説明

二段階蒸煮による蒸煮大豆の製造方法およびそれを用いた納豆

【課題】 本発明の課題は、従来よりも、さらに納豆の製造に適した蒸煮大豆の製造方法を提供することにある。
【解決手段】 本発明は、納豆用蒸煮大豆の製造方法であって、浸漬大豆を125℃〜140℃の間の温度Tで蒸煮する第一蒸煮工程、第一蒸煮工程で得られた蒸煮大豆に、60℃〜90℃の温水を加える加水工程、加水工程後の蒸煮大豆をさらに105℃〜120℃の間の温度Tで蒸煮する第二蒸煮工程を含む、前記製造方法、ならびに該製造方法によって製造された蒸煮大豆を用いて製造された、水分含量が62重量%〜67重量%である納豆に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸煮大豆の製造方法およびそれを用いた納豆に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な納豆の製造は、大豆を洗浄・浸漬し、さらに蒸煮し、得られた蒸煮大豆に納豆菌を接種し、発酵・熟成させることによって行われる。そして洗浄・浸漬して得られた大豆(浸漬大豆)に対して行う蒸煮は、浸漬大豆の軟化のほか、納豆菌を接種する前の殺菌、生大豆の青臭さの除去などの役割を担う。また、蒸煮によって、大豆の色が変化するので、最終製品である納豆の色合いにも影響を及ぼすことになる。
【0003】
これまで蒸煮工程において、よりよい蒸煮大豆を得るために様々な工夫がなされている。例えば、大豆表面に付着する着色成分を除くことを目的とし、加圧蒸煮後に常圧に戻してから熱水を散布することが報告されている(特許文献1)。
【特許文献1】特開2004−24197号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、従来よりも、さらに納豆の製造に適した蒸煮大豆の製造方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するため、研究を重ねる中で、蒸煮工程を2段階に分け、その間で加水工程を行うことにより、蒸煮大豆中の水分量を確保することで、ふっくらとした仕上がりの納豆を製造することができることを見出し、さらに鋭意研究を進め、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち本発明は、納豆用蒸煮大豆の製造方法であって、
浸漬大豆を125℃〜140℃の間の温度Tで蒸煮する第一蒸煮工程、
第一蒸煮工程で得られた蒸煮大豆に、60℃〜90℃の温水を加える加水工程、
加水工程後の蒸煮大豆をさらに105℃〜120℃の間の温度Tで蒸煮する第二蒸煮工程
を含む、前記製造方法に関する。
さらに本発明は、T−T≧10℃である、前記の製造方法に関する。
また本発明は、蒸煮時間が、第一蒸煮工程が1〜7分間で、第二蒸煮工程が20〜55分間である、前記の製造方法に関する。
【0007】
さらに本発明は、前記の製造方法によって製造された納豆用蒸煮大豆を用いて製造される納豆に関する。
また本発明は、水分含量が62重量%〜67重量%である、前記の納豆に関する。
さらに本発明は、水分含量が62重量%〜67重量%であり、硬度が40g以上である納豆に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、蒸煮大豆中の水分量を確保することで、ふっくらとした食感の納豆が得られる。また、何ら添加剤等を用いることなしに、納豆の豆の色が明るく、ほぐれ易く、納豆特有の匂いが低減されたものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明にかかる納豆の製造方法としては、蒸煮工程を2段階に分け、その間で加水工程を行って得られた蒸煮大豆を用いる以外、通常行われている方法を用いてよく、丸大豆納豆、挽き割り納豆など各種の糸引き納豆の製造において適用することができる。
また本発明において、大豆や納豆菌の種類などはとくに限定されず、発酵工程は、通常の納豆製造時の発酵条件で行うことができるが、蒸煮大豆の状態等を考慮し、適宜変更することも可能である。
【0010】
本発明の納豆用蒸煮大豆の製造方法は、典型的には、以下の工程:
浸漬大豆を温度Tで蒸煮する第一蒸煮工程、
第一蒸煮工程で得られた蒸煮大豆に温水を加える加水工程、
加水工程後の蒸煮大豆をさらに温度Tで蒸煮する第二蒸煮工程
を含む。
【0011】
ここで、温度Tは、125℃〜140℃、好ましくは、125℃〜130℃の間の温度である。また温度Tは、105℃〜120℃、好ましくは、110℃〜115℃の間の温度である。温度TおよびTの関係は、T−T≧10℃であることが好ましく、さらに好ましくは、T−T≧15℃である。
【0012】
本発明の製造方法において、第一および第二蒸煮工程は、夫々、温度に応じた加圧条件下で行われる。
具体的には、第一蒸煮工程の圧力は、230〜370Pa、好ましくは、230〜275Paであり、第二蒸煮工程の圧力は、120〜200Pa、好ましくは、140〜170Paである。
【0013】
第一および第二蒸煮工程の蒸煮時間は、温度、圧力などの条件により、適宜設定し得るが、本発明においては、第一蒸煮工程の蒸煮時間は、典型的には、1〜7分間、好ましくは、3〜6分間であり、とくに好ましくは、4〜5分間程度であり、第二蒸煮工程の蒸煮時間は、典型的には、20〜55分間であり、好ましくは、30〜50分間、とくに好ましくは、30〜45分間である。
【0014】
とくに第一蒸煮工程は、125℃〜140℃で1〜7分間行なうのが好ましく、125℃〜130℃で3〜6分間行なうのがとくに好ましい。そして第一蒸煮工程をこの範囲にした場合、第二蒸煮工程は、105℃〜120℃で20〜55分間行なうのが好ましく、110℃〜115℃で30〜45分間行なうのがとくに好ましい。
【0015】
本発明の加水工程は、常圧で行なっても、加圧条件下で行なってもよいが、蒸煮釜内の圧力の安定を維持するなどの作業性の観点から、常圧で行なうことが好ましい。また、加水工程で加えられる温水は、大豆に裂破が生じないように、典型的には、60℃〜90℃、好ましくは65℃〜75℃、とくに好ましくは70℃である。このような温度とすることで、蒸煮大豆の含水量がより多くすることができる。
また、本発明において、第一蒸煮工程、加水工程、第二蒸煮工程は、連続的に行うことが好ましい。
【0016】
本発明の納豆用蒸煮大豆の製造方法によって製造された蒸煮大豆を用いて納豆を製造した場合、得られる納豆の水分含量は、従来の納豆の水分含量(58〜61重量%程度)よりも多く、62重量%〜67重量%、好ましくは63重量%〜67重量%程度とすることができる。また従来の納豆よりも水分含量が多いにも拘らず、硬度が40g以上、好ましくは50g〜60g程度であり、納豆として良好な食味で、比較的ふっくらとした仕上がりとなる。
以下に、本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の各例に限定されるものではない。
【0017】
(実施例1)
常法により準備した浸漬大豆を以下の工程:
(1)131.5℃(圧力:285Pa)、5分間の第一蒸煮工程、
(2)70℃の温水に1分間浸漬(加水工程)、および
(3)115℃(圧力:170Pa)、45分間の第二蒸煮工程
で蒸煮し、本発明の納豆用蒸煮大豆を得た。
得られた蒸煮大豆を常法により、納豆菌を接種、発酵、熟成を行ない、実施例1の納豆を得た。
【0018】
(比較例1)
蒸煮工程を、131.5℃(圧力:285Pa)、26分間で行なった以外は、実施例1と同様に行ない、比較例1の納豆を得た。
(比較例2)
蒸煮工程を、115℃(圧力:170Pa)、80分間で行なった以外は、実施例1と同様に行ない、比較例2の納豆を得た。
【0019】
(参考例1)
常法により準備した浸漬大豆を以下の工程:
(1)131.5℃(圧力:285Pa)、6分間の第一蒸煮工程、
(2)115℃(圧力:170Pa)、45分間の第二蒸煮工程
で蒸煮し、納豆用蒸煮大豆を得た。
(参考例2)
常法により準備した浸漬大豆を以下の工程:
(1)115℃(圧力:170Pa)、45分間の第二蒸煮工程
(2)131.5℃(圧力:285Pa)、6分間の第一蒸煮工程、
で蒸煮し、納豆用蒸煮大豆を得た。
【0020】
(実験例1)
本発明の納豆用蒸煮大豆を用いた納豆(実施例1)および比較例1の納豆の品質的特徴(外観、糸引き、香り、味)について比較した。結果を表1に示す。
なお、外観については、納豆1g当たりの納豆菌数を測定し、いわゆる「被り」の状況を観察するとともに、分光色差計SPECTRO COLOR METER SE2000(日本電色工業(株)製)を用い、Lab表色系にて明度(L)および彩度(C)を測定した。
糸引き(粘度)は、納豆を2倍重量の水に懸濁させ、得られた粘液をC型粘度計CVR-20(TOKIMEC(株)製)を用いて測定した。
香りおよび味に関して、納豆100g当たりのクエン酸、リンゴ酸、酢酸、イソ酪酸、イソ吉草酸などの有機酸含有量ならびに全遊離アミノ酸量およびグルタミン酸量を夫々、高速液体クロマトグラフィーにより分析定量した。
【表1】

【0021】
実施例1の納豆は、比較例1の納豆と比較して、外観上、いわゆる「被り」に透明感があり、明度および彩度ともに極めて高く、明るく、鮮やかであった。
糸引き性は、比較例1の納豆よりも、やや弱かった。
香りについて、実施例1の納豆は、とくに納豆に特有なイソ酪酸やイソ吉草酸の量が抑えられ、匂いが控えめであった。
味については、実施例1の納豆は、とくに甘味を示すアミノ酸(アラニンなど)や旨みを示すアミノ酸(グルタミン酸など)よりも、苦味を示すアミノ酸(ロイシンなど)の低減が大きく、マイルドで雑味が少ない傾向にあった。
【0022】
(実験例2)
実施例1の納豆、比較例1、比較例2および参考例1の蒸煮大豆およびそれを用いた納豆の夫々について、FUDOHレオメーター((株)レオテック製)を用いて硬度を測定した。また各軟化率を次式により算出した。結果を表2に示す。
軟化率(%)=(煮豆硬度−納豆硬度)/煮豆硬度×100
【表2】

【0023】
実施例1では、参考例1と略同じ蒸煮時間で、効果的に大豆を軟化させることができたことが明らかとなった。また、従来、一般的に用いられている方法(比較例1)よりも、軟らかくふっくらとした仕上がりの納豆を得ることができた。
とくに納豆の製造においては、蒸煮大豆はある程度硬く煮上がり、発酵工程でやわらかくなる方が、納豆容器への充填や充填量目測定などの作業上の安定性が確保されるので、この観点からも、本発明(実施例1)の蒸煮大豆は、量産適正に極めて優れた蒸煮大豆であることが示された。
【0024】
(実験例3)
本発明の納豆用蒸煮大豆を用いた納豆(実施例1)および比較例1の納豆の栄養成分(納豆100g中)について比較した。結果を表3に示す。
【表3】

【0025】
実施例1の納豆は、比較例1の納豆や市販されている一般的な納豆の水分含量(58〜61%程度)よりも多くの水分を含んでいることがわかった。
【0026】
(実験例4)
参考例1および2の納豆用蒸煮大豆について、硬度と全糖とを測定した。結果を表4に示す。なお、硬度は、FUDOHレオメーター((株)レオテック製)を用いて測定した。また全糖は、蒸煮大豆100gあたりの還元性と非還元性の両方の糖を合わせて、ジニトロサルチル酸法で測定した。
【表4】

【0027】
参考例1の蒸煮大豆の方が、参考例2の蒸煮大豆に比べて、同じ蒸煮時間で、成分損失が少なく蒸煮大豆内に糖分を多く残しながら、大豆をより軟化していることがわかった。この結果から、2段階で蒸煮する場合、蒸煮初期である第1の蒸煮工程を高温短時間で行ない、仕上げ段階である第2の蒸煮工程については低温長時間で行なうことが好適であることが明らかとなった。なお、第1の蒸煮工程と第2の蒸煮工程との間に、加水工程を加えた場合も同様の傾向が見られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
納豆用蒸煮大豆の製造方法であって、
浸漬大豆を125℃〜140℃の間の温度Tで蒸煮する第一蒸煮工程、
第一蒸煮工程で得られた蒸煮大豆に、60℃〜90℃の温水を加える加水工程、
加水工程後の蒸煮大豆をさらに105℃〜120℃の間の温度Tで蒸煮する第二蒸煮工程
を含む、前記製造方法。
【請求項2】
−T≧10℃である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
蒸煮時間が、第一蒸煮工程が1〜7分間で、第二蒸煮工程が20〜55分間である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法によって製造された納豆用蒸煮大豆を用いて製造される納豆。
【請求項5】
水分含量が62重量%〜67重量%である、請求項4に記載の納豆。
【請求項6】
水分含量が62重量%〜67重量%であり、硬度が40g以上である納豆。

【公開番号】特開2009−232753(P2009−232753A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−83267(P2008−83267)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(000108616)タカノフーズ株式会社 (29)
【Fターム(参考)】