説明

三相四線式負荷模擬装置

【課題】Y−Δ−Y変圧器を不要にして構造の簡略化、軽量化を図り、演算装置等の交換を不要にした三相四線式負荷模擬装置を提供する。
【解決手段】交流電源200Aの三相のうち中性点Nを基準としてa,b相の電圧を検出する電圧検出器102,103と、a,b相の電流検出器112,113と、a,b相の電圧をディジタル量に変換するA/D変換部105と、a,b相の電圧と負荷量とに基づいて、a,b相の電流指令を演算するCPU106と、電流指令をアナログ量に変換するD/A変換部107と、これらの電流指令に応じてa,b相の負荷電流を交流電源200Aから引込む電流源108,110と、検出されたa,b相の電流から、零相電流が零になるようにc相の電流指令を演算するアナログ演算器114と、電流指令に応じて、第3相の負荷電流を交流電源200Aから引込む電流源109とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、解析対象とする実際の電力系統と電気的に相似な電気回路をアナログ回路(リアクトル、抵抗、コンデンサ、電流源等)により実現し、実際の電力系統より低い電圧(数十〜数百〔V〕)及び電流(数十〔mA〕〜数十〔A〕)を印加、通流することにより、電力系統に発生する種々の現象をリアルタイムでシミュレーション可能とした電力系統用アナログシミュレータに関し、特に三相四線式の配電系統に接続される負荷を模擬するようにした三相四線式負荷模擬装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の負荷模擬装置としては、図4に示す構成が知られている。図4において、100は三相負荷模擬装置、200は無限大電源モデルにより構成されて実際の三相配電系統(低圧系統)を模擬する三相交流電源である。
【0003】
三相負荷模擬装置100は、Δ結線側が交流電源200に接続されたY−Δ結線の変圧器(以下、Y−Δ変圧器ともいう)101と、そのY結線側の各相に接続された電圧検出器102〜104と、これら各相の電圧検出値をディジタル量に変換するA/D変換部105と、このA/D変換部105の出力信号及び予め設定された負荷量に基づいて負荷電流指令を演算するCPU(またはDSP:ディジタルシグナルプロセッサ)106と、前記負荷電流指令をアナログ量に変換するD/A変換部107と、前記電流指令に基づいて抵抗負荷、容量性負荷、誘導性負荷、定電力負荷、定電流負荷等を模擬するための負荷電流を交流電源200から引き込む電流源108〜110とから構成されており、前記電流源108〜110の各一端は変圧器101のY結線の各一端に接続され、中性点NはY結線の中性点に接続されて零相電流iの経路となっている。
なお、v,v,vは三相交流電源200の各相電圧、i,i,iは各相負荷電流(何れも瞬時値)を示す。ここで、各相の電圧検出値は、中性点Nを基準電位としてそれぞれ検出している。
【0004】
上述したように三つの電流源により構成された三相負荷模擬装置は、例えば後述する特許文献1,2に記載されている。
なお、図4に示した三相負荷模擬装置100では、零相電流i(=i+i+i)を系統(交流電源200)側に流さずにY−Δ変圧器101のΔ結線内で環流させている。
【0005】
また、高圧系統におけるアナログシミュレーションでは、実系統が三相四線式の結線であることから、図5に示すように、三つの電流源108〜110を備えた三相負荷模擬装置100をY−Δ−Y結線の変圧器(以下、Y−Δ−Y変圧器ともいう)111を介して三相四線式の交流電源200Aに接続し、前記変圧器111のΔ結線内で零相電流を環流させている。
【0006】
【特許文献1】特許第2737357号公報(第2図等)
【特許文献2】特許第2919657号公報(段落[0008]、図1等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図5に示した三相四線式の負荷模擬装置100では、零相電流を系統側に流さないためにY−Δ−Y変圧器111を必要とする。
しかし、Y−Δ−Y変圧器111を挿入すると、負荷模擬装置100の構造が複雑になり、重量が重くなるという問題があった。また、変圧器111の励磁電流、飽和及び漏れリアクタンス等に起因した誤差(2〜3%程度の誤差)が生じるため、高精度な三相負荷模擬装置を製造することが困難であった。
【0008】
また、特許文献1に記載された従来技術のように、負荷電流指令を計算するCPUにおいて、最初に計算した各相の負荷電流指令から零相電流成分を計算し(a,b,c相電流の加算平均により求める)、この零相電流成分を最初に計算した負荷電流指令から減算した値を新たな各相の電流指令として用いれば、零相電流成分を低減することが可能である。
しかし、アナログシミュレータでは高速なリアルタイム演算が要求されており(演算ステップが100〔μs〕程度)、上述したような零相電流成分低減のための演算を既設の設備に追加するには演算装置の交換が必要となり、その改造も容易ではなかった。
【0009】
そこで本発明の解決課題は、Y−Δ−Y変圧器を不要にして構造の簡略化、軽量化を図ると共に、演算装置等の交換を不要にした三相四線式負荷模擬装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、請求項1に記載した発明は、高圧系統を模擬した三相四線結線の交流電源に接続され、電流指令に従って前記交流電源から負荷電流を引き込む電流源を備えた三相四線式負荷模擬装置において、
前記交流電源の三相のうち、中性点を基準として第1相,第2相の電圧をアナログ量として検出する電圧検出手段と、
第1相,第2相の電流をアナログ量として検出する電流検出手段と、
検出された第1相,第2相の電圧をディジタル量に変換するA/D変換手段と、
ディジタル量に変換された第1相,第2相の電圧と予め設定された負荷量とに基づいて、前記第1相及び第2相の電流指令をディジタル量として演算する演算手段と、
演算された電流指令をアナログ量に変換するD/A変換手段と、
アナログ量に変換された各電流指令に応じて、前記第1相及び第2相の負荷電流を前記交流電源からそれぞれ引き込む第1,第2の電流源と、
前記電流検出手段により検出された第1相,第2相の電流から、零相電流が零になるように第3相の電流指令を演算するアナログ演算手段と、
このアナログ演算手段により演算された電流指令に応じて、第3相の負荷電流を前記交流電源から引き込む第3の電流源と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、三相交流電源の第1相及び第2相(例えばa相,b相)の電圧検出値に基づき、これらa相,b相の電流指令を演算手段により演算してa相,b相の電流源に与える。また、残りの第3相(c相)については、前記a相,b相の電流を検出し、これらの電流検出値を用いて零相電流が零になるように高速アナログ演算により電流指令を求め、この電流指令をc相の電流源に与える。
これにより、Y−Δ−Y変圧器を用いることなく零相電流を低減することが可能であり、構造の簡略化、軽量化を図ることができると共に、演算装置の交換や改造も不要になる。
また、本発明の負荷模擬装置は、三つの電流源、二つの電圧検出手段及び電流検出手段、A/D変換部,D/A変換部を備えたCPU等の演算手段により実現可能であり、回路構成が簡単で小形化、低価格化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図に沿って本発明の実施形態を説明する。
図1は本実施形態の構成を示すものであり、100Aは三相四線式負荷模擬装置、200Aは無限大電源モデルにより構成されて高圧系統を模擬する三相四線式の交流電源である。
【0013】
負荷模擬装置100Aは、中性点Nに共通接続された三つの電流源108〜110を備え、これらの電流源108〜110の各一端は三相交流電源200Aの各相(a,b,c相)の一端にそれぞれ接続されている。
また、中性点Nを基準としてa相の電圧を検出する電圧検出器102と、同じくb相の電圧を検出する電圧検出器103とが設けられており、これらの電圧検出値(瞬時値)v(t),v(t)はA/D変換部105に入力されている。
更に、a相の電流を検出する電流検出器112と、同じくb相の電流を検出する電流検出器113とが設けられ、これらの電流検出値(瞬時値)i(t),i(t)は高速演算が可能なアナログ演算器114に入力されている。
【0014】
前記A/D変換部105によりディジタル信号に変換されたa相,b相の電圧検出値は演算手段としてのCPU(DSP)106に入力され、ディジタル量のa相,b相電流指令(負荷電流指令)ias(t),ibs(t)が演算される。これらの電流指令ias(t),ibs(t)はD/A変換部107によりアナログ量に変換され、a相,b相の電流源108,110にそれぞれ入力されている。
【0015】
ここで、a相,b相電流指令ias(t),ibs(t)の計算方法を以下に説明する。なお、計算方法はa相,b相何れも同一であるので、以下ではa相を例にとってその電流指令ias(t)の計算方法を述べる。
はじめに、電圧検出器102により中性点Nを基準としたa相電圧v(t)を検出し、A/D変換部105によりディジタル量に変換してCPU106が以下の数式1を計算する(定電力負荷特性の場合)。
[数式1]
as(t)=(P/|V)・v(t)+(Q/|V)・v−90°(t)
但し、v−90°(t):v(t)より90°遅れた電圧
:ベクトル量のa相電圧
:a相の有効電力設定値
:a相の無効電力設定値
なお、上記P,Qの値に|V|を乗算すれば定電流負荷を模擬することが可能であり、|Vを乗算すれば定インピーダンス負荷を模擬することができる。
【0016】
このようにして演算したa相,b相電流指令ias(t),ibs(t)を電流源108,110に与えることにより、これらの指令値に従ったa相電流i(t)及びb相電流i(t)を交流電源200Aから負荷電流として引き込むことができる。
【0017】
一方、残りの一相すなわちc相の電流指令ics(t)については、電流検出器112,113により検出したa相電流i(t)及びb相電流i(t)を用いて、アナログ演算器114が数式2の演算を行うことにより算出する。
[数式2]
cs(t)=−(i+i
【0018】
図2は、アナログ演算器114の回路構成例であり、周知の加算増幅回路により上記数式2の演算を実現するものである。図2において、OPはオペアンプ、R〜Rは抵抗(R=R=R)を示す。
このような回路を用いることにより、入力から出力までの遅延時間は、通常数〔μs〕以下と非常に小さくて済む。
【0019】
次に、図3(a)は、図5に示した従来の三相負荷模擬装置100により、以下の条件で零相電流をシミュレーションした結果を示している。
(1)図5の従来技術ではY−Δ−Y変圧器111が挿入されているが、このY−Δ−Y変圧器111を削除してシミュレーションを実施。
(2)三相交流電源(無限大電源)200Aの電圧は、線間電圧20〔Vrms〕としてこれを1〔p.u.〕とすると、零相電圧を発生させるために、各相の電圧を数式3のように設定した。
【0020】
【数3】

【0021】
(3)送電線のインピーダンスは零とする(三相交流電源200Aと負荷模擬装置100とは直結)。
(4)数式1におけるP=P=P=1〔p.u.〕,Q=Q=Q=0.5〔p.u.〕に設定(定電力負荷)
【0022】
図3(a)から、a相電源の波高値のみを1.1〔p.u.〕に設定することにより、3〔%〕程度(0.03〔p.u.〕程度)の零相電流が発生していることが判る。これは、前述の如くY−Δ−Y変圧器111を削除したために、三相交流電源200Aにより印加した零相電圧が、負荷模擬装置100Aに零相電流を流してしまっていることに起因している。
【0023】
これに対し、図3(b)は、図1に示した本実施形態の三相四線式負荷模擬装置100Aにより、以下の条件で零相電流をシミュレーションした結果である。
(1)図1におけるアナログ演算器114の遅延時間を5〔μs〕として模擬した。
(2)その他の各相電圧の設定、送電線インピーダンス、P,Q値については、上述した図3(a)の場合と全く同一条件とした。
【0024】
図3(b)によれば、電流検出器112,113により検出したa相電流i(t)及びb相電流i(t)を用いて、c相の電流源109への電流指令ics(t)を数式2に基づいて高速にアナログ演算することにより(遅延時間=5〔μs〕を考慮)、零相電流が0.1〔%〕程度(0.001〔p.u.〕程度)まで減少していることが判る。
このように、零相電圧を負荷模擬装置に印加した場合でも零相電流を流さないようにすることが可能であり、回路構成の複雑化や重量増加、更には精度悪化の原因となるY−Δ−Y変圧器を使用しなくても、所望の負荷電流を模擬可能な三相四線式負荷模擬装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施形態を示す構成図である。
【図2】図1におけるアナログ演算器の回路構成例を示す図である。
【図3】従来技術及び本発明の実施形態によるシミュレーション結果を示す零相電流の波形図である。
【図4】従来技術を示す構成図である。
【図5】従来技術を示す構成図である。
【符号の説明】
【0026】
100A:三相四線式負荷模擬装置
102,103:電圧検出器
105:A/D変換部
106:CPU(DSP)
107:D/A変換部
108,109,110:電流源
112,113:電流検出器
114:アナログ演算器
200A:三相交流電源(高圧系統)
OP:オペアンプ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧系統を模擬した三相四線結線の交流電源に接続され、電流指令に従って前記交流電源から負荷電流を引き込む電流源を備えた三相四線式負荷模擬装置において、
前記交流電源の三相のうち、中性点を基準として第1相,第2相の電圧をアナログ量として検出する電圧検出手段と、
第1相,第2相の電流をアナログ量として検出する電流検出手段と、
検出された第1相,第2相の電圧をディジタル量に変換するA/D変換手段と、
ディジタル量に変換された第1相,第2相の電圧と予め設定された負荷量とに基づいて、前記第1相及び第2相の電流指令をディジタル量として演算する演算手段と、
演算された電流指令をアナログ量に変換するD/A変換手段と、
アナログ量に変換された各電流指令に応じて、前記第1相及び第2相の負荷電流を前記交流電源からそれぞれ引き込む第1,第2の電流源と、
前記電流検出手段により検出された第1相,第2相の電流から、零相電流が零になるように第3相の電流指令を演算するアナログ演算手段と、
このアナログ演算手段により演算された電流指令に応じて、第3相の負荷電流を前記交流電源から引き込む第3の電流源と、
を備えたことを特徴とする三相四線式負荷模擬装置。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図3】
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