説明

レーザ用光学部品

【課題】レーザ機器に使用されている数多くの光学部品のいずれかがダメージを受けた場合の、実際にどの光学部品がダメージを受けているか、個々の光学部品を直接目視観察や光を照射してその透過パターンの乱れから判断しなくとも、どの光学部品がダメージを受けているかを見出し、レーザ機器のメンテナンス時間の短縮とレーザ機器を使用した装置の稼働率の向上を目的とする。
【解決手段】反射膜、反射防止膜、バンドパスフィルター、エッジフィルターあるいは偏光膜のうちの少なくとも1種以上の機能多層膜を有するレーザ用光学部品において、該機能多層膜中に、少なくとも1層以上の絶縁膜を有し、絶縁膜の二つの面に透明導電膜が積層して形成された積層膜が少なくとも1つ以上であり、透明導電膜間の抵抗値の減少を検出できる抵抗計が接続されているものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射膜、反射防止膜等を有するレーザ用光学部品に関し、特に、レーザによりこれらの膜がダメージを受けた際に、ダメージを検出できるレーザ用光学部品に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ機器に用いるレンズやミラー等の光学部品には反射膜や反射防止膜を施す場合が多い。レーザ機器に施された上記反射膜や反射防止膜等の光学薄膜は、光吸収や電界集中による破壊や表面に付着した塵やホコリ等の汚染物質によって致命的なダメージを受けることがある。
【0003】
レーザ機器に用いられるレーザ用光学部品におけるレーザダメージに関しては非特許文献1に記載されている。上記のような原因から光学薄膜に発生したダメージは、始めは小さなものであっても、何回もレーザが照射される毎に広がっていき、結局この光学部品が機能しなくなるまでになり、該光学部品を有するレーザ機器の性能が極端に低下してしまう。このような状態に至った時は、この光学部品を交換するしか解決の手段はない。
【0004】
ところが、レーザ機器には数多くの光学部品が使用されており、実際にどの光学部品がダメージを受けているか調べることは容易なことではない。実際には、個々の光学部品を直接目視観察するか、個々の光学部品に光を照射してその透過パターンの乱れから判断する方法が主に行われており、時間を要する作業となっている。また、交換の必要のない光学部品まで取り外してしまうと、その後の光学軸調整に膨大な時間を費やすことになっていた。
【0005】
また、ダメージを起こした反射膜の裏側の温度上昇によって検出する方法(特開平10−58181号公報)やダメージ発生時の音によって検出する方法(特開平11−118669号)もある。
【特許文献1】特開平10−58181号公報
【特許文献2】特開平11−118669号公報
【非特許文献1】N.Kaiser,N.K.Pulker,”Optical Interference Coatings”,Springer, p309−333,2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、背景技術に記載したような、レーザ機器に使用されている数多くの光学部品のいずれかがダメージを受けた場合の、実際にどの光学部品がダメージを受けているか、個々の光学部品を直接目視観察や光を照射してその透過パターンの乱れから判断しなくとも、どの光学部品がダメージを受けているかを見出し、レーザ機器のメンテナンス時間の短縮とレーザ機器を使用した装置の稼働率の向上を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前述の問題点を解決するために、レーザ用光学部品に施す反射膜、反射防止膜等において、その機能多層膜中に少なくとも1層以上の絶縁膜を挟んだ両面に透明導電膜を積層して形成させた積層膜を組み込み、レーザによりこれらの膜がダメージを受けた際に、透明導電膜間の抵抗値の減少から、該光学部品のいずれかがダメージを受けた場合、実際にどの光学部品がダメージを受けているかを容易に検出できることを見出し、本発明に至った。
【0008】
すなわち、本発明の第1の発明は、反射膜、反射防止膜、バンドパスフィルター、エッジフィルターあるいは偏光膜のうちの少なくとも1種以上の機能多層膜を有するレーザ用光学部品において、該機能多層膜中に、少なくとも1層以上の絶縁膜を有し、該絶縁膜の二つの面に透明導電膜が積層して形成された積層膜が少なくとも1つ以上であり、該透明導電膜間の抵抗値の減少を検出できる抵抗計が接続されていることを特徴とするレーザ用光学部品を提供する。
【0009】
本発明の第2の発明は、機能多層膜が使用レーザ波長において反射膜であり、該機能多層膜中に少なくとも2層以上存在する透明導電膜は、該反射膜の光入射面側付近から離れた位置に存在することを特徴とする第1の発明記載のレーザ用光学部品を提供する。
【0010】
さらに、具体的には、前記透明導電膜層のダメージしきい値が機能多層膜の表面側から反射膜を構成する高屈折率物質層と低屈折率物質層を交互に積層された部分の透過率になるような積層数より下側になるような位置に、前記透明導電膜を配置するものである。
【0011】
本発明の第3の発明は、使用するレーザ波長は透明導電膜の透明波長域であることを特徴とする第1、2の発明記載のレーザ用光学部品を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るレーザ用光学部品によれば、レーザによるダメージを個々の光学部品に対して調べることなく、複数の光学部品の中から電気信号によりダメージがある光学部品を検出できるので、レーザ機器のメンテナンス時間の短縮とレーザ機器を使用した装置の稼働率の向上に寄与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明のレーザ用光学部品について詳細に説明する。
図1に示すような光学部品において、基板1に低屈折率物質層3と高屈折率物質層4を交互に成膜された光学薄膜2は、ダメージを受けた際、または、そのダメージにさらにレーザ照射された際、各層の断面が溶けてしまい溶け跡5のようになる場合がほとんどである。 反射膜や反射防止膜、バンドパスフィルター、エッジフィルターあるいは偏光膜のうちの少なくとも1種以上の機能多層膜を有するレーザ用光学部品において、該機能多層膜中に、少なくとも1層以上の絶縁膜を有し、該絶縁膜の二つの面に透明導電膜が積層して形成されたせ積層膜が少なくとも1つ以上あり、該透明導電膜間の抵抗値の減少を検出できる抵抗計が接続されていれば、ダメージにより多層膜断面が解けてしまったときには、透明電極間の抵抗値変化が検出できる。
【0014】
例えば、図2に示すように、上記機能多層膜中に、1層の絶縁膜6の両面に透明導電膜7を組み込んでおけば、通常、透明導電膜間は絶縁状態にあるが、ダメージにより多層膜断面が解けてしまったときには、透明電極間の抵抗値変化が起こり、これを検出することでダメージの発生を検出できる。
【0015】
もちろん、吸収の大きい金属膜はレーザのエネルギーにより簡単にダメージを受けてしまうので使用できない。この透明導電膜自体がダメージの原因になってしまうといけないので、使用レーザ波長に対しては少なくとも吸収が他の膜材料と同等のレベルまで低いことが要求される。
【0016】
また、上記機能多層膜が使用レーザ波長において反射膜である場合、該機能多層膜中に少なくとも2層以上存在する透明導電膜は、該反射膜の光入射面側付近から離れた位置に存在することが好ましい。これは、該反射膜の光入射面側付近にあると、レーザ光から透明導電膜、絶縁膜が直接ダメージを受けてしまうからである。
【0017】
一例として、使用レーザ波長532nm用として絶縁膜を挟んだ両面に透明導電膜を組み込んだ反射膜と反射防止膜を設計する場合について以下に説明する。
【0018】
反射膜の場合、上記したように、どの位置に絶縁膜を挟んだ透明導電膜を配置するかが問題になる。反射膜は該表面付近で入射光の大部分を反射して基板付近まで強度の強い光が入ってこない。光入射面側の方は入射光強度が強いので、透明導電膜を表面側付近に配置した方がダメージの感度は高くなるが、透明導電膜を反射膜の表面付近に配置してしまうと、透明導電膜に起因してダメージが発生してしまい、ダメージ検出の意味がなくなってしまう。
【0019】
反射膜を構成する膜材料のダメージしきい値を考慮して、該反射膜の光入射面側付近から離れた位置を選択することが好ましい。ここでは、反射膜を構成する高屈折率物質層のダメージしきい値をDT、低屈折率物質層のダメージしきい値をDT、絶縁膜層のダメージしきい値をDT、透明導電膜層のダメージしきい値をDT、とする。ここで、低屈折率物質層と絶縁膜層に同じ物質を用いるとダメージしきい値は、一般的に(1)式のように示される。
透明導電膜層DT<高屈折率物質層DT<低屈折率物質層DT=絶縁膜層DT
――― (1)
表面側から高屈折率物質層と低屈折率物質層を交互に積層された多層膜下に、絶縁膜の両面に透明導電膜を組み込む設計方法を考える。表面側から高屈折率物質層と低屈折率物質層を交互に積層された部分の透過率をTRANSとする。

表面交互層の透過率TRANS<透明導電膜層DT/高屈折率物質層DT
――― (2)
(2)式を満足するように、表面側から高屈折率物質層と低屈折率物質層を交互に積層された部分の透過率になるような積層数より下側に、絶縁膜の両面に透明導電膜が存在する積層膜を組み込めば、最表面側の高屈折率物質層より先に透明導電膜層がダメージを受けることがない。
【0020】
たとえば、透明導電膜層のダメージしきい値DTを2J/cm、高屈折率物質層のダメージしきい値DTを20J/cmとすると、表面交互層の透過率TRANSは10%(=2/20)以下になるような積層数より下に絶縁膜の両面に透明導電膜を組み込めばよい。高屈折率物質層の屈折率Nを2.06、低屈折率物質層の屈折率Nを1.46とすると交互に12層積層すると透過率が10%以下になる。
【0021】
最初に表面付近で発生したダメージが、絶縁膜の両面に透明導電膜を組み込んだ部分まで影響を与えないことがある。しかし、連続発振のレーザやパルスレーザを照射すると、初期に発生したダメージは照射時間や照射パルス回数を重ねることによりわずかな時間で奥深くの基板付近まで広がり、絶縁膜の両面に透明導電膜を組み込んだ部分まで達し、ダメージを検出できる。
【0022】
上記532nmの反射膜の膜構成を表1に、膜構成図を図3に示す。また、分光反射特性を図4に示す。また、他の例として、532nmの反射防止膜の膜構成を表2に、膜構成図を図5に示す。また、分光反射特性を図6に示す。
【0023】
ここでは、高屈折率物質層に屈折率N2.06のHfO、低屈折率物質層に屈折率N1.46のSiO、透明導電膜に屈折率N2.05のITO(酸化インジウム錫)、基板に屈折率1.52の光学ガラスBK7を用いた。ITOは波長400〜1500nm付近での透過率が高く、使用レーザ波長の532nmの吸収が極めて少ないために採用した。レーザ用光学部品に成膜する光学薄膜の材料(高屈折率物質、低屈折率物質、透明導電膜等)は、使用レーザ波長に対して吸収があるとレーザダメージの原因となるため、吸収の少ない透明材料を選択しなければならない。


【0024】
【表1】



ただし、光学的膜厚=屈折率N×物理的膜厚D/設計中心波長532nm
【0025】
【表2】



ただし、光学的膜厚=屈折率N×物理的膜厚D/設計中心波長532nm
透明電極間の抵抗値を測定するためには、リード線を取り付けなければならないため、透明電極層には段差をつけている。この段差は、成膜中に基板全面のマスクを交換して製作している。この透明導電膜に導電性ペーストでリード線を取り付け、絶縁膜の両面に形成された透明導電膜間の抵抗値変化を測定すれば、前述したように、これらの膜がダメージを受けたときに、抵抗値が変化するので、ダメージを検出することができる。
【実施例】
【0026】
実施例では、上記した、本発明の構成の、絶縁膜の両面に形成された透明導電膜を有する532nmの反射膜と反射防止膜を製作し、実際にレーザ照射によりダメージを発生させて、絶縁膜の両面に形成された透明導電膜間の抵抗値変化を調べた。
【0027】
基板には直径30mmのBK7を使用し、アルバック製マグネトロンスパッタ装置で成膜をおこなった。HfOの成膜速度は0.2nm/秒、SiOの成膜速度は0.4nm/秒、透明導電膜ITOの成膜速度は0.6nm/秒で、どの膜の成膜時にも酸素を導入し、成膜温度は200℃で行った。完成した反射膜と反射防止膜の透明導電膜には導電性ペーストによってリード線を取り付け、絶縁膜を挟んだ両面に透明導電膜間の抵抗値を測定した。初期の抵抗値はどちらも10MΩ以上であった。
【0028】
次に、レーザ波長532nm、パルス幅6nsのパルスレーザをレンズで集光させて、これら評価サンプルに照射した。このときの、照射パワー密度は25J/cmであった。100パルス照射後に評価サンプルを10倍の実体顕微鏡で観察するとダメージが発生していた。該反射膜中の絶縁膜の両面に形成された透明導電膜間の抵抗値は1kΩ、反射防止膜中の絶縁膜の両面に形成された透明導電膜間の抵抗値は500Ωに低下していた。
【0029】
同様の実験を各5個の反射膜と反射防止膜について実施した。その結果を表3に記載する。ダメージによる多層膜の溶け方やダメージのサイズや数に起因してバラツキはあるが、ダメージ後の絶縁膜の両面に形成された透明導電膜間の抵抗値はいずれの場合も低下した。
【0030】
以上のことから、ダメージが発生した時、本発明のレーザ用光学部品は絶縁膜の両面に形成された透明導電膜間の抵抗値抵抗値が下がることから、レーザシステムに多数の光学部品が使用されていれも、どの光学部品がダメージを受けたのか容易に特定することができ、レーザシステムのメンテナンス時間を短縮することができる。



【0031】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明に係るレーザ用光学部品をレーザシステムに採用すれば、レーザによるダメージが発生し、レーザシステムの性能が低下した時、各光学部品のレーザによるダメージを直接調べることなく、電気信号によりダメージの可能性が予測できるので、レーザ機器のメンテナンス時間の短縮とレーザ機器を使用した装置の稼働率の向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】光学薄膜のダメージ説明図
【図2】本発明のダメージ説明図
【図3】本発明の反射防止膜の膜構成図
【図4】本発明の反射防止膜の分光反射特性
【図5】本発明の反射膜の膜構成図
【図6】本発明の反射膜の分光反射特性
【符号の説明】
【0034】
1.基板
2.光学薄膜
3.低屈折率物質層
4.高屈折率物質層
5.ダメージの溶け跡
6.絶縁膜
7.透明導電膜
8.抵抗計
9.絶縁膜
10.透明導電膜
11.抵抗計
12.ダメージの溶け跡
13.基板
14.上部反射膜
15.ダメージ検出層
16.下部反射膜
17.高屈折率物質層HfO
18.低屈折率物質層SiO
19.透明導電膜ITO
20.絶縁膜SiO
21.透明導電膜ITO
22.抵抗計
23.基板
24.低屈折率物質層SiO
25.透明導電膜ITO
26.低屈折率物質層SiO
27.透明導電膜ITO
28.抵抗計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反射膜、反射防止膜、バンドパスフィルター、エッジフィルターあるいは偏光膜のうちの少なくとも1種以上の機能多層膜を有するレーザ用光学部品において、該機能多層膜中に、少なくとも1層以上の絶縁膜を有し、該絶縁膜の二つの面に透明導電膜が積層して形成された積層膜が少なくとも1つ以上であり、該透明導電膜間の抵抗値の減少を検出できる抵抗計が接続されていることを特徴とするレーザ用光学部品。
【請求項2】
機能多層膜が使用レーザ波長において反射膜であり、該機能多層膜中に少なくとも2層以上存在する透明導電膜は、該反射膜の光入射面側付近から離れた位置に存在することを特徴とする請求項1記載のレーザ用光学部品。
【請求項3】
前記透明導電膜層のダメージしきい値が機能多層膜の表面側から反射膜を構成する高屈折率物質層と低屈折率物質層を交互に積層された部分の透過率になるような積層数より下側になるような位置に、前記透明導電膜を配置することを特徴とする請求項2記載のレーザ用光学部品。
【請求項4】
使用するレーザ波長は透明導電膜の透明波長域であることを特徴とする請求項1、2記載のレーザ用光学部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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