説明

ロッド状の金属粒子の合成方法

【課題】アスペクト比が2〜25のロッド状の金属粒子を選択的に合成する方法を提供すること。
【解決手段】多価アルコール系化合物中で金属化合物を還元しロッド状の金属粒子を合成する方法において、ロッド状金属粒子の核生成剤として塩化白金を用い、ポリスチレン換算による重量平均分子量が1000〜15000の含窒素有機化合物を金属粒子の成長調整剤として用いることによりロッド状の金属粒子を選択的に合成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロッド状の金属粒子の合成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、球状の金属粒子以外に色々な形状の金属粒子が合成されるようになった。中でもロッド状の金属粒子は、種々の特異な性質を有しており、エレクトロニクス分野において配線材料、導電性ペースト、電極材料、センサー、液晶表示素子、ナノ磁石、電磁波シールド、熱伝導性充填材等の光学材料として、その他にも環境触媒、燃料電池用高機能触媒、医薬品などとして近年最も注目を浴びている材料のひとつである。
その理由は、ロッド状の金属粒子は両端に強い増強磁場を持ち、長軸方向と短軸方向で異なるプラズモンバンドを有し、近赤外域に強いプラズモンバンド及び周囲媒体の誘電率に敏感に反応することが挙げられる。
【0003】
一般にロッド状の粒子は、アスペクト比が大きくなればなるほどその特性が出やすいため、アスペクト比の大きいものが好まれる。しかしながら、アスペクト比が大きくなるほど粒子同士が絡まりやすいため、溶媒や組成物中に均一分散しにくく、特に合成樹脂中に練りこむことは非常に困難であった。そこで、ロッド状であって分散性に優れる金属粒子が求められている。
【0004】
ロッド状の金属粒子の合成方法としては、1,3−ブタンジオールと分散剤との混合溶液に水溶性銀化合物の水溶液を添加し、該銀化合物を還元して非凝集、単分散の銀粒子の合成方法が知られているが、この合成方法で得られる金属粒子は長さが不均一であり、安定してロッド状の金属粒子を得ることが困難であった(特許文献1)。
【0005】
また、本願出願人は、アスペクト比の大きい所謂ワイヤー状金属粒子の合成方法を提案している(特願2007−1256号)。この方法によればワイヤー状の金属粒子を大きさが均一でかつ簡便に合成することが可能であるが、ワイヤー状の金属粒子同士が絡みやすく、安定して溶媒、合成樹脂等に含有させるのは困難であった。
【特許文献1】特開2005−54223号公報
【特許文献2】特願2007−1256号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、分散性に優れたロッド状の金属微粒子の合成方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、アスペクト比が2〜25であれば、ロッド状の金属粒子が互いに絡まず、かつロッド状の金属粒子が有する特異な性質は発現されることを見出した。そこで、核生成剤として塩化白金を用い、多価アルコール系化合物中において金属化合物を還元しロッド状の金属粒子を合成する方法において、アスペクト比が2〜25の金属粒子を選択的に合成する方法を鋭意検討した結果、ポリスチレン換算による重量平均分子量が1000〜15000である含窒素有機化合物を金属粒子の成長調整剤として用いると、選択的にアスペクト比が2〜25のロッド状の金属粒子が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、選択的にロッド状の金属粒子を合成でき、かつ生成したロッド状の金属粒子は分散性に優れるため、様々な用途に適用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0010】
本明細書中で使用される「ロッド状」とは、長さが0.05〜6μmであって、径が50〜1300nmであり、アスペクト比が2〜25の形状を意味するものである。なお、「ロッド状」の金属粒子は、長さ及び径が前記範囲内であれば、長さや径が同等のもののみから構成されていても、長さや径が異なるものが混在していても差し支えない。
【0011】
本発明のロッド状の金属粒子の合成方法は、多価アルコール系化合物中で金属化合物を還元しロッド状の金属粒子を合成する方法であって、ロッド状金属粒子の核生成剤として塩化白金を用い、ポリスチレン換算による重量平均分子量が1000〜15000の含窒素有機化合物を金属粒子の成長調整剤として用いることを特徴とするロッド状の金属粒子の合成方法である。
より具体的には、溶媒と金属化合物とを含む溶液(B)を多価アルコール系化合物と塩化白金とを含む溶液(A)に滴下することによって、選択的にロッド状の金属粒子を合成する方法であり、上記含窒素有機化合物は溶液(A)及び/又は溶液(B)に含有される。
【0012】
先ず溶液(A)について説明する。溶液(A)は、多価アルコール系化合物と塩化白金とを含むものである。
【0013】
本発明に使用される多価アルコール系化合物は、溶媒の役割と金属化合物を還元する役割を果たすものである。多価アルコール系化合物は、アルキル鎖長が2〜10の2価のアルコール系化合物又は3価のアルコール系化合物が使用でき、具体的にはエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン等が挙げられる。多価アルコール系化合物は用いる金属化合物や、反応させる温度および溶液(B)中の金属化合物の種類や濃度等により選択されるが、比較的粘度が低く、金属化合物が溶けやすいエチレングリコールが好ましく用いられる。また、エチレングリコールの還元作用は比較的穏やかであるため、反応が急激に進行して、得られる金属が球状又は擬球状に微粒子化するようなことがなく、ロッド状に成長しやすい。多価アルコール系化合物は、一種であっても複数組み合わせて用いてもよい。
【0014】
本発明の塩化白金は合成段階で金属粒子が成長する際の核生成剤としての役割を果たす。塩化白金を用いることにより金属粒子の核が生成され、これを起点として速やかにロッド状に成長する。また、塩化白金を使用することにより生成した金属粒子が安定化し、酸化されて元の金属化合物に戻ったり、反応槽中に金属粒子が溶解したりすることを防止できる。塩化白金は多価アルコール系化合物100重量部に対して、0.0001〜0.08重量部含有されることが好ましい。多価アルコール系化合物に対して塩化白金の添加量が0.0001重量部より少ないと核生成が不十分になり、得られる金属粒子に球状又は擬球状微粒子が混在する。また0.08重量部より多いとロッド状の金属粒子を得ることができるが、二次凝集が激しくなる。
【0015】
また、塩化白金は無水物がよく、好ましくは塩化白金(PtCl)である。水和物を含有すると金属化合物の溶解性が増して、還元の妨げとなり、得られる金属粒子の形状が不均一になるおそれがある。
【0016】
溶液(A)には、上記多価アルコール系化合物、塩化白金以外に、目的に応じて各種溶剤、分散剤、還元剤、安定剤、酸化防止剤等を添加してもよい。
【0017】
次に、溶液(B)について説明する。溶液(B)は、溶媒と金属化合物とを含むものである。
【0018】
溶液(B)の溶媒としては金属化合物や金属粒子の成長調整剤を均一に分散するものであればよいが、溶液(A)の還元作用を阻害しないようにするため、多価アルコール系化合物が主成分であることが好ましい。例えば多価アルコール系化合物としては、溶液(A)の場合と同様にエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン等の2価のアルコール系化合物又は3価のアルコール系化合物が使用できる。溶液(A)で使用する多価アルコール系化合物と溶液(B)で使用する多価アルコール系化合物は同一でなくても問題ないが、溶液(A)の多価アルコールの希釈による還元性の低下の点から、同一であることが好ましい。
【0019】
本発明の金属化合物とはニッケル、銅、銀、金、ビスマスの硝酸化物、硫酸化物、炭酸化物、水酸化物、塩化物である。例えば、銀粒子を得る場合は硝酸銀、硫酸銀、炭酸銀、塩化銀を用いることができ、溶媒に溶解しやすく、還元されやすい硝酸銀が好適である。金属化合物は溶液(B)の溶媒100重量部に対して8重量部以下含有される。8重量部を超えると、溶液(B)への溶解性が悪化し、金属化合物が均一に分散されにくくなる。
また、金属化合物の含有量が少なすぎるとロッド状の状金属粒子の生成効率が悪くなるため、生産性を鑑みると、金属化合物の含有量は溶液(B)の溶媒100重量部に対して0.5〜8重量部であることが好ましい。
【0020】
本発明のロッド状の金属粒子を合成する方法においては、溶液(A)及び/又は溶液(B)にポリスチレン換算による重量平均分子量が1000〜15000の含窒素有機化合物を金属粒子の成長調整剤として含有する。本発明の金属粒子の成長調整剤として用いる含窒素有機化合物は、金属化合物が還元されたときに金属粒子に吸着する部位を有し、金属粒子の表面に吸着することによって、選択的に金属粒子をロッド状に成長させる働きを有するものである。含窒素有機化合物の重量平均分子量は好ましくは5000〜12000であり、さらに好ましくは8000〜10000である。含窒素有機化合物のポリスチレン換算による重量平均分子量が1000未満の場合、金属粒子をロッド状に成長させる際に、隣接のロッド同士の距離が短くなり凝集しやすくなる。重量平均分子量が15000を超えると、アスペクト比が大きくなり、本発明のロッド状の金属粒子を得ることが困難になる。
【0021】
金属粒子の成長調整剤として用いられる含窒素有機化合物としては、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリエチレンイミン等を挙げることができ、中でも金属への吸着が良く、溶剤への溶解性の観点からポリビニルピロリドンが好適である。含窒素有機化合物の添加量は前記金属化合物100重量部に対して50〜300重量部であることが好ましい。50重量部より少ないと球状又は擬球状微粒子が混在しやすく、選択的にロッド状の金属粒子を得ることが困難となる。300重量部より多いとロッド状への成長の妨げとなり微粒子化されやすく、また溶液(B)に含窒素有機化合物を含有する場合にあっては、溶液(B)の粘度が高くなり滴下を調製することが困難になる。
【0022】
含窒素有機化合物の添加量は、金属化合物100重量部に対して50〜300重量部であることが好ましいことは上述のとおりである。含窒素有機化合物の添加量は、金属化合物の添加量により決定されるので、含窒素有機化合物は金属化合物が含有されている溶液(B)に含有されていることが好ましい。
【0023】
溶液(B)には溶液(A)と同様に、目的に応じて各種溶剤、分散剤、還元剤、安定剤、酸化防止剤等を添加してもよい。
【0024】
本発明のロッド状の金属粒子は、上述の溶液(A)に上述の溶液(B)を滴下することで合成される。このときの滴下速度は1〜20mL/minが好ましい。滴下速度が1mL/minより遅いと、ロッド状の金属粒子を得ることはできるが、合成に時間がかかり合成効率が悪い。また、滴下速度が20mL/minより速いと、得られる金属粒子に球状又は擬球状粒子が混在するおそれがある。
【0025】
なお、溶液(A)の多価アルコール系化合物は溶液(B)の溶媒100重量部に対して20〜80重量部であることが好ましい。20重量部未満であると、金属化合物を還元する作用が弱く、球状あるいは擬球状の金属粒子が生成する傾向にある。80重量部を超えると、金属化合物を還元する能力が高くなりすぎて生成したロッド状の金属粒子が凝集する傾向にあり、またロッド状の金属粒子の生成効率が悪くなる。
【0026】
また、本発明のロッド状の金属粒子の合成方法においては、溶液(A)を予め加熱しておくことが好ましく、溶液(B)を滴下しロッド状の金属粒子を合成する際も温度を一定に保っておくことが好ましい。加熱温度は多価アルコール系化合物の沸点以下であり、好ましくは多価アルコール系化合物が高い還元作用を示す60〜180℃程度であり、使用する多価アルコール系化合物や金属化合物により適宜決定される。
【実施例】
【0027】
(実施例1)
エチレングリコール250mLを155℃に加熱し、塩化白金35mgを添加した溶液(A)に、硝酸銀50gとポリスチレン換算による重量平均分子量が10000のポリビニルピロリドン65gをエチレングリコール1000mLに溶解した溶液(B)を11mL/minの割合で滴下した。滴下終了後60分後にサンプリングを行い、銀粒子の形状を電子顕微鏡で確認した。得られた銀粒子は、長さが約2.5μm、径が約240nmのロッド状であった(アスペクト比約10.4)。(図1 電子顕微鏡画像)
【0028】
(実施例2)
溶液(B)を硝酸銀50gとポリスチレン換算による重量平均分子量が10000のポリビニルピロリドン100gをエチレングリコール1,000mLに溶解したものに変えた以外は、実施例1と同様の方法で合成した。得られた銀粒子は、長さが約1.5μm、径が約280nmのロッド状であった(アスペクト比約5.4)。(図2 電子顕微鏡画像)
【0029】
(実施例3)
溶液(B)を硝酸銀30gとポリスチレン換算による重量平均分子量3500のポリビニルピロリドン90gをエチレングリコール1000mLに溶解したものに変えた以外は、実施例1と同様の方法で合成した。得られた銀粒子は、長さが約4μm、径が約900nmのロッド状であった(アスペクト比約4.4)。
【0030】
(比較例1)
溶液(B)を硝酸銀50gとポリスチレン換算による重量平均分子量40000のポリビニルピロリドン100gをエチレングリコール1000mLに溶解した以外は実施例1と同様の方法で合成した。得られた銀粒子は、銀粒子は長さが約7μm、径が約250nmのアスペクト比の大きい所謂ロッド状であった(アスペクト比約28.0)。(図3 電子顕微鏡画像)
【0031】
(比較例2)
溶液(B)を硝酸銀50gとポリスチレン換算による重量平均分子量111の1−ビニル−2−ピロリドン100gをエチレングリコール1000mLに溶解した以外は実施例1と同様の方法で合成した。得られた銀粒子は球状の粒子であった。
【0032】
実施例1〜2は、図1〜2の電子顕微鏡写真から明らかなように、及び実施例3はアスペクト比が2〜25のロッド状の銀粒子を得ることができ、得られたロッド状の銀粒子は樹脂に対する分散性が非常に優れるものであった。比較例1は、選択的に金属粒子を得ることはできるが、アスペクト比が大きいため、樹脂に対する分散性が悪いものであった。比較例2は球状の金属粒子であった。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】実施例1で得た銀粒子の電子顕微鏡写真
【図2】実施例2で得た銀粒子の電子顕微鏡写真
【図3】比較例1で得た銀粒子の電子顕微鏡写真

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多価アルコール系化合物中で金属化合物を還元しロッド状の金属粒子を合成する方法であって、
ロッド状金属粒子の核生成剤として塩化白金を用い、
ポリスチレン換算による重量平均分子量が1000〜15000の含窒素有機化合物を金属粒子の成長調整剤として用いることを特徴とするアスペクト比が2〜25のロッド状の金属粒子の合成方法。
【請求項2】
溶液(A)は多価アルコール系化合物と塩化白金とを含み、溶液(B)は溶媒と金属化合物とを含み、溶液(A)及び/又は溶液(B)に含窒素有機化合物を含むものであって、溶液(B)を溶液(A)に滴下して合成されることを特徴とする請求項1に記載のロッド状の金属粒子の合成方法。
【請求項3】
溶液(B)に含窒素有機化合物を含むことを特徴とする請求項2に記載のロッド状の金属粒子の合成方法。
【請求項4】
金属化合物100重量部に対して、含窒素有機化合物が50〜300重量部含有されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のロッド状の金属粒子の合成方法。
【請求項5】
含窒素有機化合物がポリビニルピロリドンであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のロッド状の金属粒子の合成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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