説明

ワイヤーハーネス分岐保護シート

【課題】様々な分岐パターンに容易に対応可能であり、ワイヤーハーネス分岐部に巻き付けやすく作業性が向上し、シート状でありながら他部品との干渉による電線へのダメージを確実に回避することができる保護シートを提供する。
【解決手段】ワイヤーハーネス分岐部3を覆う弾性を有するワイヤーハーネス分岐保護シート1であって、保護シートがワイヤーハーネス分岐部3を覆った状態で該保護シートの外表面に複数の突起12aが形成され、ワイヤーハーネス分岐部3に取り付ける内表面に粘着面が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車両における配線に用いられるワイヤーハーネス分岐保護シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ワイヤーハーネス分岐部の保護の構造としては、他部品(例えばボルト等)の干渉による電線へのダメ−ジを防止するため、図5に示すように、樹脂等の硬い材料で成形された断面半円状であって、ワイヤーハーネス分岐部の形状に合わせたT字形の保護部材の一対101.102を、その一方の保護部材101を専用の支持部材103に支持させ、この保護部材101にワイヤーハーネス分岐部の幹線104、支線105を収めた後、他方の保護部材102を幹線104、支線105に覆うように被せ、両保護部材101,102をヒンジ部106とロック部107とで一体化する構造が知られている。
【0003】
この状態では、保持部材101,102と幹線104、支線105とは固定されていないので、保持部材102より長く形成され該保持部材の両端に突出する保持部材101の突出部101a,101bにテープ(図示せず)を幹線104、支線105とともに巻き付けて固定している。
【0004】
また、ワイヤーハーネス分岐部の保護として、特許文献1は、裏面に粘着剤が塗布された防水シートを用い、この防水シートを幹線からT字状に支線が分岐したワイヤーハーネス分岐部に位置させ、防水シートを二つ折りしてワイヤーハーネス分岐部の外周面に巻き付けて接着固定するとともに、その二つ折り両側部の余剰部分で支線の根元部分を挟み込んで封水状態とするワイヤーハーネスの防水構造を開示している。
【0005】
また、特許文献2は、展開状態で正方形となるように切断した保護材を、前後の三角形状が突出する状態で折り曲げ、底辺をワイヤーハーネスのT字状分岐部の下面側に当接させ、前後の三角形の頂点を支線の前後両面に当接させて幹線にテープを巻き、底辺の両端を幹線にテープ巻きしてワイヤーハーネス分岐部を保護する保護構造を開示している。
【0006】
また、特許文献3は、十字形状とした保護シートの縦方向部分と横方向部分との連結部に、両端から切り込みを入れているとともに中央部に縦横連続部を設けた形状とし、この縦横連続部をワイヤーハーネス分岐部の幹線外周面全面に巻き付けて、両側の横方向部分をワイヤーハーネス分岐部両側の幹線外周面全面に巻き付けて固定する一方、縦横連続部の両側をワイヤーハーネス分岐部の幹線から支線にかけて、対向する半周の外周面に固着し、分岐位置の幹線および支線の全外周面を保護シートで被覆するワイヤーハーネス分岐部の保護構造を開示している。
【特許文献1】特開2003−143731号公報
【特許文献2】特開2006−254596号公報
【特許文献3】特開2007−288898号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ワイヤーハーネス分岐部は車両への取付けにより、分岐方向、本数、ハーネス径、角度等がそれぞれの場合により異なるため、図5に示す従来の構成では、保護部材を分岐の本数毎、分岐の角度毎、ハーネス径毎に専用の構造とすることが必要であるとともに、ワイヤーハーネス分岐部作成の際に専用の支持部材が必要となっている。
【0008】
そして、保護部材装着後は分岐が方向規制され、車両に対する配設の自由度が制限される。また、保護部材自体に粘着面がないので、テープで固定する必要があり、作業が面倒である。
【0009】
また、特許文献1記載の構成では、ワイヤーハーネス分岐部を防水することは可能であるが、防水シートは厚みが薄いため、ワイヤーハーネス分岐部の他物からの保護が十分ではない。保護を良くするためには、防水シートを厚くすることが必要であるが、厚みを厚くするとワイヤーハーネス分岐部に巻き付けにくくなる。これは、特に作業環境の温度が低くなると顕著であり、冬場等に巻き付け作業が行い難くなっている。
【0010】
また、特許文献2記載の構成では、保護部材とテープとにより保護するため構成が複雑で保護作業も面倒である。
【0011】
また、特許文献3記載の構成では、十字形状とした保護シートの縦横連続部を幹線の外周面全面に巻き付けて、両側の横方向部分をワイヤーハーネス分岐部両側の幹線外周面全面に巻き付けて固定したもので、保護シートの厚みが薄いため、ワイヤーハーネス分岐部における干渉物からの保護が十分ではない。そこで、外装保護材としてコルゲートチューブを用いているが、部品点数が増して構成が複雑で保護作業も面倒である。
【0012】
本発明の目的は、様々な分岐パターンに容易に対応可能であり、ワイヤーハーネス分岐部に巻き付けやすく作業性が向上し、シート状でありながら他部品との干渉による電線へのダメージを確実に回避することができる保護シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述の課題を解消するために、本発明に係るワイヤーハーネス分岐保護シートは、
ワイヤーハーネス分岐部を覆う弾性を有する保護シートであって、前記保護シートがワイヤーハーネス分岐部を覆った状態で保護シートの外表面に複数の突起が形成され、裏面に粘着面が形成されていることを特徴としている。
【0014】
請求項1記載の発明がこのような保護シートであるので、分岐の本数、分岐の角度、ハーネス径等に制約を受けることなく、ワイヤーハーネス分岐部を極めて容易に保護することができる。また、ワイヤーハーネス分岐部を覆う保護シートの外表面には突起部が形成されているので、他部品(例えばボルト等)が干渉しても、この突起部で受け止め電線へのダメ−ジを防止することができる。
【0015】
また、本発明の請求項2に係るワイヤーハーネス分岐保護シートは、突起間を任意の経路で引き裂き可能であることを特徴としている。
【0016】
保護シートがこのように引き裂き可能であることにより、ワイヤーハーネス分岐部を弾性を有する保護シートで覆い保護した後、保護シートを必要に応じて引き裂くことで、支線の分岐方向を変化させることができる。また、この場合の切断は、保護シートを突起間の厚みの薄い箇所で行うので、指先の力で容易に行うことができる。この結果、ハサミ等を用いて切断する場合における誤ってワイヤーハーネス分岐部の電線を損傷する恐れもない。また、このように引き裂き可能とすることで、ワイヤーハーネスを例えば車両に取り付ける場合にボルト、突起等を避けて取り付けることができる。
【0017】
また、隣接するワイヤーハーネス間の保護シートの突起部の間を任意の経路で引き裂くことで、ワイヤーハーネス自体の分岐方向に自由度をもたせることができ、ワイヤーハーネスの配索が行い易くなる。
【0018】
また、本発明の請求項3に係るワイヤーハーネス分岐保護シートは、一面を粘着面とした取付け層と一面に複数の突起を有する保護層とを一体に貼り合わせた構成であることを特徴としている。
【0019】
保護シートを取付け層と保護層とで構成することにより、取付け層はワイヤーハーネス分岐部に巻き付けやすいように、柔らかな材料で作り、保護層は他部品の干渉を確実に受けられるように硬めの材料で作ることができる。この結果、ワイヤーハーネス分岐部に対する取付けが容易になるとともに、他部品の干渉から電線のダメージを確実に回避することができる。
【0020】
また、本発明の請求項4に係るワイヤーハーネス分岐保護シートは、複数の突起が保護シートの巻き軸と平行となるように縦横格子状に設けたことを特徴としている。
【0021】
突起を保護シートの巻き軸と平行に設けることにより、保護シートをワイヤーハーネス分岐部に巻き付けるとき、突起のない肉厚の薄い部分で巻き付けることができ、巻付けを容易かつ確実に行うことができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によると、様々な分岐パターンに容易に対応可能であり、ワイヤーハーネス分岐部に巻き付けやすく作業性が向上し、シート状でありながら他部品との干渉による電線へのダメージを確実に回避することができるワイヤーハーネス分岐保護シートを提供することができる。
【0023】
より具体的には、本発明がこのようなワイヤーハーネス分岐保護シートであることで、分岐の本数、分岐の角度、ハーネス径等に制約を受けることなく、きわめて容易にワイヤーハーネス分岐部を保護することができる。また、分岐部を覆う保護シートの外表面には突起部が形成されているので、他部品(例えばボルト等)が干渉しても、この突起部で受け止め電線へのダメ−ジを防止することができる。また、隣接するワイヤーハーネス間の保護シートの突起部の間を任意の経路で引き裂くことで、ワイヤーハーネス自体の分岐方向に自由度をもたせることができ、ワイヤーハーネスの配索が行い易くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の一実施形態に係るワイヤーハーネス分岐保護シート(以下、「保護シート」とする)ついて図面に基づいて説明する。図1は、本発明の保護シートを示す斜視図である。図2はこの保護シートでワイヤーハーネス分岐部を保護した状態を示す斜視図であり、図3は図2の保護シートより大きな保護シートでワイヤーハーネス分岐部を保護した状態を示す斜視図である。
【0025】
保護シート1はゴム、樹脂等を材料として、たとえば正方形に形成された取付け層11と保護層12とからなる。取付け層11は粘着面11aを接着面とし、他面には保護層12が接着剤等で一体的に取り付けられている。保護層12は取付け層11に対する取付け面が平面に仕上げられているが、他の面即ちワイヤーハーネス分岐部3に対する取り付け後に外表面となる面には、保護層12の厚みと略同じ程度の厚みの突起12aが保護シート1の巻き軸と平行するように縦横格子状に形成されている。なお、粘着面11aは取付け層11の一面に接着材を塗布するか両面テープを貼付することで形成されている。
【0026】
この場合、保護シート1は取付け層11と保護層12を一体物で構成してもよいが、図示例のように取付け層11と保護層12をそれぞれ異なる材料で構成した後、接着等の手段で張り合わせて一体化してもよい。このようにすれば、保護層12は取付け層11よりも硬質の材料を使うことができ、他部品の干渉により受ける電線のダメージを突起により確実に回避することができる。
【0027】
保護シートを用いて、図2に示すようにワイヤーハーネス分岐部3を保護する。ワイヤーハーネス分岐部3は幹線31から支線32を分岐したもので、このワイヤーハーネス分岐部3の下に保護シート1の中央部を当接させる。そして、保護シート1を二つ折りにして粘着面を幹線31、支線32に取り付けながらワイヤーハーネス分岐部を覆い、対面する両端部1a,1aである粘着面を互いに圧着させて固定することにより、ワイヤーハーネス分岐部3を保護することができる。
【0028】
また、図2の保護シート1と同一構成であるが該保護シートよりも一回り大きな保護シート4を用いて、図3に示すようにワイヤーハーネス分岐部3を保護する。この場合は図2の場合に比べて、大きな保護シート4を用いたので、二つ折り後に対面する両端部4a,4aである粘着面の面積が図2の場合に比べて大きくなり、ワイヤーハーネス分岐部3に対する取り付け力が強くなり取付けが確実になる。
【0029】
図1、図2の構成によれば、ワイヤーハーネス分岐部を弾性を有する保護シートで覆うので、分岐の本数、分岐の角度、ハーネス径等に制約を受けることなく、きわめて容易にワイヤーハーネス分岐部を保護することができる。また、ワイヤーハーネス分岐部を覆う保護シートの外表面には突起部が形成されているので、他部品(例えばボルト等)が干渉しても、この突起部で受け止め電線へのダメ−ジを防止することができる。
【0030】
また、取付け層はワイヤーハーネス分岐部に巻き付けやすいように、柔らかな材料で作り、保護層は他部品の干渉を確実に受けられるように硬めの材料で作ることにより、ワイヤーハーネス分岐部に対する取付けが容易になるとともに、他部品の干渉から電線のダメージを確実に回避することができる。
【0031】
また、突起は保護シートの巻き軸と平行するように縦横格子状に設けられているので、保護シートをワイヤーハーネス分岐部に巻き付けるとき、突起のない肉厚の薄い部分で巻き付けることができ、巻付けを容易かつ確実に行うことができる。
【0032】
図4は図2、図3とは異なり、ワイヤーハーネス3の幹線31から2本の支線32,33を分岐させたワイヤーハーネス分岐部を保護した状態を示す斜視図であり、このワイヤーハーネス分岐部3の下に保護シート1の中央部を当接させる。そして、保護シート1を二つ折りにして粘着面を幹線31、支線32、33に取り付けながらワイヤーハーネス分岐部を覆い、対面する両端部1a,1aである粘着面11aを互いに圧着させて固定し、ワイヤーハーネス分岐部3を保護する。
【0033】
このように保護した後、このワイヤーハーネス分岐部3を車両に取付ける場合、車両側のボルト、突起等を避けて配設することが必要なときは、保護シート1の薄層部1bを突起間を任意の経路で支線32,33の分岐基部まで引き裂いて切り離し部5を形成することにより、各支線の分岐方向を変えることができ、ワイヤーハーネス自体の分岐方向に自由度をもたせることができ、ワイヤーハーネスの配索が行い易くなる。このため、車両側のボルト、突起等を避けて配設することが容易である。
【0034】
図4の構成によれば、ワイヤーハーネス分岐部を弾性を有する保護シートで覆い保護した後、保護シートを必要に応じて、突起間を縫って任意に切断することができるので、この切断によって支線の分岐方向を変化させることができる。この結果、ワイヤーハーネス分岐部を例えば車両に取り付ける場合にボルト、突起等を避けて取り付けることができる。また、この場合の切断は、保護シートを突起間の厚みの薄い箇所で行うので、指先の力で容易に行うことができる。この結果、ハサミ等を用いて保護シートを切断する場合に生じて問題となっていた誤ってワイヤーハーネス分岐部の電線を損傷する恐れもない。
【0035】
以上説明したように、本発明がこのような保護シートを用いることで、分岐の本数、分岐の角度、ハーネス径等に制約を受けることなく、きわめて容易にワイヤーハーネス分岐部を保護することができる。また、ワイヤーハーネス分岐部を覆う保護シートの外表面には突起部が形成されているので、他部品(例えばボルト等)が干渉しても、この突起部で受け止め電線へのダメ−ジを防止することができる。
【0036】
なお、上述の実施形態においては、突起は保護シートの巻き軸と平行するように縦横格子状に設けられていたが、必ずしもこのように突起が保護シートに設けられる必要はない。しかしながら、突起は保護シートの巻き軸と平行するように縦横格子状に設けられていることで上述した特有な作用を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明のワイヤーハーネス分岐保護シートを示した斜視図である。
【図2】本発明のワイヤーハーネス分岐保護シートによりワイヤーハーネス分岐部を保護した状態を示す斜視図である。
【図3】本発明のワイヤーハーネス分岐保護シートによりワイヤーハーネス分岐部を図1より確実に保護した状態を示す斜視図である。
【図4】本発明のワイヤーハーネス分岐保護シートにより幹線より2本の支線を分岐したワイヤーハーネス分岐部を保護した状態を示す斜視図であるである。
【図5】従来におけるワイヤーハーネス分岐部の保護状態を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0038】
1,4 保護シート
1a,1a、4a,4a 両端部
1b 薄層部
3 ワイヤーハーネス分岐部
5 切り離し部
11 取り付け層
11a 粘着面
12 保護層
12a 突起
31 幹線
32,33 支線
101,102 保護部材
101a,101b 突起部
103 支持部材
104 幹線
105 支線
106 ヒンジ部
107 ロック部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤーハーネス分岐部を覆う弾性を有する保護シートであって、
前記保護シートがワイヤーハーネス分岐部を覆った状態で該保護シートの外表面に複数の突起が形成され、前記ワイヤーハーネス分岐部に取り付ける内表面に粘着面が形成されていることを特徴とするワイヤーハーネス分岐保護シート。
【請求項2】
前記保護シートは前記突起間を任意の経路で引き裂き可能であることを特徴とする請求項1記載のワイヤーハーネス分岐保護シート。
【請求項3】
前記保護シートは、一面を前記粘着面とした取付け層と一面に前記複数の突起を有する保護層とを一体に貼り合わせた構成であることを特徴とする請求項1または請求項2記載のワイヤーハーネス分岐保護シート。
【請求項4】
前記複数の突起が保護シートの巻き軸と平行となるように縦横格子状に設けられていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のワイヤーハーネス分岐保護シート。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−247070(P2009−247070A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−88736(P2008−88736)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(391045897)古河AS株式会社 (571)
【Fターム(参考)】