説明

ロールシート搬送装置及びロールシートの搬送方法

【課題】シートに引っ張り力が与えられるロールシート搬送装置において、より正確な搬送量によってロールシートの搬送を行うことのできるロールシート搬送装置及びロールシートの搬送方法を提供する。
【解決手段】本発明のロールシート搬送装置は、一回の搬送動作中における回転負荷を予測する。そして、予測された一回の搬送動作中における回転負荷をシートの搬送量によって積分した値から、一回の搬送動作中におけるシートの搬送量のずれ量を予測する。そして、予測された搬送量のずれ量に基づいて搬送量を補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロールシートを搬送するロールシート搬送装置及びロールシートの搬送方法に関し、特にロールシートから引き出されたシートに引っ張り力が与えられるロールシート搬送装置及びロールシートの搬送方法に関する。例えば、プリンタ、ファクシミリ、複写機といった記録装置等に使用されるロールシート搬送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ロール状に巻かれたシート(ロールシート)を搬送方向に引き出して、それを所定長ごとにカットする構成のロールシート搬送装置が用いられている。このようなロールシート搬送装置では、ロールシートが搬送される際に、ロールシートの一端部が搬送方向に引っ張られる。また、ロールシートにおけるロールシートの巻付け部と、ロールシートを引き出す搬送ローラとの間に搬送方向と逆方向へ一定の引っ張り力を与えることが知られている。これにより、ロールシートの一端部が搬送される際には、ロールシートが搬送方向の上流側及び下流側の両方へ引っ張られるので、ロールシートがセットされる際にロールシートに生じ得るずれ、弛み、斜行、巻癖等を修正することが可能である。
【0003】
このように、ロールシートのシートに一定の引っ張り力を与えるロールシート搬送装置においては、特許文献1のように、ロールシート軸にトルクリミッタが配置されているものが提案されている。特許文献1に開示されているロールシート搬送装置におけるトルクリミッタでは、コイルスプリングによるブレーキバネが用いられている。このように、トルクリミッタにブレーキバネが用いられているので、ロールシートに搬送方向と逆方向への負荷がかけられ、ロールシートが搬送方向と逆方向に引っ張られながら搬送される。これにより、ロールシートの搬送の際に、イナーシャ(慣性力)による惰性回転により巻き緩みが生じることを防いでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−315777号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ロールシートの搬送装置にトルクリミッタが用いられた場合、ロールシートを搬送方向と逆方向に引っ張る負荷に変動が生じる場合には、負荷の変動の影響によりロールシートの搬送量にずれが生じることがある。このような負荷の変動については予測できないので、負荷の変動によって搬送量が変動し、搬送量を正確に見積もることができずに搬送量にずれが生じることがあった。このように搬送量にずれが生じると、例えばロールシート搬送装置が記録装置に適用されて搬送されるシートに画像が記録される場合には、記録画像の品質が低下することがある。
【0006】
そこで、本発明は上記の事情に鑑み、シートに引っ張り力が与えられるロールシート搬送装置において、より正確な搬送量によってロールシートの搬送を行うことのできるロールシート搬送装置及びロールシートの搬送方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のロールシート搬送装置は、シートが巻回されたロールシートのロール部が相対移動不能に装着される回転軸と、前記回転軸に装着される前記ロール部から引き出された前記シートを搬送方向へ間欠的に搬送する搬送手段と、前記シートに対して引っ張り力が作用したときに、前記回転軸の前記搬送方向とは逆方向の回転に対して回転負荷を付与する回転負荷付与手段と、一回の搬送動作中における前記回転負荷を予測する回転負荷予測手段と、前記予測手段によって予測された前記一回の搬送動作中における前記回転負荷を前記シートの搬送量によって積分した値から、前記一回の搬送動作中におけるシートの搬送量のずれ量を予測する搬送ずれ量予測手段と、前記搬送ずれ量予測手段によって予測された搬送量のずれ量に基づいて前記搬送手段による搬送量を補正する搬送量補正手段とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、シートに引っ張り力が与えられるロールシート搬送装置が用いられる場合に、より正確な搬送量によるロールシートの搬送を行うことのできるロールシート搬送装置及びロールシートの搬送方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の第一実施形態に係るロールシート搬送装置を備えたインクジェット記録装置の斜視図である。
【図2】図1のインクジェット記録装置の模式的な断面図である。
【図3】図1のインクジェット記録装置の制御ユニットの概略構成を示すブロック図である。
【図4】図1のインクジェット記録装置のトルクリミッタについて拡大して示した断面図である。
【図5】図4のトルクリミッタにおいて、搬送の際のスプールによる回転角度とトルクリミッタで生じる回転負荷との間の関係について示したグラフである。
【図6】図4のトルクリミッタにおいて、ロールシートの搬送ずれZ、搬送量X、トルクリミッタの回転負荷T、搬送ローラによるニップ圧Nとし、Z/Xと、T/Nとの間の関係について示したグラフである。
【図7】図1のインクジェット記録装置によって記録が行われる際の制御フローについて示したフローチャートである。
【図8】(a)〜(d)は、図1のインクジェット記録装置でロールシートの搬送が行われた際の、ロールシートにおけるロール部の回転量とトルクリミッタによる回転負荷との間の関係について示したグラフである。
【図9】本発明の第二実施形態に係るロールシート搬送装置を備えたインクジェット記録装置でロールシートの搬送が行われた際の、ロールシートにおけるロール部の回転量とトルクリミッタによる回転負荷との間の関係について示したグラフである。
【図10】本発明の第三実施形態に係るロールシート搬送装置を備えたインクジェット記録装置でロールシートの搬送が行われた際の、ロールシートにおけるロール部の回転量とトルクリミッタによる回転負荷との間の関係について示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(第一実施形態)
以下、本発明の第一実施形態に係るロールシート搬送装置について説明する。本実施形態のロールシート搬送装置はインクジェット記録装置に組み込まれている。
【0011】
図1は、本発明のロールシート搬送装置を備えたインクジェット記録装置100の概略構成を示す斜視図である。また、図2は、インクジェット記録装置100の概略構成を示す断面図である。
【0012】
インクジェット記録装置100には、ロールシート1がスプール(回転軸)2に取り付けられている。ロールシート1は、スプール2に、シートMが巻回されたロールシート1のロール部1aが相対移動不能に装着されている。スプール2は、トルクリミッタ4を介して搬送給紙部3に回転可能に保持されている。ロールシート1は、ロール部1aからシートMの一端が搬送方向に引き出され、シートMにおける記録ヘッド12に対応した位置で記録が行われる。スプール2には、これと同軸にスプールエンコーダ5が備えられており、スプール2の回転角度を検知する。
【0013】
記録部6はキャリッジ11を有し、キャリッジ11には記録ヘッド12とその記録ヘッド12にインクを供給するインクタンク13が搭載されている。記録ヘッド12には、インク滴を吐出する複数の吐出口が形成されている。複数の吐出口のそれぞれに連通する複数の流路のそれぞれには、発熱素子(電気熱変換体)が配置されている。この発熱素子に通電させ、その発熱素子から熱エネルギーを発生させることにより、流路内のインクが加熱されて膜沸騰により発泡し、このときの発泡エネルギーによって吐出口からインク滴が吐出される。
【0014】
インクジェット記録装置100はシリアルスキャン方式の記録装置であり、ガイド軸14に沿ってキャリッジ11がシートMの搬送方向Fに交差する主走査方向に移動自在にガイドされている。キャリッジ11は、キャリッジモータおよびその駆動力を伝達するベルト等の駆動力伝達機構により、主走査方向に往復動される。記録ヘッド10とインクタンク54は、一体に形成されてインクジェットカートリッジを構成するものであってもよい。キャリッジ11の移動によって記録ヘッド12を主走査方向に移動させつつ、ロールシート1のプリント領域に向かってインクを吐出させる記録動作と、その記録幅に対応する距離だけロールシート1を副走査方向に搬送する搬送動作とが繰り返されて記録が行われる。ロールシート1におけるプラテン10上に位置するシートMは、プラテン10で吸引されて記録位置に保持される。
【0015】
なお、本実施形態では、記録ヘッドが主走査方向に走査するシリアルスキャン方式の記録装置を採用したが、本発明はこれに限定されない。本発明は、ロールシートが間欠的に搬送されるのであればロールシートにおける主走査方向の全域に亘って延在する記録ヘッドを用いるフルラインタイプの記録装置に適用されても良い。また、記録装置は、インクジェット記録装置に限定されず、その他の形式の記録装置であっても良い。
【0016】
また、本実施形態の記録ヘッドは発熱素子により膜沸騰を発生させて発泡させインク滴を吐出する方式としたが、本発明はこれに限定されない。圧電素子を変形させ、これによって記録ヘッド内部の液体を吐出する形式の記録ヘッドが記録装置に適用されても良く、また、他の形式の記録ヘッドが本発明の記録装置に適用されても良い。また、記録装置はインクジェット記録装置でなくとも良く、記録媒体を搬送しつつ記録媒体に記録が行われる記録装置であれば熱転写方式等、他の形式の記録装置であっても良い。また、ロールシート搬送装置がロールシートを搬送するのであれば、ロールシート搬送装置は、記録装置に適用されなくても良く、その他の装置であっても良い。
【0017】
本実施形態のインクジェット記録装置100は、記録ヘッド12に対向するロールシート1から引き出されたシートMに記録位置で記録を行う。インクジェット記録装置100は、シートMの一端が引き出された状態で、シートMを搬送方向へ間欠的に搬送する搬送手段を有している。本実施形態では、搬送手段として、一対のローラが用いられている。本実施形態では、シートMの搬送方向Fにおいて、この記録位置の上流側に搬送ローラ7及びピンチローラ8が配置されている。搬送ローラ7と、これに従動するピンチローラ8によってロールシート1が挟み込まれた状態で搬送ローラ8が回転駆動されることで、シートMが主走査方向と直行する副走査方向(図中矢印F方向)へ搬送される。また、搬送ローラ7には、回転量を検知するためのロータリーエンコーダ(不図示)が取り付けられている。
【0018】
図3は記録装置の制御ユニットP101の概略構成を示すブロック図である。P1はホストコンピュータ等の外部装置であり、記録装置に記録データ等を送信する。P2はCPUであり、記録装置制御ユニットP101全体を制御する。P3は入力インターフェースであり、外部装置P1より各種データを入力する。P4は電源部であり、記録装置の各部に必要な電力を供給する。P5は記憶部であり、電力の供給が無くともその記憶内容を保持するハードディスク、フロッピー(登録商標)等の不揮発性のメモリで構成される。操作パネルP6は、液晶などの表示部P6a、テンキーや各種機能キーなどを含む入力部P6bを備えている。P7は記憶装置であり、CPUP2が実行する各種制御プログラムや、文字フォントパターン等の各種データを記憶している。記憶装置P7の内部には、トルクリミッタの回転負荷の発生特性を記憶する記憶領域P7aと、回転負荷の搬送量での積分値に応じた搬送補正値を記憶した記憶領域P7bとが備えられている。P8はRAMであり、外部装置P1より送られてきた記録データを格納する為の受信バッファ、CPUP2が制御プログラムを実行するために必要なワークエリア等として使用される。P9は出力インターフェースであり、出力イメージを記録機構部P10に出力する為のインターフェースである。そして、記録装置制御ユニットP101より出力されたイメージデータに基づいて、記録装置100がシート上への記録を実行する。
【0019】
次に、トルクリミッタ4の構成について説明する。図4に、トルクリミッタ4の概略構成を示す断面図を示す。本実施形態では、コイルスプリング方式のトルクリミッタが採用されている。しかしながら、回転角度に対する回転負荷の立上り特性等、コイルスプリング方式のトルクリミッタと同様の負荷を発生させる特性をもつトルクリミッタであれば、コイルスプリング方式に限らない。他の方式のトルクリミッタであっても本発明を適用できる。
【0020】
トルクリミッタ4は、内輪101、外輪102、スプリング103及び蓋体104を有して構成されている。本実施形態では、内輪101がスプール2に相対移動不能に固定され、外輪102がインクジェット記録装置100における搬送給紙部3に接続されている。そして、外輪102が、スプリング103を介して内輪101に接続されている。スプリング103は、スプール2の外周に配置されたトルクリミッタ4の内輪101の外周に巻回されると共に、外輪102の内周に収納され、トルクリミッタ4の半径方向において、内輪101と外輪102との間に配置されている。本実施形態では、外輪102がインクジェット記録装置100における搬送給紙部3に固定され、外輪102に対してスプール2に接続された内輪101が相対的に回転することが可能に構成されている。しかしながら、本発明はこれに限定されず、スプール2に接続された内輪101が搬送給紙部3に固定され、内輪101に対して外輪102が相対的に回転するような構成であっても良い。トルクリミッタ4がこのような構成を有しているので、内輪101と外輪102との間で相対的な回転が生じると、スプリング103の弾性によって内輪101と外輪102との間の位置関係を元に戻そうとする力がスプール2に作用する。
【0021】
シートMが図1の方向Fに沿って引き出される際には、内輪101が搬送方向R1へ相対的に回転を行うような力が外輪102に作用する。そのため、スプリング103によって内輪101を外輪102に対して方向R2へ回転させる力が内輪101に作用する。このように、シートMが方向Fへ力を受けると共に、ロールシート1におけるロール部1aが方向R2へ負荷を受けるので、シートMが引っ張られ、シートMの搬送の際にシートMに弛みが生じることを抑えることができる。また、シートMの搬送の際に、シートMに斜行が生じることを抑えることができる。また、シートMが引っ張られるので、シートMに巻癖が生じたときにこれを伸ばし、巻癖を直すことができる。
【0022】
また、シートMを搬送する際に、シートMにかかる力Fが所定値を超えたときには、トルクリミッタ4では内輪101からの回転が外輪102に伝達されず、内輪101が外輪102に対して空転する。シートMにかかる力Fが所定値を超えてトルクリミッタ4が空転を始めると、スプリング103により搬送方向R1への力Fに対抗して内輪101を方向R2へ引っ張る負荷はそれ以上大きくならない。従って、スプリング103により方向R2へスプール2を回転させる負荷は、増加せずに一定のままとなる。このように、シートMの搬送方向への引っ張り力が所定値を超えたときには、搬送方向とは逆方向への方向R2への引っ張り力によりスプール2に伝達される回転負荷が所定値以下となるようにトルクリミッタ4が空転する。従って、シートMを搬送させるためにシートMに方向Fへ徐々に力を加えていくと、トルクリミッタ4へ回転方向R1にかかる負荷が徐々に大きくなりながら立ち上がると共に逆方向R2への負荷も徐々に大きくなりながら立ち上がる。そして、トルクリミッタ4への回転負荷が所定の回転負荷になったところで、方向R2への回転負荷はそれ以上スプール2に伝達されず、所定の回転負荷が保たれるようにトルクリミッタ4が空回りする。
【0023】
ロール状に巻かれたロール部1aから引き出されたシートMにトルクリミッタ4を用いて回転負荷をかけるロールシート搬送装置では、シートMが搬送される際に、シートMが方向R2に引っ張られる。ここで、ロールシート1におけるシートMの搬送について説明する。ロールシート1におけるシートMが搬送方向Fに搬送される際には、搬送ローラ7の駆動により、搬送方向Fへ引っ張る力がシートMに作用する。シートMに搬送方向Fへ引っ張る力が作用すると、トルクリミッタ4の内輪101には搬送方向R1へ力がかかる。
【0024】
トルクリミッタ4は、シートMに弛みを生じさせないように、元々シートMの搬送方向とは逆方向の方向R2に回転させる方向へ外輪102が内輪101に対して付勢されている。従って、内輪101に方向R1へ負荷がかかると、トルクリミッタ4の付勢力によりロール部1aには方向R2へ回転負荷がかかる。従って、トルクリミッタ4による方向R2への力に抗しながら、搬送ローラ8の駆動によりシートMが方向R1、Fに引っ張られてシートMがF方向に搬送される。すなわち、トルクリミッタ4は、シートが搬送方向へ引っ張られることでシートに引っ張り力が作用したときに、回転負荷付与手段として、スプール2に対して搬送方向とは逆方向へ回転負荷を付与する。そして、シートMを方向R2、Fへ引っ張る力によるロールシート1及びトルクリミッタへ作用する回転負荷が所定のトルク以上のトルクに達すると、トルクリミッタ4の内輪101が外輪102に対して空転し、内輪101の回転が外輪102に伝達されない。これにより、トルクリミッタ4を介して、内輪101から外輪102へそれ以上のトルクの伝達が行われない。そのため、一定値以上のトルクは内輪101から外輪102へ伝達されず、内輪101からスプリング103を介して外輪102に伝達されるトルクは一定となる。従って、ロール部1aにかかる方向R2へのトルクは、所定のトルクに保持される。
【0025】
上述のように、シートMの搬送の際には、シートMに方向R2へ引っ張り力が作用しながらシートMが搬送されることになる。そのため、搬送の際にシートMに引っ張り力が作用し、シートMの弛みや搬送の斜行等が抑えられる。しかしながら、トルクリミッタ4が用いられたロールシートの搬送装置では、シートMが搬送方向R1、Fとは逆方向への方向R2へ引っ張られながらシートMが搬送されることになる。従って、方向R2への引っ張り力によって、搬送ローラ7よりも下流側における搬送方向Fへの搬送量が、トルクリミッタ4の無い場合に比べて小さくなる。このように、トルクリミッタ4が用いられることで、シートMにおける搬送ローラ7よりも下流側での搬送量にずれが生じる。このように、トルクリミッタ4による回転負荷によって、ロールシート搬送装置によるシートMの搬送量が変化する。これに対し、本発明では、この回転負荷の変化を予測し、トルクリミッタの回転負荷によって生じる搬送量についてずれを補正する。
【0026】
図5に、トルクリミッタ4における回転負荷の発生特性が示されている。図5を用いて本実施形態のトルクリミッタ4における回転負荷の発生特性について説明をする。
【0027】
トルクリミッタ4は所定角度のがたがあり、ロールシート1におけるロール部1aを回転させても回転負荷を発生させない領域がある(A1)。そして、そこからさらにトルクリミッタ4を回転させると、トルクリミッタ4のスプリング103が伸びて回転負荷が徐々に立ち上がっていき(A2)、所定の立ち上がり角度で回転負荷が最大になる(A3)。
【0028】
前述したように、回転負荷が所定値以上の負荷になるとトルクリミッタ4が空転を始め、それ以上スプール2へかかる回転負荷が上がらないようになる(A4)。ここからロールシート1を搬送方向と反対側に回転させると、スプリング103伸びが元に戻り、そこから回転負荷が減少していき、所定のトルクリミッタ4における回転角度で回転負荷がほぼゼロになる(A5)。図5に示すトルクリミッタ4の回転負荷の発生特性は、装置ごとに決まった値である。従って、本実施形態では、ロールシート1の回転角度を変化させた際の回転負荷の分布については予め取得しておき、既知として取り扱う。
【0029】
図6に、所定の回転負荷をトルクリミッタ4にかけたときの搬送ずれについて示している。搬送ローラ7によるロールシート1の搬送量をXとし、搬送ローラ7による搬送位置におけるロールシート1の搬送ずれ量をZ、トルクリミッタでの回転負荷をT、ピンチローラ8によるニップ力をNとする。このとき、Z/XとT/Nとの間の関係は、図6に示されるように、所定の領域でシートMと搬送ローラの摩擦係数uに漸近するような関係となる。ここで、ロールシート搬送装置の動作域は、Z/XとT/Nとが線形の関係を保つTN1の範囲内に収まり、紙種に応じた搬送ずれ係数をKとすると両者の関係は式(1)のようになる。
【0030】
【数1】

【0031】
式(1)の両項にXをかけて、さらに単位長さあたりに直すと式(2)のようになる。
【0032】
【数2】

【0033】
式(2)を積分すると、搬送ずれZは式(3)で表される。
【0034】
【数3】

【0035】
つまり、搬送ずれZは回転負荷Tの搬送量で積分した値に比例する。このように、インクジェット記録装置100は、トルクリミッタ4によって搬送方向R1とは逆方向R2へ付与された回転負荷を、間欠的な搬送における一回の搬送動作に亘って積分する。そして、インクジェット記録装置100は、回転負荷についての積分した値を、一回の搬送動作ごとに算出する積分値算出手段を有している。そして、本実施形態では、CPUが積分値算出手段として機能する。また、インクジェット記録装置100は、算出された積分値から、一回の搬送動作で生じるシートの搬送量についてのずれ量を予測する搬送ずれ量予測手段を有している。本実施形態では、CPUが搬送ずれ量予測手段として機能する。
【0036】
図7に、本実施形態におけるロールシート搬送装置によるロールシートの搬送の際の制御フローについて示したフローチャートを示す。図7を用いて本発明の回転負荷の予測方法と搬送量の補正方法について説明する。
【0037】
まず、記録開始の命令がホスト装置等の外部装置P1によって出されると、S1からS3で一回の搬送動作による搬送角度θを取得する。
【0038】
S1で繰り返し搬送の一回の搬送で送られるシートMの搬送長を取得する。すなわち、外部装置P1やパネルP6から入力された紙種や、記録の行われる際の記録モードによって搬送長さが決定される。このときに取得される搬送長さは、トルクリミッタによる回転負荷の無い状態で行われる搬送での搬送長さである。紙種や記録モード等の記録の際の条件に応じて、予め定められている回転負荷の無い状態での一回の搬送長さが決定される。S2で巻径情報を取得する。巻径情報は、一定速度でシートが搬送される際の搬送ローラ7とロールシート1の回転角度から取得できる。そして、取得した搬送量をx、巻径をRとすると、S3で、一回の搬送によりロールシート1が回転する際の搬送角度θを算出する。搬送角度θは、S1で取得した一回の搬送長xと、S2で取得した巻径の長さRから、x/Rによって算出される。
【0039】
また、図8(a)〜(d)には、ロールシート1におけるロール部1aの回転量を横軸に取り、そのときのトルクリミッタ4によるロール部1aの搬送方向とは逆方向へ作用する回転負荷を縦軸に取ったグラフが示されている。
【0040】
図8(a)には、ロールシート1がスプール2に取り付けられてから、間欠的に搬送動作が行われる際の、トルクリミッタ4によってロール部1aに搬送方向とは逆方向R2へ作用する回転負荷についてのグラフが示されている。図8(a)のP1で、ロール部1aがスプール2に取り付けられると、シートMの一端が搬送方向に徐々に引っ張られて、回転負荷が徐々に大きくなる。回転負荷が所定値に到達すると(P2)、そこでトルクリミッタ4が空転を始め、それ以上回転負荷が大きくならないようになっている。そこからさらにシートMが搬送されて、シートMが搬送ローラ7とピンチローラ8との間に到達すると、それらの間にシートMが保持され、そこから搬送ローラ7とピンチローラ8とによってシートMが搬送される。シートMが搬送ローラ7とピンチローラ8との間に到達した後に、S4でトルクリミッタのイニシャライズ動作が行われる。
【0041】
トルクリミッタ4のイニシャライズ動作について説明する。図8(b)は、図8(a)におけるイニシャライズ動作に相当する部分について抜き出して拡大したものである。すなわち、図8(b)に、イニシャライズ動作におけるトルクリミッタにおける回転負荷の状態の変化が示されている。ロールシート搬送装置によるロールシートの搬送動作においては、トルクリミッタのイニシャライズ動作についていくつかの例が考えられる。第一実施形態では、トルクリミッタ4を方向R1に回転させた(P3)後に、トルクリミッタ4の回りすぎによって生じるシートMの弛みにより方向R2に逆回転が生じ(P4)、そのときの方向R2への逆回転角度を検知する。このときのトルクリミッタ4における逆方向への回転角度とトルクリミッタ4における回転負荷の特性曲線とを比較することにより、トルクリミッタ4における搬送開始時の回転負荷の予測が行われる。このように、最初の搬送動作における回転負荷を予測するために、最初の搬送動作の行われる前に、間欠的な搬送動作における一回の搬送動作(イニシャライズ動作)が行われる。そして、イニシャライズ動作において、一回の搬送動作が行われた後のロール部1aによる搬送方向とは逆方向へ巻戻される巻戻し量が検出され、その後の回転負荷の変化が予測される。
【0042】
イニシャライズ動作では、以下の一連の動作が行われる。ここでは、搬送動作の開始時点における回転負荷(開始時回転負荷)を予測するためにイニシャライズ動作が行われる。本実施形態では、CPUが、開始時回転負荷予測手段として機能する。
【0043】
イニシャライズ動作の際には、搬送ローラ7とピンチローラ8とによってシートMが一旦搬送される(P3)。その際、一回の搬送動作が行われた後に、ロールシート1はその慣性力により若干回りすぎてシートMに弛みが発生する。これは、搬送速度が比較的速く設定されているために、搬送を終える際に加速度が比較的大きい状態で減速させるので、搬送が終わったところでロール紙の回転を止めきれず、搬送の際のロール紙の慣性力によってロール紙が回りすぎるためである。このときロール紙の回りすぎによるシートMに発生した弛みの分だけ、トルクリミッタ4によるシートMの搬送方向R1とは逆方向の方向R2への回転負荷により、搬送方向R1の逆方向R2にロールシート1が回転する。このとき、シートMの弛みの分だけトルクリミッタ4におけるスプリング103の伸びが元に戻り、その分トルクリミッタ4による回転負荷が小さくなる。その後、弛みがなくなったところで、ロールシート1の回転が停止する(図8(b)のA6)(P4)。このときの逆回転量をエンコーダ5によって検出し、トルクリミッタの回転負荷発生特性から、シートMに弛みが無くなったときの回転負荷を予測する(図8(b)のA7)(回転負荷予測工程)。このように、シートMに弛みが生じ、弛みが無くなるまでの回転角を測定することで、弛みが無くなったときの回転負荷を予測し、次の搬送の際の回転負荷の変化を予測する。このように、間欠的な搬送における一回の搬送動作が終わってからロール部1aが搬送方向とは逆方向R2へ回転する逆回転量を測定し、その逆回転量から、次の搬送動作が行われる際のトルクリミッタ4による回転負荷が予測される。このように、一回の搬送動作中における回転負荷が予測される。本実施形態では、CPUがトルクリミッタ4による搬送方向とは逆方向R2への回転負荷を予測する回転負荷予測手段として機能する。すなわち、本実施形態では、一回の搬送が行われた後のシートMの弛みによってロール部が搬送方向とは逆方向に巻戻される巻戻し量が検出される(巻戻し量検出工程)。そして、検出されたロール部1aの巻戻し量から搬送動作を開始するときの搬送方向とは逆方向への回転負荷が予測される。
【0044】
次に、イニシャライズ動作に次いで行われる搬送動作において、トルクリミッタ4による搬送方向と逆方向の方向R2への負荷によるずれに対応した搬送についての補正量を予測し、その補正量に基づいて搬送量の補正を行う。図8(c)に、イニシャライズ動作の後に行われるロールシート1の搬送動作の部分の回転負荷の変化について拡大して示す。
【0045】
イニシャライズ動作の行われた後のロールシート1は、一回の搬送動作が行われ(P5)、その後ロールシート1の慣性力により回りすぎ、そこからシートMに弛みが生じる。従って、そこで生じた弛みの分だけ搬送方向と逆方向にロール部1aが回転し、これによってロール部1aでのトルクリミッタ4による回転負荷が減少する(P6)。
【0046】
そして、次の搬送動作における搬送動作中の回転負荷の積分値が算出される(S5)。イニシャライズ動作に次いで行われる搬送時には、そのときのトルクリミッタの位置からS1で取得した搬送量だけ搬送されたときの、回転負荷による搬送ずれを含めた搬送量が予測される(図8(b)のA8)。その搬送中にかかる回転負荷の積分値が、図8(c)のB1の面積を計算することで得られる。S5で算出した面積B1から、記憶領域P7bを参照し、記憶領域P7b内に記憶された搬送補正値についてのテーブルから面積B1に対応した搬送補正値を呼び出す。これにより、回転負荷の積分値に対応した搬送補正値Uを決定する(S6)。すなわち、トルクリミッタ4によって搬送方向R1とは逆方向R2へ付与された回転負荷を、検出された搬送量に亘って積分し、算出された積分値から次に行われる一回の搬送動作のシートの搬送量についてのずれ量を予測する(搬送ずれ量予測工程)。
【0047】
ここで、搬送補正値Uは、式(3)の搬送ずれZの分を補正すれば良いので、回転負荷の積分値をΣTとし、ピンチローラ8によるニップ力をN、紙種に応じた搬送ずれ係数をKとすると式(4)で表される。
U=K/N・ΣT ・・・(4)
【0048】
S6で決定した搬送補正値Uを搬送量に加え、補正された搬送量を算出する。このように算出された積分値を、搬送ローラ8によってシートを挟み込んだ際の搬送ローラ7とピンチローラ8との間のニップ力Nによって割り、紙種に応じた搬送ずれ係数Kを乗じることでシートの搬送量についてのずれ量が算出されて予測される。そして、予測された搬送量についてのずれを補正し、補正された搬送量によってシートMの搬送が行われる(搬送量補正工程)(P7)。これにより、補正の行われた搬送量の分だけシートMの搬送が行われる(S7)。このように、一回の搬送動作における搬送量の補正が行われ、補正の行われた搬送量の分のシートMの搬送が行われる。本実施形態では、インクジェット記録装置100は、予測された搬送量についてのずれを補正し、補正された搬送量によってシートMの搬送を行う搬送量補正手段を有している。本実施形態では、CPUが搬送量補正手段として機能する。これにより、補正されて設定された搬送量は、回転負荷の無い状態での搬送量よりも長くなるが、逆方向への回転負荷によって実際の搬送量が減少するので、実際の搬送量が負荷の無い状態での搬送量に揃えられる。
【0049】
補正された分の搬送が終了した後には、ロール紙1は再びロール紙1の慣性力により回りすぎてシートMに弛みが生じる。図8(d)に、一回の搬送動作が行われた後のロールシート1の回りすぎによって一旦シートMに弛みが生じ、シートMの弛みに応じてロールシート1が搬送方向と逆方向に回転する部分についての回転負荷の変化を示す。シートMに弛みが生じると、トルクリミッタ4による回転負荷により、搬送方向とは逆方向である方向R2にロール紙1が回転する(P8)。このときの方向R2への回転をシートMの搬送量に換算したシートMの巻き戻し量について、図8(d)のA9に示す。このときの逆回転量A9は、エンコーダ5によって検出される(S8)。
【0050】
補正された搬送量による一回の搬送動作が行われ、そこでシートMの搬送が終了せずに引き続きシートMの搬送が行われる場合には、再び次の搬送動作についての搬送量の補正を行う。その際には、フローが図7のフローチャートにおけるS5に戻り、S5からS8の積分値算出から搬送補正値の決定、シート搬送、逆回転量の検出の動作が繰り返される。シートMの搬送が繰り返され、シートMへの記録が終了したらそこで記録動作及びシートMの搬送動作は終了し、シートMのカッティング等のその他の終了動作が行われる。
【0051】
以上のように、本実施形態によれば、トルクリミッタ4におけるロール部1aでの搬送方向R1とは逆方向の方向R2への回転負荷による搬送ローラによる搬送における搬送量のずれが算出される。トルクリミッタが用いられる場合、トルクリミッタによる回転負荷がシートMの搬送方向R1とは逆方向の方向R2にかかるので、ロールシート1は搬送方向とは逆方向に引っ張られながら搬送される。従って、搬送ローラによるシートMの搬送量は、トルクリミッタ4による回転負荷の無い場合と比べて少なくなる。本実施形態では、逆方向への回転負荷の積分値を算出することで、シートMの搬送方向R1とは逆方向の方向R2にかかるトルクリミッタによる回転負荷により搬送ローラによるシートMの搬送の際の搬送量のずれ量が算出される。シートMの搬送の際搬送量のずれ量が算出されることで、逆方向へのトルクリミッタによる回転負荷により減少した搬送量について、搬送の際にずれの分を足して搬送量を補正することができる。逆方向への回転負荷により減少した搬送量について、一回の搬送ごとに搬送量を補正することで、逆方向への回転負荷がかかった状態で搬送を行ったとしても、搬送量を回転負荷の無い状態のものに揃えることができる。従って、搬送量のばらつきを抑えることができ、一回ごとの搬送量を正確に見積もることができる。
【0052】
また、ロールシート搬送装置が記録装置に用いられた場合には、正確な搬送量に基づいて記録を行うことができる。従って、記録画像が搬送量のばらつきによって影響を受けてしまい、記録画像の品質が低下することを抑えることができる。特に、ロール紙の搬送方向と幅方向との間で、記録画像の長さの比率が変化してしまうことにより、記録画像の品質が低下してしまうことを抑えることができる。また、ロール紙の搬送方向に沿う方向への記録画像の長さがロール紙の幅方向に対して長くなってしまい、記録画像に白いすじが発生してしまうことを抑えることができる。
【0053】
(第二実施形態)
次に、第二実施形態に係るロールシート搬送装置について説明する。なお、上記第一実施形態と同様に構成される部分については図中同一符号を付して説明を省略し、異なる部分についてのみ説明する。
【0054】
第一実施形態では、図7のフローチャートにおけるS4のトルクリミッタのイニシャライズ動作において、一旦シートMに弛みが生じるようにシートMが搬送される。そして、そこからの逆方向への回転角が測定されてシートMに弛みが無くなったときの回転負荷が予測され、そこから一回の搬送が行われるまでの回転負荷の分布が予測される。これに対し第二実施形態では、イニシャライズ動作において、シートMに弛みが生じないようにトルクリミッタ及びロールシートの回転が停止する。従って、回転が停止したときには、搬送方向と逆方向への回転が生じずに、回転負荷はトルクリミッタの許容する最大限の回転負荷が維持される。第二実施形態におけるイニシャライズ動作において、回転が停止したときのトルクリミッタにおける回転負荷について図9に示されている。
【0055】
第二実施形態では、回転負荷がトルクリミッタの許容する最大の回転負荷のまま維持されるので、トルクリミッタにかかる回転負荷の変化が小さく、シートMの搬送が第一実施形態と比較してより安定する。このように、回転が停止したときにシートMに弛みが生じないようにするために、シートMは、記録を開始するときの搬送開始位置に搬送する際にロールシート1の慣性力がトルクリミッタの回転負荷よりも小さくなる加速度で減速するように停止させる。つまり、ロールシート1の半径をR、慣性モーメントをJ、回転負荷をTとすると、加速度aがa<T×R×R/JとなるようにシートMが減速して停止する(P3、P4)。
【0056】
通常、記録のスループットを向上させるためには、搬送速度はなるべく速く設定されることが好ましい。そのため、搬送速度が比較的速く設定されることが多い。ところが、搬送速度が比較的速く設定されると、減速時に加速度が大きくなってしまうことで、一回の搬送が行われた後にトルクリミッタが回りすぎてしまい、搬送動作が終わった後にシートMに弛みが生じることがある。第一実施形態では、そのときのシートMの弛みを考慮し、イニシャライズ動作では、弛みの分トルクリミッタが逆方向に回転したところからの搬送の際の回転負荷の積分値が算出される。
【0057】
これに対して本実施形態では、搬送の後に、トルクリミッタによる回りすぎの起こらないような搬送速度によってシートMの搬送動作が行われる。従って、イニシャライズ動作の際に、搬送後の逆方向へのトルクリミッタの回転が生じないように搬送速度及び減速の際の加速度が設定されている。つまり、本実施形態では、間欠的な搬送動作における一回の搬送が行われる際に、回転軸における慣性力が回転負荷よりも小さくなるような加速度でロール部1aの回転及びシートMの搬送が減速し、停止する。そのため、スプール2が回りすぎてしまうことが抑えられ、イニシャライズ動作の際に搬送量が上下することが抑えられる。従って、搬送量が安定し、トルクリミッタへの回転負荷をより正確に算出することができる。従って、搬送量の補正をより正確に行うことができ、ロールシート搬送装置による搬送量をより正確に算出することができる。
【0058】
その他の動作、構成に関しては第一実施形態と同様である。
【0059】
(第三実施形態)
次に、第三実施形態に係るロールシート搬送装置について説明する。なお、上記第一実施形態及び第二実施形態と同様に構成される部分については図中同一符号を付して説明を省略し、異なる部分についてのみ説明する。
【0060】
第三実施形態では、図7のフローチャートにおけるS4のトルクリミッタのイニシャライズ動作において、シートMが搬送されて回転が停止したときに回転負荷がほぼ0となる位置まで、ロールシート及びトルクリミッタをさらに回転させる。すなわち、本実施形態では、間欠的な搬送動作における一回の搬送を終えた後にシートMを弛ませるために、スプール2をさらに回転させる(追加回転工程)。そして、回転負荷がほぼ0となったところでロールシート及びトルクリミッタを停止させる点で第一実施形態及び第二実施形態と異なる。第三実施形態のイニシャライズ動作において、ロールシート及びトルクリミッタの回転が停止したときのトルクリミッタにおける回転負荷について図10に示されている。
【0061】
本実施形態では、このように、一回の搬送動作が行われ(P3)、その後回転負荷がほぼ0となるようにロール紙をさらに回転させてシートMを撓ませる。従って、トルクリミッタにおけるコイルスプリングによる回転負荷の立上り角度の分だけ搬送開始位置よりも進んだ位置までシートMが搬送される。これにより、トルクリミッタにおけるコイルスプリングによる回転負荷の立上り角度の分に対応した量だけシートMが弛み、その立上り角度の分だけロールシート及びトルクリミッタが逆回転する。これにより、弛みが無くなった際にはトルクリミッタのコイルスプリングによる回転負荷はほぼ0となる位置でロールシートが停止する(P4)。
【0062】
その他の動作、構成に関しては第一実施形態と同様である。
【0063】
(その他の実施形態)
なお、上記の実施形態では、ロールシート搬送装置がインクジェット記録装置に適用されている場合について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、ロールシート搬送装置が複写機やファクシミリなど、その他の機器に適用されても良い。
【0064】
また、上記実施形態では、ロールシートの搬送の際にロールシートに引っ張り力を与えるものとしてトルクリミッタを用いて説明したが、これに限定されない。ロールシートの搬送の際にロールシートに引っ張り力を与えることができるものであれば、その他の機構が用いられても良い。
【0065】
なお、本明細書において、「記録」とは、文字、図形等有意の情報を形成する場合のみならず、有意無意を問わずに用いられる。また、人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かを問わず、広く記録媒体上に画像、模様、パターン等を形成する、または記録媒体の加工を行う場合も表すものとする。
【0066】
また、「記録装置」とは、プリンタ、プリンタ複合機、複写機、ファクシミリ装置などのプリント機能を有する装置、ならびにインクジェット技術を用いて物品の製造を行なう製造装置を含む。
【0067】
さらに、「インク」(「液体」と言う場合もある)とは、上記「記録」の定義と同様広く解釈されるべきものである。記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成または記録媒体の加工、或いはインクの処理(例えば記録媒体に付与されるインク中の色剤の凝固または不溶化)に供され得る液体を表すものとする。
【符号の説明】
【0068】
1 ロールシート
1a ロール部
4 トルクリミッタ
M シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートが巻回されたロールシートのロール部が相対移動不能に装着される回転軸と、
前記回転軸に装着される前記ロール部から引き出された前記シートを搬送方向へ間欠的に搬送する搬送手段と、
前記シートに対して引っ張り力が作用したときに、前記回転軸の前記搬送方向とは逆方向の回転に対して回転負荷を付与する回転負荷付与手段と、
一回の搬送動作中における前記回転負荷を予測する回転負荷予測手段と、
前記予測手段によって予測された前記一回の搬送動作中における前記回転負荷を前記シートの搬送量によって積分した値から、前記一回の搬送動作中におけるシートの搬送量のずれ量を予測する搬送ずれ量予測手段と、
前記搬送ずれ量予測手段によって予測された搬送量のずれ量に基づいて前記搬送手段による搬送量を補正する搬送量補正手段と
を有することを特徴とするロールシート搬送装置。
【請求項2】
前記回転負荷付与手段は、前記搬送方向へ前記引っ張り力が所定の大きさを超えたときに、前記引っ張り力により前記回転軸に伝達される回転負荷が所定値以下となるように空転するトルクリミッタであることを特徴とする請求項1に記載のロールシート搬送装置。
【請求項3】
間欠的な搬送における一回の搬送動作が終わってから前記ロール部による前記搬送方向とは逆方向へ巻戻される巻戻し量が検出され、前記巻戻し量から、次の搬送動作が開始される際の前記回転負荷を予測する開始時回転負荷予測手段を有することを特徴とする請求項1または2に記載のロールシート搬送装置。
【請求項4】
前記搬送手段は、一対のローラであり、前記シートは前記一対のローラによって少なくとも一つのローラが駆動することで搬送され、
前記搬送ずれ量予測手段は、前記一回の搬送動作中における前記回転負荷を前記シートの搬送量によって積分した積分値を、前記一対のローラによって前記シートを挟み込んだ際のニップ力によって割り、前記ロールシートの紙種に応じた係数を乗じることでシートの搬送量についてのずれ量を予測することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のロールシート搬送装置。
【請求項5】
シートが巻回されたロールシートのロール部が相対移動不能に装着される回転軸と、
前記回転軸に装着される前記ロール部から引き出された前記シートを搬送方向へ間欠的に搬送する搬送手段と、
前記シートに対して引っ張り力が作用したときに、前記回転軸の前記搬送方向とは逆方向の回転に対して回転負荷を付与する回転負荷付与手段とを有するロールシート搬送装置によってロールシートを搬送させる搬送方法であって、
一回の搬送動作中における前記回転負荷を予測する回転負荷予測工程と、
前記回転負荷予測工程によって予測された前記一回の搬送動作中における前記回転負荷を前記シートの搬送量によって積分した値から、前記一回の搬送動作中におけるシートの搬送量のずれ量を予測する搬送ずれ量予測工程と、
前記搬送ずれ量予測工程で予測された搬送量のずれ量に基づいて前記搬送手段による搬送量を補正する搬送量補正工程と
を有することを特徴とするロールシートの搬送方法。
【請求項6】
前記回転負荷予測工程で、最初の搬送動作における前記回転負荷を予測するために、間欠的な搬送動作における一回の搬送動作が行われ、前記一回の搬送動作が行われた後の前記ロール部による搬送方向とは逆方向へ巻戻される巻戻し量が検出される巻戻し量検出工程を有し、
前記搬送ずれ量予測工程で、前記巻戻し量検出工程で検出された前記巻戻し量から搬送動作を開始するときの前記回転負荷が予測されることを特徴とする請求項5に記載のロールシートの搬送方法。
【請求項7】
前記巻戻し量検出工程で、間欠的な搬送動作における一回の搬送動作が行われる際に、前記回転軸における慣性力が前記回転負荷よりも小さくなるような加速度でロール部の回転及びシートの搬送が減速し、停止することを特徴とする請求項6に記載のロールシートの搬送方法。
【請求項8】
前記巻戻し量検出工程で、間欠的な搬送動作における一回の搬送動作を終えた後に、前記シートを弛ませるために前記回転軸をさらに回転させる追加回転工程を有することを特徴とする請求項6に記載のロールシートの搬送方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−218936(P2012−218936A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−90145(P2011−90145)
【出願日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】