説明

ロッキングプライヤー

【課題】トーションバーのコ字形端部とU字部のいずれにも大きなトルクを作用できるロッキングプライヤーを提供する。
【解決手段】操作レバー43を開いた状態で操作レバー43に枢着されたスタブシャフト44をプライヤ本体41に設けた調整ボルト45で係止し、揺動体42の可動側クランプ面とプライヤ本体41の固定側クランプ面との離間距離を設定し、操作レバー43を閉じると、倍力作用を生起して揺動体42の可動側クランプ面がプライヤ本体41の固定側クランプ面へ閉動するロッキングプライヤーである。プライヤ本体41の固定アゴ部の側面部に一体にブロック47を突設しかつブロック46の突出方向の正面に溝方向がプライヤ本体41の長手方向に一致するU溝46aを有し、プライヤ本体41の固定アゴ部の背面部よりプライヤ本体41の長手方向前方へ突出する角状突出部48を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のトランクリッドなどの開閉機構においてトーションバーに捩りを加えて組み付けるために供されるロッキングプライヤーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車などの車両に採用されるトランクリッドでは、ロックを解除した際に僅かにトランクリッドが開口し、トランクリッドの操作を容易に行えるようにトーションバーによって付勢されている。トーションバーを車両に組み付ける作業では、狭い作業空間内でトーションバーから発生する大きな反力に対して組付作業を行う。この組付作業は多大な労力と作業時間を要するので、トーションバーの組付作業を効果的に行える工具が必要である。
【0003】
図6は、従来のトーションバーの取付状態を示す斜視図である。同図は、特許文献1の図11として示された斜視図に相当する。図6に示すように、ヒンジ13,14は、基端をパーセルシェルフ(図示せず)等の車体側に結合されるブラケット11,12に枢着され、揺動端をトランクリッド(図示せず)に結合される。二つのトーションバー15,16は同一形状であり左右勝手反対に取り付けられるものである。トーションバー15,16は、一端のコ字形端部15a,16aを一方のブラケット11,12に固定され、中ほどで互いにクロスし、他端のU字部15b,16bを他方のヒンジ14又は13に固定される。なお、このU字部15b,16bはクランク部とも呼ばれる。トーションバー15,16は、コ字形端部15a,16aとU字部15b,16bのいずれか一方が先に取着され、他方が例えば120度捩った状態に取着されていることにより、この捩れをトランクリッド(図示せず)を開く方向へヒンジ13,14を付勢する。トーションバー15,16の取着手順について、U字部15b,16bを先に取着する場合には、コ字形端部15a,16aを捩った状態にして取着する必要があり、この際使用する工具として、特許文献1の図14にそれに適した工具が開示されている。
【0004】
図7は、図6とは異なる従来のトーションバーの取付状態を示す斜視図である。同図は、特許文献2の図5として示された斜視図に相当する。図7に示すように、ヒンジ17a,17bは、基端をパーセルシェルフ(図示せず)等の車体側に結合されるブラケット(図示せず)に枢着され、揺動端をトランクリッド(図示せず)に結合される。トランクリッドを開く方向に付勢させる一対のトーションバー19は、両端に点対称に同一形状のコ字形端部19a,19bを有し、左右勝手反対に取り付けられるものである。トーションバー19は、一端をブラケット(図示せず)に固定され、中ほどで互いにクロスし、他端をヒンジ17a又は17bに固定される。このトーションバー19も、後から取着する側のコ字形端部19a,19bを例えば120度捩った状態に取着されている。このとき、コ字形端部19a,19bを例えば120度捩った状態に取着する工具として、特許文献2の図1にセット治具が開示されている。
【0005】
図8は、図6及び図7とは異なる従来のトーションバーの取付状態を示す斜視図である。同図は、特許文献3の図3として示された図に相当する。図8に示すように、ヒンジ20は、基端がパーセルシェルフ(図示せず)等の車体側に結合されるブラケット(図示せず)に枢着され、揺動端がトランクリッド(図示せず)に結合される。トランクリッドを開く方向に付勢させる一対のトーションバー21は両端に特殊U字部21aを有する。なお、図では一つのトーションバーの片側のみを示している。トーションバー21は、特殊U字部21aが隣接部分21bを含み、これを経由して直線状の中央部分21cに繋がっている。このトーションバー21も、後から取着する側の特殊U字部21aを例えば120度捩った状態に取着されている。このとき、特殊U字部21aを例えば120度捩った状態に取着する工具として、特許文献3の図3に組立冶具が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開平09−323676号公報
【特許文献2】実開平07−33536号公報
【特許文献3】特開平10−236337号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の図14に示す工具は、コ字形端部15a,16aに対応する捩り工具であり、トーションバー15,16の取着手順の変更はできない。すなわち、コ字形端部15a,16aを先に取着してから、U字部15b,16bを120度捩った状態にして取着する手順の変更はできない。従って、特許文献2に示すトーションバー19(図7参照)には適用できない。また、トーションバーの径が相違する場合には好適な使用にはならない。反対に、特許文献2の図1に示すセット治具は、コ字形端部19a,19bに対応する捩り工具であり、特許文献1のU字部15b,16b(図6参照)には対応できない。この場合も、トーションバーの径が相違する場合には好適な使用にはならない。また、特許文献3の図3に示す組立冶具は、特殊U字部21a(図8参照)にのみ適用でき、特許文献1に示すトーションバー15,16(図6参照)や、特許文献2に示すトーションバー19(図7参照)には適用できない。
【0008】
そこで、トーションバーのコ字形端部とU字部、即ちクランク部のいずれにも適用できる工具として、ロッキングプライヤーの使用を検討した。図9は、従来のロッキングプライヤーについて、操作レバーが閉じた状態を示す正面図である。ロッキングプライヤー30は、調整ボルト31を調整すると、固定アゴ部32と可動アゴ部33との開いたときの間隔を調整でき、揺動体34と操作レバー35と、スタブシャフト36とが倍力機構となっているので、揺動体34に対して操作レバー35を閉じると、固定アゴ部32と可動アゴ部33とが大きな力で閉じる。
【0009】
しかしながら、ロッキングプライヤー30でトーションバーをいくら強く挟持できてもトーションバーを捩ることができる大きなトルクを生起できない。従って、ロッキングプライヤーをトーションバーに対し大きなトルクを作用できるように改良することとした。
【0010】
本発明は、上記問題点に鑑み、トーションバーのコ字形端部とU字部のいずれにも大きなトルクを作用できるロッキングプライヤーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明に係るロッキングプライヤーは、プライヤ本体に枢着された揺動体に操作レバーが枢着され、操作レバーを開いた状態で操作レバーに枢着されたスタブシャフトをプライヤ本体に設けた調整ボルトで係止し、揺動体の可動側クランプ面とプライヤ本体の固定側クランプ面との離間距離が設定され、操作レバーを閉じると、倍力作用を生起して揺動体の可動側クランプ面がプライヤ本体の固定側クランプ面へ閉動するロッキングプライヤーであって、プライヤ本体の固定アゴ部の側面部に一体にブロックが突設されかつこのブロックの突出方向の正面に溝方向がプライヤ本体の長手方向に一致するU溝を有し、プライヤ本体の固定アゴ部の背面部よりプライヤ本体の長手方向前方へ突出する角状突出部を一体に有する。なお、U字部はクランク部と呼んでもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、トーションバーのコ字形端部とU字部のいずれにも大きなトルクを作用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら本発明を実施するための最良の形態について説明する。
図1〜図3は本発明の実施形態に係るロッキングプライヤーについて示し、図1は操作レバーが閉じた状態を示す正面図、図2は操作レバーが開いた状態を示す正面図、図3は図1におけるIII−III矢視図である。
【0014】
図1〜図3に示すように、本発明の実施形態に係るロッキングプライヤー40は、操作レバー43を開いた状態で操作レバー43に枢着されたスタブシャフト44をプライヤ本体41に設けた調整ボルト45で係止し、揺動体42の可動側クランプ面とプライヤ本体41の固定側クランプ面との離間距離が設定されている。よって、操作レバー43を閉じると、倍力作用を生起して揺動体42の可動側クランプ面がプライヤ本体41の固定側クランプ面へ閉動する。
【0015】
ロッキングプライヤー40は、従来とは異なり、挟持ブロック46と、U溝47aを有するブロック47と、前側にU溝48aを有する角状突出部48と、を備える。よって、ロッキングプライヤー40は、図4を参照して後述するように、トーションバーのU字部に対して大きなトルクを生起してトーションバーを捩ることができる。U溝48aを形成する角状突出部48を備えることにより、図5を参照して後述するように、トーションバーのコ字形端部に対して大きなトルクを生起してトーションバーを捩ることができる。挟持ブロック46は、必要に応じて可動側クランプ面42aに設けられ、固定側クランプ面41bとの間でトーションバーを挟持することができる。
【0016】
以下、具体的に説明する。
図1〜図3に示すように、このロッキングプライヤー40は、プライヤ本体41と揺動体42と操作レバー43とスタブシャフト44と調整ボルト45とを備える点では図9と同じであるが、挟持ブロック46と、U溝47aを有するブロック47と、前側にU溝48aを形成する角状突出部48と、を備えている点で異なる。
【0017】
プライヤ本体41は、先端の固定アゴ部41aの一側面が固定側クランプ面41bとなっており基端側が固定側握り部41cとなっている。
【0018】
揺動体42は、固定アゴ部41aに対称的な形状であり、基端をプライヤ本体41の固定アゴ部に近い中途部に第一のピン軸49により枢着され、固定側クランプ面41bに対向する可動側クランプ面42aを有し、可動側クランプ面42aに挟持ブロック46が一体に突出されている。
【0019】
操作レバー43は、先端部43aを揺動体42の揺動端縁部に第二のピン軸50により枢着され、基端側が固定側握り部41cに対応する可動側握り部43bとなっている。
【0020】
スタブシャフト44は、先端を操作レバー43の中途に第三のピン軸51で枢着され、基端をプライヤ本体41の固定側握り部41cのガイド溝41c’にスライド可能に係合し、かつ、固定側握り部41cの基端部に設けられた雌ねじ部41dに螺合されガイド溝41c’へ延びている調整ボルト45の先端でプライヤ本体41の基端方向へのスライドを停止される。なお、スライド可能なスタブシャフト44の基端と螺合自在な調整ボルト45の先端とは係合可能であれば足りる。
【0021】
ブロック47は、プライヤ本体41の固定アゴ部41aの側面部に一体に突設され、かつ、ブロック47の突出方向の正面に溝方向がプライヤ本体41の長手方向に一致するU溝47aを有する。U溝47aは、トーションバーにぴったり被嵌できるように構成されている。
【0022】
角状突出部48は、プライヤ本体41の固定アゴ部41aの背面部、即ち固定側クランプ面41bとは反対側の面より一体に設けられ長手方向前方へ角状に突出していて、固定アゴ部41aの背面部との間に、横方向、即ちプライヤ本体41の長手方向に対して直行する方向に延びるトーションバーを受け入れるU溝48aを有している。
【0023】
上記のように構成されたロッキングプライヤー40は、図2に示すように、操作レバー43を開いた状態では、可動側クランプ面42aが固定側クランプ面41bに対して開いており、スタブシャフト44がプライヤ本体41に対して大きな角度を有している。操作レバー43を閉じていくと、スタブシャフト44がプライヤ本体41の長手方向に倒れていき、スタブシャフト44の変位で揺動体42が大きく旋回し、可動側クランプ面42aが固定側クランプ面41bに略平行な状態になり、停止する。このとき、挟持ブロック46と固定側クランプ面41bとの隙間Sがトーションバーの径よりも小さければ、トーションバーを挟持することができる。調整ねじ45を深く螺合すると隙間Sがさらに小さくなり、また浅く螺合すると隙間Sが大きくなる。従って、トーションバーの径が異なるときは、調整ねじ45を調整することでトーションバーを挟持することができる。
【0024】
次に使用形態について説明する。
〔使用例1〕
図4は、ロッキングプライヤー40をトーションバー60のU字部61に係合してトーションバーを捩る工程を示す図である。
先ず、図4(a)に示すように、挟持ブロック46と固定側クランプ面41bとでトーションバー60のU字部61を避けた隣接部を挟持するとともに、ブロック47のU溝47aをトーションバー60のU字部61に係合する。
次に、図4(b)に示すように、操作レバー43を閉じて矢印Xの方向に回すと、操作レバー43がプライヤ本体41へ閉じる方向に、操作レバー43に回転力を加えることができる。その際、挟持ブロック46と固定側クランプ面41bとの閉状態が保たれ、ブロック47のU溝47aの側面でU字部61に対して回転力を伝達できる。よって、トーションバー60のU字部61に対して大きなトルクを生起してトーションバー60を捩ることができる。
【0025】
〔使用例2〕
図5は、ロッキングプライヤー40をトーションバー62のコ字形端部63に係合してトーションバーを捩る工程を示す図である。
先ず、図5(a)に示すように、挟持ブロック46と固定側クランプ面41bとでトーションバー62におけるコ字形端部63の一方の平行部を挟持するとともに、角状突出部48のU溝48aにコ字形端部63の他方の平行部を係合する。
次に、図5(b)に示すように、操作レバー43を閉じて矢印Xの方向に回すと、操作レバー43がプライヤ本体41へ閉じる方向に、該操作レバー43に回転力を加えることができる。その際、挟持ブロック46と固定側クランプ面41bとが閉じる状態が保たれ、角状突出部48のU溝48aでコ字形端部63に対して回転力を伝達できる。よって、トーションバー62のコ字形端部63に対して大きなトルクを生起してトーションバー62を捩ることができる。
【0026】
以上のように、本発明の実施形態によるロッキングプライヤー40によれば、トーションバー60,62におけるコ字形端部63とU字部61、即ちクランク部との何れにも大きなトルクを作用できる。
【0027】
本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の要旨を逸脱しない範囲内での種々の設計変更した形態を技術的範囲に含むものである。操作レバーを解除するレバーを備えたり、操作レバーのスタブシャフトとの連結付近とプライヤ本体とを連結するばねを付設している場合も、本発明の範囲に含まれる。挟持ブロック46を備えない場合には、可動側クランプ面を固定側クランプ面に近づけるように揺動体をデザインすれば良い。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施形態に係るロッキングプライヤーについて、操作レバーが閉じた状態を示す正面図である。
【図2】本発明の実施形態に係るロッキングプライヤーについて、操作レバーが開いた状態を示す正面図である。
【図3】図1におけるIII−III矢視図である。
【図4】図1に示すロッキングプライヤーをトーションバーのU字部に係合してトーションバーを捩る工程を示す図である。
【図5】図1に示すロッキングプライヤーをトーションバーのコ字形端部に係合してトーションバーを捩る工程を示す図である。
【図6】従来のトーションバーの取付状態を示す斜視図である。
【図7】図6とは異なる従来のトーションバーの取付状態を示す斜視図である。
【図8】図6及び図7とは異なる従来のトーションバーの取付状態を示す斜視図である。
【図9】従来のロッキングプライヤーについて、操作レバーが閉じた状態を示す正面図である。
【符号の説明】
【0029】
40 ロッキングプライヤー
41 プライヤ本体
41a 固定アゴ部
41b 固定側クランプ面
41c レバー部
41c’ ガイド溝
41d 雌ねじ部
42 揺動体
42a 可動側クランプ面
43 操作レバー
43a 先端部
43b 可動側握り部
44 スタブシャフト
45 調整ボルト
46 挟持ブロック
46a U溝
47 ブロック
47a U溝
48 角状突出部
48a U溝
49 第一のピン軸
50 第二のピン軸
51 第三のピン軸
60,62 トーションバー
61 U字部
63 コ字形端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プライヤ本体に枢着された揺動体に操作レバーが枢着され、該操作レバーを開いた状態で操作レバーに枢着されたスタブシャフトを上記プライヤ本体に設けた調整ボルトで係止し、上記揺動体の可動側クランプ面と上記プライヤ本体の固定側クランプ面との離間距離が設定され、上記操作レバーを閉じると、倍力作用を生起して上記揺動体の可動側クランプ面が上記プライヤ本体の固定側クランプ面へ閉動するロッキングプライヤーであって、
上記プライヤ本体の固定アゴ部の側面部に一体にブロックが突設されかつ該ブロックの突出方向の正面に溝方向が上記プライヤ本体の長手方向に一致するU溝を有し、上記プライヤ本体の固定アゴ部の背面部より上記プライヤ本体の長手方向前方へ突出する角状突出部を一体に有する、ロッキングプライヤー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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