説明

不燃性軽量床材及びその製造法

【目的】 金属薄板製トレイの芯部に発泡プラスチックを充填した軽量床材を不燃性にし、トレイの腐食や熱による有毒ガスの発生を防止し、さらに機械的強度を高め、撓み量を減少させる。
【構成】 金属薄板によるトレイの芯部に無機難燃剤を混合した発泡プラスチックを充填一体化し、必要により発泡プラスチックを繊維強化材の併用によって撓み量を減少させたもの。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、各種事務機器を主な業務手段としたいわゆるOA室,電算室等の情報伝達手段たる各種配線コードを床下に収納し、職場環境を整備するために使用する二重床用フリーアクセスフロアー(以下FAFと略記)パネルとして使用する不燃性軽量床材及びその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】FAFパネルは、従来各種の材料で製作され使われてきた。その使用素材を分類すれば、■金属系(Alダイキャスト,スチール)、■窯業系(GRC,CFRC,その他一般のFRC,ケイ酸カルシウム)、■有機系(パーチクルボード,樹脂)に大別される。それら素材はすべてそれぞれ何らかの特徴を持っているが、価格を含め何れの面においても優れている材料は無いのが実態である。その中で樹脂製パネルは軽量を最大の商品特徴とし、置敷き構造での工夫を加味して簡易使用を訴求点としながら商品化されてきた。しかしながら、一般の樹脂製品は低剛性(ひいてはパネルの撓み性の大きさ),破壊強度,クリープ性,可燃性などが問題点として指摘されていた。樹脂素材を使用したFAFパネルの一つに、実開昭64−57220号公報にみられるような、金属薄板から作成したトレイの中に自己消火性発泡プラスチックを充填せしめた軽量で不燃性のFAFパネルが提案されている。該提案内容は、トレイ構造をとることにより、例えば従来のプラスチック製パネルの剛性不足に起因するパネル寸法の小型化が、施工の煩雑さとコストアップを招いていた実態を改善するに大きな効果があったことを強調している。それには、パネルの芯材が発泡プラスチックによりなることで軽量化されている所も見逃せない特徴点である。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、前記提案内容に基づく技術には、なお幾つかの改善,改良を求められる課題のある事が以下判明した:■ 芯材である発泡プラスチックに自己消火性を付与するがための、ハロゲン化合物,リン化合物又はアンチモン化合物の添加は消火性に或る程度の効果は期待できるが、パネルの長期使用においてこれら添加薬剤が外周の金属薄板からなるトレイを腐食する恐れがあり、腐食の進行と共にパネル強度の急激な低下の危険性がある。
■ パネルをボーダー部に使用する場合や、パネルに孔明け,切欠きをして使用する場合、切断面を金物で被覆使用するものの、本来のパネルの如く周辺を樹脂で密封嵌合できないため徐々に吸湿し、それが前記添加薬剤の加水分解を促進し、腐食の危険性を高めると共に発泡プラスチックを脆化せしめ、ひいてはパネルの強度劣化につながる。
■ 実際の火災発生時にはハロゲン,リンから派生する有毒ガスが発生する。それ故、パネルの焼却廃棄は問題となる。
■ 前記添加薬剤は人体に対しても決して好ましい材料でなく、パネル製作時においてもできれば無害品への代替えが望ましい。
■ パネルは軽量が一つの特徴であるが、歩行性からは必ずしも長所にはならず、パネル重量の変更が求められる場合があるが、寸法を変えない限り重量変更は困難である。
本発明は、かかる問題点を解決したFAFパネルを提供することを目的としている。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明は、金属薄板をもって構成した平板パネルの芯部に、無機難燃剤を混合した発泡プラスチックを充填して一体化したことを特徴とする不燃性軽量床材であり、またオリオールに無機難燃剤を均一混合せしめた後、ジイソシアネートと混合して金属薄板をもって構成した平板パネルの芯部に注入し、反応硬化せしめることを特徴とする不燃性軽量床材の製造法である。
【0005】
【作用】本発明は、前記諸問題点を解決せんがため、多方面から検討の結果、発泡プラスチックに無機難燃剤を混合して軽量床材を不燃性にすると共に、前記トレイの腐食や有毒ガスの発生等を防止している。さらに本発明は、無機難燃剤を混合した不燃性の発泡プラスチックパネルの少なくとも底面を、高剛性の繊維材料、例えば硝子繊維,炭素繊維,セラミック繊維,アラミド繊維,金属繊維等の素材からなる長繊維,短繊維(チョップドストランド)をもって構成された長繊維ストランドマット,同サーフェイスマット,各種織編み構造物,チョップドストランドマット,ペーパー,不織布,チョップドストランド単独,さらにはそれらの相互併用よりなる繊維構造体あるいは単繊維状態で強化することにより、床材としての使用時における撓み性,破壊強度の大幅な改善を実現することができる。また、無機難燃剤としては、多くの実験の結果、アルミナ水和物及び水酸化マグネシウムが好ましいことを突き止めた。ここで表現するアルミナ水和物とは、化学式Al2 3 ・nH2 O又はAl(OH)3 で表される微粉末であり、例えばジプサイト,バイヤライト等が挙げられ、なかんずく3水和物の粉末結晶であるジプサイトが好適に用いられる(アルミナ水和物を以下水酸化アルミニウムと称呼する)。その粒径は、分散性及び消火性の点から微粒子が好ましいが、発泡体原料ポリマーとの混合面から0.5〜30ミクロンが有効に使用される。以下、代表的に水酸化アルミニウムをもって詳記するが水酸化マグネシウム使用においても同様効果を現す。さらに、水酸化アルミニウム単独の使用だけでなく他の無機難燃剤、例えば酸化アンチモン(Sb2 3 ),炭酸カルシウム,クレー,硫酸バリュウム等がそれぞれ個々に又は複数種水酸化アルミニウムと併用して適用される。
【0006】本発明の不燃性軽量床材の製造法について述べると、発泡ポリウレタンを例にとれば、ポリエーテル型,ポリエステル型、何れの場合でも先ず原料ポリオールに所定含有量になるよう水酸化アルミニウム(或いはそれを主成分にして他の無機難燃剤を併用、但しこの場合には事前に充分良く両者を混合しておく)を添加の上、攪拌して均一分散させる。この原料成分を他の一成分であるジイソシアネートと混合し、金属薄板製の平板パネルの芯部空間に注入して反応硬化せしめるか、これらの2液を別経路からいわゆるRIM成形方法により前記平板パネルの芯部空間に注入して反応硬化させ、目的とする不燃性軽量床材とする。この場合、使用する水酸化アルミニウム及び他の無機難燃剤は化学成分単独のままで、又はポリマーとの分散,濡れ性を良くするために事前に表面処理をしたものを使用する場合の何れでもよい。
【0007】水酸化アルミニウムの使用量は、単独使用の場合、ポリマーを不燃化するためには通常30〜150PHRとするが、場合によっては200PHRを必要とする場合もあるが、発泡プラスチック、とりわけ発泡ポリウレタンの場合には150PHR以上になると発泡が押さえられ、軟質ポリウレタンはおろか硬質ポリウレタンについても希望する密度、例えば0.8以下の材料が得られ難いことが多い。その場合、水酸化アルミニウムに少量の他の無機難燃剤を併用する事により不燃化を達成すると共に、希望する軽量低密度に持ち込むことができる。例えば、Sb2 3 との併用では水酸化アルミニウム50PHRとSb2 3 5PHRにて水酸化アルミニウム200PHRに匹敵する不燃性が得られ、発泡ポリウレタンの場合希望する広範囲の低密度品を造ることが出来る。水酸化アルミニウムとSb2 3 との併用における本発明の好ましい使用範囲は、水酸化アルミニウム30〜150PHRに対してSb2 3 7〜2PHRの組合せになり、即ちAl(OH)3 /Sb2 3 において30/7〜150/2PHRの範囲になる。その他の無機難燃剤においてもおおよそ上記組合せと同様の傾向ではあるが、Sb2 3 の併用効果よりも若干低くなる。
【0008】
【実施例】以下に本発明の実施例及び比較例を示す。
実施例−1厚さ0.6mmのZnメッキ鋼板を材料とし、それを曲げ加工にて寸法500×500×25mmのトレイを作り上げた。なお、四隅は熱可塑性エンジニアリングプラスチックをもって緊結処理を行った。別途以下の操作を全て室温下で行った。即ち、3Lの容器に大日本インキ化学(以下DICと略称)製ハイプロックスRP−980Hを800g、昭和電工製ハイジライトH−32STを1,600g添加の上、電動攪拌機にて3分間強力に攪拌して充分分散した液体(I)とした。それにDIC製ハイプロックスSP−299を800g(II) 加え、(I)と(II)を手動攪拌混合してAl(OH)3 粉体含有発泡ポリウレタン原料コンパウンド(III)を得た。次いで、この原料コンパウンド(III)を直ちに前記トレイ内に注入すると共にトレイと同質の鋼板よりなる上蓋をかぶせ、それを加圧プレスにて150kg/cm2 の荷重下10分間拘束、重合硬化せしめた。上記処理後パネルとして取り出して机上に24時間放置後以下各種評価を行った。
寸法密度、形状:500×500mmの寸法に対して+0,−0.3mmの範囲内に入り、反り、捩れ無く、パネル表裏面共殆ど完全な平面を確認した。
機械的強度:スパン長400mmにおいて50mmφ治具による中央集中荷重下の撓み量が300kg荷重下1.51mm、500kg荷重下2.46mmであり、989kgで破壊した。
難燃性:パネルを金属製の架台に乗せ、下方より1200℃の火炎にて5分間直接曝した。その結果、鋼板表面のZnは溶解したがそれ以外は外観上の変化は何等認められず、又燃焼炎も全く発生しなかった。
また、パネルを半裁して芯材を露出せしめ、芯材を下方に置き、上面から上記火炎を吹きつけた。その結果、火炎で覆っている時にのみ黄色炎が発生したが、火炎を遠ざけると直ちに芯材からの炎は消滅した。
パネル重量:5.8kg/枚比較例−1実施例−1において、昭和電工製ハイジライトH−32STを使用しない以外は全て同一条件、同一方法にてパネルを製作し、寸法精度以外の物性において以下の結果を得た。
機械的強度:スパン長400mmにおける撓み量は300kg荷重下1.79mm、500kg荷重下3.21mmであった。
難燃性:パネルの下面よりの火炎照射にて、トレイ上蓋接合部よりガスが発生し直ちに炎に包まれた。また、半裁パネルの芯材露出状態での火炎照射では、火を近づけただけで燃焼し、火炎を消滅しても火は消えなかった。
パネル重量:4.4kg/枚
【0009】実施例−2実施例−1において、ハイジライトH−32ST 1,600gの代わりに同H−42 800g及びSb2 3 80gの混合粉体を使用した以外は全て同一条件、同一方法でもってパネルを作成し、寸法精度、難燃性において実施例−1と同じ結果を得、機械的強度についてはスパン長400mmにおいて中央集中荷重下の撓み量が300kg荷重下1.65mm、500kg荷重下2.50mmであり、破壊荷重は970kgであった。また、パネル重量は5.1kg/枚であった。
実施例−3実施例−1において、Znメッキ鋼板トレイにAl(OH)3 粉体含有発泡ポリウレタン原料コンパウンド(III)を注入するにあたって、事前にトレイの底面にウレタン系接着剤を塗布した後、織物密度360g/m2 の硝子繊維織物(目開きピッチ7.5mm)の500mm角1枚を敷きつめ、次いで実施例−1と同様方法にて注入しパネルを作成し評価した。その結果、寸法精度及び難燃性については実施例−1と同じ結果を得、機械的強度については、スパン長420mmにおいて中央集中荷重下の撓み量が300kg荷重下1.00mm、500kg荷重下1.70mmであり、破壊荷重は1.005kgであった。
実施例−4実施例−3において、硝子繊維織物の代わりに繊維径13ミクロン、繊維長6mmのピッチ径炭素繊維のチョップドストランド150gを接着剤を塗布した底面のトレイに分散散布せしめ、その上に実施例−1と同じ方法においてハイジライトH−32STの代わりに、協和化学工業製キスマ5(水酸化マグネシウム粉体)1,300gを分散含有したMg(OH)2 粉体含有発泡ポリウレタンコンパウンドをトレイに注入してパネル製作の上評価した。その結果、パネルの寸法精度及び難燃性に関しては実施例−1と同等の結果を得、さらに機械的強度についてはスパン長420mmにおいて300kg荷重下の撓み量1.21mm、500kg荷重下において1.80mm、パネルの破壊荷重は1,130kgであった。また、パネル重量は5.5kg/枚となった。
実施例−5実施例−3において、硝子繊維織物の代わりに炭素繊維のコンティニアスフィラメントマット(PAN系、繊維密度240g/m2 )を使用し、それ以外は実施例−3と同様方法にてパネルを作成し評価した。その結果、寸法精度及び難燃性については実施例−1と同等の結果を得、さらに機械的強度についてはスパン長420mmにおいて300kg荷重下の撓み量1.09mm、500kg荷重下において1.71mmであり、破壊荷重は1,180kgであった。
【0010】
【発明の効果】以上述べたように、本発明による不燃性軽量床材は、次のような顕著な効果を奏することができる。
■ リン,ハロゲン等の有機化合物を含んでいないので、平板パネル材料の金属を腐食する危険性はない。
■ 床材を必要に応じて切削しても、その切り口からの可燃の危険性も無く、もし周辺から高温雰囲気に曝されても有機難燃剤に起因する毒性ガスの発生は無い。
■ 床材を作成するにあたっても、無機難燃剤の使用故、作業環境への特別な手配を要しない。
■ 床材の重量を若干ながら重い方向へ調整する事が出来る。即ち、例えば無機難燃剤としての水酸化アルミニウムの真比重が2.42のため(Sb2 3 の真比重は5.2)、それの含有量に対応して床材は僅かに重くなる。それに附帯して、発泡プラスチック原料が安価な水酸化アルミニウム等により部分的に置換される分だけ全体の原料費の節減につながる。
■ 無機難燃剤がマトリックスの発泡プラスチックに対し粒子分散強化効果をもたらし、構成された材料の機械的強度を向上せしめる。
■ パネル芯材の中に繊維強化材を併用した場合には、床材の撓み量を大幅に減少せしめ、通常OA室用に求められる中央集中荷重300kg時の撓み量2mm以下は勿論のこと、電算室用に必要な500kg時の2mm以下にも充分対応せしめられる物性が実現でき、難燃性と機械的物性の両面から改善が出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 金属薄板をもって構成した平板パネルの芯部に、無機難燃剤を混合した発泡プラスチックを充填して一体化したことを特徴とする不燃性軽量床材。
【請求項2】 前記発泡プラスチックが少なくとも底面に繊維強化材を含むものである請求項1記載の不燃性軽量床材。
【請求項3】 前記無機難燃剤が水酸化アルミニウム又は水酸化マグネシウムを主成分とするものである請求項1又は2記載の不燃性軽量床材。
【請求項4】 前記無機難燃剤として水酸化アルミニウム又は水酸化マグネシウム単独使用の場合、その使用比率が30〜150PHRである請求項3記載の不燃性軽量床材。
【請求項5】 前記無機難燃剤が副成分として酸化アンチモンを含むものである請求項3記載の不燃性軽量床材。
【請求項6】 前記無機難燃剤の使用比率がAl(OH)3 /Sb2 3 又はMg(OH)2 /Sb2 3 で共に30/7〜150/2PHRである請求項5記載の不燃性軽量床材。
【請求項7】 オリオールに無機難燃剤を均一混合せしめた後、ジイソシアネートと混合して金属薄板をもって構成した平板パネルの芯部に注入し、反応硬化せしめることを特徴とする不燃性軽量床材の製造法。