIgEに工学処理され得る。
【0066】
8.触媒/酵素性ポリペプチドを作製し/改善するためのルック・スルー突然変異誘発 本発明の方法はまた、触媒タンパク質、特に触媒抗体の設計に特に適している。目下、触媒抗体は、標準体細胞融合技法の適合により調製され得る。この方法では、動物は、遷移状態の所望の基質に類似する抗原で免疫感作されて、遷移状態と結合し、反応を触媒する抗体の産生を誘導する。抗体産生細胞は動物から採取され、不死化細胞と融合されて、ハイブリッド細胞を産生する。次にこれらの細胞は、反応を触媒する抗体の分泌に関してスクリーニングされる。この工程は、遷移状態の基質の類似体の利用可能性によっている。本工程は、このような類似体がほとんどの場合において同定または合成するのが難しいと思われるため、制限され得る。
【0067】
本発明の方法は、遷移状態類似体の必要性を排除する異なるアプローチを提供する。本発明の方法により、抗体は、免疫グロブリンの結合部位(Fv領域)への適切なアミノ酸の導入により、触媒性にされ得る。抗原結合部位(Fv)領域は、6つの超可変性(CDR)ループから作られ(このうち3つは免疫グロブリン重鎖(H)に、そして3つは軽鎖(L)に由来する)、これは各サブユニット内のβ鎖を連結する。CDRループのアミノ酸残基は、ほぼ全てが、各特異的モノクローナル抗体の結合特性に寄与する。例えばセリンプロテアーゼ後にモデル化された触媒性三つ組(アミノ酸残基セリン、ヒスチジンおよびアスパラギン酸からなる)は、基質分子に対する既知の親和性を有する抗体のFv領域の超可変性セグメント中に作製され、基質のタンパク質分解活性に関してスクリーニングされ得る。
【0068】
特に本発明の方法は、多数の異なる酵素または触媒的抗体、例えばオキシドレダクターゼ、トランスフェラーゼ、ヒドロラーゼ、リアーゼ、イソメラーゼおよびリガーゼを産生するために用いられ得る。これらのクラスの中で、特に重要性を有するのは、改善されたプロテアーゼ、カルボヒドラーゼ、リパーゼ、ジオキシゲナーゼおよびペルオキシダーゼの産生である。本発明の方法により調製され得るこれらのおよびその他の酵素は、健康ケア、化粧品、食品、醸造業、洗剤、環境(例えば廃水処理)、農業、製革、テキスタイルおよびその他の化学的製法における酵素変換に関して重要な商業的用途を有する。例えば繊維素溶解活性、または感染性に必要なウイルス構造、例えばウイルスコートタンパク質に対する活性を有する治療的有効なプロテアーゼが工学処理され得る。このようなプロテアーゼは、有用な抗血栓症薬、あるいはウイルス、例えばHIV、ライノウイルス、インフルエンザまたは肝炎ウイルスに対する抗ウイルス薬であり得る。芳香族環またはその他の二重結合の酸化のための補因子を必要とする酵素の一クラスであるオキシゲナーゼ(例えばジオキシゲナーゼ)の場合、
バイオパルピング製法における工業的応用、バイオマスの燃料またはその他の化学物質への転化、廃水夾雑物の転化、石炭のバイオプロセシング、ならびに有害有機化合物の解毒は、新規のタンパク質の考え得る用途である。
【0069】
以下の実施例で本発明をさらに例証するが、これらは本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0070】
実施例全体を通して、別記しない限り、以下の材料および方法を用いた。材料および方法 概して、本発明の実行は、別記しない限り、化学、分子生物学、組換えDNA技術、PCR技術、免疫学(特に例えば抗体技術)、発現系(例えば無細胞発現、ファージディスプレー、リボソームディスプレーおよびプロヒュージョンTM)、ならびに当該技術分野技術の範囲内であり、そして文献中に説明されている任意の必要な細胞培養の慣用的技法を用いる。例えばSambrook, Fritsch and Maniatis, Molecular Cloning: Cold Spring
Harbor Laboratory Press(1989);DNA
Cloning, Vols. 1 and 2, (D.N. Glover, Ed. 1985); Oligonucleotide Synthesis(M.J.
Gait, Ed. 1984); PCR Handbook Current Protocols in Nucleic Acid Chemistry,
Beaucage, Ed. John Wiley & Sons (1999)(Editor); Oxford Handbook of Nucleic
Acid Structure, Neidle, Ed., Oxford Univ Press (1999); PCR Protocols: A Guide
to Methods and Applications, Innis et al., Academic Press (1990); PCR Essential
Techniques: Essential Techniques, Burke, Ed., John Wiley & Son Ltd (1996);
The PCR Technique: RT-PCR Siebert, Ed., Eaton Pub. Co. (1998); Antibody
Engineering Protocols (Methods in Molecular Biology), 510, Paul, S., Humana Pr
(1996); Antibody Engineering: A Practical Approach (Practical Approach Series,
169), McCafferty, Ed., Irl Pr (1999); Antibodies: A Laboratory Manual, Harlow
et al., C.S.H.L. Press, Pub. (1999); Current Protocols in Molecular Biology,
eds. Ausubel et al., John Wiley & Sons (1992); Large-Scale Mammalian Cell
Culture Technology, Lubiniecki, A., Ed., Marcel Dekker, Pub., (1990). Phage
Display: A Laboratory Manual, C. Barbas (Ed.), CSHL Press, (2001); Antibody
Phage Display, P O’Brien (Ed.), Humana Press (2001); Border et al., Yeast
surface display for screening combinatorial polypeptide libraries, Nature
Biotechnology, 15(6): 553-7 (1997); Border et al., Yeast surface display for
directed evolution of protein expression, affinity, and stability, Methods
Enzymol., 328: 430-44 (2000);米国特許第6,348,315号(Pluckthun等)に記載されたようなリボソーム ディスプレー、ならびに米国特許第6,258,558号;第6,261,804号および第6,214,553号(Szostak等)に記載されたようなプロヒュージョンTMを参照されたい。
【0071】
実施例1抗原結合分子における3つの限定領域のルック・スルー突然変異誘発 本実施例では、基質の結合およびタンパク質分解を改善するための抗体の3つのCDRのルック・スルー突然変異誘発を記載する。
【0072】
特にモノクローナル抗体の3つの相補性決定領域(CDR)の「ルック・スルー」突然変異誘発を実施する。重鎖可変部(VH)のCDR1、CDR2およびCDR3は、ルック・スルー突然変異誘発のために選択される限定領域である。この実施形態に関しては、選択される予定アミノ酸は、セリンプロテアーゼの触媒性三つ組の3つの残基、Asp、HisおよびSerである。AspはVA CDR1のために選択され、HisはVL CDR2のために選択され、そしてSerはVH CDR3のために選択される。これら3つの予定アミノ酸の選択は、3つの残基が機能活性、すなわち試験基質のタンパク質分解を示すよう正確に配置された場合に検出されるために便利なプロテアーゼ検定の使用を可能にする。
【0073】
例示的抗体MCPC603は、抗体結合領域が良好に特性化されているため、結合および触媒を検査するための良好なモデルとして認識されている。MCPC603 VHおよびVL領域のアミノ酸配列およびDNA配列は、公的に利用可能である(例えばRudikoff, S. and Potter, M., Biochemistry 13: 4033 (1974);
Pluckthun, A. et al., Cold Spring Harbor Symp. Quant. Biol., Vol. LII: 105-112
(1987)参照)。MCPC603抗体に関するCDRは、図2に示したように同定されている。重鎖において、CDR1はアミノ酸残基位置31〜35に亘り、CDR2は位置50〜69に亘り、そしてCDR3は位置101〜111に及ぶ。軽鎖では、CDR1のアミノ酸残基は24〜40であり、CDR2はアミノ酸55〜62に亘り、そしてCDR3はアミノ酸95〜103に及ぶ。
【0074】
MCPC603のCDRにおけるルック・スルー突然変異誘発のためのオリゴヌクレオチドの設計は、図3〜5に示したようなCDR1、CDR2およびCDR3に関するアミノ酸配列を有するポリペプチド類似体を生じるものである。合成されるオリゴヌクレオチドは、図7に示したような標的構築物への挿入を促すよう変更されるべきCDR領域より大きい可能性がある、と理解される。一本鎖抗体フォーマットは、その後の発現およびスクリーニング段階での便利のために選択される。オリゴヌクレオチドは酵素的技法により二本鎖に転換され(例えばOliphant, A.R. et al., 1986、上記、参照)、そして次に、図8に示したように制限プラスミドに結繋される。制限部位は、天然部位であるかまたは工学処理制限部位であり得る。
【0075】
対応するポリペプチド類似体をコードするポリヌクレオチドは、本明細書中に記載された便利な発現系のいずれかにおいて発現され、そして例えば米国特許第号に記載されたセリンプロテアーゼ検定を用いてスクリーニングされる(図16〜17も参照)。
【0076】
要するに、発現ポリペプチド類似体を試験基質に曝露し、そして試験基質のタンパク質分解に関して検査する。基質のクリアランスの区域により明示されるタンパク質分解の量は、所望の機能活性を有するポリペプチド類似体を示す。
【0077】
実施例2抗原結合分子における6つの限定領域のルック・スルー突然変異誘発 本実施例では、基質の結合およびタンパク質分解を改善するための抗体の6つのCDR全てのルック・スルー突然変異誘発を記載する。
【0078】
特に、上記のモデル抗体(MCPC603)の6つの超可変部または相補性決定領域(CDR)全ての「ルック・スルー」突然変異誘発を実施する。本実施例では、「ルック・スルー」突然変異誘発は、所定の領域またはドメイン中の異なるアミノ酸を用いて、2〜3回実行する。例えばAsp、SerおよびHisは、図10に示したように重鎖および軽鎖を逐次的にウォーク・スルーされる。
【0079】
領域中のある種の残基が所望の機能に参加しない、ということが既知であるかまたは推測し得る場合には、領域内の不連続残基の突然変異誘発が望ましい。さらに類似体の数は最小限にされ得る。予定アミノ酸ならびに変更されるべき特定位置の選択に際してさらに考慮すべきは、残基が互いに水素結合し得るようでなければならない、ということである。この考慮すべき事柄は、生成される変異体に近接拘束を課し得る。したがってCDR内のある位置のみが、触媒性三つ組のアミノ酸を適正に相互作用させ得る。したがって分子モデリングまたはその他の構造情報を用いて、機能性変異体を濃化し得る。
【0080】
この場合、既知の構造情報は、Asp、HisおよびSer間の水素結合を可能にするのに十分に近い領域の残基、ならびに突然変異化されるべき残基の範囲を同定するために用いた。Roberts等は、CDRの部分間の密接な接触の領域を同定した(Roberts,
V.A. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87: 6654-6658 (1990))。この情報は、MCPC603のx線構造からのデータと一緒に用いて、突然変異誘発のために標的化されるCDRの中の密接接触の見込みのある領域を選択する。構造/モデリング情報により誘導されるこの種類のルック・スルー突然変異誘発は、「ガイド・スルー」突然変異誘発と呼ばれ得る。
【0081】
ルック・スルー突然変異誘発を、図10に例示されたように実行するが、この場合、各CDRは一予定アミノ酸を施されて、8×10E5ポリペプチド類似体を、そして20のアミノ酸全てが調べられる場合には、5×10E13ポリペプチド類似体を生じる。 ポリヌクレオチドは、本明細書中に記載された便利な発現系のいずれかで発現され、そして例えば米国特許第5,798,208号に記載されたセリンプロテアーゼを用いてスクリーニングされ得る。要するに、発現ポリペプチド類似体を試験基質に曝露し、そして試験基質のタンパク質分解に関して検査する。基質のクリアランスの区域により明示されるタンパク質分解の量は、所望の機能活性を有するポリペプチド類似体を示す。
【0082】
実施例3機能を改善するための抗TNF結合分子のルック・スルー突然変異誘発 本実施例では、結合を改善するための抗TNF抗体のルック・スルー突然変異誘発を記載する。 特に2つの異なる抗TNF抗体の6つの超可変部または相補性決定領域(CDR)全ての「ルック・スルー」突然変異誘発を実施する。抗TNF抗体は、不適切なレベルのリガンドTNF(腫瘍壊死因子)を有する患者における免疫疾患の治療に一般的用途を有する。2つの市販抗TNF抗体が存在する。ルック・突然変異誘発およびその後のスクリーニングを実施する際の便利のために、これらの抗体の軽鎖および重鎖可変部(配列番号2〜4参照)を、ポリGly−Serリンカーを用いて一本鎖フォーマットに転換した(図15参照)。予定アミノ酸を有するルック・スルー突然変異誘発のために選択される限定領域を、図15に示したように黒色バーの存在により同定する。これらの限定領域は、一本鎖抗体のCDRに対応する。
【0083】
6つのCDR領域および図15に示した完全一本鎖配列へのポリヌクレオチドのアセンブリーを可能にするのに十分なフランキング領域を表すポリヌクレオチドを、本明細書中に記載したように合成する。予定アミノ酸残基を各CDR領域に関して選択し、そして6つのCDR領域全体を通して各アミノ酸位置に、別々におよび逐次的に導入する。ポリヌクレオチドをさらに工学処理して、対応するRNA転写体の転写を支持し得る鋳型として役立て、これを次にリボソームディスプレーを用いてポリペプチドに翻訳し得る。
【0084】
対応するポリペプチド類似体をコードするポリヌクレオチドを、無細胞転写および翻訳抽出物を用いて発現する。RNA転写体を、検出可能部分、例えば蛍光部分に共有結合する。あるいは当該配列をフレーム中で蛍光部分、例えばグリーン蛍光タンパク質(GFP)と融合して、結合物対非結合物の発現および標準化の便利な検出を可能にする。好ましくはポリペプチド類似体をコードするポリヌクレオチドは、少なくとも部分的に配列され、例えば多ポリペプチド類似体を有するウエル中で発現されるが、しかし容易にたたみ込まれ得ない。したがって各ウエルは、リボソームディスプレーを用いて蛍光部分に連結された対応する転写体にここで連結されたポリペプチド類似体のサブセットを含有する。ウエルを、標的リガンド、例えばTNFを用いてプローブし、そして結合するペプチド類似体に関して、そして野生型ポリペプチドと比較した場合に結合親和性を有するものに関して検定する。
【0085】
次に、野生型ポリペプチドより良好に結合するポリペプチド類似体を、標準技法を用いて、結合改良のために類似の市販抗体を用いた平行試験のための全長IgG抗体フォーマットに工学処理する。
【0086】
実施例4機能を改善するためのボツリヌス神経毒血清型B(BoNT/B)およびボツリヌス神経毒血清型A(BoNT/A)に対する抗体のルック・スルー突然変異誘発 本実施例では、機能を改善するためにルック・スルー突然変異誘発(LTM)を用いて、ボツリヌス神経毒血清型B(BoNT/B)およびボツリヌス神経毒血清型A(BoNT/A)に対する改善された抗体を生成する。LTMアプローチは、サイズ、電荷、疎水性および水素結合特質を探究する20のアミノ酸のサブセット(LTM組)を基礎にした結合ポケット全体を通してCDR当たり単一突然変異を作製することを基礎にする。LTM組におけるアミノ酸の選択のための判定基準を以下で考察する。
【0087】
1.抗体精製および遺伝子シーケンシングおよび一本鎖(scFv)設計 BoNT/Bに対する結合親和性を有するネズミ抗体断片(Fab)を、Emaneul et al. (1996) Journal of Immunological Methods 193: 189-197に記載されているのと同様にして得た。BotFab5(配列番号10および11、それぞれ軽鎖および重鎖ポリペプチド)、BotFab20(配列番号12および13、それぞれ軽鎖および重鎖ポリペプチド)またはBotFab22(配列番号14および15、それぞれ軽鎖および重鎖ポリペプチド)抗体を用い得る。上記の配列は、米国特許第5,932,449号に記載されている(この記載内容は、参照により本明細書中で援用される)。ネズミBoNT/B抗原(全長毒素、軽鎖および/または重鎖)は、Metabiologics, Inc., WIから入手し得る。
【0088】
Pless
et al. (2001) Infect. Immun. 69: 570に記載された抗BoNT/A抗体は、少なくとも1等級だけそれらの親和性を改善する目的で用い得る。BoNT/A重鎖結合ドメイン(BoNT/A Hc)抗原は、Metabiologics, Inc., WIから入手し得る。
【0089】
標準分子生物学技法を用いて、抗体(単数または複数)のVLおよびVH断片をクローン化し、シーケンシングする。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により分子の可変部を増幅し、ポリ−Gly−Serリンカー(典型的にはSGGGGSGGGGSGGGGS(配列番号7))を用いて連結して、一本鎖抗体(scFv)を生成する。ポリ−Hisタグ(HHHHHH(配列番号8))およびmycタグ(EQKLISEEDL(配列番号9))も遺伝子のC末端に付加して、精製および検出を促す。これらの分子を、周知の技法(例えば酵母、細菌またはファージベースの技法)のいずれかで表示して、BoNT/BまたはBoNT/Aを結合するそれらの能力に関して試験する。
【0090】
全抗体の一価scFvバージョンは突然変異誘発試験を実行するための良好なフォーマットを提供し、そして多価分子により表示される親和性作用を除いて、全分子の結合メカニズムを一般的に再現することが既知である。
【0091】
2.ルック・スルー突然変異誘発(LTM)および遺伝子設計を用いた抗体改善 ルック・スルー突然変異誘発(LTM)のために、以下の9つのアミノ酸およびそれらの代表的機能特質を選択する:アラニンおよびロイシン(脂肪族)、セリン(ヒドロキシル基)、アスパラギン酸(酸性)およびグルタミン(アミド)、リシンおよびヒスチジン(塩基性)、チロシン(芳香族)、プロリン(疎水性)。これらのアミノ酸は、サイズ、電荷、疎水性および水素結合能力における適切な化学的多様性を表示して、抗体特性を改善するために必要とされる化学的機能性に関する有意の初期情報を提供する。選択は、抗体のCDR中のこれらのアミノ酸の出現頻度にも基づいている。例えばチロシンおよびフェニルアラニン間で芳香族側鎖を有するアミノ酸を表示すると仮定すると、抗体CDR中のその有意に高い優勢性および水素結合するその能力のために、前者が選択される。LTMを最初に用いて、最終抗体において望まれる結合、中和および/または任意の付加的特性に有益である特定のアミノ酸および化学特性を同定する。しかしながらLTMは、これらの9つのアミノ酸または9つの総アミノ酸に限定されない。LTM分析は、アミノ酸の任意の組合せを用いて実施し得るし、LTMサブセットは18アミノ酸という高い数値でもあり得る〈飽和突然変異誘発の1 short〉。
【0092】
2.1 LTMオリゴヌクレオチド合成 一次LTM分析では、目標は、各CDR内の全体的結合親和性への各アミノ酸の側鎖の寄与を調べることである。有意の多様性を効率的に生成するために、LTMサブセットアミノ酸の各々を、CDR当たり1つだけの置換を有するCDR配列内の全ての単一位置で標的化する。したがって各個々のオリゴヌクレオチドは、単一CDR突然変異のみをコードする。例えば仮定的11アミノ酸VH CDR3ドメイン上でのLTMヒスチジン突然変異誘発を実行するために、11の考え得る単一ヒスチジン突然変異をコードする11個のオリゴヌクレオチドを合成する〈図20参照〉。このような分析は、CDR中の各位置に嵩高いアミドを有するという作用を試験する。したがってVHCDR3 LTMライブラリーを生成するためには、LTM分析のために99個のオリゴヌクレオチドだけを合成する(9LTMアミノ酸×11VHCDR3位置)。公的に利用可能なソフトウエアを用いて、不適切な停止コドン、野生型重複、非効率的コドン使用、ヘアピン、ループおよびその他の二次的構造に関して、オリゴヌクレオチド配列を試験する。
【0093】
2.2 有益なLTM突然変異の組合せのための縮重オリゴヌクレオチド合成 CDR内の個々のアミノ酸の体系的LTM置換を用いる場合、各位置での化学的機能性の選択が明らかにされる。LTM選択からの全ての突然変異を組合せ、そしてこれらの間の考え得る付加性およびエネルギー相乗作用を調べるために、これらの突然変異および野生型配列をコードする縮重オリゴクレオチドを合成する。1.6×104の変異体を有するオリゴヌクレオチドのこの縮重プールをその後に用いて、これらの置換の付加的性質を調べる第二世代ライブラリーを生成する。
【0094】
2.3 コンピューター援用オリゴヌクレオチド設計、ライブラリーおよび結果データベース 自動注文作製DNA合成機と接続したソフトウエアは、迅速オリゴヌクレオチド合成を可能にする。第一段階は、標的アミノ酸がCDRに組入れられるか否かを決定することを包含する。ソフトウエアは、標的化アミノ酸配列を導入するために必要とされるコドン選択(例えば円卓される系によって、酵母、細菌またはファージコドン選択)を確定し、そしてさらにまたこの設計工程により生成され得る野生型配列の任意の重複を排除する。それは次に、停止コドン、ヘアピンおよびループ構造に関する、あるいはその後、合成前に矯正されるその他の問題の配列に関して分析する。次に完成LTM設計計画をDNA合成機に送ると、これがオリゴヌクレオチドの自動合成を実施する。このようにして、ライブラリーを作製するために必要とされるオリゴヌクレオチドを迅速に生成し得る。
【0095】
電子データベースは、合成された全てのLTMオリゴヌクレオチド配列の情報、scFvライブラリーCDR置換の詳細、ならびに標的抗原に関する結合検定結果を保存し得る。オリゴヌクレオチドデータの記録保管は、設計戦略の合理的反復、ならびに試薬オリゴヌクレオチドの再使用を可能にする。
【0096】
3.全体的LTM戦略 LTMを最初に用いて、最終抗体において望まれる結合、中和および/または任意の付加的特性に有益である特定のアミノ酸および化学特性を同定する。それは、親和性における有意の損失を伴わない(または任意の物理的特性が選択される)任意の突然変異誘発を耐容しない領域も迅速に同定する。したがってLTM分析は、抗体の全てのCDR中の各位置での化学的要件を調べるための良好な方法であるだけでなく、それは抗原結合に絶対に必要とされるアミノ酸をも迅速に確定する。LTMによる有益な突然変異の同定後、これらの本質的に異なるアミノ酸突然変異の全てを最初に組入れる組合せ突然変異誘発スキームを用いて、多数の突然変異化CDRを生成し得る。さらにまたはあるいは、「ウォーク・スルー」突然変異誘発(WTM)を用いて、CDR中の同一アミノ酸の多突然変異の作用をプローブし得る(例えば米国特許第5,830,650号;第5,798,208号に記載)。
【0097】
4.LTMscFvライブラリー 上記のLTM技法を用いて、軽鎖または重鎖の単一CDR中に突然変異を有するオリゴヌクレオチドのプールを作製する。PCR中の重複およびハイブリダイゼーションを促すために周囲フレームワークのいくつかを含むよう、これらのオリゴヌクレオチドを合成する。オリゴヌクレオチドのこれらのプールを利用して、単一重複伸長PCR〈SOE−PCR〉を用いて、単一、二重および三重CDR(CDR1、2および3の単一、二重および三重組合せ)中に突然変異が存在する全ての考え得るVLおよびVH鎖を生成する(Horton et al. (1989) Gene 77: 61-68に記載)。SOE−PCRは、制限部位、制限エンドヌクレアーゼまたはDNAリガーゼを必要としないDNA断片を併合するための迅速且つ簡単な方法である。SOE−PCRでは、idennsi中の2つの領域を、PCR産物がその一端で相補的配列を共有するよう設計されたプライマーを用いて、PCRにより先ず増幅する。PCR条件下では、相補的配列はハイブリダイズして、重複を生成する。次に相補的配列はプライマーとして作用して、DNAポリメラーゼによる伸長を可能にして、組換え分子を産生する。
【0098】
例えばCDR−H1およびCDR−H2の両方が突然変異化され、CDR−H3が野生型であるVH鎖のプール(これは「110」(1は突然変異体CDRを意味し、そして0は野生型CDRを意味する)と呼ばれる)を作製するために、CDR−H1突然変異体遺伝子を鋳型として用い、そしてSOE−PCRを実行して、CDR−H2オリゴヌクレオチドを連結して、二重突然変異化プールを生成する〈図21〉。各CDRは野生型であるかまたは突然変異体であり得るということを考慮すると、VLおよびVH鎖のプール(野生型分子「000」を含まない)の各々に関して7つの考え得る組合せ(図21二矢印で示す)が存在する。7つのVLおよび8つのVHプールの組合せは、63のVL−VH非野生型組合せ(scFv)を生じる(図21)。64のVL−VH組合せ(野生型配列を含む)の各々は、全LTMscFvライブラリー一式の「サブセット」と呼ばれる。scFvライブラリー一式を、置換のために選択される各アミノ酸に関して作製する。各サブセットライブラリー内に示されるアミノ酸配列の数は、CDRの長さ、CDR内のアミノ酸配列、およびLTMオリゴヌクレオチド設計戦略によっている。
【0099】
5.高処理量ライブラリースクリーニングおよび改良型抗体選択 抗体発現および表示のためには、種々の方法が利用可能である。これらは、バクテリオファージ、大腸菌および酵母を包含する。これらの方法の各々は抗体改善のために用いられてきたが、しかし酵母ディスプレー系はいくつかの利点を提供する(Boder and Wittrup (1997) Nat. Biotechnol. 15: 553-557)。酵母は107までのライブラリサイズを容易に収容し、各々の103〜105コピーが各細胞表面に表示される。酵母は、フローサイトメトリーおよび蛍光活性化細胞選別(FACS)または磁気ビーズを用いて、容易にスクリーニングされ、分離される。酵母は、迅速選択および再増殖も提供する。真核生物分泌系および酵母の解糖経路は、原核生物ディスプレー系よりはるかに大きいscFv分子のサブセットを正確にフォールディングさせ、細胞表面に表示させる。定向進化と結び付けられた酵母ディスプレーを用いて、フルオレセインに関するscFc抗体断片のKDを48 fM(従来報告された一価リガンドより結合が2等級強力である)に増大した(Boder et al. (2000) PNAS 97:
10701-10705)。ディスプレー系は、a−アグルチニン酵母接着受容体を利用して、細胞表面にタンパク質を表示する。当該タンパク質は、本発明の場合、抗BoTN/BscFv LTMライブラリーまたは抗BoTN/AscFv LTMライブラリーを、Aga2タンパク質との融合相手として発現する。これらの融合タンパク質は、細胞から分泌され、そしてAga1タンパク質とジスルフィド結合されるようになり、これが酵母細胞壁に付着される(Invitrogen、pYD1酵母ディスプレー産物文献参照)。さらに包含されるカルボキシル末端タグが存在し、これを用いて、発現レベルをモニタリングし、および/または結合親和性測定値を正規化し得る。
【0100】
ストレプタビジン被覆磁気ビーズ(Spherotech)を用いて、高親和性でBoNT/BまたはBoNT/Aと結合する抗体に関してスクリーニングし、選択する。この方法は、ビオチニル化抗原と結合する高親和性抗体を用い、これは次に、酵母クローンに関して選択するために、ストレプタビジン被覆ビーズと結合する(Yeung and Wittrup (2002) Biotechnol. Prog 18: 212-220およびFeldhaus et al. (2003) Nature Biotech. 21: 163-170)。BoNT/BまたはBoNT/Aポリペプチド(Metagiologics)を標準プロトコール(Pierce)を用いてビオチニル化し、そして当該技術分野で周知の方法を用いてスクリーニングを実施する。平衡および動力学ベースの選択を用いて、親和性改善を示す抗体をこれらのライブラリーから選択する。各回の選択の効力を、分析的FACS(FACScan)によりモニタリングする。さらに、酵母表面に表示される個々の分子の結合親和性を、抗体を滴定することにより測定する。これは親和性改善を示す分子の迅速同定を可能にする。次にscFvクローンをシーケンシングして、有益な突然変異を同定する。
【0101】
6.BIAcore親和性測定のための可溶性抗体の生成 当該抗体を、可溶性発現系(メタノール資化性酵母Pichia pastorisおよび/または大腸菌)中でサブクローニングして、可溶性タンパク質を生成する。可溶性抗体発現のためのいくつかの市販ベクターおよび細胞株が存在し、例としては、Invitrogen(例えばP. pastorisに関するpPIC9)およびNovagen(大腸菌におけるペリブラズム発現のためのpET20b)からのものが挙げられる。これらの系をルーチンに用いて、可溶性一本鎖または全長抗体を生成する。P. pastoris発現系(Invitrogen)は、1〜5 mg/リットルの可溶性精製scFvをルーチンに産生する。一本鎖の場合には分子のC末端のHis−タグの存在により、または全長抗体に関してはプロテインAまたはプロテインGカラムにより、タンパク質の精製を促進する。可溶性一本鎖および全長抗体を生成して、BIAcore親和性動態速度測定値を得る。酵母クローン細胞表面の高親和性scFv分子が無細胞可溶性分子として立証されねばならない場合、この段階が必要である。
【0102】
上記のように生成された可溶性一本鎖および全長抗体は、BIAcore親和性測定値を得るために、ならびに下記の神経突起伸長検定またはマウス致死性検定に用いられ得る。
【0103】
7.in vivoまたはin vitro中和に関する選定抗体のスクリーニング BoNT中毒の指標として、したがって毒素中和を低了するための手段として、一次ニワトリニューロンの神経突起伸長を用いた細胞ベースの検定を用いて、選定抗体をスクリーニングし得る。ニワトリ受精卵からの後根神経節外植片培養を用いた予備実験は、BoNT/Aで処理した外植片からの、対照より低い神経突起伸長が認められることを示した。あるいはニワトリ毛様体神経節−虹彩筋肉神経筋肉連結検定(Lomneth et al. (1990) Neuroscience Letters 113: 211-216に記載)を用い得る。
【0104】
マウス致死性検定(MLA、例えばSchantz and Kautter (1978) J. Assoc. Off. Aanl. Chem. 61: 96-99に記載)は、BoNT中和に関する試験のための別の周知の且つ許容されたin vivo方法である。本試験は、20〜30 gの白色ICR系統マウスへの、抗体を用いた場合と用いない場合の、BoNT/BまたはBoNT/Aの試料調製物約0.5 mlの腹腔内注射を包含する。呼吸不全による致死は、1〜4日に亘って認められる。中和の定量は、種々のレベルのマウスBoNT/BまたはBoNT/A LD50を用いたMAbの連続希釈を要する。MLAを用いて、in vitroスクリーニングにより同定される最適化抗体の中和能力を確定し得る。
【0105】
マウス防御検定により、in vitroで、抗体の中和能力も測定し得る(MPA、Goeschel et al.
(1997) Exp. Neurol. 147: 96-102)MPAにおいて、左横隔膜神経を、左片側横隔膜と一緒に、マウスから切除する。次に横隔膜神経を、組織浴中で、連続的に電気刺激する。精製抗体を、BoNT/BまたはBoNT/Aとともにインキュベートし、組織浴に付加する。毒素誘導性麻痺を、初期筋肉痙攣の50%低減と定義する。
【0106】
均等物 本明細書中に記載した本発明の特定の実施形態に対する多数の均等物を、当業者は認識しているし、あるいはごく慣例的な実験を用いて確かめ得る。このような均等物は、以下の特許請求の範囲に包含されるよう意図される。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】図1は、ルック・スルー突然変異誘発(LTM)を用いて検査され得る例示的限定領域(またはD領域)、ならびにこのようなD領域から所望のポリペプチド類似体を同定するための機能性検定を示す。
【図2】図2は、抗体可変部における3つの限定領域(即ち抗体重鎖可変部のCDR1、CDR2およびCDR3)内のLTMの使用を示す。軽鎖可変部は、単独で、または重鎖可変部と組合せて、同様に調査され得る。その後のスクリーニング検定において便利なように、重鎖可変部は、図示されたような一本鎖抗体(sFv)の情況で調べられ得る。
【図3】図3は、重鎖可変部の限定領域(即ちCDR1の位置31〜25)内でのLTMの使用を示す。
【図4】図4は、重鎖可変部の限定領域(即ちCDR2の位置55〜68)内でのLTMの使用を示す。
【図5】図5は、重鎖可変部の限定領域(即ちCDR3の位置101〜111)内でのLTMの使用を示す。
【図6】図6は、ウォーク・スルー突然変異誘発と比較した場合のLTMの利点を示す。代表的限定領域、即ち抗体重鎖可変部のCDR1のLTMは、いかなる望ましくないアミノ酸残基またはいわゆるノイズも導入せずに、限定領域全体を通して各アミノ酸位置の逐次的変化を生じる。
【図7】図7は、ルック・スルー突然変異誘発後の全体的タンパク質情況への一タンパク質の3つの限定領域の戻し組込み、特にルック・スルー突然変異誘発後の一本鎖抗体フォーマット中への抗体重鎖可変部の3つのCDR全ての組込みを示す。
【図8】図8は、より大型遺伝子情況へのLTMに付された抗体重鎖および軽鎖の限定領域を構築するためのポリメラーゼ連鎖反応(PCR)の使用を示す。
【図9】図9は、例えばセリン、ヒスチジンおよび/またはアスパラギン酸を含む触媒部位を得るための抗体可変部におけるCDRの各々の例示的多用性フォーマット、ならびにそれらが配列され得る方法を示す。
【図10】図10は、LTMに付された抗体の結合領域の6つのCDR全ての組込み、ならびに1予定アミノ酸残基または20の異なる予定アミノ酸残基が用いられた場合の、その結果生じる多様性を示す。
【0108】
【図11】図11は、LTMに付された抗TNF一本鎖抗体(sFv)の結合領域の6つのCDR全ての組込み、ならびに1予定アミノ酸残基または3つの異なる予定アミノ酸残基が用いられた場合の、その結果生じる多様性を示す。
【図12】図12は、LTMを用いて達成され得る抗体結合領域の6つのCDRの考え得るポリペプチド類似体のいくつかを表すアレイ化ライブラリーを示す。
【図13】図13は、無細胞リボソームディスプレーを用いたアレイ化発現ライブラリーのスクリーニングを示す。
【図14】図14は、抗体可変部の結合領域(即ち6つのCDR全て)がLTMに付された場合に検査される組合せ化学を示す。
【図15】図15は、LTMに付され得るいくつかの代表的抗TNF結合分子の可変部の配列(一本鎖フォーマットでの)を示す。
【図16】図16は、LTMの触媒候補をスクリーニングするためのプロテアーゼ選択検定を実行するためのスキームを示す。
【図17】図17は、細菌細胞中で実行する場合のプロテアーゼ選択検定のメカニズム(および利点)を詳述するスキームを示す。
【図18】図18は、リボソームまたは酵母ディスプレーを用いて触媒活性、例えば触媒抗体活性に関して遺伝子ライブラリーをスクリーニングするメカニズムを詳述するフローチャートを示す。
【図19】図19は、より効率的分子設計および開発のために優先情報(例えばコンピューターモデリング情報)および経験的情報(検定結果)が調和的に働くLTMを実行するためのスキームを示す。LTMのこのガイドアプローチは、「ガイド・スルー」突然変異誘発と呼ばれる。
【図20】図20は、仮説的VHCDR3野生型配列(最上部中黒卵形)、ならびにLTM His置換(中白卵形)ライブラリー成員におけるその結果生じた配列を示す。ここのLTM His置換は、個々のオリゴヌクレオチド、例えば高処理量様式で合成されたオリゴヌクレオチドによりコードされる。このCDRドメイン中の他の(LTM)アミノ酸置換に関するLTMサブセットライブラリーは、同様の様式で構築される。
【図21】図21は、scFvライブラリーの生成を示す。x列の上部列およびy軸の左端カラムにおいて、3つの数字は軽鎖および重鎖の各々に関する3つのCDRを表す。「0」は野生型CDR配列を示し、一方「1」はLTM突然変異化CDRを示す。格子上の数字は、サブセットライブラリーの複雑度を示す。例えば行列の最上部左角は「0」であり、この場合、対応するxおよびy軸は「000」および「000」であって、これはVHおよびVL中のどのCDRもそれぞれLTM突然変異化されていないことを示す。「0」角から隣の「1」に一列動かすと、格子位置はx軸「100」およびy軸「000」で示され、これはVHCDR1が突然変異化され、一方VLCDRは全て野生型のままであることを示す。したがって同様にして、「4」という格子番号は、同様に突然変異化された4つのCDRが存在することを意味する。SOE−PCRを用いて、最初に7つのVHおよび7つのVL鎖(矢印で示されている)を作製する。次にVHおよびVL鎖を増幅し、混合して、多量のプライマーによりマッチさせて、残りのVL−VH組合せの全てを一工程で生成する。
【技術分野】
【0001】
関連出願および情報 本出願は、米国特許仮出願60/483282号(2003年1月27日提出)(この全記載内容は、参照により本明細書中で援用される)に対する優先権を主張する。以下の明細書全体を通して引用されるその他の特許、特許出願および参考文献すべての全記載内容も、参照により本明細書中で援用される。
【背景技術】
【0002】
発明の背景 突然変異誘導は、タンパク質の構造および機能の研究における強力なツールである。突然変異は、当該タンパク質をコードするクローン化遺伝子のヌクレオチド配列中に作られ、修飾遺伝子はタンパク質の突然変異体を産生するために発現され得る。野生型タンパク質および生成された突然変異体の特性を比較することにより、タンパク質の構造無欠性および/または生化学的機能、例えばその結合および/または触媒活性に不可欠である個々のアミノ酸またはアミノ酸のドメインをしばしば同定し得る。しかしながら単一タンパク質から生成され得る突然変異体の数は、突然変異を包含する選定突然変異体が単にタンパク質の推定的重量領域(例えばタンパク質の活性部位を作り上げる領域)中にある場合でさえ、情報提供するかまたは所望の特性を有する突然変異体を選択するのを困難にする。例えば特定のアミノ酸の置換、欠失または挿入は、タンパク質に及ぼす局所的または全体的作用を有し得る。
【0003】
ポリペプチドを突然変異誘発するための従来の方法は、制限的であり過ぎ、包括的であり過ぎるか、あるいは機能を獲得するまたは改善するというよりむしろタンパク質をノックアウトすることに限定されてきた。例えば高制限的アプローチは、特定機能部位の存在を同定するかまたは機能部位内の極特定変化の作製の結果を理解するために用いられる選択的または部位特異的突然変異誘発である。部位特異的突然変異誘発の一般的用途は、普通にリン酸化され、そしてポリペプチドにその機能を実行させるアミノ酸残基がリン酸化および機能的活性間のつながりを確証するために変更されるリンタンパク質の研究においてである。このアプローチは、試験されているポリペプチドおよび残基に非常に特異的である。
【0004】
逆に高包括的アプローチは、遺伝子またはタンパク質の限定領域内の全ての考え得る変更を包含する多数の突然変異を生じるよう意図される飽和またはランダム突然変異誘発である。これは、関連タンパク質ドメインの本質的に全ての考え得る変異体を生成することにより、アミノ酸の適正配置は、無作為生成突然変異体の1つとして産生されるべきものであると思われる、という原理に基づいている。しかしながら、実際には、生成される突然変異の膨大な数の無作為組合せは、非常に多くの望ましくない候補のいわゆる「ノイズ」の存在のため、望ましい候補を有意に選択する能力を妨げ得る。
【0005】
「ウォーク・スルー」突然変異誘発(例えば米国特許第5,830,650号、第5,798,208号参照)と呼ばれる別のアプローチは、所望組の突然変異を統計学的に含有する縮重オリゴヌクレオチドの混合物を合成することにより、ポリペプチドの限定領域を突然変異化するために用いられてきた。しかしながら縮重ポリヌクレオチド合成が用いられるため、ウォーク・スルー突然変異誘発は、所望組の突然変異のほかに、多数の望ましくない変化を生じる。例えば5つのみのアミノ酸位置の限定領域中に突然変異を逐次的に導入するために、一組の100を超えるポリヌクレオチドが作られ(そしてスクリーニングされ)ねばならない(例えば図6参照)。したがって作製し、スクリーニングするために、例えば2または3つの領域が漸増的に複雑になり、即ち10〜15だけの突然変異の存在のために、それぞれ200〜300を超えるポリヌクレオチドの作製およびスクリーニングを要する。
【0006】
さらに別のアプローチでは、タンパク質を突然変異誘発するために用いられてきたのはアラニンスキャニング突然変異誘発であり、この場合、タンパク質の機能が遮断されている位置を同定するためにタンパク質の部分の全体を通してアラニン残基が「走査」される。しかしながらこのアプローチは、機能の獲得または改善というよりむしろ、所定の位置での中性アラニン残基を置換することにより、タンパク質機能の損失を調べるだけである。したがってそれは、改善された構造および機能を有するタンパク質を生成するための有用なアプローチではない。
【0007】
したがって新規のまたは改善された機能に関してタンパク質を突然変異誘発するための体系的方法に対する必要性が依然として存在する。
【発明の開示】
【0008】
発明の要約 本発明は、新規のまたは改善されたタンパク質(またはポリペプチド)の生成のための突然変異誘発方法に、ならびに当該方法により生成されるポリペプチド類似体および特定ポリペプチドのライブラリーに関する。突然変異誘発のために標的化されるポリペプチドは、天然、合成または工学処理ポリペプチド(薗断片、類似体および突然変異形態を含む)であり得る。
【0009】
一実施形態では、本方法は、ポリペプチドのアミノ酸配列の限定領域(またはいくつかの異なる領域)内の本質的に全ての位置に予定アミノ酸を導入することを包含する。個別に1つ以下の予定アミノ酸を有するが、しかし包括的に限定領域(単数または複数)内の全ての一に予定アミノ酸を有するポリペプチド類似体を含有するポリペプチドライブラリーが生成される。本方法は、事実上、単一予定アミノ酸(および世t芸アミノ酸のみ)がポリペプチドの1つまたは複数の限定領域全体を通して位置単位で置換されるため、「ルック・スルー」突然変異誘発と呼ばれ得る。したがって本発明は、ポリペプチドの限定領域内の各アミノ酸位置で予定アミノ酸を別個に置換し、その結果望ましくないポリペプチド類似体(即ち「ルック・スルー」スキームに従うもの以外のアミノ酸置換を含有する類似体)の生成からの妨害または「ノイズ」を伴わない限定領域に特定タンパク質化学的性質を分離する構造および機能的成り行きを「ルック・スルー」するのを可能にする(例えば図6参照)。
【0010】
したがって本発明は、ポリペプチドの1つまたは複数の限定領域における特定アミノ酸変化の役割の非常に効率的な且つ精確な体系的評価を可能にする。これは、2つまたはそれ以上の限定領域を(突然変異化により)評価する場合に特に重要になり、そこで必要とされるポリペプチド類似体の数が非常に増大し、したがって望ましくない類似体の存在も増大する。本発明は、望ましくない類似体を完全に排除することによりこの問題を、したがって観察されるタンパク質構造または機能における任意の変化が予定アミノ酸の置換以外の全ての結果であるという可能性を未然に回避する。したがって特定タンパク質化学的性質を一つタンパク質に関してさらに多領域に分離する作用は、高精度および効率で試験され得る。これが、突然変異誘発がこのような領域の相互作用に影響を及ぼし、それによりタンパク質の全体的構造および機能を改善する方法を試験することを包含する、ということは重要である。
【0011】
本発明の特定の実施形態では、先ず、集合的にポリヌクレオチドが、本明細書中に記載されたルック・スルー判定基準に従って全ての考え得る変異体ポリヌクレオチドを現す限定領域またはポリペプチドの領域をコードする個々のポリヌクレオチドを合成することにより、ポリペプチド類似体のライブラリーが生成され、スクリーニングされる。変異体ポリヌクレオチドは、例えばin vitro転写および翻訳を用いて、および/またはディスプレー技法、例えばリボソームディスプレー、ファージディスプレー、細菌ディスプレー、酵母ディスプレー、アレイ化ディスプレーまたは当該技術分野で既知の任意のその他の適切なディスプレー系を用いて、発現される。
【0012】
次に発現ポリペプチドは、機能性検定、例えば結合検定または酵素/触媒検定を用いて、スクリーニングされ、選択される。一実施形態では、ポリペプチドは、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドと関連して発現され、それによりポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列の同定を可能にする。さらに別の実施形態では、ポリペプチドは、タンパク質化学反応を用いて直接合成される。
【0013】
したがって本発明は、一部は、ライブラリーが任意の望ましくない類似体ポリペプチドまたはいわゆるノイズを欠くため、スクリーニングのための実用的サイズを有するものであるポリペプチド類似体のライブラリーを生成するために用いられ得る突然変異誘発方法を提供する。本方法を用いて、ポリペプチド構造および機能における特定アミノ酸の役割を試験し、そして新規のまたは改善されたポリペプチド、例えば抗体、その結合断片または類似体、一本鎖抗体、触媒性抗体、酵素およびリガンドを開発し得る。さらに本方法は、「ルック・スルー」突然変異誘発を用いて産生され、試験されるべきポリペプチド類似体の初期サブセットを選択するために用いられ得る優先情報の助けを借りて、例えばコンピューターモデリングにより、実施され得る。
【0014】
本発明のその他の利点および態様は、以下の説明および実施例から容易に明らかになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の詳細な説明 本明細書および特許請求の範囲を明確に理解するために、以下の定義を下記に提示する。
【0016】
定義 本明細書中で用いる場合、「類似体」という用語は、1つまたは複数のアミノ酸置換を有する変異体または突然変異体ポリペプチド(またはこのようなポリペプチドをコードする核酸)を指す。
【0017】
「結合分子」という用語は、基質または標的と結合する任意の結合分子、例えばタンパク質、ポリペプチド、ペプチドおよび小分子を指す。一実施形態では、結合分子は、抗体またはその結合断片(例えばFab断片)、単一ドメイン抗体、一本鎖抗体(例えばsFv)、またはリガンドを結合し得るペプチドである。
【0018】
「限定領域」という用語は、ポリペプチドの選定領域を指す。典型的には限定領域は、機能性部位、例えばリガンドの結合部位、結合分子または受容体の結合部位、あるいは触媒部位の全部または一部を含む。限定領域は、機能性部位の多数部分も含み得る。例えば限定領域は、相補性決定領域(CDR)の全部、一部または多数部分、あるいは抗体の完全重鎖および/または軽鎖可変部(VR)も含み得る。したがって機能性部位は、分子の機能的活性に寄与する単一のまたは多数の限定領域を含み得る。
【0019】
「ライブラリー」という用語は、本発明の方法に従って突然変異化される2またはそれ以上の分子を指す。ライブラリーの分子は、ポリヌクレオチド、ポリペプチド、ポリヌクレオチドおよびポリペプチド、無細胞抽出物中のポリヌクレオチドおよびポリペプチドの形態で、あるいはファージ、原核生物細胞中のまたは真核生物細胞中のポリヌクレオチドおよび/またはポリペプチドとして存在し得る。
【0020】
「突然変異化する」という用語は、アミノ酸配列の変更を指す。これは、変更アミノ酸配列をコードし得る核酸(ポリヌクレオチド)を変更するかまたは産生することにより、あるいはタンパク質化学反応を用いた変更ポリペプチドの直接合成により達成され得る。
【0021】
「ポリヌクレオチド(単数または複数)」という用語は、核酸、例えばDNA分子およびRNA分子ならびにその類似体(例えばヌクレオチド類似体を用いて、または核酸化学を用いて生成されるDNAまたはRNA)を指す。所望される場合、ポリヌクレオチドは、例えば当業界で既知の核酸化学を用いて合成的に、または例えばポリメラーゼを用いて酵素的に作製され得る。典型的修飾としては、メチル化、ビオチニル化およびその他の当該技術分野で既知の修飾が挙げられる。さらに核酸分子は、一本鎖または二本鎖であり得るし、所望により、検出可能部分と(共有的にまたは非共有的に)連結されるかまたは会合され得る。
【0022】
「変異体ポリヌクレオチド」という用語は、本発明の対応するポリペプチド類似体(または
その部分)をコードするポリヌクレオチドを指す。したがって変異体ポリヌクレオチドは、異なるアミノ酸の発現を生じるよう変更された1つまたは複数のコドンを含有する。
【0023】
「ポリペプチド(単数または複数)」という用語は、ペプチド結合により連結される2またはそれ以上のアミノ酸、例えばペプチド(例えば2〜50アミノ酸残基)、ならびにより長いペプチド配列、例えば典型的には50個という少ないアミノ酸残基から1,000より多い朝残基までのアミノ酸配列を含むタンパク質配列を指す。
【0024】
「プールする」という用語は、ポリヌクレオチド変異体またはポリペプチド類似体を併合して、全ポリペプチド領域のルック・スルー突然変異誘発を表すライブラリーを生成することを指す。分子はポリヌクレオチドおよび/またはポリペプチドの形態で存在し、そしてサブライブラリーの形態で、固体支持体上の分子として、溶液中の分子として、および/または1つまたは複数の生物体(例えばファージ、原核生物細胞または真核生物細胞)中の分子として共存し得る。
【0025】
「予定アミノ酸」という用語は、突然変異化されるべきポリペプチドの限定領域内の各位置での置換のために選択されるアミノ酸を指す。これは、すでに(例えば天然に)予定アミノ酸を含有し、したがって予定アミノ酸で置換される必要のない領域内の位置(単数または複数)を包含しない。したがって本発明に従って生成される各ポリペプチド類似体は、所定限定領域中に1個以下の「予定アミノ酸」残基を含有する。しかしながら集合的には、生成されるポリペプチド類似体のライブラリーは、突然変異化されている領域内の各位置に予定アミノ酸を含有する。典型的には予定アミノ酸は、通常はアミノ酸の側鎖群と関連した粒子サイズまたは化学的性質に関して選択される。適切な予定アミノ酸としては、例えばグリシンおよびアラニン(立体的に小さい);セリン、トレオニンおよびシステイン(求核性);バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニンおよびプロリン(疎水性);フェニルアラニン、チロシンおよびトリプトファン(芳香族);アスパルテートおよびグルタメート(酸性);アスパラギン、グルタミンおよびヒスチジン(アミド);ならびにリシンおよびアルギニン(塩基性)が挙げられる。
【0026】
詳細な説明 タンパク質の研究は、ある種のアミノ酸がそれらの構造および機能において重要な役割を演じる、ということを明示した。例えば、離散数のアミノ酸のみが抗体と抗原の結合に参加し、あるいは酵素の触媒的事象に関与する、と思われる。
【0027】
ある特定のアミノ酸がタンパク質の活性または機能にとって重要であることは明らかであるが、しかしどのアミノ酸が関与するか、それらがどのように関与するが、そして置換がタンパク質の構造または機能の何を改善し得るのかを同定することは難しい。これは、一部は、ポリペプチド中のアミノ酸側鎖の部分形状の複雑性のため、そして機能性部位を形成するのに寄与するポリペプチドの異なる部分の相関関係のためである。例えば抗体の重鎖および軽鎖の可変部の6つのCDR間の相関関係は、抗原またはリガンド結合ポケットに寄与する。
【0028】
従来の突然変異誘発方法、例えば選択的(部位特異的)突然変異誘発および飽和突然変異誘発は、複雑なポリペプチド中の莫大な考え得る変異にかんがみて、タンパク質構造および機能の試験のための限定有用性を有する。これは、望ましい組合せがしばしば膨大な量の望ましくない組合せまたはいわゆるノイズの存在を伴う場合に言えることである。
【0029】
本発明の方法は、ポリペプチドの限定領域内の、ポリペプチドの構造または機能における、したがって改善されたポリペプチドを産生するための、特定アミノ酸およびそれらの位置の役割を評価するための、体系的、実用的且つ高度に精確なアプローチを提供する。
【0030】
1.限定領域の選択 本発明に従って、限定領域またはタンパク質内の領域が突然変異誘発のために選択される。典型的には、当該領域は、タンパク質の構造または機能にとって重要であると思われる(例えば図1参照)。これは、例えばどんな構造および/または機能的態様が既知であるかということから推定され得るし、あるいは限定領域(単数または複数)を他のタンパク質の試験から既知であるものまたはモデリング情報により手助けされ得るモノとを比較することから推定され得る。例えば限定領域は、機能的部位において、例えば結合、触媒またはその他の機能においてある役割を有するものであり得る。一実施形態では、限定領域は、抗原結合分子の超可変部または相補性決定領域(CDR)である。別の実施形態では、限定領域は相補性決定領域(CDR)の一部である。他の実施形態では、2またはそれ以上の限定領域、例えばCDRまたはその部分が突然変異誘発のために選択される。
【0031】
2.予定アミノ酸残基の選択 限定領域(単数または複数)内の置換のために選択されるアミノ酸残基は一般に、当該構造または機能に関与することが既知であるものから選択される。20の天然アミノ酸は、それらの側鎖に関して異なる。各側鎖は、各アミノ酸を独特にする化学的特性に関与する。結合を変更し、または新規の結合親和性を作製する目的のために、20の天然アミノ酸のうちのいずれかが一般に選択され得る。したがって全ての置換のための膨大な数の類似体を作製した従来の突然変異誘発方法は、20のアミノ酸の各々の置換のタンパク質結合に及ぼす作用を評価するためには実用的でなかった。これに対比して、本発明の方法は、各アミノ酸置換のための実用数の類似体を作製し、したがって一タンパク質の分離された単数または複数の領域内のより多数の種々のタンパク質の化学的性質の評価を可能にする。
【0032】
タンパク質結合と対比して、アミノ酸残基の一サブセットのみが典型的には酵素的または触媒的事象に参加する。例えば側鎖の化学的特性から、選定数の天然アミノ酸のみが触媒的事象に優先的に参加する。これらのアミノ酸は、極性および中性アミノ酸、例えばSer、Thr、Asn、Gln、TyrおよびCysの群、荷電アミノ酸、例えばAspおよびGlu、LysおよびArg、特にアミノ酸Hiの群に属する。その他の極性および中性側鎖は、Cys、Ser、Thr、Asn、GlnおよびTyrのものである。Glyは、この群の境界線成員であるともみなされる。SerおよびThrは、水素結合形成に重要な役割を演じる。Thrはβ炭素に付加的不斉を有し、したがって立体異性体のうちの1つのみが用いられる。アミノ酸GlnおよびAsnも水素結合を、水素供与体として機能するアミド基、そして受容体として機能するカルボニル基を構成する。Glnは、極性基をより柔軟性にさせ、そして主鎖とのその相互作用を低減するAsn以外のさらに多くのCH2基を有する。Tyrは、高pH値で解離し得る高極性ヒドロキシル基(フェノール性OH)を有する。Tyrは、荷電側鎖と多少似た振る舞いをする;その水素結合はかなり強い。
【0033】
中性極性酸は、タンパク質分子の表面に、ならびに内側に見出される。内部残基として、それらは通常は互いに、またはポリペプチド主鎖と水素結合を形成する。Cysは、ジスルフィド結合を形成し得る。
【0034】
ヒスチジン(His)は、6.0のpK値を有する複素環式芳香族側鎖を有する。生理学的pH範囲で、そのイミダゾール環は、溶液から水素イオンを取り込んだ後に、荷電されないかまたは荷電され得る。これら2つの状態は容易に利用可能であるため、Hisは化学反応を触媒するのに非常に適している。それは、酵素、例えばセリンプロテアーゼのほとんどの活性中心に見出される。
【0035】
AsPおよびGluは、生理学的pHで負に荷電される。それらの短い側鎖のため、Aspのカルボキシル基は主鎖に関してかなり剛性である。これが、多数の触媒性部位中のカルボキシル基がAspによって提供されるが、Gluにより提供されない理由であり得る。荷電酸は一般に、ポリペプチドの表面に見出される。
【0036】
さらにLysおよびArgは表面に見出される。それらは、類似のエネルギーを有する多数の回転異性体を提示する長く且つ柔軟性の側鎖を有する。いくつかの場合には、LysおよびArgは内部塩架橋の形成に関与する。ポリペプチドの表面でのそれらの曝露のため、Lysは、側鎖を修飾するかまたはLys残基のカルボニル末端でペプチド鎖を切断する酵素により頻繁に認識される残基である。
【0037】
アミノ酸の側鎖基の化学的性質は予定アミノ酸残基の選択を誘導し得る一方、所望の側鎖基化学的性質の欠如は、予定アミノ酸として用いるためのアミノ酸残基を除外するための判定基準であり得る。例えば立体的に小さいそして化学的に中性のアミノ酸、例えばアラニンは、所望の化学的性質の欠如のためルック・スルー突然変異誘発から除外される。
【0038】
3.ポリペプチド類似体ライブラリーの合成 一実施形態では、ポリペプチド類似体のライブラリーは、ポリペプチドの限定領域をコードし、そして予定アミノ酸に関する1つ以下のコドンを有する個々のオリゴヌクレオチドを合成することによりスクリーニングのために生成される。これは、オリゴヌクレオチド内の各コドン位置で、野生型ポリペプチドの合成に必要とされるコドンまたは予定アミノ酸に関するコドンを組入れることにより成し遂げられる。これは、飽和突然変異誘発、ランダム突然変異誘発またはウォーク・スルー突然変異誘発で産生されるオリゴヌクレオチドとは異なる。即ち各オリゴヌクレオチドに関して、多突然変異とは対照的に、唯一の突然変異が作製される。
【0039】
オリゴヌクレオチドは個別に産生され、次に所望により混合されるかまたはプールされ得る。野生型配列のコドンおよび予定アミノ酸に関するコドンが同一である場合、置換は作製されない。
【0040】
したがって限定領域内のアミノ酸位置の数は、作製されるオリゴヌクレオチドの最大数を確定する。例えば5つのコドン位置が予定アミノ酸を用いて変更され、次に5つのポリヌクレオチド+野生型アミノ酸配列を表す1つのポリヌクレオチドが合成される。2またはそれ以上の領域は同時に変更され得る。
【0041】
ライブラリーの生成のためのオリゴヌクレオチドの混合物は、DNA合成に関して既知の方法により容易に合成され得る。好ましい方法は、固相β−シアノエチルホスホルアミダイト化学の使用を包含する(米国特許第4,725,677号参照)。
【0042】
便利のために、ヌクレオチドの特定試薬容器を含有する自動DNA合成のための器械が用いられ得る。ポリヌクレオチドも、制限部位またはプライマーハイブリダイゼーション部位を含有するために合成されて、より大型の遺伝子情況への例えば限定領域を表すポリヌクレオチドの導入またはアセンブリーを促す。
【0043】
合成ポリヌクレオチドは、標準遺伝子工学処理技法を用いることにより突然変異化されているポリペプチドのより大型の遺伝子情況に挿入され得る。例えばポリヌクレオチドは、制限酵素のためのフランキング認識部位を含有するために作製され得る(米国特許第4,888,286号(Crea, R.)参照)。認識部位は、天然に存在するかまたはその領域をコードするDNA隣接した遺伝子中に導入される認識部位に対応するよう設計される。二本鎖形態への転換後、ポリヌクレオチドは標準技法により遺伝子に結繋される。適切なベクター(例えばファージベクター、プラスミドを含む)により、遺伝子は、突然変異体ポリペプチドの発現に適した無細胞抽出物、ファージ、原核生物細胞または真核生物細胞中に導入され得る。
【0044】
突然変異化されるべきポリペプチドのアミノ酸配列が既知であるか、またはDNA配列が既知である場合、遺伝子合成は考え得る一アプローチである。例えば部分的重複ポリヌクレオチド、典型的には約20〜60ヌクレオチド長が設計され得る。次に内部ポリヌクレオチドがリン酸化され、それらの相補的相手にアニーリングされて、二本鎖DNA分子を生じ、さらなるアニーリングのために有用な一本鎖伸長部分を伴う。次にアニール化対
は一緒に混合され、結繋されて、全長二本鎖分子を生成する(例えば図8参照)。便利な制限部位は、適切なベクター中へのクローニングのために合成遺伝子の末端近くに設計され得る。全長分子は、それらの制限酵素で切断されて、適切なベクターに結繋され得る。便利な制限部位は、突然変異原性カセットの導入を促すために、合成遺伝子の配列中にも組入れられ得る。
【0045】
全長二本鎖遺伝子を表すポリヌクレオチドを合成するための代替物として、それらの3‘末端で部分的に重複する(即ち相補的3’末端を有する)ポリヌクレオチドがギャップ化構造に集合され、次に適切なポリメラーゼで充填されて、全長二本鎖遺伝子を作製する。典型的には重複ポリヌクレオチドは、40〜90ヌクレオチド長である。伸長ポリヌクレオチドは次に結繋される。便利な制限部位が、クローニング目的のために末端および/または内部に導入され得る。単数または複数の適切な制限酵素で消化後、遺伝子断片は適切なベクターに結繋される。あるいは遺伝子断片は、適切なベクターに結繋された平滑末端であり得る。
【0046】
これらのアプローチでは、便利な制限部位は遺伝子アセンブリー後に利用可能(天然にまたは工学処理されて)である場合、縮重ポリヌクレオチドは、その後、適切なベクター中にカセットをクローニングすることにより導入され得る。あるいは縮重ポリヌクレオチドは、遺伝子アセンブリーの段階で組入れられ得る。例えば遺伝子の両鎖が完全に化学的に合成される場合、重複および相補的縮重ポリヌクレオチドが生成され得る。相補的対は、互いにアニーリングされる。
【0047】
部分的重複ポリヌクレオチドが遺伝子アセンブリーで用いられる場合、一組の縮重ヌクレオチドもポリヌクレオチドの1つの代わりに直接組入れられ得る。適切な相補鎖は、ポリメラーゼを用いた酵素的伸長により他の鎖からの部分的相補的ポリヌクレオチドからの伸長反応中に合成される。合成段階での縮重ポリヌクレオチドの組入れもクローニングを簡素化するが、この場合、遺伝子の1つより多いドメインまたは限定領域が突然変異化される。
【0048】
別のアプローチでは、当該遺伝子は、一本鎖プラスミド上に存在する。例えば遺伝子は、ファージベクター、あるいはヘルパーファージの使用に伴い一本鎖分子の増殖を可能にする糸状ファージ複製の起源を有するベクター中にクローン化される。一本鎖鋳型は、所望の突然変異を表す一組の縮重ポリヌクレオチドとアニーリングされ、伸長され、結繋されて、したがって、適切な宿主中に導入され得る分子の一集団中に各類似体鎖を組入れ得る(Sayers, J.R. et al., Nucleic Acids Res. 16: 791-802 (1988))。このアプローチは、多数のドメインが突然変異誘発のために選択される多クローニング工程を回避し得る。
【0049】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法は、遺伝子中にポリヌクレオチドを組入れるためにも用いられ得る。例えばポリヌクレオチドそれ自体は、伸長のためのプライマーとして用いられ得る。このアプローチでは、限定領域に対応する突然変異原カセット(またはその部分)をコードするポリヌクレオチドは、巣kも一部は、互いに相補的であり、そしてポリメラーゼを用いて、例えばPCR増幅を用いて、大型遺伝子カセットを生成するために伸張され得る。
【0050】
ライブラリーのサイズは、領域の長さおよび数、ならびに突然変異化される領域内のアミノ酸によって変わる。好ましくはライブラリーは、1015、1014、1013、1012、1011、1010、109、108、107未満のさらに好ましくは106またはそれ未満のポリペプチド類似体を含有するよう設計される。
【0051】
上記の説明は、対応するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを変更することによるポリペプチドの突然変異誘発およびポリペプチドのライブラリーに集中する。しかしながら本発明の範囲は、タンパク質化学を用いた所望のポリペプチド類似体の直接合成によりポリペプチドの突然変異化する方法も包含する、と理解される。このアプローチを実行するに際して、その結果生じるポリペプチドは本発明の特徴を依然として組入れるが、但し、ポリヌクレオチド中間体の使用は排除される。
【0052】
上記のライブラリーに関しては、ポリヌクレオチドの形態であれ、および/または対応するポリペプチドの形態であれ、ライブラリーは個体支持体、例えばマイクロチップにも結合され得る氏、好ましくは当該技術分野で認識された技法を用いて配列され得る、と理解される。
【0053】
4.発現およびスクリーニング系 上記の技法またはその他の適切な技法のいずれかにより生成されるポリヌクレオチドのライブラリーが発現され、スクリーニングされて、所望の構造および/または活性を有するポリペプチド類似体を同定し得る。ポリペプチド類似体の発現は、当該技術分野で既知の任意の適切な発現ディスプレー系、例えば無細胞抽出ディスプレー系(例えばリボソームディスプレーおよびアレイ化(例えばマイクロアレイ化またはマクロアレイ化)ディスプレー系)、細菌ディスプレー系、ファージディスプレー系、原核生物細胞および/または真核生物細胞(例えば酵母ディスプレー系)(これらに限定されない)を用いて実行され得る。
【0054】
一実施形態では、ポリヌクレオチドは、無細胞抽出物中で発現され得る鋳型として役立つよう工学処理される。例えば米国特許第5,324,637号;第5,492,817号;第5,665,563号に記載されたようなベクターおよび抽出物が用いられ、そして多くは市販されている。ポリヌクレオチド(即ち遺伝子型)をポリペプチド(即ち表現型)に関連させるためのリボソームディスプレーおよびその他の無細胞技法、例えばプロヒュージョンTMが用いられ得る(例えば米国特許第6,348,315号;第6,261,804号;第6,258,558号および第6,214,553号参照)。
【0055】
あるいは本発明のポリヌクレオチドは、便利な大腸菌発現系中で、例えばPluckthunおよびSkerra(Pluckthun,
A. and Skerra, A., Meth. Enzymol. 178: 476-515 (1989); Skerra, A. et al.,
Biotechnology 9: 273-278 (1991))により記載されたものにおいて発現され得る。突然変異体タンパク質は、M. Better and A. Horwitz, Meth. Enzymol. 178: 476 (1989)により記載されているように、媒質中でおよび/または細菌の細胞質中での分泌のために発現され得る。一実施形態では、VHおよびVLをコードする単一ドメインは各々、シグナル配列、例えばompA、phoAまたはpelBシグナル配列をコードする一配列の3’末端に結合される(Lei, S.P. et al., J. Bacteriol.
169: 4379 (1987))。これらの遺伝子融合物は、それらが単一ベクターから発現され、そして大腸菌のペリプラズム空間中に分泌され、ここでそれらは再フォールディングされて、活性形態で回収され得る(Skerra, A. et al., Biotechnology 9: 273-278 (1991))。例えば抗体重鎖遺伝子は、抗体軽鎖遺伝子と同時発生的に発現されて、抗体または抗体断片を産生し得る。
【0056】
さらに別の実施形態では、ポリヌクレオチドは、例えば米国特許第6,423,538号;第6,331,391号および第6,300,065号に記載されているような酵母ディスプレーを用いて、真核生物細胞、例えば酵母中で発現され得る。このアプローチでは、ライブラリーのポリペプチド類似体は、酵母の表面で発現されディスプレーされるポリペプチドと融合される。本発明のポリペプチドの発現のためのその他の真核生物細胞、例えば哺乳類細胞、例えば骨髄腫細胞、ハイブリドーマ細胞またはチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞も用いられ得る。典型的には、ポリペプチド類似体は、哺乳類細胞中で発現される場合、培地中で発現されるよう、またはこのような細胞の表面で発現されるよう設計される。抗体または抗体断片は、例えば全抗体分子として、または個々のVHおよびVL断片、Fab断片、単一ドメインとして、または一本鎖(sFv)として産生され得る(Huston, J.S. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85: 5879-5883 (1988)参照)。
【0057】
発現ポリペプチド類似体(または直接合成により産生されるポリペプチド)のスクリーニングは、適切な手段により実行され得る。例えば結合活性は、標準イムノアッセイおよび/またはアフィニティークロマトグラフィーにより評価され、そして触媒活性は、基質転換のための適切な検定により確かめられ得る。タンパク質分解機能に関する本発明のポリペプチド類似体のスクリーニングは、例えば米国特許第5,798,208号に記載されたような標準ヘモグロビンプラーク検定を用いて成し遂げられ得る。
【0058】
5.コンピューターモデリング援用ルック・スルー突然変異誘発 本発明のルック・スルー突然変異誘発はまた、所望の改善機能を有する類似体を生成するための能力が増大されるよう、生成されるべきポリペプチド類似体に関する構造またはモデリング情報の利点を用いて実行され得る。構造またはモデリング情報は、限定領域中に導入するよう予定アミノ酸の選択を誘導するためにも用いられ得る。さらに、本発明のポリペプチド類似体を用いて得られる実際的結果は、反復方式で作製され、スクリーニングされるべきその後のポリペプチドの選択(または除外)を誘導し得る。したがって構造またはモデリング情報を用いて、本発明に用いるためのポリペプチドの最初のサブセットを生成し、それにより改善ポリペプチドを生成する効率をさらに増大し得る。
【0059】
特定の実施形態では、インシリコモデリングを用いて、不十分なまたは望ましくない構造および/または機能を有することが予測される任意のポリペプチド類似体の産生を排除する。このようにして、産生されるべきポリペプチド類似体の数が明確に低減され、それによりその後のスクリーニング検定におけるシグナル−ノイズを増大し得る。別の特定の実施形態では、インシリコモデリングは、インシリコ データベースがその予測能力においてより精確になるよう、任意の関連供給源から、例えば遺伝子およびタンパク質配列からの付加的モデリング情報、ならびに三次元データベースおよび/または前に試験された類似体からの結果を用いて継続的に更新される(図19)。
【0060】
さらに別の実施形態では、インシリコ データベースは、前に試験されたポリペプチド類似体の検定結果とともに提供されて、応答体または非応答体として、例えば良好に結合するかまたはそれほど良好には結合しないポリペプチド類似体として、あるいは酵素的/触媒的であるかまたはそれほど酵素的/触媒的ではないとして、単数または複数の検定判定基準に基づいて、類似体を分類する。このようにして、本発明のガイド・スルー突然変異誘発は、一連の機能的応答を特定の構造情報と同等とみなし、そして試験されるべき将来的ポリペプチド類似体の産生を誘導するためにこのような情報を使用し得る。したがって本方法は、特定の機能、例えば結合親和性(例えば特異性)、安定性(例えば半減期)および/またはエフェクター機能(例えば補体活性化およびADCC)に関して抗体または抗体断片をスクリーニングするために特に適している。したがって領域内の不連続残基の突然変異誘発は、例えばインシリコ モデリングにより、領域内のある種の残基が所望の機能に参加しない、ということが既知である場合には、望ましいものであり得る。限定領域間の配位構造および空間的相関関係、例えばポリペプチドの限定領域中の機能性アミノ酸残基、例えば導入された予定アミノ酸残基(単数または複数)が考慮され、モデリングされ得る。このようなモデリング判定基準としては、例えばアミノ酸残基側鎖基化学、原子距離、結晶学的データ等が挙げられる。したがって産生されるべきポリペプチド類似体の数は、インテリジェントに最小化され得る。
【0061】
好ましい実施形態では、1つまたは複数の上記の工程がコンピューター援用される。本方法は、一部または全部が、例えばコンピューター駆動デバイスのような装置によっても容易に実行される。したがって本方法を実行するための命令は、一部または全部が、命令を実行するための電子装置に用いるのに適した媒体に付与され得る。要するに本発明の方法は、ソフトウエア(例えばコンピューター読取り可能命令)およびハードウエア(例えばコンピューター、ロボティクスおよびチップ)を含む高処理量アプローチに改善可能である。
【0062】
6.多限定領域の組合せ化学の探究 本発明は、同時的に、ポリペプチドのいくつかの異なる領域またはドメインの突然変異誘発による評価を可能にするという重要な利点を提供する。これは、各領域内の同一のまたは異なる予定アミノ酸を用いて実行されて、立体配座的に関連する領域、例えばポリペプチドのフォールディング時に機能性部位(例えば抗体の結合部位または酵素の触媒部位)を作り上げるために会合される領域におけるアミノ酸置換の評価を可能にする。これは次に、新規のまたは改善された機能性部位を作製する効率的方法を提供する。
【0063】
例えば図14に示したように、抗体結合部位(Fv領域)の独特の態様を作り上げる抗体の6つのCDRは、この部位における選定アミノ酸の三次元相関関係を試験するために、VHまたはVL鎖内で同時にまたは別々に突然変異化され得る。一実施形態では、3つまたはそれ以上の限定領域、好ましくは6つの限定領域、例えば抗体重鎖および軽鎖可変部の6つのCDRの組合せ化学は、ルック・スルー突然変異誘発を用いて、体系的に探究される。CDRに関するルック・スルー突然変異誘発を実施するために、典型的には、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25またはそれ以上のアミノ酸位置が変更される。
【0064】
したがって本発明は、多数の異なる種類の新規の且つ改善されたポリペプチドの設計の新しい可能性を開拓する。本方法を用いて、タンパク質の既存の構造または機能を改善し得る。例えば抗体または抗体断片に関する結合部位が導入され得る氏、あるいは先在抗原、エフェクター機能および/または安定性が改善され得る。あるいは酵素の触媒ドメインへの付加的な「触媒的に重要な」アミノ酸の導入が実施されて、基質に対して改質されたまたは増強された触媒活性を生じる。あるいは全体的に新しい構造、特異性または活性がポリペプチドに導入され得る。酵素活性のde novo合成が、同様に達成され得る。新規の構造は、本発明の方法により関連領域のみを突然変異化することにより、先在タンパク質の天然のまたはコンセンサス「足場」上に構築され得る。
【0065】
7.新規のまたは改善された抗体を作製するためのルック・スルー突然変異誘発 本発明の方法は、抗体分子を修飾するために特に有用である。本明細書中で用いる場合、抗体分子または抗体とは、抗体またはその部分、例えば全長抗体、Fv分子、またはその他の抗体断片、その個々の鎖または断片(例えばFvの一本鎖)、一本鎖抗体、ならびにキメラ抗体を指す。変更は、抗体の可変部におよび/またはフレームワーク(定常)部に導入される。可変部の修飾は、良好な抗原結合特性を、そして所望により触媒特性を有する抗体を産生し得る。フレームワーク領域の修飾も、化学−物理的特性、例えば溶解度または安定性(例えば半減期)(これは例えば商業的生産において特に有用である)、生物学的利用能、エフェクター機能(例えば補体活性化および/またはADCC)ならびに抗原に対する結合親和性(例えば特異性)の改善をもたらし得る。典型的には突然変異誘発は、抗体分子のFv領域、即ち2つの鎖(一方は重鎖(VH)から、もう一方は軽鎖(VL)から)の可変部を作り上げる抗原結合活性に関与する構造を標的にする。所望の抗原結合特質が一旦同定されれば、可変部(単数または複数)は適切な種類の抗体、例えばIgG、IgM、IgA、IgDまたはIgEに工学処理され得る。
【0066】
8.触媒/酵素性ポリペプチドを作製し/改善するためのルック・スルー突然変異誘発 本発明の方法はまた、触媒タンパク質、特に触媒抗体の設計に特に適している。目下、触媒抗体は、標準体細胞融合技法の適合により調製され得る。この方法では、動物は、遷移状態の所望の基質に類似する抗原で免疫感作されて、遷移状態と結合し、反応を触媒する抗体の産生を誘導する。抗体産生細胞は動物から採取され、不死化細胞と融合されて、ハイブリッド細胞を産生する。次にこれらの細胞は、反応を触媒する抗体の分泌に関してスクリーニングされる。この工程は、遷移状態の基質の類似体の利用可能性によっている。本工程は、このような類似体がほとんどの場合において同定または合成するのが難しいと思われるため、制限され得る。
【0067】
本発明の方法は、遷移状態類似体の必要性を排除する異なるアプローチを提供する。本発明の方法により、抗体は、免疫グロブリンの結合部位(Fv領域)への適切なアミノ酸の導入により、触媒性にされ得る。抗原結合部位(Fv)領域は、6つの超可変性(CDR)ループから作られ(このうち3つは免疫グロブリン重鎖(H)に、そして3つは軽鎖(L)に由来する)、これは各サブユニット内のβ鎖を連結する。CDRループのアミノ酸残基は、ほぼ全てが、各特異的モノクローナル抗体の結合特性に寄与する。例えばセリンプロテアーゼ後にモデル化された触媒性三つ組(アミノ酸残基セリン、ヒスチジンおよびアスパラギン酸からなる)は、基質分子に対する既知の親和性を有する抗体のFv領域の超可変性セグメント中に作製され、基質のタンパク質分解活性に関してスクリーニングされ得る。
【0068】
特に本発明の方法は、多数の異なる酵素または触媒的抗体、例えばオキシドレダクターゼ、トランスフェラーゼ、ヒドロラーゼ、リアーゼ、イソメラーゼおよびリガーゼを産生するために用いられ得る。これらのクラスの中で、特に重要性を有するのは、改善されたプロテアーゼ、カルボヒドラーゼ、リパーゼ、ジオキシゲナーゼおよびペルオキシダーゼの産生である。本発明の方法により調製され得るこれらのおよびその他の酵素は、健康ケア、化粧品、食品、醸造業、洗剤、環境(例えば廃水処理)、農業、製革、テキスタイルおよびその他の化学的製法における酵素変換に関して重要な商業的用途を有する。例えば繊維素溶解活性、または感染性に必要なウイルス構造、例えばウイルスコートタンパク質に対する活性を有する治療的有効なプロテアーゼが工学処理され得る。このようなプロテアーゼは、有用な抗血栓症薬、あるいはウイルス、例えばHIV、ライノウイルス、インフルエンザまたは肝炎ウイルスに対する抗ウイルス薬であり得る。芳香族環またはその他の二重結合の酸化のための補因子を必要とする酵素の一クラスであるオキシゲナーゼ(例えばジオキシゲナーゼ)の場合、
バイオパルピング製法における工業的応用、バイオマスの燃料またはその他の化学物質への転化、廃水夾雑物の転化、石炭のバイオプロセシング、ならびに有害有機化合物の解毒は、新規のタンパク質の考え得る用途である。
【0069】
以下の実施例で本発明をさらに例証するが、これらは本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0070】
実施例全体を通して、別記しない限り、以下の材料および方法を用いた。材料および方法 概して、本発明の実行は、別記しない限り、化学、分子生物学、組換えDNA技術、PCR技術、免疫学(特に例えば抗体技術)、発現系(例えば無細胞発現、ファージディスプレー、リボソームディスプレーおよびプロヒュージョンTM)、ならびに当該技術分野技術の範囲内であり、そして文献中に説明されている任意の必要な細胞培養の慣用的技法を用いる。例えばSambrook, Fritsch and Maniatis, Molecular Cloning: Cold Spring
Harbor Laboratory Press(1989);DNA
Cloning, Vols. 1 and 2, (D.N. Glover, Ed. 1985); Oligonucleotide Synthesis(M.J.
Gait, Ed. 1984); PCR Handbook Current Protocols in Nucleic Acid Chemistry,
Beaucage, Ed. John Wiley & Sons (1999)(Editor); Oxford Handbook of Nucleic
Acid Structure, Neidle, Ed., Oxford Univ Press (1999); PCR Protocols: A Guide
to Methods and Applications, Innis et al., Academic Press (1990); PCR Essential
Techniques: Essential Techniques, Burke, Ed., John Wiley & Son Ltd (1996);
The PCR Technique: RT-PCR Siebert, Ed., Eaton Pub. Co. (1998); Antibody
Engineering Protocols (Methods in Molecular Biology), 510, Paul, S., Humana Pr
(1996); Antibody Engineering: A Practical Approach (Practical Approach Series,
169), McCafferty, Ed., Irl Pr (1999); Antibodies: A Laboratory Manual, Harlow
et al., C.S.H.L. Press, Pub. (1999); Current Protocols in Molecular Biology,
eds. Ausubel et al., John Wiley & Sons (1992); Large-Scale Mammalian Cell
Culture Technology, Lubiniecki, A., Ed., Marcel Dekker, Pub., (1990). Phage
Display: A Laboratory Manual, C. Barbas (Ed.), CSHL Press, (2001); Antibody
Phage Display, P O’Brien (Ed.), Humana Press (2001); Border et al., Yeast
surface display for screening combinatorial polypeptide libraries, Nature
Biotechnology, 15(6): 553-7 (1997); Border et al., Yeast surface display for
directed evolution of protein expression, affinity, and stability, Methods
Enzymol., 328: 430-44 (2000);米国特許第6,348,315号(Pluckthun等)に記載されたようなリボソーム ディスプレー、ならびに米国特許第6,258,558号;第6,261,804号および第6,214,553号(Szostak等)に記載されたようなプロヒュージョンTMを参照されたい。
【0071】
実施例1抗原結合分子における3つの限定領域のルック・スルー突然変異誘発 本実施例では、基質の結合およびタンパク質分解を改善するための抗体の3つのCDRのルック・スルー突然変異誘発を記載する。
【0072】
特にモノクローナル抗体の3つの相補性決定領域(CDR)の「ルック・スルー」突然変異誘発を実施する。重鎖可変部(VH)のCDR1、CDR2およびCDR3は、ルック・スルー突然変異誘発のために選択される限定領域である。この実施形態に関しては、選択される予定アミノ酸は、セリンプロテアーゼの触媒性三つ組の3つの残基、Asp、HisおよびSerである。AspはVA CDR1のために選択され、HisはVL CDR2のために選択され、そしてSerはVH CDR3のために選択される。これら3つの予定アミノ酸の選択は、3つの残基が機能活性、すなわち試験基質のタンパク質分解を示すよう正確に配置された場合に検出されるために便利なプロテアーゼ検定の使用を可能にする。
【0073】
例示的抗体MCPC603は、抗体結合領域が良好に特性化されているため、結合および触媒を検査するための良好なモデルとして認識されている。MCPC603 VHおよびVL領域のアミノ酸配列およびDNA配列は、公的に利用可能である(例えばRudikoff, S. and Potter, M., Biochemistry 13: 4033 (1974);
Pluckthun, A. et al., Cold Spring Harbor Symp. Quant. Biol., Vol. LII: 105-112
(1987)参照)。MCPC603抗体に関するCDRは、図2に示したように同定されている。重鎖において、CDR1はアミノ酸残基位置31〜35に亘り、CDR2は位置50〜69に亘り、そしてCDR3は位置101〜111に及ぶ。軽鎖では、CDR1のアミノ酸残基は24〜40であり、CDR2はアミノ酸55〜62に亘り、そしてCDR3はアミノ酸95〜103に及ぶ。
【0074】
MCPC603のCDRにおけるルック・スルー突然変異誘発のためのオリゴヌクレオチドの設計は、図3〜5に示したようなCDR1、CDR2およびCDR3に関するアミノ酸配列を有するポリペプチド類似体を生じるものである。合成されるオリゴヌクレオチドは、図7に示したような標的構築物への挿入を促すよう変更されるべきCDR領域より大きい可能性がある、と理解される。一本鎖抗体フォーマットは、その後の発現およびスクリーニング段階での便利のために選択される。オリゴヌクレオチドは酵素的技法により二本鎖に転換され(例えばOliphant, A.R. et al., 1986、上記、参照)、そして次に、図8に示したように制限プラスミドに結繋される。制限部位は、天然部位であるかまたは工学処理制限部位であり得る。
【0075】
対応するポリペプチド類似体をコードするポリヌクレオチドは、本明細書中に記載された便利な発現系のいずれかにおいて発現され、そして例えば米国特許第号に記載されたセリンプロテアーゼ検定を用いてスクリーニングされる(図16〜17も参照)。
【0076】
要するに、発現ポリペプチド類似体を試験基質に曝露し、そして試験基質のタンパク質分解に関して検査する。基質のクリアランスの区域により明示されるタンパク質分解の量は、所望の機能活性を有するポリペプチド類似体を示す。
【0077】
実施例2抗原結合分子における6つの限定領域のルック・スルー突然変異誘発 本実施例では、基質の結合およびタンパク質分解を改善するための抗体の6つのCDR全てのルック・スルー突然変異誘発を記載する。
【0078】
特に、上記のモデル抗体(MCPC603)の6つの超可変部または相補性決定領域(CDR)全ての「ルック・スルー」突然変異誘発を実施する。本実施例では、「ルック・スルー」突然変異誘発は、所定の領域またはドメイン中の異なるアミノ酸を用いて、2〜3回実行する。例えばAsp、SerおよびHisは、図10に示したように重鎖および軽鎖を逐次的にウォーク・スルーされる。
【0079】
領域中のある種の残基が所望の機能に参加しない、ということが既知であるかまたは推測し得る場合には、領域内の不連続残基の突然変異誘発が望ましい。さらに類似体の数は最小限にされ得る。予定アミノ酸ならびに変更されるべき特定位置の選択に際してさらに考慮すべきは、残基が互いに水素結合し得るようでなければならない、ということである。この考慮すべき事柄は、生成される変異体に近接拘束を課し得る。したがってCDR内のある位置のみが、触媒性三つ組のアミノ酸を適正に相互作用させ得る。したがって分子モデリングまたはその他の構造情報を用いて、機能性変異体を濃化し得る。
【0080】
この場合、既知の構造情報は、Asp、HisおよびSer間の水素結合を可能にするのに十分に近い領域の残基、ならびに突然変異化されるべき残基の範囲を同定するために用いた。Roberts等は、CDRの部分間の密接な接触の領域を同定した(Roberts,
V.A. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87: 6654-6658 (1990))。この情報は、MCPC603のx線構造からのデータと一緒に用いて、突然変異誘発のために標的化されるCDRの中の密接接触の見込みのある領域を選択する。構造/モデリング情報により誘導されるこの種類のルック・スルー突然変異誘発は、「ガイド・スルー」突然変異誘発と呼ばれ得る。
【0081】
ルック・スルー突然変異誘発を、図10に例示されたように実行するが、この場合、各CDRは一予定アミノ酸を施されて、8×10E5ポリペプチド類似体を、そして20のアミノ酸全てが調べられる場合には、5×10E13ポリペプチド類似体を生じる。 ポリヌクレオチドは、本明細書中に記載された便利な発現系のいずれかで発現され、そして例えば米国特許第5,798,208号に記載されたセリンプロテアーゼを用いてスクリーニングされ得る。要するに、発現ポリペプチド類似体を試験基質に曝露し、そして試験基質のタンパク質分解に関して検査する。基質のクリアランスの区域により明示されるタンパク質分解の量は、所望の機能活性を有するポリペプチド類似体を示す。
【0082】
実施例3機能を改善するための抗TNF結合分子のルック・スルー突然変異誘発 本実施例では、結合を改善するための抗TNF抗体のルック・スルー突然変異誘発を記載する。 特に2つの異なる抗TNF抗体の6つの超可変部または相補性決定領域(CDR)全ての「ルック・スルー」突然変異誘発を実施する。抗TNF抗体は、不適切なレベルのリガンドTNF(腫瘍壊死因子)を有する患者における免疫疾患の治療に一般的用途を有する。2つの市販抗TNF抗体が存在する。ルック・突然変異誘発およびその後のスクリーニングを実施する際の便利のために、これらの抗体の軽鎖および重鎖可変部(配列番号2〜4参照)を、ポリGly−Serリンカーを用いて一本鎖フォーマットに転換した(図15参照)。予定アミノ酸を有するルック・スルー突然変異誘発のために選択される限定領域を、図15に示したように黒色バーの存在により同定する。これらの限定領域は、一本鎖抗体のCDRに対応する。
【0083】
6つのCDR領域および図15に示した完全一本鎖配列へのポリヌクレオチドのアセンブリーを可能にするのに十分なフランキング領域を表すポリヌクレオチドを、本明細書中に記載したように合成する。予定アミノ酸残基を各CDR領域に関して選択し、そして6つのCDR領域全体を通して各アミノ酸位置に、別々におよび逐次的に導入する。ポリヌクレオチドをさらに工学処理して、対応するRNA転写体の転写を支持し得る鋳型として役立て、これを次にリボソームディスプレーを用いてポリペプチドに翻訳し得る。
【0084】
対応するポリペプチド類似体をコードするポリヌクレオチドを、無細胞転写および翻訳抽出物を用いて発現する。RNA転写体を、検出可能部分、例えば蛍光部分に共有結合する。あるいは当該配列をフレーム中で蛍光部分、例えばグリーン蛍光タンパク質(GFP)と融合して、結合物対非結合物の発現および標準化の便利な検出を可能にする。好ましくはポリペプチド類似体をコードするポリヌクレオチドは、少なくとも部分的に配列され、例えば多ポリペプチド類似体を有するウエル中で発現されるが、しかし容易にたたみ込まれ得ない。したがって各ウエルは、リボソームディスプレーを用いて蛍光部分に連結された対応する転写体にここで連結されたポリペプチド類似体のサブセットを含有する。ウエルを、標的リガンド、例えばTNFを用いてプローブし、そして結合するペプチド類似体に関して、そして野生型ポリペプチドと比較した場合に結合親和性を有するものに関して検定する。
【0085】
次に、野生型ポリペプチドより良好に結合するポリペプチド類似体を、標準技法を用いて、結合改良のために類似の市販抗体を用いた平行試験のための全長IgG抗体フォーマットに工学処理する。
【0086】
実施例4機能を改善するためのボツリヌス神経毒血清型B(BoNT/B)およびボツリヌス神経毒血清型A(BoNT/A)に対する抗体のルック・スルー突然変異誘発 本実施例では、機能を改善するためにルック・スルー突然変異誘発(LTM)を用いて、ボツリヌス神経毒血清型B(BoNT/B)およびボツリヌス神経毒血清型A(BoNT/A)に対する改善された抗体を生成する。LTMアプローチは、サイズ、電荷、疎水性および水素結合特質を探究する20のアミノ酸のサブセット(LTM組)を基礎にした結合ポケット全体を通してCDR当たり単一突然変異を作製することを基礎にする。LTM組におけるアミノ酸の選択のための判定基準を以下で考察する。
【0087】
1.抗体精製および遺伝子シーケンシングおよび一本鎖(scFv)設計 BoNT/Bに対する結合親和性を有するネズミ抗体断片(Fab)を、Emaneul et al. (1996) Journal of Immunological Methods 193: 189-197に記載されているのと同様にして得た。BotFab5(配列番号10および11、それぞれ軽鎖および重鎖ポリペプチド)、BotFab20(配列番号12および13、それぞれ軽鎖および重鎖ポリペプチド)またはBotFab22(配列番号14および15、それぞれ軽鎖および重鎖ポリペプチド)抗体を用い得る。上記の配列は、米国特許第5,932,449号に記載されている(この記載内容は、参照により本明細書中で援用される)。ネズミBoNT/B抗原(全長毒素、軽鎖および/または重鎖)は、Metabiologics, Inc., WIから入手し得る。
【0088】
Pless
et al. (2001) Infect. Immun. 69: 570に記載された抗BoNT/A抗体は、少なくとも1等級だけそれらの親和性を改善する目的で用い得る。BoNT/A重鎖結合ドメイン(BoNT/A Hc)抗原は、Metabiologics, Inc., WIから入手し得る。
【0089】
標準分子生物学技法を用いて、抗体(単数または複数)のVLおよびVH断片をクローン化し、シーケンシングする。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により分子の可変部を増幅し、ポリ−Gly−Serリンカー(典型的にはSGGGGSGGGGSGGGGS(配列番号7))を用いて連結して、一本鎖抗体(scFv)を生成する。ポリ−Hisタグ(HHHHHH(配列番号8))およびmycタグ(EQKLISEEDL(配列番号9))も遺伝子のC末端に付加して、精製および検出を促す。これらの分子を、周知の技法(例えば酵母、細菌またはファージベースの技法)のいずれかで表示して、BoNT/BまたはBoNT/Aを結合するそれらの能力に関して試験する。
【0090】
全抗体の一価scFvバージョンは突然変異誘発試験を実行するための良好なフォーマットを提供し、そして多価分子により表示される親和性作用を除いて、全分子の結合メカニズムを一般的に再現することが既知である。
【0091】
2.ルック・スルー突然変異誘発(LTM)および遺伝子設計を用いた抗体改善 ルック・スルー突然変異誘発(LTM)のために、以下の9つのアミノ酸およびそれらの代表的機能特質を選択する:アラニンおよびロイシン(脂肪族)、セリン(ヒドロキシル基)、アスパラギン酸(酸性)およびグルタミン(アミド)、リシンおよびヒスチジン(塩基性)、チロシン(芳香族)、プロリン(疎水性)。これらのアミノ酸は、サイズ、電荷、疎水性および水素結合能力における適切な化学的多様性を表示して、抗体特性を改善するために必要とされる化学的機能性に関する有意の初期情報を提供する。選択は、抗体のCDR中のこれらのアミノ酸の出現頻度にも基づいている。例えばチロシンおよびフェニルアラニン間で芳香族側鎖を有するアミノ酸を表示すると仮定すると、抗体CDR中のその有意に高い優勢性および水素結合するその能力のために、前者が選択される。LTMを最初に用いて、最終抗体において望まれる結合、中和および/または任意の付加的特性に有益である特定のアミノ酸および化学特性を同定する。しかしながらLTMは、これらの9つのアミノ酸または9つの総アミノ酸に限定されない。LTM分析は、アミノ酸の任意の組合せを用いて実施し得るし、LTMサブセットは18アミノ酸という高い数値でもあり得る〈飽和突然変異誘発の1 short〉。
【0092】
2.1 LTMオリゴヌクレオチド合成 一次LTM分析では、目標は、各CDR内の全体的結合親和性への各アミノ酸の側鎖の寄与を調べることである。有意の多様性を効率的に生成するために、LTMサブセットアミノ酸の各々を、CDR当たり1つだけの置換を有するCDR配列内の全ての単一位置で標的化する。したがって各個々のオリゴヌクレオチドは、単一CDR突然変異のみをコードする。例えば仮定的11アミノ酸VH CDR3ドメイン上でのLTMヒスチジン突然変異誘発を実行するために、11の考え得る単一ヒスチジン突然変異をコードする11個のオリゴヌクレオチドを合成する〈図20参照〉。このような分析は、CDR中の各位置に嵩高いアミドを有するという作用を試験する。したがってVHCDR3 LTMライブラリーを生成するためには、LTM分析のために99個のオリゴヌクレオチドだけを合成する(9LTMアミノ酸×11VHCDR3位置)。公的に利用可能なソフトウエアを用いて、不適切な停止コドン、野生型重複、非効率的コドン使用、ヘアピン、ループおよびその他の二次的構造に関して、オリゴヌクレオチド配列を試験する。
【0093】
2.2 有益なLTM突然変異の組合せのための縮重オリゴヌクレオチド合成 CDR内の個々のアミノ酸の体系的LTM置換を用いる場合、各位置での化学的機能性の選択が明らかにされる。LTM選択からの全ての突然変異を組合せ、そしてこれらの間の考え得る付加性およびエネルギー相乗作用を調べるために、これらの突然変異および野生型配列をコードする縮重オリゴクレオチドを合成する。1.6×104の変異体を有するオリゴヌクレオチドのこの縮重プールをその後に用いて、これらの置換の付加的性質を調べる第二世代ライブラリーを生成する。
【0094】
2.3 コンピューター援用オリゴヌクレオチド設計、ライブラリーおよび結果データベース 自動注文作製DNA合成機と接続したソフトウエアは、迅速オリゴヌクレオチド合成を可能にする。第一段階は、標的アミノ酸がCDRに組入れられるか否かを決定することを包含する。ソフトウエアは、標的化アミノ酸配列を導入するために必要とされるコドン選択(例えば円卓される系によって、酵母、細菌またはファージコドン選択)を確定し、そしてさらにまたこの設計工程により生成され得る野生型配列の任意の重複を排除する。それは次に、停止コドン、ヘアピンおよびループ構造に関する、あるいはその後、合成前に矯正されるその他の問題の配列に関して分析する。次に完成LTM設計計画をDNA合成機に送ると、これがオリゴヌクレオチドの自動合成を実施する。このようにして、ライブラリーを作製するために必要とされるオリゴヌクレオチドを迅速に生成し得る。
【0095】
電子データベースは、合成された全てのLTMオリゴヌクレオチド配列の情報、scFvライブラリーCDR置換の詳細、ならびに標的抗原に関する結合検定結果を保存し得る。オリゴヌクレオチドデータの記録保管は、設計戦略の合理的反復、ならびに試薬オリゴヌクレオチドの再使用を可能にする。
【0096】
3.全体的LTM戦略 LTMを最初に用いて、最終抗体において望まれる結合、中和および/または任意の付加的特性に有益である特定のアミノ酸および化学特性を同定する。それは、親和性における有意の損失を伴わない(または任意の物理的特性が選択される)任意の突然変異誘発を耐容しない領域も迅速に同定する。したがってLTM分析は、抗体の全てのCDR中の各位置での化学的要件を調べるための良好な方法であるだけでなく、それは抗原結合に絶対に必要とされるアミノ酸をも迅速に確定する。LTMによる有益な突然変異の同定後、これらの本質的に異なるアミノ酸突然変異の全てを最初に組入れる組合せ突然変異誘発スキームを用いて、多数の突然変異化CDRを生成し得る。さらにまたはあるいは、「ウォーク・スルー」突然変異誘発(WTM)を用いて、CDR中の同一アミノ酸の多突然変異の作用をプローブし得る(例えば米国特許第5,830,650号;第5,798,208号に記載)。
【0097】
4.LTMscFvライブラリー 上記のLTM技法を用いて、軽鎖または重鎖の単一CDR中に突然変異を有するオリゴヌクレオチドのプールを作製する。PCR中の重複およびハイブリダイゼーションを促すために周囲フレームワークのいくつかを含むよう、これらのオリゴヌクレオチドを合成する。オリゴヌクレオチドのこれらのプールを利用して、単一重複伸長PCR〈SOE−PCR〉を用いて、単一、二重および三重CDR(CDR1、2および3の単一、二重および三重組合せ)中に突然変異が存在する全ての考え得るVLおよびVH鎖を生成する(Horton et al. (1989) Gene 77: 61-68に記載)。SOE−PCRは、制限部位、制限エンドヌクレアーゼまたはDNAリガーゼを必要としないDNA断片を併合するための迅速且つ簡単な方法である。SOE−PCRでは、idennsi中の2つの領域を、PCR産物がその一端で相補的配列を共有するよう設計されたプライマーを用いて、PCRにより先ず増幅する。PCR条件下では、相補的配列はハイブリダイズして、重複を生成する。次に相補的配列はプライマーとして作用して、DNAポリメラーゼによる伸長を可能にして、組換え分子を産生する。
【0098】
例えばCDR−H1およびCDR−H2の両方が突然変異化され、CDR−H3が野生型であるVH鎖のプール(これは「110」(1は突然変異体CDRを意味し、そして0は野生型CDRを意味する)と呼ばれる)を作製するために、CDR−H1突然変異体遺伝子を鋳型として用い、そしてSOE−PCRを実行して、CDR−H2オリゴヌクレオチドを連結して、二重突然変異化プールを生成する〈図21〉。各CDRは野生型であるかまたは突然変異体であり得るということを考慮すると、VLおよびVH鎖のプール(野生型分子「000」を含まない)の各々に関して7つの考え得る組合せ(図21二矢印で示す)が存在する。7つのVLおよび8つのVHプールの組合せは、63のVL−VH非野生型組合せ(scFv)を生じる(図21)。64のVL−VH組合せ(野生型配列を含む)の各々は、全LTMscFvライブラリー一式の「サブセット」と呼ばれる。scFvライブラリー一式を、置換のために選択される各アミノ酸に関して作製する。各サブセットライブラリー内に示されるアミノ酸配列の数は、CDRの長さ、CDR内のアミノ酸配列、およびLTMオリゴヌクレオチド設計戦略によっている。
【0099】
5.高処理量ライブラリースクリーニングおよび改良型抗体選択 抗体発現および表示のためには、種々の方法が利用可能である。これらは、バクテリオファージ、大腸菌および酵母を包含する。これらの方法の各々は抗体改善のために用いられてきたが、しかし酵母ディスプレー系はいくつかの利点を提供する(Boder and Wittrup (1997) Nat. Biotechnol. 15: 553-557)。酵母は107までのライブラリサイズを容易に収容し、各々の103〜105コピーが各細胞表面に表示される。酵母は、フローサイトメトリーおよび蛍光活性化細胞選別(FACS)または磁気ビーズを用いて、容易にスクリーニングされ、分離される。酵母は、迅速選択および再増殖も提供する。真核生物分泌系および酵母の解糖経路は、原核生物ディスプレー系よりはるかに大きいscFv分子のサブセットを正確にフォールディングさせ、細胞表面に表示させる。定向進化と結び付けられた酵母ディスプレーを用いて、フルオレセインに関するscFc抗体断片のKDを48 fM(従来報告された一価リガンドより結合が2等級強力である)に増大した(Boder et al. (2000) PNAS 97:
10701-10705)。ディスプレー系は、a−アグルチニン酵母接着受容体を利用して、細胞表面にタンパク質を表示する。当該タンパク質は、本発明の場合、抗BoTN/BscFv LTMライブラリーまたは抗BoTN/AscFv LTMライブラリーを、Aga2タンパク質との融合相手として発現する。これらの融合タンパク質は、細胞から分泌され、そしてAga1タンパク質とジスルフィド結合されるようになり、これが酵母細胞壁に付着される(Invitrogen、pYD1酵母ディスプレー産物文献参照)。さらに包含されるカルボキシル末端タグが存在し、これを用いて、発現レベルをモニタリングし、および/または結合親和性測定値を正規化し得る。
【0100】
ストレプタビジン被覆磁気ビーズ(Spherotech)を用いて、高親和性でBoNT/BまたはBoNT/Aと結合する抗体に関してスクリーニングし、選択する。この方法は、ビオチニル化抗原と結合する高親和性抗体を用い、これは次に、酵母クローンに関して選択するために、ストレプタビジン被覆ビーズと結合する(Yeung and Wittrup (2002) Biotechnol. Prog 18: 212-220およびFeldhaus et al. (2003) Nature Biotech. 21: 163-170)。BoNT/BまたはBoNT/Aポリペプチド(Metagiologics)を標準プロトコール(Pierce)を用いてビオチニル化し、そして当該技術分野で周知の方法を用いてスクリーニングを実施する。平衡および動力学ベースの選択を用いて、親和性改善を示す抗体をこれらのライブラリーから選択する。各回の選択の効力を、分析的FACS(FACScan)によりモニタリングする。さらに、酵母表面に表示される個々の分子の結合親和性を、抗体を滴定することにより測定する。これは親和性改善を示す分子の迅速同定を可能にする。次にscFvクローンをシーケンシングして、有益な突然変異を同定する。
【0101】
6.BIAcore親和性測定のための可溶性抗体の生成 当該抗体を、可溶性発現系(メタノール資化性酵母Pichia pastorisおよび/または大腸菌)中でサブクローニングして、可溶性タンパク質を生成する。可溶性抗体発現のためのいくつかの市販ベクターおよび細胞株が存在し、例としては、Invitrogen(例えばP. pastorisに関するpPIC9)およびNovagen(大腸菌におけるペリブラズム発現のためのpET20b)からのものが挙げられる。これらの系をルーチンに用いて、可溶性一本鎖または全長抗体を生成する。P. pastoris発現系(Invitrogen)は、1〜5 mg/リットルの可溶性精製scFvをルーチンに産生する。一本鎖の場合には分子のC末端のHis−タグの存在により、または全長抗体に関してはプロテインAまたはプロテインGカラムにより、タンパク質の精製を促進する。可溶性一本鎖および全長抗体を生成して、BIAcore親和性動態速度測定値を得る。酵母クローン細胞表面の高親和性scFv分子が無細胞可溶性分子として立証されねばならない場合、この段階が必要である。
【0102】
上記のように生成された可溶性一本鎖および全長抗体は、BIAcore親和性測定値を得るために、ならびに下記の神経突起伸長検定またはマウス致死性検定に用いられ得る。
【0103】
7.in vivoまたはin vitro中和に関する選定抗体のスクリーニング BoNT中毒の指標として、したがって毒素中和を低了するための手段として、一次ニワトリニューロンの神経突起伸長を用いた細胞ベースの検定を用いて、選定抗体をスクリーニングし得る。ニワトリ受精卵からの後根神経節外植片培養を用いた予備実験は、BoNT/Aで処理した外植片からの、対照より低い神経突起伸長が認められることを示した。あるいはニワトリ毛様体神経節−虹彩筋肉神経筋肉連結検定(Lomneth et al. (1990) Neuroscience Letters 113: 211-216に記載)を用い得る。
【0104】
マウス致死性検定(MLA、例えばSchantz and Kautter (1978) J. Assoc. Off. Aanl. Chem. 61: 96-99に記載)は、BoNT中和に関する試験のための別の周知の且つ許容されたin vivo方法である。本試験は、20〜30 gの白色ICR系統マウスへの、抗体を用いた場合と用いない場合の、BoNT/BまたはBoNT/Aの試料調製物約0.5 mlの腹腔内注射を包含する。呼吸不全による致死は、1〜4日に亘って認められる。中和の定量は、種々のレベルのマウスBoNT/BまたはBoNT/A LD50を用いたMAbの連続希釈を要する。MLAを用いて、in vitroスクリーニングにより同定される最適化抗体の中和能力を確定し得る。
【0105】
マウス防御検定により、in vitroで、抗体の中和能力も測定し得る(MPA、Goeschel et al.
(1997) Exp. Neurol. 147: 96-102)MPAにおいて、左横隔膜神経を、左片側横隔膜と一緒に、マウスから切除する。次に横隔膜神経を、組織浴中で、連続的に電気刺激する。精製抗体を、BoNT/BまたはBoNT/Aとともにインキュベートし、組織浴に付加する。毒素誘導性麻痺を、初期筋肉痙攣の50%低減と定義する。
【0106】
均等物 本明細書中に記載した本発明の特定の実施形態に対する多数の均等物を、当業者は認識しているし、あるいはごく慣例的な実験を用いて確かめ得る。このような均等物は、以下の特許請求の範囲に包含されるよう意図される。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】図1は、ルック・スルー突然変異誘発(LTM)を用いて検査され得る例示的限定領域(またはD領域)、ならびにこのようなD領域から所望のポリペプチド類似体を同定するための機能性検定を示す。
【図2】図2は、抗体可変部における3つの限定領域(即ち抗体重鎖可変部のCDR1、CDR2およびCDR3)内のLTMの使用を示す。軽鎖可変部は、単独で、または重鎖可変部と組合せて、同様に調査され得る。その後のスクリーニング検定において便利なように、重鎖可変部は、図示されたような一本鎖抗体(sFv)の情況で調べられ得る。
【図3】図3は、重鎖可変部の限定領域(即ちCDR1の位置31〜25)内でのLTMの使用を示す。
【図4】図4は、重鎖可変部の限定領域(即ちCDR2の位置55〜68)内でのLTMの使用を示す。
【図5】図5は、重鎖可変部の限定領域(即ちCDR3の位置101〜111)内でのLTMの使用を示す。
【図6】図6は、ウォーク・スルー突然変異誘発と比較した場合のLTMの利点を示す。代表的限定領域、即ち抗体重鎖可変部のCDR1のLTMは、いかなる望ましくないアミノ酸残基またはいわゆるノイズも導入せずに、限定領域全体を通して各アミノ酸位置の逐次的変化を生じる。
【図7】図7は、ルック・スルー突然変異誘発後の全体的タンパク質情況への一タンパク質の3つの限定領域の戻し組込み、特にルック・スルー突然変異誘発後の一本鎖抗体フォーマット中への抗体重鎖可変部の3つのCDR全ての組込みを示す。
【図8】図8は、より大型遺伝子情況へのLTMに付された抗体重鎖および軽鎖の限定領域を構築するためのポリメラーゼ連鎖反応(PCR)の使用を示す。
【図9】図9は、例えばセリン、ヒスチジンおよび/またはアスパラギン酸を含む触媒部位を得るための抗体可変部におけるCDRの各々の例示的多用性フォーマット、ならびにそれらが配列され得る方法を示す。
【図10】図10は、LTMに付された抗体の結合領域の6つのCDR全ての組込み、ならびに1予定アミノ酸残基または20の異なる予定アミノ酸残基が用いられた場合の、その結果生じる多様性を示す。
【0108】
【図11】図11は、LTMに付された抗TNF一本鎖抗体(sFv)の結合領域の6つのCDR全ての組込み、ならびに1予定アミノ酸残基または3つの異なる予定アミノ酸残基が用いられた場合の、その結果生じる多様性を示す。
【図12】図12は、LTMを用いて達成され得る抗体結合領域の6つのCDRの考え得るポリペプチド類似体のいくつかを表すアレイ化ライブラリーを示す。
【図13】図13は、無細胞リボソームディスプレーを用いたアレイ化発現ライブラリーのスクリーニングを示す。
【図14】図14は、抗体可変部の結合領域(即ち6つのCDR全て)がLTMに付された場合に検査される組合せ化学を示す。
【図15】図15は、LTMに付され得るいくつかの代表的抗TNF結合分子の可変部の配列(一本鎖フォーマットでの)を示す。
【図16】図16は、LTMの触媒候補をスクリーニングするためのプロテアーゼ選択検定を実行するためのスキームを示す。
【図17】図17は、細菌細胞中で実行する場合のプロテアーゼ選択検定のメカニズム(および利点)を詳述するスキームを示す。
【図18】図18は、リボソームまたは酵母ディスプレーを用いて触媒活性、例えば触媒抗体活性に関して遺伝子ライブラリーをスクリーニングするメカニズムを詳述するフローチャートを示す。
【図19】図19は、より効率的分子設計および開発のために優先情報(例えばコンピューターモデリング情報)および経験的情報(検定結果)が調和的に働くLTMを実行するためのスキームを示す。LTMのこのガイドアプローチは、「ガイド・スルー」突然変異誘発と呼ばれる。
【図20】図20は、仮説的VHCDR3野生型配列(最上部中黒卵形)、ならびにLTM His置換(中白卵形)ライブラリー成員におけるその結果生じた配列を示す。ここのLTM His置換は、個々のオリゴヌクレオチド、例えば高処理量様式で合成されたオリゴヌクレオチドによりコードされる。このCDRドメイン中の他の(LTM)アミノ酸置換に関するLTMサブセットライブラリーは、同様の様式で構築される。
【図21】図21は、scFvライブラリーの生成を示す。x列の上部列およびy軸の左端カラムにおいて、3つの数字は軽鎖および重鎖の各々に関する3つのCDRを表す。「0」は野生型CDR配列を示し、一方「1」はLTM突然変異化CDRを示す。格子上の数字は、サブセットライブラリーの複雑度を示す。例えば行列の最上部左角は「0」であり、この場合、対応するxおよびy軸は「000」および「000」であって、これはVHおよびVL中のどのCDRもそれぞれLTM突然変異化されていないことを示す。「0」角から隣の「1」に一列動かすと、格子位置はx軸「100」およびy軸「000」で示され、これはVHCDR1が突然変異化され、一方VLCDRは全て野生型のままであることを示す。したがって同様にして、「4」という格子番号は、同様に突然変異化された4つのCDRが存在することを意味する。SOE−PCRを用いて、最初に7つのVHおよび7つのVL鎖(矢印で示されている)を作製する。次にVHおよびVL鎖を増幅し、混合して、多量のプライマーによりマッチさせて、残りのVL−VH組合せの全てを一工程で生成する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所望の構造または性能を有するポリペプチドの同定方法であって、以下の: ポリペプチドのアミノ酸配列の限定領域を選択し; 限定領域内の各アミノ酸位置で置換されるべきアミノ酸残基を確定し; 限定領域をコードする個々のポリヌクレオチドを合成し、ポリヌクレオチドは集合的に以下の判定基準: i)各ポリヌクレオチドが、限定領域中の各コドン位置に、ポリペプチドのアミノ酸残基に必要なコドンまたは予定アミノ酸残基に関するコドンのいずれかを含有し、および ii)各ポリヌクレオチドが予定アミノ酸残基に関する1つ以下のコドンを含有する、に従って考え得る変異体ポリヌクレオチドを表し: それにより、ポリヌクレオチドを含有する発現ライブラリーを生成し; ポリペプチド類似体を生成するために発現ライブラリーを発現し;そして 所望の構造または機能を有するポリペプチドに関して選択されるポリペプチド類似体をスクリーニングすることを包含する方法。
【請求項1】
所望の構造または性能を有するポリペプチドの同定方法であって、以下の: ポリペプチドのアミノ酸配列の限定領域を選択し; 限定領域内の各アミノ酸位置で置換されるべきアミノ酸残基を確定し; 限定領域をコードする個々のポリヌクレオチドを合成し、ポリヌクレオチドは集合的に以下の判定基準: i)各ポリヌクレオチドが、限定領域中の各コドン位置に、ポリペプチドのアミノ酸残基に必要なコドンまたは予定アミノ酸残基に関するコドンのいずれかを含有し、および ii)各ポリヌクレオチドが予定アミノ酸残基に関する1つ以下のコドンを含有する、に従って考え得る変異体ポリヌクレオチドを表し: それにより、ポリヌクレオチドを含有する発現ライブラリーを生成し; ポリペプチド類似体を生成するために発現ライブラリーを発現し;そして 所望の構造または機能を有するポリペプチドに関して選択されるポリペプチド類似体をスクリーニングすることを包含する方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公開番号】特開2011−182794(P2011−182794A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−62697(P2011−62697)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【分割の表示】特願2006−517625(P2006−517625)の分割
【原出願日】平成16年6月25日(2004.6.25)
【出願人】(306048616)バイオレン,インク. (5)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【分割の表示】特願2006−517625(P2006−517625)の分割
【原出願日】平成16年6月25日(2004.6.25)
【出願人】(306048616)バイオレン,インク. (5)
【Fターム(参考)】
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