説明

乾燥装置および乾燥方法ならびに印刷機

【課題】照射手段の移動構造の簡素化、摩擦熱発生の抑制、および印刷の高速化対応を実現すること。
【解決手段】シートの塗工面に転写された塗工材に光線を照射して乾燥させる乾燥装置において、シートを搬送する搬送手段と、前記搬送手段により搬送されるシートの塗工材に向けて光線を照射する複数の照射手段51(511,512)と、各前記照射手段51(511,512)を一方向に独立して回転移動させる移動手段52とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートに転写されたインキやコーティング材などの塗工材を乾燥する乾燥装置および乾燥方法、ならびに、前記乾燥装置が搭載された印刷機に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、塗工材として紫外線硬化型のUVインキを用いて印刷シートに印刷を行う印刷機は、印刷シートの印刷面に紫外線を照射してUVインキを乾燥させる乾燥装置が設けられている。
【0003】
従来、例えば、特許文献1に記載の枚葉印刷機の乾燥装置は、紫外線硬化型のUVインキが印刷面に転写された印刷シートを圧胴から受け取り、印刷シートの印刷面が回転中心に対向する形態で当該印刷シートを搬送して次工程へ渡す渡し胴を備えた枚葉印刷機に係る。そして、この乾燥装置は、渡し胴の内部に、当該渡し胴の周外方向であって搬送する印刷シートの印刷面に向けて紫外線を照射する第1紫外線照射手段および第2紫外線照射手段と、第1紫外線照射手段の照射範囲を印刷シートの搬送区間内での渡し胴の回転方向上流側において揺動させる第1照射範囲移動手段と、第2紫外線照射手段の照射範囲を印刷シートの搬送区間内での渡し胴の回転方向下流側において揺動させる第2照射範囲移動手段と、第1照射範囲移動手段と第2照射範囲移動手段とをそれぞれ個別に制御する制御装置とを備えている。
【0004】
この特許文献1に記載の枚葉印刷機の乾燥装置は、各紫外線照射手段を渡し胴の内部に備えることで、装置を小型化することができる。しかも、1つの紫外線照射手段を印刷シートの搬送区間で移動させる構成と比較して、各紫外線照射手段に出力を分けられるので、紫外線照射手段の寿命を延ばすことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−7936号公報(段落0027〜段落0033および図5)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した特許文献1に記載された乾燥装置では、第1紫外線照射手段と第2紫外線照射手段とを、印刷シートの搬送区間内での渡し胴の回転方向の上流側と下流側とでそれぞれ揺動させる構成であり、各照射範囲移動手段の構造が複雑化して製造コストが嵩むことになる。しかも、紫外線照射手段を揺動させる構成は、揺動時や制駆動時の摩擦熱の発生により、照射範囲移動手段の構成が熱変形するおそれがある。さらに、紫外線照射手段を揺動させる構成は、揺動の制駆動を要することから印刷の高速化に対応することが難しい。
【0007】
本発明は、上述した課題を解決するものであり、照射手段の移動構造の簡素化、摩擦熱発生の抑制、および印刷の高速化対応を実現することのできる乾燥装置および乾燥方法ならびに印刷機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の目的を達成するために、本発明の乾燥装置は、シートの塗工面に転写された塗工材に光線を照射して乾燥させる乾燥装置において、前記シートを搬送する搬送手段と、前記搬送手段により搬送される前記シートの塗工材に向けて光線を照射する複数の照射手段と、各前記照射手段を一方向に独立して回転移動させる移動手段と、を備えることを特徴とする。
【0009】
この乾燥装置によれば、複数の照射手段を一方向に独立して回転移動させることにより、従来のように各照射手段をシートの搬送区間内で分けて揺動させる構成と比較して移動手段の構造を簡素化することが可能である。しかも、照射手段を一方向に回転させることにより、従来の揺動型と比較して制駆動時の摩擦熱の発生を抑えることが可能である。さらに、照射手段を一方向に回転させることにより、従来の揺動型と比較して印刷の高速化に対応することが可能である。このように、本発明の乾燥装置によれば、照射手段の移動構造の簡素化、摩擦熱発生の抑制、および印刷の高速化対応を実現することができる。
【0010】
また、本発明の乾燥装置では、前記移動手段は、前記搬送手段による前記シートの搬送方向に沿って各前記照射手段を回転移動させることを特徴とする。
【0011】
この乾燥装置によれば、各照射手段によるシートへの光線の照射時間を多くすることができ、印刷が高速化しても塗工材を確実に乾燥させることができる。
【0012】
また、本発明の乾燥装置では、前記搬送手段は、前記シートの塗工面を所定の円軌跡の中心側に向けると共に当該シートを前記円軌跡に沿って搬送し、各前記照射手段は、前記円軌跡内に配置されていることを特徴とする。
【0013】
この乾燥装置によれば、シートを搬送する円軌跡内に各照射手段を配置したことにより、装置の小型化を図ることができる。
【0014】
また、本発明の乾燥装置は、前記搬送手段における前記シートの搬送に伴い、前記移動手段による各前記照射手段の移動、および各前記照射手段による光線の照射の開始または停止を制御する制御手段を備えることを特徴とする。
【0015】
この乾燥装置によれば、搬送手段によるシートの搬送に伴い、各照射手段による光線の照射を開始すると共に当該照射手段を移動させる。一方、搬送手段によりシートが搬送されていないときには、各照射手段による光線の照射を停止する。この結果、照射手段の電力消費を低減することができると共に、シートの搬送に応じて照射手段を移動させることができる。
【0016】
また、本発明の乾燥装置は、前記搬送手段に搬送される前記シートの有無を検出するシート検出手段を備え、前記制御手段は、前記シート検出手段による前記シート有りの検出に応じて所定の前記照射手段による光線の照射を開始する一方、前記シート検出手段による前記シート無しの検出に応じて所定の前記照射手段による光線の照射を停止することを特徴とする。
【0017】
この乾燥装置によれば、シート検出手段によるシートの有無の検出に応じて照射手段による光線の照射を開始または停止することから、照射手段による光線照射のタイミングをより正確にし、照射手段の電力消費をより低減することができる。
【0018】
また、本発明の乾燥装置では、前記制御手段は、前記搬送手段による前記シートの搬送速度に対し、各前記照射手段を遅い移動速度とする態様で前記移動手段を制御することを特徴とする。
【0019】
この乾燥装置によれば、搬送されるシートの搬送方向全体に渡って光線を効率よく照射し、塗工材を十分に乾燥させることができる。
【0020】
また、本発明の乾燥装置では、前記制御手段は、前記シートの搬送が停止した場合、前記照射手段による光線の照射を停止することを特徴とする。
【0021】
この乾燥装置によれば、印刷機の停止した場合や(緊急停止も含む)、シートの搬送に不具合が発生した場合、光線の照射を停止することで、装置を安全に運行することができる。
【0022】
また、本発明の乾燥装置では、各前記照射手段は、発光ダイオードであることを特徴とする。
【0023】
この乾燥装置によれば、発光ダイオードは、電灯と比較して発熱が少なく、開始および停止が直ちに行える。このため、熱発生の抑制および印刷の高速化対応の効果を顕著に得ることができる。しかも、発光ダイオードは、照射する光線が特定波長のみであることから、その波長の強度をシート検出手段により検出することで、シートの有無をより正確に検出できる。
【0024】
また、本発明の乾燥装置では、前記移動手段は、円筒状に形成された外周に1つの前記照射手段が固定され円筒状の中心の軸心の廻りに回転可能に設けられた保持部と、円筒状の前記保持部内に挿通されて前記軸心の廻りに回転可能に設けられ、回転方向に沿って円筒状の前記保持部に形成された長穴を通して円筒状の前記保持部の外側で他の1つの前記照射手段が固定された他の保持部と、を備えることを特徴とする。
【0025】
この乾燥装置によれば、複数の照射手段を一方向に独立して回転移動させることができ、照射手段の移動構造の簡素化、摩擦熱発生の抑制、および印刷の高速化対応を実現できる。
【0026】
上述の目的を達成するために、本発明の乾燥方法は、シートの塗工面に転写された塗工材に光線を照射して乾燥させる乾燥方法において、複数の照射手段を同一方向に独立して回転移動させつつ、順次搬送される個々の前記シートの塗工材に向けて個々の前記照射手段により光線を照射することを特徴とする。
【0027】
この乾燥方法によれば、複数の照射手段を一方向に独立して回転移動させることにより、従来のように各照射手段をシートの搬送区間内で分けて揺動させる構成と比較して移動手段の構造を簡素化することが可能である。しかも、照射手段を一方向に回転させることにより、従来の揺動型と比較して制駆動時の摩擦熱の発生を抑えることが可能である。さらに、照射手段を一方向に回転させることにより、従来の揺動型と比較して印刷の高速化に対応することが可能である。このように、本発明の乾燥方法によれば、照射手段の移動構造の簡素化、摩擦熱発生の抑制、および印刷の高速化対応を実現することができる。
【0028】
上述の目的を達成するために、本発明の印刷機は、シートを供給する給紙部と、給紙された前記シートの塗工面に塗工材を転写する印刷部と、前記シートの塗工材に光線を照射して乾燥させる乾燥装置と、塗工材が乾燥された前記シートを排出する排紙部とを備える印刷機において、前記乾燥装置として、上記のいずれか一つに記載の乾燥装置を適用することを特徴とする。
【0029】
この印刷機によれば、複数の照射手段を一方向に独立して回転移動させることにより、従来のように各照射手段をシートの搬送区間内で分けて揺動させる構成と比較して移動手段の構造を簡素化することが可能である。しかも、照射手段を一方向に回転させることにより、従来の揺動型と比較して制駆動時の摩擦熱の発生を抑えることが可能である。さらに、照射手段を一方向に回転させることにより、従来の揺動型と比較して印刷の高速化に対応することが可能である。このように、本発明の印刷機によれば、照射手段の移動構造の簡素化、摩擦熱発生の抑制、および印刷の高速化対応を実現することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、照射手段の移動構造の簡素化、摩擦熱発生の抑制、および印刷の高速化対応を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1は、本発明の実施の形態に係るオフセット枚葉印刷機の概略構成図である。
【図2】図2は、本発明の実施の形態1に係る乾燥装置の概略構成図である。
【図3】図3は、図2に示す乾燥装置の概略断面図である。
【図4】図4は、図2に示す乾燥装置の概略斜視図である。
【図5】図5は、図2に示す乾燥装置の制御手段を示すブロック図である。
【図6】図6は、本発明の実施の形態1に係る乾燥装置の動作を示す概略図である。
【図7】図7は、本発明の実施の形態2に係る乾燥装置の制御手段を示す他のブロック図である。
【図8】図8は、本発明の実施の形態2に係る乾燥装置の照射手段とその動作を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下に、本発明に係る実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施の形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0033】
[実施の形態1]
図1は、本実施の形態に係るオフセット枚葉印刷機の概略構成図である。本実施の形態のオフセット枚葉印刷機(印刷機)は、図1に示すように、給紙部11と印刷部12と排紙部13が印刷シートSの送り方向Cに直列に配置されている。
【0034】
給紙部11は、給紙台21と給紙機構(セパレータ装置)22を有している。給紙台21は、印刷シート(例えば、紙、透明フィルム、またはPP(ポリプロピレン)フィルム)Sを積み重ねて載置するものである。また、給紙機構22は、給紙台21上に積み重ねられた多数の印刷シートSを上から順に1枚ずつ取り上げて送り出すものである。この場合、給紙台21は、給紙機構22が印刷シートSと略一定の高さ位置関係を維持できるように、印刷シートSの供給に対応して上下に移動可能となっている。
【0035】
給紙部11と印刷部12との間には、シート送り装置23が配置されている。このシート送り装置23は、給紙部11から送り出された印刷シートSを所定の位置に位置決めすると共に、印刷部12に送るものである。
【0036】
印刷部12は、5つの印刷ユニット12a,12b,12c,12d,12eにより構成されている。この5つの印刷ユニット12a,12b,12c,12d,12eは、カラー印刷を実現できるように、5色のインキ(例えば、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック、ゴールド)により印刷が可能となっている。各印刷ユニット12a,12b,12c,12d,12eは、ほぼ同様の構成をなし、インキ装置31と版胴32とブランケット胴33と圧胴34とを備えている。この版胴32とブランケット胴33と圧胴34は、鉛直方向上側から下側にこの順で相互に接するように配置されている。そして、印刷ユニット12a,12b,12c,12d,12eの各圧胴34における印刷シートSの送り方向Cの下流側には、それぞれ渡し胴(中間胴ともいう)35が設けられている。渡し胴35は、印刷シートSの上流側の圧胴34から印刷シートSを受け取り、下流側に受け渡すものであり、印刷ユニット12a,12b,12c,12d,12eの各圧胴34の間に設けられていると共に、印刷ユニット12eの圧胴34と、後述する排紙部13の排紙胴41との間に設けられている。
【0037】
この印刷部12は、インキ装置31により版胴32を介してブランケット胴33にインキが供給される。そして、給紙部11からシート送り装置23により供給された印刷シートSが、ブランケット胴33と圧胴34との間を通過するときに、ブランケット胴33から印刷シートSにインキ(印刷画像)が転写される。インキが転写された印刷シートSは、渡し胴35を介して、印刷ユニット12a,12b,12c,12d,12eおよび排紙部13の順で受け渡される。
【0038】
排紙部13は、印刷部12で印刷された印刷シートSを送りつつ整列した状態で積み重ねるものである。この排紙部13は、排紙胴41と、チェーングリッパ機構42と、排紙台43とを有している。
【0039】
排紙胴41は、印刷部12の印刷ユニット12eの下流側に設けられた渡し胴35における印刷シートSの送り方向Cの下流側に位置し、この渡し胴35と対接して配置されている。この排紙胴41は、図示しないが、駆動装置により回転可能であると共に、印刷シートSの前端部を保持可能な2つの咥え爪が、周方向に等間隔で設けられている。
【0040】
チェーングリッパ機構42は、排紙胴41の上方に配設されたスプロケット44と、排紙台43の上方に配設されたスプロケット45とに、無端状のチェーン46が掛け回されている。チェーン46は、図示しないが、印刷シートSの前端部を保持可能な咥え爪が複数等間隔で設けられている。
【0041】
排紙台43は、印刷シートSが積層されるものである。排紙台43は、印刷シートSが積層されるにしたがって最も上に積層された印刷シートSの高さが上昇した場合、チェーングリッパ機構42からの印刷シートSの落下距離が略一定となるように連続的、あるいは、段階的に昇降可能となっている。
【0042】
この排紙部13は、排紙胴41が咥え爪により印刷ユニット12eの渡し胴35から印刷シートSを受け取りつつ当該印刷シートSをチェーングリッパ機構42側に送る。次に、チェーングリッパ機構42が咥え爪により排紙胴41から印刷シートSを受け取ると共にスプロケット44,45の回転により循環するチェーン46によって印刷シートSを排紙台43の上方位置に送る。次に、チェーングリッパ機構42から排紙台43に向けて印刷シートSを落下させることで、排紙台43に印刷シートSが積層される。
【0043】
なお、上述したオフセット枚葉印刷機は、印刷シートSの片面に印刷を施す構成である。この構成に限らず、本実施の形態のオフセット枚葉印刷機は、印刷シートSの両面に印刷を施す構成であってもよい。図には明示しないが、両面印刷機としての両面オフセット枚葉印刷機は、上述した印刷部が、裏面印刷部および表面印刷部で構成され、裏面印刷部と表面印刷部とが連接部により直列に連結されている。すなわち、裏面印刷部により印刷シートSの裏面に印刷された後、連接部を介して表面印刷部に印刷シートSが送られ、表面印刷部により印刷シートSの表面に印刷される。また、図には明示しないが、両面印刷機としての両面オフセット枚葉印刷機は、上述した印刷部が、2つの表面印刷部で構成され、各表面印刷部が反転部により直列に連結されている。すなわち、印刷シートSの送り方向Cの上流側の表面印刷部により印刷シートSの表面に印刷された後、反転部を介して表裏反転された印刷シートSが下流側の表面印刷部に搬送され、当該表面印刷部により印刷シートSの裏面に印刷される。
【0044】
図2は、本実施の形態に係る乾燥装置の概略構成図であり、図3は、図2に示す乾燥装置の概略断面図であり、図4は、図2に示す乾燥装置を表す概略斜視図であり、図5は、図2に示す乾燥装置の制御手段を示すブロック図である。
【0045】
上述した本実施の形態のオフセット枚葉印刷機において、印刷シートSに印刷されるインキは、紫外線が照射されることで乾燥して固化する紫外線硬化性インキ(以下、UVインキという)である。そして、本実施の形態のオフセット枚葉印刷機は、UVインキを乾燥させる乾燥装置5を備えている。
【0046】
乾燥装置5は、印刷シートSの上流側の圧胴34から印刷シートSを受け取って下流側に受け渡す各渡し胴35に設けられている。なお、搬送手段の例として渡し胴35がある。
【0047】
ここで、圧胴34は、円柱状に形成された周面に、印刷シートSの前端部を保持する2つの咥え爪34aが設けられている。圧胴34は、咥え爪34aにより印刷シートSの前端部を保持した状態で、図2中の反時計回り方向(矢印D1方向)へ回転することで、ブランケット胴33と接する上部周面に印刷シートSを巻回させながら搬送する。なお、ブランケット胴33は、圧胴34の上方にて、その周面が圧胴34に接して設けられており、図2中の時計回り方向(矢印D2方向)へ回転する。そして、ブランケット胴33は、圧胴34の上部周面に巻回されて搬送される印刷シートSの印刷面(図2に示す印刷シートSの外側の面)に、UVインキを転写する。また、圧胴34の上方には、圧胴34の周面に沿う円弧形状のシートガイドバー34bが設けられている。シートガイドバー34bは、棒状に形成され、印刷シートSの幅方向(送り方向Cに直交する図3に示す矢印方向W)に複数並んで設けられており、圧胴34の咥え爪34aに保持されて搬送される印刷シートSの後端部のバタつきを防止することで当該印刷シートSの姿勢を安定させる。
【0048】
渡し胴35は、印刷シートSの送り方向Cにおける圧胴34の下流側に設けられている。渡し胴35は、印刷シートSの前端部を保持する2つの咥え爪35aが設けられている。咥え爪35aは、爪台35bに設けられている。爪台35bは、図3に示すように、印刷シートSの幅方向Wに沿って長尺に形成され、その両端部に固定された腕部35cが、印刷シートSの幅方向Wの両外側に固定されたフレーム35dに対し、ベアリング35eを介して取り付けられていることで、幅方向Wに平行な軸心Rの廻りに回転可能に設けられている。そして、爪台35bは、腕部35cに対して軸心Rを中心とした歯車35fが設けられ、この歯車35fに噛合する図示しない駆動機構により回転を駆動される。すなわち、咥え爪35aは、この爪台35bと一体となって、図2に二点鎖線で示す円軌跡Eを描きながら時計回り(図2中の矢印D3方向)に回転する。なお、2つの咥え爪35aは、図2に示すように、円軌跡Eの中心(軸心R)に対して点対称の位置に配設されている。
【0049】
この渡し胴35は、圧胴34とは逆に回転しつつ、圧胴34でUVインキが転写された印刷シートSの前端部を、図2中の点P1の位置にて咥え爪35aで受け取る。そして、渡し胴35は、咥え爪35aで前端部を保持しつつ、その回転により円軌跡Eの下部にて印刷シートSを搬送する。そして、渡し胴35は、印刷シートSを、図2中の点P2の位置にて後工程へ受け渡す。このように、渡し胴35は、印刷面を外側にして印刷シートSを上部周面に巻回させる圧胴34とは逆方向へ回転しながら、圧胴34から印刷シートSを受け取って円軌跡Eの下部にて印刷シートSを搬送することから、その回転中心(軸心R)側に印刷シートSの印刷面を向けた状態で搬送する。また、渡し胴35の下方には、円軌跡Eに沿う円弧形状のシートガイドバー35gが設けられている。シートガイドバー35gは、棒状に形成され、印刷シートSの幅方向Wに複数並んで設けられており、渡し胴35の咥え爪35aに保持されて搬送される印刷シートSの後端部のバタつきを防止することで当該印刷シートSの姿勢を安定させる。
【0050】
このような渡し胴35に設けられている乾燥装置5は、照射手段51と、移動手段52と、制御手段53とを備えている。
【0051】
照射手段51は、渡し胴35により搬送される印刷シートSのUVインキに向けて紫外線を照射するものである。照射手段51は、図3および図4に示すように、幅方向Wに沿って延在するケーシング51aに、当該幅方向Wに沿って複数の照射部51bが並設されている。照射部51bは、ケーシング51aの外部に紫外線を照射する光源であり、例えば、紫外線照射型ランプや紫外線照射型発光ダイオードがある。この照射手段51は、複数(本実施の形態では2つの照射手段511,512)が設けられている。
【0052】
移動手段52は、各照射手段51を保持すると共に、当該各照射手段51を同一方向に独立して回転移動させるものである。移動手段52は、図3および図4に示すように、本実施の形態において2つの照射手段51(511,512)をそれぞれ保持する2つの保持部521,522を備えている。
【0053】
一方の保持部521は、幅方向Wに沿う長尺円筒状に形成され、上述した咥え爪35aとは別に、ベアリング521aを介して軸心Rを中心に回転可能に配設されている。この一方の保持部521の外周に、軸心Rを中心とした放射方向に紫外線を照射する態様で一方の照射手段511が固定されている。そして、一方の保持部521は、軸心Rを中心とした歯車521bが設けられ、この歯車521bに噛合する図示しない駆動機構により回転を駆動される。すなわち、一方の照射手段511は、一方の保持部521に保持されつつ軸心Rの廻りに、時計回り(図2中の矢印D3方向)に回転移動する。なお、一方の照射手段511の回転位置は、駆動機構に設けられた図示しないセンサなどで検出される。
【0054】
他方の保持部522は、幅方向Wに沿う長尺円柱状に形成され、一方の保持部521に挿通されつつ、上述した咥え爪35aや一方の保持部521とは別に、ベアリング522aを介して軸心Rを中心に回転可能に配設されている。この他方の保持部522に、固定部522bを介して、軸心Rを中心とした放射方向に紫外線を照射する態様で他方の照射手段512が固定されている。具体的には、固定部522bは、一方の保持部521の円筒状に対して一方の照射手段511の固定部位を除いて軸心Rの廻りに沿って形成された長穴521cに挿通され、他方の保持部522の外周から一方の保持部521の外側に延出している。このため、他方の照射手段512は、一方の照射手段511に対して軸心Rから同距離の位置に設けられている。なお、長穴521cおよび固定部522bは、他方の照射手段512を確実に保持するうえで、少なくとも2つあることが好ましい。そして、他方の保持部522は、図3に示すように、軸心Rを中心とした歯車522cが設けられ、この歯車522cに噛合する図示しない駆動機構により一方の保持部521と同一方向に回転を駆動される。すなわち、他方の照射手段512は、他方の保持部522に保持されつつ、一方の照射手段511と同一方向に軸心Rの廻りに、時計回り(図2中の矢印D3方向)に回転移動する。なお、他方の照射手段512の回転位置は、駆動機構に設けられた図示しないセンサなどで検出される。また、他方の照射手段512は、一方の保持部521の円筒状に形成された長穴521cを通じて他方の保持部522に固定されていることから、この長穴521cの範囲内で移動する。すなわち、他方の保持部522の回転により回転移動する他方の照射手段512と、一方の保持部521の回転により回転移動する一方の照射手段511とは、回転方向での相互の位置関係が常に維持される。
【0055】
制御手段53は、各照射手段51(511,512)による紫外線の照射の開始または停止を制御するものである。制御手段53は、マイコンなどで構成されて、RAMやROMなどから構成された記憶部(図示せず)が設けられている。図5に示すように、制御手段53は、上述した照射手段51および移動手段52が接続されている。さらに、制御手段53は、印刷機における印刷を開始した旨の印刷開始情報(胴入れ情報)または給紙部11において印刷シートSを供給した旨の印刷シート供給情報が入力される。また、制御手段53は、印刷機の印刷設定の入力に伴って、印刷シートSの大きさ(送り方向Cおよび幅方向Wの寸法)である印刷シート情報が入力される。また、制御手段53は、印刷機の印刷設定の入力に伴って、印刷シートSが搬送される速度である搬送速度情報が入力される。この制御手段53は、各情報の入力、および記憶部に予め格納したプログラムやデータに従って、照射手段51および移動手段52を制御する。
【0056】
以下に、制御手段53の制御による乾燥装置5の動作について説明する。図6は、本実施の形態に係る乾燥装置の動作を示す概略図である。
【0057】
乾燥装置5は、搬送手段の一例である渡し胴35において、1つの咥え爪35aにより点P1の位置にて印刷シートSの送り方向Cの上流側の圧胴34から印刷シートSを受け取り、矢印D3方向に回転しつつ、点P2の位置において印刷シートSの送り方向Cの下流側の圧胴34または排紙胴41に印刷シートSを受け渡す。そして、乾燥装置5は、移動手段52により上記点P1から点P2に至り1つの照射手段51を矢印D3方向に回転移動させつつ、当該照射手段51により紫外線の照射を行う。
【0058】
このため、図6(a)に示すように、制御手段53は、移動手段52の一方の保持部521の移動を制御し、点P1の位置にて一方の照射手段511を待機させる。
【0059】
次に、図6(a)の状態において、点P1の位置で渡し胴35の咥え爪35aが印刷シートSを受け取った場合、制御手段53は、一方の照射手段511による紫外線の照射を開始させる。さらに、制御手段53は、図6(b)に示すように、渡し胴35による印刷シートSの搬送に伴い、移動手段52を制御して一方の保持部521により一方の照射手段511を回転移動させる。これにより、渡し胴35によって搬送される印刷シートSの印刷面のUVインキに対して紫外線が照射されることで当該UVインキが乾燥される。
【0060】
一方の照射手段511による紫外線の照射を開始させる場合、制御手段53は、印刷開始情報(胴入れ情報)または印刷シート供給情報の入力を切っ掛けとし、印刷シート情報および搬送速度情報に基づいて、点P1の位置に印刷シートSの前端が送られていると判断する。また、一方の照射手段511を回転移動させる場合、制御手段53は、入力された搬送速度情報に基づき、渡し胴35による印刷シートSの搬送速度に対し、一方の照射手段511の移動速度が遅くなるように移動手段52を制御する。
【0061】
次に、図6(c)に示すように、一方の照射手段511が点P2の位置に至るまでの間、点P2の位置で渡し胴35の咥え爪35aが印刷シートSを受け渡し、印刷シートSの後端が一方の照射手段511の照射部51bに対向する位置から離隔した場合、制御手段53は、一方の照射手段511による紫外線の照射を停止させる。
【0062】
一方の照射手段511による紫外線の照射を停止させる場合、制御手段53は、印刷開始情報(胴入れ情報)または印刷シート供給情報の入力を切っ掛けとし、印刷シート情報および搬送速度情報に基づいて、印刷シートSの後端が一方の照射手段511の照射部51bに対向する位置から離隔したと判断する。
【0063】
次に、図6(d)に示すように、点P1の位置に他方の照射手段512が待機していなければ、制御手段53は、一方の照射手段511を点P1の位置に移動させ、当該点P1の位置に印刷シートSが送られるまで一方の照射手段511を待機させる。
【0064】
同様に、制御手段53は、他方の照射手段512についても制御する。すなわち、図6(a)に示すように、点P1の位置に他方の照射手段512が待機している状態で、制御手段53は、移動手段52の他方の保持部522の移動を制御し、その回転方向(矢印D3方向)において点P2から点P1の間の所定の位置に他方の照射手段512を待機させる。
【0065】
次に、図6(b)および図6(c)に示すように、一方の照射手段511を回転移動させた場合、制御手段53は、移動手段52の他方の保持部522の移動を制御し、点P1の位置にて他方の照射手段512を待機させる。
【0066】
次に、図6(c)の状態において、点P1の位置で渡し胴35の咥え爪35aが印刷シートSを受け取った場合、制御手段53は、他方の照射手段512による紫外線の照射を開始させる。さらに、制御手段53は、図6(d)に示すように、渡し胴35による印刷シートSの搬送に伴い、移動手段52を制御して他方の保持部522により他方の照射手段512を回転移動させる。これにより、渡し胴35によって搬送される印刷シートSの印刷面のUVインキに対して紫外線が照射されることで当該UVインキが乾燥される。
【0067】
他方の照射手段512による紫外線の照射を開始させる場合、制御手段53は、上記と同様に、印刷開始情報(胴入れ情報)または印刷シート供給情報の入力を切っ掛けとし、印刷シート情報および搬送速度情報に基づいて、点P1の位置に印刷シートSが送られていると判断する。また、他方の照射手段512を回転移動させる場合、制御手段53は、上記と同様に、入力された搬送速度情報に基づき、渡し胴35による印刷シートSの搬送速度に対し、他方の照射手段512の移動速度が遅くなるように移動手段52を制御する。
【0068】
次に、図6(e)に示すように、他方の照射手段512が点P2の位置に至るまでの間、点P2の位置で渡し胴35の咥え爪35aが印刷シートSを受け渡し、印刷シートSの後端が他方の照射手段512の照射部51bに対向する位置から離隔した場合、制御手段53は、他方の照射手段512による紫外線の照射を停止させる。
【0069】
他方の照射手段512による紫外線の照射を停止させる場合、制御手段53は、印刷開始情報(胴入れ情報)または印刷シート供給情報の入力を切っ掛けとし、印刷シート情報および搬送速度情報に基づいて、印刷シートSの後端が他方の照射手段512の照射部51bに対向する位置から離隔したと判断する。
【0070】
次に、図6(b)に示すように、点P1の位置に一方の照射手段511が待機していなければ、制御手段53は、他方の照射手段512を点P1の位置に移動させ、当該点P1の位置に印刷シートSが送られるまで他方の照射手段512を待機させる。
【0071】
なお、制御手段53は、印刷シート情報に基づいて、印刷シートSの幅方向Wの寸法を認識できる。これにより、照射手段51の電力消費を低減するため、制御手段53は、幅方向Wに沿って複数並設された照射部51bのうち、印刷シートSの幅方向Wの寸法よりも外側の照射部51bによる紫外線の照射を停止する。
【0072】
また、制御手段53は、印刷シートSの搬送の不具合などにより印刷シートSが送られない事態を印刷機から入力した場合、照射手段51による紫外線の照射を停止すると共に、移動手段52による照射手段51の移動を停止する。
【0073】
このように、実施の形態1の乾燥装置5は、印刷シートSの印刷面に転写されたUVインキに紫外線を照射して乾燥させるもので、印刷シートSを搬送する搬送手段の一例としての渡し胴35と、渡し胴35により搬送される印刷シートSのUVインキに向けて紫外線を照射する複数の照射手段51(511,512)と、各照射手段51(511,512)を同一方向に独立して回転移動させる移動手段52とを備える。
【0074】
この乾燥装置5によれば、複数の照射手段51(511,512)を一方向に独立して回転移動させることにより、従来のように各照射手段を印刷シートの搬送区間内で分けて揺動させる構成と比較して移動手段52の構造を簡素化することが可能である。しかも、照射手段51(511,512)を一方向に回転させることにより、従来の揺動型と比較して制駆動時の摩擦熱の発生を抑えることが可能である。さらに、照射手段51(511,512)を一方向に回転させることにより、従来の揺動型と比較して印刷の高速化に対応することが可能である。このように、本実施の形態の乾燥装置5によれば、照射手段51(511,512)の移動構造の簡素化、摩擦熱発生の抑制、および印刷の高速化対応を実現することが可能になる。
【0075】
また、本実施の形態の乾燥装置5では、移動手段52は、渡し胴35による印刷シートSの搬送方向に沿って各照射手段51(511,512)を回転移動させる。
【0076】
この乾燥装置5によれば、各照射手段51(511,512)による印刷シートSへの紫外線の照射時間を多くすることができ、印刷が高速化してもUVインキを確実に乾燥させることが可能になる。
【0077】
また、本実施の形態の乾燥装置5では、渡し胴35は、印刷シートSの印刷面を所定の円軌跡Eの中心側に向けると共に当該印刷シートSを円軌跡Eに沿って搬送し、各照射手段51(511,512)は、円軌跡E内に配置されている。
【0078】
この乾燥装置5によれば、印刷シートSを搬送する円軌跡E内に各照射手段51(511,512)を配置したことにより、装置の小型化を図ることが可能になる。
【0079】
また、本実施の形態の乾燥装置5は、渡し胴35における印刷シートSの搬送に伴い、移動手段52による各照射手段51(511,512)の移動、および各照射手段51(511,512)による紫外線の照射の開始または停止を制御する制御手段53を備える。
【0080】
この乾燥装置5によれば、渡し胴35による印刷シートSの搬送に伴い、照射手段51による紫外線の照射を開始すると共に当該照射手段51を移動させる。一方、渡し胴35により印刷シートSが搬送されていないときには、照射手段51による紫外線の照射を停止する。この結果、照射手段51の電力消費を低減すると共に、印刷シートSの搬送に応じて照射手段51を移動させることが可能になる。
【0081】
また、本実施の形態の乾燥装置5では、制御手段53は、渡し胴35による印刷シートSの搬送速度に対し、各照射手段51(511,512)を遅い移動速度とする態様で移動手段52を制御する。
【0082】
この乾燥装置5によれば、搬送される印刷シートSの搬送方向全体に渡って紫外線を効率よく照射し、UVインキを十分に乾燥させることが可能になる。
【0083】
また、本実施の形態の乾燥装置5では、制御手段53は、印刷シートSの搬送が停止した場合、移動手段52による照射手段51(511,512)の移動、および照射手段51(511,512)による紫外線の照射を停止する。
【0084】
この乾燥装置5によれば、印刷機の停止した場合や(緊急停止も含む)、印刷シートSの搬送に不具合が発生した場合、照射手段51(511,512)の移動、および紫外線の照射を停止することで、装置を安全に運行することが可能になる。なお、印刷シートSの搬送に不具合が発生した場合、少なくとも照射手段51(511,512)による紫外線の照射を停止しても、装置を安全に運行することが可能である。
【0085】
また、本実施の形態の乾燥装置5では、各照射手段51(511,512)の照射部51bは、発光ダイオードである。
【0086】
発光ダイオードは、電灯と比較して発熱が少なく、開始および停止が直ちに行える。このため、熱発生の抑制および印刷の高速化対応の効果を顕著に得ることが可能になる。
【0087】
また、本実施の形態の乾燥装置5は、移動手段52は、円筒状に形成された外周に一方の照射手段511が固定され円筒状の中心の軸心Rの廻りに回転可能に設けられた一方の保持部521と、一方の保持部521の円筒内に挿通されて軸心Rの廻りに回転可能に設けられ、回転方向に沿って一方の保持部521の円筒に形成された長穴521cを通して一方の保持部521の外側で他方の照射手段512が固定された他方の保持部522とを備える。
【0088】
この乾燥装置5によれば、複数の照射手段51(511,512)を一方向に独立して回転移動させることができ、照射手段51(511,512)の移動構造の簡素化、摩擦熱発生の抑制、および印刷の高速化対応を実現することが可能になる。
【0089】
上述した本実施の形態の乾燥装置5の動作である乾燥方法は、印刷シートSの印刷面に転写されたUVインキに光線を照射して乾燥させるもので、複数の照射手段51(511,512)を一方向に独立して回転移動させつつ、順次搬送される個々の印刷シートSのUVインキに向けて個々の照射手段51(511,512)により紫外線を照射する。
【0090】
この乾燥方法によれば、複数の照射手段51(511,512)を一方向に独立して回転移動させることにより、従来のように各照射手段を印刷シートの搬送区間内で分けて揺動させる構成と比較して移動手段52の構造を簡素化することが可能である。しかも、照射手段51(511,512)を一方向に回転させることにより、従来の揺動型と比較して制駆動時の摩擦熱の発生を抑えることが可能である。さらに、照射手段51(511,512)を一方向に回転させることにより、従来の揺動型と比較して印刷の高速化に対応することが可能である。このように、本実施の形態の乾燥装置5によれば、照射手段51(511,512)の移動構造の簡素化、摩擦熱発生の抑制、および印刷の高速化対応を実現することが可能になる。
【0091】
上述した本実施の形態のオフセット枚葉印刷機(印刷機)は、印刷シートSを供給する給紙部11と、給紙された印刷シートSの印刷面にUVインキを転写する印刷部12と、印刷シートSのUVインキに紫外線を照射して乾燥させる上述の乾燥装置5と、UVインキが乾燥された印刷シートSを排出する排紙部13とを備える。
【0092】
この印刷機によれば、照射手段51(511,512)の移動構造の簡素化、摩擦熱発生の抑制、および印刷の高速化対応を実現できる印刷を行うことが可能になる。
【0093】
[実施の形態2]
図7は、本実施の形態に係る乾燥装置の制御手段を示す他のブロック図であり、図8は、本実施の形態に係る乾燥装置の照射手段とその動作を示す概略図である。
【0094】
本実施の形態の乾燥装置は、上述した実施の形態1の乾燥装置に対し、図7および図8に示すように、搬送手段の一例である渡し胴35が搬送する印刷シートSの有無を検出するシート検出手段54を備えている点が異なる。したがって、以下に説明する実施の形態2において、上述した実施の形態1と同等部分には、同一の符号を付して説明を省略する。
【0095】
シート検出手段54は、図8(a)に示すように、照射手段51において、少なくとも1つの照射部51bと、当該照射部51bと対をなす受光部51cとで構成されている。このシート検出手段54は、照射手段51の長尺方向である幅方向Wの中央部に設けられている。シート検出手段54は、対をなす照射部51bが照射した後、渡し胴35と隣接する圧胴34または排紙胴41の外周面に反射した紫外線を、受光部51cで受光することで、渡し胴35が搬送する印刷シートSの有無を検出する。このシート検出手段54は、上述した制御手段53に接続されている。
【0096】
以下、シート検出手段54が接続された制御手段53の制御による乾燥装置5の動作について図6および図8を参照して説明する。
【0097】
図6(a)に示すように、制御手段53は、移動手段52の一方の保持部521の移動を制御し、点P1の位置にて一方の照射手段511を待機させる。
【0098】
次に、図6(a)の状態において、点P1の位置で渡し胴35の咥え爪35aが印刷シートSを受け取った場合、制御手段53は、一方の照射手段511による紫外線の照射を開始させる。さらに、制御手段53は、図6(b)に示すように、渡し胴35による印刷シートSの搬送に伴い、移動手段52を制御して一方の保持部521により一方の照射手段511を回転移動させる。これにより、渡し胴35によって搬送される印刷シートSの印刷面のUVインキに対して紫外線が照射されることで当該UVインキが乾燥される。
【0099】
一方の照射手段511による紫外線の照射を開始させる場合、制御手段53は、印刷開始情報(胴入れ情報)または印刷シート供給情報の入力を切っ掛けとし、印刷シート情報および搬送速度情報に基づいて、点P1の位置に印刷シートSの前端が送られることを判断する。この判断により制御手段53は、シート検出手段54を構成する照射部51bにより紫外線を照射しつつ受光部51cにより反射した紫外線を受光する。さらに、制御手段53は、図8(a)に示すように、シート検出手段54において受光部51cが受光する紫外線を印刷シートSが遮ることで印刷シートSが搬送されたことを検知する。この印刷シートSの検知により、制御手段53は、図8(b)に示すように、印刷シートSのUVインキを乾燥させるべく各照射部51bから紫外線を照射させる。また、一方の照射手段511を回転移動させる場合、制御手段53は、入力された搬送速度情報に基づき、渡し胴35による印刷シートSの搬送速度に対し、一方の照射手段511の移動速度が遅くなるように移動手段52を制御する。
【0100】
次に、図6(c)に示すように、一方の照射手段511が点P2の位置に至るまでの間、点P2の位置で渡し胴35の咥え爪35aが印刷シートSを受け渡し、印刷シートSの後端が一方の照射手段511の照射部51bに対向する位置から離隔した場合、制御手段53は、一方の照射手段511による紫外線の照射を停止させる。
【0101】
一方の照射手段511による紫外線の照射を停止させる場合、制御手段53は、印刷開始情報(胴入れ情報)または印刷シート供給情報の入力を切っ掛けとし、印刷シート情報および搬送速度情報に基づいて、印刷シートSの後端が一方の照射手段511の照射部51bに対向する位置から離隔したと判断する。さらに、制御手段53は、シート検出手段54において印刷シートSが遮っていた紫外線を受光部51cが受光することで印刷シートSの後端が一方の照射手段511の照射部51bに対向する位置から離隔したことを検知する。この印刷シートSの離隔の検知により、制御手段53は、図8(c)に示すように、全ての照射部51bからの紫外線の照射を停止させる。
【0102】
次に、図6(d)に示すように、点P1の位置に他方の照射手段512が待機していなければ、制御手段53は、一方の照射手段511を点P1の位置に移動させ、当該点P1の位置に印刷シートSが送られるまで一方の照射手段511を待機させる。
【0103】
同様に、制御手段53は、他方の照射手段512についても制御する。すなわち、図6(a)に示すように、点P1の位置に他方の照射手段512が待機している状態で、制御手段53は、移動手段52の他方の保持部522の移動を制御し、その回転方向(矢印D3方向)において点P2から点P1の間の所定の位置に他方の照射手段512を待機させる。
【0104】
次に、図6(b)および図6(c)に示すように、一方の照射手段511を回転移動させた場合、制御手段53は、移動手段52の他方の保持部522の移動を制御し、点P1の位置にて他方の照射手段512を待機させる。
【0105】
次に、図6(c)の状態において、点P1の位置で渡し胴35の咥え爪35aが印刷シートSを受け取った場合、制御手段53は、他方の照射手段512による紫外線の照射を開始させる。さらに、制御手段53は、図6(d)に示すように、渡し胴35による印刷シートSの搬送に伴い、移動手段52を制御して他方の保持部522により他方の照射手段512を回転移動させる。これにより、渡し胴35によって搬送される印刷シートSの印刷面のUVインキに対して紫外線が照射されることで当該UVインキが乾燥される。
【0106】
他方の照射手段512による紫外線の照射を開始させる場合、制御手段53は、上記と同様に、印刷開始情報(胴入れ情報)または印刷シート供給情報の入力を切っ掛けとし、印刷シート情報および搬送速度情報に基づいて、点P1の位置に印刷シートSが送られることを判断する。この判断により制御手段53は、図8(a)に示すように、シート検出手段54を構成する照射部51bにより紫外線を照射しつつ受光部51cにより反射した紫外線を受光する。さらに、制御手段53は、シート検出手段54において受光部51cが受光する紫外線を印刷シートSが遮ることで印刷シートSが搬送されたことを検知する。この印刷シートSの検知により、制御手段53は、図8(b)に示すように、印刷シートSのUVインキを乾燥させるべく各照射部51bから紫外線を照射させる。また、他方の照射手段512を回転移動させる場合、制御手段53は、上記と同様に、入力された搬送速度情報に基づき、渡し胴35による印刷シートSの搬送速度に対し、他方の照射手段512の移動速度が遅くなるように移動手段52を制御する。
【0107】
次に、図6(e)に示すように、他方の照射手段512が点P2の位置に至るまでの間、点P2の位置で渡し胴35の咥え爪35aが印刷シートSを受け渡し、印刷シートSの後端が他方の照射手段512の照射部51bに対向する位置から離隔した場合、制御手段53は、他方の照射手段512による紫外線の照射を停止させる。
【0108】
他方の照射手段512による紫外線の照射を停止させる場合、制御手段53は、印刷開始情報(胴入れ情報)または印刷シート供給情報の入力を切っ掛けとし、印刷シート情報および搬送速度情報に基づいて、印刷シートSの後端が他方の照射手段512の照射部51bに対向する位置から離隔したと判断する。さらに、制御手段53は、シート検出手段54において印刷シートSが遮っていた紫外線を受光部51cが受光することで印刷シートSの後端が他方の照射手段512の照射部51bに対向する位置から離隔したことを検知する。この印刷シートSの離隔の検知により、制御手段53は、図8(c)に示すように、全ての照射部51bからの紫外線の照射を停止させる。
【0109】
次に、図6(b)に示すように、点P1の位置に一方の照射手段511が待機していなければ、制御手段53は、他方の照射手段512を点P1の位置に移動させ、当該点P1の位置に印刷シートSが送られるまで他方の照射手段512を待機させる。
【0110】
なお、制御手段53は、印刷シート情報に基づいて、印刷シートSの幅方向Wの寸法を認識できる。これにより、照射手段51の電力消費を低減するため、制御手段53は、図8(b)に示すように、幅方向Wに沿って複数並設された照射部51bのうち、印刷シートSの寸法分の幅W1の照射部51bによる紫外線の照射を行い、印刷シートSの寸法よりも外側の幅W2の照射部51bによる紫外線の照射を停止する。
【0111】
また、制御手段53は、印刷シートSの搬送の不具合などにより印刷シートSが送られない事態を印刷機から入力した場合、照射手段51による紫外線の照射を停止すると共に、移動手段52による照射手段51の移動を停止する。
【0112】
このように、本実施の形態の乾燥装置5は、シートを搬送する搬送手段の一例としての渡し胴35に搬送される印刷シートSの有無を検出するシート検出手段54を備え、制御手段53は、シート検出手段54による印刷シートS有りの検出に応じて所定の照射手段51による紫外線の照射を開始する一方、シート検出手段54による印刷シートS無しの検出に応じて所定の照射手段51による紫外線の照射を停止する。
【0113】
これにより、上述した実施の形態1の乾燥装置5、乾燥方法および印刷機の効果に加え、シート検出手段54による印刷シートSの有無の検出に応じて照射手段51による紫外線の照射を開始または停止することから、照射手段51による紫外線照射のタイミングをより正確にし、照射手段51(511,512)の電力消費をより低減することが可能になる。
【0114】
また、本実施の形態の乾燥装置5は、各照射手段51(511,512)の照射部51bは、発光ダイオードである。
【0115】
これにより、上述した実施の形態1の乾燥装置5、乾燥方法および印刷機の効果に加え、発光ダイオードは、照射する紫外線が特定波長のみであることから、その波長の強度をシート検出手段54により検出することで、印刷シートSの有無をより正確に検出することが可能になる。
【0116】
なお、上述した各実施の形態では、印刷シートSに印刷されるインキは、紫外線が照射されることで乾燥して固化する紫外線硬化性インキを例に説明したが、この限りではない。印刷シートSに印刷されるインキは、紫外線(紫外線硬化型)以外に、例えば、可視光(光硬化型)や赤外線(赤外線硬化型、熱硬化型)など、総称して光線で乾燥されるものであってもよい。また、光線で乾燥されるものは、インキ以外に、例えば、ニスのようなコーティング材など、総称して塗工材であってもよい。なお、塗工材の一例であるコーティング材を、印刷を施さないシートにコーティングして乾燥する場合もあるため、上述した実施の形態の印刷シートSを含み、塗工材が転写されるものをシートと称する。また、印刷を施さないシートにコーティングされる面を、上述した実施の形態での印刷面を含み塗工面と称する。
【産業上の利用可能性】
【0117】
以上のように、本発明に係る乾燥装置および乾燥方法ならびに印刷機は、照射手段の移動構造の簡素化、摩擦熱発生の抑制、および印刷の高速化対応を実現することに適している。
【符号の説明】
【0118】
11 給紙部
12 印刷部
13 排紙部
34 圧胴
35 渡し胴(搬送手段の一例)
41 排紙胴
5 乾燥装置
51(511,512) 照射手段
51a ケーシング
51b 照射部
51c 受光部
52 移動手段
521,522 保持部
521a ベアリング
521b 歯車
521c 長穴
522a ベアリング
522b 固定部
522c 歯車
53 制御手段
54 シート検出手段
S 印刷シート(シート)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートの塗工面に転写された塗工材に光線を照射して乾燥させる乾燥装置において、
前記シートを搬送する搬送手段と、
前記搬送手段により搬送される前記シートの塗工材に向けて光線を照射する複数の照射手段と、
各前記照射手段を一方向に独立して回転移動させる移動手段と、
を備えることを特徴とする乾燥装置。
【請求項2】
前記移動手段は、前記搬送手段による前記シートの搬送方向に沿って各前記照射手段を回転移動させることを特徴とする請求項1に記載の乾燥装置。
【請求項3】
前記搬送手段は、前記シートの塗工面を所定の円軌跡の中心側に向けると共に当該シートを前記円軌跡に沿って搬送し、各前記照射手段は、前記円軌跡内に配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載の乾燥装置。
【請求項4】
前記搬送手段における前記シートの搬送に伴い、前記移動手段による各前記照射手段の移動、および各前記照射手段による光線の照射の開始または停止を制御する制御手段を備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の乾燥装置。
【請求項5】
前記搬送手段に搬送される前記シートの有無を検出するシート検出手段を備え、
前記制御手段は、前記シート検出手段による前記シート有りの検出に応じて所定の前記照射手段による光線の照射を開始する一方、前記シート検出手段による前記シート無しの検出に応じて所定の前記照射手段による光線の照射を停止することを特徴とする請求項4に記載の乾燥装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記搬送手段による前記シートの搬送速度に対し、各前記照射手段を遅い移動速度とする態様で前記移動手段を制御することを特徴とする請求項4または5に記載の乾燥装置。
【請求項7】
前記制御手段は、前記シートの搬送が停止した場合、前記照射手段による光線の照射を停止することを特徴とする請求項4〜6のいずれか一つに記載の乾燥装置。
【請求項8】
各前記照射手段は、発光ダイオードであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一つに記載の乾燥装置。
【請求項9】
前記移動手段は、
円筒状に形成された外周に1つの前記照射手段が固定され円筒状の中心の軸心の廻りに回転可能に設けられた保持部と、
円筒状の前記保持部内に挿通されて前記軸心の廻りに回転可能に設けられ、回転方向に沿って円筒状の前記保持部に形成された長穴を通して円筒状の前記保持部の外側で他の1つの前記照射手段が固定された他の保持部と、
を備えることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一つに記載の乾燥装置。
【請求項10】
シートの塗工面に転写された塗工材に光線を照射して乾燥させる乾燥方法において、
複数の照射手段を同一方向に独立して回転移動させつつ、順次搬送される個々の前記シートの塗工材に向けて個々の前記照射手段により光線を照射することを特徴とする乾燥方法。
【請求項11】
シートを供給する給紙部と、給紙された前記シートの塗工面に塗工材を転写する印刷部と、前記シートの塗工材に光線を照射して乾燥させる乾燥装置と、塗工材が乾燥された前記シートを排出する排紙部とを備える印刷機において、
前記乾燥装置として、上記請求項1〜9のいずれか一つに記載の乾燥装置を適用することを特徴とする印刷機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−961(P2012−961A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−140984(P2010−140984)
【出願日】平成22年6月21日(2010.6.21)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】