説明

レーザー誘起蛍光強度の減衰率比較によるアスベスト識別法

【解決課題】一般には困難と考えられる環境試料中の多様な物質からアスベストを簡便に識別する方法を提供する。
【解決手段】検査対象の検体試料にレーザー光を照射して物質から発生する任意波長のレーザー誘起蛍光の蛍光強度を計測し、所定経過時ごとの蛍光強度の減衰率を検出して、あらかじめ作成しておいた所定経過時ごとの基準アスベストの蛍光強度の減衰率とその場で比較し、検体試料がアスベストを含むか否かを識別する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスベストの識別法に関し、特に大気中に浮遊するアスベストまたは建築材料中に含まれるアスベストの簡易識別法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のアスベスト分析方法には、アスベスト粒子と他の物質粒子の屈折率の相違を利用する位相差顕微鏡による分散染色法、複屈折性をも確認できる手法を組み込んだ位相差顕微鏡による分散染色法(特許文献1)、アスベストの複屈折性を利用する偏光顕微鏡による消光角法、物質の結晶構造の相違を利用する基底標準吸収補正法等を利用したX線回折分析法、偏光顕微鏡による消光角法の改良型で暗視野落射照明を利用する偏光判定法(PVS)(非特許文献1)、呈色試薬を用いる方法(特許文献2及び3)、蛍光色素を吸着させて染色させる方法(特許文献4)、アスベスト繊維粒子によるレーザー散乱光の偏光特性を利用する方法(特許文献5)、レーザーラマン分光を用いる分析法(非特許文献2)、バイオ技術を用いる方法(非特許文献3)などがある。これらのうち、位相差顕微鏡による分散染色法及び偏光顕微鏡による消光角法並びに基底標準吸収補正法等を利用したX線回折分析法は、建材、吹き付け材中のアスベスト含有量を計測する定性分析手法として2006年のJIS A 1481に定められている手法である。また、大気汚染防止法で規制対象となる大気中の飛散アスベストの濃度測定法として、環境省 水・大気環境局大気環境課によるアスベストモニタリングマニュアル(第3版、平成19年5月)では、光学顕微鏡法が標準とされており、結果を補足する手段として電子顕微鏡による観察、または分散染色法が参考法として定められている。
【0003】
しかし、これらの方法は、欠点として煩雑な前処理や分析結果を得るまでに長い期間、日数を要すること、顕微鏡法では目視観察のため人為的測定誤差が大きいという測定精度の問題がある。
【0004】
位相差顕微鏡による分散染色法は、粒子の屈折率の違いによって生じる色の相違を顕微鏡で観察してアスベストの識別を行うものである。建材を含む多くの材料からなる検体試料中にはアスベストの屈折率と同様の屈折率を有するタルク等の多くの鉱物材料が存在するため、目視による色の相違のみによる識別は熟練の専門家でも困難な作業となる。
【0005】
偏光顕微鏡による消光角法では、顕微鏡操作の熟練と消光角による判定法に関する高度な鉱物の光学物性の専門知識が必要で、非専門家にはアスベストの同定が困難であり、識別には経験者でも長い分析時間を要する。JIS A 1481には、位相差顕微鏡による分散染色法と偏光顕微鏡による消光角法とを併用することも参考として示されているが、これら二つの方法を両立できる専門家の数が極めて少ない。このため、これらの手法は現在標準的な計測技術であるが、結果としてアスベストの識別に煩雑な手間と長大な分析時間が必要となる。また、高精度の測定には高い専門知識及び技量が不可欠であることが、分析者による測定精度のばらつき(人為的な測定誤差)を大きくさせている原因となっている。
【0006】
位相差顕微鏡による分散染色法及び偏光顕微鏡による消光角法の改良型である特許文献1に記載の方法や偏光判定法(PVS)は、測定手法に関する改善は見られるものの、やはり同様の問題をかかえている。特に偏光判定法(PVS)は、微細なアスベスト繊維粒子の識別が困難で、光学的倍率は位相差顕微鏡や偏光顕微鏡に及ばないとされている。
【0007】
X線回折法によるアスベスト識別に関しては、分散染色法及び消光角法以上に高度な知識と経験が必要であることが指摘されている(非特許文献4)。
【0008】
以上のように、顕微鏡観察、X線回折による従来方法で高精度な計測を行う際には、試料を準備し計測するまでに煩雑な手間や化学処理等が必要で、さらにアスベストの判定には高度な専門知識や熟達した技量が必要になる。アスベストをリアルタイムでその場で識別し計測することは困難で、結果を得るまでに長い時間と多くの労力が必要であり、測定精度は測定者の技量に依存するという問題点がある。
【0009】
一方、呈色試薬による方法や蛍光色素を吸着させて染色させる手法、及びタンパク質を吸着させる手法等は、適用可能な建材材料等の範囲が不明な場合やクリソタイル以外には適用困難であるというような問題があるため、使用する際には対象範囲が限定されるという問題点がある。
【0010】
また、レーザー散乱光の偏光特性を利用する方法やラマン分光を用いる分析法は、計測者の技量に関係なくアスベストをその場で計測することができる。しかし、前者は、繊維状粒子によるレーザー散乱光の偏光特性を利用することから、アスベスト以外の繊維粒子との識別が不十分であるという問題がある。また、後者は、ラマン散乱光が非常に微弱で小さいこと、また同様の波長域でラマン散乱光を発する建材、鉱物等が多数存在するためアスベストの識別が難しいという問題点がある。
【0011】
これら従来技術を単独で用いる場合は、上記のような技術的問題点がありアスベストの識別を困難にしている。高精度で分析する場合には、高度な専門知識、経験、技量も要求され、上記の従来技術を単独ではなく複数併用しなくてはならない。結果として、従来技術で用いられている方法では、アスベスト繊維粒子のその場で迅速に識別計測することはできず、計測精度のばらつき、長い分析時間、及び煩雑な手間が不可欠という問題がある。
【0012】
現在のアスベスト計測技術ではアスベストの厳密な判定が困難であるため、その場での迅速なリアルタイム計測が不可能である。よって、アスベストを含む建材を使用した老朽化した建物の解体工事現場などで建材中のアスベストの分析及び飛散するアスベストの環境調査のために長い日数と煩雑な作業を要している。
【0013】
また、これまで計測対象は、クリソタイル、クロシドライト及びアモサイトの3種類であったが、アスベストの健康被害対策のため、厚生労働省通達(基安化発0206003号、平成20年2月6日付)によりクロシドライトと同じ各閃石族のアンソフィライト、トレモライトやアクチノライトの3種類のアスベストの分析も義務付けられることになった。しかしながら、現在、主流となっている分散染色法による位相差顕微鏡によるアスベスト計測法では、このような計測数の増加に対してある程度の計測精度を維持したまま対処することは大幅な作業時間の増加を招く。
【0014】
一方、アスベスト計測に適用されてはいないが、蛍光寿命により物質の発光機構と化学種の関係等を分析する手法として時間分解蛍光分光(測光)法がある(非特許文献5)。この方法では、蛍光スペクトルを時間分解してスペクトルの変化や蛍光寿命を計測して2成分系試料の定量分析、物質の同定や分子の動的構造解析等を行う(特許文献6、7及び8)。また、代表的なものとしてバイオ分野で細胞内の微小環境評価、色素、抗体、アミノ酸の検出等に蛍光寿命顕微鏡が用いられている(特許文献9及び10、非特許文献6)。蛍光寿命は、蛍光強度と違って物質の濃度により影響を受けないため、バイオ、化学分析分野では、主に蛍光色素、特定物質等の画像検出または挙動解析に用いられている。蛍光寿命を検出するため、寿命計測装置や寿命解析装置が開発されてきた(特許文献11及び12)。しかしながら、蛍光寿命による物質同定または識別法は、これまで細胞内や化学溶液内等の非常に限られた条件下で使用されており、アスベストのような無機物質または有機物質など多様な物質が混在する試料を分析する環境分析の分野では一般に使用されていない。その理由として、同様の蛍光寿命を有する物質が多数混在していること、それら多様かつ多数の蛍光寿命の解析に膨大な分析時間と手間が必要になることが挙げられる。また、それら多様な試料には蛍光強度に大きな差があるため、微量かつ微弱な蛍光強度を有する物質の同定は実質的に不可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2005−338567号公報
【特許文献2】特開2000−88838号公報
【特許文献3】特開平9−105743号公報
【特許文献4】特表2004−519445号公報
【特許文献5】特開平10−267828号公報
【特許文献6】特許第3318019号公報
【特許文献7】特開2004−294105号公報
【特許文献8】特表2003−522946号公報
【特許文献9】特開2002−286639号公報
【特許文献10】特開平9−43146号公報
【特許文献11】特表2006−519395号公報
【特許文献12】特開平8−334464号公報
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】亀和田俊一、和田哲、石井啓慈、南和明、許成基、境谷浩一、亀元宏宣、西田道夫、「建材中アスベストの偏光判定装置(PVS)とこれを用いた現場判定法」、産業と環境、vol.35,No.3,2006
【非特許文献2】立石和男、古谷圭一、菊池正、石田英之、石谷炯、「ラマンマイクロプローブによる環境中のアスベストの分析」、BUNSEKI KAGAKU、vol.30、pp.774−779,1981
【非特許文献3】黒田章夫、野村和孝、西村智基、「アスベスト結合タンパク質を利用したアスベスト簡易検出」、オーム、12月号、pp.4−5,2006
【非特許文献4】佐々木一弘、中倉隆雄、藤巻宏和、「位相差顕微鏡を用いた分散染色法によるアスベスト同定の問題点」、ぶんせき、4、pp.177−184,2007
【非特許文献5】南茂夫、合志陽一編集、「分光技術ハンドブック」、pp.533−535,1990
【非特許文献6】Bernard Valeur, “Molecular Fluorescence: Principal and Applications”, Weinheim: Wiley-VCH, 2002
【非特許文献7】諫早典夫、中江茂、平沢紘介編集:「空気清浄のための浮遊微粒子の計測・制御総合技術」、R&Dプラニング、1987年発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
したがって、本発明は、従来法の欠点を解消し、一般には困難と考えられる環境試料中の多様な物質からレーザー誘起蛍光の蛍光強度の減衰率を用いてアスベストを簡便に識別する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明によれば、アスベストを識別する指標として物質固有のレーザー誘起蛍光の蛍光寿命を用いることにより、従来技術でのアスベスト判定の困難さ、計測に係る煩雑な処理または手間、及び測定精度等の問題点を解消する。
【0019】
具体的には、検査対象の検体試料にレーザー光を照射して物質から発生する任意波長のレーザー誘起蛍光の蛍光強度を計測し、所定経過時ごとの蛍光強度の減衰率を検出して、あらかじめ作成しておいた所定経過時ごとの基準アスベストの蛍光強度の減衰率とその場で比較し、検体試料がアスベストを含むか否かを識別する。本発明において、「蛍光強度の減衰率」とは、レーザー照射直後の任意の時間(基準時)に検出した蛍光強度の値を基準蛍光強度(例えば1)とし、当該基準時から所定経過時において計測されるレーザー誘起蛍光の基準蛍光強度に対する減衰比から求められるものである。
【0020】
一般に物質にレーザー光が照射されると、その物質表面から物質の組成に依存する物質特有のレーザー誘起蛍光が発生する。その蛍光の発生波長域は、照射するレーザー光の波長域よりも広く、数ナノメートルから数百ナノメートルに及ぶことがある。蛍光スペクトルの発生特性は、同じ物質でも照射するレーザーの波長によっても異なる。同一波長のレーザー光で様々な物質を照射すると、蛍光強度、ピークを示す波長、蛍光スペクトル形状、及びその蛍光寿命は物質によって種々異なる。蛍光寿命は、全ての波長域にわたって均一な場合もあれば、観測する波長域によって変化する場合もあり、物質によって様々である。この蛍光寿命の特性を利用して、予め任意の波長域でのアスベストの蛍光寿命特性を調査してレーザー照射直後からの蛍光強度の減衰率の値を把握しておき、それを基準として同条件での物質からの減衰率と比較することでアスベストの識別が可能となる。
【0021】
本発明においては、蛍光寿命に従って減衰する蛍光強度を連続的に計測して蛍光寿命を直接求めるのではなく、基準とする経過時間帯での蛍光強度に基づいて複数の所定経過時における蛍光強度を計測して減衰率を求める。アスベストの識別は、ある任意波長域における物質の所定経過時における蛍光強度の減衰率を計測して、予め同条件で計測しておいた同波長域でのアスベストの減衰率(以後「基準アスベスト減衰率」という)と比較することによって行う。さらに、所定経過時における蛍光強度の減衰率が、計測誤差を考慮した場合に基準アスベスト減衰率と非常に近似した値を示す場合には、計測した任意の波長域とは離れた異なる波長域での蛍光強度の減衰率を上記と同様の手法によって求め、アスベストであるか否かを識別する。ある任意の波長域での所定経過時における蛍光強度の減衰率が基準アスベスト減衰率と近似した値を示す物質もあるが、物質によって蛍光特性が異なるためアスベストと違う物質ならば他の複数の波長域でも蛍光強度の減衰率が一致することはない。したがって、計測波長域を変化させて複数の計測波長域での蛍光強度の減衰率を比較することにより、アスベストの識別精度を向上させることが可能となる。複数の波長域にわたって複数の所定経過時における蛍光強度の減衰率が一致すれば、その物質はアスベストであると厳密に判定することができる。
【0022】
蛍光強度を連続的に計測した減衰曲線から求められる蛍光寿命ではなく、蛍光強度の減衰率を比較基準とするのは、計測を簡易にするためである。減衰曲線から蛍光寿命を求めるには長い時間域での計測が必要で、かつデータ数が極端に増え、寿命を導出するための数値解析等の複雑な処理が必要となる。データ数が不足すると正確に寿命を割り出すことが困難となる。また、物質によっては2または3の蛍光寿命が重なるような複雑な減衰曲線を有するものもあり、解析により正確な寿命を導出することが困難となる場合もある。複数の所定経過時における蛍光強度の減衰率を評価指標とすれば、これらの問題を回避して計測が容易になる。
【0023】
本発明は、アスベストが混在する試料中にレーザー照射を施し、そこに発生するレーザー誘起蛍光の複数の任意波長域での蛍光強度の減衰率を比較するだけの簡単な手法である。また、従来技術で用いられている識別法よりも数値で評価できるため簡易かつ精度の高いアスベストの識別法となる。このため、本発明は、従来技術の問題点である目視によるアスベスト判定に伴う人為的な誤差や煩雑な顕微鏡の操作、試料の前処理等を解決する有力な手段となる。
【0024】
次に、蛍光強度の減衰率を利用するアスベストの識別原理について説明する。
【0025】
天然または人為的に生成された化学物質、有機物、無機物等の物質に単色のレーザー光が照射されると、物質表面からレーザー誘起蛍光を発生する。この蛍光は、一般に照射したレーザー波長よりも長い波長域に幅広く発生し、同一波長のレーザー照射条件では、物質ごとに異なる発生特性を示し、発生するスペクトルの波長域、強度、及び蛍光の寿命が異なる。同じ物質であっても、蛍光の波長によっては蛍光寿命も異なり、蛍光強度の時間に対する減衰率も変化する。図1には、異なる物質A、B及びCのレーザー誘起蛍光のスペクトル概念図を示す。レーザー誘起蛍光スペクトルは、基本的に物質の組成が異なれば、蛍光の発生波長域、スペクトル形状及び蛍光寿命なども異なる。蛍光寿命は、同じ物質であっても計測する蛍光の波長域によって異なる。例えば紫外域(波長:266nm)の照射パルスレーザー光を照射した場合に、可視波長域に各物質A、B及びCにより異なるスペクトル形状のレーザー誘起蛍光の発生が観測される。図では、蛍光スペクトルのピークを1として表示した。
【0026】
図2には、パルスレーザーの照射直後を経過時間0(基準時)として、そこで発生する蛍光強度を1とした場合、図1中の波長λでの各物質A、B及びCの蛍光強度の経過時間に対する減衰曲線をそれぞれ示す。図2において、経過時tとtでの各物質の蛍光強度の減衰率を比較すると、物質Bの減衰率は物質A及びCの減衰率と大きく異なり、簡単に識別することができる。しかし、物質AとCとは、蛍光強度の減衰率が近似した値を示しており簡単に識別することができない。ところが、経過時t以降になると、物質A及びCの間で蛍光強度の減衰率の差が顕著になり、物質AとCとを識別することが可能となる。しかし、経過時間が長くなると、蛍光強度が微弱になり、S/N比が劣化して数値の誤差が大きくなるので、蛍光強度の減衰率の差に基づく識別精度が劣化する。そこで、たとえばt以上の長い経過時間でも蛍光強度の減衰率の差が顕著でなく識別することが困難な場合には、別の波長域での蛍光強度の減衰率を比較する。図3には、図1の波長λでの各物質の蛍光強度の減衰率を示す。物質の組成が異なれば、蛍光の観測波長域を変えることによって蛍光寿命及び蛍光強度の減衰率の特性も変化するからである。波長λでは、物質AとCの蛍光強度減衰率は、蛍光発生直後から差が顕著であり、経過時t付近からそれ以降にかけて大きな差があることから簡単に識別することが可能になる。ただし、波長λでは、物質AとBの蛍光強度の減衰曲線が図2のように同様の特性を示し、蛍光強度の減衰率に差異が無くなるケースも出てくる。
【0027】
このように、ある一つの任意波長域での蛍光強度の減衰率を所定経過時ごとに計測し、それら時間帯の蛍光強度の減衰率が完全にアスベストの蛍光強度の減衰率(基準アスベスト減衰率)と一致すれば、その物質がアスベストであると識別することができる。また、計測誤差等により完全に一致しない場合でも、アスベストと疑わしい場合には、異なる波長域での蛍光強度の減衰率を同様に計測して比較することによって、アスベストであるか否かを正確に識別することができる。計測波長域を変えて蛍光強度の減衰率を比較する操作を繰り返すことで、一つの波長域だけで蛍光強度の減衰率を比較する場合に比して識別精度を大幅に向上させることが可能となる。蛍光強度の減衰率という数値によってアスベストの識別が可能となるため、目視によって観測、識別する顕微鏡観察法等の従来技術よりも簡易かつ迅速なアスベスト計測が可能となる。本発明では、様々な種類のアスベストの蛍光強度の減衰率を予め測定しておいて既知のデータ(基準アスベスト減衰率)として、計測対象物質の蛍光強度の減衰率を計測して比較する。したがって、アスベスト以外の物質との識別が容易となるばかりでなく、計測すべきアスベストの種類が増加してもアスベストの種類別識別も容易であり、従来方法のように特段の作業時間の増加を招くことはない。
【0028】
本発明のアスベスト識別法は、既存の顕微鏡システムに組み込むことができる。図7に本発明のアスベスト識別法を組み込んだ顕微鏡システムの概念図を示す。
【0029】
本発明を適用したアスベスト識別顕微鏡システムは、通常の生物分野等で使用される蛍光顕微鏡に光源をパルスレーザー光としたものを用いる。蛍光顕微鏡は、対物レンズの光路中に光学フィルターを設けたもので、観測したい波長域の蛍光を画像観測するものである。一方、従来の顕微鏡によるアスベスト顕微鏡システムは、位相板と呼ばれる特殊なフィルターを対物レンズの光路中に設けた位相差顕微鏡や同様に偏光光学素子を光路中に設けた偏光顕微鏡が用いられる(特許文献1、非特許文献1及び非特許文献4参照)。また分散染色法を用いる場合には、検体試料をアスベストと同じ屈折率を有する浸液で浸して観察するものである。
【0030】
本発明を蛍光顕微鏡システムに適用する場合、図7に示すように検体試料として繊維粒子状の試料にレーザーを照射し、検体試料から発生するレーザー誘起蛍光をある任意の波長のみを透過する光学フィルター(波長λ)を通して、さらに二つに等分した蛍光を二つの高速シャッター付CCDカメラを用いて顕微鏡観察することを基本とし、レーザー照射から所定の経過時間差で画像観測できることを特徴とする。パルスレーザー照射直後より所定経過時t及びtにおける蛍光顕微鏡観察画像(図中右下に示す)をそれぞれ取得する。これらの画像は、それぞれの経過時におけるカメラの高速ゲート(露出)機能により非常に短い時間内に計測される粒子からの蛍光強度を表す。2つの画像中の対応する繊維状粒子の蛍光強度をCCD画像の信号から導出することにより、それら経過時における差と蛍光強度の差から蛍光強度の減衰率を計測制御用のパーソナルコンピュータで求め、予め調べておいたアスベストの数値と比較することによってアスベストの識別を行う。これにより、その繊維状粒子がアスベストであるか否かを減衰率から直ちに判定することが可能となる。複数の所定経過時における蛍光強度の減衰率を計測するには、一方のCCDカメラの高速シャッター時間を固定し、他方のCCDカメラの高速シャッター時間を早めるか遅らせるかしながら逐次変化させて画像取得する。これにより、複数の所定経過時における蛍光強度の減衰率を求めることができる。
【0031】
さらに、識別精度を上げるために異なる波長域での減衰率を測定する場合には、光学バンドパスフィルターの透過波長を変える。すなわち、他の波長域に透過特性を有する光学バンドパスフィルターに交換して計測すればよい。なお、CCDカメラを二個具備する形態について説明したが、CCDカメラは一個でもよい。この場合には、パルスレーザー光の出力の時間変動が小さいことが条件となるため、CCDカメラのシャッターのタイミングを逐次変化させることによって所定経過時における蛍光強度の減衰率を計測すればよい。
【0032】
次に、従来のレーザー光を用いる光散乱式のパーティクルカウンター等の微粒子計測技術に本発明を適用したアスベスト識別法を図8を参照しながら説明する。通常の大気中の浮遊微粒子を計数するレーザー散乱式の微粒子計測装置では、連続的に空気とともに吸引する微粒子またはエアロゾルにレーザー光を照射し、微粒子からのレーザー散乱光を検出して、その散乱光の有無及び散乱光強度から微粒子の個数や粒径を計測するものである(非特許文献7)。このとき、レーザー散乱光の代わりにレーザー誘起蛍光を図8に示すような要領で計測すればアスベストの計測を迅速に行うことができる。空気吸引ポンプによって装置内に捕集された大気中の微粒子がレーザー照射部に到着した時にパルスレーザーを照射して、その微粒子からレーザー誘起蛍光を発生させる。発生した誘起蛍光を図8のように波長λに透過特性を有するバンドパスフィルター(a)を通してビームスプリッター(ハーフミラー)(b)で二つに等分し、それらの蛍光を二つの高速ゲート(露出)機能付き光検出器(d)でレーザー照射時間に対して異なる経過時間(t、t)で各々の蛍光強度It1、It2を計測する。それら蛍光強度から所定経過時における波長λでの蛍光強度の減衰率を算出し、基準となるアスベストの蛍光強度の減衰率と比較することにより、その微粒子がアスベストであるか否かをリアルタイムで識別し計数する。ここで得られる所定経過時における蛍光強度の減衰率の導出及び蛍光強度の減衰率の比較は、パーソナルコンピュータや電子回路等の高速のデータ処理機能を有する機器で行うことが望ましい。この方法の場合、微粒子がレーザー光照射部を通過する時にしか計測ができないので、上記の経過時(t、t)以外での経過時での蛍光強度を計測する場合には、バンドパスフィルター(a)からの蛍光を3つまたは4つ等に複数等分しかつ光検出器(d)の個数をそれに応じて増やして計測する。あるいは、高速ゲート機能付光検出器(d)において、離れた経過時における2度または3度の蛍光強度計測を行う。また、別の波長での蛍光強度の減衰率を同時に計測するためには、波長λ以外の透過波長を有するバンドパスフィルター(a)を装備したビームスプリッター(b)、全反射ミラー(c)及びゲート機能付き高感度光検出器(d)からなる別個の計測システムを追加装備すればよい。さらに、このシステムでは、通常の光散乱式のパーティクルカウンターで用いる連続波のレーザー光とは異なりパルスレーザーを用いるため、レーザー照射部に微粒子が来た時にタイミングよくパルスレーザーを照射するために、図8下部に示す装置内での微粒子の位置、動きを検出する機能を有する粒子位置検出システムを具備する。これは、連続波のレーザーを粒子に照射し、粒子から発生する照射レーザー波長と同波長のレーザー散乱光を検出するものである。その機能は、粒子導入部のパルスレーザー照射付近に位置検出用の連続波レーザーを照射し、その付近に粒子が来たときに粒子から発生するレーザー散乱光を検出し、その粒子検出信号をもってパルスレーザーの照射タイミングを知らせるものである。これをトリガー信号としてパルスレーザーを粒子に精度良く照射することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1は、異なる物質A、B及びCのレーザー誘起蛍光のスペクトル概念図である。
【図2】図2は、図1中の波長λでの各物質の蛍光強度の減衰曲線の説明図である。
【図3】図3は、図1中の波長λでの各物質の蛍光強度の減衰曲線の説明図である。
【図4】図4は、アスベスト(クリソタイル)、ガラスウール及びタルクの紫外レーザーパルス照射によるレーザー誘起蛍光スペクトルを示す。
【図5】図5は、アスベスト(クリソタイル、クロシドライト、アモサイト、トレモライト、アンソフィライト)、ガラスウール、ロックウール、タルク及び石膏等の物質のレーザー誘起蛍光の波長432nm付近での減衰率曲線を示す。
【図6】図6は、アスベスト(クリソタイル、クロシドライト、アモサイト、トレモライト、アンソフィライト)、ガラスウール、ロックウール、タルク及び石膏等の物質のレーザー誘起蛍光の波長522nm付近での減衰率曲線を示す。
【図7】図7は、本発明のアスベスト識別法を組み込んだ顕微鏡システムの概念図である。
【図8】図8は、本発明のアスベスト識別法を適用した空気吸引型光散乱式微粒子計測装置の概念図である。
【図9】図9は、図7に示す本発明のアスベスト識別装置の一実施形態である顕微鏡システムにおいて紫外(波長266nm)レーザー照射によりクリソタイル(アスベスト)粒子及びガラスウール粒子から発生した540nmの波長域でのレーザー誘起蛍光を観測したそれら粒子の顕微蛍光画像を示す。
【図10】図10は、波長540nmでのクリソタイルとガラスウールの分光試験でのバルク試料と顕微鏡観察試験での粒子試料からの各々のレーザー誘起蛍光の各経過時間での減衰率を示す。
【実施例】
【0034】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[実施例1]
代表的なアスベストの種類であるクリソタイル、計測時にアスベストと誤認されやすいアスベスト繊維と同様の繊維状物質であるガラスウール、及び繊維状ではないがアスベストと同様の化学組成である建材試料のタルクに対して、Nd:YAGレーザーの4倍波である波長266nmのパルスレーザー光(パルス時間半値幅:〜4ns)を照射して、波長350nm付近から700nmのレーザー誘起蛍光スペクトルを計測した。蛍光計測時には試料からのレーザーの散乱光を除外するため、360nm付近にカットオフ波長を有する光学ローパスフィルターを使用した。レーザー照射直後より200nsの露出時間で計測した蛍光スペクトルを図4に示す。図4には、比較のため蛍光スペクトル形状のピークを1として表示した。クリソタイルの蛍光スペクトルは、ガラスウールとは異なるスペクトル形状を示した。一方、タルクはスペクトル幅がクリソタイルのものよりも狭いが、蛍光ピーク位置はほぼ同じ位置であり、同様のスペクトル形状を示した。
【0035】
図5に、図4の蛍光スペクトルの波長432nmの波長域でのアスベスト5種類(クリソタイル、クロシドライト、アモサイト、トレモライト、アンソフィライト)、繊維状物質のガラスウール、ロックウール、及び非繊維状物質のタルク、石膏の蛍光強度の各経過時間での減衰率から求めた減衰曲線を示す。
レーザー照射直後より5nsの露出時間で計測した蛍光強度を、5nsまたは10nsの経過時間おきに計測したものであり、照射直後の蛍光強度を1として表示した。図5より、クリソタイルとアンソフィライト、及びアモサイトとロックウールの減衰曲線がそれぞれ酷似していることがわかる。図5において、各物質の減衰曲線が交わらない経過時の減衰率を比較すれば、図5に示した物質をそれぞれ識別することができることがわかる。図5のレーザー照射直後から5nsごとの45nsまでの各経過時間での蛍光強度の減衰率を例として表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
表1より、波長432nmでの経過時45nsの減衰率を厳密に比較すれば、物質ごとに異なる数値を有しているためアスベストとそれ以外の物質の識別、さらにアスベスト種類の識別が可能であることがわかる。しかし、経過時45nsの減衰率のみで比較すると、アモサイトとガラスウールの値が非常に近く、現実的には測定誤差を考慮すると識別が困難になる場合がある。この場合は、経過時45ns以前の経過時(例えば10ns)での値を比較すれば差が顕著になり(アモサイトの0.2に対してガラスウールの3.3)容易に識別することができる。また、クリソタイルとアンソフィライト、アモサイトとロックウールは、経過時5nsから25nsにかけて各経過時の減衰率が非常に近い値かまたは同じ値を有するが、経過時45nsでは識別可能な減衰率の差を有するので経過時45nsでの減衰率をもって識別することができる。波長432nmでの減衰率の比較結果として、各物質の各経過時において、個々の各経過時で減衰率が一致または非常に近い値を示す物質同士は存在したが、全ての経過時で減衰率が全て一致する物質同士は無かった。経過時を細かく区切って(例えば5ns毎)、蛍光強度の減衰率を厳密に比較すれば識別も可能であるが、それでも任意の波長域の減衰率が非常に近い値を示すものがあるときには、別の波長域の減衰率を参考にすると正確な識別が可能となる。
【0038】
図6に、図5と異なる波長域(図4の522nm)の蛍光強度の減衰率を計測した結果を示す。図5と比較すると明らかなように、計測する波長域が90nm程度大きく長波長側に離れると、各物質の蛍光強度の減衰率も大きく変化することがわかる。表2に表1と同様に図6の経過時間に対する各物質の蛍光強度の減衰率を示す。
【0039】
【表2】

【0040】
図6の計測波長域(522nm)では、図5で類似の蛍光強度の減衰率を示していたアモサイトとロックウールが経過時間10nsを除いて相互に顕著な差異を生じていることがわかる。さらに、アモサイトとガラスウールの経過時間45nsでの減衰率を比較すると波長432nmでは差が非常に小さかったが、波長522nmでは、ガラスウールはアモサイトの8分の1程度と差が拡大した。クリソタイルとアンソフィライトの場合は、クリソタイルの減衰率は、波長432nmでは45ns以外の経過時間5ns、10ns、15ns、及び25nsでは全てアンソフィライトよりも同じか僅かに低い値を示したが、波長522nmでは5ns、10ns、15nsの経過時ではクリソタイルの減衰率が逆に高い値を示すようになった。このように蛍光の計測波長を変えることでクリソタイルとアンソフィライトの各経過時の減衰率の差が変化することを確認することでクリソタイルとアンソフィライトを厳密に識別することができる。クリソタイルとアンソフィライトは、波長522nmでも経過時45nsでの減衰率の差が最も大きく異なり、それを比較することで正確に識別できることがわかった。
【0041】
このように、図5の波長域(432nm)では蛍光強度の減衰率に大きな差がない物質でも計測波長域を変えることで明確に識別することが可能になることが確認できた。また、図6の522nmの波長域では、図5の432nmの波長域で明確な差異があったクリソタイルとアモサイトの蛍光強度の減衰率が経過時間5ns、10nsで近い値を示すことがわかった。
【0042】
このように一つの波長域での所定経過時における蛍光強度の減衰率の比較だけで識別が困難な場合には、その波長域から大きく離れた別の波長域の蛍光強度の減衰率を調べることで物質判定の確認ができ、精度の良い識別が可能となる。予めアスベストのこのような各波長での蛍光強度の減衰率のデータベースを構築しておくことで、アスベストの蛍光強度の減衰率に合致しない物質を識別することは容易であり、迅速にアスベスト識別を行うことができる。また、様々な物質の減衰率を広く調査し、統計処理等により最初に比較する蛍光強度の減衰率の測定波長を最適化しておくことで、最適波長域の蛍光強度の減衰率を比較するだけで大部分の物質が識別することができる。
[実施例2]
表1及び表2に示した蛍光減衰率は、繊維状或いは粉末状のアスベスト及び建材試料を固めたバルク試料を用いた分光試験によるバルク試料の蛍光減衰率である。その分光試験で得られたアスベスト識別の指標となるバルク試料の蛍光減衰率が、実際に図7に例示した顕微鏡システムでも同様の値が得られることを証明するため、アスベストと他の物質試料の粒子からのレーザー誘起蛍光の減衰率を顕微鏡で計測した。
【0043】
計測した試料は、クリソタイル(アスベスト)とガラスウール(アスベスト代替建材試料)の繊維状粒子である。石英ガラス製の顕微鏡観察用スライドガラス2枚の内側にそれらの粒子を各々区別して挟んだものを顕微鏡で観測し、各々粒子からのレーザー誘起蛍光の減衰率を計測した。この顕微鏡観察試験では、高感度CCDカメラが一台しかないため、レーザー照射直後より経過時間をずらして画像中の各粒子から発生するレーザー誘起蛍光を複数画像計測して減衰率を測定した。図9は、図4での試験条件と同様に波長266nmのパルスレーザー光を照射して、顕微鏡の対物レンズに透過波長540nmのバンドパスフィルターを使用して観察したクリソタイルとガラスウールの二つの粒子の実際の蛍光画像である。図9は、レーザー誘起蛍光をレーザー照射直後から経過時間0nsにおいてカメラ露出時間5nsで観察したものである。図中左の粒子はクリソタイル、右はガラスウールである。ガラスウールはクリソタイルよりもレーザー誘起蛍光量が格段に多いためガラスウールの画像はクリソタイルのものよりも顕著に輝度が高かった。
【0044】
この経過時間でのそれぞれの粒子の蛍光強度を基準にして経過時間を増やして画像中の各粒子の輝度の高い領域の蛍光強度の減衰率を計測し、バルク試料を用いた分光試験で得られたものと比較した。その結果を図10に示す。図10では、顕微鏡観察試験での粒子からの蛍光強度の減衰率とともに図4及び図5の分光スペクトル計測試験から得られた波長540nmでの減衰率の曲線を同時に示す。顕微鏡観察試験で計測した粒子からの蛍光の各経過時間での減衰率は、図4及び図5での分光試験のものと同様の値を示した。図10に示すようにクリソタイル及びガラスウールとも顕微鏡観察試験での減衰率は、バルク試料を使用した分光試験の減衰率とほぼ完全に一致した。さらに、別の波長域で確認するため透過波長450nmのバンドパスフィルターを用いて同様に減衰率を計測し比較した結果でも、透過波長540nmのバンドパスフィルターでの顕微鏡観察試験結果と同様に図4及び図5の分光試験でのクリソタイルとガラスウールの減衰率が顕微鏡観察での各々の経過時間での減衰率と一致した。
【0045】
以上より、バルク試料を用いた分光試験での減衰率と顕微鏡観察による粒子からの蛍光計測の減衰率とほぼ一致することが確認できた。よって、実際に図7に例示した顕微鏡観察下でも上述の蛍光の減衰率比較によってアスベスト粒子を識別する手法が適用可能であることの確証が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、大気中に浮遊するアスベストを含むエアロゾルを捕集し、アスベストの同定、計数を行う環境分析産業分野、または、建築材料中に含有されるアスベストを分析する材料分析産業分野などで利用することができる。さらに、建屋解体時におけるアスベストの大量処理処分等を行う廃棄物処理産業でのアスベスト分析、アスベストの健康被害、人体影響等を調査する医療分野等で利用できる。
【0047】
また、本発明のアスベスト識別方法と顕微鏡法等の従来技術とを結合させることで、分析時間の大幅な短縮と計測精度の向上を図ることができる。さらに、アスベスト計測の自動化も可能である。本発明は、アスベスト計測に係る作業効率と計測精度を飛躍的に向上させ、これまでよりも正確にアスベストの迅速識別を可能とする。結果として、本発明を用いることにより従来よりも正確にアスベストの迅速識別が可能となるめ、本発明はアスベストに係る環境汚染問題の解決に役立てることのできる有効な一つの手段となりうるものと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体試料にレーザー光を照射して検体試料中の物質から発生する任意波長域でのレーザー誘起蛍光の蛍光強度を計測し、所定経過時ごとの当該蛍光強度の減衰率を検出して、あらかじめ作成しておいた所定経過時ごとの基準アスベストの蛍光強度の減衰率とその場で比較し、検体試料中の物質がアスベストであるか否かを識別する、アスベスト識別法。
【請求項2】
前記任意波長域でのレーザー誘起蛍光の蛍光強度の減衰率は、発生したレーザー誘起蛍光を当該任意波長域に光透過特性を有するバンドパスフィルターを通過させ、レーザー照射直後の任意の時間(基準時)に蛍光強度を検出して基準蛍光強度とし、当該任意の時間(基準時)から所定経過時においてレーザー誘起蛍光の蛍光強度を計測し、基準蛍光強度に対する減衰比から求める、請求項1に記載のアスベスト識別法。
【請求項3】
光検出した所定経過時における蛍光強度の減衰率を、各所定経過時におけるアスベストの同一波長域での蛍光強度の減衰率である基準値と比較する、請求項1又は2に記載のアスベスト識別法。
【請求項4】
一つの任意の波長域での所定経過時における蛍光強度の減衰率がアスベストの基準値と同等の場合には、この任意波長域とは異なる波長域での蛍光強度の減衰率をさらに計測して比較する、請求項1〜3のいずれかに記載のアスベスト識別法。
【請求項5】
前記レーザー光は、パルス時間幅が数十ナノ秒以下のパルス発振のレーザー光である、請求項1〜4のいずれかに記載のアスベスト識別法。
【請求項6】
パルス発振のレーザー光源と、
対物レンズの光路中に任意波長域に光透過特性を有するバンドパスフィルターと、
当該バンドバスフィルターにより分離されたレーザー誘起蛍光を二等分するビームスプリッターと、
当該ビームスプリッターにより二等分されたレーザー誘起蛍光をそれぞれ観察する2個の高速ゲート付高感度CCDカメラと、
を具備する蛍光顕微鏡、及び
当該高速ゲート付高感度CCDカメラの画像から所定経過時ごとの蛍光強度の減衰率を求める計測制御装置
を具備するアスベスト識別装置。
【請求項7】
微粒子導入部に設けられたパルス発振のレーザー光源と、
任意波長域に光透過特性を有するバンドパスフィルターと、
当該バンドバスフィルターにより分離されたレーザー誘起蛍光を二等分するビームスプリッターと、
当該ビームスプリッターにより二等分されたレーザー誘起蛍光から異なる経過時における蛍光強度を検出する2個の高速ゲート付光検出器と、
当該高速ゲート付光検出器で検出された異なる経過時における蛍光強度から減衰率を求める計測制御装置と、
微粒子導入部に設けられた連続発振のレーザー光源及びレーザー散乱光検出器を具備する微粒子位置検出システムと、
を具備するアスベスト識別装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−71982(P2010−71982A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−184717(P2009−184717)
【出願日】平成21年8月7日(2009.8.7)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【Fターム(参考)】