説明

中空糸濾過モジユール

【構成】 環状部材の内面に、中空糸膜の集束体と、その端部を開口固定する固定部材を有してなる中空糸濾過モジュールであって、集束体の外周部の中空糸膜の根本部を埋蔵する保護弾性樹脂層、集束体の拡がりを抑制する保護ネット材、および環状部材と固定部材との境界部にパッキング充填用の環状の溝が配設されたモジュール。
【効果】 中空糸膜と固定部材との接合部で生じやすい中空糸膜の破損によるリークおよび環状部材と固定部材との境界でのリークが防止された。エアーバブルによる洗浄法が効率よく実施できる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、浄水器用の中空糸濾過モジュールに関し、より詳しくは、中空糸膜の損傷等に起因するリークの発生しにくい中空糸濾過モジュールに関する。
【0002】
【従来の技術】中空糸濾過モジュールは、コンパクトであることから様々な分野で用いられており、例えば特開昭60−244306号公報や特開昭61−103503号公報記載のI型モジュールや、特開昭60−255114号公報記載のU型モジュールが知られている。近年、これらの使用範囲が拡がり、より厳しい条件での使用が望まれている。例えば温水や熱水中での使用があり、この場合には中空糸膜の固定部材としては、耐熱性エポキシ樹脂のようなものが用いられる。しかし、耐熱性エポキシ樹脂は硬度が大きいため、中空糸濾過モジュールの取扱い時や使用時に中空糸膜に加わる応力が固定部材に繋る中空糸膜の根本部分に集中し、中空糸膜が折れたり、破れたりしてリークが発生したり、あるいは環状部材と固定部材との境界面が剥離してリークが発生するなどの問題が生じた。
【0003】中空糸膜の破損の対策としては、特開平 2−107318号公報記載の保護層を有するものや、特開昭59−147603号公報記載の保護体を有するものが知られている。また、特開昭58−143805号公報や特開昭58−207904号公報には、高価な筒状ケースの再利用を図るために、筒状ケースと固定部材をパッキンホルダーを介して接続させた構造のものが知られている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】特開平 2−107318号公報記載の保護層を有するものでは、通常の通水ではリークの発生が見られなかった。しかしながら、より厳しい条件、例えば中空糸膜に気泡を当てることによって中空糸膜を揺らし、中空糸膜の外表面を洗浄するエアーバブルによる逆洗を行うと、中空糸膜の根本部分が損傷してリークが発生するという問題点があることが判明した。また、特開昭59−147603号公報記載の保護体を有するものにおいては、中空糸膜が中空糸束の外周部へ拡がることは防止されるものの、保護体内部での中空糸膜の斜交や、振動による中空糸膜根本付近への応力集中による欠陥の発生には効果がなかった。中空糸膜がその長手方向の広い範囲にわたって保護体で覆われている場合には、中空糸膜に振動を加えても洗浄の効率がよくなかった。洗浄効率を向上させるために保護体を短くすると、中空糸膜の振動による損傷のためのリークが発生した。更に、前記のパッキングホルダーを配設したものについては、筒状ケースとパッキングホルダーと界面でのリークはないものの、固定部材とパッキングホルダーとの界面でリークが発生しやすかった。また、固定部材を硬化させた後、固定部材の外周の適当な位置にパッキングを配置し、これを環状部材内に固定するものが提案されているが、製造プロセスが複雑となるばかりではなく、固定用部材が環状部材内で上下に移動しないように固定する部材が必要になり、構造が複雑化するとともに大型化するという問題も生じた。
【0005】本発明の目的は、中空糸膜の洗浄効率を低下させることなく、洗浄時に中空糸膜と固定部材との接合部で生じやすい中空糸膜の破損に起因するリークを防止し、かつ環状部材と固定部材との境界面でのリークの発生も防止することのできる中空糸濾過モジュールを提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】すなわち、本発明の中空糸濾過モジュールは、多本数の中空糸膜の集束体を、その端部を開口状態を保ちつつ環状部材の内面に固定部材で固定してなる中空糸濾過モジュールにおいて、開口端を有する側の環状部材と固定部材との境界部に、パッキング充填用の環状の溝が配設され、前記集束体の少なくとも外周部の中空糸膜の根本部を埋蔵する保護弾性樹脂層が固定部材に接して配設され、かつ該集束体の根本部でその外周を包み、集束体の拡がりを抑制する保護ネット材が、前記樹脂層を経て固定部材に固着されてなることを特徴とする。
【0007】
【作用】以下、本発明の中空糸濾過モジュールにつき図面を参照しつつより詳細に説明する。
【0008】図1は、本発明の中空糸濾過モジュールの一例を示す部分断面図である。本発明の中空糸濾過モジュールは、基本的には、固定部材1と、中空糸膜2と、環状部材3と、保護弾性樹脂層4と、保護ネット材5とを有して構成され、固定部材1と環状部材3との境界部にパッキング充填用の溝6が配設されている。これらに加え、濾液配管7、濾液配管支持部材8等の各種の部材が付設されてもよい。なお、図2は、図1で用いた、固定部材内での濾液配管の配設位置を固定するための濾液配管支持部材を示す平面図である。
【0009】固定部材1は、多数の中空糸膜2の各端部を開口状態を保ったまま集束して固定するとともに、かつこれを濾過膜として機能させるために浄化すべき水と浄化された水との仕切り部材として機能する。固定部材1は、エポキシ樹脂や不飽和ポリエステル樹脂等を硬化させたもので構成されるのが一般的である。
【0010】中空糸膜2としては、種々のものが使用でき、例えばセルロース系、ポリオレフィン系、ポリビニルアルコール系、PMMA系、ポリスルホン系等の各種材料からなるものが使用できる。なお、中空糸膜は、その開口部が固定部材で固定されたタイプのものであれば、中空糸膜がU字状に収束されていてもよいし、直線状の膜の一端が封止されていてもよいし、直線状に配置された膜の両開口端が二つの固定部材でそれぞれ固定されたものでもよい。
【0011】環状部材3は、中空糸濾過モジュール全体を支持する部材として機能するものであり、機械的強度および耐久性を有するものであればその形状、材質は問われないが、使用後に焼却処理が必要な場合には、燃焼により有毒ガスを出さずに完全燃焼させることのできる炭化水素系の樹脂を材質とするものが好ましく、例えばポリカーボネート、ABS樹脂、変成PPE樹脂等が挙げられる。
【0012】保護弾性樹脂層4は、多本数の中空糸膜の集束体の少なくとも外周部分において、中空糸膜の根本部(露出している中空糸膜の固定部材の近傍に位置する部分)を埋蔵するよう配設される。保護弾性樹脂層は、通常は固定部材に密着して配設されるが、必ずしも密着して配設される必要はなく、多少固定部材との間に隙間があってもよい。ただし、この隙間が余り大きいと、保護弾性樹脂層の配設効果が薄れ、中空糸膜の固定部材に接する根本部に再度応力が集中するので適当ではない。保護弾性樹脂層4に用いられる樹脂としては、ウレタン樹脂やシリコーン樹脂等の硬化後も比較的大きな弾性を有しているものが用いられる。
【0013】保護弾性樹脂層4は、通常約10〜100000本の中空糸膜からなる集束体の少なくとも外周部分に位置する中空糸膜の根本部を埋蔵していればよく、集束体の中央部に位置する中空糸膜の根本部については必ずしも埋蔵している必要はないが、集束体の中央部もある程度埋蔵されていることがリークの防止の面からはより安全であり好ましい。しかし、中空糸膜の根本部での応力の集中は、中空糸膜の移動の自由度から中空糸膜の外周部で顕著であるから、特に外周部での保護が必要である。保護弾性樹脂層4は、固定部材よりも弾性に富み中空糸膜の剛性に近い材料で構成されているので、中空糸膜の根本部での応力の集中を緩和させる機能を果すことができる。保護樹脂層の集束体の外周部分における中空糸膜の埋蔵の厚み(深さ)は、1〜30mmであることが好ましく、3〜10mmであることがより好ましい。
【0014】保護ネット材5は、中空糸濾過モジュールにおける集束体の拡がりを抑制する機能を果すものであるが、中空糸膜の揺れや振動により中空糸膜と保護ネットが接触した場合に中空糸膜が破損することのないように、保護ネット材全体が可撓性を有しており、かつ中空糸膜の濾過性能に影響を及ばさないような有孔構造を有するものであることが好ましい。具体例としては、網状体、編織布、有孔不織布、有孔フィルム等が挙げられる。保護ネット材の素材としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等の有機高分子が好ましい。
【0015】保護ネット材は、中空糸膜の集束体の根本部において、集束体の外周を包み込むように配置される。通常は、保護ネット材は固定部材に深さ5mm程度埋没させた状態で固着され、保護弾性樹脂層を経て集束体の根本部を通常1〜100mmの長さ、好ましくは10〜30mmの長さで集束体の外周をとり巻くよう配設されることが、エアバルブによる逆洗を効果的に行なうために好ましい。保護ネット材と集束体との間に広い間隔があっては中空糸膜の拡がりを抑制することができないので、通常は少なくとも保護ネット材の一部が中空糸膜と接触する状態で、好ましくは保護ネット材が中空糸膜に密着するような状態で集束体の外周を取り巻くようにして配置される。
【0016】本発明の中空糸濾過モジュールにおいては、中空糸膜の開口端を有する側の、環状部材と固定部材との境界部に、パッキング充填用の環状の溝6が配設されている。この溝6は、図1のように環状部材の内径の内側の固定部材側に配置されていてもよいし、あるいは固定部材の外径よりも外側の環状部材側に配置されていてもよいし、環状部材と固定部材の両方にまたがった境界部に配置されていてもよい。
【0017】溝6の幅は、用いるパッキングの種類や大きさにより選択され、パッキングが溝内に配置されて締めつけられた際にシールに必要なつぶれがパッキングに生じる幅とされ、通常は1〜10mmの範囲から選択される。また、溝の深さも、同様に用いるパッキングの種類や大きさにより選択されるが、溝の形成により減少した環状部材と固定部材との境界面の接着力が、リークの発生は容認しても最低限固定部材の上下動を阻止できる程度残存する必要がある。環状部材と固定部材との境界面の長さが充分長くとれる場合には、溝の深さは1〜50mmの範囲から選択される。
【0018】本発明の中空糸濾過モジュールを使用するに際して、溝6に充填して用いられるパッキングとしては、O−リングが好ましく、JIS規格のO−リングが好ましい。また溝内に充填されるパッキングの数は一つには限定されず、例えばバックアップリングを含んで複数用いることもできる。
【0019】溝6の形成方法としては各種の方法が採用できるが、例えばこの形成される溝と同型のシリコン樹脂等からなるスペーサーを予め環状部材の内壁に固定しておき、中空糸膜の集束体を環状部材内に充填した後、固定部材形成用の液状樹脂を流入させ硬化させて固定部材を形成した後、このスペーサーを取り除くことにより、所望の位置に精度よく溝6を形成することができる。
【0020】
【実施例】以下、本発明の中空糸濾過モジュールを実施例にしたがってより具体的に説明する。
実施例1内径79mmφ、外径108mmφの環状部材5に、ポリエチレン製多孔質中空糸膜(EHF410C、商品名、三菱レイヨン (株) 製)の11680本を支持部材8で2920本づつ4つに分けた集束体3の各々の根本部分を長さ約50mmの保護ネット材(TTX−243、商品名、日本ネトロン (株) 製)で包んだものを挿入し、エピコートED834(商品名、油化シェルエポキシ (株) 製)63.9重量部、C950チオコールLP−2(商品名、東レチオコール (株) 製)26.4重量部およびC950(商品名、日本化薬 (株) 製)9.7重量部を混合したエポキシ樹脂を環状部材の内面部に流入させ、中空糸膜の端部の開口状態を保持させつつ硬化させて固定部材を形成した。このとき、保護ネット材は固定部材の端部より20mm程度露出するようにした。また、固定部材と環状部材の境界部に、図1に示されるような外径79mm、内径73mm、深さ10mmの切り欠き溝6を形成するとともに、この溝内にO−リング(V−40、JIS規格)を配置した。
【0021】次いで、中空糸束の外周部の中空糸膜の根本部が3〜6mm程度の深さで、かつ中心部の中空糸膜の根本部が2〜5mm程度の深さで埋蔵するようにシリコーン樹脂(KE−1300T、商品名、信越化学 (株) 製)で中空糸膜と固定部材の接合端部を保護する保護弾性樹脂層を形成した。中空糸膜のもう一端についても、以上と同様にして、固定部材の中央に濾液配管を有する構造の中空糸濾過モジュールを作製した。なお、中空糸膜一本の有効糸長は、約1010mmであった。
実施例2中空糸膜の本数を半分の5840本にし、実施例1と膜面積が同様になるように中空糸の有効長さを倍にし、かつ中空糸膜をU字型に配し、一つの環状部材に中空糸膜を固定したことを除いては、実施例1と全く同様にして中空糸濾過モジュールを作成した。なお、濾液配管は配設しなかった。
比較例1切り欠き溝を配設せず、またO−リングを装着しなかったことを除いては、実施例1と全く同様にして中空糸濾過モジュールを作製した。
比較例2保護ネット材を配設しなかったことを除いては、実施例1と全く同様にして中空糸濾過モジュールを作製した。
比較例3保護弾性樹脂層を配設しなかったことを除いては、実施例1と全く同様にして中空糸濾過モジュールを作製した。
比較例4保護ネット材が固定部材の端部より300mm程度露出するように配設したことを除いては、実施例1と全く同様にして中空糸濾過モジュールを作製した。
評価例上記実施例1〜2および比較例1〜4で得た中空糸濾過モジュールを用いて、各中空糸膜の親水化処理を実施した後、一定の線流速で酸化第二鉄を100ppm含有する水を30日間濾過した後の中空糸濾過モジュールの差圧と、エアーバブルによる逆洗により機能回復処理を実施した後の中空糸濾過膜の差圧の評価結果を表1に示した。
【0022】また、エアーバブルによる逆洗後に、中空糸膜の外表面より1kg/cm2 で空気を吹き込み、モジュール中のエアーリークのある中空糸膜の本数を測定した結果を表1に示した。
【0023】
【表1】


*1:10本のモジュールについて試験をした際に、リークの発生したモジュールの本数
【0024】
【発明の効果】本発明により、中空糸濾過モジュールの使用時や洗浄時に中空糸膜と固定部材との接合部で生じやすい中空糸膜の破損が防止され、この破損に起因するリークをほぼ完全に防止することができ、かつ固定部材と環状部材の界面部におけるリークの発生も防止できた。また、この中空糸濾過モジュールの洗浄に際し、従来のエアーバブルによる方法が効率よく実施できた。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の中空糸濾過モジュールの一例を示す部分断面図である。
【図2】濾液配管支持部材を示す平面図である。
【符号の説明】
1 固定部材
2 中空糸膜
3 環状部材
4 保護弾性樹脂層
5 保護ネット材
6 溝
7 濾液配管
8 濾液配管支持部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】 多本数の中空糸膜の集束体を、その端部を開口状態を保ちつつ環状部材の内面に固定部材で固定してなる中空糸濾過モジュールにおいて、中空糸膜の開口端を有する側の環状部材と固定部材との境界部に、パッキング充填用の環状の溝が配設され、前記集束体の少なくとも外周部の中空糸膜の根本部を埋蔵する保護弾性樹脂層が固定部材に接して配設され、かつ該集束体の根本部でその外周を包み、集束体の拡がりを抑制する保護ネット材が、前記樹脂層を経て固定部材に固着されてなることを特徴とする中空糸濾過モジュール。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開平5−23550
【公開日】平成5年(1993)2月2日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−179726
【出願日】平成3年(1991)7月19日
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)