説明

二輪車スタータ用のローラ型ワンウェイクラッチ

【課題】 ローラ型ワンウェイクラッチにおいて、アコーデオンスプリングを外輪に対して正確に取り付けることができ、噛合い信頼性の向上と、低コスト化を同時に達成したローラ型ワンウェイクラッチを提供する。
【解決手段】 内周にカム面を有するポケットが形成された外輪と、外輪の内径側に同心状に配置された内輪と、ポケットに配置され、カム面に係合し、外輪と内輪との間でトルクを伝達する複数のローラと、ポケット内で外輪とローラとの間に配置され、一端を外輪の軸方向端面に固定され、ローラをカム面との係合方向に付勢するアコーデオンスプリングとを含み、アコーデオンスプリングが固定される外輪の軸方向端面にはアコーデオンスプリングの固定位置が確認できる識別領域が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車や産業機械などの駆動装置内でトルク伝達、バックストップ等の部品として使用されるローラ型ワンウェイクラッチに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、ローラ型ワンウェイクラッチは、外輪と、外輪と同心に配置される内輪と、内輪の外周面と外輪の内周カム面との間に配され、トルクを伝達する複数のローラと、ローラの空転側に接するスプリングなどから成っている。
【0003】
このような構成において、ワンウェイクラッチはローラとカム面とで構成されるカム機構により、外輪に対して内輪を一方向のみに回転するようにしている。すなわち内輪は外輪に対して一方向で空転し、その逆方向でのみカム機構を介して外輪に回転トルクを与える構成となっている。
【0004】
ローラ型ワンウェイクラッチでは、確実な噛み合わせを得るため、トルク伝達部材であるローラや、それを付勢するアコーデオンスプリングなどが外輪または内輪に設けたポケットに配置されている。
【0005】
特に、二輪車用のローラ型ワンウェイクラッチにおいてはローラ数が少ない(例えば3個乃至6個)ため、各々のローラを確実に噛み合わせないと設計トルク容量が確保できなくなる恐れがある。このため、従来は、ローラやアコーデオンスプリングが軸方向に抜けるのを防止するため、ローラ型ワンウェイクラッチの軸方向の片側もしくは両側に側板を設けることが多かった。
【0006】
例えば、特許文献1では、ローラ型ワンウェイクラッチに側板またはカバーを設け、そのいずれかに突起を形成し、アコーデオンスプリングが軸方向に脱落しないようにしている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ローラ型ワンウェイクラッチの品質向上のため、アコーデオンスプリングの外輪に対する相対位置変動を少なくする必要があり、またアコーデオンスプリングが外輪内径部や保持器外径部または、内輪軌道面と摺擦せず、擦れによる摩耗や折損を防止ができることが望まれている。このため、アコーデオンスプリングを外輪の所定場所に確実に固定することが求められていた。
【0008】
また、ローラ型ワンウェイクラッチ内に溜まるゴミなどの異物は、噛合い性能にも悪影響を及ぼすため、除去する方が望ましい。このため、側板を用いず、ポケットを軸方向に露出することが求められている。また、より低コストのスタータ用のローラ型ワンウェイクラッチが求められている。
【0009】
そこで、本発明の目的は、ローラ型ワンウェイクラッチにおいて、アコーデオンスプリングを外輪に対して正確に取り付けることができ、噛合い信頼性の向上と、低コスト化を同時に達成したローラ型ワンウェイクラッチを提供することである。
【0010】
上記目的を達成するため、本願発明のローラ型ワンウェイクラッチ は、
内周にカム面を有するポケットが形成された外輪と、
外輪の内径側に同心状に配置された内輪と、
ポケットに配置され、カム面に係合し、外輪と内輪との間でトルクを伝達する複数のローラと、
ポケット内で外輪とローラとの間に配置され、一端を外輪の軸方向端面に固定され、ローラをカム面との係合方向に付勢するアコーデオンスプリングと、
を含み、アコーデオンスプリングが固定される外輪の軸方向端面にはアコーデオンスプリングの固定位置が確認できる識別領域が設けられていることを特徴としている。
【0011】
また、識別領域は前記外輪の前記軸方向端面の内径側に前記外輪の回転軸と同心状に設けられた領域で構成され、前記アコーデオンスプリングは前記領域内に固定されていることを特徴としている。
【0012】
識別領域は凹部として形成されていることを特徴としている。
【0013】
アコーデオンスプリングはスポット溶接により外輪に固定されていることを特徴としている。
【0014】
ローラを保持する窓を備えた円筒部と、円筒部から外径方向に延在し、軸方向端面とは反対側の外輪内径側に設けられた段部に係合するフランジ部とを備え、外輪と相対回転自在な保持器を備えていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明のローラ型ワンウェイクラッチによれば、次のような効果が得られる。
アコーデオンスプリングを外輪に固定する位置を識別できる識別領域(マーク)をアコーデオンスプリングの固定される外輪端面に設けたことにより、アコーデオンスプリングを外輪への所定の固定位置に正しく取り付けることが容易となる。また、固定後において、所定の位置に固定されているかの判別もし易くなり、製品品質の向上に寄与できる。
【0016】
アコーデオンスプリングを外輪端面に固定することにより、アコーデオンスプリングが軸方向に脱落することが防止でき、アコーデオンスプリングの軸方向脱落防止のための側板が廃止できる。このため低コスト化が実現できる。
【0017】
また、アコーデオンスプリングの外輪に対する相対位置変動を無くなるため、外輪内径部や保持器外径部または、内輪軌道面と摺擦せず、擦れによる摩耗や折損を防止ができる。
【0018】
二輪車用のスタータに使用されているローラ型ワンウェイクラッチは、高回転で、また、振動が激しく、粉塵に対する環境も厳しい条件で使用されるため、ローラ型ワンウェイクラッチ内には摩耗紛を含んだゴミが溜まりやすい。本発明によれば、側板を廃止できるので、ポケットが露出し、ゴミ排出性の向上が図れる。
【発明の実施の形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して本発明の実施例を詳細に説明する。尚、以下説明する実施例は例示として本発明を示しているに過ぎず、その他の変更が可能なことは言うまでもない。
【0020】
図1は、本発明の一実施例のローラ型ワンウェイクラッチを示す正面図である。図1は、ローラがカム面に噛み合っている状態、すなわちワンウェイクラッチがロックしている状態を示している。この状態から、外輪が図中右方向へ回転すると、ロックが解除され、ワンウェイクラッチは空転する。
【0021】
図1に示すように、ローラ型ワンウェイクラッチ30は、カム面12を有する凹部として形成されたポケット4を内周に備えた環状の外輪1と、外輪1に対して半径方向内径側に離間され、相対回転自在に同心状に配置され、環状の外周軌道面11を有する内輪2(図4を参照。図1乃至図3では図示を省略)と、ポケット4内に配置されて内輪2の外周軌道面11とカム面12との間でトルクを伝達する複数のローラ3を含んでいる。
【0022】
外輪1の内径側に設けられるポケット4は、円周方向等配に3箇所設けられている。また、外輪1に不図示の相手部材に固定するために用いられ、軸方向に貫通する段付きリベット孔8も円周方向等分に3箇所設けられている。図1に示すように、ポケット4とリベット孔8とは等間隔で交互に配置されている。また、ポケット4の数は、トルクの大きさに応じて、例えば、3乃至6個などの複数個の設定が可能であることは言うまでもない。
【0023】
図1に示すように、ワンウェイクラッチ30は、ローラ3を保持する保持器6を備え、保持器6は、円筒部10と、円筒部10の軸方向一端部から外径方向へ延在する環状のフランジ部17を備えている。また、保持器6は、ローラ3の数に対応して、径方向に貫通した窓18を有する。
【0024】
保持器6の円筒部10に設けられた窓18は、径方向に貫通しているが、軸方向では、フランジ部17側も、フランジ部17と対向する端部でも閉じられている。すなわち、ローラ3は、ほぼ矩形の窓18内に着座し、窓18の4つの辺に支持されている。
【0025】
図3は、図1及び図2のローラ型ワンウェイクラッチ30を軸方向の反対側からみた、一部破断して示す正面図である。また、図4は、図3のA−O−A線に沿った軸方向断面図である。図3及び図4に示すように、外輪1の内周面の軸方向の縁部に環状の段部13が設けられ、段部13に保持器6のフランジ部17が係合している。段部13の軸方向深さは、フランジ部17の厚さより僅かに大きく、フランジ部17が段部13に係合すると、外輪1の軸方向端面22(図1及び図2における軸方向端面21と反対側の端面)とフランジ部17の軸方向の端面との間に僅かなクリアランスが生じ、相手部材との干渉を防いでいる。また、段部13の外径は、保持器6のフランジ部17の外径より僅かに大きく、フランジ部17は所定のクリアランスで段部13に嵌合する。これにより、保持器6は外輪1と相対回転できる。
【0026】
また、図1乃至図4に示すように、ローラ型ワンウェイクラッチ30は、ポケット4に配置され、ローラ3をカム面12との係合方向に付勢するアコーデオンスプリング5を備えている。
【0027】
アコーデオンスプリング5の一方の端部、すなわちタブ15は、図1及び図2に示すように外輪1の軸方向端面21に固着されている。また、図3に示すように、アコーデオンスプリング5の他方の端部16は、ローラ3の軸方向の端面を保持している。
【0028】
アコーデオンスプリング5は、図1乃至図3に示すようにアコーデオンスプリング5の軸方向に折り曲げられた蛇腹状の形態をした蛇腹部24を備えている。蛇腹部24は伸縮自在であり、ローラ3がカム面12と係合するようにローラ3に付勢力を付与している。
【0029】
アコーデオンスプリング5のタブ15は、例えば溶接、スポット溶接、接着、ハンダ付け等により外輪1の軸方向端面21に固着されている。
【0030】
ここで、アコーデオンスプリング5の外輪1への固着について詳細に説明する。図1において、外輪1の軸方向端面21の内径側には、アコーデオンスプリング5の固定位置が確認できる識別領域20が設けられている。
【0031】
識別領域20は外輪1の軸方向端面21の内径側に外輪1の回転軸と同心状に設けられ、アコーデオンスプリング5のタブ15は識別領域20内に位置決め固定されている。
【0032】
識別領域20は、以下のように形成される。アコーデオンスプリング5を固定する外輪1の軸方向端面21を切削する時、外径側から切削加工を始め、アコーデオンスプリング5を固定する識別領域20に達すると不図示の切削工具の回転速度及び径方向移動速度を低下させて、面の粗度を変化させる。これにより識別領域20と円環状の境界部25で区別されるそれ以外の軸方向端面21の表面粗度が異なるため目視により、または指などで接触することで識別領域20を確実に確認できるようになる。
【0033】
図2は、本発明の他の実施例のローラ型ワンウェイクラッチを示す正面図である。基本的構成は図1に示す実施例と同様なので、異なる点のみを説明する。図2に示す実施例では、識別領域20は円環状の凹部23として形成されている。
【0034】
凹部23は、外輪1の軸方向端面21の内径側に形成されるが、最も内径側には、軸方向端面21と同じ高さの円環状の内径部分26が残される。従って、凹部23は、軸方向端面21の外径側と内径部分26との間に溝状に形成される。
【0035】
凹部23の径方向の幅は、アコーデオンスプリング5のタブ15がちょうど嵌合する大きさである。また、凹部23の深さは、アコーデオンスプリング5のタブ15の厚さより僅かにわずかに大きく、タブ15が凹部23に固定されると、外輪1の軸方向端面21とタブ15の軸方向の端面との間に僅かなクリアランスが生じ、相手部材との干渉を防止している。
【0036】
図2に示す他の実施例においても、アコーデオンスプリング5が取り付け、すなわち固定される識別領域である凹部23は、目視などにより容易に識別できるため、アコーデオンスプリング5を正確な位置に固定できる。
【0037】
以上説明した本発明の各実施例によれば、アコーデオンスプリングを外輪に固定する位置を識別できる識別領域(マーク)をアコーデオンスプリングの固定される外輪端面に設けたことにより、アコーデオンスプリングを外輪への所定の固定位置に正しく取り付けることが容易となる。また、固定後において、所定の位置に固定されているかの判別もし易くなり、製品品質の向上に寄与できる。
【0038】
また、識別領域20及び23を設けたことで、外輪1を相手部材に取り付けるときに、リベット挿入方向の識別がより容易になり、作業性及び誤組みの防止効果が向上する。また、従来設けられていた側板を不要としたので、ポケット4の大部分が露出し、ポケット4からのゴミの排出性向上も期待できる。
【0039】
アコーデオンスプリング5が外輪1の軸方向端面21の識別領域20または23に固着しているため、アコーデオンスプリング5と外輪1との相対位置の変動がほとんどなくなる。このため、外輪内径部や保持器外径部または、内輪軌道面との擦れによる摩耗や折損の防止が可能となる。
【0040】
また、アコーデオンスプリング5の作動中の動きが、外輪1や保持器6に影響されず、安定した滑らかな動きが可能となる。それにより、ローラの噛み合い性が向上する。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、自動車や産業機械などの駆動装置内でトルク伝達、バックストップ等の部品として使用されるが、特に二輪乗用車に用いると効果が大きい。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】図1は、本発明の一実施例のローラ型ワンウェイクラッチを示す正面図である。
【図2】図2は、本発明の他の実施例のローラ型ワンウェイクラッチを示す正面図である。
【図3】図3は、図1及び図2のローラ型ワンウェイクラッチを軸方向の反対側からみた、一部破断して示す正面図である。
【図4】図4は、図3のA−O−A線に沿った軸方向断面図である。
【符号の説明】
【0043】
1 外輪
2 内輪
3 ローラ
4 ポケット
5 アコーデオンスプリング
6 保持器
8 リベット孔
12 カム面
15 タブ
20 識別領域
21 軸方向端面
22 軸方向端面
23 凹部
24 蛇腹部
30 ローラ型ワンウェイクラッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周にカム面を有するポケットが形成された外輪と、
前記外輪の内径側に同心状に配置された内輪と、
前記ポケットに配置され、前記カム面に係合し、前記外輪と前記内輪との間でトルクを伝達する複数のローラと、
前記ポケット内で前記外輪と前記ローラとの間に配置され、一端を前記外輪の軸方向端面に固定され、前記ローラを前記カム面との係合方向に付勢するアコーデオンスプリングと、
を含み、前記アコーデオンスプリングが固定される前記外輪の前記軸方向端面には前記アコーデオンスプリングの固定位置が確認できる識別領域が設けられていることを特徴とするローラ型ワンウェイクラッチ。
【請求項2】
前記識別領域は前記外輪の前記軸方向端面の内径側に前記外輪の回転軸と同心状に設けられ、前記アコーデオンスプリングは前記識別領域内に固定されていることを特徴とする請求項1に記載のローラ型ワンウェイクラッチ。
【請求項3】
前記識別領域は凹部として形成されていることを特徴とする請求項2に記載のローラ型ワンウェイクラッチ。
【請求項4】
前記アコーデオンスプリングはスポット溶接により前記外輪に固定されていることを特徴とする請求項1に記載のローラ型ワンウェイクラッチ。
【請求項5】
前記ローラを保持する窓を備えた円筒部と、前記円筒部から外径方向に延在し、前記軸方向端面とは反対側の外輪内径側に設けられた段部に係合するフランジ部とを備え、前記外輪と相対回転自在な保持器を備えていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のローラ型ワンウェイクラッチ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−293724(P2009−293724A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−148984(P2008−148984)
【出願日】平成20年6月6日(2008.6.6)
【出願人】(000102784)NSKワーナー株式会社 (149)