説明

レーザ装置

【目的】安全性が高く、かつ使用可能となるまでの時間を短縮できるレーザ装置を提供することを主な目的とする。
【構成】集光器6内の冷却水でレーザロッド7と励起ランプ8とを冷却し、イオン交換器23で前記冷却水中のイオン濃度を低下させるレーザ装置において、前記冷却水中のイオン濃度を測定するイオン濃度測定部15と、前記冷却液からレーザ装置の外装17へ漏れる電流を測定する漏れ電流測定部16と、これらの測定結果から励起ランプ8への印加電圧の決定、励起ランプ8の点灯制御、および異常状態の判断を行なう制御ユニット4とを備え、常に漏れ電流値の監視漏れ電流値が既定値を越えない範囲まで印加電圧を上げて励起ランプ8を点灯する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、例えば外科的あるいは経内視鏡的にレーザ光を照射して患部の治療等に用いられるレーザ装置に関する。
【0002】
【従来の技術】近年は、特開昭61−244341号公報や特公昭62−48915号公報等で知られるように医療の分野においても、病巣にレーザ光を照射して焼灼する等、レーザ光を使用する治療が普及しつつあり、これを供するレーザ装置の開発が進められている。
【0003】従来のNd・YAGレーザ装置の構成について、図9および図10にもとづき説明する。図9において、1は外装となるレーザ装置本体を示し、このレーザ装置本体1の内部には、レーザ光を出力する発振器ユニット2、電源ユニット3、制御ユニット4、冷却ユニット5が、それぞれ組み込まれている。
【0004】発振器ユニット2には、集光器6が設けられており、この集光器6の内周壁面は反射面をなしている。この集光器6内には、レーザ発生源であるところのYAGレーザロッド7およびこのYAGレーザロッド7を励起してレーザ光を出力させる励起ランプ8が収容されている。この発振器ユニット2には、集光器6の両端、すなわち、前記YAGレーザロッド7の両端に対向してYAGレーザロッド7から発せられたレーザ光を共振増幅させるための全反射ミラー9および一部透過ミラー10が設けられている。さらに、この発振器ユニット2には前記レーザロッド7と一部透過ミラー10との間に位置してレーザ光の出射時にその光路を開けるとともに、非出射時には閉じられるシャッタ11が設置されている。
【0005】また、図9中12は、出力調節つまみであり、電源ユニット3から励起ランプ8へ供給する電流の値を調整し、これにより励起ランプ8から放出される光出力を制御し、これによってレーザ光出力を調整するものである。13は、フットスイッチであり、前記シャッタ11を開閉してレーザ光の出射、出射停止を選択するための操作手段である。また、14は後述するようなレーザプローブを接続するレーザ光出射口である。なお、このレーザ装置には、図示しないが、電源スイッチが設けられている。
【0006】このようなレーザ装置においては、例えば、レーザ光出力で患部の治療を行なう場合、まず、術者は電源スイッチをオンにし、かつ出力調節つまみ12をあらかじめ操作して前記必要なレーザ光出力が得られるように励起ランプ8へ流れる電流の値を設定する。これにより、励起ランプ8が始動し、この励起ランプ8の光がYAGレーザロッド7に照射されると、そのYAGレーザロッド7が励起される。ここで、フットスイッチ13を踏む等によってシャッタ11を開くと、全反射ミラー9と一部透過ミラー10との間で共振が起こり、YAGレーザロッド7から出力されたレーザ光は、レーザ光出射口14を通って出射し、レーザプローブ等を通して、このレーザ光を病巣に照射することができる。このようなレーザ光の出射は前記フットスイッチ13を踏み込んでいる間続けられ、したがって所望の時間だけフットスイッチ13を踏み続ければ、その時間に応じてレーザ光を出射させることができる。
【0007】次に、図10で示す冷却ユニット5の構成を説明する。すなわち、冷却水を貯えたタンク19、ポンプ20、フイルタ21、熱交換器22、イオン交換器23を有し、これらは冷却液通路27を通じて連結されている。そして、タンク19に貯えられた冷却水は、ポンプ20によってフイルタ21に送られる。ここで、冷却水中に含まれる不純物が取り除かれる。不純物が取り除かれた後の冷却水は、集光器6内に送られ、これによってレーザロッド7および励起ランプ8を冷却する。ここで、加熱された冷却水は、熱交換器22で冷却されてタンク19に戻る。
【0008】また、ポンプ20を出た冷却水の一部は、イオン交換器23に送られ、ここを通ってタンク19に戻る。イオン交換器23は、冷却ユニット5の通路中に含まれる金属部より冷却水中に溶出した金属イオンを中和し、冷却水を純水化する働きをする。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】ところで、図9および図10で示したように励起ランプ8の電極18が集光器6の内部にあり、その電極18が冷却水中に浸漬している場合には、次のような問題がある。
【0010】例えば、何日間もレーザ装置を使用せず、冷却水がイオン交換器23内を循環しなかったこと等により、冷却水中のイオン濃度が高くなっているときには、励起ランプ8を励起すべく電極18に電圧を印加しても、冷却水中に電流が流れて漏れてしまい、励起ランプ8が点灯せず、レーザ装置が使用可能とならないことがある。
【0011】このような場合、励起ランプを点灯させるのに2通りの方法がある。その1つの方法は、ポンプ20を動作させて冷却水を循環させ、イオン交換器23の働きにより、冷却水中のイオン濃度が低下するのを待った後、再びトリガをかけてみることである。しかし、この方法は、イオン濃度が低下するまでに多くの時間がかかり過ぎる。
【0012】また、他の方法は、印加電圧を高くすることであるが、トリガ印加電圧を高くし過ぎると、冷却水中に流れる電流も大きくなり、この電流は冷却液通路27を通って漏れ電流となり、もし、使用者などがレーザ装置本体1の外装等に触れていれば、使用者の体内に流れ込んで、感電の虞れがあり、安全上問題がある。また、その危険を回避するための印加電圧の調整は、実際上困難なものであった。
【0013】本発明は前記課題に着目してなされたものであり、その目的とするところは、安全性が高く、かつ使用可能となるまでの時間を短縮できるレーザ装置を提供することにある。
【0014】
【課題を解決する手段および作用】本発明は、レーザロッドと励起ランプとが集光器内の冷却液中に浸漬された状態で設置された固体レーザ共振器と、前記冷却液中のイオン濃度を低下させるイオン交換器と、前記固体レーザ共振器とイオン交換器との間で冷却液を循環させる冷却液通路とを具備したレーザ装置において、前記冷却液中のイオン濃度を測定するイオン濃度測定部と、前記冷却液からレーザ装置の外装へ漏れる電流を測定する漏れ電流測定部と、これらイオン濃度測定部と漏れ電流測定部との測定結果から励起ランプへの印加電圧の決定、励起ランプの点灯制御、および異常状態の判断を行なう制御部とを備えたものである。
【0015】しかして、このレーザ装置にあっては、常に漏れ電流値を監視して安全性を確保し、また、漏れ電流値が既定値を越えない範囲まで励起ランプへの印加電圧を上げることができるので、冷却水中のイオン濃度がよほど高くない限り、励起ランプを点灯することができる。また、漏れ電流値とイオン濃度とから励起ランプを点灯させるに適当と思われる印加電圧を決定するので、必要以上に印加電圧を上げる必要がない。
【0016】
【実施例】図1ないし図3は、本発明の一実施例を示すものである。図1において、1はレーザ装置本体、2は発振器ユニット、3は電源ユニット、4は制御ユニット(制御部)、5は冷却ユニット、6は集光器、7はYAGレーザロッド、8は励起ランプ、9は共振増幅用全反射ミラー、10は共振増幅用一部透過ミラー、11はレーザ光出射路を開閉するシャッタ、12は出力調節つまみ、13はシャッタを開閉操作するためのフットスイッチ、14はレーザ光出射口である。以上の構成は上述した一般的なものと同様であってよいので、それぞれの説明を省略する。
【0017】この実施例は、以上の構成の他にイオン濃度測定ユニット15と漏れ電流測定ユニット16を備えている。イオン濃度測定ユニット15は、冷却ユニット5の内部にある冷却水中のイオン濃度を測定し、この測定結果を制御ユニット4に送る。また、漏れ電流測定ユニット16は、冷却ユニット5からレーザ装置本体1の外装17へ流れる漏れ電流を測定してこの結果を制御ユニット4に送る。
【0018】図2は制御ユニット4の構成を示す。この制御ユニット4は、測定されたイオン濃度値の結果を受信するイオン濃度値受信部24、同様に漏れ電流値の結果を受信する漏れ電流値受信部25、これらが受け取ったデータにもとづいて励起ランプ8への印加電圧を決定したり、トリガをかけたりするための判断部26を備えている。
【0019】次に、この実施例の動作を図3で示す各ステップ (1)〜(19)に分けて説明する。
(1) レーザ装置本体1の図示しない電源スイッチをONにする。
(2) 励起ランプ8への印加電圧をOvにする。
(3) この時点で漏れ電流測定ユニット16により漏れ電流値を測定する。
(4) 測定した漏れ電流値が、あらかじめ決められた所定値以上であったならば、このレーザ装置は異常なものとして、異常であることを表示するなどして使用者に知らせるなどの処置を行う。さらに、このレーザ装置を使用不能の状態にする。この所定値は、冷却ユニット5から外装17への漏れ電流が、その所定値をいくらか越えても外装17からその外装17に触れている人体へ流れる漏れ電流値が、例えばIECやJIS等の安全規格で規定された規格値を越えないような値に設定されている。
(5) 漏れ電流測定の結果が所定値以下であったならば、次に、イオン濃度測定ユニト15によって冷却ユニット5の内部にある冷却水中のイオン濃度を測定する。
(6) 制御ユニット4は、測定した漏れ電流値とイオン濃度値とから、漏れ電流値が所定値を越えないと予測される値の印加電圧を算出する。
(7) この算出した値の印加電圧を励起ランプ8の電極18間に印加する。
(8) 再び、漏れ電流値を測定する。
(9) 所定値以下ならば、励起ランプ8にトリガをかける。
(10)励起ランプ8が点灯すれば、レーザ装置は使用可能な状態となる。
(11)励起ランプ8が点灯しなければ、これに対する印加電圧の値を少し上げる。
再度、漏れ電流を測定し、同様のことを繰り返す。
(12)漏れ電流値が所定値以上だったならば、印加電圧を少し下げる。
(13)再び漏れ電流値を測定する。
所定値以下になるまで繰り返す。
(14)所定値以下になったらトリガをかける。
(15)励起ランプ8が点灯すれば、レーザ装置は使用可能な状態になる。
(16)点灯しなかったら印加電圧をOvにする。
(17)今一度、漏れ電流を測定する。
(18)所定値以上だったら異常としてレーザ装置を使用不能な状態にする。
(19)所定値以下だったら、冷却水中のイオン濃度がかなり高くなっている可能性があるので、ポンプ20を動作させたまま冷却水を循環させてそのまま一定時間待機する。こうしておくと、冷却水中のイオン交換器23を通過するごとに冷却水中のイオン濃度が下がってくることが予想される。一定時間の待機の後、もう一度イオン濃度を測定して前記(5) のステップ以下の動作を繰り返す。
【0020】このような医療用レ−ザ装置において、例えば、そのレーザ光出射口14に次のようなレーザプローブ30を接続して以下のように使用される。血管内の病変部を加熱して蒸散・除去する通常のレーザプローブ30は、中実の楕円球形(回転楕円体形)の先端チップ31を設けている。そして、図4で示すように、先端チップ31を血管内の狭窄した病変部32に挿入してその病変部32を加熱して蒸散・除去する。図4で示す如く、発熱用先端チップ31は正常な血管内膜33に対しても病変部32の部位と同様に接触しており、その正常な血管内膜33まで加熱して望ましくない熱影響を与える。
【0021】そこで、図5で示すように切欠き部34を形成して複数の冷却フィン35を設けた発熱用先端チップ36とすることにより、その冷却フィン35の部分を正常な血管内膜33の部分に当て熱影響を低減するとよい。図6はその発熱用先端チップ36の断面形状を詳細に示す図である。処置作用面37に対して冷却フィン35の部分が反対側に設けられている。また、血管自身の内部および切欠き部34に生理食塩水または血液を流すことで、処置作用面37以外の部分の温度を極力低くできる。
【0022】図7および図8で示すレーザプローブの先端チップ38には、その長軸方向に沿う複数の切欠き部39を設けており、このため、血管組織に対する焼付きを防ぐことができる。また、切欠き部39が複数個、先端チップ38の外周にその先端チップ38の長軸方向に長く設けられており、病変部40に先端チップ38が接触している状態でも血液あるいは生理食塩水の流路が確保される。よって、焼付きを防ぐことができる。
【0023】
【発明の効果】以上説明したように本発明によれば、常に漏れ電流値を監視しているので、安全性が高い。また、漏れ電流値が既定値を越えない範囲まで印加電圧を上げることができるので、冷却液中のイオン濃度がよほど高くない限り、励起ランプが点灯できるまでイオン濃度が下がるのを待たなければならないことが少なくなる。さらには、漏れ電流値とイオン濃度とから励起ランプを点灯させるに適当と思われる印加電圧を決定するので、必要以上に印加電圧を上げることなく消費電力も少なくできる等の効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例の全体的な構成を概略的に示す説明図である。
【図2】同じく本発明の一実施例における制御ユニットの概略的な構成図である。
【図3】同じく本発明の一実施例の動作を示すフローチャートである。
【図4】レーザプローブの使用状況を示す横断面図である。
【図5】他の種類のレーザプローブの使用状況を示す縦断面図である。
【図6】同じくその種類のレーザプローブの先端チップの縦断面図である。
【図7】さらに異なる他のレーザプローブの使用状況を示す縦断面図である。
【図8】同じくその種類のレーザプローブの先端チップの縦断面図である。
【図9】一般的なレーザ装置の概略的な構成を示す説明図である。
【図10】同じくそのレーザ装置における冷却ユニットの概略的な構成を示す説明図である。
1…レーザ装置本体、2…発振器ユニット、4…制御ユニット、5…冷却ユニット、6…集光器、7…YAGレーザロッド、8…励起ランプ、9,10…ミラー、11…シャッタ、13…フットスイッチ、14…レーザ光出射口、15…イオン濃度測定ユニット、16…漏れ電流測定ユニット、17…外装、23…イオン交換器、24…イオン濃度値受信部、25…漏れ電流値受信部、26…判断部、27…冷却液通路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 レーザロッドと励起ランプとが集光器内の冷却液中に浸漬された状態で設置された固体レーザ共振器と、前記冷却液中のイオン濃度を低下させるイオン交換器と、前記固体レーザ共振器とイオン交換器との間で冷却液を循環させる冷却液通路とを具備したレーザ装置において、前記冷却液中のイオン濃度を測定するイオン濃度測定部と、前記冷却液からレーザ装置の外装へ漏れる電流を測定する漏れ電流測定部と、これらイオン濃度測定部と漏れ電流測定部との測定結果から励起ランプへの印加電圧の決定、励起ランプの点灯制御、および異常状態の判断を行なう制御部とを備えたことを特徴とするレーザ装置。

【図1】
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【図2】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図3】
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【図5】
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【図4】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開平5−220168
【公開日】平成5年(1993)8月31日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−46983
【出願日】平成3年(1991)3月12日
【出願人】(000000376)オリンパス光学工業株式会社 (11,466)