説明

二成分間の相互作用パラメータの算出方法及び二成分の混和性の評価方法

【課題】二成分の混和性の評価方法としては、当該成分毎に溶解性パラメータを求めなければならなかった。
【解決手段】二成分の混和性の評価方法であって、熱平衡状態構造をとるように、第一成分の分子モデルと第二成分の分子モデルとを、周期境界条件が課された三次元セル内に配置する工程と、上記熱平衡状態構造における、第一成分の分子モデル及び第二成分の分子モデルの混合系のポテンシャルエネルギーAを算出する工程と、第二成分のポテンシャルエネルギーBを算出する工程と、第一成分のポテンシャルエネルギーCを算出する工程と、上記ポテンシャルエネルギーAから、上記ポテンシャルエネルギーB及びCを差し引いた値を分子モデルの体積で除して、相互作用パラメータを算出する工程と、上記相互作用パラメータと基準値とを比較して、第一成分と第二成分との混和性を評価する評価工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二成分間の相互作用パラメータの算出方法及び二成分の混和性の評価方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1には、二成分混合溶液の混和性を評価する方法として、各々の成分の溶解性パラメータ(SP値)から混和性を評価する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】溶解性パラメータ適用事例集〜メカニズムと溶解性の評価・計算例を踏まえて〜、株式会社 情報機構(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、非特許文献1等に記載された、二成分混合溶液の混和性(相溶性)の評価方法の一例では、混合溶液の混和性を評価する前提として、混合溶液を構成する成分毎に溶解性パラメータを求めなければならないという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、上記課題を解決するために、溶解性パラメータとは異なる方法で二成分の混和性を評価する方法等について鋭意検討を行った。その結果、化学的に安定な熱平衡状態構造の解析によって相互作用パラメータの算出が可能であり、かつ、算出された相互作用パラメータでニ成分の混和性を評価できることを見出し、本発明に至った。
【0006】
すなわち、本発明に係る相互作用パラメータの算出方法は、上記の課題を解決するために、液状物質又は固体状物質である第一成分と、第一成分とは異なる液状物質である第二成分との間の、所定の温度条件及び所定のモル比条件下における相互作用パラメータを、分子モデルを用いて算出する方法であって、上記所定のモル比でかつ上記所定の温度条件下で熱平衡状態構造をとるように、上記第一成分の分子モデルと上記第二成分の分子モデルとを、周期境界条件が課された三次元セル内に配置する第一工程と、上記熱平衡状態構造における、第一成分の分子モデル及び第二成分の分子モデルの混合系のポテンシャルエネルギーAを算出する第二工程と、上記熱平衡状態構造から上記第一成分の分子モデルを取り除いた構造における、第二成分のポテンシャルエネルギーBを算出する第三工程と、
上記熱平衡状態構造から上記第二成分の分子モデルを取り除いた構造における、第一成分のポテンシャルエネルギーCを算出する第四工程と、上記ポテンシャルエネルギーAから、上記ポテンシャルエネルギーB及び上記ポテンシャルエネルギーCを差し引いた値を、三次元セル内に配置された上記第一成分及び第二成分の分子モデルの体積で除して、第一成分と第二成分との間の相互作用パラメータを算出する第五工程と、を含むことを特徴としている。
【0007】
上記の構成によれば、成分毎の溶解性パラメータ等の推算を要せず、かつ比較的少ない計算量にて、二成分間の相互作用パラメータを算出する方法を提供することができるという効果を奏する。
【0008】
本発明に係る相互作用パラメータの算出方法は、上記第二工程から第四工程において、ポテンシャルエネルギーA、B、及びCの算出はいずれも一点計算で行うことが好ましい。
【0009】
本発明に係る相互作用パラメータの算出方法は、上記第一工程において、上記三次元セル内に配置する、上記第一成分の分子モデル及び上記第二成分の分子モデルの合計数を100分子以上で3000分子以下の範囲内とすることが好ましい。
【0010】
本発明に係る相互作用パラメータの算出方法は、上記第一工程では、上記第一成分の分子モデルと上記第二成分の分子モデルとを、上記所定のモル比で、周期境界条件が課された上記三次元セル内に配置し、上記所定の温度条件に設定して分子動力学計算を行い、上記熱平衡状態構造を作成することが好ましい。さらに、上記分子動力学計算を行う前に、上記分子モデルが配置された上記三次元セルを、分子力学計算により、化学的により安定な構造にすることがより好ましい。
【0011】
本発明に係る相互作用パラメータの算出方法において、上記第一成分及び第二成分が何れも炭素数0以上で6以下の化合物であることが好ましい。
【0012】
本発明に係る相互作用パラメータの算出方法において、上記所定の温度が、273K以上で353K以下の範囲内であることが好ましい。
【0013】
本発明に係る相互作用パラメータの算出方法において、上記第一成分と第二成分との上記所定のモル比は、1:9から9:1の範囲内であることが好ましい。
【0014】
本発明に係る混和性の評価方法は、液状物質又は固体状物質である第一成分と、第一成分とは異なる液状物質である第二成分との、所定の温度条件及び所定のモル比条件下における混和性の評価方法であって、上記相互作用パラメータの算出方法により算出した相互作用パラメータと基準値とを比較して、第一成分と第二成分との混和性を評価する評価工程を含むことを特徴としている。
【0015】
上記の構成によれば、成分毎の溶解性パラメータ等の推算を要せず、かつ比較的少ない計算量にて算出された二成分間の相互作用パラメータを用いて、混和性の評価を精度よく行うことができるという効果を奏する。
【0016】
本発明に係る混和性の評価方法において、上記評価工程は、上記相互作用パラメータの絶対値と上記基準値とを比較して、当該相互作用パラメータの絶対値が当該基準値より小さければ混和性が低いと評価し、当該相互作用パラメータの絶対値が当該基準値以上であれば混和性が高いと評価することが好ましい。
【0017】
また、本発明に係る混和性の評価方法において、上記基準値は、実験系で混和性が確認された2種成分の混合系について、上記所定の温度条件及び所定のモル比条件下で、上記相互作用パラメータの算出方法により算出した相互作用パラメータであることが好ましい。
【0018】
本発明に係る相互作用評価装置は、所定の温度条件及び所定のモル比条件下で液状物質又は固体状物質である第一成分と、第一成分とは異なる液状物質である第二成分との間の、当該所定の温度条件及び所定のモル比条件下における相互作用パラメータを算出する装置であって、上記所定のモル比でかつ上記所定の温度条件下で熱平衡状態構造をとるように、上記第一成分の分子モデルと上記第二成分の分子モデルとが、周期境界条件が課された三次元セル内に配置された三次元セルを作成するセル作成手段と、上記セル作成手段が作成した熱平衡状態構造に基づき、以下の(1)から(3)に示すポテンシャルエネルギーA、B、及びCを算出するポテンシャルエネルギー算出手段と、
(1)上記熱平衡状態構造における、第一成分の分子モデル及び第二成分の分子モデルの混合系のポテンシャルエネルギーAの算出、(2)上記熱平衡状態構造から上記第一成分の分子モデルを取り除いた構造における、第二成分のポテンシャルエネルギーBの算出、(3)上記熱平衡状態構造から上記第二成分の分子モデルを取り除いた構造における、第一成分のポテンシャルエネルギーCの算出、
上記ポテンシャルエネルギー算出手段が算出した上記ポテンシャルエネルギーAから上記ポテンシャルエネルギーB及びCを差し引いた値を、上記三次元セル内に配置された上記第一成分及び第二成分の分子モデルの体積で除して、第一成分と第二成分との間の相互作用パラメータを算出する相互作用パラメータ算出手段と、を含むことを特徴としている。
【0019】
上記の構成によれば、成分毎の溶解性パラメータ等の推算を要せず、かつ比較的少ない計算量にて、二成分間の相互作用パラメータを算出する装置を提供することができるという効果を奏する。
【0020】
本発明に係る相互作用評価装置は、上記相互作用パラメータ算出手段が算出した相互作用パラメータと基準値とを比較して、上記第一成分と第二成分との混和性を評価する評価手段を含むことが好ましい。
【0021】
本発明は、さらに、上記相互作用評価装置を動作させるプログラム、及び当該プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体を提供する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、二成分混合系を構成する成分毎に溶解性パラメータを求めることなく、該二成分間の混和性が評価可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る相互作用評価装置の一例を説明する概略図である。
【図2】図1に示す相互作用評価装置を用いて、相互作用パラメータを算出する方法の一例を示すフローチャートである。
【図3】(a)〜(d)は、混合系モデルの作成後に、相互作用評価装置の出力表示部に表示される出力表示の一例を示す図である。
【図4】本発明に係る一実施例における、第一成分及び第二成分の種々の組合せについての相互作用パラメータの推算結果を示す図である。
【図5】(a)〜(e)は、本発明に係る他の実施例における、第一成分及び第二成分の種々の組合せについての相互作用パラメータの推算結果を示す図である。
【図6】(a)〜(e)は、本発明に係るさらに他の実施例における、第一成分及び第二成分の種々の組合せについての相互作用パラメータの推算結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0025】
〔二成分間の相互作用評価装置〕
図1は、本発明に係る二成分間の相互作用評価装置1の構成の一例を示す概略図である。相互作用評価装置1は、入力部11、制御部20、記憶部30、及び出力表示部12を備える。
【0026】
入力部11は、制御部20で処理される情報をユーザーが入力する入力装置である。入力部11は、例えば、マウス、キーボード、又はタッチパネル等で構成される。
【0027】
記憶部30は、例えば、制御部20を構成する各部(後述する)で処理された結果を、当該各部からの指令により格納する。記憶部30に格納された処理結果は、必要に応じて、制御部20を構成する他の部によって読み出され、制御部20(の他の部)でのさらなる処理に供される。また、記憶部30は、後述するが、例えば、混和性評価のための基準値の情報を格納する。
【0028】
出力表示部12は、制御部20を構成する各部での処理結果をユーザーに提示する表示装置である。出力表示部12は、例えば、液晶表示装置等で構成される。
【0029】
制御部20は、入力部11からの入力に応じた情報処理等も行う部であり、分子モデル作成部(分子モデル作成手段)21、混合系モデル作成部(混合系モデル作成手段)22、混合系モデル熱平衡計算部(混合系モデル熱平衡計算手段:セル作成手段)23、ポテンシャルエネルギー計算部(ポテンシャルエネルギー算出手段)24、体積計算部(体積算出手段)25、相互作用パラメータ計算部(相互作用パラメータ算出手段)26、及び混和性評価部(混和性評価手段)27を備える。なお、相互作用評価装置1が相互作用パラメータの算出のみを行う場合は、混和性評価部27は備える必要はない。
【0030】
分子モデル作成部21は、混合系における相互作用を評価したい二種類の成分(第一成分、及び第二成分)それぞれの分子モデルを作成する。そして、分子モデル作成部21は、作成した分子モデルを、混合系モデル作成部22での処理に供する。
【0031】
混合系モデル作成部22は、分子モデル作成部21から供された上記第一成分及び第二成分の分子モデルを、周期境界条件の課された三次元セル内に配置して初期構造を作成し、当該初期構造を混合系モデル熱平衡計算部23に供する。
【0032】
混合系モデル熱平衡計算部23では、混合系モデル作成部22で作成された、分子モデルを配置した上記三次元セルを、分子力学法(MM法)で構造安定化した後、分子動力学法(MD法)により、化学的に安定な熱平衡状態の構造(熱平衡状態構造)を得る。ここで得られた熱平衡状態の構造は、ポテンシャルエネルギー計算部24に供される。
【0033】
ポテンシャルエネルギー計算部24は、混合系モデル熱平衡計算部23から供された熱平衡状態の構造をもとに、第一成分の分子モデルと第二成分の分子モデルとからなる混合系のポテンシャルエネルギーA、第二成分の分子モデルのみのポテンシャルエネルギーB(熱平衡状態の構造から第一成分の分子モデルをのぞいた構造でのポテンシャルエネルギー)、第一成分の分子モデルのみのポテンシャルエネルギーC(熱平衡状態の構造から第二成分の分子モデルをのぞいた構造でのポテンシャルエネルギー)をそれぞれ求める。そして、ポテンシャルエネルギーの計算に用いた混合系モデル(すなわち、熱平衡状態の構造)の情報は、体積計算部25に供される。また、ポテンシャルエネルギー計算部24は、算出したポテンシャルエネルギーA〜Cを、相互作用パラメータ計算部26に供する。
【0034】
体積計算部25は、ポテンシャルエネルギー計算部24から供された混合系の構造(すなわち熱平衡状態の構造)を用いて、当該混合系の構造に占める分子モデルの体積の総和を求める。ここで、求められる体積の総和は、例えば、第一成分及び第二成分それぞれの分子モデルを構成する各原子がそのファンデルワールス半径の球体からなるとみなした上で分子表面(コノリー表面)を規定して系内に占める分子の体積を計算すればよい。体積計算部25は、算出した混合系内の構造に占める分子モデルの体積の総和を、相互作用パラメータ計算部26に供する。
【0035】
相互作用パラメータ計算部26は、ポテンシャルエネルギー計算部24で得られた、混合系のポテンシャルエネルギーAから、各成分のみからなる系のポテンシャルエネルギーB及びCを引いて、混合系全体での相互作用エネルギーを求める。次いで、相互作用パラメータ計算部26は、混合系全体での相互作用エネルギーを、体積計算部25から供された体積で除して、単位体積当たりの相互作用エネルギー(相互作用パラメータ)を算出する。
【0036】
得られた相互作用パラメータは、第一成分と第二成分との間の相互作用の指標となる。例えば、相互作用パラメータの絶対値が大きいほど、第一成分と第二成分との混和性に優れるという判断に用いることも可能である。また、当該相互作用パラメータを、薬物間相互作用、香気成分間相互作用等の、二成分間の相互作用の判断に用いることも可能である。なお、後述する実施例に示すように、当該相互作用パラメータは、実験結果とも充分に一致する信頼性の高いパラメータである。
【0037】
混和性評価部27は、相互作用パラメータ計算部26で得られた相互作用パラメータを基準値と比較し、所定のモル比及び温度条件下での、第一成分と第二成分との混和性を評価する。なお、「相互作用パラメータを基準値と比較する」とは、相互作用パラメータの絶対値を基準値と比較することも含む概念である。
【0038】
混和性評価部27では、特に限定されないが、例えば、混和性を評価したい第一成分と第二成分との間の相互作用エネルギーの絶対値が上記基準値より小さければ混和性が低いと評価し、当該相互作用エネルギーの絶対値が当該基準値以上であれば混和性が高いと評価する。
【0039】
また、特に限定されないが、混和性を評価したい第一成分と第二成分との組合せとは条件が異なる2種成分の混合系について、相互作用評価装置1により算出した相互作用パラメータ(以下、「基準用パラメータ」と称する)を、上記基準値として用いることができる。ここで、「第一成分と第二成分との組合せとは条件が異なる」とは、1)2種成分を構成する成分の組み合わせ自体が第一成分と第二成分との組み合わせでないこと、2)第一成分と第二成分との組合せであるが、混和性を評価したい系とは温度条件及びモル比条件の少なくとも一方が異なっていること、の少なくとも一方を満たすことを意図する。
【0040】
さらに、上記基準値は、特に限定されないが、特定の温度条件及び特定のモル比条件下での混和性が既知な2種成分の混合系について、相互作用評価装置1により算出した相互作用パラメータ(基準用パラメータ)を用いることが好ましい。ここで「混和性が既知」とは、実験系により混和性が確認済みのことを指す。混和性が既知な2種成分の選択は、評価したい混和性の程度に応じて任意に行いうる。例えば、n−ヘキサン/メチルアルコール(メタノール)の混合系等は、混和性の良否の境界として知られるため、基準値の算出用の2種成分として好適である。
【0041】
上記「基準用パラメータ」は、混和性を評価したい第一成分及び第二成分と同一のモル比条件及び/又は同一の温度条件で、上記2種成分の混合系のモデルを作成して算出されたものであることがより好ましい。特に好ましくは、上記「基準用パラメータ」は、混和性を評価したい第一成分及び第二成分と同一のモル比条件及び同一の温度条件で、上記2種成分(ただし、第一成分と第二成分との組み合わせは除く)の混合系のモデルを作成して算出されたものである。なお、「A及び/又はB」とは、A及びBの少なくとも一方を満たすことを意味する。
【0042】
相互作用評価装置1により算出された上記「基準用パラメータ」は、2種成分の混合系をなす物質名、そのモル比、及び温度条件の情報とセットにして、基準値データテーブルのような形式で記憶部30に格納される。そして、混和性評価部27が混和性の評価を行う際に、これら情報が、混和性評価部27によって記憶部30から読み出される。
【0043】
なお、分子モデル作成部21、混合系モデル作成部22、混合系モデル熱平衡計算部23、ポテンシャルエネルギー計算部24、体積計算部25、相互作用パラメータ計算部26、及び混和性評価部27での処理結果は全て出力表示部12に表示される。従って、ユーザーは、処理結果を視認しながら操作を行うことができる。
【0044】
制御部20を構成する各部での処理結果は、記憶部30に格納された後、必要に応じて、制御部20を構成する他の部によって記憶部30から読み出されて、制御部20(の他の部)でのさらなる処理に供されてもよい。
【0045】
制御部20における処理フローの一例は、以下に詳細に説明を行う。
【0046】
〔相互作用パラメータの算出方法、混和性の評価方法、及び処理フロー〕
本発明に係る相互作用パラメータの算出方法は、所定の温度条件及び所定のモル比条件下で液状物質又は固体状物質である第一成分と、第一成分とは異なる液状物質である第二成分との間の、当該所定の温度条件及び所定のモル比条件下における相互作用パラメータを、分子モデルを用いて算出する方法であって、例えば、相互作用評価装置1を用いて実行される。
【0047】
相互作用パラメータの算出方法は、
化学的に安定な熱平衡状態構造をとるように、上記第一成分の分子モデルと上記第二成分の分子モデルとを、周期境界条件が課された三次元セル内に配置する第一工程と、
上記熱平衡状態構造における、第一成分及び第二成分の混合系のポテンシャルエネルギーAを算出する第二工程と、
上記熱平衡状態構造から上記第一成分の分子モデルを取り除いた構造における、第二成分のポテンシャルエネルギーBを算出する第三工程と、
上記熱平衡状態構造から上記第二成分の分子モデルを取り除いた構造における、第一成分のポテンシャルエネルギーCを算出する第四工程と、
上記ポテンシャルエネルギーAから、上記ポテンシャルエネルギーB及びCを差し引いた値を、三次元セル内に配置された上記第一成分及び第二成分の分子モデルの体積で除して、第一成分と第二成分との間の相互作用パラメータを算出する第五工程と、を含む。
【0048】
すなわち、本発明に係る分子モデルを用いたシミュレーションの過程は大きく3つの部分に分けられる。第一は、第一成分及び第二成分の分子モデルを、熱平衡状態構造を取るように三次元セル内に配置する工程(上記第一工程に相当)、第二は、熱平衡状態構造において、混合系のポテンシャルエネルギー、及び混合系を構成する各成分(第一成分及び第二成分)のポテンシャルエネルギーを計算する工程であり(上記第二〜第四工程に相当)、第三は、得られたポテンシャルエネルギーと混合系の体積とから相互作用パラメータを算出する工程である(上記第五工程に相当)。
【0049】
すなわち、本発明によれば、二成分間で取りうる様々な構造を考慮することなく、上記熱平衡状態構造のみを対象にしたポテンシャルエネルギーの計算を行うことで二成分間の相互作用パラメータを算出可能である。そのため、計算量が少なくてすむという利点を有する。
【0050】
以下、相互作用評価装置1を用いて実行される、本発明に係る相互作用パラメータの算出方法及び混和性の評価方法(混和性の推定方法)を、図2に示すフローチャート、及び図1を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明において、ステップS1〜S11は、図2のフローチャートに示すS1〜S11に相当する。
【0051】
(1)熱平衡化前の初期構造の構築(工程A〜B)
(工程A)
工程Aでは、分子モデル作成部21が、相互作用パラメータの算出及び混和性の評価対象となる分子(すなわち、第一成分、及び第二成分)の分子モデルを作成する(S1)。ここで、分子モデルは、コンピュータで処理可能なように、当該分子を構成する原子の種類に係る情報、原子同士の結合関係に係る情報、及び当該原子間の位置関係情報を少なくとも有するものであれば良いが、ユーザーの操作性向上のため、これら情報が画像にて提示されることが好ましい。工程Aを実現するための分子モデル作成プログラムは特に限定しないが、例えば、アクセルリス社の商品名Materials Stusio等に内蔵されているVisualizerが挙げられる。S1の実行において、入力部11が受け付ける具体的な入力は、第一成分及び第二成分に相当する分子の描画であり、これにより、当該分子を構成する原子の種類に係る情報、原子同士の結合関係に係る情報、及び当該原子間の位置関係情報等の分子モデル情報が、コンピュータで処理可能な形式で受け付けられる。
【0052】
S1で作成した分子モデルについて、分子モデル作成部21が、例えば、MO法による最適化を行わなくとも工程B以下の処理が実行可能か否かを判断基準のひとつとして分子軌道法(MO法)による最適化の要否を判断する(S2)。そして、MO法による最適化が必要と判断された場合、分子モデル作成部21が、当該分子モデルをMO法により最適化し(S3)、最適化された当該分子モデルが工程B以降に供される。一方、S2にてMO法による最適化が不要と判断された場合には、S1にて作成された分子モデルは分子力学法(MM法)で化学的により安定な構造にし(S3’)、工程B以降に供される。
【0053】
上記S3の実行において、入力部11が受け付ける具体的な入力は、MO法による分子シミュレーション計算の計算条件及び計算対象の情報であり、上記S3’の実行において、入力部11が受け付ける具体的な入力は、MM法による分子シミュレーション計算の計算条件及び計算対象の情報である。また、S3の実行で得られる出力は、MO法により最適化された後の分子モデルの情報であり、S3’の実行で得られる出力は、MM法により最適化された後の分子モデルの情報である。これら情報は何れもコンピュータ処理可能な形式で出力される。
【0054】
ここで、「MO法により分子モデルを最適化する」とは、より具体的には、分子モデルがとり得る分子エネルギーの最小値を求めることを指す。ここで用いる分子軌道法プログラムの種類は特に限定されないが、例えば、上述のMaterials Studioに内蔵されたDMol等が挙げられる。
【0055】
また、「MM法で化学的により安定な構造」とは、分子力学計算(MM計算)により得られる当該分子のエネルギーが、初期構造のエネルギーより小さくなる安定配座を求めることであり、特に好ましくは、MM計算により得られる当該分子のエネルギーが最小となる安定配座を求めることである。ここで用いる分子力学法プログラムの種類は特に限定されないが、例えば、上述のMaterials Studioに内蔵されたDiscover等が挙げられる。
【0056】
特に、取扱う分子に配座異性体が存在する場合は、S3により分子モデルを最適化することがより好ましい。その理由は、分子の配座により分子がエネルギーの最小値以外に極小値を複数とり得るからである。
【0057】
MM計算の方法は、特に限定されないが、例えば、使用するソフトウェアに内蔵された方法を適宜用いることができる。具体的には、例えば、最大傾斜法(steepest descent method)、共役勾配法(conjugate gradient method)、及びニュートン-ラフソン法(Newton-Raphson method)を組み合わせた方法等を用いることができる。また、ファンデルワールス相互作用エネルギーの算出、クーロン相互作用エネルギーの算出にはatom based法を使用し、例えば、カットオフ長9.5Å、スプライン幅1.0Å、バッファー幅0.5Åと設定する。
【0058】
(工程B)
S4’及びS4で示す工程Bでは、混合系モデル作成部22が、例えば、工程Aにて得られた第一成分及び第二成分の分子モデルを、周期境界条件の課された三次元セルにランダムに配置して混合系モデルを作成する。ここで、三次元セル内に配置される第一成分及び第二成分の分子モデルのモル比は、混和性等の相互作用を評価することを希望する第一成分と第二成分とのモル比である。
【0059】
工程Bを実現するための混合系モデル作成プログラムは特に限定しないが、例えば、アクセルリス社の商品名Materials Stusio等に内蔵されているAmorphous Cellが挙げられる。混合系モデルにおける分子数(原子数)、及び密度は、特に限定されないが、例えば、上記三次元セル内に100分子以上で3000分子以下(300原子以上で10000原子以下)の範囲内で、かつ密度1g/cmで作成することができる。混合系モデルにおける分子数(原子数)は、より好ましくは、上記三次元セル内に100分子以上で1000分子以下(300原子以上で3100原子以下)の範囲内である。なお、ここで例示した分子数、及び密度は、第一成分と第二成分とを合計したものである。
【0060】
工程Bにおいて、入力部11が受け付ける具体的な入力は、三次元セル内に配置される第一成分及び第二成分の分子モデル名、各分子モデルのモル数、及び三次元セル内での分子モデルの密度(g/cm)等である(ステップS4’に相当)。これら入力が受け付けられると、混合系モデル作成部22が、適当な格子定数で規定された三次元セルを作成し、当該三次元セルの中に、指定されたモル数の分子モデルを配置した混合系モデルを出力する(ステップS4に相当)。混合系モデルは、適当な格子定数で規定された三次元セルと、適当な空間分布で三次元セル内に配置された分子モデル(空間内での座標情報を含む)とからなり、コンピュータで処理可能なモデルである。なお、三次元セルは、各辺の長さが等しい立方体セルであることがより好ましい。
【0061】
(2)熱平衡状態の計算(工程C)
工程Cでは、混合系モデル熱平衡計算部23が、工程Bで作成された混合系モデルを、必要に応じてMM法により、化学的により安定な構造にし(S5に相当)、更に、温度条件を設定してMD法により熱平衡状態構造を作成する(S6’〜S6に相当)。
【0062】
上記S5の実行において、入力部11が受け付ける具体的な入力は、MM法による分子シミュレーション計算の計算条件及び計算対象の情報である。上記S6の実行において、入力部11が受け付ける具体的な入力は、第一成分と第二成分との間の混和性等の相互作用を評価することを希望する温度条件、並びに、その他のMD法による分子シミュレーション計算の計算条件及び計算対象の情報である(S6’に相当)。また、S5の実行で得られる出力は、MM法により最適化された後の混合系モデルの情報であり、S6の実行で得られる出力は、MD法により熱平衡状態の構造とされた混合系モデルの情報である。これら情報は何れもコンピュータ処理可能な形式で出力される。
【0063】
ここで、「MM法により、化学的により安定な構造」とは、MM法による分子シミュレーションにより、隣接する原子同士が接近し過ぎないように原子間距離をより適切な位置に保ち系内のエネルギーがより小さくなるような安定な構造にすることである。また、「温度条件を設定してMD法により熱平衡状態構造を作成する」とは、設定した温度において系内のエネルギーがより安定になるような分子配置を、MD法による分子シミュレーションで求めることである。なお、工程Cは、MM計算(MM法に基づく計算)、MD計算(MD法に基づく計算)を行うためのソフトウェアを適宜利用して実現可能である。
【0064】
MM計算、及びMD計算に用いる力場は、当該計算の用途に用いられるものであれば特に限定されないが、例えば、COMPASS(Condensed−phase Optimized Molecular Potentials for Atomistic Simulation Studies)力場(Polymer,2006,Vol.47,6004-6009等参照;DREIDING力場(J.Pharm.Sci.,2008,Vol.97,3456-3461等参照);CVFF力場(Chem.Phys.Lett.,2000,Vol.327,18-22等参照);PCFF力場(Micro.Meso.Materials.,2008.Vol.109,342-349等参照);等、が挙げられ、とりわけ信頼性の高いCOMPASSを使用することが好ましい。
【0065】
MM計算の方法は、特に限定されないが、例えば、使用するソフトウェアに内蔵された方法を適宜用いることができる。具体的には、例えば、最大傾斜法(steepest descent method)、共役勾配法(conjugate gradient method)、及びニュートン-ラフソン法(Newton-Raphson method)を組み合わせた方法等を用いることができる。また、ファンデルワールス相互作用エネルギーの算出、及びクーロン相互作用エネルギーの算出にはgroup based法を使用し、例えば、カットオフ長9.5Å、スプライン幅1.0Å、バッファー幅0.5Åと設定する。
【0066】
MD計算の方法は、特に限定されないが、例えば、使用するソフトウェアに内蔵された方法を適宜用いることができる。具体的には、NPTアンサンブルを用いることができる。また、タイムステップは0.5〜1.0フェムト秒、ファンデルワールス相互作用エネルギーの算出、クーロン相互作用エネルギーの算出にはgroup based法を使用し、例えば、カットオフ長9.5Å、スプライン幅1.0Å、バッファー幅0.5Åと設定する。
【0067】
MM計算、MD計算に使用するソフトウェアは、特に限定されないが、例えば、上述のMaterials Studioに内蔵されているDiscoverなどが好適なものとして挙げられる。
【0068】
なお、初期設定した密度で、混合系モデルのMM法及びMD法による計算を行った場合に分子間距離が短いためにエラーが発生する場合は、混合系モデルの密度を段階的に下げながらMM法及びMD法による再計算を行うようにすればよい。
【0069】
(3)相互作用パラメータの計算(工程D〜G)
(工程D:S7)
工程Dでは、ポテンシャルエネルギー計算部24が、工程Cで得られた熱平衡状態構造において、混合系を構成した状態の第一成分及び第二成分のポテンシャルエネルギーの総和、すなわち混合系全体のポテンシャルエネルギーを算出する。ここで、ポテンシャルエネルギーの算出は、好ましくは一点計算により行う。
【0070】
上記S7の実行において、入力部11が受け付ける具体的な入力は、例えば一点計算によるポテンシャルエネルギーの計算条件及び計算対象の情報である。また、S7の実行で得られる出力は、混合系全体のポテンシャルエネルギーというコンピュータで処理可能な数値情報である。
【0071】
(工程E:S8)
工程Eでは、ポテンシャルエネルギー計算部24が、工程Cで得られた熱平衡状態構造から第一成分の分子モデルを除いた、第二成分の分子モデルのみからなる構造において、そのポテンシャルエネルギーを算出する。ここで、ポテンシャルエネルギーの算出は、好ましくは一点計算により行う。
【0072】
上記S8の実行において、入力部11が受け付ける具体的な入力は、例えば一点計算によるポテンシャルエネルギーの計算条件及び計算対象の情報である。また、S8の実行で得られる出力は、第二成分の分子モデルのみからなる構造のポテンシャルエネルギーというコンピュータで処理可能な数値情報である。
【0073】
(工程F:S9)
工程Fでは、ポテンシャルエネルギー計算部24が、工程Cで得られた熱平衡状態構造から第二成分の分子モデルを除いた、第一成分の分子モデルのみからなる構造において、そのポテンシャルエネルギーを算出する。ここで、ポテンシャルエネルギーの算出は、好ましくは一点計算により行う。
【0074】
上記S9の実行において、入力部11が受け付ける具体的な入力は、例えば一点計算によるポテンシャルエネルギーの計算条件及び計算対象の情報である。また、S9の実行で得られる出力は、第一成分の分子モデルのみからなる構造のポテンシャルエネルギーというコンピュータで処理可能な数値情報である。
【0075】
なお、上記工程E及び工程Fにおいて、複数分子(第一成分及び第二成分)が存在する系から特定の分子のみ(第一成分のみ、又は第二成分のみ)を除く方法は、特に限定されないが、例えば、使用するソフトウェアに内蔵された方法を適宜用いることができる。なお、入力部11に対する具体的な入力は、取り除く分子モデル名である。
【0076】
また、上記工程D、E、及びFにおいて、ポテンシャルエネルギー計算の方法は、特に限定されないが、例えば、使用するソフトウェアに内蔵された方法を適宜用いることができる。具体的には、COMPASS力場を使用し、ファンデルワールス相互作用エネルギーの算出、及びクーロン相互作用エネルギーの算出にはgroup based法を使用し、例えば、カットオフ長9.5Å、スプライン幅1.0Å、バッファー幅0.5Åと設定する。
【0077】
上記工程D、E、及びFにおいて、ポテンシャルエネルギー計算に使用するソフトウェアは、特に限定されないが、例えば、上述のMaterials Studioに内蔵されているDiscoverなどが好適なものとして挙げられる。
【0078】
なお、上記工程D、E、及びFを実行する順序は、適宜入れ替えてもよい。
【0079】
(工程G:S10)
工程Gでは、体積計算部25が、工程CのS6で得た熱平衡状態構造にある混合系モデルの体積を求める。また、相互作用パラメータ計算部26が、工程Dで求めた第一成分及び第二成分の混合系全体のポテンシャルエネルギーE12から、工程Eで求めた第二成分の分子モデルのみからなる構造におけるポテンシャルエネルギーEと、工程Fで求めた第一成分の分子モデルのみからなる構造におけるポテンシャルエネルギーEとを差し引き、第一成分と第二成分との相互作用エネルギーを算出する。そして、この相互作用エネルギーと、混合系モデル中に占める分子モデルの体積Vから、以下の式(1)に基づき、
inter=〔E12−(E+E)〕/V・・・・(1)
単位体積当たりの相互作用エネルギー(相互作用パラメータPinter)を求めることができる。
【0080】
なお、体積計算部25での、上記体積Vの計算は、例えば、工程Cで得られた、混合系の熱平衡状態構造において、各原子がファンデルワールス半径の球体からなるとみなした場合の、当該混合系内に占める分子モデルの体積を求めればよい。
【0081】
体積Vの計算に使用するソフトウェアは、特に限定されないが、例えば、上述のMaterials Studioに内蔵されているツールを使用し、各原子がファンデルワールス半径の球体からなるとみなし球面を連続的に繋いでコノリー表面(Connolly surface)を作成し、コノリー表面により閉じられた空間の体積を、分子モデルの体積として計算することで、求めることができる。
【0082】
(4)混和性の評価工程(工程H:S11)
第一成分と第二成分との混和性の評価工程は、混和性評価部27が、例えば、以下の1)又は2)の何れかに示すように行う。なお、相互作用パラメータの算出のみを目的とする場合は、ステップS11は省略される。
1)工程Gで得た相互作用パラメータPinterの絶対値を算出し、絶対値が大きいものほど混和性が高いと評価する。
2)工程Gで得た相互作用パラメータPinterを算出し、当該パラメータPinterと基準値とを比較して、混和性を評価する。一例としては、上記相互作用パラメータPinterの絶対値と上記基準値とを比較して、当該相互作用エネルギーの絶対値が当該基準値より小さければ混和性が低いと評価し、当該相互作用エネルギーの絶対値が当該基準値以上であれば混和性が高いと評価する。
【0083】
また、上記基準値は、一例として、次のように求めてもよい。まず、混和性が既知な2種成分の混合系を特定する。ここで、「混和性が既知」とは、実験により混和性が確認された2種成分の混合系を指し、文献的に混和性が知られている2種成分の混合系も含む概念である。混和性が既知な2種成分の混合系として、例えば、n−ヘキサンとメチルアルコールとの混合系等が挙げられる。次いで、混和性が既知な2種成分の混合系について、相互作用評価装置1を用いて相互作用パラメータPinterを算出して、これを基準値とする。ここで、混和性の評価を行いたい第一成分及び第二成分とのモル比をR12、かつ温度条件をT12とした場合、上記基準値として用いる相互作用パラメータPinter(混和性が既知な2種成分の混合系のもの)の算出でも、2種成分間のモル比をR12、かつ温度条件をT12として計算を行うことが好ましい。
【0084】
また、上記算出した基準値用の相互作用パラメータPinterは、2種成分の混合系をなす物質名、そのモル比、及び温度条件の情報とセットにして、基準値データテーブルのような形式で記憶部30に格納され、必要に応じて記憶部30から読み出される形式であることが好ましい。
【0085】
本発明に係る相互作用パラメータの算出方法、及びこのパラメータを用いた混和性の評価方法では、以上のように、相互作用パラメータを算出したい第一成分及び第二成分の分子モデルを、熱平衡状態の構造をとるように三次元セル内に配置して、相互作用パラメータ算出用の混合系モデルとして用いる。そして、この混合系モデルについて、混合系全体のポテンシャルエネルギー、第一成分又は第二成分の一方を取り除いた構造でのポテンシャルエネルギー、及び混合系モデルの体積を計算するだけで、実用性の高い相互作用パラメータを取得することができる。そのため、二成分混合系を構成する成分毎の溶解性パラメータの推算を要せず、かつ従来法と比較して少ない計算量にて相互作用パラメータを算出することができるという利点がある。
【0086】
〔プログラム及び記録媒体〕
また、上述した相互作用評価装置1の各ブロック、特に制御部20は、ハードウェアロジックによって構成してもよいし、次のようにCPUを用いてソフトウェアによって実現してもよい。
【0087】
すなわち、相互作用評価装置1は、各機能を実現する制御プログラムの命令を実行するCPU(central processing unit)、上記プログラムを格納したROM(read only memory)、上記プログラムを展開するRAM(random access memory)、上記プログラムおよび各種データを格納するメモリ等の記憶装置(記録媒体)などを備えている。そして、本発明の目的は、上述した機能を実現するソフトウェアである相互作用評価装置1の制御プログラムのプログラムコード(実行形式プログラム、中間コードプログラム、ソースプログラム)をコンピュータで読み取り可能に記録した記録媒体を、上記相互作用評価装置1に供給し、そのコンピュータ(またはCPUやMPU)が記録媒体に記録されているプログラムコードを読み出し実行することによっても、達成可能である。
【0088】
上記記録媒体としては、例えば、磁気テープやカセットテープ等のテープ系、フロッピー(登録商標)ディスク/ハードディスク等の磁気ディスクやCD−ROM/MO/MD/DVD/CD−R等の光ディスクを含むディスク系、ICカード(メモリカードを含む)/光カード等のカード系、あるいはマスクROM/EPROM/EEPROM/フラッシュROM等の半導体メモリ系などを用いることができる。
【0089】
また、相互作用評価装置1を通信ネットワークと接続可能に構成し、上記プログラムコードを通信ネットワークを介して供給してもよい。この通信ネットワークとしては、特に限定されず、例えば、インターネット、イントラネット、エキストラネット、LAN、ISDN、VAN、CATV通信網、仮想専用網(virtual private network)、電話回線網、移動体通信網、衛星通信網等が利用可能である。また、通信ネットワークを構成する伝送媒体としては、特に限定されず、例えば、IEEE1394、USB、電力線搬送、ケーブルTV回線、電話線、ADSL回線等の有線でも、IrDAやリモコンのような赤外線、Bluetooth(登録商標)、802.11無線、HDR、携帯電話網、衛星回線、地上波デジタル網等の無線でも利用可能である。なお、本発明は、上記プログラムコードが電子的な伝送で具現化された、搬送波に埋め込まれたコンピュータデータ信号の形態でも実現され得る。
【0090】
〔評価した混和性の確認〕
本発明に係る方法により推定(評価)された第一成分と第二成分との混和性は、必要に応じて、実験系により確認してもよい。これにより、本発明により推定された混和性の確からしさを把握することができる。なお、本発明に係る方法は、あくまでも混和性を推定し評価する方法であり、実験系で確認した混和性と所定の確率で相関が得られるものであれば十分有用である。なお、混和性とは、異なる二種の成分が一様に混合するか否かの程度を表す。
【0091】
〔評価対象となる分子の組合せ〕
本発明に係る方法により相互作用パラメータが算出される分子(すなわち第一成分及び第二成分の組み合わせ)は、1)第一成分と第二成分とが異なる分子であり、かつ、2)相互作用パラメータを算出したい温度条件及びモル比条件下において、第一成分が液状物質又は固体状物質で、第二成分が液状物質である、という条件を満たすものであれば、特に限定されない。
【0092】
ここで、液状物質とは、液体、及び半固体状の流体(例えば、樹脂溶融物)を指す概念であり、好ましくは液体である。ここで、固体状物質とは、固体、及び流動性の無い半固体状物質(例えば、ゲル等)を指す概念であり、好ましくは固体である。
【0093】
さらに、上記第一成分及び第二成分が何れも炭素数0以上で6以下の化合物であることが好ましく、より具体的には、第一成分及び第二成分はいずれも、炭素数1以上で6以下の液体及び水(炭素数0の化合物の一例)からなる群より選択される、異なる分子の組み合わせであることがより好ましい。
【0094】
上記炭素数1以上で6以下の液体とは、例えば、何れも炭素数1〜6の、アルコール溶媒、芳香族炭化水素溶媒、分岐状又は直鎖状の鎖式炭化水素溶媒、脂環式炭化水素溶媒、ニトリル溶媒、エーテル溶媒、ケトン溶媒、エステル溶媒、アミン溶媒、非プロトン性極性溶媒等が例示される。
【0095】
上記アルコール溶媒として、具体的には例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール等が挙げられる。上記芳香族炭化水素溶媒として、具体的には例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ピリジン等が挙げられる。上記鎖式炭化水素溶媒として、具体的には例えば、四塩化炭素、クロロホルム、ジクロロエタン、n−ペンタン、n−ヘキサン等が挙げられる。上記脂環式炭化水素溶媒として、具体的には例えば、シクロペンタン、シクロヘキサン等が挙げられる。上記ニトリル溶媒として、具体的には例えば、アセトニトリル、アクリロニトリル等が挙げられる。上記エーテル溶媒として、例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル等が挙げられ、上記ケトン溶媒として、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられ、上記エステル溶媒として、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、エチレングリコールジアセテート、プロピレングリコールジアセテート等が挙げられ、上記アミン溶媒として、例えば、エチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、アニリン等が挙げられ、上記非プロトン性極性溶媒として、例えば、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。
【0096】
また、相互作用パラメータの算出条件の一つである、上記第一成分と第二成分との上記所定のモル比は、特に限定されないが、1:9から9:1の範囲内であることが好ましい。さらに、相互作用パラメータの算出条件の一つである、上記所定の温度は、273K以上で353K以下の範囲内であることが好ましい。
【0097】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0098】
以下、図1〜6に基づき、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0099】
〔実施例1〕
図1に示す相互作用評価装置1を用いて、第一成分と第二成分との混和性について、以下の通り評価した。混和性を評価した第一成分と第二成分との組み合わせ(第一成分/第二成分)は、n−ヘキサン/ベンゼン、n−ヘキサン/アセトニトリル、n−ヘキサン/メチルアルコール、n−ヘキサン/水、ベンゼン/アセトニトリル、ベンゼン/メチルアルコール、ベンゼン/水、である。
【0100】
具体的には、相互作用評価装置1により、n−ヘキサン、ベンゼン、アセトニトリル、メチルアルコール、及び水の各分子の分子モデルを作成し、当該分子モデルをMM法で最適化した(工程A:S1〜S3’)。なお、相互作用評価装置1を機能させるプログラムとして、分子モデルの作成(S1)にはMaterials Studioに内蔵されているVisualizerを、MM法による分子モデルの最適化(S3’)には、Materials Studioに内蔵されているDiscoverを使用した。
【0101】
次に、周期境界条件が課された三次元セルに、最適化した二種類の分子モデル(第一成分及び第二成分の分子モデル)をそれぞれ同一原子数(1500原子ずつ)になるようにランダムに配置して、混合系モデルを作成した(S4’〜S4)。混合系モデルの作成には、Materials Stusio等に内蔵されているAmorphous Cellを使用した(工程B:S4’〜S4)。
【0102】
混合系モデルの作成に用いた第一成分(溶媒1)と第二成分(溶媒2)との組合せ、両者のモル比、体積比、三次元セル内に配された分子数及び原子数等は、表1に示す。なお、表1において、「原子数/分子」は対応する1分子を構成する原子数を、「分子/セル」は三次元セル内に配された分子数を、「原子数/セル」は三次元セル内に配された原子数をそれぞれ表す。
【0103】
【表1】

【0104】
そして、作成した混合系モデルをMM法(Smart Minimizer, Ultra-fine)により最適化(S5)した。次いで、NPTアンサンブルを用い、温度条件を298K(S6’)、タイムステップを(1フェムト秒、500ピコ秒→200ピコ秒)とし、MD法により混合系モデルの熱平衡状態構造を取得(S6)した(工程C)。なお、上記MD法による計算において、n−ヘキサンに関してはタイムステップを(0.5フェムト秒、50ピコ秒→100ピコ秒)とし、水に関してはタイムステップを(1フェムト秒、50ピコ秒→100ピコ秒)としている。
【0105】
ここで、MM法による構造の最適化、及びMD法による熱平衡状態構造の取得には、Materials Studioに内蔵されているDiscoverを使用した。なお、混合系モデルの密度1g/cmの初期設定でMM法及びMD法による計算を行っているが、この初期設定では分子間距離が短いためにエラーが発生する場合は、混合系モデルの密度を自動的に下げながらMM法及びMD法による再計算を行った。
【0106】
次に、上記熱平衡状態構造から、混合系全体のポテンシャルエネルギーE12、各成分のポテンシャルエネルギーE及びE、及び混合系に占める分子モデルの体積Vを計算し、それらから相互作用パラメータを算出した(S7〜S10)。なお、上記各ポテンシャルエネルギーの計算には、Materials Studioに内蔵されているDiscoverを使用した。また、混合系に占める分子モデルの体積計算には、Materials Studioに内蔵されているVisualizerを使用した。
【0107】
第一成分と第二成分とがベンゼン/水混合系である場合を例に挙げ、より具体的に説明すると、熱平衡状態にあるベンゼン/水混合系全体のポテンシャルエネルギーE12の計算(工程D:S7)、ベンゼン/水混合系から水分子を除去したベンゼン分子からなる系のポテンシャルエネルギーEの計算(工程E:S8)、及び、ベンゼン/水混合系からベンゼン分子を除去した水分子からなる系のポテンシャルエネルギーEの計算(工程F:S9)を行った。図3の(a)〜(d)は、相互作用評価装置1の出力表示部12に表示される出力表示の一例であり、(a)はS4で作成した初期の混合系モデルの構造を、(b)はS7でポテンシャルエネルギーE12の計算対象とした混合系モデルの構造を、(c)はS8でポテンシャルエネルギーEの計算対象とした構造(水分子除去)を、(d)はS9でポテンシャルエネルギーEの計算対象とした構造(ベンゼン分子除去)を示す。
【0108】
次いで、ベンゼン/水混合系全体のポテンシャルエネルギーE12から、ベンゼン分子からなる系のポテンシャルエネルギーEと水分子からなる系のポテンシャルエネルギーE1とを差し引き、ベンゼン/水混合系の分子モデルの体積Vで除して、ベンゼン/水混合系の単位体積当たりの相互作用エネルギー(相互作用パラメータ)を推算した(工程G:S10)。
【0109】
図4は、第一成分及び第二成分の種々の組合せについての相互作用パラメータの推算結果を示し、同図中の縦軸が、各系における相互作用パラメータに相当する。なお、本実施例では、実験系により混和/非混和の中間的な性質を示すことを確認済みのn−ヘキサンとメチルアルコールとの混合系を基準として用い、相互作用パラメータが35cal/cm(基準値)を超えれば混和と判断した(工程H:S11)。
【0110】
なお、図4の横軸(混和する〜混合しない)に沿って示す○、△、×の表示はそれぞれ「混和する」、「混和/非混和の中間」、「混合しない」ことを指し、実験系により確かめた混和性の評価に相当する。同図に示すように、本実施例の方法により算出した相互作用パラメータを用いた混和性の評価結果は、実験系により確かめた混和性の評価と非常によく一致し、信頼性の高いパラメータであることが裏付けられた。
【0111】
また、下記の表2には、第一成分−第二成分間の溶解度パラメータの差を示し、例えば、n−ヘキサンとアセトニトリルとの溶解パラメータの差は、ベンゼンとメチルアルコールとの溶解パラメータの差より小さい。しかし、n−ヘキサンとアセトニトリルは互いに混和しないが、ベンゼンとメチルアルコールとは互いに混和する。すなわち、溶解度パラメータの差から予測される二成分の混和性よりも、本発明による二成分の混和性の評価のほうが、実際の現象をよく反映している。なお、表2に示す溶解度パラメータは、非特許文献1等に記載された文献値である。
【0112】
【表2】

【0113】
〔実施例2:様々なモル比での検討〕
混合系モデルを作成する段階(工程B:S4’及びS4)で、第一成分と第二成分との混合比率(モル比率)を第一成分/第二成分=1.0/0.1(混合系内の原子数:2884〜3045)、1.0/1.0(混合系内の原子数:2990〜3008)、1.0/2.0(混合系内の原子数:2990〜3008)、1.0/4.0(混合系内の原子数:2992〜3008)、1.0/9.0(混合系内の原子数:2944〜3034)にした以外は、上記実施例1と同様の方法にて、異種分子間における単位体積当たりの相互作用エネルギー(相互作用パラメータ)を推算した。
【0114】
混合系モデルの作成に用いた第一成分(溶媒1)と第二成分(溶媒2)との組合せ、両者のモル比、体積比、三次元セル内に配された分子数及び原子数等は、表3〜表4に示す。なお、表3及び表4において、「原子数/分子」は対応する1分子を構成する原子数を、「分子/セル」は三次元セル内に配された分子数を、「原子数/セル」は三次元セル内に配された原子数をそれぞれ表す。
【0115】
【表3】

【0116】
【表4】

【0117】
また、第一成分と第二成分とからなる混合系全体のポテンシャルエネルギーE12、各成分のポテンシャルエネルギーE及びE、並びに混合系に占める分子モデルの体積Vの計算結果を表5〜表6に示す。なお、表5〜表6中で、「一点計算エネルギー」とは一点計算で求めたポテンシャルエネルギーE12・E・Eを指し、「相互作用エネルギー」とはE12−(E+E)を指し、「溶媒1,2混合 体積」とは体積Vを指し、「単位体積当たりの相互作用エネルギー」とは相互作用パラメータを指す。なお、表中の体積Vは、1つの三次元セル内に詰められた物質を1分子とみなした上で、1モル当たりの体積として算出されている。よって、表中の「単位体積当たりの相互作用エネルギー」の算出に際しては、上記体積Vをアボガドロ数で除した上で計算を行った。
【0118】
【表5】

【0119】
【表6】

【0120】
図5は、表3及び表4に示した第一成分及び第二成分の種々の組合せについての相互作用パラメータの推算結果を示し、同図中の縦軸が、各系における相互作用パラメータに相当する。また、図中の(a)〜(e)は、第一成分/第二成分のモル比がそれぞれ順に、1.0/0.1、1.0/1.0、1.0/2.0、1.0/4.0、及び1.0/9.0の場合の結果に対応する。
【0121】
なお、本実施例では、実験系により混和/非混和の中間的な性質を示すことを確認済みのn−ヘキサンとメチルアルコールとの混合系における相互作用パラメータを基準値として用い、当該基準値を超えれば混和と判断した(工程H:S11)。同図において、実験系により「混和性あり」と確認されたものを、n−ヘキサンとメチルアルコールとの混合系の左側に、「混和性なし」と確認されたものを−ヘキサンとメチルアルコールとの混合系の右側に配置している。
【0122】
同図に示すように、本実施例の方法により算出した相互作用パラメータを用いた混和性の評価結果は、実験系により確かめた混和性の評価と非常によく一致し、信頼性の高いパラメータであることが裏付けられた。
【0123】
〔実施例3:異なる温度条件での検討〕
MD法による熱平衡状態構造の取得の段階(工程C:S6)で、計算に使用した温度条件を333Kにした以外は、上記実施例2と同様の方法にて、異種分子間における単位体積当たりの相互作用エネルギー(相互作用パラメータ)を推算した。すなわち、混合系モデルの作成に用いた第一成分(溶媒1)と第二成分(溶媒2)との組合せ、両者のモル比、三次元セル内に配された分子数及び原子数等は、表3〜表4に示すものと同じである。
【0124】
また、第一成分と第二成分とからなる混合系全体のポテンシャルエネルギーE12、各成分のポテンシャルエネルギーE及びE、並びに混合系に占める分子モデルの体積Vの計算結果を表7〜表8に示す。なお、表7〜表8中における用語の定義は、表5〜表6と共通である。
【0125】
【表7】

【0126】
【表8】

【0127】
図6は、表3及び表4に示した第一成分及び第二成分の種々の組合せについての相互作用パラメータの推算結果を示し、同図中の縦軸が、各系における相互作用パラメータに相当する。また、図中の(a)〜(e)は、第一成分/第二成分のモル比がそれぞれ順に、1.0/0.1、1.0/1.0、1.0/2.0、1.0/4.0、及び1.0/9.0の場合の結果に対応する。
【0128】
なお、本実施例では、実験系により混和/非混和の中間的な性質を示すことを確認済みのn−ヘキサンとメチルアルコールとの混合系における相互作用パラメータを基準値として用い、当該基準値を超えれば混和と判断した(工程H:S11)。同図において、実験系により「混和性あり」と確認されたものを、n−ヘキサンとメチルアルコールとの混合系の左側に、「混和性なし」と確認されたものを−ヘキサンとメチルアルコールとの混合系の右側に配置している。
【0129】
同図に示すように、本実施例の方法により算出した相互作用パラメータを用いた混和性の評価結果は、実験系により確かめた混和性の評価と非常によく一致し、信頼性の高いパラメータであることが裏付けられた。
【産業上の利用可能性】
【0130】
本発明によれば、成分毎の溶解性パラメータの推算を要せず、かつ比較的少ない計算量にて、二成分間の相互作用パラメータを算出する方法等を提供することができる。
【符号の説明】
【0131】
1 相互作用評価装置
11 入力部
12 出力表示部
20 制御部
21 分子モデル作成部
22 混合系モデル作成部
23 混合系モデル熱平衡計算部(セル作成手段)
24 ポテンシャルエネルギー計算部(ポテンシャルエネルギー算出手段)
25 体積計算部
26 相互作用パラメータ計算部(相互作用パラメータ算出手段)
27 混和性評価部
30 記憶部
ポテンシャルエネルギーC
ポテンシャルエネルギーB
12 ポテンシャルエネルギーA

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の温度条件及び所定のモル比条件下で液状物質又は固体状物質である第一成分と、第一成分とは異なる液状物質である第二成分との間の、当該所定の温度条件及び所定のモル比条件下における相互作用パラメータを、分子モデルを用いて算出する方法であって、
上記所定のモル比でかつ上記所定の温度条件下で熱平衡状態構造をとるように、上記第一成分の分子モデルと上記第二成分の分子モデルとを、周期境界条件が課された三次元セル内に配置する第一工程と、
上記熱平衡状態構造における、第一成分の分子モデル及び第二成分の分子モデルの混合系のポテンシャルエネルギーAを算出する第二工程と、
上記熱平衡状態構造から上記第一成分の分子モデルを取り除いた構造における、第二成分のポテンシャルエネルギーBを算出する第三工程と、
上記熱平衡状態構造から上記第二成分の分子モデルを取り除いた構造における、第一成分のポテンシャルエネルギーCを算出する第四工程と、
上記ポテンシャルエネルギーAから、上記ポテンシャルエネルギーB及び上記ポテンシャルエネルギーCを差し引いた値を、三次元セル内に配置された上記第一成分及び第二成分の分子モデルの体積で除して、第一成分と第二成分との間の相互作用パラメータを算出する第五工程と、
を含むことを特徴とする相互作用パラメータの算出方法。
【請求項2】
上記第二工程から第四工程において、ポテンシャルエネルギーA、B、及びCの算出はいずれも一点計算で行うことを特徴とする請求項1に記載の相互作用パラメータの算出方法。
【請求項3】
上記第一工程において、上記三次元セル内に配置する、上記第一成分の分子モデル及び上記第二成分の分子モデルの合計数を100分子以上で3000分子以下の範囲内とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の相互作用パラメータの算出方法。
【請求項4】
上記第一工程では、上記第一成分の分子モデルと上記第二成分の分子モデルとを、上記所定のモル比で、周期境界条件が課された上記三次元セル内に配置し、上記所定の温度条件に設定して分子動力学計算を行い、上記熱平衡状態構造を作成することを特徴とする請求項1から3の何れか一項に記載の相互作用パラメータの算出方法。
【請求項5】
上記分子動力学計算を行う前に、上記分子モデルが配置された上記三次元セルを、分子力学計算により、化学的により安定な構造にすることを特徴とする請求項4に記載の相互作用パラメータの算出方法。
【請求項6】
上記第一成分及び第二成分が何れも炭素数0以上で6以下の化合物であることを特徴とする請求項1から5の何れか一項に記載の相互作用パラメータの算出方法。
【請求項7】
上記所定の温度が、273K以上で353K以下の範囲内であることを特徴とする請求項1から6の何れか一項に記載の相互作用パラメータの算出方法。
【請求項8】
上記第一成分と第二成分との上記所定のモル比は、1:9から9:1の範囲内であることを特徴とする請求項1から7の何れか一項に記載の相互作用パラメータの算出方法。
【請求項9】
液状物質又は固体状物質である第一成分と、第一成分とは異なる液状物質である第二成分との、所定の温度条件及び所定のモル比条件下における混和性の評価方法であって、
請求項1から8の何れか一項に記載の方法により算出した相互作用パラメータと基準値とを比較して、第一成分と第二成分との混和性を評価する評価工程を含むことを特徴とする評価方法。
【請求項10】
上記評価工程は、上記相互作用パラメータの絶対値と上記基準値とを比較して、当該相互作用パラメータの絶対値が当該基準値より小さければ混和性が低いと評価し、当該相互作用パラメータの絶対値が当該基準値以上であれば混和性が高いと評価することを特徴とする請求項9に記載の評価方法。
【請求項11】
上記基準値は、実験系で混和性が確認された2種成分の混合系について、上記所定の温度条件及び/又は上記所定のモル比条件下で、上記請求項1から8の何れか一項に記載の方法により算出した相互作用パラメータであることを特徴とする請求項9又は10に記載の評価方法。
【請求項12】
所定の温度条件及び所定のモル比条件下で液状物質又は固体状物質である第一成分と、第一成分とは異なる液状物質である第二成分との間の、当該所定の温度条件及び所定のモル比条件下における相互作用パラメータを算出する相互作用評価装置であって、
上記所定のモル比でかつ上記所定の温度条件下で熱平衡状態構造をとるように、上記第一成分の分子モデルと上記第二成分の分子モデルとが、周期境界条件が課された三次元セル内に配置された三次元セルを作成するセル作成手段と、
上記セル作成手段が作成した熱平衡状態構造に基づき、以下の(1)から(3)に示すポテンシャルエネルギーA、B、及びCを算出するポテンシャルエネルギー算出手段と、
(1)上記熱平衡状態構造における、第一成分の分子モデル及び第二成分の分子モデルの混合系のポテンシャルエネルギーAの算出、
(2)上記熱平衡状態構造から上記第一成分の分子モデルを取り除いた構造における、第二成分のポテンシャルエネルギーBの算出、
(3)上記熱平衡状態構造から上記第二成分の分子モデルを取り除いた構造における、第一成分のポテンシャルエネルギーCの算出、
上記ポテンシャルエネルギー算出手段が算出した上記ポテンシャルエネルギーAから上記ポテンシャルエネルギーB及びCを差し引いた値を、上記三次元セル内に配置された上記第一成分及び第二成分の分子モデルの体積で除して、第一成分と第二成分との間の相互作用パラメータを算出する相互作用パラメータ算出手段と、
を含むことを特徴とする相互作用評価装置。
【請求項13】
上記相互作用パラメータ算出手段が算出した相互作用パラメータと基準値とを比較して、上記第一成分と第二成分との混和性を評価する評価手段を含むことを特徴とする請求項12に記載の相互作用評価装置。
【請求項14】
請求項12又は13に記載の相互作用評価装置を動作させるプログラムであって、コンピュータを上記各手段として機能させるためのプログラム。
【請求項15】
請求項14記載のプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−78970(P2012−78970A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−221954(P2010−221954)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)