説明

乗員拘束装置

【課題】ダクトの非軸線方向にガスが噴出するガス発生器を用いても、このガス発生器からのガスがスムーズにバッグ内に流入する乗員拘束装置を提供する。
【解決手段】シートクッションの下側に配置されたバッグ12とガス発生器14とがダクト16によって連結されている。ガス発生器14のノズル部26にダクト16が外嵌し、該ノズル部26の側周面のガス噴出口30にダクト16の内周面が対峙している。ガス発生器14がガス噴出作動した場合、このガス発生器14からのガスは、各ガス噴出口30からノズル部26の放射方向に噴出した後、該ダクト16の内周面に当って、該ダクト16の軸線方向に向きを変えて流れるようになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両の座席の乗員を衝突時に拘束するための乗員拘束装置に関するものであり、特に前衝突時に乗員の腰部を拘束し、乗員の身体が前方及び下方に移動することを防止するよう構成された乗員拘束装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の乗員を衝突時に拘束するシステムとして、シートベルトを装着していても前衝突時に乗員がラップベルトの下側をくぐり抜けようとするサブマリン現象を防止するために、特開平10−217818号公報には、シートクッションとシートパンとの間に膨張可能なバッグを配置し、車両衝突時にこのバッグを膨張させることによりシートクッションの前部を押し上げるようにした乗員拘束装置が記載されている。
【0003】
第6図は同号公報の乗員拘束装置を示すシート前後方向の縦断面図である。シート前部において、クッションフレーム40とシートパッド42との間にエアバッグ44が配置されている。このエアバッグ44はシートの左右幅方向に延在しており、インフレータ(ガス発生器)46によって膨張可能とされている。シートパッド42の上面はトリムカバー48によって覆われており、その上に乗員が腰掛ける。
【0004】
車両衝突時にインフレータ46が作動すると、エアバッグ44が膨張し、シートパッド42の前部が押し上げられるか、又は下から突き上げられて密度が高くなることにより、乗員身体の前方移動が防止(抑制を含む)される。
【0005】
なお、同号公報ではインフレータ(ガス発生器)46はエアバッグ44の内部に配置されているが、バッグの要求耐熱性を緩和するために、ガス発生器をバッグの外部に配置することが考えられている。この場合、ガス発生器とバッグとをダクトで連結し、このダクトを通してガス発生器からのガスをバッグ内に導入する。
【特許文献1】特開平10−217818号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ダクトにガス発生器を連結する場合、このガス発生器としては、先端部にガス噴出口を有するタイプのものが好適である。一般に、この種のガス発生器にあっては、ガス噴出口は該先端部の側周面に配置されていることが多い。この場合、ガス発生器がガス噴出作動すると、ガス発生器の先端部から放射方向、即ちダクトの非軸線方向にガスが噴出することとなり、このガスがバッグ内の奥側(ダクトから最も離隔した部位)までスムーズに流入しにくい。
【0007】
本発明は、ダクトの非軸線方向にガスが噴出するガス発生器を用いても、このガス発生器からのガスがスムーズにバッグ内に流入する乗員拘束装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明(請求項1)の乗員拘束装置は、シートクッションの前部の下側に配置され、該シートクッションの前部を下側から押圧するように膨張可能なバッグと、車両緊急時に該バッグを膨張させるガス発生器と、該ガス発生器からのガスを該バッグ内に導入するダクトとを有する乗員拘束装置において、該ガス発生器からのガスが、該ガス発生器から該ダクトの非軸線方向に噴出した後、該ダクト内を該軸線方向に流れるよう構成されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明(請求項1)の乗員拘束装置においては、車両が衝突等の緊急事態に陥ると、ガス発生器がガス噴出作動し、このガス発生器からのガスがダクトを通ってバッグ内に導入され、バッグが膨張する。そして、この膨張したバッグによってシートクッションが押し上げられるか、又は下から突き上げられて密度が高くなる(即ち硬くなる)ことにより、シート着座乗員の腰部の前方移動が防止される。
【0010】
この乗員拘束装置にあっては、ダクトの非軸線方向にガスが噴出するガス発生器を用いた場合でも、このガス発生器からのガスは、該ガス発生器からダクトの非軸線方向に噴出した後、該ダクト内を該軸線方向に流れるようになる。そのため、このガス発生器からのガスは、ダクトを経由してバッグ内の奥側(ダクトから最も離隔した部位)までスムーズに流入する。これにより、バッグ全体が早期に膨張して乗員を拘束するようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0012】
第1図は実施の形態に係る乗員拘束装置を備えたシート(座席)のフレームの斜視図、第2図はこの乗員拘束装置のガス発生器、ダクト及びバッグの分解斜視図、第3図はこのダクトとガス発生器との連結部分の断面図である。
【0013】
自動車のシートを構成するフレームは、ベースフレーム1と、該ベースフレーム1に対し支軸2及びリクライニングデバイス(図示略)を介して回動可能に連結されたバックフレーム4とからなる。該バックフレーム4の上部にヘッドレスト6が取り付けられる。該ベースフレーム1は、左右のサイドフレーム1a,1bを有しており、これらのサイドフレーム1a,1bの前部同士の間にシートパン8が架設されている。
【0014】
図示はしないが、ベースフレーム1及びバックフレーム4にウレタン等よりなるシートクッション及びシートバックが装着されている。シートパン8は、このシートクッションの前部の下側に配置されている。なお、第1図の符号1dは、該シートクッションを支承するスプリングを示している。
【0015】
乗員拘束装置10は、このシートパン8の上側(シートクッションの前部の下側)に配置された膨張可能なバッグ12と、該バッグ12を膨張させるためのガス発生器14と、該ガス発生器14からのガスをバッグ12内に導入するためのダクト16とを有している。
【0016】
該バッグ12は、シートパン8の左右幅方向(車両幅方向)に延在しており、その左右両端部がそれぞれボルト18によって該シートパン8の上面に留め付けられている。第2図の符号12aは、バッグ12の左右両端部にそれぞれ設けられたボルト挿通孔を示している。各ボルト18は、この挿通孔12aを通してシートパン8に螺着されている。
【0017】
第2図に示すように、このバッグ12の一端側にダクト受け入れ口20が設けられている。このダクト受け入れ口20にダクト16の一端が差し込まれている。該ダクト受け入れ口20は、バンド22によってダクト16に締め付けられている。
【0018】
ガス発生器14は、第2図に示すように、ガス発生剤を収容した円柱形の本体部24と、該本体部24の一端(先端)側から突設された管状のノズル部(ガス噴出部)26と、該本体部24の他端(後端)側に設けられたイニシエータ(ガス発生剤点火装置)28とを有している。符号28aは、該イニシエータ28への通電用のハーネスを示している。
【0019】
第3図の通り、ノズル部26は先端面が閉鎖されており、その先端側の側周面に、周方向に間隔をおいて複数個のガス噴出口30が設けられている。図示の通り、このノズル部26は、ダクト16の他端側の内径よりも小径となっている。このノズル部26の基端側には、該ノズル部26の軸線方向に間隔をおいて、1対のダクト連結用フランジ部32a,32b(第2図においては、これらを合わせて符号32で示している。)が周設されている。
【0020】
このノズル部26にダクト16の他端側が外嵌し、該ダクト16の内周面が、このノズル部26の側周面の各ガス噴出口30に対峙している。
【0021】
このダクト16の他端は、前記フランジ部32a,32bに結合されている。この結合に際しては、ダクト16の該他端をノズル部26の基端付近(フランジ部32a,32bよりも基端側)まで外嵌させた後、該ダクト16の端部をカシメあるいは絞り変形させて各フランジ部32a,32bの外周面に密着させる。この際、両フランジ部32a,32b同士の間にもダクト16の途中部分を入り込ませる。これにより、該フランジ部32a,32bにダクト16の他端が結合される。
【0022】
なお、第1図の通り、このガス発生器14は、軸線方向をシートパン8の左右幅方向として該シートパン8上に設置されている。
【0023】
このように構成された乗員拘束装置10を備えた車両が衝突等の緊急事態に陥ると、ガス発生器14がガス噴出作動し、このガス発生器14からのガスがダクト16を通ってバッグ12内に導入され、バッグ12が膨張する。そして、この膨張したバッグ12によってシートクッションが押し上げられるか、又は下から突き上げられて密度が高くなる(即ち硬くなる)ことにより、シート着座乗員の腰部の前方移動が防止される。
【0024】
この乗員拘束装置10にあっては、ダクト16がガス発生器14のノズル部26に外嵌し、このダクト16の内周面が該ノズル部26の側周面のガス噴出口30に対峙している。そのため、ガス発生器14がガス噴出作動した場合、このガス発生器14からのガスは、各ガス噴出口30からノズル部26の放射方向に噴出した後、ダクト16の内周面に当って、該ダクト16の軸線方向に向きを変えて流れるようになる。
【0025】
これにより、ガス発生器14からのガスは、ダクト16を経由してバッグ12内の奥側(ダクト16から最も離隔した部位)にいたるまでスムーズに流入する。この結果、早期にバッグ12全体が膨張して乗員を拘束するようになる。
【0026】
上記の実施の形態では、ガス発生器14のノズル部26の基端側にダクト連結用フランジ部32(32a,32b)を設け、このフランジ部32に対しダクト16をカシメあるいは絞り変形させて固着することにより、該ダクト16とガス発生器14とを連結しているが、ダクトとガス発生器との連結構造はこれ以外でもよい。
【0027】
第4図はダクトとガス発生器との別の連結構造を示す断面図である。
【0028】
この実施の形態では、ガス発生器14のノズル部26の基端側に、ダクト16の内径と略等径の大径部34が形成され、この大径部34の外周面に雄ねじ34aが周設されている。また、該ダクト16の端部の内周面には、この雄ねじ34aに螺合する雌ねじ16aが設けられている。
【0029】
この実施の形態では、該ノズル部26をダクト16に差し込み、雄ねじ34aを雌ねじ16aにねじ込むことにより、ガス発生器14とダクト16とが連結される。
【0030】
この実施の形態のその他の構成は、第1〜3図の実施の形態と同様となっており、第4図において第1〜3図と同一の符号は同一の部分を示している。
【0031】
第5図は、ダクトとガス発生器とのさらに別の連結構造を示す断面図である。
【0032】
この実施の形態では、ガス発生器14の先端側に、ノズル部26を取り囲むヘッドキャップ36が装着され、このヘッドキャップ36にダクト16が接続されている。
【0033】
この実施の形態でも、ノズル部26の基端側には、該ヘッドキャップ36の後端開口の内径と略等径の大径部34が形成され、この大径部34の側周面に雄ねじ部34aが周設されている。また、ヘッドキャップ36の後端開口の内周面には、この雄ねじ34aに螺合する雌ねじ36aが設けられている。このヘッドキャップ36をノズル部26に被せ、雌ねじ36aに雄ねじ34aをねじ込むことにより、ヘッドキャップ36がガス発生器14の先端側に取り付けられている。
【0034】
このヘッドキャップ36の先端面には開口36bが設けられており、この開口36bの周縁は内向きの鍔部36tとなっている。この開口36bにダクト16Bが挿通されている。ダクト16Bの端部外周縁にはフランジ部16bが周設されており、このフランジ部16bがヘッドキャップ36の内側から該鍔部36tに重ね合わされ、溶接等により固着されている。
【0035】
この実施の形態のその他の構成は、第1〜3図の実施の形態と同様である。
【0036】
この実施の形態では、ガス発生器14がガス噴出作動すると、このガス発生器14からのガスは、まずヘッドキャップ36内に噴出し、その後、該ヘッドキャップ内を経由してダクト16B内に流入する。これにより、この実施の形態にあっても、ガス発生器14からのガスは、ダクト16B内を該ダクト16Bの軸線方向に流れるようになり、該ダクト16Bを経由してバッグ12内の奥側までスムーズにガスが流入する。
【0037】
第7図(a)は異なる実施の形態に係るガス発生器とダクトとの連結構造を示す長手方向の断面図であり、同(b)は同(a)のB−B線に沿う断面図である。
【0038】
このガス発生器14Aは、前記ガス発生器14と同様に略円柱形の本体部24Aと、該本体部24Aの先端面から突設された円筒形のノズル部26Aとを備えている。このノズル部26Aの先端面は封じられ、側周面に複数個のガス噴出口30Aが設けられている。ノズル部26Aの先端面から雄ねじ軸棒38が突設されている。
【0039】
このガス発生器14Aとダクト16とがアダプタ50を介して連結されている。このアダプタ50は、円筒部52と、該円筒部52内の軸心線方向の中間付近に設けられた、板面を径方向とした隔壁部54と、該隔壁部54の中央に設けられた中央孔56と、該隔壁部54の該中央孔56の周囲に設けられた複数個のガス通過用開口58とを有する。
【0040】
このアダプタ50の中央孔56に雄ねじ軸棒38を挿入するようにして、円筒部52の基端側をガス発生器14Aの本体部24AにOリング等のパッキン62を介して外嵌させ、雄ねじ軸棒38にナット60を締め込むことにより、アダプタ50とガス発生器14Aとが連結される。円筒部52の先端側の内周面に雌ねじ50aが設けられており、この雌ねじ50aにダクト16の雄ねじ16aを螺じ込むことにより、アダプタ50を介してダクト16がガス発生器14Aと連結される。
【0041】
なお、第7図ではパッキン62を円筒部52の内周面とガス発生器14Aの本体部24Aの外周面との間に介在させているが、第8図のアダプタ50Aのように、円筒部52の内周面に鍔部64を周設し、この鍔部64とガス発生器14Aの本体部24Aの先端面との間にパッキン66を介在させてもよい。
【0042】
第8図のその他の構成は第7図(a)と同一であり、同一符号は同一部分を示している。
【0043】
第7図及び第8図では、ダクト16を雌ねじ16aを介して円筒部52に連結しているが、前記第5図のダクト16Bと同様のフランジ部16bを該ダクト16の先端に設けると共に、円筒部52の先端に前記鍔部16tと同様の鍔部を設け、該フランジ部と鍔部とを係合させることによりアダプタとダクトとを連結してもよい。
【0044】
上記の各実施の形態はいずれも本発明の一例を示すものであり、本発明は上記の各実施の形態に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】実施の形態に係る乗員拘束装置を備えたシートフレームの斜視図である。
【図2】図1の乗員拘束装置のバッグ、ダクト及びガス発生器の分解斜視図である。
【図3】図1の乗員拘束装置のダクトとガス発生器との連結部分のダクトである。
【図4】別の実施の形態に係る乗員拘束装置のダクトとガス発生器との連結部分の断面図である。
【図5】さらに別の実施の形態に係る乗員拘束装置のダクトとガス発生器との連結部分の断面図である。
【図6】従来例に係る乗員拘束装置の断面図である。
【図7】異なる実施の形態におけるガス発生器とダクトとの連結部分の断面図である。
【図8】さらに異なる実施の形態におけるガス発生器とダクトとの連結部分の断面図である。
【符号の説明】
【0046】
1 ベースフレーム
1a,1b サイドフレーム
4 バックフレーム
6 ヘッドレスト
8 シートパン
10 乗員拘束装置
12 バッグ
14 ガス発生器
16,16B ダクト
16a 雌ねじ
26 ノズル部
30,30A ガス噴出口
32(32a,32b) フランジ部
34 大径部
34a 雄ねじ
36 ヘッドキャップ
50,50A アダプタ
52 円筒部
54 隔壁部
56 中央孔
58 開口
62,66 パッキン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートクッションの前部の下側に配置され、該シートクッションの前部を下側から押圧するように膨張可能なバッグと、
車両緊急時に該バッグを膨張させるガス発生器と、
該ガス発生器からのガスを該バッグ内に導入するダクトと
を有する乗員拘束装置において、
該ガス発生器からのガスが、該ガス発生器から該ダクトの非軸線方向に噴出した後、該ダクト内を該軸線方向に流れるよう構成されていることを特徴とする乗員拘束装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−199271(P2006−199271A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−310159(P2005−310159)
【出願日】平成17年10月25日(2005.10.25)
【出願人】(000108591)TKJ株式会社 (111)
【Fターム(参考)】