説明

三次元測定機

【課題】補正パラメータの算出にかかる時間を短縮することができ、測定精度を向上させることができる三次元測定機の提供。
【解決手段】三次元測定機は、測定子211Aを有するプローブ21と、駆動機構と、補正パラメータ算出装置とを備える。補正パラメータ算出装置は、測定子211Aの回転変位を拘束することなく測定子211Aの並進変位を拘束する拘束手段6と、プローブ21の移動量が0となる位置を基準位置として設定する基準位置設定部と、拘束手段6にて基準位置に測定子211Aを拘束した状態でプローブ21を複数の測定点に移動させて各測定点における基準位置からのプローブ21の移動量、及び駆動機構の移動量を取得する測定点情報取得部とを備え、測定点情報取得部にて取得される情報に基づいて、プローブ21の座標系を補正するための補正パラメータを算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元測定機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一定の範囲内で移動可能に構成され、被測定物に接触する球状の測定子を先端に有する棒状のスタイラスを備えて構成されるプローブと、プローブの基端を保持するとともに、駆動する駆動機構とを備える三次元測定機が知られている(例えば、特許文献1参照)。
なお、三次元測定機に用いられるプローブとしては、被測定物に接触したときにトリガ信号を出力するタッチトリガプローブと、一定の範囲内で移動可能に構成され、スタイラスの移動量(以下、プローブの移動量とする)を出力する測定プローブとが知られている。以下の説明では、この測定プローブを単にプローブとする。
特許文献1に記載の表面形状測定装置(三次元測定機)では、プローブを被測定物に押し込んだ状態でプローブの移動量、及び駆動機構の移動量を取得し、取得した各移動量を合成することで測定子の位置(測定値)を検出している。また、表面形状測定装置は、検出した測定値に基づいて被測定物の表面形状等を測定している。
【0003】
ここで、三次元測定機は、プローブに規定された直交座標系に基づいてプローブの移動量を取得し、駆動機構に規定された直交座標系に基づいて駆動機構の移動量を取得する。
具体的に、三次元測定機にて取得されるプローブの移動量を(x,y,z)とし、駆動機構の移動量を(x,y,z)とすれば、測定値(x,y,z)は、以下の式(1)によって算出される。
【0004】
【数1】

【0005】
このため、プローブ、及び駆動機構の座標系が一致していない場合には、測定値に誤差が生じることになる。
なお、各座標系の不一致の要因としては、例えば、プローブの移動量を取得するためのスケールと、駆動機構の移動量を取得するためのスケールとの間に誤差がある場合や、駆動機構にプローブを取り付けて保持させたときの取り付け誤差によって各座標系の向きが一致していない場合や、各座標系を構成する3つの座標軸間に空間的な歪みがあり直交していない場合などが考えられる。
【0006】
したがって、各座標系の不一致に基づく測定誤差を低減し、測定精度を向上させるために、三次元測定機は、プローブの座標系を補正することが望ましい。ここで、各座標系を一致させる補正としては、アフィン変換を用いて補正する方法が知られている。
具体的に、例えば、アフィン変換の変換行列(補正パラメータ)をA(A11〜A33)とし、駆動機構の座標系にプローブの座標系を一致させるように補正すると、補正後のプローブの移動量(x´,y´,z´)は、以下の式(2)によって算出される。
【0007】
【数2】

【0008】
したがって、補正後の測定値(x´,y´,z´)は、以下の式(3)によって算出される。
【0009】
【数3】

【0010】
ここで、補正パラメータを算出する方法としては、例えば、既知の形状を有する基準ゲージを測定することによって算出される測定値に基づいて、補正パラメータを算出する方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。
特許文献2に記載の方法では、基準ゲージを複数の測定点で測定することによって算出された複数の測定値に基づいて、基準ゲージの形状を規定する方程式と、補正パラメータを算出するための方程式とを連立させた連立方程式の解を求めることで補正パラメータを算出している。このため、多数の測定点で基準ゲージを測定しなければならず、補正パラメータの算出に時間がかかるという問題がある。
【0011】
また、補正パラメータを算出する他の方法としては、例えば、治具の凹部に測定子を押し込んだ状態でプローブを移動させて測定することによって算出される測定値に基づいて、補正パラメータを算出する方法が知られている(例えば、特許文献3参照)。
具体的に、特許文献3に記載の方法では、正三角形の頂点に位置するように3つの球体を平面上に配設して形成された錐状の凹部を有する治具を用いて補正パラメータを算出している。
【0012】
ここで、測定子の位置は、治具の凹部によって拘束されているので、プローブを移動させたときのプローブの移動量と、駆動機構の移動量とは、互いに逆方向の同じ大きさの移動量となる。したがって、特許文献3に記載の方法では、この条件を利用することによって、基準ゲージを用いることなく補正パラメータを算出している。
また、測定子の位置は、治具の凹部によって拘束されているので、基準ゲージを用いる特許文献2に記載の方法と比較して補正パラメータの算出にかかる時間を短縮することができる。
【0013】
【特許文献1】特開2008−89578号公報
【特許文献2】特開2004−521343号公報
【特許文献3】特開平2−284216号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、特許文献3に記載の方法では、治具に形成された錐状の凹部に押し込むことによって測定子の位置を拘束しているので、治具の平面方向(プローブの軸方向と直交する方向)、及び治具から離間する方向(プローブの先端から基端に向かう方向)にプローブを移動させて測定しても有効な測定値を得ることができないという問題がある。
すなわち、特許文献3に記載の方法では、三次元測定機は、測定空間内における十分な範囲で有効な測定値を得ることができないので、適切な補正パラメータを算出することができず、測定精度を向上させるには限界があるという問題がある。
特に、三次元測定機では、プローブの軸方向と直交する方向に向かってプローブを被測定物に押し込んだ状態で測定する場合が多いので、治具の平面方向にプローブを移動させて測定しても有効な測定値を得ることができないのは非常に大きな問題となる。
【0015】
本発明の目的は、補正パラメータの算出にかかる時間を短縮することができ、測定精度を向上させることができる三次元測定機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明では、一定の範囲内で移動可能に構成され、被測定物に接触する球状の測定子を有するプローブと、前記プローブを保持するとともに、駆動する駆動機構とを備える三次元測定機であって、前記プローブの座標系を補正するための補正パラメータを算出する補正パラメータ算出装置を備え、前記補正パラメータ算出装置は、前記測定子の中心を回転中心とする回転変位を拘束することなく前記測定子の並進変位を拘束する拘束手段と、前記プローブの移動量が0となる位置を基準位置として設定する基準位置設定部と、前記拘束手段にて前記基準位置に前記測定子を拘束した状態で前記プローブを測定空間内における複数の測定点に移動させて前記各測定点における前記基準位置からの前記プローブの移動量、及び前記駆動機構の移動量を取得する測定点情報取得部とを備え、前記測定点情報取得部にて取得される前記プローブの移動量、及び前記駆動機構の移動量に基づいて、前記補正パラメータを算出することを特徴とする。
【0017】
このような構成によれば、補正パラメータ算出装置は、測定子の中心を回転中心とする回転変位(以下、測定子の回転変位とする)を拘束することなく測定子の並進変位を拘束する拘束手段と、拘束手段にて基準位置に測定子を拘束した状態で、プローブをあらゆる方向の測定点に移動させて各測定点における基準位置からのプローブの移動量、及び駆動機構の移動量を取得する測定点情報取得部とを備えているので、十分な範囲で有効な測定値を得ることができる。
したがって、補正パラメータ算出装置は、補正パラメータの算出にかかる時間を短縮することができ、適切な補正パラメータを算出することができる。また、補正パラメータ算出装置にて適切な補正パラメータを算出することができるので、三次元測定機は、測定精度を向上させることができる。
【0018】
ここで、三次元測定機にて被測定物を測定する場合には、プローブを被測定物に押し込んだ状態で被測定物を測定する。このとき、測定子は、被測定物との接触面における法線方向の反力に起因する変位、及び接触面における摩擦力に起因する変位以外の変位をすることがなく、並進変位、及び回転変位の拘束はなされない。このため、測定子の回転変位を拘束した状態でプローブを移動させて測定することによって測定値を算出すると、プローブの移動量に誤差が生じ、ひいては適切な補正パラメータを算出することができなくなるという問題がある。
本発明によれば、拘束手段は、測定子の回転変位を拘束することなく測定子の並進変位を拘束するので、補正パラメータ算出装置は、適切な補正パラメータを算出することができる。
【0019】
本発明では、前記拘束手段は、前記測定子を挟んで対向して配設され、前記対向方向に沿って前記測定子を押圧する2つの押圧部材を備え、前記各押圧部材には、前記対向方向と直交するとともに、互いに平行する軸方向を有し、前記測定子に向かって突出する柱状に形成される2つの柱状部がそれぞれ設けられ、一方の前記押圧部材における前記各柱状部、及び他方の前記押圧部材における前記各柱状部は、軸方向が互いに直交するように設けられ、前記測定子に当接することが好ましい。
【0020】
このような構成によれば、拘束手段は、2つの押圧部材にて測定子を押圧することで各柱状部を測定子に当接させることができる。ここで、一方の押圧部材における各柱状部、及び他方の押圧部材における各柱状部は、軸方向が互いに直交するように設けられているので、拘束手段は、簡素な構成で測定子の並進変位を拘束することができる。また、各柱状部は、押圧部材の押圧力によって測定子に当接しているので、拘束手段は、各押圧部材の押圧力を調整することで測定子の回転変位を拘束することなく測定子の並進変位を拘束することができる。
【0021】
本発明では、前記各柱状部は、円柱状に形成され、中心軸回りに回転自在に設けられていることが好ましい。
このような構成によれば、各柱状部は、測定子の回転変位に応じて回転することができるので、拘束手段は、測定子の回転変位を拘束することなく測定子の並進変位を拘束することができる。
【0022】
本発明では、前記拘束手段は、前記測定子の中心に向かって前記測定子を押圧する少なくとも4つの押圧部材を備え、前記各押圧部材は、前記測定子に当接する球状の当接部材と、前記当接部材を、前記当接部材の中心を回転中心として回転自在に支持する支持部材とを備えることが好ましい。
【0023】
このような構成によれば、拘束手段は、少なくとも4つの押圧部材にて測定子を押圧することで当接部材を測定子に当接させることができる。ここで、各押圧部材は、測定子の中心に向かって測定子を押圧するので、拘束手段は、簡素な構成で測定子の並進変位を拘束することができる。また、当接部材は、支持部材にて当接部材の中心を回転中心として回転自在に支持されているので、拘束手段は、測定子の回転変位を拘束することなく並進変位を拘束することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
〔第1実施形態〕
以下、本発明の第1実施形態を図面に基づいて説明する。
〔三次元測定機の概略構成〕
図1は、本発明の第1実施形態に係る三次元測定機1の概略構成を示すブロック図である。
三次元測定機1は、図1に示すように、三次元測定機本体2と、三次元測定機本体2の駆動制御を実行するモーションコントローラ3と、操作レバー等を介してモーションコントローラ3に指令を与え、三次元測定機本体2を手動で操作するための操作手段4と、モーションコントローラ3に所定の指令を与えるとともに、演算処理を実行するホストコンピュータ5とを備える。
【0025】
図2は、三次元測定機本体2を示す全体模式図である。なお、図2では、上方向を+Z軸方向とし、このZ軸に直交する2軸をそれぞれX軸、及びY軸として説明する。以下の図面においても同様である。
三次元測定機本体2は、図2に示すように、被測定物Wを測定するための測定子211Aを有するプローブ21と、プローブ21の基端側を保持するとともに、プローブ21を駆動する駆動機構22と、駆動機構22が立設される定盤23とを備える。
駆動機構22は、プローブ21の基端側を保持するとともに、プローブ21の移動を可能とするスライド機構24と、スライド機構24を駆動することでプローブ21を駆動する駆動部25とを備える。
【0026】
スライド機構24は、定盤23におけるX軸方向の両端から+Z軸方向に延出し、Y軸方向に沿ってスライド移動可能に設けられる2つのコラム241と、各コラム241にて支持され、X軸方向に沿って延出するビーム242と、Z軸方向に沿って延出する筒状に形成され、ビーム242上をX軸方向に沿ってスライド移動可能に設けられるスライダ243と、スライダ243の内部に挿入されるとともに、スライダ243内をZ軸方向に沿ってスライド移動可能に設けられるラム244とを備える。したがって、駆動機構22は、X,Y,Z軸の各軸方向にプローブ21を駆動する複数の駆動軸を備えている。そして、ラム244は、−Z軸方向側の端部においてプローブ21の基端側を保持している。なお、プローブ21としては、複数の種類のプローブが用意されており、これらのプローブの中から選択してラム244に保持させることができる。
【0027】
駆動部25は、図1、及び図2に示すように、各コラム241のうち、−X軸方向側のコラム241を支持するとともに、Y軸方向に沿って駆動するY軸駆動部251Yと、ビーム242上をスライドさせてスライダ243をX軸方向に沿って駆動するX軸駆動部251X(図2において図示略)と、スライダ243内をスライドさせてラム244をZ軸方向に沿って駆動するZ軸駆動部251Z(図2において図示略)とを備える。
【0028】
X軸駆動部251X、Y軸駆動部251Y、及びZ軸駆動部251Zには、図1に示すように、スライダ243、各コラム241、及びラム244の各軸方向の位置を検出するためのX軸スケールセンサ252X、Y軸スケールセンサ252Y、及びZ軸スケールセンサ252Zがそれぞれ設けられている。なお、各スケールセンサ252は、スライダ243、各コラム241、及びラム244の移動量に応じたパルス信号を出力する位置センサである。
【0029】
図3は、プローブ21の拡大模式図である。
プローブ21は、図3に示すように、測定子211Aを先端側に有するスタイラス211と、スタイラス211の基端側を支持する支持機構212とを備える。
支持機構212は、スタイラス211をX,Y,Z軸の各軸方向に付勢することで所定位置に位置決めするように支持するとともに、測定子211Aに外力が加わった場合、すなわち測定子211Aが被測定物Wに当接した場合には、スタイラス211を一定の範囲内でX,Y,Z軸の各軸方向に移動可能としている。この支持機構212は、図1に示すように、スタイラス211の各軸方向の位置を検出するためのX軸プローブセンサ213X、Y軸プローブセンサ213Y、及びZ軸プローブセンサ213Zを備える。なお、各プローブセンサ213は、各スケールセンサ252と同様にスタイラス211の各軸方向の移動量に応じたパルス信号を出力する位置センサである。
【0030】
図4は、プローブ21と、プローブセンサ213Xとの関係を示す模式図である。なお、図4では、プローブ21、及び被測定物Wの相対的な移動方向を矢印Dで示している。
具体的に、支持機構212は、図4に示すように、付勢部材212Aを備え、スタイラス211を所定位置に位置決めしている。そして、各プローブセンサ213は、スタイラス211の基端部の位置を検出することでスタイラス211の各軸方向に位置を検出している。
例えば、図4(A)に示すように、測定子211Aに外力が加わっていない場合、すなわち測定子211Aが被測定物Wに当接していない場合には、プローブセンサ213Xにて検出されるプローブ21のX軸方向の移動量は0となる。
そして、図4(B)に示すように、プローブ21をX軸方向に移動させて測定子211Aに外力が加わった場合、すなわち測定子211Aが被測定物Wに当接した場合には、プローブセンサ213Xにて検出されるプローブ21のX軸方向の移動量は測定子211Aの移動量に応じた移動量となる。
【0031】
モーションコントローラ3は、図1に示すように、操作手段4、またはホストコンピュータ5からの指令に応じて駆動部25を制御する駆動制御部31と、各スケールセンサ252、及び各プローブセンサ213から出力されるパルス信号を計数するカウンタ部32とを備える。
カウンタ部32は、各スケールセンサ252から出力されるパルス信号をカウントしてスライド機構24の移動量を計測するスケールカウンタ321と、各プローブセンサ213から出力されるパルス信号をカウントしてプローブ21の移動量を計測するプローブカウンタ322とを備える。そして、スケールカウンタ321、及びプローブカウンタ322にて計測されたスライド機構24の移動量、及びプローブ21の移動量は、ホストコンピュータ5に出力される。
【0032】
ホストコンピュータ5は、CPU(Central Processing Unit)や、メモリ等を備えて構成され、モーションコントローラ3に所定の指令を与えることで三次元測定機本体2を制御するものであり、指令部51と、移動量取得部52と、測定値算出部53と、補正パラメータ算出部54と、ホストコンピュータ5で用いられるデータを記憶する記憶部55とを備える。
【0033】
指令部51は、モーションコントローラ3の駆動制御部31に所定の指令を与え、三次元測定機本体2のスライド機構24を駆動する。具体的に、指令部51は、測定子211Aを駆動するための位置指令値を出力する。なお、被測定物Wの輪郭データは、記憶部55に記憶されている。
移動量取得部52は、カウンタ部32にて計測されたプローブ21の移動量(x,y,z)、及び駆動機構22の移動量(x,y,z)を取得する。ここで、移動量取得部52は、プローブ21に規定された直交座標系に基づいて、プローブ21の移動量を取得し(図3参照)、駆動機構22に規定された直交座標系に基づいて、駆動機構22の移動量を取得する(図2参照)。
【0034】
測定値算出部53は、移動量取得部52にて取得されたプローブ21の移動量、及び駆動機構22の移動量に基づいて測定値、すなわち測定子211Aの位置を算出する。なお、駆動機構22の移動量は、支持機構212内におけるスタイラス211の移動が全く生じていない場合、すなわちプローブ21の移動量が0の場合における測定子211Aの位置を示すように調整されている。
具体的に、測定値算出部53は、移動量取得部52にて取得されたプローブ21の移動量、及び駆動機構22の移動量を合成することで、以下の式(4)に示すように、測定値(x,y,z)を算出する。
【0035】
【数4】

【0036】
ここで、測定値算出部53は、駆動機構22の座標系にプローブ21の座標系を一致させるように補正することでプローブ21の座標系を補正する。具体的に、プローブ21の座標系を補正するための補正パラメータをA(A11〜A33)とすれば、補正後のプローブ21の移動量(x´,y´,z´)は、以下の式(5)によって算出される。なお、補正パラメータAは、後に詳述する補正パラメータ算出部54にて算出され、記憶部55に記憶されている。
【0037】
【数5】

【0038】
したがって、測定値算出部53は、補正後の測定値(x´,y´,z´)を、以下の式(6)によって算出する。
【0039】
【数6】

【0040】
補正パラメータ算出部54は、補正パラメータAを算出するものであり、基準位置設定部541と、測定点情報取得部542とを備える。
【0041】
図5は、拘束手段6にて測定子211Aを拘束した状態を示す模式図である。
補正パラメータ算出部54は、図5に示すように、定盤23(図2参照)に設置される拘束手段6にて測定子211Aを拘束した状態で補正パラメータAを算出する。
拘束手段6は、測定子211Aを挟んで対向して配設され、対向方向(図5中矢印方向)に沿って測定子211Aを押圧する2つの角柱状の押圧部材61A,61Bと、各押圧部材61A,61Bにおける測定子211A側の面に取り付けられる板状部材62A,62Bと、各押圧部材61A,61Bを対向方向に沿ってスライド移動可能に支持する台座63とを備える。
【0042】
各板状部材62A,62Bは、対向方向と直交する平面を有する矩形板状に形成され、長手方向が互いに直交するように各押圧部材61A,61Bに取り付けられている。また、各板状部材62A,62Bにおける測定子211A側の面には、長手方向に軸方向を有する柱状に形成される2つの柱状部621A,621Bが設けられ、各柱状部621A,621Bは、測定子211Aに向かって突出している。
【0043】
すなわち、各柱状部621A,621Bは、各押圧部材61A,61Bに設けられ、対向方向と直交するとともに、互いに平行する軸方向を有している。また、一方の押圧部材61Aにおける各柱状部621A、及び他方の押圧部材61Bにおける各柱状部621Bは、軸方向が互いにおよそ直交するように設けられている。そして、拘束手段6は、各押圧部材61A,61Bにて測定子211Aを押圧することで各柱状部621A,621Bを測定子211Aに当接させて測定子211Aの並進変位を拘束する。また、各押圧部材61A,61Bの押圧力は、測定子211Aの回転変位を拘束することなく測定子211Aの並進変位を拘束する程度に調整されている。
【0044】
図6は、測定子211Aの並進変位を拘束した状態におけるプローブ21と、プローブセンサ213Xとの関係を示す模式図である。なお、図6では、プローブ21、及び治具J1,J2の相対的な移動方向を矢印Dで示している。
ここで、図6(A)に示すように、測定子211Aの回転変位を拘束するとともに、測定子211Aの並進変位を拘束する治具J1にて測定子211Aを拘束した状態でプローブ21を移動させた場合には、スタイラス211の基端部の位置も測定子211Aと同じだけ移動することになる。したがって、プローブセンサ213Xにて検出されるプローブ21のX軸方向の移動量は、被測定物Wに当接することで測定子211Aが同じ距離だけ移動した場合(図4(A)参照)と比較して大きくなる。
【0045】
これに対して、図6(B)に示すように、測定子211Aの回転変位を拘束することなく測定子211Aの並進変位を拘束する治具J2にて測定子211Aを拘束した状態でプローブ21を移動させた場合には、プローブセンサ213Xにて検出されるプローブ21のX軸方向の移動量は、被測定物Wに当接することで測定子211Aが同じ距離だけ移動した場合と略同じになる。
本実施形態では、各押圧部材61A,61Bの押圧力は、測定子211Aの回転変位を拘束することなく測定子211Aの並進変位を拘束する程度に調整されているので、プローブセンサ213にて検出されるプローブ21の移動量は、被測定物Wに当接することで測定子211Aが同じ距離だけ移動した場合と略同じになる。
【0046】
基準位置設定部541は、拘束手段6にて測定子211Aを拘束した状態でプローブ21の移動量が0となる位置を基準位置として設定する。具体的に、基準位置設定部541は、指令部51に位置指令値を出力させることでプローブ21を移動させながら移動量取得部52にプローブ21の移動量を取得させてプローブ21の移動量が0となる位置を検出する。そして、基準位置設定部541は、プローブ21の移動量が0となる位置を検出すると、その位置を基準位置として設定する。
【0047】
測定点情報取得部542は、拘束手段6にて測定子211Aを拘束した状態でプローブ21を測定空間内における複数の測定点に移動させて各測定点における基準位置からのプローブ21の移動量、及び駆動機構22の移動量を取得する。具体的に、測定点情報取得部542は、指令部51に位置指令値を出力させることでプローブ21を各測定点に移動させて移動量取得部52に基準位置からのプローブ21の移動量、及び駆動機構22の移動量を取得させる。
【0048】
そして、補正パラメータ算出部54は、測定点情報取得部542にて取得されるプローブ21の移動量、及び駆動機構22の移動量に基づいて、補正パラメータAを算出する。
すなわち、本実施形態では、補正パラメータ算出装置は、拘束手段6と、補正パラメータ算出部54とで構成されている。
【0049】
〔補正パラメータの算出方法〕
図7は、補正パラメータ算出部54による補正パラメータAの算出方法を示すフローチャートである。
三次元測定機1の使用者は、拘束手段6にて測定子211Aを拘束した状態で補正パラメータAの算出を開始する。
補正パラメータAの算出を開始すると、基準位置設定部541は、拘束手段6にて測定子211Aを拘束した状態でプローブ21の移動量が0となる位置を基準位置として設定する(ステップST1)。
【0050】
基準位置設定部541にて基準位置が設定されると、測定点情報取得部542は、拘束手段6にて測定子211Aを拘束した状態でプローブ21を測定空間内における複数の測定点に移動させて各測定点における基準位置からのプローブ21の移動量、及び駆動機構22の移動量を取得する(ステップST2)。
【0051】
ここで、測定子211Aの位置は、拘束手段6によって拘束されているので、プローブ21を移動させたときのプローブ21の移動量と、駆動機構22の移動量とは、互いに逆方向の同じ大きさの移動量となる。したがって、プローブ21、及び駆動機構22の座標系が一致している場合には、以下の式(7)に示すように、駆動機構22の移動量、及びプローブ21の移動量を合成することで測定値を算出すると、測定値は0になる。
【0052】
【数7】

【0053】
これに対して、プローブ21、及び駆動機構22の座標系が一致していない場合には、測定値は0にならないので、以下の式(8)に示すように、測定値が0となるように補正パラメータAを算出すればよい。
【0054】
【数8】

【0055】
また、式(8)を変形すると、以下の式(9)を得ることができる。
【0056】
【数9】

【0057】
上述した式(9)において、補正パラメータAの未知数は9個であるので、これらの未知数を算出することができる十分な数の測定点におけるプローブ21の移動量、及び駆動機構22の移動量を測定点情報取得部542にて取得すれば、最小二乗法などによって補正パラメータAを算出することができる。
例えば、測定点情報取得部542にて測定される測定点の数をn個とすれば、連立方程式は、以下の式(10)によって表すことができる。
【0058】
【数10】

【0059】
上述した式(10)において、プローブ21の移動量、及び駆動機構22の移動量をX,Xとおいて単純化すれば、以下の式(11)を得ることができる。
【0060】
【数11】

【0061】
そして、左辺が補正パラメータAとなるように、上述した式(11)を変形すれば、以下の式(12)を得ることができる。
【0062】
【数12】

【0063】
したがって、測定点情報取得部542にて基準位置からのプローブ21の移動量、及び駆動機構22の移動量が取得されると、補正パラメータ算出部54は、上述した式(12)に示すように、測定点情報取得部542にて取得されるプローブ21の移動量、及び駆動機構22の移動量に基づいて、補正パラメータAを算出する(ステップST3)。
そして、補正パラメータ算出部54は、算出した補正パラメータAを記憶部55に記憶させる。
【0064】
このような本実施形態によれば以下の効果がある。
(1)補正パラメータ算出装置は、拘束手段6と、拘束手段6にて基準位置に測定子211Aを拘束した状態で、プローブ21をあらゆる方向の測定点に移動させて各測定点における基準位置からのプローブ21の移動量、及び駆動機構22の移動量を取得する測定点情報取得部542とを備えているので、十分な範囲で有効な測定値を得ることができる。したがって、補正パラメータ算出装置は、補正パラメータAの算出にかかる時間を短縮することができ、適切な補正パラメータAを算出することができる。また、補正パラメータ算出装置にて適切な補正パラメータAを算出することができるので、三次元測定機1は、測定精度を向上させることができる。
【0065】
(2)拘束手段6は、測定子211Aの回転変位を拘束することなく測定子211Aの並進変位を拘束するので、補正パラメータ算出装置は、適切な補正パラメータAを算出することができる。
(3)拘束手段6は、2つの押圧部材61A,61Bを備え、各押圧部材61A,61Bには、各柱状部621A,621Bが設けられているので、拘束手段6は、簡素な構成で測定子211Aの並進変位を拘束することができる。また、拘束手段6は、各押圧部材61A,61Bの押圧力を調整することで測定子211Aの回転変位を拘束することなく測定子211Aの並進変位を拘束することができる。
【0066】
〔第2実施形態〕
以下、本発明の第2実施形態を図面に基づいて説明する。
図8は、本発明の第2実施形態に係る拘束手段6Aにて測定子211Aを拘束した状態を示す模式図である。
なお、以下の説明では、既に説明した部分については、同一符号を付してその説明を省略する。
前記第1実施形態では、各柱状部621A,621Bは、各押圧部材61A,61Bに固定されていた。
これに対して、本実施形態では、図8に示すように、各柱状部622A,622Bは、円柱状に形成され、中心軸回りに回転自在に各押圧部材61A,61B(図示略)に設けられている点で異なる。
【0067】
このような本実施形態においても、前記第1実施形態と同様の作用、効果を奏することができる他、以下の作用、効果を奏することができる。
すなわち、各柱状部622A,622Bは、測定子211Aの回転変位に応じて回転することができるので、拘束手段6Aは、測定子211Aの回転変位を拘束することなく測定子211Aの並進変位を拘束することができる。
【0068】
〔第3実施形態〕
以下、本発明の第3実施形態を図面に基づいて説明する。
図9は、本発明の第3実施形態に係る拘束手段6Bにて測定子211Aを拘束した状態を示す模式図である。
前記第1実施形態では、拘束手段6は、2つの押圧部材61A,61Bを備え、各押圧部材61A,61Bに設けられた各柱状部621A,621Bを測定子211Aに当接させることで測定子211Aの回転変位を拘束することなく測定子211Aの並進変位を拘束していた。
これに対して、本実施形態では、拘束手段6Bは、図9に示すように、4つの押圧部材64を備え、各押圧部材64に設けられた当接部材641を測定子211Aに当接させることで測定子211Aの回転変位を拘束することなく測定子211Aの並進変位を拘束する点で異なる。
【0069】
具体的に、拘束手段6Bは、測定子211Aの中心に向かって測定子211Aを押圧する4つの押圧部材64を備える。
各押圧部材64は、測定子211Aに当接する球状の当接部材641と、当接部材641を、当接部材641の中心を回転中心として回転自在に支持する支持部材642とを備える。
【0070】
このような本実施形態においても、前記第1実施形態と同様の作用、効果を奏することができる他、以下の作用、効果を奏することができる。
すなわち、拘束手段6Bは、4つの押圧部材64を備え、各押圧部材64は、各当接部材641を備えているので、拘束手段6Bは、簡素な構成で測定子211Aの並進変位を拘束することができる。また、当接部材641は、支持部材642にて当接部材641の中心を回転中心として回転自在に支持されているので、拘束手段6Bは、測定子211Aの回転変位を拘束することなく測定子211Aの並進変位を拘束することができる。
【0071】
なお、本発明は前記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、前記各実施形態では、補正パラメータ算出装置は、拘束手段6,6A,6Bを備えていたが、これら以外の拘束手段を備えていてもよい。要するに、補正パラメータ算出装置は、測定子の回転変位を拘束することなく測定子211Aの並進変位を拘束する拘束手段を備えていればよい。
【0072】
前記各実施形態では、基準位置設定部541は、拘束手段6,6A,6Bにて測定子211Aを拘束した状態でプローブ21の移動量が0となる位置を基準位置として設定していたが、測定子に外力が加わっていない状態で基準位置を設定し、プローブの移動量を変化させることなく拘束手段にて測定子を拘束するようにしてもよい。
前記第3実施形態では、拘束手段6Bは、4つの押圧部材64を備えていたが、5つ以上の押圧部材を備えていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の第1実施形態に係る三次元測定機の概略構成を示すブロック図。
【図2】前記実施形態における三次元測定機本体を示す全体模式図。
【図3】前記実施形態におけるプローブの拡大模式図。
【図4】前記実施形態におけるプローブと、プローブセンサとの関係を示す模式図。
【図5】前記実施形態における拘束手段にて測定子を拘束した状態を示す模式図。
【図6】前記実施形態における測定子の並進変位を拘束した状態におけるプローブと、プローブセンサとの関係を示す模式図。
【図7】前記実施形態における補正パラメータ算出部による補正パラメータの算出方法を示すフローチャート。
【図8】本発明の第2実施形態に係る拘束手段にて測定子を拘束した状態を示す模式図。
【図9】本発明の第3実施形態に係る拘束手段にて測定子を拘束した状態を示す模式図。
【符号の説明】
【0074】
1…三次元測定機
6,6A,6B…拘束手段(補正パラメータ算出装置)
21…プローブ
22…駆動機構
54…補正パラメータ算出部(補正パラメータ算出装置)
61A,61B…押圧部材
64…押圧部材
211A…測定子
541…基準位置設定部
542…測定点情報取得部
621A,621B…柱状部
622A,622B…柱状部
641…当接部材
642…支持部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一定の範囲内で移動可能に構成され、被測定物に接触する球状の測定子を有するプローブと、前記プローブを保持するとともに、駆動する駆動機構とを備える三次元測定機であって、
前記プローブの座標系を補正するための補正パラメータを算出する補正パラメータ算出装置を備え、
前記補正パラメータ算出装置は、
前記測定子の中心を回転中心とする回転変位を拘束することなく前記測定子の並進変位を拘束する拘束手段と、
前記プローブの移動量が0となる位置を基準位置として設定する基準位置設定部と、
前記拘束手段にて前記基準位置に前記測定子を拘束した状態で前記プローブを測定空間内における複数の測定点に移動させて前記各測定点における前記基準位置からの前記プローブの移動量、及び前記駆動機構の移動量を取得する測定点情報取得部とを備え、
前記測定点情報取得部にて取得される前記プローブの移動量、及び前記駆動機構の移動量に基づいて、前記補正パラメータを算出することを特徴とする三次元測定機。
【請求項2】
請求項1に記載の三次元測定機において、
前記拘束手段は、
前記測定子を挟んで対向して配設され、前記対向方向に沿って前記測定子を押圧する2つの押圧部材を備え、
前記各押圧部材には、前記対向方向と直交するとともに、互いに平行する軸方向を有し、前記測定子に向かって突出する柱状に形成される2つの柱状部がそれぞれ設けられ、
一方の前記押圧部材における前記各柱状部、及び他方の前記押圧部材における前記各柱状部は、軸方向が互いに直交するように設けられ、前記測定子に当接することを特徴とする三次元測定機。
【請求項3】
請求項2に記載の三次元測定機において、
前記各柱状部は、円柱状に形成され、中心軸回りに回転自在に設けられていることを特徴とする三次元測定機。
【請求項4】
請求項1に記載の三次元測定機において、
前記拘束手段は、
前記測定子の中心に向かって前記測定子を押圧する少なくとも4つの押圧部材を備え、
前記各押圧部材は、
前記測定子に当接する球状の当接部材と、
前記当接部材を、前記当接部材の中心を回転中心として回転自在に支持する支持部材とを備えることを特徴とする三次元測定機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate