説明

乗員保護装置

【課題】手動式シートにおいてヘッドレストの位置を適切な状態に調整できる乗員保護装置を提供する。
【解決手段】ブレーキペダル踏込検出手段105によってブレーキペダル104が踏み込まれたことが検出された場合、CPUは、その時点でのリクライニング角度をもとにヘッドレストの移動量を演算し、その演算された移動量と予め決めたヘッドレスト移動量とからヘッドレストの移動量を得る。そして、ヘッドレスト本体の駆動機構に対してモータ12の駆動力を付与し、得られた移動量だけヘッドレスト本体を車両の前後方向に移動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗員保護装置に関し、特にリクライニング角度の調整を手動で行う手動式シートにおいて、ヘッドレスト位置を適正化して乗員を保護する乗員保護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の運転席シートや助手席シートに着座する際、シートを適正な位置に調整したり、あるいは背もたれ(シートバック)のリクライニング角度やヘッドレストの位置の調整がスイッチ操作等による電動が可能な、いわゆる電動式シートが普及している(例えば、特許文献1参照)。また、車両に対する衝突を検知又は予知して、シートバックのリクライニング角度やヘッドレストの位置を調整する乗員保護装置が提案されている(例えば、特許文献2、特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−83297号公報
【特許文献2】特開2010−208542号公報
【特許文献3】特開2010−234852号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電動式シートは、シート内部にモータを内蔵して、背もたれの角度やシートの前後と上下の位置等を電動で細かく調整できるものであるが、リクライニング角度調整用のアクチュエータと、ヘッドレスト位置調整用のアクチュエータとを個別に備えるものでは、装置が高価になるだけでなく、質量の増大、すなわち装置が大型化するという問題がある。一方、特許文献3に記載の車両用ヘッドレスト装置は、ヘッドレストに配したモータを駆動してヘッドレスト前部を所定方向へ移動させているが、ヘッドレストの移動とシートバックのリクライニング角度とが連動していないため、リクライニング角度の変化による乗員の頭部の動きに追随させたヘッドレストの位置調整ができない、という問題があった。
【0005】
本発明は、上述した問題点を解決するために成されたものであり、リクライニング角度の調整を手動で行う手動式のシートにおいて、安価な構成でヘッドレストの位置を適切な状態に調整できる乗員保護装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の乗員保護装置は、ブレーキペダルが踏み込まれたか否かを検出するブレーキペダル踏込検出手段と、乗員が着座するシートの背もたれを構成するシートバックのリクライニング角度を検出するリクライニング角度検出手段と、前記リクライニング角度検出手段で検出されたリクライニング角度と、乗員の頭部と前記シートバックの上端部に設けられ車両の前後方向に移動可能なヘッドレスト本体との水平方向の距離であるバックセットとの関係に基づいて現在のバックセット量を求めるバックセット算出手段と、前記ヘッドレスト本体を車両の前後方向へ移動させるための駆動力を付与するアクチュエータと、前記ブレーキペダル踏込検出手段によってブレーキペダルが踏み込まれたことが検出された場合であって、前記リクライニング角度検出手段で検出されたリクライニング角度が所定の範囲にある場合に、前記バックセット算出手段で求めたバックセット量と予め定めたバックセット目標値とをもとに前記ヘッドレスト本体の移動量を演算するヘッドレスト移動量演算手段と、前記ヘッドレスト移動量演算手段で演算された移動量にしたがって、前記ヘッドレスト本体を車両の前後方向に移動させるように前記アクチュエータを制御する制御手段と、を備えて構成される。
【0007】
本発明の乗員保護装置によれば、リクライニング角度の変化に連動してヘッドレストの位置が適正化され、後面衝突時等において乗員の頭がヘッドレストで支持され、急激な後方移動がなくなるため、後面衝突によりむち打ちとなる可能性を有効に回避できる。
【0008】
また、本発明の乗員保護装置は、ブレーキペダルが踏み込まれたか否かを検出するブレーキペダル踏込検出手段と、乗員が着座するシートの背もたれを構成するシートバックのリクライニング角度を検出するリクライニング角度検出手段と、前記ヘッドレスト本体を車両の前後方向へ移動させるための駆動力を付与するアクチュエータと、前記ブレーキペダル踏込検出手段によってブレーキペダルが踏み込まれたことが検出された場合であって、前記リクライニング角度検出手段で検出されたリクライニング角度が所定の範囲にある場合に、予めリクライニング角度に対応して定めたヘッドレスト移動量分、前記ヘッドレスト本体を車両の前後方向に移動させるように前記アクチュエータを制御する制御手段と、を備える。
【0009】
このような構成とすることで、ヘッドレスト制御を短時間で行うことができ、リクライニング角度の変化に対して迅速なヘッドレストの移動が可能となる。
【0010】
前記制御手段は、前記ヘッドレスト本体を車両の前後方向に移動する際、該移動に先立って所定の警報を発する。これにより乗員は、シートバックの上端部に配されたヘッドレスト本体が、その位置調整のために移動することを容易に了知できる。
【0011】
前記ヘッドレストの移動軌跡は線形又は非線形である。このような移動軌跡とすることによって、乗員の頭部の動きに追随したヘッドレストの位置調整が可能となる。また、前記アクチュエータを前記ヘッドレストの内部に設けた。これにより、乗員保護装置を安価かつ軽量化できる。
【0012】
前記ヘッドレスト本体は、前記シートバックの上端部に支持されたヘッドレスト後部、及び前記ヘッドレスト後部に対して接離可能に設けられるとともに、前記ヘッドレスト後部に対して最も近い位置と前記ヘッドレスト後部に対して最も離れた位置との間で車両の前後方向に移動可能なヘッドレスト前部を備え、前記制御手段は、前記ヘッドレスト前部を前記最も離れた位置と前記最も近い位置との間で移動させることにより、前記ヘッドレスト本体を車両の前後方向に移動させる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る乗員保護装置によれば、検出されたリクライニング角度をもとに演算したヘッドレスト移動量に基づいてヘッドレストを適正な位置に移動するので、リクライニング角度の調整を手動で行う手動式シートにおいて、後面衝突によりむち打ちとなる可能性を有効に回避できる、という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態に係る乗員保護装置の概略構成を示す図である。
【図2】乗員保護装置におけるリクライニング角度の検出部を含むリクライニング機構の概略構成を示す図である。
【図3】乗員保護装置のヘッドレスト本体の駆動機構を示す図である。
【図4】乗員保護装置の制御系の構成を示すブロック図である。
【図5】実施形態に係る乗員保護装置におけるヘッドレスト制御の手順を示すフローチャートである。
【図6】リクライニング角度とバックセットとの関係を示す図である。
【図7】リクライニング角度とヘッドレスト移動量との関係を示す図である。
【図8】ヘッドレストの移動機構の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。図1は、本発明の実施形態に係る乗員保護装置の概略構成を示す図である。図1に示す乗員保護装置11は、乗員1が着座するシートクッション10の背もたれを構成する、手動操作式(リクライニング角度の調整を手動で行うもの)のシートバック15と、シートバック15の上端部に支持されたヘッドレスト18とを備える。シートバック15は、シートクッション10に対する角度が可変に設けられている。そして、シートバック15内の下部には、シートバック15のリクライニング角度(図1において鉛直方向に対してシートバック15が傾斜している角度θ)を検出するためのリクライニング角度検出センサ102が設けられている。なお、リクライニング角度検出センサ102におけるリクライニング角度の検出には、例えば、ホール素子、加速度センサ、ポテンショメータ、ロータリーエンコーダ等を使用できる。
【0016】
ヘッドレスト本体18は、シートバック15に支持されたヘッドレスト後部19b、及びヘッドレスト後部19bに対して最も近い位置(全閉位置ともいう)から、ヘッドレスト後部19bに対して最も離れた位置(全開位置ともいう)までの所定範囲内で移動可能なヘッドレスト前部19aを備えている。ヘッドレスト本体18の内部には、ギアボックス17とモータ12が設けられている。ギアボックス17は、モータ12の回転力を受けて、ヘッドレスト本体18のヘッドレスト前部19aを、車両の前後方向にほぼ直線状に往復移動させるための機構を有する。また、ギアボックス17は、ヘッドレスト18の移動量(ヘッドレスト前部19aの全閉位置からの移動量)を検出するためのヘッドレスト移動量検出センサ103を備えている。ヘッドレスト移動量検出センサ103としては、例えば、ポテンションメータ、リニアセンサ、ロータリエンコーダ等を用いることができる。さらに、ブレーキペダル104の直下には、乗員1がブレーキペダル104を踏んだか否かを検出するためのブレーキペダル踏込み検出センサ105が設けられている。
【0017】
リクライニング角度検出センサ102で検出されたリクライニング角度はリクライニング角度検出信号として、ヘッドレスト移動量検出センサ103で検出されたヘッドレストの移動量はヘッドレスト移動量検出信号として、また、ブレーキペダル踏込み検出センサ105で検出されたブレーキペダル104の踏込みの有無はブレーキペダル踏込み検出信号として、それぞれ、後述する電子制御ユニットECU(Electronic Control Unit)100に入力される。表示装置110には、例えば、乗員1への所定の警報等が可視表示される。
【0018】
なお、図1において、着座している乗員1の後頭部と、ヘッドレスト本体18の前面部(つまり、ヘッドレスト前部19aの最前面)との水平方向の距離Lがバックセットであり、シートバック15の上端部に支持されたヘッドレスト(H/R)18が車両の前後方向へ移動する移動量がMである。また、バックセットが適正になったときの乗員1の頭部とヘッドレスト前部19a間の距離Sが「バックセット設定値(目標値)」である。バックセットは、その値が小さいほど、後突時などに乗員の頭部の拘束性が高まるが、一方で、乗員の頭部とヘッドレストとの距離が小さいため乗員にとって煩わしいものとなる。また、バックセットが大きいほど、乗員にとって快適なものとなるが、その一方で、後突時などの乗員の頭部の拘束性が低くなる。そこで、乗員の頭部の拘束性と乗員にとっての快適性とのバランスを考慮した適正値(例えば、35mm)をバックセット設定値として予め定めておく。
【0019】
図2は、乗員保護装置11におけるリクライニング角度の検出部を含むリクライニング機構の概略構成を示す図である。乗員保護装置11における手動式のリクライニング機構(リクライナともいう)は、例えば、一般的な遊星歯車機構を利用したシートバックの角度調整機構であり、シートバック15のフレーム30側において、センターシャフト(回転軸)27に取付けられた外歯ギヤ(不図示)と、シートクッション10のフレーム40側に形成した内歯ギヤ(不図示)とを有し、図示しないカム機構により外歯ギヤと内歯ギヤとを噛合させることにより、シートバック15を所定のリクライニング角度にロックする構成になっている。
【0020】
センターシャフト27には、その中心と略一致するように渦巻き形状のスプリング25が取付けられている。このスプリング25の一端がシートクッション10側に係止され、他端がシートバック15側に係止されることで、スプリング25の弾性復元力によりシートクッション10に対してシートバック15を所定方向へ倒すように付勢力が作用する。また、センターシャフト27の軸端部には、ケース23とレバー21aとを備えたリクライニング角度検出センサ102が設けられている。ケース23は、フレーム40に固定され、ケース23のリクライナ側の軸端は、センターシャフト27の軸方向の回転と非同期にセンターシャフト27に摺動可能に支持されている。また、レバー21aは、ケース23の中心軸(図中、一点鎖線で示す)を基準にして回転できる構造になっており、レバー21aの先端側には、ブラケット24に設けたガイド孔(不図示)に貫入される棒状突起部28aが設けられている。この棒状突起部28aを介してレバー21aとフレーム30とが連結され、フレーム30の回転に引きつられてレバー21aも回転する。
【0021】
リクライニング角度検出センサ102は、上述したように鉛直方向に対するシートバック15の傾斜角度θを検出するためのセンサである。ケース23は、センターシャフト27の回転と同期せず、レバー21aの回転は、フレーム30の角度(すなわち、リクライニング角度)と同期する。ここでは、ケース23の内部に、レバー21aと同軸に回転する永久磁石(N極とS極とからなる)と、その永久磁石と所定距離、離間して対向するホール素子とが配置され、これらがリクライニング角度検出センサ(交番検知タイプ角度センサ)102を構成している。永久磁石は、レバー21aの一部を構成する回転軸の一方端に固定され、その回転軸の他方端がケース23の外部に突出して、レバー21aに接続されている。そして、フレーム30と同期してレバー21aが回転すると永久磁石も回転し、その永久磁石のN極とS極による交番磁界をホール素子が検知することによって、リクライニング角度がケース23の中心軸を基準に検出される。なお、レバー21aは、単位角度あたりの変化量が大きいので、リクライニング角度の検出精度を向上できる。
【0022】
図3は、乗員保護装置11のヘッドレスト本体の駆動機構を示す図である。ヘッドレスト本体18は、上述したように、車両前方側に配置されたヘッドレスト前部19aと、車両後方側に配置されたヘッドレスト後部19bを備えており、内部にヘッドレスト前部19aを前後方向に駆動させるための駆動機構を備えている。この駆動機構が駆動されることにより、ヘッドレスト前部19aをヘッドレスト後部19bに対して車両の前後方向へ往復移動させ、乗員1の頭部とヘッドレスト前部19aとの間の水平方向の距離(バックセット)が制御される。
【0023】
図3に示すヘッドレスト本体の駆動機構では、前後一対のベース33,34が左右一対のX状のリンク35,36で連結されている。具体的には、ベース33がヘッドレスト前部19aに結合され、他方のベース34がヘッドレスト後部19bに結合されている。リンク35は、2つのリンク部材35a,35bからなり、リンク36は、2つのリンク部材36a,36bからなる。リンク35,36それぞれのほぼ中央部がピン37,38により回動可能に連結され、リンク35,36の両端部は、ベース33,34の左右両側に一体に設けられた側部33a、33b,34a,34bにそれぞれ連結されている。
【0024】
リンク部材35a,36aそれぞれの前端部は、軸41により相互に結合されている。軸41の両端部は、ベース33の側部33a,33bそれぞれに形成された縦長のガイド孔41a,41bにスライド可能に連結され、リンク部材35a,36aの後端部は、それぞれがベース34の側部34a,34bにピン43a,43bによって回動可能に連結されている。一方、リンク部材35b,36bは、それぞれの前端部が軸44により、また、それぞれの後端部が軸45により相互に結合されている。これら前端部は、各々がベース33の側部33a,33bにピン46a,46bによって回動可能に連結されている。また、リンク部材35b,36bの後端部は、それぞれがベース34の側部34a,34bに形成された縦長のガイド孔45a,45bにスライド可能に連結されている。
【0025】
ヘッドレスト本体18の背面側にあるベース34の内側には、ヘッドレスト前部19aを前後方向へほぼ直線状に往復移動させるためのギアボックス17が設けられている。また、ギアボックス17の下部には、ヘッドレスト本体18の駆動機構の駆動源となるモータ12が配置されている。モータ12の出力軸12aは、ギアボックス17内に配置されたかさ歯車51に接続されている。ギアボックス17内にはさらに、かさ歯車51と噛み合うかさ歯車53が配され、このかさ歯車53の一方側面には、ピニオンギヤ(不図示)がかさ歯車53と同軸に接合されている。ピニオンギヤの歯面は、クランク部47を介して軸41に連結されているロッド部55の下面の一部に直線状に設けたラック55aと歯合する。
【0026】
このような構成により、モータ12の正逆回転の回転力がかさ歯車51に伝導され、このかさ歯車51の回転力がかさ歯車53に伝導され、さらに、かさ歯車53の回転力がピニオンギヤを介してラック55aに伝達される。その結果、モータ12の回転運動が直線の動きに変換され、ロッド部55が図3に示す矢印方向(斜め前後)に動く。そして、このようなロッド部55の動きが軸41の昇降動作に変換される。ここでは、モータ12の回転力が、X状の両リンク35,36をパンタグラフのように作動させるので、ベース33がベース34に対して相対的に移動する。
【0027】
なお、図3に示す駆動機構は、ヘッドレスト前部19aを移動させるための機構の一例であり、ヘッドレスト前部19aをヘッドレスト後部19bに対して車両の前後方向に移動させる機構であれば、図3に示す例に限定されない。例えば、モータの出力軸に接続されたギヤと、そのギヤに噛み合うとともに駆動機構に固定支持されたラックとを備え、そのギヤを、車両の前後方向に移動する可動部に回転可能に取り付ける。また、この可動部の車両前方の端部にヘッドレスト前部を配置し、駆動機構の他の固定部分にヘッドレスト後部を配置する。そして、モータを回転することによって、モータとギヤとがラックに沿って移動し、可動部もギヤとともに移動するので、可動部の直線運動に連動させてヘッドレスト前部を車両の前後方向に移動させることができる。
【0028】
図4は、本実施形態に係る乗員保護装置の制御系の構成を示すブロック図である。図4において、電子制御ユニットECU100は、乗員保護装置11全体の制御を司る中央制御部(CPU:Central Processing Unit)101、オペレーティングシステム(OS)等の基本プログラムやヘッドレスト制御手順のプログラム等が格納された読み取り専用メモリ(ROM)120、及びヘッドレスト制御等に用いる各種データを一時的に記憶するための随時読出し/書込みメモリ(RAM)121を備える。また、ROM120には、乗員の頭部とヘッドレストとのバックセットの適正値である「バックセット設定値」が記憶されている。
【0029】
CPU101には、不図示の入力ポートを介して、上述したリクライニング角度検出センサ102、ヘッドレスト移動量検出センサ103、及びブレーキペダル踏込み検出センサ105での検出信号が入力されるとともに、乗員1がリクライニング角度の調整を開始、あるいは停止する際に操作するリクライニング角度調整スイッチ107からの信号が入力される。さらに、ECU100は、CPU101からの制御・駆動信号を受けて、表示装置110を制御するための表示制御回路117、及びモータ12を駆動するためのモータ駆動回路115を有する。
【0030】
次に、本実施形態に係る乗員保護装置におけるヘッドレスト制御について詳細に説明する。図5は、本実施形態に係る乗員保護装置11におけるヘッドレスト制御の手順を示すフローチャートである。図5のステップS101において、CPU101は、最初にリクライニング角度調整スイッチ107のON/OFF状態を判定する。リクライニング角度調整スイッチ107がONであれば、乗員1が、シートバック15のリクライニング角度の変化と連動してヘッドレスト18を適正な位置とするヘッドレスト制御の実行を希望していると判断して、以降の処理を行う。なお、ヘッドレスト制御とは、乗員がシートバック15のリクライニング角度を変化させたとき、ヘッドレスト本体18が適切な位置となるように(つまり、バックセットが適正な値となるように)、そのリクライニング角度の変化に連動させてヘッドレスト本体18の位置調整をする制御である。このような位置調整によって、後面衝突時等において、乗員の頭部がヘッドレスト本体18で支持され、急激な後方移動がなくなって、例えば、むち打ちとなる可能性を有効に回避できる。
【0031】
CPU101は、続くステップS103において、ブレーキペダル踏込み検出センサ105からの検出信号の有無を判定する。ここで、乗員1がブレーキペダル104を踏み込むことは、それによって、自車両に対して後続車両が追突(後面衝突)する可能性があることを意味する。そこで、乗員保護装置11は、後面追突に備えて、ヘッドレスト本体18のヘッドレスト前面部19aと乗員1の後頭部との距離が適正となるように、リクライニング角度の変化に連動させてヘッドレスト本体18を適正な位置へ移動させるためのヘッドレスト制御を行う。そこで、CPU101は、上記のステップS103で、乗員1がブレーキペダル104を踏み込んだと判定した場合、ステップS105で、リクライニング角度検出センサ102からの検出信号を取り込み、その時点におけるシートバック15の傾斜角であるリクライニング角度を検出する。そして、続くステップS107において、上記のステップS105で検出されたリクライニング角度が所定の範囲内(後述する、ヘッドレスト作動領域内)にあるか否かを判定する。
【0032】
図6は、リクライニング角度とバックセットとの関係を示している。図6によれば、リクライニング角度が大きくなるにしたがって、バックセットも大きくなる関係にある。本実施形態に係る乗員保護装置11は、リクライニング角度検出センサ102で検出されたリクライニング角度が、例えば、図6において実線で示した範囲(20°〜28°の範囲)にあるとき、ヘッドレスト制御を実行して、ヘッドレスト本体18を適切な位置に移動させる。このことから、例えば、図6に示すリクライニング角度20°〜28°の範囲を、「ヘッドレスト作動領域」という。
【0033】
一方、リクライニング角度検出センサ102で検出したリクライニング角度が、例えば20°より小さい場合、その時点でのバックセットは適切なバックセットよりも小さく、それ以上のヘッドレストの位置調整ができない。また、リクライニング角度が、例えば28°より大きい場合には、乗員がバックシートを倒して休息等をしている状況が考えられ、ヘッドレストの位置を調整する必要がない場面が想定される。そのため、リクライニング角度が、例えば20°より小さい場合、及びリクライニング角度が、例えば28°より大きい場合は、ヘッドレスト作動領域外とする。
【0034】
CPU101は、リクライニング角度検出センサ102で検出したシートバック15のリクライニング角度が、ヘッドレスト作動領域内にある場合、ステップS109でヘッドレスト移動量を演算する。しかし、リクライニング角度がヘッドレスト作動領域外にある場合は、ヘッドレスト移動量を演算することなく、本ヘッドレスト制御を終了する。よって、シートバック15のリクライニング角度がヘッドレスト作動領域外にある場合には、ヘッドレスト制御の対象外として、ヘッドレスト本体18を移動しない。
【0035】
すなわち、シートバック15のリクライニング角度が、上述したヘッドレスト作動領域内にある場合、CPU101は、ステップS109において、図6を参照して、リクライニング角度検出センサ102で検出したリクライニング角度に対応するバックセット量から、予め決めたバックセット設定値を減算する。例えば、リクライニング角度検出センサ102で検出されたリクライニング角度が24°の場合、図6を参照すると、そのリクライニング角度24°に対応するバックセット量(図1に示すL)として60mmを得る。バックセットの目標値であるバックセット設定値(図1のS)は、上述したように35mmであるから、図6を参照して得たバックセット量Lよりバックセット設定値Sを差し引いて得られたバックセット量(L−S)、例えば、60−35=25mmを、ヘッドレストの移動量(図1に示すM)とする。
【0036】
次にCPU101は、ステップS111において、ヘッドレスト本体18の移動が必要か否かを判断する。例えば、ヘッドレスト移動量検出センサ103におけるヘッドレスト前部19aの移動量についての検出結果から、現在のシートバック15のリクライニング角度に対して、ヘッドレスト本体18が既に適正な位置にあると判定されれば、ヘッドレスト本体18の移動は不要であるため、本ヘッドレスト制御を終了する。しかし、現時点でヘッドレスト本体18が適正な位置に存在しない場合は、CPU101は、ステップS113において、乗員1に対してヘッドレスト本体18が移動する旨の警報を発する。
【0037】
CPU101は、上記警告として、ヘッドレスト制御が実行されることで、乗員1の頭部とヘッドレスト前部19aとの距離が適正な値となるように、ヘッドレスト本体18のヘッドレスト前部19aが、上述した全閉位置から全開位置の方向へ移動開始される旨の警報を表示装置110に表示する。これによって、乗員はヘッドレストの位置が調整されることを知る。なお、ここでの警報として、例えば、「ヘッドレストを動かします。」等の警報内容を表示装置110に可視表示する。また、音声による警報としては、例えば、「ヘッドレストを動かします。後突時にむち打ちになる可能性があります。」等を不図示のスピーカより出力する。
【0038】
CPU101は、続くステップS115でモータ12を作動する。ここでは、ステップS109で演算したヘッドレスト移動量分、ヘッドレスト前部19aを全閉位置から全開位置の方向に移動させるため、モータ12の回転方向を制御する。その結果、モータ12の回転動力がギアボックス17に伝達され、モータ12の回転運動がロッド部55の直線運動に変換されるので、ロッド部55に連結されたベース33の移動に伴い、そのベース33に結合されたヘッドレスト前部19aも移動する。そして、CPU101は、ステップS117において、ヘッドレスト移動量検出センサ103から入力されたヘッドレスト前部19aの移動量についての検出結果をもとに、ヘッドレスト前部19aが、上記ステップS109で演算したヘッドレスト移動量分、移動して、目標とする位置に到達したかどうかを判定する。
【0039】
ステップS117での判定がNO(否定)であれば、ヘッドレスト前部19aが、目標位置に到達していないため、CPU101は、ステップS115におけるモータ12の作動を継続する。しかし、ヘッドレスト前部19aが、演算されたヘッドレスト移動量だけ移動して、目標位置に到達した場合、CPU101は、モータ12の停止条件が満たされたと判定する。その結果、ヘッドレスト前部19aと、着座している乗員1の後頭部との距離は、バックセット設定値と一致する。そして、CPU101は、ステップS119で、モータ12の作動を停止し、さらに、表示装置110におけるヘッドレスト(ヘッドレスト前部19a)の作動警報をリセットして、本ヘッドレスト制御を終了する。
【0040】
以上説明したように、本実施形態に係る乗員保護装置では、シートバックのリクライニング角度をもとに、シートバック上端部に設けられたヘッドレストの移動が必要と判断された場合、ヘッドレストを所定方向に移動する旨の警報を表示するとともに、その時点におけるリクライニング角度に基づいてヘッドレスト移動量を演算し、その演算されたヘッドレスト移動量に相当する距離、ヘッドレストを移動する。これにより、乗員に対してヘッドレストが移動することを了知させることができ、また、リクライニング角度が変化しても、ヘッドレストを適正な位置に移動させて一定のバックセットが得られるようにすることで、後面衝突時等において、乗員の頭部がヘッドレストで支持され、急激な後方移動がなくなるので、後面衝突によりむち打ちとなる可能性を有効に回避できる。
【0041】
さらには、従来の乗員保護装置のように、例えば、位置検知センサ付リクライナ用モータを使用してヘッドレストを移動させる場合に比べて、乗員保護装置を安価、かつ軽量化できる。
【0042】
なお、上述した実施形態に係る乗員保護装置では、シートバック15のリクライニング角度20°〜28°の範囲におけるリクライニング角度の変化に対して、ほぼ直線状にヘッドレスト移動量を変化させているが、ヘッドレスト移動量の変化はこれに限定されない。例えば、リクライニング角度の変化に対するヘッドレスト移動量の変化が緩やかな曲線を描く特性等、ヘッドレスト移動量が非線形な変化をするようにしてもよい。
【0043】
また、上述した実施形態に係る乗員保護装置では、図6を参照して得た、リクライニング角度に対するバックセットに基づいてヘッドレスト移動量を演算し、その演算により得られたヘッドレスト移動量分、ヘッドレストを移動する制御をしているが、ヘッドレスト移動量そのものを予め設定しておいてもよい。例えば、図7に示すように、シートバックのリクライニング角度に対応したヘッドレスト移動量を予め定めておく。そして、ヘッドレスト制御の際、リクライニング角度検出センサ102で検出したリクライニング角度に対応するヘッドレスト移動量を、図7を参照して取得し、その取得したヘッドレスト移動量分、ヘッドレスト(ヘッドレスト前部19a)を移動させるようにしてもよい。ヘッドレスト移動量の演算がないことで、ヘッドレスト制御に要する時間を短縮でき、ヘッドレストの移動もリクライニング角度の変化に対して迅速に行うことができる。
【0044】
さらには、上述した実施形態では、図3に示す、ヘッドレスト本体の駆動機構によりヘッドレスト前部19aをヘッドレスト後部19bに対して車両の前後方向へ往復移動させているが、ヘッドレストの移動機構は、これに限定されない。例えば、図8に示す移動機構を用いてもよい。この移動機構は、シートバックフレームの上端部に連結されるヘッドレストフレーム200と、このヘッドレストフレームに対してシート幅方向に沿った軸線回りに回転可能に支持された回転軸204とを備えている。この回転軸204には、左右一対のブラケット206が固定され、これらのブラケット206を介してヘッドレスト本体222が取り付けられている。この回転軸204は、ヘッドレストアーム200に支持された図示しない入力軸の回転力が、図示しないギアを介して伝達されることにより軸線回りに回転されるようになっている。これにより、回転軸204に取り付けられたヘッドレスト本体222がヘッドレストフレーム、すなわちシートバックに対して前後に回動される構成になっている(図8の矢印R参照)。これにより、簡単な構成で、ヘッドレストの移動軌跡を、直線状ではなく非線形とすることができる。
【符号の説明】
【0045】
1 乗員
10 シートクッション
11 乗員保護装置
12 モータ
15 シートバック
17 ギアボックス
18,222 ヘッドレスト本体
19a ヘッドレスト前部
19b ヘッドレスト後部
27 センターシャフト
28a 棒状突起部
30,40 フレーム
100 電子制御ユニット(ECU)
102 リクライニング角度検出センサ
103 ヘッドレスト移動量検出センサ
104 ブレーキペダル
105 ブレーキペダル踏込み検出センサ
107 リクライニング角度調整スイッチ
110 表示装置
115 モータ駆動回路
117 表示制御回路
200 ヘッドレストフレーム
204 回転軸
206 ブラケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキペダルが踏み込まれたか否かを検出するブレーキペダル踏込検出手段と、
乗員が着座するシートの背もたれを構成するシートバックのリクライニング角度を検出するリクライニング角度検出手段と、
前記リクライニング角度検出手段で検出されたリクライニング角度と、乗員の頭部と前記シートバックの上端部に設けられ車両の前後方向に移動可能なヘッドレスト本体との水平方向の距離であるバックセットとの関係に基づいて現在のバックセット量を求めるバックセット算出手段と、
前記ヘッドレスト本体を車両の前後方向へ移動させるための駆動力を付与するアクチュエータと、
前記ブレーキペダル踏込検出手段によってブレーキペダルが踏み込まれたことが検出された場合であって、前記リクライニング角度検出手段で検出されたリクライニング角度が所定の範囲にある場合に、前記バックセット算出手段で求めたバックセット量と予め定めたバックセット目標値とをもとに前記ヘッドレスト本体の移動量を演算するヘッドレスト移動量演算手段と、
前記ヘッドレスト移動量演算手段で演算された移動量にしたがって、前記ヘッドレスト本体を車両の前後方向に移動させるように前記アクチュエータを制御する制御手段と、
を備える乗員保護装置。
【請求項2】
ブレーキペダルが踏み込まれたか否かを検出するブレーキペダル踏込検出手段と、
乗員が着座するシートの背もたれを構成するシートバックのリクライニング角度を検出するリクライニング角度検出手段と、
前記ヘッドレスト本体を車両の前後方向へ移動させるための駆動力を付与するアクチュエータと、
前記ブレーキペダル踏込検出手段によってブレーキペダルが踏み込まれたことが検出された場合であって、前記リクライニング角度検出手段で検出されたリクライニング角度が所定の範囲にある場合に、予めリクライニング角度に対応して定めたヘッドレスト移動量分、前記ヘッドレスト本体を車両の前後方向に移動させるように前記アクチュエータを制御する制御手段と、
を備える乗員保護装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記ヘッドレスト本体を車両の前後方向に移動する場合、該移動に先立って所定の警報を発する
請求項1又は2記載の乗員保護装置。
【請求項4】
前記ヘッドレスト本体の移動軌跡は線形又は非線形である
請求項1又は2記載の乗員保護装置。
【請求項5】
前記アクチュエータを前記ヘッドレスト本体の内部に設けた
請求項1乃至4のいずれかに記載の乗員保護装置。
【請求項6】
前記ヘッドレスト本体は、前記シートバックの上端部に支持されたヘッドレスト後部、及び前記ヘッドレスト後部に対して接離可能に設けられるとともに、前記ヘッドレスト後部に対して最も近い位置と前記ヘッドレスト後部に対して最も離れた位置との間で車両の前後方向に移動可能なヘッドレスト前部を備え、
前記制御手段は、前記ヘッドレスト前部を前記最も離れた位置と前記最も近い位置との間で移動させることにより、前記ヘッドレスト本体を車両の前後方向に移動させる
請求項1乃至5のいずれかに記載の乗員保護装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−224307(P2012−224307A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−96145(P2011−96145)
【出願日】平成23年4月22日(2011.4.22)
【出願人】(000004640)日本発條株式会社 (1,048)
【Fターム(参考)】