説明

ワークの取付け状態確認方法

【課題】湾曲面を有するワークの取付け状態の良否を簡単且つ確実に判定することが可能であるワークの取付け状態確認方法を提供する。
【解決手段】ベース1に超音波振動子10を配置し、ワークWが正しく取付けられていない状況を模した状態の治具2に振動を与えて、このとき治具2内部を伝搬する振動を超音波振動子10で受信してワーク無しの振動波形NGを記憶する。ワークWを正規に取付けた状態の治具2に振動を与えて、このとき治具2内部及びワークW内部を伝搬する振動を超音波振動子10で受信してワーク有りの振動波形Gを記憶し、加工を行う前の段階で、治具2に振動を与えて、このとき超音波振動子10で受信される治具2内部及びワークW内部を伝搬する振動の波形が、ワーク無し振動波形NG及びワーク有り振動波形Gのいずれの波形に似ているかを波形特徴を比較する手法により判定して、ワークWの取付け状態を確認する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機のワーク取付け部にワークが正しく取付けられているか否かを確認するのに用いられるワークの取付け状態確認方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、上記したようなワークの取付け状態を確認する手段としては、例えば、特許文献1,2に開示されたものがある。
特許文献1に開示されたクランプ・アンクランプ確認装置は、治具に形成された気密室に圧力流体を供給する通路口と、気密室に設けられてワークに押圧されて摺動するプランジャを備えており、このクランプ・アンクランプ確認装置では、ワークのクランプ状態において、ワークに押圧されたプランジャが通路口を遮断した際の圧力変化を圧力検出手段で検出することで、ワークのクランプ状態を確認するようにしている。
【0003】
一方、特許文献2に開示されたワーク着座検知装置は、ワークと当接して移動するドッグと、近接センサを備えており、このワーク着座検知装置では、近接センサによってドッグの動きを検知することで、ワークの着座を確認するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−15549号公報
【特許文献2】特開2008−62350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記したクランプ・アンクランプ確認装置にあっては、クランプ・アンクランプを確認する部分が、通路口を有する気密室にプランジャを摺動自在に設けた構造になっているので、大型のワークのクランプ確認には適しているものの、小型のワークには適用しにくい。また、ワークを押し付ける方向とこれに押圧されるプランジャの摺動方向とを一致させる必要があり、曲面を有するワークにも適用しにくいという問題がある。
【0006】
一方、ワーク着座検知装置では、ワークと当接して移動するドッグの動きを近接センサによって検知する、すなわち、ワークの着座を電気的手段で検知するようにしているので、機械的手段と比べて検知精度が高いとは言えないという問題があり、これらの問題を解決することが従来の課題となっていた。
本発明は、上記した従来の課題に着目してなされたもので、小型のワークや湾曲面を有するワークの取付け状態の良否を簡単且つ確実に認識することが可能であるワークの取付け状態確認方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した目的を達成するために、本発明の請求項1に係る発明は、工作機のワーク取付け部にワークを取付ける際の該ワークの取付け状態確認方法であって、前記ワーク取付け部に振動子を配置し、前記ワークを取付けていない状態又はワークが正しく取付けられていない状況を模した状態の前記ワーク取付け部に振動を与えて、このとき該ワーク取付け部内部を伝搬する振動を前記振動子で受信してワーク無しの振動波形を記憶すると共に、前記ワークを正規に取付けた状態の前記ワーク取付け部又はワークに振動を与えて、このとき該ワーク取付け部内部及びワーク内部を伝搬する振動を前記振動子で受信してワーク有りの振動波形を記憶し、前記ワーク取付け部に実際にワークを取付けて加工を行う前の段階において、前記ワーク取付け部又はワークに振動を与えて、このとき前記振動子で受信される該ワーク取付け部内部及びワーク内部を伝搬する振動の波形が、前記ワーク無し振動波形及びワーク有り振動波形のいずれの波形に似ているかをパターンマッチング等の波形特徴を比較する手法により判定して、前記ワーク取付け部に対するワークの取付け状態を確認する構成としたことを特徴としており、このワークの取付け状態確認方法の構成を前述した従来の課題を解決するための手段としている。
【0008】
また、本発明の請求項2に係るワークの取付け状態確認方法では、伝搬する振動波形を解析することで、前記ワーク取付け部に対するワークの締め付け力を認識する構成としている。
さらに、本発明の請求項3に係るワークの取付け状態確認方法では、前記振動子が超音波振動子であり、この超音波振動子の発信により前記ワーク取付け部に振動が与えられる構成としている。
【0009】
さらにまた、本発明の請求項4に係るワークの取付け状態確認方法では、前記ワークに直接振動を与えて、この振動を前記ワーク取付け部に伝搬させる構成としている。
本発明に係るワークの取付け状態確認方法において、ワーク取付け部は、工作機のベースやベッドや面板などの工作機側取付け手段と、この工作機側取付け手段に固定される治具からなり、振動子は、工作機側取付け手段及び治具のいずれかに配置される。
【0010】
このワーク取付け部の工作機側取付け手段と治具との間の音波の伝搬性を向上させるために、カップラント材を介して両者を密接させることが望ましいが、加工の際に切削油や冷却液を使用するのであれば、カップラント材をとくに必要としない。
本発明に係るワークの取付け状態確認方法では、まず、例えば、ワークとこれを締め付け固定するクランプ爪との間にゴムのような振動の伝搬を遮断する材料を介在させて、ワークがワーク取付け部に正しく取付けられていない状況を模した状態を作り出す。
【0011】
続いて、この状態のワーク取付け部に対して、振動子を作動させて(又は工具などで叩いて)振動を与え、ワーク取付け部内部を伝搬する振動を上記振動子で受信し、この振動波形(横軸を時間とし、縦軸を振幅とした信号波形)をワーク無しの振動波形として記憶する。
次に、上記と同じようにして、ワークを正規に取付けた状態のワーク取付け部又はワークに振動を与えて、ワーク取付け部内部を伝搬する振動を上記振動子で受信して、この振動波形をワーク有りの振動波形を記憶する。
【0012】
このワーク取付け部にワークを正規に取付けた状態では、振動がワーク取付け部内部だけでなくワーク内部にまで伝搬するので、伝搬時間が異なる分だけ、ワーク有りの振動波形と、振動がワーク取付け部内部のみを伝搬するワーク無しの振動波形との違いが顕著になる。
そこで、実際の加工を行うに際して、上記クランプ爪でワークをワーク取付け部に取付けた後、振動子を作動させて(あるいは打振ハンマなどの治工具で叩いたり、切削刃物や研削刃物などの刃物を接触させたりして)ワーク取付け部又はワークに振動を与え、このとき振動子で受信されるワーク取付け部内部及びワーク内部を伝搬する加工前の振動波形を、ワーク無し振動波形及びワーク有り振動波形の双方にマッチングさせる。
【0013】
そして、加工前の振動波形が、ワーク無し振動波形及びワーク有り振動波形のいずれの波形に似ているかを判定すれば、小型のワークや湾曲面を有するワークであったとしても、ワーク取付け部に対する取付け状態の良否確認が簡単且つ確実に成されることとなる。
この際、振動の伝搬は、ワークとクランプ爪との当たり方(締め付け力)によって変化するので、伝搬する振動波形の伝搬時間及び振幅を比較解析するように成せば、浮いた状態の締め付け力が十分ではないクランプ爪を特定し得ることとなる。
【0014】
また、振動子をワーク取付け部の工作機側取付け手段、例えば、工作機のベースに配置した場合には、振動子をワーク取付け部の治具に配置した場合と比べて、配線及び配管を行う必要がなくなるので、その分だけ、構造がシンプルになるうえ、治具の交換が容易なものとなる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るワークの取付け状態確認方法では、上記した構成としているので、小型のワークや湾曲面を有するワークの取付け状態の良否を簡単且つ確実に判定することができるという非常に優れた効果がもたらされる。
また、本発明に係るワークの取付け状態確認方法では、伝搬する振動波形の伝搬時間及び振幅を比較解析することで、ワークの取付け状態の良否判定だけでなくワークの締め付け度合いをも認識することが可能であり、締め付け力の修正をも適宜行うことができるという非常に優れた効果がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施例に係るワークの取付け状態確認方法を簡略的に示す取付け状態確認要領説明図である。
【図2】図1におけるワークの取付け状態確認時において超音波振動子から超音波を発した際の信号波形を示すワーク無しの振動波形グラフ(a),ワーク有りの振動波形グラフ(b)及び締め付け力不足振動波形グラフ(c)である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係るワークの取付け状態確認方法を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明に係るワークの取付け状態確認方法の一実施例を示している。
図1に示すように、この実施例で用いられる工作機のワーク取付け部は、ベース(工作機側取付け手段)1と、このベース1上に配置される治具2を備えている。
治具2は、ベース1上に固定されるプレート3と、このプレート3上に配置されて湾曲面を有するワークWを載せる台座4,5と、同じくプレート3上に配置されたクランプ機構6,7を備えており、これらのクランプ機構6,7は、油圧などの流体圧で各々のクランプ爪8,9をそれぞれ動作させて、台座4,5とともにワークWを挟み込むことでワークWを固定するようになっている。
【0018】
この場合、ワーク取付け部のベース1には、超音波振動子10が埋め込まれた状態で配置されており、この超音波振動子10は、受信した振動波形をモニタ11に出力するようになっている。
上記したワークWに工作機によって加工を施すに際しては、まず、ワークWと治具2の台座4,5との間やワークWとクランプ機構6,7のクランプ爪8,9との間に、振動の伝搬を遮断する材料である仮想線で示すゴム12をそれぞれ介在させて、ワークWが治具2に正しく取付けられていない状況を模した状態を作り出す。
【0019】
続いて、この状態の治具2に対して、超音波振動子10を作動させて振動を与え、治具2の台座4,5及びクランプ機構6,7の各内部を伝搬する図1に仮想線の矢印で示す振動を超音波振動子10で受信し、図2(a)に示すように、この振動波形(横軸を時間とし、縦軸を振幅とした信号波形)をワーク無しの振動波形NGとしてモニタ11に出力する(記憶する)。
【0020】
次に、上記と同じようにして超音波振動子10を作動させて、ワークWを正規に取付けた状態の治具2に振動を与え、治具2の台座4,5及びクランプ機構6,7の各内部を伝搬する振動を超音波振動子10で受信し、図2(b)に示すように、この振動波形をワーク有りの振動波形Gとしてモニタ11に出力する(記憶する)。
この治具2にワークWを正規に取付けた状態では、図1に実線の矢印で振動経路を示すように、振動が治具2の台座4,5及びクランプ機構6,7の内部だけでなくワークWの内部にまで伝搬するので、伝搬時間が異なる分だけ、ワーク有りの振動波形Gと、振動が治具2の内部のみを伝搬するワーク無しの振動波形NGとの違いが顕著に現れる。
【0021】
そこで、実際の加工を行う場合に、上記クランプ機構6,7の各クランプ爪8,9を動作させてワークWを治具2に固定した後、超音波振動子10を作動させて治具2に振動を与え、このとき超音波振動子10で受信される治具2の内部及びワークWの内部を伝搬する加工前の振動波形を、ワーク無し振動波形NG及びワーク有り振動波形Gの双方にマッチングさせる。
【0022】
そして、加工前の振動波形が、ワーク無し振動波形NG及びワーク有り振動波形Gのいずれの波形に似ているかを判定すれば、この実施例のように湾曲面を有するワークWであったとしても、治具2に対する取付け状態の良否確認が簡単且つ確実に成されることとなる。
この際、振動の伝搬は、ワークWとクランプ爪8,9との当たり方(締め付け力)によって変化するので、例えば、台座4及びクランプ爪8でのワークWに対する当たり方が弱い場合には、図2(c)に示すように、伝搬する振動波形NG1の伝搬時間及び振幅を解析するように成せば(簡易的にはワーク有りの振動波形Gと比較すれば)、浮いた状態の締め付け力が十分ではないクランプ爪8(台座4)を特定し得ることとなる。
【0023】
この実施例では、超音波振動子10をワーク取付け部のベース1に配置しているので、超音波振動子10をワーク取付け部の治具2に配置した場合と比べて、配線及び配管を行う必要がなくなるので、その分だけ、構造がシンプルになるうえ、治具の交換が容易なものとなる。
なお、上記実施例において、ベース(工作機側取付け手段)1と、このベース1上に配置される治具2との間の音波の伝搬性を向上させるために、カップラント材を介して両者を密接させることが望ましいが、加工の際に切削油や冷却液を使用している状況であれば、カップラント材をとくに必要としない。
【0024】
上記した実施例では、振動子が超音波振動子10であり、この超音波振動子10の発信によりワーク取付け部の治具2に振動が与えられるようにしているが、これに限定されるものではなく、他の構成として、例えば、工具などで軽く叩くことでワークWに振動を与えて、この振動を治具2に伝搬させる構成としてもよいほか、回転運動などの動作を行っている工具(または静止している工具)をワークWに軽く当てることで振動を与えるようにしてもよい。
【0025】
なお、本発明に係るワークの取付け状態確認方法の構成は、上記した実施例に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0026】
1 ベース(ワーク取付け部)
2 治具(ワーク取付け部)
10 超音波振動子
G ワーク有りの振動波形
NG ワーク無しの振動波形
W ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機のワーク取付け部にワークを取付ける際の該ワークの取付け状態確認方法であって、
前記ワーク取付け部に振動子を配置し、
前記ワークを取付けていない状態又はワークが正しく取付けられていない状況を模した状態の前記ワーク取付け部に振動を与えて、このとき該ワーク取付け部内部を伝搬する振動を前記振動子で受信してワーク無しの振動波形を記憶すると共に、前記ワークを正規に取付けた状態の前記ワーク取付け部又はワークに振動を与えて、このとき該ワーク取付け部内部及びワーク内部を伝搬する振動を前記振動子で受信してワーク有りの振動波形を記憶し、
前記ワーク取付け部に実際にワークを取付けて加工を行う前の段階において、前記ワーク取付け部又はワークに振動を与えて、このとき前記振動子で受信される該ワーク取付け部内部及びワーク内部を伝搬する振動の波形が、前記ワーク無し振動波形及びワーク有り振動波形のいずれの波形に似ているかを波形特徴を比較する手法により判定して、前記ワーク取付け部に対するワークの取付け状態を確認する
ことを特徴とするワークの取付け状態確認方法。
【請求項2】
伝搬する振動波形を解析することで、前記ワーク取付け部に対するワークの締め付け力を認識する請求項1に記載のワークの取付け状態確認方法。
【請求項3】
前記振動子が超音波振動子であり、この超音波振動子の発信により前記ワーク取付け部に振動が与えられる請求項1又は2に記載のワークの取付け状態確認方法。
【請求項4】
前記ワークに直接振動を与えて、この振動を前記ワーク取付け部に伝搬させる請求項1又は2に記載のワークの取付け状態確認方法。

【図1】
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【図2】
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