説明

ワムシの耐久卵とその製造方法

【課題】水産動物の餌料としての有用なワムシの耐久卵を通常の条件で保存するとふ化率の低下が避けられない。本発明は、ふ化率を維持しながら長期に保存できる耐久卵を提供すること、およびその保管方法に関する。
【解決手段】ワムシ耐久卵のふ化率低下の主要因が環境中に存在する酸素による内容成分の酸化であることを解明し、酸素を除去した状態の耐久卵はふ化率を維持して長期に保存できることを確認した。具体的には、無酸素状態容器に収納されていることを特徴とするワムシの耐久卵であり、酸素透過性にない容器中に、脱酸素剤、不活性化ガスの封入、脱気によって酸素のない状態にして耐久卵を密閉することによって目的を達成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水産動物の餌料として重要な動物プランクトンであるワムシの耐久卵に関し、長期に安定して保管可能な耐久性とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
動物プランクトンのシオミズツボワムシ(以下ワムシという)は、水産動物の餌料としてすぐれており、クロレラやナンノクロロプシスなどの微細藻類を使用して大量生産することができるため、栽培漁業における種苗生産、すなわち、有用魚介類を孵化させ種苗を育てる事業の中で広く利用されている。
【0003】
ワムシは、一般に、それぞれの水産動物の飼育機関で培養されて餌料として使用されているが、ワムシを生産するための労力は多大である。
ワムシは、株を選び培養条件を整えることによって有性生殖を行い耐久卵を作ることが知られている。ワムシ培養時に普通に生産される単性卵は長期保管できないため、ワムシは培養後に直ちに使用しなければならないのに対して、耐久卵は長期保存が可能であり、孵化させた後は、水産動物の餌料として直ちに使用することができる(非特許文献1参照)。
従って、大量に生産して保存すれば、必要なときに必要な場所で、直ちにワムシを水産動物に与えることが可能になると期待され、ワムシ耐久卵を効率よく生産する技術開発、ワムシ培養中の汚泥からワムシ耐久卵を精製する技術開発などが行なわれ、種々の提案がなされている(特許文献1、特許文献2参照、特許文献3参照)。
【0004】
ワムシ耐久卵を産業的に利用するためには、精製・乾燥した耐久卵を、ふ化率を低下させることなく長期に保存することが重要である。自然界では、沿岸海域低土や塩湖の底土などに堆積したまま長期間に渡ってふ化能力を維持する事例が知られているため、耐久卵であればふ化率を低下させることなく長期に保存することが可能であると考えられていたが、本発明者らは、耐久卵であっても保存中にふ化率の低下が認められ、実用上問題があることを明らかにした。
【0005】
そこで、ワムシ耐久卵のふ化率の維持と保存環境要因の関係に関する調査を行なったが、ワムシ耐久卵の産業的利用を目的とした長期保管に関する知見は見出すことができなかったため、精製した耐久卵の保管条件について様々の実験を行い、ワムシ耐久卵が環境中の酸素の存在によって酸化を受けるためふ化率の低下が起こることを確認して本発明を完成した。
【0006】
【非特許文献1】アクアネット2001年6月号 50−53ページ
【特許文献1】特開2002−306015号公報
【特許文献2】特開2005−87061号公報
【特許文献3】特願2006−024077号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ふ化率を維持して長期間保存できるワムシ耐久卵、およびワムシ耐久卵を保存する方法である。ワムシ耐久卵は必要なときに何時でも何処でもワムシを生産できることが特徴であり、ふ化率を低下させることなく保存する技術はきわめて重要である。しかし、未だ耐久卵の生産自体が不安定であり、ワムシ耐久卵の精製にも課題を残しており、精製した耐久卵の保存安定性に関する開発は見出すことができない。本発明者らはワムシ耐久卵の精製方法を開発し、更に精製した耐久卵の保管条件について調査・実験を行い、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ワムシ耐久卵の保存形態として精製した耐久卵をそのまま冷蔵保存および冷凍保存する方法および耐久卵を乾燥して保存する方法が考えられる。
冷蔵および冷凍品は水分を含むために容量が大きくなり、保管に冷蔵庫や冷凍庫が必要なため取り扱いが不便という欠点がある。更に、冷蔵品は保管中に徐々に腐敗が進む、冷凍品は耐久卵の製造ロットや凍結条件によって凍結後のふ化率低下が起こる場合があるなどのデメリットがあるが、環境水中の酸素を除去することによって冷蔵保管時、冷凍時、冷凍保管時のふ化率低下が抑えられることが確認された。
【0009】
乾燥したワムシ耐久卵は少ない量で多数の耐久卵を含み、室温で保管が可能であるため取り扱いが容易で製品形態としてすぐれている。しかし、室温で長期保管する場合には保存中にふ化率の低下が認められることが判明したため、本発明者らはふ化率を低減させることなく長期保存することを目的として調査・実験を行い、耐久卵の環境中の酸素を遮断することによって耐久卵のふ化率低下が起こらないことを見出し、最適な保存状態を確立することで発明に至った。
【0010】
精製・乾燥したワムシ耐久卵を密閉容器内に充填し、不活性化ガスで置換、脱気、脱酸素剤封入、乾燥剤封入、活性炭封入など様々な条件で保存したものふ化率を調査し、酸素を遮断することによって精製直後のふ化率を維持できることを確認した。耐久卵が存在する雰囲気中の酸素分圧は好ましくは1%以下、さらに好ましくは0.1%以下がすぐれていた。
【発明の効果】
【0011】
精製直後のふ化率を維持したまま耐久卵を室温で1年間以上の長期にわたって保存することができる。従って、都合のよい時期にワムシ耐久卵をまとめて生産し、製造した耐久卵は在庫時、流通時、販売店での在庫時に品質が劣化することなく長期保管することができ、何時でも何処で必要なときにワムシを生産することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
耐久卵から酸素を遮断するためには、脱酸素剤による方法、窒素などの不活性気体に置換する方法、脱気する方法などいずれの方法でもよく特に限定はない。耐久卵を封入する容器は、金属、ガラス瓶、プラスチック、アルミラミネートフイルムなどいずれでもよく、酸素の透過性がない材質であれば特に限定されない。
【0013】
例えば、精製・乾燥した耐久卵を、そのままガラス瓶に入れてキャップをすることによって、空気中(酸素が約20%含まれる)で室温に保管すると1年程度でふ化率が顕著に低下するが(耐久卵のロットによるばらつきがあるが、平均的には1/2〜1/4程度まで低下する)、ガラス瓶に脱酸素財を入れ、金属キャップによって密封することによって容器内の酸素を無くして保管すれば、ふ化率の低下をほぼ完全に防ぐことができる。
【0014】
耐久卵を保管する容器は酸素透過性のない材質を使用することが重要である。例えばガラス瓶は酸素を透過しないが、プラスチック製の瓶は注意が必要である。ポリビニルアルコール系、ポリ塩化ビニリデン系、ポリアクリロニトリル系は酸素遮断性が比較的すぐれているが、ポリ塩化ビニル系、ポリスチレン系は酸素を透過するため効果が低い。キャップも金属製または酸素透過性の低いプラスチック製を使用する必要がある。また、フィルム容器ではアルミ層がある容器がすぐれており、アルミ蒸着、シリカ蒸着、ポリビニルアルコール系、バリアナナイロン系、ポリ塩化ビニリデン系が比較的すぐれている。また、缶詰などの金属もすぐれている。
【実施例1】
【0015】
精製・乾燥した耐久卵1gをガラス瓶(サイズ8K)に入れ、試験区1は、同じガラス瓶に耐久卵と共に脱酸素剤(三菱ガス化学株式会社製)を封入して金属キャップをした。
試験結果は表1に示す。
【実施例2】
【0016】
試験区2は、実施例1と同様に、同じガラス瓶に耐久卵を入れ、ガラス瓶中の空気を窒素ガスに置換した後に金属キャップをした。試験結果は表1に示す。
【実施例3】
【0017】
試験区3は、肉厚の試験管に耐久卵1gを入れ、試験管内を脱気した後に、ガラス管をバーナーによって熱して封をした。上記のそれぞれを室内にて1年間保存し、開始時と終了時のふ化率を比較した。試験結果は表1に示す。
「比較例1」
【0018】
比較例1はそのまま金属キャップをして、実施例1と同様におこなった。試験結果は表1に示す。
「比較例2」
比較例2は、窒素置換を行ったが、塩化ビニル製のキャップを用い、実施例1と同様におこなった。試験結果は表1に示す。
「比較例3」
比較例3は乾燥剤を入れて金属キャップをして、実施例1と同様におこなった。試験結果は表1に示す。
【0019】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0020】
栽培漁業の中の種苗生産における水産動物の餌料として使用できる。また魚類などのペット用の餌として利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無酸素状態容器に収納されていることを特徴とするワムシ耐久卵
【請求項2】
請求項1において、ワムシの乾燥した耐久卵を、酸素を透過しない材質の密閉容器内に無酸素の状態で保管することを特徴とするワムシ耐久卵の製造方法
【請求項3】
請求項2の記載において、酸素を遮断する方法として、脱酸素剤の装入、または不活性気体の封入、または脱気した状態で保管することを特徴とするワムシの耐久卵の製造方法

【公開番号】特開2008−220295(P2008−220295A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−64673(P2007−64673)
【出願日】平成19年3月14日(2007.3.14)
【出願人】(000105051)クロレラ工業株式会社 (8)
【Fターム(参考)】