説明

乳酸菌発酵乳エキス及びこれを含有する発酵乳製品

【課題】保存安定性に優れ、保存後であっても沈殿を生じない乳酸菌発酵乳エキスを提供すること。
【解決手段】乳を主成分とする培地に乳酸菌及びラクターゼを作用させ、得られた発酵物から上清を分取し、該上清にグリセリンを添加することにより得られる乳酸菌発酵乳エキス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物性安定性に優れ、発酵乳製品の保存に伴い生じる酸味及び/又は渋味に対して優れたマスキング効果を有する乳酸菌発酵乳エキス及びこれを含有する発酵乳製品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、乳酸菌等の有用微生物がもつ様々な生理活性作用に関する研究がなされており、これらの微生物が腸内フローラを改善し、便通改善や免疫力の強化等に効果があることが報告されている。消費者の健康志向の高まりに伴って、これら有用微生物を利用した食品への関心も高まってきている。発酵乳飲料やヨーグルト等の発酵乳製品は、これら有用微生物を手軽に摂取することができ、消費者の健康志向を満足させるものとして、数多くの商品が販売されている。発酵乳製品の摂取により、上記のような有用な作用効果を得るためには、有用微生物を生きた状態でより多く摂取することが重要であるため、発酵乳製品中における微生物の生残性を高める方法等が検討されている。
【0003】
ところが、微生物を高菌数で含有する発酵乳製品、例えば、乳酸菌等を使用して製造する発酵乳飲料等は、製品保存中に、乳酸菌が乳酸や酢酸といった有機酸等の多種多様な物質を産生するため、酸味や渋味といった不快な風味が生じるという品質上の問題があった。
【0004】
そこで、このような酸味及び/又は渋味を抑制するために、高甘味度甘味料であるアスパルテームやスクラロースを添加し、酸味や渋味をマスキングする方法(特許文献1及び2)が提案されているが、これらの高甘味度甘味料は、甘味の質に特有のくせがあり、発酵乳製品の風味が低下する場合があるため、好適に使用できるものではなかった。
【0005】
一方で、従来、乳製品を微生物で発酵することにより得られる発酵物が、乳製品の風味改善効果を有することは多数報告されている。例えば、乳をトルロプシス属及びペニシリウム・ロケフォルチの酵母を用いて発酵することにより得られるチーズフレーバー(特許文献3)、生クリーム又はバターに、脱脂粉乳及び水を加えて、乳脂肪が30〜40%、タンパク質が2〜4%、食塩が0.2〜1.0%となるように調製した基質にリパーゼ、プロテアーゼ並びに乳酸菌を作用させることにより得られるミルキー風味及びこく味を有する発酵乳フレーバー(特許文献4)、乳原料溶液に乳酸菌を接種して静置培養し、上記培養液に孔径1μm〜100μmの多孔質部材を介して酸素ガス、空気またはこれらの混合ガスを導入し、培養液を好気条件に維持することでジアセチルを生成せしめることにより得られる発酵フレーバー(特許文献5)、乳のリパーゼ処理及び/又は乳酸菌による発酵処理により得られる処理物を有効成分として含有することを特徴とする低脂肪乳、カルシウム強化乳又は低脂肪ヨーグルトの粉臭改善剤、及び高甘味度甘味料を含有する乳飲料又は発酵乳の甘味改善剤(特許文献6)等が報告されている。
【0006】
このように、乳を主成分とする培地を微生物で発酵することにより得られる発酵物は、乳製品の風味の改善に有用な食品素材であるものの、保存中のマスキング剤として利用できるものではなく、上記例示の発酵物は保存安定性が悪く、保存中に沈殿を生じるため、この沈殿がカビ等の微生物の増殖により生じたものか否かの判別ができないといった物性上の問題を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公平4−60626号公報
【特許文献2】特開平10−243776号公報
【特許文献3】特開昭61−135541号公報
【特許文献4】特開平3−127962号公報
【特許文献5】特開平4−169166号公報
【特許文献6】特開2003−250482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
よって、本発明の課題は、保存安定性に優れ、保存後であっても沈殿を生じない乳酸菌発酵乳エキスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、まず、乳を主成分とする培地に乳酸菌を作用させることにより得られる発酵物から分取した乳酸菌培養上清に優れた酸味及び/又は渋味のマスキング効果があることを確認した。
【0010】
ところが、上記の乳酸菌培養上清には、保存中に白濁・沈殿を生じるという物性上の問題があったため、この問題を解決するために鋭意検討したところ、培地に乳酸菌及びラクターゼを作用させることにより得られる発酵物から上清を分取し、該上清にグリセリンを添加することにより、乳酸菌培養上清が有する酸味及び/又は渋味のマスキング効果を損なうことなく、乳酸菌培養上清における白濁・沈殿の発生が抑制されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の要旨は、以下の(1)〜(7)である。
(1)乳を主成分とする培地に乳酸菌及びラクターゼを作用させ、得られた発酵物から上
清を分取し、該上清にグリセリンを添加することにより得られる乳酸菌発酵乳エキ
ス。
(2)グリセリンの添加量が30〜40質量%である(1)に記載の乳酸菌発酵乳エキス

(3)培地中の脂肪含量が1.2〜4.4質量%、かつタンパク質含量が3.2〜4.6質
量%である(1)又は(2)に記載の乳酸菌発酵乳エキス。
(4)(1)〜(3)のいずれかに記載の乳酸菌発酵乳エキスを含有する発酵乳製品。
(5)乳を主成分とする培地に乳酸菌及びラクターゼを作用させ、得られた発酵物から上
清を分取し、該上清にグリセリンを添加することを特徴とする乳酸菌発酵乳エキス
の製造方法。
(6)グリセリンの添加量が30〜40質量%であることを特徴とする(5)に記載の乳
酸菌発酵乳エキスの製造方法。
(7)培地中の脂肪含量が1.2〜4.4質量%、かつタンパク質含量が3.2〜4.6質量
%であることを特徴とする(5)又は(6)に記載の乳酸菌発酵乳エキスの製造方
法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の乳酸菌発酵乳エキスは、物性安定性に優れ、保存後においても白濁・沈殿を生じないものである。さらに詳細にいえば、発酵乳製品の保存に伴い生じる酸味及び/又は渋味に対して、優れたマスキング効果を有するものである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明を実施の形態に即して詳細に説明する。
本発明の乳酸菌発酵乳エキスは、乳を主成分とする培地に乳酸菌及びラクターゼを作用させることにより得られる発酵物から上清を分取し、該上清にグリセリンを添加することにより得られるものである。
【0014】
ここで、培地の主成分である乳としては、乳そのもの或いは乳を原料として製造される乳製品であれば、特に限定されるものではなく、例えば、牛乳、山羊乳、羊乳、全脂粉乳、脱脂粉乳、生クリーム、コンパウンドクリーム、ホエータンパク濃縮物(WPC)、ホエータンパク分離物(WPI)、カゼイン、α−ラクトグロブリン、β−ラクトグロブリン、若しくはトータルミルクプロテイン(TMP)等を挙げることができる。特に後述する優れた酸味及び/又は渋味のマスキング効果を得るためには培地に脱脂粉乳、生クリーム及びTMPを組み合わせて用いることが好ましい。また、培地中の脂肪含量及びタンパク質含量は特に制限されるものではないが、酸味及び/又は渋味のマスキング効果の点から、培地中の脂肪含量は1.2〜4.4質量%(以下、単に「%」という)、かつタンパク質含量は3.2〜4.6%であることが好ましく、特に脂肪含量は2.2〜4.4%、かつタンパク質含量は3.3〜4.6%であることがより好ましい。なお、脂肪含量はレーゼ・ゴットリーブ法により、タンパク質含量はケルダール法により、それぞれ測定することができる。
【0015】
上記の培地に乳酸菌及びラクターゼを作用させることにより、発酵物を得ることができる。ここで、ラクターゼを作用させる目的は、白濁及び沈殿の主成分である乳糖を分解することである。ラクターゼと乳酸菌を添加又は接種する順序は、特に制限されるものではなく、例えば、次の方法を挙げることができる。
(1)培地に乳酸菌とラクターゼを同時に接種又は添加する方法。
(2)培地にラクターゼを添加し、ある程度乳糖が分解されてから乳酸菌を接種する方法

(3)培地に乳酸菌を接種し、ある程度培養してからラクターゼを添加する方法。
【0016】
ここで用いられるラクターゼとしては、乳糖を分解する性質を有する酵素であれば特に限定されるものではなく、市販のもの、或いは微生物から精製されたもののどちらでも好適に使用することができる。また、微生物由来の酵素を用いる場合は、その由来となる微生物の種類も特に限定されるものではなく、例えば、バチルス・サーキュランス、クリベロマイセス・ラクチス、クリベロマイセス・フラギリス、アスペルギルス・ニガー及びアスペルギルス・ オリゼー由来のラクターゼを挙げることができるが、酸味及び/又は渋味のマスキング効果の点から、アスペルギルス・オリゼー由来のラクターゼを用いることが好ましい。
【0017】
培地にラクターゼを作用させる条件は特に制限されるものではなく、例えば、上記(1)の方法の場合は、酵素濃度0.5〜5.0units/ml、温度30〜40℃、反応時間12〜48時間を挙げることができ、上記(2)の方法の場合は、酵素濃度5.0〜10.0units/ml、温度40〜60℃、反応時間5〜20時間を挙げることができ、上記(3)の方法の場合は、酵素濃度2.5〜5.0units/ml、温度40〜60℃、反応時間5〜20時間を挙げることができる。また、ラクターゼは培地中の乳糖が6mg/ml未満となるまで作用させることが好ましい。なお、1unitsとは、o-Nitrophenyl-β-D-Galactopyranoside(ONPG)を基質として、酵素の至適pH・温度において、1分間に1μmolのo-nitrophenolを生成することができる酵素量のことをいう。
【0018】
また、ここで用いられる乳酸菌は、乳酸菌飲料等に通常使用されているものであれば特に限定されるものではなく、例えば、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・マリ、ラクトバチルス・アシドフィルス、ラクトバチルス・デルブルッキィ サブスピーシーズ ブルガリカス、ラクトバチルス・ヘルベティカス等のラクトバチルス属細菌;ストレプトコッカス・サーモフィルス等のストレプトコッカス属細菌;ラクトコッカス・ラクチス等のラクトコッカス属細菌;エンテロコッカス・フェカーリス等のエンテロコッカス属細菌、ビフィドバクテリウム・ブレーベ、ビフィドバクテリウム・ロンガム、ビフィドバクテリウム・インファンティス、ビフィドバクテリウム・アドレスセンティス、ビフィドバクテリウム・ビフィダム、ビフィドバクテリウム・カテヌラータム、ビフィドバクテリウム・シュードカテヌラータム、ビフィドバクテリウム・アングラータム、ビフィドバクテリウム・ラクチス、ビフィドバクテリウム・アニマリス等のビフィドバクテリウム属細菌などを挙げることができるが、後述する優れた酸味及び/又は渋味のマスキング効果を得るためには、これらの乳酸菌の中でも、ラクトバチルス・デルブルッキィ サブスピーシーズ ブルガリカス及びストレプトコッカス・サーモフィルスを用いることが好ましい。
【0019】
培地に上記乳酸菌を接種し、培養する条件や方法としては、特に限定されず、例えば、培地中の乳酸菌数が1.0×10〜1.0×10cfu/mlとなるように乳酸菌を接種し、これを30℃〜40℃でpHが3.0〜5.0となるまで培養すればよく、その方法も、静置培養、攪拌培養、振とう培養等から適宜選択して培養に用いる乳酸菌に適した方法を用いればよい。また、培養後は、これ以上の発酵による目的外の風味の発現を抑え、さらに、次工程以降での安全衛生面の確保のために加熱殺菌しておくことが好ましい。
【0020】
上記のようにして得られた発酵物に、遠心分離等の処理を施し上清を分取することにより、培養上清を得ることができる。ここで用いられるろ過や遠心分離等の方法としては、特に制限されるものではなく、例えば、デカンターや遠心分離機を用いる方法を挙げることができる。また、本発明の培養上清は、濃縮処理を施すこともできる。その濃縮方法は特に限定されるものではなく、例えば、薄膜減圧蒸留装置を用いる方法を挙げることができ、その条件も特に制限されるものではない。
【0021】
培養上清は、さらにエタノール沈殿処理を施すこともできる。その方法は特に限定されるものではなく、例えば、エタノールを培養上清に対し同重量添加、攪拌し、0℃以下まで冷却した後、多段ろ過装置を用いて清澄液を回収する方法を挙げることができる。
【0022】
このようにして得られた培養上清にグリセリンを添加することにより、本発明の乳酸菌発酵乳エキスを得ることができる。ここで用いられるグリセリンとしてはグリセリンを含むもの、或いはグリセリン骨格を有する物質を含むものであれば特に制限されるものではなく、例えば精製されたグリセリンを含むものや、グリセリン脂肪酸エステル等のエステル類を含むものを挙げることができる。グリセリンの添加量は特に制限されるものではないが、白濁・沈殿の抑制の点から、乳酸菌発酵乳エキスに対するグリセリンの割合が30〜40%となるように添加することが好ましい。
【0023】
上記の如くして得られた乳酸菌発酵乳エキスは、保存安定性に優れ、保存後においても白濁及び沈殿を生じないものである。更に言えば、発酵乳製品の保存に伴い生じる酸味及び/又は渋味をマスキングする効果を有するものである。本発明の乳酸菌発酵乳エキスの発酵乳製品への添加量は、特に制限されるものではないが、酸味及び/又は渋味のマスキング効果の点から、0.03〜0.3%であることが好ましい。
【0024】
本発明の乳酸菌発酵乳エキスを発酵乳製品に配合する時期及びその方法は特に限定されず、発酵乳製品の製造時の任意段階で配合すればよい。配合は、乳酸菌発酵乳エキスを直接発酵乳製品に添加して行ってもよく、本発明の乳酸菌発酵乳エキスを含む香料製剤を調製して、該香料製剤を発酵乳製品に添加して行ってもよい。本発明の乳酸菌発酵乳エキスを含む香料製剤に添加することができる食品用香料成分としては、例えば、アルデヒド類、脂肪酸類、脂肪酸高級アルコール類、フェノール類等を挙げることができる。
【0025】
ここで、本発明の乳酸菌発酵乳エキスが配合される発酵乳製品とは、乳又は乳製品を原料とし、これを乳酸菌等により発酵させることにより得られるものであって、発酵乳製品中の微生物が死滅していないものをいい、そのようなものであれば特に制限されるものではない。例えば(1)脱脂粉乳等の粉乳類を水で溶解した後、乳酸菌等を用いて発酵処理して得られる発酵乳飲料;(2)前記発酵乳飲料にゼラチン、寒天等を配合したハードタイプのヨーグルト等を挙げることができる。
【0026】
本発明の乳酸菌発酵乳エキスが配合される発酵乳製品を製造するために用いられる微生物は、通常、食品に用いられるものであれば、特に制限されるものではなく、また、上記乳酸菌発酵乳エキスを製造する時に用いたのと同じ微生物であってもなくてもよい。このような微生物としては、例えば、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・マリ、ラクトバチルス・アシドフィルス、ラクトバチルス・デルブルッキィ サブスピーシーズ ブルガリカス、ラクトバチルス・ヘルベティカス等のラクトバチルス属細菌;ストレプトコッカス・サーモフィルス等のストレプトコッカス属細菌;ラクトコッカス・ラクチス サブスピーシーズ クレモリス等のラクトコッカス属細菌;エンテロコッカス・フェカーリス等のエンテロコッカス属細菌;ビフィドバクテリウム・ブレーベ、ビフィドバクテリウム・ビフィダム、ビフィドバクテリウム・ロンガム等のビフィドバクテリウム属細菌などを挙げることができ、これらは、1種単独で用いることもできるし、2種以上を組み合わせて用いることもできる。これらの微生物の中でも、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・アシドフィルス、ラクトバチルス・デルブルッキィ サブスピーシーズ ブルガリカスまたはストレプトコッカス・サーモフィルスを用いて発酵した発酵乳製品は酸味及び/又は渋味が強いため、本発明の乳酸菌発酵乳エキスは、前記微生物を用いて発酵した発酵乳製品に対して好適に使用することができる。また、本発明の乳酸菌発酵乳エキスが配合される発酵乳製品の製造直後の生菌数は、特に制限されないが、本発明の乳酸菌発酵乳エキスは、強い酸味及び/又は渋味であっても有効にマスキングできるという点から、製造直後の生菌数が1×10cfu/ml以上、特に1×10cfu/ml以上の発酵乳製品に対して特に好適に使用することができる。
【0027】
さらに、本発明の乳酸菌発酵乳エキスは、ストロベリー果汁、ブルーベリー果汁、ラズベリー果汁及びクランベリー果汁等のベリー系果汁が配合された発酵乳製品に対して、好適に使用することができる。また、発酵乳製品に配合されるベリー系果汁の量は、特に限定されるものではない。
【0028】
これらベリー系果汁の配合時期、配合方法も特に限定されず、発酵乳製品製造時の任意の段階、すなわち発酵前、発酵途中、発酵後のいずれかの段階で添加すればよい。配合は、ベリー系果汁を直接発酵乳製品に添加して行ってもよく、別途果汁を含むシロップ液として、発酵後の発酵乳製品に添加して行ってもよい。
【0029】
本発明の乳酸菌発酵乳エキスは、通常用いられる各種食品素材を配合する発酵乳製品に対しても使用することができる。ここで用いられる食品素材としては、例えば糖質、甘味料、増粘剤、乳化剤、ビタミン類、フレーバー等を挙げることができ、より具体的には、ショ糖、グルコース、フルクトース、パラチノース、キシロース、麦芽糖等の糖質;ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、パラチニット、還元水飴等の糖アルコール;スクラロース、アスパルテーム、ソーマチン、アセスルファムK、ステビア等の高甘味度甘味料;寒天、ゼラチン、カラギーナン、グアーガム、キサンタンガム、ペクチン、ローカストビーンガム、ジェランガム等の増粘(安定)剤;ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、レシチン等の乳化剤;ビタミンA、ビタミンB類、ビタミンC、ビタミンE等のビタミン類;ストロベリーフレーバー、ブルーベリーフレーバー、グレープフレーバー、マスカットフレーバーなどのフレーバーを挙げることができる。
【0030】
また、本発明の乳酸菌発酵乳エキスは、豊かな発酵風味を有するものであるので、発酵乳製品に限らず、様々食品に対して使用することができる。例えば、牛乳、ミルクセーキ等の乳飲料、ドーナツ、スポンジケーキ、マドレーヌ、蒸しパン、クリームパン、ホットケーキ、シュークリーム等の菓子類、アイスクリーム、プリン、ババロア、フルーツゼリー、コーヒーゼリー、杏仁豆腐等のデザート類を挙げることができる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例を挙げて、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに何ら制約されるものではない。
【0032】
試 験 例 1
乳酸菌培養上清の製造方法についての検討:
乳酸菌培養上清の製造工程におけるラクターゼ処理及びグリセリンの添加の有無が、乳酸菌培養上清の物性安定性に与える影響について検討するため以下の試験を行った。なお、サンプルの製造には、グリセリン(食添用グリセリン:阪本薬品工業(株))及びエタノール(発酵アルコール95度1級:合同酒精(株))を用い、培養上清として、ラクターゼ処理をした培養上清(ラクターゼ処理+)とラクターゼ処理をしない培養上清(ラクターゼ処理−)を用いた。
【0033】
(1)乳酸菌培養上清(ラクターゼ処理+)の製造方法
脱脂粉乳(よつ葉乳業(株))80g、脂肪率47%の生クリーム(よつ葉乳業(株))44.7g、乳タンパク質(Nutrilac YO-8113:アーラフーズイングレディエンツジャパン(株))10gを水に溶解し、全量を1000gに調整した培地を調製した(培地中の脂肪含量2.2%およびタンパク質含量3.7%)。この培地を100℃で30分間殺菌後、ラクターゼ(ラクターゼY−AO(アスペルギルス・オリゼー由来):ヤクルト薬品工業(株))を0.02%(2.0units/ml)配合し、更にストレプトコッカス・サーモフィルスとラクトバチルス・デルブルッキィ サブスピーシーズ.ブルガリカスの混合スターター(フリーズドライDVSYC−350クリスチャン・ハンセン社)を0.005%(培地中の乳酸菌数が6.3×10cfu/mlとなるように)接種し、37℃で24時間培養することにより、発酵物を得た。
【0034】
次に、上記で得られた発酵物を90℃まで加熱した後、10℃以下まで冷却した。その後、遠心分離機により13200g×3分間の条件で遠心分離し、清澄液を回収した。その清澄液を薄膜減圧蒸留装置によりBrix50±1まで濃縮し、濃縮液を回収した。該濃縮液に対し、同重量のエタノール(発酵アルコール95度1級:合同酒精(株))を添加し、0℃以下まで冷却した後、多段ろ過装置を用いて、ろ過清澄液を回収し、乳酸菌培養上清を得た。
【0035】
(2)乳酸菌培養上清(ラクターゼ処理−)の製造方法
前記した乳酸菌培養上清(ラクターゼ処理+)の製造方法において、培地にラクターゼを添加する工程のみを省略した製造方法により、乳酸菌培養上清(ラクターゼ処理−)を得た。
【0036】
(3)サンプル1〜4の製造方法
乳酸菌培養上清(ラクターゼ処理+)、グリセリン、エタノール及び水を混合したものをサンプル1;乳酸菌培養上清(ラクターゼ処理+)、エタノール及び水を混合したものをサンプル2;乳酸菌培養上清(ラクターゼ処理−)、グリセリン、エタノール及び水を混合したものをサンプル3;乳酸菌培養上清(ラクターゼ処理−)、エタノール及び水を混合したものをサンプル4とした。なお、それぞれの配合割合は表1に示した。
【0037】
上記の方法により製造したサンプル1〜4を10℃10日間保存し、白濁・沈殿の有無を下記評価基準に基づき、目視により判定した。その結果も併せて表1に示した。
【0038】
<白濁・沈殿の有無の評価基準>
(評価) (内容)
+ : 白濁・沈殿がある
− : 白濁・沈殿がない
【0039】
【表1】

【0040】
表1から、ラクターゼ処理とグリセリン添加の両方の工程を経て製造されたサンプル1は、保存後においても白濁・沈殿を生じず、優れた物性安定性を有するものであることが確認できた。一方、ラクターゼ処理又はグリセリン添加のどちらか一方を行わず製造されたサンプル2および3と、どちらも行わず製造されたサンプル4は、保存後に白濁・沈殿を生じ、物性安定性が悪いものであった。
【0041】
実 施 例 1
乳酸菌発酵乳エキスの製造とマスキング効果の検討(1):
(1)乳酸菌発酵乳エキスの製造
脱脂粉乳(よつ葉乳業(株))80g、脂肪率47%の生クリーム(よつ葉乳業(株))44.7g、乳タンパク質(Nutrilac YO-8113:アーラフーズイングレディエンツジャパン(株))10gを水に溶解し、全量を1000gに調整した培地を調製した(培地中の脂肪含量2.2%およびタンパク質含量3.7%)。この培地を100℃で30分間殺菌後、ラクターゼ(ラクターゼY−AO(アスペルギルス・オリゼー由来):ヤクルト薬品工業(株))を0.02%(2.0units/ml)配合し、更に、ストレプトコッカス・サーモフィルスとラクトバチルス・デルブルッキィ サブスピーシーズ.ブルガリカスの混合スターター(フリーズドライDVSYC−350クリスチャン・ハンセン社)を0.005%(培地中の乳酸菌数が6.3×10cfu/mlとなるように)接種し、37℃で24時間培養することにより、発酵物を得た。
【0042】
次に、上記で得られた発酵物を90℃まで加熱し、10℃以下まで冷却した。その後、遠心分離機により13200g×3分間の条件で遠心分離し、清澄液を回収した。その清澄液を薄膜減圧蒸留装置によりBrix50±1まで濃縮し、濃縮液を回収した。該濃縮液に対し、同重量のエタノール(発酵アルコール95度1級:合同酒精(株))を添加し、0℃以下まで冷却した後、多段ろ過装置を用いて、ろ過清澄液を回収し、乳酸菌培養上清を得た。
【0043】
前記方法により得られた乳酸菌培養上清50gとグリセリン(食添用グリセリン:花王(株))30g、エタノール(発酵アルコール95度1級:合同酒精(株))10g、水10gを混合し、乳酸菌発酵乳エキス1を得た。また、乳酸菌培養上清50g、グリセリン40g、エタノール10gを混合し、乳酸菌発酵乳エキス2を得た。
【0044】
上記で得られた乳酸菌発酵乳エキス1および2をそれぞれ10℃で10日間保存し、白濁及び沈殿の有無を試験例1と同様の評価基準で評価した。その結果を表2に示した。
【0045】
【表2】

【0046】
表2から、乳酸菌培養上清にグリセリンを30〜40%配合する乳酸菌発酵乳エキスは、保存後においても白濁及び沈殿を生じず、物性安定性に優れたものであることがわかった。
【0047】
(2)発酵乳飲料の製造
20%脱脂粉乳溶液を120℃で3秒間殺菌した後、別に製造したストレプトコッカス・サーモフィルス(YIT2001株)のシードスターターを0.2%となるように接種し、更に、ラクトバチルス・カゼイ(YIT9029株)のシードスターターも0.1%となるように接種して34℃でpH4.4まで培養し、均質化機を用いて15MPaで均質化することにより発酵乳ベースを得た。また、ショ糖70gとペクチン3gを水に溶解し、全量を600gとして110℃で3秒間殺菌しシロップを調製した。前記発酵乳ベース400gとシロップ600gを混合し、発酵乳飲料を得た。この発酵乳飲料を比較品1とし、更に、この比較品1に乳酸菌発酵乳エキス1または2を最終製品中の濃度が0.03%となるように添加したものを実施品1および2とした。
【0048】
(3)乳酸菌発酵乳エキスの酸味及び/又は渋味マスキング効果の検討
上記で得られた発酵乳飲料の酸味及び/又は渋味の程度及び嗜好性を次の評価基準で評価した。その結果を表3に示した。なお、37℃1日間保存は、10℃21日間保存に相当する。
【0049】
<酸味及び/又は渋味の評価基準>
酸味及び/又は渋味が非常に強いという評価を1点とし、酸味及び/又は渋味が非常に弱いという評価を7点とした7段階で評価した。
【0050】
<嗜好性の評価基準>
風味が非常に悪いという評価を1点とし、風味が非常によいという評価を7点とした7段階で評価した。
【0051】
【表3】

【0052】
表3から、乳酸菌培養上清にグリセリンを30〜40%配合する乳酸菌発酵乳エキスは、発酵乳飲料の保存後の酸味及び/又は渋味のマスキング効果を有することがわかった。
【0053】
実 施 例 2
乳酸菌発酵乳エキスの製造とマスキング効果の検討(2)
(1)乳酸菌発酵乳エキスの製造
乳酸菌及びラクターゼを作用させる培地として、脱脂粉乳(よつ葉乳業(株))、脂肪率47%の生クリーム(よつ葉乳業(株))及び乳タンパク質(Nutrilac YO-8113、アーラフーズイングレディエンツジャパン(株))を表4に示す分量で混合した培地を使用した以外は、上記実施例1の乳酸菌発酵乳エキス1と同様の製造方法で乳酸菌発酵乳エキス3〜7を得た。得られた乳酸菌発酵乳エキスを10℃で10日間保存し、白濁及び沈殿の有無を試験例1と同様の評価基準で評価した。その結果も表4に示した。
【0054】
【表4】

【0055】
表4から、これらの乳酸菌発酵乳エキスは保存後も白濁・沈殿を生じず、物性安定性に優れたものであることがわかった。
【0056】
(2)発酵乳飲料の製造
上記実施例1の(2)と同様にして得られた発酵乳飲料(比較品1)に上記(1)で得られた乳酸菌発酵乳エキス3〜7のそれぞれを最終製品中の濃度が0.03%となるように添加したものを実施品3〜7とした。
【0057】
(3)乳酸菌発酵乳エキスの酸味及び/又は渋味マスキング効果の検討
上記で得られた比較品1及び実施品3〜7について、酸味及び/又は渋味の程度並びに嗜好性を実施例1と同様の方法で評価した。その結果を表5に示した。
【0058】
【表5】

【0059】
表5から、脂肪含量が1.2〜4.4%であり、タンパク質含量が3.2〜4.6%である培地を用いて製造した乳酸菌発酵乳エキスは、発酵乳飲料の保存に伴い生じる酸味及び/又は渋味のマスキング効果を有することがわかった。また、脂肪含量が2.2〜4.4%、かつタンパク質含量が3.3〜4.6%である培地を用いて製造した乳酸菌発酵乳エキスは、酸味及び/又は渋味のマスキング効果が高いことがわかった。
【0060】
実 施 例 3
発酵乳飲料に対する乳酸菌発酵乳エキスの添加量の検討:
上記実施例1の(2)と同様にして製造した発酵乳飲料(比較品1)に、上記実施例1で製造した乳酸菌発酵乳エキス1を最終製品中の濃度が表6の通りになるように添加したものを実施品8〜10とした。実施品8〜10および比較品1について、上記実施例1と同様に酸味及び/又は渋味の程度と嗜好性について評価した。その結果も表6に示した。
【0061】
【表6】

【0062】
表6から、乳酸菌発酵乳エキス1を最終製品中の濃度が0.03〜0.3%となるように添加した場合に、発酵乳飲料の保存後の酸味及び/又は渋味がマスキングされることがわかった。
【0063】
実 施 例 4
果汁含有発酵乳飲料における酸味及び/又は渋味マスキング効果の検討:
(1)ストロベリー果汁含有発酵乳飲料の製造
20%脱脂粉乳溶液を120℃で3秒間殺菌した後、別に製造したストレプトコッカス・サーモフィルス(YIT2001株)のシードスターターを0.2%となるように接種し、更に、ラクトバチルス・カゼイ(YIT9029株)のシードスターターも0.1%となるように接種して34℃でpH4.4まで培養し、均質化機を用いて15MPaで均質化することにより発酵乳ベースを得た。また、水にストロベリー9倍濃縮果汁(Brix65.5)8g、ショ糖70g、ペクチン3gを溶解し、全量を600gとして110℃で3秒間殺菌し、シロップを調製した。前記発酵乳ベース400gとシロップ600gを混合し、ストロベリー果汁含有発酵乳飲料(比較品2)を得た。
【0064】
上記で得られたストロベリー果汁含有発酵乳飲料に、実施例1の(1)で得られた乳酸菌発酵乳エキス1を最終製品中の濃度が0.03%となるように添加したものを実施品11とした。
【0065】
(2)果汁含有発酵乳飲料における酸味及び/又は渋味マスキング効果の検討
上記で得られた実施品11、比較品1および比較品2について、上記実施例1と同様に酸味及び/又は渋味の程度と嗜好性について評価した。その結果を表7に示した。
【0066】
【表7】

【0067】
表7から、果汁を配合した発酵乳飲料(比較品2)は、果汁を配合していない発酵乳飲料(比較品1)に比べて、保存後の酸味及び/又は渋味が強く発現することがわかった。また、果汁を配合した発酵乳飲料に乳酸菌発酵乳エキスを添加したもの(実施品11)は、保存後の酸味及び/又は渋味がマスキングされることがわかった。
【0068】
実 施 例 5
生菌を高菌数で含む発酵乳飲料における酸味及び/又は渋味のマスキング効果
の検討:
20%脱脂粉乳溶液を120℃で3秒間殺菌した後、ラクトバチルス・カゼイ(YIT9029株)のシードスターターを0.25%となるように接種して34℃でpH4.4まで培養し、発酵乳ベースを得た。また、20%脱脂粉乳溶液を120℃で3秒間殺菌した後、それを攪拌しながら乳酸を添加してpH4.4とした酸乳ベースを得た。発酵乳ベースの菌数を確認した後、発酵乳ベースと酸乳ベースを混合して、最終製品でのラクトバチルス・カゼイの総菌数が1×10〜1×10cfu/mlとなるように4種類の発酵乳及び酸乳ベースを調製した。得られた発酵乳及び酸乳ベースを均質化機を用いて15MPaで均質化した。
【0069】
また、水にショ糖70g及びペクチン3gを溶解し、全量を600gとして110℃で3秒間殺菌しシロップを調製した。上記で得られた4種類の発酵乳及び酸乳ベースそれぞれ400gとシロップ600gを混合し、総生菌数が1×10〜1×10cfu/mlである発酵乳飲料(比較品3〜6)を得た。
【0070】
次に、上記方法により得られた発酵乳飲料(比較品3〜6)のそれぞれに、実施例1で得られた乳酸菌発酵乳エキス1を最終製品での濃度が0.03%となるように配合し、発酵乳飲料(実施品12〜15)を得た。得られた発酵乳飲料について、実施例1と同様の方法で、酸味及び/又は渋味の程度と嗜好性を評価した。この評価の比較品3〜6についての結果を表8に示し、実施品12〜15についての結果を表9に示した。
【0071】
【表8】

【0072】
【表9】

【0073】
表8の37℃1日間保存後の各評価点が示す通り、乳酸菌発酵乳エキスが配合されていない発酵乳飲料(比較品3〜6)では、ラクトバチルス・カゼイの生菌数が多くなるほど、酸味及び/又は渋味を強く感じ、その評価点は大きく低下した。また、保存後の評価点の低下も大きかった。これに対し、表9の37℃1日間保存後の各評価点が示す通り、乳酸菌発酵乳エキスが配合された発酵乳飲料(実施品12〜15)では、酸味及び/又は渋味が有効にマスキングされ、ラクトバチルス・カゼイの生菌数が多くなっても、その評価点はあまり低下しなかった。また、表9の保存中の評価点の変化から、ラクトバチルス・カゼイの生菌数が1×10cfu/ml若しくは1×10cfu/mlの場合であっても、乳酸菌発酵乳エキスを配合することにより酸味及び/又は渋味が有効にマスキングされることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の乳酸菌発酵乳エキスは、保存安定性に優れ、保存後であっても沈殿を生じないものである。
【0075】
従って、本発明の乳酸菌発酵乳エキスは発酵乳飲料等の発酵乳製品に利用することができる。

以 上


【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳を主成分とする培地に乳酸菌及びラクターゼを作用させ、得られた発酵物から上清を分取し、該上清にグリセリンを添加することにより得られる乳酸菌発酵乳エキス。
【請求項2】
グリセリンの添加量が30〜40質量%である請求項第1項に記載の乳酸菌発酵乳エキス。
【請求項3】
培地中の脂肪含量が1.2〜4.4質量%、かつタンパク質含量が3.2〜4.6質量%である請求項第1項又は第2項に記載の乳酸菌発酵乳エキス。
【請求項4】
請求項第1項乃至第3項のいずれかの項に記載の乳酸菌発酵乳エキスを含有する発酵乳製品。
【請求項5】
乳を主成分とする培地に乳酸菌及びラクターゼを作用させ、得られた発酵物から上清を分取し、該上清にグリセリンを添加することを特徴とする乳酸菌発酵乳エキスの製造方法。
【請求項6】
グリセリンの添加量が30〜40質量%である請求項第5項に記載の乳酸菌発酵乳エキスの製造方法。
【請求項7】
培地中の脂肪含量が1.2〜4.4質量%、かつタンパク質含量が3.2〜4.6質量%である請求項第5項又は第6項に記載の乳酸菌発酵乳エキスの製造方法。

【公開番号】特開2011−36220(P2011−36220A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−188985(P2009−188985)
【出願日】平成21年8月18日(2009.8.18)
【出願人】(000006884)株式会社ヤクルト本社 (132)
【出願人】(509060729)株式会社ヤクルトマテリアル (4)
【Fターム(参考)】