説明

ロッキング振動制止装置

【課題】 本発明は、ロッキング振動制止装置において、予測困難なロッキング振動を簡易な構成で阻止し得るようにする。
【解決手段】 免振対象物20及び基部21にそれぞれ固結して該固結部から伝達される免振対象物20及び基部21の上下方向相対変位を水平方向変位に変換する板ばね部材5〜8を免振対象物20と基部21との間に複数配設すると共に、各板ばね部材5〜8にそれぞれ固結して相互に連結し、所定の板ばね部材5,6から得られる水平方向変位を他の板ばね部材7,8に伝達する連結部材4を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はロッキング振動制止装置に関し、例えば精密機器を製造する製造設備で用いられる免振装置に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来、精密機器の製造設備においては、床スラブや基礎等の基部と、装置類や該装置類を載置する上床等の免振対象物との間に免振装置を介在させることにより、外部からの振動が免振対象物に伝播しないようになされている。
【0003】
例えば集積回路の製造設備においては、引上げ法(CZ法)によりシリコンの単結晶を円柱状に成長形成し、これを円板状にスライスすることで基板となるウエハが得られる。こうしたシリコンウエハは表面の平坦度及び比抵抗の均一性が重要であるが、シリコン単結晶の成長過程で振動が加わった場合、その成長形成に不均一性が生じてしまう。こうした振動の原因としては例えば周辺地域からの交通振動や、装置周辺での人間等の移動により生じるいわゆる生活振動等があげられる。こうした交通振動や生活振動は微少な振動ではあるが、このような微少振動であってもシリコン単結晶の均一成長にとっては重大な妨げとなる。そのため、こうした製造設備においては、上述のように基部と免振対象物との間に免振装置を介在させて振動を抑制するようになされている。
【0004】
免振装置は、免振対象物を載置する上床と基部との間に弾性体を設けて上床を除振台とした構成でなり、該弾性体によって除振台を上下方向に免振支持して振動エネルギーを吸収することにより、外部から伝播する振動を抑制する。精密機器の製造設備における免振装置では、微少振動の吸収抑制という観点から例えば弾性体として空気バネ等が用いられている。また通常、こうした弾性体を複数配設して各弾性体で振動エネルギーを分散吸収することで、振動の抑制効果をより向上するようになされている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところでかかる構成の免振装置においては、振動により各弾性体にかかる負荷が必ずしも均等であるとは限らず、また各弾性体の免振性能を完全に均一化することも困難であり、ロッキング回転振動が生じる場合がある。
【0006】
例えば除振台を構成する各弾性体に各々加わる振動負荷にばらつきが生じた場合、あるいは除振台上に偏荷重が生じた場合、負荷による弾性体の伸縮変位量が特定の弾性体のみで大きくなり、除振台が傾斜する。これにより除振台上の免振対象物に傾斜による回転モーメントが発生する。このため、このようなロッキング回転振動に対する対策を施す必要性があった。
【0007】
第1に、除振台下部に追加重量を付加したり、設備自体の横幅を広げて相対的に高さを下げる等して、除振台上の免振対象物の重心を下げる手法がある。しかし、こうした手法ではロッキング回転振動により生じる除振台の傾斜をある程度抑制するに止まり、傾斜が生じるのを完全に防止することは困難であるという問題がある。
【0008】
また第2に、基礎部と上床との間に弾性体と並列にダンパ等の減衰装置を配してロッキング回転振動を抑制する手法がある。しかしこの手法では、例えば減衰装置の減衰係数が低い場合にはロッキング回転振動を十分に抑制しきれない。また係数が高い場合にはロッキング回転振動の抑制効果は得られるが弾性体の上下動をも抑制することになり、免振装置による振動の抑制効果が低下することになる。したがって係数に微妙な設定が必要とされ、最適な係数設定が困難であるという問題がある。
【0009】
さらに第3に、ロッキング回転振動をアクティブ制振する手法がある。これはセンサ及び駆動装置を設けて、ロッキング回転振動によって除振台を傾斜させる負荷が生じた場合、これをセンサにより検出して駆動装置により逆方向への負荷を加え、振動エネルギーを散逸させることにより除振台の傾斜角を0に保持する。しかしこの手法は瞬間的な傾斜が生じた場合、それに対する応答性に欠けると共に、構成が複雑化するという問題がある。
【0010】
このように、免振装置でのロッキング回転振動に対する対策は設計段階から、想定されるロッキング振動量、転倒モーメント量等に関して詳細な検討が必要であり、また対策を行つても振動の発生には不確定要因が存在するために完全な予測が困難であり、ロッキング回転振動に対する抑制効果には限界があるという問題があつた。場合によってはロッキング回転振動を生ずる要因である上下方向の免振そのものを断念することもあった。
【0011】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、予測困難なロッキング回転振動を簡易な構成で除去し得るロッキング振動制止装置を提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる課題を解決するため本発明においては、免振対象物及び基部にそれぞれ固結して該固結部から伝達される免振対象物及び基部の上下方向相対変位を水平方向変位に変換する変位変換手段を免振対象物と基部との間に複数配設すると共に、各変位変換手段にそれぞれ固結して相互に連結し、水平方向変位を変位変換手段間で相互に伝達する変位伝達手段を設ける。
【0013】
入力振動によって基部と免振対象物との間に振動負荷が加わったとき、基部及び免振対象物とそれぞれ固結した各変位変換手段は、基部及び免振対象物間に上下方向相対変位を生じせしめる上下方向振動負荷を、これに応じた水平方向振動負荷に変換して変位伝達手段に伝達する。変位伝達手段は各変位変換手段を相互に連結しているため、こうした水平方向振動負荷を変位変換手段の相互間で伝達する。各変位変換手段では、相互に伝達された水平方向振動負荷が上下方向振動負荷に変換される。すなわち、ロッキング振動を生じせしめるばらつきのある上下方向振動負荷を水平方向振動負荷に変換し、この変位伝達手段を介して各変位変換手段相互間で伝達することで一様に均すことができ、全ての変位変換手段の基部及び免振対象物との固結位置において、平均化した同等量の上下方向振動負荷とし得る。殊に、変位変換手段を基部及び免振対象物と固結し、且つ、この変位変換手段と変位伝達手段とを固結したことにより、構造上の遊びが無く、入力振動に対してガタ無く瞬時に応動することができる。
【0014】
また本発明においては、変位変換手段として、免振対象物及び基部に一端を固結して上下に重なる位置で配置された一対の斜材を設け、該斜材の他端を互いに固結する。
入力振動によって上下方向相対変位が生じたとき、該斜材は他端の固結部を基準としてその傾斜角を変化させて水平方向に変位を生じ、また一端が免振対象物及び基部にそれぞれ固結しているため、他端に固結した変位伝達手段に、こうした水平変位に応じた引張力又は圧縮力を付勢することができる。
【0015】
また本発明においては、該斜材を弾性的に復原するばねとする。
該斜材は、上下方向振動負荷を水平方向振動負荷に変換し得ると共に、基部から免振対象物に伝搬しようとする上下方向振動エネルギーを弾性力によって吸収し、免振対象物への上下方向振動の伝搬を抑制することができる。
【0016】
また本発明においては、免振対象物と基部との間に変位変換手段と並列に上下方向弾性支持手段を配設する。
上下方向弾性支持手段は、基部から免振対象物に伝搬しようとする上下方向振動エネルギーを吸収して、免振対象物への上下方向振動の伝搬を抑制することができる。
【0017】
また本発明においては、免振対象物と基部との間に変位変換手段と直列に水平方向免振手段を配設する。
水平方向免振手段は、基部から免振対象物に伝搬しようとする水平方向振動エネルギーを吸収して、免振対象物への水平方向振動の伝搬を抑制することができる。
【0018】
また本発明においては、上記水平方向免振手段の自由端部を相互に連結するようにしている。
水平方向免振手段の自由端部はこれらを相互に連結したことにより、個々の自由端部の挙動を相互間で規制できて、各水平方向免振手段が独自に傾いて局部的に沈み込むことを防止できるようになり、延いては、免振対象物に偏心荷重が作用した場合にもその傾斜を確実に防止することができる。
【発明の効果】
【0019】
上述のように本発明によれば、免振対象物及び基部にそれぞれ固結して該固結部から伝達される免振対象物及び基部の上下方向相対変位を水平方向変位に変換する変位変換手段を免振対象物と基部との間に複数配設すると共に、各変位変換手段にそれぞれ固結して相互に連結し、水平方向変位を変位変換手段間で相互に伝達する変位伝達手段を設けたことにより、入力振動によって基部と免振対象物との間に上下方向相対変位を生じせしめる振動負荷が加わったとき、基部及び免振対象物とそれぞれ固結した各変位変換手段が上下方向振動負荷をこれに応じた水平方向振動負荷に変換して変位伝達手段に伝達し、変位伝達手段は各変位変換手段を相互に連結しているのでこうした水平方向振動負荷を変位変換手段の相互間で伝達し、各変位変換手段では相互に伝達された水平方向振動負荷が上下方向振動負荷に変換し、すなわち、ロッキング振動を生じせしめるばらつきのある上下方向振動負荷を、この変位伝達手段を介して各変位変換手段相互間で伝達することで一様に均して、全ての変位変換手段の基部及び免振対象物との固結位置において、平均化した同等量の上下方向振動負荷とすることができ、また変位変換手段を基部及び免振対象物と固結し、且つ、この変位変換手段と変位伝達手段とを固結したことにより、構造上の遊びが無く、入力振動に対してガタ無く瞬時に応動することができ、簡易な構成で、予測困難なロッキング回転振動を未然に阻止し得る。
【0020】
また本発明によれば、変位変換手段として、免振対象物及び基部に一端を固結して上下に重なる位置で配置された一対の斜材を設け、該斜材の他端を互いに固結するようにしたことにより、入力振動によって上下方向相対変位が生じたとき、該斜材は他端の固結部を基準としてその傾斜角を変化させて水平方向に変位を生じさせることができ、また一端が免振対象物及び基部にそれぞれ固結しているため、他端に固結した変位伝達手段に該水平変位に応じた引張力又は圧縮力を付勢することができ、簡易な構成で、上下方向相対変位を生じせしめる上下方向振動負荷をこれに応じた水平方向振動負荷に変換して変位伝達手段に伝達することができる。
【0021】
また本発明によれば、該斜材を弾性的に復原するばねとすることにより、上下方向振動負荷を水平方向振動負荷に変換し得ると共に、基部から免振対象物に伝搬しようとする上下方向振動エネルギーを弾性力によって吸収し、免振対象物への上下方向振動の伝搬を抑制することができ、簡易な一体構成で、ロッキング回転振動の阻止と、上下方向振動の抑制とを行い得る。
【0022】
また本発明によれば、免振対象物と基部との間に変位変換手段と並列に上下方向弾性支持手段を配設する。上下方向弾性支持手段は、基部から免振対象物に伝搬しようとする振動エネルギーを吸収して、免振対象物への上下方向振動の伝搬を抑制することができ、ロッキング回転振動の阻止と上下方向振動の抑制とを一体構成の装置で得ることができる。
【0023】
また本発明によれば、免振対象物と基部との間に変位変換手段と直列に水平方向免振手段を配設する。水平方向免振手段は、基部から免振対象物に伝搬しようとする振動エネルギーを吸収して、免振対象物への水平方向振動の伝搬を抑制することができ、ロッキング回転振動の阻止と水平方向振動の抑制とを一体構成の装置で得ることができる。
【0024】
また、本発明によれば、上記水平方向免振手段の自由端部を相互に連結したので、水平方向免振手段の自由端部は相互の連結により個々の挙動が規制されるため、各水平方向免振手段が独自に傾いて局部的に沈み込むことを防止でき、延いては、免振対象物に偏心荷重が作用した場合にもそれの傾斜を確実に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下図面について、本発明の一実施例を詳述する。図1〜図4において、1は全体としてロッキング振動制止装置を示し、弾性支持部2及び3を連結部材4を用いて連結した形状でなる。弾性支持部2は鋼材を用いて形成した板ばね部材5及び6の長手方向の両端部を所定の角度で平行に折曲げて、一方の折曲げ端部5a及び6aを重ね合わせた形状でなる。同様に弾性支持部3は鋼材を用いて形成した板ばね部材7及び8の長手方向の両端部を所定の角度で平行に折曲げて、一方の折曲げ端部7a及び8aを重ね合わせた形状でなる。また連結部材4は鋼材を用いて形成した中空でなる角柱部材であり、長手方向の両端にプレート片9及び10がそれぞれ突出した形状でなる。ここで連結部材4には後述する要因から、圧縮力に対して座屈を生じることのない十分な剛性を有する部材を用いている。
【0026】
ロッキング振動制止装置1は、プレート片9を板ばね部材5及び6の一方の端部5aと6aとの間に挟み込み、またプレート片10を板ばね部材7及び8の一方の端部7a及び8aとの間に挟み込み、折曲げ端部5a及び6a及びプレート片9、折曲げ端部7a及び8a及びプレート片10をボルト等を用いて固結することで、弾性支持部2及び3を連結部材4で連結した形状に形成している。また折曲げ端部5a及び6a、連結部材4、折曲げ端部7a及び8aには、これらの間に亘る長手方向の両側面にプレート部材11及び12を溶接等によつて固結しており、固結部及び連結部材4の剛性を高めるようになされている。また折曲げ端部5bと6bとの間にはばね13を配設しており、折曲げ端部7bと8bとの間にはばね14を配設している。当該ばね13及び14は、上下方向の振動伝搬を抑制するために配されるようになされており、微少な振動をも吸収し得るという点から空気ばねを用いることが望ましい。
【0027】
またロッキング振動制止装置1は、弾性支持部2及び3の他方の折曲げ端部5b及び7bを台座支持部15の底部にボルト等によつて固結すると共に、弾性支持部2及び3の他方の折曲げ端部6b及び8bを基板16に同じくボルト等によつて固結しており、台座支持部15上に除振台19を載置して、該除振台19上に免振対象物20を載置するようになされている。このように本実施形態では、ロッキング振動制止装置1と免振対象物20との間に台座支持部15および除振台19を介在させて構成しているけれども、これら台座支持部15および除振台19のいずれかを省略したり、あるいはロッキング振動制止装置1を直接免振対象物20に固結するようにしてもよい。
【0028】
さらに、こうして折曲げ端部6b及び8bがそれぞれ固結された基板16の下部に、免振ゴム17及び18がそれぞれ配されるようになされている。免振ゴム17及び18はロッキング振動制止装置1への水平方向の振動伝搬を抑制するために配されており、一方が基板16に固結されると共に、他方が基礎である床スラブに固結され、かくしてロッキング振動制止装置1を、基礎21上に固定するようになされている。上記免振ゴム17及び18は基礎21側が固定端部となるとともに、基板16側が自由端部となっており、この自由端部の基板16を高剛性の連結板16aを介して相互に連結している。
【0029】
ここで図5に示すように、ロッキング振動制止装置1は除振台19の周側辺に沿つて、H型鋼でなる台座支持部15を介して各々配されている。台座支持部15は井型形状となるように平行に配されており、こうして配した台座支持部15上に除振台19を載置してボルト又は溶接等によつて固結する。並列状態でなる各台座支持部15は長手方向の両側端が各々除振台19の側辺部から突出するようになされており、ロッキング振動制止装置1は除振台19の各辺において、並行する台座支持部15の各突出部底面に折曲げ端部5a及び7aを各々配して固結するようになされている。ロッキング振動制止装置1は、このような配置状態で除振台19の周側辺に沿った位置に設けることにより、その免振効果及びロッキング回転振動の抑制効果を発揮する。
【0030】
以上の構成において、弾性支持部2及び3によって免振支持がなされた除振台19と基礎21との間に、上下方向相対変位を生じせしめる入力振動があり、弾性支持部2及び3に各々異なる上下振動負荷が生じた場合、これに応じて免振支持をしようとすることで各弾性支持部で上下方向相対変位が異なって生じることになり、除振台19にロッキング回転振動が生じようとする。
【0031】
ロッキング振動制止装置1は、弾性支持部2及び3にそれぞれ加わる上下方向振動負荷をそれに応じた水平方向振動負荷に変換する。ここで、弾性支持部2及び3は板ばね部材5〜8によってそれぞれ形成されており、各々一方の端部5b〜8bが台座支持部15及び基板16とそれぞれ固結しているため、上下方向での弾性変形により板ばね部材5〜8の傾斜角が変化して水平方向に変位を生じ、これにより上下方向振動負荷を水平方向振動負荷に変換することができる。こうした変換により得られる水平方向振動負荷は、弾性支持部2及び3とそれぞれ固結している連結部材4により、弾性支持部2及び3の相互間で伝達される。ここで連結部材4に弾性支持部2及び3からそれぞれ付勢される各水平方向振動負荷は、各々異なる振動負荷によるものであるためにばらつきがあるが、連結部材4による相互伝達により相殺し合って力の均衡をとることになり、結果として、一様に均されたものとなる。こうして均された水平方向振動負荷は、弾性支持部2及び3にそれぞれ加わる上下方向振動負荷を平均化したものとして伝達される。
【0032】
例えば図6に示すように、除振台19上でロッキング回転振動を生じせしめる振動負荷により、図中に実線の下向きの矢印で示す偏荷重W1が、弾性支持部3の台座支持部15(図示せず)と固結した折曲げ端部7bに加わつた場合、折曲げ端部8bが基板16と固結した固定点となつているため、折曲げ端部7bは偏荷重W1によつて下方向に沈み込もうとする。この際、折曲げ端部7bの沈み込みに応じて弾性支持部3が変形しようとし、弾性支持部3の連結部材4との固結部分が水平方向に移動しようとするため、図中に左右方向への矢印で示す水平方向への引張力T1が連結部材4に付勢される。連結部材4は弾性支持部2とも固結しているため、連結部材4に付勢される水平方向への引張力T1は弾性支持部2との固結部分に伝達される。こうして伝達される引張力T1によつて、弾性支持部2では連結部材4との固結部分が水平方向に移動しようとする。ここで折曲げ端部6bが折曲げ端部8bと同様に基板16と固結した固定点であるため、弾性支持部2の連結部材4との固結部分が移動しようとすることで弾性支持部2が変形しようとし、台座支持部15(図示せず)と固結した折曲げ端部5bが沈み込もうとすることになる。かくして、折曲げ端部7bに上下方向相対変位を生じせしめようとする偏荷重W1は、連結部材4での相互伝達によって平均化され弾性支持部2及び3の相互に半分ずつ伝達されることになり、折曲げ端部5b及び7bを連動して同じ変位量で沈み込ませる。
【0033】
また例えば図7に示すように、除振台19上でロッキング回転振動を生じせしめる振動負荷により、図中に実線の下向きの矢印で示す偏荷重W2が、弾性支持部2の台座支持部15(図示せず)と固結した折曲げ端部5bに加わつた場合、弾性支持部2が折曲げ端部6bが基板16と固結した固定点となつているため、折曲げ端部5bは偏荷重W2によつて下方向に沈み込もうとする。ここで、折曲げ端部5bの沈み込みに応じて弾性支持部2が変形しようとし、弾性支持部2の連結部材4との固結部分が水平方向に移動しようとすることになり、図中に左右方向への矢印で示す水平方向への圧縮力C1が連結部材4に付勢される。連結部材4は弾性支持部3とも固結しているため、連結部材4に付勢される水平方向への圧縮力C1は弾性支持部3との固結部分に伝達される。こうして伝達される圧縮力C1によつて、弾性支持部3では連結部材4との固結部分が水平方向に移動しようとする。ここで折曲げ端部8bが折曲げ端部6bと同様に基板16と固結した固定点であるため、弾性支持部3の連結部材4との固結部分が移動しようとすることにより弾性支持部3が変形しようとし、台座支持部15(図示せず)と固結した折曲げ端部7bが沈み込もうとすることになる。かくして、折曲げ端部5bに上下方向相対変位を生じせしめようとする偏荷重W2は、連結部材4での相互伝達によって平均化され弾性支持部2及び3の相互に半分ずつ伝達されることになり、折曲げ端部5b及び7bを連動して同じ変位量で沈み込ませる。
【0034】
さらに例えば図8に示すように、除振台19上にロッキング回転振動を生じせしめる振動負荷により、図中に実線矢印で示す上向きの偏荷重W3が弾性支持部2の折り曲げ端部5bに、また図中に実線矢印で示す下向きの偏荷重W4が弾性支持部3の折曲げ端部7bにそれぞれ加わつた場合、折曲げ端部5bは上方向に浮き上がろうとし又折曲げ端部7bは下方向に沈み込もうとする。ここで、折曲げ端部5bが浮き上がろうとすることに応じて弾性支持部2が変形しようとし、弾性支持部2の連結部材4との固結部分が水平方向に移動しようとすることになり、図中に左右方向への実線矢印で示す水平方向への引張力T2を連結部材4に付勢する。一方、折曲げ端部7bが沈み込もうとすることに応じて弾性支持部3が変形しようとし、弾性支持部3の連結部材4との固結部分が水平方向に移動しようとすることになり、図中に左右方向への実線矢印で示す水平方向への引張力T2を連結部材4に付勢する。ここで相対する水平方向への引張力T2が等しい場合、すなわち弾性支持部2に加わる偏荷重W3と弾性支持部3に加わる偏荷重W4とが等しい場合、連結部材4では相対する向きでなる引張力T2が互いに相殺し合うことになり、どちらの方向にも移動を起こさず、従って折曲げ端部5b及び7bは上下方向のどちらにも動かないことになる。また弾性支持部2の方向への引張力が大である場合、すなわち偏荷重W3が偏荷重W4に比して大である場合、連結部材4は弾性支持部3の方向への引張力によつて相殺された分を除く引張力により水平方向に移動し、これによつて連結部材4に見かけ上、弾性支持部2側への引張力のみが付勢された状態となつて、折曲げ端部5b及び7bはともに上向きに浮き上がることになる。さらに弾性支持部3の方向への引張力が大である場合、すなわち偏荷重W4が偏荷重W3に比して大である場合、連結部材4は弾性支持部2の方向への引張力によつて相殺された分を除く引張力により水平方向に移動し、これによつて連結部材4に見かけ上、弾性支持部3側への引張力のみが付勢された状態となつて、折曲げ端部5b及び7bはともに下向きに沈み込むことになる。
【0035】
また、除振台19上にロッキング回転振動を生じせしめる振動負荷によって、図中に破線矢印で示す下向きの偏荷重W3が弾性支持部2の折り曲げ端部5bに、また図中に破線矢印で示す上向きの偏荷重W4が弾性支持部3の折曲げ端部7bにそれぞれ加わつた場合、折曲げ端部5bは下方向に沈み込もうとし又折曲げ端部7bは上方向に浮き上がろうとする。この際、折曲げ端部5bが沈み込もうとすることに応じて弾性支持部2が変形しようとし、弾性支持部2の連結部材4との固結部分が水平方向に移動しようとすることになり、図中に左右方向への破線矢印で示す水平方向への圧縮力C2を連結部材4に付勢する。一方、折曲げ端部7bが浮き上がろうとすることに応じて弾性支持部3が変形しようとし、弾性支持部3の連結部材4との固結部分が水平方向に移動しようとすることになり、図中に左右方向への破線矢印で示す水平方向への圧縮力C2を連結部材4に付勢する。ここで相対する水平方向への圧縮力C2が等しい場合、すなわち弾性支持部2に加わる偏荷重W3と弾性支持部3に加わる偏荷重W4とが等しい場合、連結部材4では相対する向きでなる圧縮力C2が互いに相殺し合うことになり、どちらの方向にも移動を起こさず、従って折曲げ端部5b及び7bは上下方向のどちらにも動かないことになる。また弾性支持部3の方向への圧縮力が大である場合、すなわち偏荷重W3が偏荷重W4に比して大である場合、連結部材4は弾性支持部2の方向への圧縮力によつて相殺された分を除く圧縮力により水平方向に移動し、これによつて連結部材4に見かけ上、弾性支持部3側への圧縮力のみが付勢された状態となつて、折曲げ端部5b及び7bはともに下向きに沈み込むことになる。さらに弾性支持部2の方向への圧縮力が大である場合、すなわち偏荷重W4が偏荷重W3に比して大である場合、連結部材4は弾性支持部3の方向への圧縮力によつて相殺された分を除く圧縮力により水平方向に移動し、これによつて連結部材4に見かけ上、弾性支持部2側への引張力のみが付勢された状態となつて、折曲げ端部5b及び7bはともに上向きに浮き上がることになる。
【0036】
このように、ロッキング振動制止装置1は上下振動に対する免振時に、入力振動による振動負荷が弾性支持部2と3とで異なることによって上下方向相対変位にばらつきが生じ、除振台19上にロッキング振動を生じせしめる偏荷重が生じた場合、弾性支持部2は板ばね部材5及び6によって、また弾性支持部3は板ばね部材7及び8によって、偏荷重により台座支持部15と基部16との間に上下方向相対変位を生じせしめる上下方向振動負荷を水平方向振動負荷に容易に変換することができ、また当該水平方向振動負荷を引張力又は圧縮力として連結部材4に付勢して弾性支持部の相互間で伝達することにより、各弾性支持部から伝達される水平方向振動負荷を均して、上下方向振動負荷を平均化して各変位変換手段に伝達することができる。
【0037】
またロッキング振動制止装置1は、弾性支持部2及び3の一方の端部5b〜8bを台座支持部15及び基板16と各々固結し、且つ、他方の端部5a〜8aと連結部材4とを固結しているため、構造上の遊びが無く、弾性支持部2及び3、並びに連結部材4が入力振動に対してガタ無く瞬時に応動することができる。
【0038】
また連結部材4には偏荷重によつて弾性支持部2及び3の両者から圧縮力が付勢される場合があるため(図7)、上述の構成で述べたように、こうした圧縮力に対して十分な強度を有する部材を用いて形成するようになされており、圧縮によつて座屈を生じさせないようにしている。また弾性支持部2及び3に相異なる方向に偏荷重が加わった場合(図8)、連結部材4に付勢される引張力T2又は圧縮力C2が等しければ互いに相殺され、折曲げ端部5b及び7bは動かないが、実際上は各部材が有する弾性歪み分だけ若干量上下動が生じ得る。こうした問題を回避するために、ロッキング振動制止装置1では、各部材に断面性能の高い部材を用いるようになされている。
【0039】
さらにロッキング振動制止装置1は、弾性支持部2の一方の端部5b及び6bとの間にばね13を、弾性支持部3の一方の端部7b及び8bとの間にばね14をそれぞれ設けるようになされており、また基板16と基礎21との間に免振ゴム17を設けるようになされている。これにより、ばね13及び14で上下方向の免振を、また免振ゴム17で水平方向の免振を行うことができる。
【0040】
以上の構成によれば、ロッキング振動制止装置1は、ばね13及び14によって上下方向の免振を又免振ゴム17及び18によって水平方向の免振を行い得ると共に、弾性支持部2及び3に連結部材4を固結して相互に連結した状態で除振台19の各側辺に沿つて配して、各弾性支持部に加わる振動負荷を連結部材4を介して相互に伝達するようにしたことにより、上下振動に対する免振時に入力振動による振動負荷が各弾性支持部で異なることによって上下方向相対変位にばらつきが生じ、除振台19上にロッキング振動を生じせしめようとする場合、台座支持部15と基部16との間に上下方向相対変位を生じせしめようとする上下方向振動負荷を、弾性支持部2及び3の板ばね部材5〜8によって、水平方向振動負荷に容易に変換することができ、また当該水平方向振動負荷を引張力又は圧縮力として連結部材4に付勢して弾性支持部の相互間で伝達することで、各弾性支持部から伝達される水平方向振動負荷を均して、上下方向振動負荷を平均化することができ、全ての弾性支持部を連動して平均化した変位量で上下方向での伸縮を生じせしめることができ、これにより上下方向及び水平方向での免振を行い得ると共に、簡易な構成で、予測困難なロッキング振動の阻止を実現し得る。
【0041】
また、免振ゴム17及び18の自由端部間は、連結板16aを介して互いに連結したので、それぞれの自由端部の挙動を規制して各免振ゴム17及び18が独自に傾いて局部的に沈み込みが生ずることを防止することができる。このため、除振台19に偏心荷重が作用した場合にも、この除振台19が傾斜されるのを防止することができる。ところで、本実施形態では連結板16aによって免振ゴム17及び18の自由端に設けた各基板16を連結したが、この連結板16aを用いることなくそれぞれの基板16どうしを延設して一体化しても良く、また、他の構造体を介して各基板16を連結することもできる。勿論、このように連結板16aを用いた場合、各基板16を一体化した場合および他の構造体を介して連結した場合のいずれにあっても、それぞれに免振ゴム17及び18の挙動を規制するに十分な剛性を備えるようになっている。
【0042】
なお上述の実施例においては、精密機器の製造設備に用いる場合について述べたが、本発明はこれに限らず、建築物に適用してもよい。
【0043】
また上述の実施例においては、弾性支持部2及び3を連結部材4によつて連結したロッキング振動制止装置1の場合について述べたが、本発明はこれに限らず、3つ以上の弾性支持手段を相互に連結する場合に適用してもよい。この場合も実施例の場合と同様の効果を得ることができる。
【0044】
また上述の実施例においては、プレート片9を折曲げ端部5a及び6aの間に、またプレート片10を折曲げ端部7a及び8aの間に挟み込んで接合することにより、弾性支持部2及び3を連結部材4によつて相互に連結したロッキング振動制止装置1の場合について述べたが、本発明はこれに限らず、プレート形状の突出部を有さない角柱形状の連結部材を用いてもよい。すなわち角柱形状の連結部材の長手方向の両側端を直接、折曲げ端部5a及び6aの間と、折曲げ端部7a及び8aの間とにそれぞれ挟み込んで接合するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明におけるロッキング振動制止装置の全体構成を示す側面図である。
【図2】本発明におけるロッキング振動制止装置の全体構成を示す平面図である。
【図3】連結部分の接合状態を示す図1のB線での断面図である。
【図4】連結部材の内部を示す図1のA線での断面図である。
【図5】本発明におけるロッキング振動制止装置と除振台との配置構成を示す平面図である。
【図6】本発明におけるロッキング振動制止装置の機能を説明するための図である。
【図7】本発明におけるロッキング振動制止装置の機能を説明するための図である。
【図8】本発明におけるロッキング振動制止装置の機能を説明するための図である。
【符号の説明】
【0046】
1 ロッキング振動制止装置
2、3 弾性支持部
4 連結部材
5、6、7、8 板ばね部材
9、10 ブレート片
11、12 プレート部材
13、14 ばね
15 台座支持部
16 基板
16a 連結板
17、18 免振ゴム
19 除振台
20 免振対象物
21 基礎

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基部上に免振支持がなされた免振対象物のロッキング振動を阻止するための装置において、
上記免振対象物と上記基部との間に複数配設されてなり、上記免振対象物及び上記基部にそれぞれ固結して該固結部から伝達される上記免振対象物及び上記基部の上下方向相対変位を水平方向変位に変換する変位変換手段と、
各上記変位変換手段にそれぞれ固結して上記変位変換手段を相互に連結し、上記水平方向変位を各上記変位変換手段間で相互に伝達する変位伝達手段とを備えることを特徴とするロッキング振動制止装置。
【請求項2】
前記変位変換手段は、前記免振対象物及び前記基部に一端を固結して上下に重なる位置で配置された一対の斜材であり、該斜材の他端を互いに固結していることを特徴とする請求項1に記載のロッキング振動制止装置。
【請求項3】
前記斜材は、弾性的に復原するばねであることを特徴とする請求項2に記載のロッキング振動制止装置。
【請求項4】
前記免振対象物と前記基部との間に前記変位変換手段と並列に配設されてなる上下方向弾性支持手段を備えることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載のロッキング振動制止装置。
【請求項5】
前記免振対象物と前記基部との間に前記変位変換手段と直列に配設されてなる水平方向免振手段を備えることを特徴とする請求項1〜4いずれかに記載のロッキング振動制止装置。
【請求項6】
前記水平方向免振手段の自由端部を相互に連結したことを特徴とする請求項5に記載のロッキング振動制止装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−10088(P2006−10088A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−263730(P2005−263730)
【出願日】平成17年9月12日(2005.9.12)
【分割の表示】特願平10−314379の分割
【原出願日】平成10年11月5日(1998.11.5)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】