説明

ワンウェイクラッチ

【課題】低温環境下においてもトルク伝達部材と内外輪との必要な噛み合いが得られるワンウェイクラッチを提供する。
【解決手段】トルク伝達部材用ローラ7を凹カム13内で傾斜面11に付勢する付勢部材として、内輪3の外周面と凹カム13との間には、この種のワンウェイクラッチにおいて通常用いられるばねが有するトルク伝達部材用ローラ7に対する付勢力と同等の付勢力を有する圧縮ばね17aと、トルク伝達部材用ローラ7に対する付勢力がこの圧縮ばね17aよりも強い圧縮ばね17bとがそれぞれ配置されている。付勢力が強い圧縮ばね17bは、通常仕様のばねと同等の付勢力を有する圧縮ばね17aの所定数毎に周方向にバランス良く配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に自動車の自動変速機等用に好適なワンウェイクラッチに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車用の自動変速機は、流体継手であるトルクコンバータの他、3速〜5速程度の遊星歯車変速機構を備えており、クラッチやブレーキ等の摩擦係合手段により遊星歯車変速機構の構成要素であるサンギヤやプラネタリギヤ等を適宜固定あるいは解放することにより変速が行われる。自動変速機に内装される摩擦係合手段には、内部にワンウェイクラッチを内装し、ギヤシャフト等を一方の回転方向に自由に回転させることで、変速制御の容易化を実現させるものが一部に採用されている。
【0003】
この種のワンウェイクラッチは、例えば特許文献1に示されているように、内輪と、該内輪と同軸に配置された外輪と、該外輪の内周面又は内輪の外周面に周方向に沿って形成され、谷部と傾斜面とからなる複数のカム面と、内輪の外周面と前記カム面との間に介装されたトルク伝達部材と、該トルク伝達部材をカム面の前記傾斜面側にそれぞれ付勢する付勢部材と、外輪に装着され、トルク伝達部材と付勢部材の保持に供される保持器とから成る。
【0004】
このような構成において、付勢部材がトルク伝達部材をカム面の傾斜面へ付勢し、トルク伝達部材は一方向のみで内輪及び外輪と一体となってトルクを伝達する一方、逆方向で、トルク伝達部材が付勢部材を圧縮しながらカム面の谷部に入り込み内輪と外輪とは相対回転して、駆動側の内輪又は外輪が空転することによりトルクが伝達されないようにしている。
【0005】
ここで、内輪空転時からトルク伝達時、即ち非噛み合い時から噛み合い時に移行する際、トルク伝達部材と内外輪接触部との間の油膜を完全に断ち切り金属同士が接触するようにしなければならない。
【0006】
しかし、上記のような従来技術の構造にあっては、例えば、−20℃〜−40℃の極低温環境下でワンウェイクラッチが使用され、自動変速機中の潤滑・作動油(ATF)が高粘度化した状態においては、噛み合い時、トルク伝達部材が内外輪接触部の油膜を断ち切ることができず、そのため正常に噛み合わずに、トルク伝達部材が高粘度化した油(ATF)の上を連続的に滑り続けてしまう虞があった。
【0007】
この極低温環境下での滑り対策として、特許文献2に示されたローラ型ワンウェイクラッチでは、ローラの転動面を全周にわたって軸心方向に窪んだ凹部を有するように形成したことで、噛み合い初期における空転から噛み合い始める瞬間の油膜をせん断して金属同士が接触しやすくなり、金属接触のきっかけを起こすことで低温環境における噛み合い性能を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−59530号公報
【特許文献2】特開2006−2925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一方、極低温環境下での滑り対策として、単にトルク伝達部材への付勢力を増加し、トルク伝達部材とカム面又はトルク伝達部材と軌道面との接触面圧を増加することで油膜の切断を容易とする策も考えられるが、このようにした場合、空転時における引きずりトルクも増加してしまい、トルク伝達部材及び内輪又は外輪の摩耗を促進させたり、自動変速機の効率を低下させるなど新たな問題を招いてしまう。
【0010】
本発明は上記状況に鑑みなされたもので、低温環境下においてもトルク伝達部材と内外輪との必要な噛み合いが得られるワンウェイクラッチを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明の請求項1に係るワンウェイクラッチは、内輪と、
この内輪と同軸に配置された外輪と、
前記内輪の外周面と前記外輪の内周面との間に介装され、内輪外周面および外輪内周面に噛み合うトルク伝達位置と内輪外周面および外輪内周面とに非噛み合いになるトルク非伝達位置とを移動可能な複数のトルク伝達部材と、
前記トルク伝達部材をそれぞれトルク伝達位置に向かって付勢する複数の付勢部材と、
前記トルク伝達部材と前記付勢部材との保持に供される保持器とから成り、
前記保持器は、前記トルク伝達部材とこれに対応する前記付勢部材とを保持する第1および第2の取付部を備え、
該第1および第2の取付部は、前記付勢部材の一端を係止する係止部をそれぞれ有し、前記トルク伝達部材は前記付勢部材の他端で押圧されており、
前記第2の取付部に保持された付勢部材がこれに対応するトルク伝達部材を付勢する付勢力は、前記第1の取付部に保持された付勢部材がこれに対応するトルク伝達部材を付勢する付勢力よりも大きく設定されていることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の請求項2に係るワンウェイクラッチは、請求項1のワンウェイクラッチにおいて、前記内輪の外周面と前記外輪の内周面とのいずれか一方には、それぞれ谷部と傾斜面とからなる複数の凹カムが周方向に沿って形成され、
前記内輪の外周面と前記外輪の内周面とのいずれか他方には円筒面が形成され、
前記複数の凹カムと前記円筒面との間に前記複数のトルク伝達部材がそれぞれ介装され、
前記付勢部材は前記トルク伝達部材を前記凹カム内で前記傾斜面側にそれぞれ付勢しており、
前記トルク伝達部材が、前記内輪と前記外輪との一方向の回転時のみに前記凹カム内で前記付勢部材の付勢力に抗して転動し、当該内輪と当該外輪との間でトルク伝達を行うことを特徴とする。
【0013】
さらに、本発明の請求項3に係るワンウェイクラッチは、請求項1または2に記載のワンウェイクラッチにおいて、前記第1の取付部に保持された前記付勢部材は前記トルク伝達部材に対して一定のばね定数を有する第1圧縮ばねであり、前記第2の取付部に保持された前記付勢部材は該第1圧縮ばねよりもばね定数が大きい第2圧縮ばねであることを特徴とする。
【0014】
さらに、本発明の請求項4に係るワンウェイクラッチは、請求項1または2に記載のワンウェイクラッチにおいて、前記第1の取付部における前記係止部とトルク伝達位置にある前記トルク伝達部材との間の距離は、前記第2の取付部における前記係止部とトルク伝達位置にある前記トルク伝達部材との間の距離より大きく設定されており、
前記付勢部材はそれぞれ同じばね定数を有する圧縮ばねであることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の請求項5に係るワンウェイクラッチは、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のワンウェイクラッチにおいて、前記該第2の取付部は、前記第1の取付部の所定数毎に配置されていることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の請求項6に係るワンウェイクラッチは、請求項1乃至5のいずれか一項に記載のワンウェイクラッチにおいて、前記第2の取付部は、周方向に所定角度毎に配置されていることを特徴とする
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、極低温環境下においても、空転時における引きずりトルクを増加させることなくトルク伝達部材と内外輪との必要な噛み合いが得られるワンウェイクラッチが提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るワンウェイクラッチの一部を切欠いて示す正面図である。
【図2】図1の部分拡大図である。
【図3】図2中のB−B矢視方向断面図である。
【図4】本発明の第2の実施形態に係るワンウェイクラッチの一部を切欠いて示す正面図である。
【図5】図4の部分拡大図である。
【図6】図5中のD−D矢視方向断面図である。
【図7】本発明の第3の実施形態に係るワンウェイクラッチの部分拡大図である。
【図8】図7の要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態に係るワンウェイクラッチを図面を参照しつつ説明する。
【0020】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態を図面を参照して説明する。図1は本発明に係るワンウェイクラッチの第1の実施形態を示す正面図であり、図2は図1の部分拡大図であり、図3は図2中のB−B矢視方向断面図である。尚、本実施形態のワンウェイクラッチは、自動車用の自動変速機の摩擦係合手段に内装されるものであり、その全体的な構成は前述した従来装置と同一である。
【0021】
図1、図2に示すように、ワンウェイクラッチ1は、滑らかな外周面を有する円筒状の内輪3と、内輪3と同軸かつ相対回動自在に配置された円環状の外輪5と、内輪3と外輪5との間に介装されたトルク伝達部材たる多数本の円柱状のローラ7等から構成されている。外輪5の内周面には、円周方向に沿って形成されそれぞれが谷部9と傾斜面11とからなる複数の凹カム13と、軸方向に沿って形成された複数の凹溝15とが形成されている。
【0022】
内輪3の外周面と凹カム13との間には、トルク伝達部材たるローラ7と、該ローラ7を凹カム13内で傾斜面11に付勢する圧縮ばねであるアコーデオンスプリング17が配置されている。アコーデオンスプリング17は、この種のワンウェイクラッチにおいて通常用いられるばねと同等のばね定数を有する通常仕様のアコーデオンスプリング17aと、アコーデオンスプリング17aの1.2倍のばね定数を有する付勢力が強いアコーデオンスプリング17bの二種類で構成されている。なお、本実施形態では、この種のワンウェイクラッチにおいて通常用いられるばねの1.2倍のばね定数を有するスプリングを用いたが、本発明の態様はこの実施形態に限られるものではなく、1.2倍以上のばね定数を有するスプリングであれば適宜変更可能である。
【0023】
例えば本実施形態においては、アコーデオンスプリング17が全部で15本あり、これらのうち10本を通常仕様のアコーデオンスプリング17aとし、残り5本を付勢力が強いアコーデオンスプリング17bとしている。アコーデオンスプリング17bは角度72度毎に周方向にバランス良く配置されている。すなわち本実施形態のワンウェイクラッチでは、凹カム13は15個形成され、ローラ7は15本配置されている。
【0024】
外輪5の内周面の周方向において凹カム13とは異なる位置に、凹溝15が角度72度毎に5個配置されている。各凹溝15にはブロックベアリング19の外端部21が係合しており、これらブロックベアリング19により内輪3と外輪5との間隔が保持されている。図1中、符号22で示したものは外輪5の外周に形成された係止爪であり、図示しない変速要素の内周面に形成された係止溝に係合する。
【0025】
本実施形態の外輪5には、合成樹脂製の保持器23が装着されており、この保持器23によりローラ7やアコーデオンスプリング17、ブロックベアリング19の分離・脱落が防止されている。保持器23は、図3(図2中のB−B断面図)に示したように、外輪5の軸方向両側でそれぞれ径方向に延びる大径の第1環状フランジ25と小径の第2環状フランジ27とを、軸方向に延びる第1〜第4コラム29,31,33,35により連結してある。これら第1コラム29、第2コラム31、第3コラム33、第4コラム35は、この順で保持器23の全周にわたり設けてある。第4コラム35と第1コラム29との間にブロックベアリング19が介装・保持されている。ブロックベアリング19には略矩形の貫通孔47がワンウェイクラッチ1の軸方向に沿って形成されている。
【0026】
図2に示すように、本実施形態において、第2コラム31と第3コラム33は同じ形状をしている。第1コラム29、第2コラム31、及び第3コラム33は、内輪側に沿って形成された底部41と、この底部41から外輪側に向けて延びるアコーデオンスプリング係止部42をそれぞれ有している。第2コラム31、第3コラム33及び第4コラム35は、内輪側から外輪側に向けて延びるローラ保持部43をそれぞれ有している。アコーデオンスプリング17は一端をアコーデオンスプリング係止部42で係止され、他端でローラ7を押圧している。ローラ保持部43はワンウェイクラッチ単体での搬送時におけるローラ7の脱落を防止している。
【0027】
アコーデオンスプリング係止部42とこれに対応するローラ7との間でそれぞれアコーデオンスプリング取付部45を形成している。
【0028】
本実施の形態では、アコーデオンスプリング取付部45のピッチLは、この種のワンウェイクラッチにおいて通常使用される保持器のスプリング取付部に通常設定されているピッチと同等のピッチを有する。なお、本明細書中、トルク伝達部材と内外輪との噛み合い時における各アコーデオンスプリング取付部において、アコーデオンスプリング係止部と、これに対応するローラとの間の距離をアコーデオンスプリング取付部のピッチと定義する。図2中、符号39は第1コラム29に形成されたリップ部であり、ブロックベアリング19の外端側に形成された突出部37に係合している。
【0029】
このような構成であるため、図2中内輪ロック方向を示す矢印Rに示すように、内輪3が外輪5に対して矢印R方向へ回転すると、アコーデオンスプリング17がローラ7を傾斜面11へ付勢し、ローラ7、内輪3と外輪5は一体となってトルクを伝達する。また、矢印Fはトルク非伝達時における内輪空転方向を示しており、内輪3が外輪5に対して矢印F方向に回転すると、ローラ7がアコーデオンスプリング17を圧縮しながら傾斜面11から離れて谷部9に入りこみ、内輪3が空転してトルク伝達は行われない。
【0030】
本実施形態では、付勢部材として付勢力の強いアコーデオンスプリング17bを周方向にバランス良く配置したため、極低温環境下においても、内輪空転時からトルク伝達時へ移行する際、付勢力の強いアコーデオンスプリング17bが配置された凹カム13内で、該アコーデオンスプリング17bの付勢によりローラ7が噛み合い位置に転動し油膜を切断して初期噛み合いを確実に行い、これにより、この種のワンウェイクラッチにおいて通常仕様のアコーデオンスプリング17aが配置された凹カム13内でも油の排出が促進され、油膜を切断しやすくなった。すなわち、このような構成としたことにより、空転時における引きずりトルクを増加させることなく噛み合いに必要なだけの付勢力を得ることができる。
【0031】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。図4は本発明の第2の実施形態を示すワンウェイクラッチの正面図であり、図5は図4の部分拡大図であり、図6は図5中のD−D矢視方向断面図である。第1の実施形態で述べたのと同様に、本実施形態のワンウェイクラッチも、自動車用の自動変速機の摩擦係合手段に内装されるものであり、その全体的な構成は前述した従来装置と同一である。
【0032】
図4、図5に示すように、ワンウェイクラッチ101は、円筒状の内輪103と、内輪103と同軸かつ相対回動自在に配置された滑らかな内周面を有する円環状の外輪105と、内輪103と外輪105との間に介装されたトルク伝達部材たる多数本の円柱状のローラ107等から構成されている。内輪103の外周面には、円周方向に沿って形成された谷部109と傾斜面111とからなる複数の凹カム113と、軸方向に沿って形成された複数の凹溝115とが形成されている。
【0033】
外輪105の内周面と各凹カム113との間には、トルク伝達部材たる前記各ローラ107と、該ローラ107を凹カム内で傾斜面に付勢する圧縮ばねであるアコーデオンスプリング117が配置されている。アコーデオンスプリング117は、この種のワンウェイクラッチにおいて通常用いられるばねと同等のばね定数を有する通常仕様のアコーデオンスプリング117aと、アコーデオンスプリング117aの1.2倍のばね定数を有する付勢力が強いアコーデオンスプリング117bの二種類で構成されている。なお、本実施形態では、この種のワンウェイクラッチにおいて通常用いられるばねの1.2倍のばね定数を有するスプリングを用いたが、本発明の態様はこの実施形態に限られるものではなく、1.2倍以上のばね定数を有するスプリングであれば適宜変更可能である。
【0034】
例えば本実施形態においては、アコーデオンスプリング117が全部で15本あり、これらのうち10本を通常仕様のアコーデオンスプリング117aとし、残り5本を付勢力が強いアコーデオンスプリング117bとしている。アコーデオンスプリング117bは角度72度毎に周方向にバランス良く配置されている。すなわち本実施形態のワンウェイクラッチでは、凹カム113は15個形成され、ローラ107は15本配置されている。
【0035】
内輪103の外周面の周方向において凹カム113とは異なる位置に、凹溝115が角度72度毎に5個配置されている。各凹溝115にはブロックベアリング119の外端部121が係合しており、これらブロックベアリング119により内輪103と外輪105との間隔が保持されている。
【0036】
本実施形態の内輪103と外輪105との間には、合成樹脂製の保持器123が装着されており、この保持器123によりローラ107やアコーデオンスプリング117、ブロックベアリング119の分離・脱落が防止されている。保持器123は、図6に示すように、外輪105の軸方向両側でそれぞれ径方向に延びる第1環状フランジ125と第2環状フランジ127とを、軸方向に延びる第1〜第4コラム129,131,133,135で連結している。これら第1コラム129、第2コラム131、第3コラム133、第4コラム135は、この順で保持器123の全周にわたり設けてある。第4コラム135と第1コラム129との間にブロックベアリング119が介装・保持されている。ブロックベアリング119には略矩形の貫通孔147がワンウェイクラッチ101の軸方向に沿って形成されている。
【0037】
図5に示すように、本実施形態において、第2コラム131と第3コラム133は同じ形状をしている。第1コラム129、第2コラム131、第3コラム133及び第4コラム135は、内輪側に沿って形成された底部141をそれぞれ有している。第1コラム129、第2コラム131、及び第3コラム133は、底部141から外輪側に向けて延びるアコーデオンスプリング係止部142をそれぞれ有し、第2コラム131、第3コラム133、及び第4コラム135は、底部141から外輪側に向けて延びるローラ保持部143をそれぞれ有している。アコーデオンスプリング117は一端をアコーデオンスプリング係止部142で係止され、他端でローラ107を押圧している。ローラ保持部143はワンウェイクラッチ単体での搬送時におけるローラ107の脱落を防止している。
【0038】
アコーデオンスプリング係止部142とこれに対応するローラ107との間でそれぞれアコーデオンスプリング取付部145を形成している。
【0039】
本実施の形態では、アコーデオンスプリング取付部145のピッチLは、この種のワンウェイクラッチにおいて通常使用される保持器のスプリング取付部に通常設定されているピッチと同等のピッチを有する。
【0040】
このような構成であるため、図5中外輪ロック方向を示す矢印Rに示すように、外輪105が内輪103に対して矢印R方向へ回転すると、アコーデオンスプリング117がローラ107を傾斜面111へ付勢し、ローラ107、内輪103と外輪105は一体となってトルクを伝達する。また、矢印Fはトルク非伝達時における外輪空転方向を示しており、外輪105が内輪103に対して矢印F方向に回転すると、ローラ107がアコーデオンスプリング117を圧縮しながら傾斜面111から離れて谷部109に入りこみ、外輪105が空転してトルク伝達は行われない。
【0041】
本実施形態では、付勢部材として付勢力の強いアコーデオンスプリング117bを周方向にバランス良く配置したため、極低温環境下においても、外輪空転時からトルク伝達時へ移行する際、付勢力の強いアコーデオンスプリング117bが配置された凹カム113内で、該アコーデオンスプリング117bの付勢によりローラ107が噛み合い位置へ転動し油膜を切断して初期噛み合いを確実に行い、これにより、この種のワンウェイクラッチにおいて通常仕様のアコーデオンスプリング117aが配置された凹カム113内でも油の排出が促進され、油膜を切断しやすくなった。すなわち、このような構成としたことにより空転時における引きずりトルクを増加させることなく噛み合いに必要なだけの付勢力を得ることができる。
【0042】
(第3実施の形態)
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。図7は本発明の第3の実施形態に係るワンウェイクラッチの部分拡大図であり、図8は図7の要部拡大図である。第1及び第2の実施形態で述べたのと同様に、本実施形態のワンウェイクラッチも、自動車用の自動変速機の摩擦係合手段に内装されるものであり、その全体的な構成は前述した従来装置と同一である。
【0043】
図7にその一部を拡大して示すワンウェイクラッチ201は、滑らかな外周面を有する円筒状の内輪203と、内輪203と同軸かつ相対回動自在に配置された円環状の外輪205と、内輪203と外輪205との間に介装されたトルク伝達部材たる多数本の円柱状のローラ207等から構成されている。外輪205の内周面には、それぞれが円周方向に沿って形成された谷部209と傾斜面211とからなる複数の凹カム213と、軸方向に沿って形成された複数の凹溝215とが形成されている。なお、本実施の形態では、外輪205の内周面に複数の凹カム213を形成したが、外輪205の内周面を滑らかな円筒状にし、内輪203の外周面に複数の凹カム213を形成してもよい。
【0044】
内輪203の外周面と各凹カム213との間には、トルク伝達部材たる各ローラ207と、該ローラ207を凹カム213内で傾斜面211に付勢する圧縮ばねであるアコーデオンスプリング217が配置されている。本実施形態では、アコーデオンスプリング217には、この種のワンウェイクラッチにおいて通常用いられるばねと同等のばね定数を有する通常仕様のアコーデオンスプリングのみを用いている。
【0045】
各凹溝215にはブロックベアリング219の外端部221が係合しており、これらブロックベアリング219により内輪203と外輪205との間隔が保持されている。
【0046】
内輪203と外輪205との間には、合成樹脂製の保持器223が装着されており、この保持器223によりローラ207やアコーデオンスプリング217、ブロックベアリング219の分離・脱落が防止されている。保持器223は、外輪205の軸方向両側でそれぞれ径方向に延びる第1環状フランジと第2環状フランジ(いずれも図示なし)と、軸方向に延びる第1〜第4コラム229、231,233,235とから成る。これら第1コラム229、第2コラム231、第3コラム233、第4コラム235は、この順で保持器223の全周にわたり設けてある。第1コラム229と第4コラム235との間にブロックベアリング219が介装・保持されている。ブロックベアリング219には略矩形の貫通孔247がワンウェイクラッチ201の軸方向に沿って形成されている。
【0047】
図7に示すように、本実施形態において、第2コラム231と第3コラム233は同じ形状をしている。また、図8に拡大して示すように、同形状の第2コラム231及び第3コラム233は、内輪側に沿って形成された底部241と、この底部241から外輪側に向けてそれぞれ延びるアコーデオンスプリング係止部242と、ローラ保持部243とからなっている。アコーデオンスプリング217は一端をアコーデオンスプリング係止部242で係止され、他端でローラ207を押圧している。ローラ保持部243はワンウェイクラッチ単体での搬送時におけるローラ207の脱落を防止している。
【0048】
アコーデオンスプリング係止部242は、ローラ保持部243の近傍に形成されており、アコーデオンスプリング係止部242には、その先端にアコーデオンスプリング217を係止及び保持するための係止爪242aが形成されている。
【0049】
アコーデオンスプリング係止部242とこれに対応するローラ207との間でそれぞれアコーデオンスプリング取付部を形成している。
【0050】
本実施の形態では、アコーデオンスプリング取付部のピッチは、この種のワンウェイクラッチにおいて通常使用される保持器のスプリング取付部に通常設定されているピッチと同等のピッチL1を有するアコーデオンスプリング取付部245aと、このアコーデオンスプリング取付部245aにおけるアコーデオンスプリング係止部242の位置より該保持部242の位置を周方向にずらしてローラ207側に配置した、ピッチL1より短いピッチL2を有するアコーデオンスプリング取付部245bの二種類で構成されている。ピッチL2は、アコーデオンスプリング取付部245aに配置されたアコーデオンスプリング217のローラ207に対する付勢力と比べて、アコーデオンスプリング取付部245bに配置されたアコーデオンスプリング217のローラ207に対する付勢力が1.2倍となるように調整された長さである。
【0051】
このようにピッチ長さの異なるアコーデオンスプリング取付部を2種類形成することで、ピッチの短いアコーデオンスプリング取付部245bに配置したアコーデオンスプリング217がこれに対応するローラ207に作用する付勢力を、アコーデオンスプリング取付部245aに配置したアコーデオンスプリング217の付勢力よりも強くすることができる。
【0052】
なお、本実施形態では、通常仕様のピッチL1を有するアコーデオンスプリング取付部245aとピッチL1より短いピッチL2を有するアコーデオンスプリング取付部245bとの二種類で構成したが、ピッチ長さの異なる取付部を三種類以上有する構成としてもよい。また、本実施形態では、アコーデオンスプリング取付部245bのピッチL2は、アコーデオンスプリング取付部245aに配置されたアコーデオンスプリング217のローラ207に対する付勢力と比べて、アコーデオンスプリング取付部245bに配置されたアコーデオンスプリング217のローラ207に対する付勢力が1.2倍となるように調整された長さであるが、1.2倍以上の付勢力を有するように調整した長さであれば適宜変更可能である。
【0053】
例えば本実施形態においては、アコーデオンスプリング取付部が全部で15個あり、これらのうち5個を短いピッチL2を有するアコーデオンスプリング取付部245bとし、残り10個を通常仕様のピッチL1を有するアコーデオンスプリング取付部245aとしている。アコーデオンスプリング取付部245bは角度72度毎に周方向にバランス良く配置されている。
【0054】
すなわち本実施形態のワンウェイクラッチでは、凹カム213は15個形成され、ローラ207は15本配置されている。また、外輪205の内周面の周方向において凹カム213とは異なる位置に、凹溝215が角度72度毎に5個配置されている。
【0055】
このような構成であるため、図7中内輪ロック方向を示す矢印Rに示すように、内輪203が外輪205に対して矢印R方向へ回転すると、アコーデオンスプリング217がローラ207を傾斜面211へ付勢し、ローラ207、内輪203と外輪205は一体となってトルクを伝達する。また、矢印Fはトルク非伝達時における内輪空転方向を示しており、内輪203が外輪205に対して矢印F方向に回転すると、ローラ207がアコーデオンスプリング217を圧縮しながら傾斜面211から離れて谷部209に入りこみ、内輪203が空転してトルク伝達は行われない。
【0056】
本第3実施の形態では、ピッチの短いアコーデオンスプリング取付部245bを周方向にバランス良く配置したことで、極低温環境下においても、内輪空転時からトルク伝達時へ移行する際、ピッチの短いアコーデオンスプリング取付部245bに配置されたアコーデオンスプリング217の付勢によりローラ207が噛み合い位置へ転動し油膜を切断して初期噛み合いを確実に行い、これにより、ピッチの長いアコーデオンスプリング取付部245aを有する凹カム内でも油の排出が促進され、油膜を切断しやすくなった。すなわち、このような構成としたことにより、空転時における引きずりトルクを増加させることなく噛み合いに必要なだけの付勢力を得ることができる。
【0057】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこの実施形態に限られるものではない。例えば、上記実施形態ではトルク伝達部材として円柱状のローラを用いたが、ローラに代えてスプラグ又は鋼球等を採用してもよい。また、この種のワンウェイクラッチにおいて通常仕様のアコーデオンスプリング、付勢力の強いアコーデオンスプリング、ピッチ長さの異なるアコーデオンスプリング取付部及びブロックベアリングの数や位置は、使用条件毎に適宜変更可能である。更に、保持器や内外輪の具体的形状等についても、上記実施形態に限られるものではなく、設計上の都合等により適宜変更可能である。本発明は、従来に比べて低温の使用環境でより効果が大きいが、通常の使用環境においても同様に使用できることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0058】
1、101、201 ワンウェイクラッチ
3、103、203 内輪
5、105、205 外輪
7、107、207 ローラ
9、109、209 谷部
11、111、211 傾斜面
13、113、213 凹カム
15、115、215 凹溝
17、117、217 アコーデオンスプリング
17a、117a 通常仕様のアコーデオンスプリング
17b、117b 付勢力が強いアコーデオンスプリング
19、119、219 ブロックベアリング
23、123、223 保持器
25、125 第1環状フランジ
27、127 第2環状フランジ
29、129、229 第1コラム
31、131、231 第2コラム
33、133、233 第3コラム
35、135、235 第4コラム
41、141、241 底部
42、142、242 アコーデオンスプリング係止部
242a 係止爪
43、143、243 ローラ保持部
45、145 アコーデオンスプリング取付部
47、147、247 貫通孔
245a 通常仕様のピッチL1を有するアコーデオンスプリング取付部
245b ピッチL1より短いピッチL2を有するアコーデオンスプリング取付部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪と、
この内輪と同軸に配置された外輪と、
前記内輪の外周面と前記外輪の内周面との間に介装され、内輪外周面および外輪内周面に噛み合うトルク伝達位置と内輪外周面および外輪内周面とに非噛み合いになるトルク非伝達位置とを移動可能な複数のトルク伝達部材と、
前記トルク伝達部材をそれぞれトルク伝達位置に向かって付勢する複数の付勢部材と、
前記トルク伝達部材と前記付勢部材との保持に供される保持器とから成り、
前記保持器は、前記トルク伝達部材とこれに対応する前記付勢部材とを保持する第1および第2の取付部を備え、
該第1および第2の取付部は、前記付勢部材の一端を係止する係止部をそれぞれ有し、前記トルク伝達部材は前記付勢部材の他端で押圧されており、
前記第2の取付部に保持された付勢部材がこれに対応するトルク伝達部材を付勢する付勢力は、前記第1の取付部に保持された付勢部材がこれに対応するトルク伝達部材を付勢する付勢力よりも大きく設定されていることを特徴とするワンウェイクラッチ。
【請求項2】
前記内輪の外周面と前記外輪の内周面とのいずれか一方には、それぞれ谷部と傾斜面とからなる複数の凹カムが周方向に沿って形成され、
前記内輪の外周面と前記外輪の内周面とのいずれか他方には円筒面が形成され、
前記複数の凹カムと前記円筒面との間に前記複数のトルク伝達部材がそれぞれ介装され、
前記付勢部材は前記トルク伝達部材を前記凹カム内で前記傾斜面側にそれぞれ付勢しており、
前記トルク伝達部材が、前記内輪と前記外輪との一方向の回転時のみに前記凹カム内で前記付勢部材の付勢力に抗して転動し、当該内輪と当該外輪との間でトルク伝達を行うことを特徴とする請求項1に記載のワンウェイクラッチ。
【請求項3】
前記第1の取付部に保持された前記付勢部材は前記トルク伝達部材に対して一定のばね定数を有する第1圧縮ばねであり、前記第2の取付部に保持された前記付勢部材は該第1圧縮ばねよりもばね定数が大きい第2圧縮ばねであることを特徴とする請求項1または2に記載のワンウェイクラッチ。
【請求項4】
前記第1の取付部における前記係止部とトルク伝達位置にある前記トルク伝達部材との間の距離は、前記第2の取付部における前記係止部とトルク伝達位置にある前記トルク伝達部材との間の距離より大きく設定されており、
前記付勢部材はそれぞれ同じばね定数を有する圧縮ばねであることを特徴とする請求項1または2に記載のワンウェイクラッチ。
【請求項5】
前記該第2の取付部は、前記第1の取付部の所定数毎に配置されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のワンウェイクラッチ。
【請求項6】
前記第2の取付部は、周方向に所定角度毎に配置されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載のワンウェイクラッチ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−78141(P2010−78141A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−113854(P2009−113854)
【出願日】平成21年5月8日(2009.5.8)
【出願人】(000102784)NSKワーナー株式会社 (149)