説明

人工大理石の製法

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は天然石材に外観を模し、洗面ユニットやシステムキッチン、建材等として利用される人工大理石にかかり、その製法に関する。
【0002】
【従来技術とその問題点】人工大理石は、通例アクリル、メタクリル、ポリエステル等の樹脂原液に水酸化アルミニウムその他の金属水酸化物や各種着色剤その他のフィラーを混合し、成形枠に注入して静置し重合、硬化せしめることにより製造する。
【0003】前記成形枠としては特開昭54-134731 号や実開昭63-143542 号に開示されるように板ガラスが使用される場合が多い。平滑板ガラスを使用した場合は、それに接する樹脂表面は平滑な艶面となり優美かつ重厚な外観を呈するが、傷がついた場合にそれが目立ち易く、外観を損じ易いという欠点があり、近年は艶を抑えたいわゆる艶消し状のものが嗜好される傾向にある。
【0004】単なる艶消し面を形成するには、一旦形成した成形品の平滑面をサンドブラスティング等により粗面を形成する方法が一般的であるが、その手間や効率面、コスト面からみて得策とはいえず、また成形品のサイズ(厚み)管理においても研削後の削り代を考慮しなければならない等の問題を有する。別の手段として、予め成形枠としてのガラス板をサンドブラスティング、グラインディング等の機械的な研削方法で摺りガラスとしておけば、これに接する樹脂表面はそれに倣った粗面となるので比較的安価、効率的に形成できるが、ガラス板と樹脂とが相互に噛合して離型性が悪く、さらに研削に際して局部的にクラックが板ガラス内部に侵入していることもあって、成形過程や離型に際して頻繁にガラス板を破損するという問題点がある。さらにこれら手段によるものは共通して荒摺りの感があり、成形品の優美かつ重厚な感触を損ない易いという不具合もある。
【0005】本発明は前記問題点を解消し、艶を適度に抑制した面を形成した人工大理石を低コスト、かつ容易に製造する方法を提供することを目的とする。
【0006】
【問題点を解決するための手段】本発明は、板ガラスを対向隔設し、その周囲を注入部を除いて封止して成形枠を形成し、前記注入部に人工大理石の原液を注入し硬化せしめ、離型してなる人工大理石の製法において、前記板ガラスはその内面側を予め機械的研削手段により粗面を形成して摺りガラスとし、次いでケミカルエッチング処理し緩やかな凹凸粗面と為して、人工大理石成形品の粗面の平均粗さRaを 2μm ないし50μm となるべく調整し、更に板ガラスに強化処理を施し、艶を適度に抑制した面を形成した人工大理石を得る人工大理石の製法である。さらに、板ガラス対向面の封止材と接する周辺部を平滑面とするのが好ましい。
【0007】人工大理石用樹脂としてはアクリル、メタクリル、ポリエステル樹脂あるいはアクリル、メタクリルとポリエステルの共重合体等を採用し、これに金属水酸化物等のフィラーを混在させることにより形成するもので、これらの元原料を成形枠に注型後、 100℃以下の適宜温度にコントロールし硬化せしめ、さらに耐候性、強度等を向上すべく熱処理して重合をより進展させて処理を完了し成形品を得る。
【0008】成形枠としての板ガラスは特に限定するものではないが建築物等の窓材などに多用される一般的なソーダ石灰系のガラスを採用すればよく、格別特殊な組成物を用いる必要はない。成形物のサイズによっては枠サイズが短辺1m以上、長辺数m におよぶことがあるが、撓みを抑制するためにはそれに応じて適宜厚みのガラス板厚を採用することができる。
【0009】板ガラスに粗面を形成するにはメッシュサイズ数メッシュないし100 メッシュ以上の研削剤を用いてサンドブラスティングやグラインディング等の機械的手段を採用することができる。得られた摺りガラスは添付図1の部分拡大断面図に示すように表面の凸部1 、凹部2 が急峻であり、局部的にクラック3 が内部に入り込んでいるため、そのまま成形枠として使用しても樹脂との離型性が悪く、また板ガラス自体割れ易い。加えて成形品は勿論板ガラスにも塵埃が付着するとその清掃除去が困難となるし、成形品自体荒摺りの感がある。これを改善するために前記粗面を形成した板ガラスを硼フッ酸やフッ酸等の浸食液で適宜温度、時間エッチングし、添付図2の部分拡大断面図に示すように緩やかな凸部4 、凹部5 からなる粗面を形成する。このように加工した板ガラスは離型性も向上し、クラック部分も拡大緩慢化するため該部からの破損を顕著に抑制できる。板ガラスや得られる成形品は塵埃が付着しても払拭が容易であり、成形品の外観もソフトな感触を与える。
【0010】なお、成形品の前記粗面の平均粗さRaを 2μm ないし50μm とするもので、 2μm 未満であると平滑性が増大して傷が生じた場合に目立ち易く、50μm を越えると凹凸が粗大となり、荒摺りの感を呈して外観を損なうし、板ガラス成形枠をいかにエッチング処理したと雖も離型性を悪化させる。
【0011】なお、例えば一方の板ガラスをRa2μm 近くの比較的細かめの粗面とし、他方を50μm 近くの粗めの粗面とすれば成形品も片面と他方の面とで粗さ、見かけの感触に差異が生じ、顧客の要望に応じていずれかを表装面として採用するようにすることもできる。
【0012】また、板ガラスの粗面化は少なくとも片面全面に行う必要はなく、板ガラス周辺域の封止材で封止する部分は平滑のままとすれば、離型もより容易で、剥離した際該部に封止材や成形樹脂が残留して払拭除去を困難とするようなこともなく、また樹脂原液注入後硬化に至るまでの間、封止材と板ガラス粗面との間隙からの樹脂原液の漏出等の不都合点を無くすことができる。
【0013】さらに前記板ガラスは、再加熱し、公知の風冷等の急冷手段、あるいは公知のアルカリイオン置換手段で強化処理するものであり、これにより繰返し使用においても破損を格段と抑えることができる。
【0014】好適には、板ガラスを約650 ℃前後に加熱し、加熱後直ちに冷風を吹付けることにより急冷強化する手段が推奨できる。
【0015】
【実施例】以下実施例を基に本発明を説明する。
〔実施例〕人工大理石の原液を注入する成形枠として複数対のソーダ石灰系素板ガラス(サイズ500mm ×500mm ×8mm 厚 )を準備した。夫々の片面 (対向面) を封止剤と接する周辺部を残してメッシュサイズ40〜100 メッシュの珪砂粒によりサンドブラスティングし、断面図1に示すような粗面を形成した。次いでこれを常温下で2wt% フッ酸液に 1分間浸漬し断面図2に示すような穏やかな凹凸粗面を形成した。なお前記したように、サンドラスティングに際する砂粒サイズやケミカルエッチングに際する浸食液の種類、エッチング時間、温度等は随意に選択するものであって本実施例に限定されない。
【0016】さらにこれを加熱炉に入れ約650 ℃に加熱し、次いで炉から出すとともに直ちに冷風を吹付けることにより急冷強化した。得られた成形枠用板ガラスは互いの粗面を対向させ、その対向面周辺部に間隔保持および封止材としての塩化ビニル製ガスケットを装着して型枠を完成した。なおガスケットの一部には原液注入口としての開口を設けた。
【0017】別にアクリルモノマーと前記した如くのフィラーからなる人工大理石原液を準備し、これを前記成形枠に注入し、前記注入口を塩化ビニル樹脂等で封止し、そのままウォーターバス内で100 ℃以下で硬化させ、さらに耐候性、強度等を向上すべく熱処理して重合をより進展させて処理を完了し、離型して人工大理石成形品を得た。
【0018】成形枠材としての板ガラスおよび人工大理石成形品について以下のテストを実施した。
1)離型時の板ガラス/ 成形品の剥離性 (5試料につき手操作により剥離し、剥離性を、きわめて良、良、困難、不可の4区分に評価);いずれも剥離性良好。
2)板ガラスの強度試験 (型枠製作前の4枚の板ガラスを平滑面を上にして架台間に横架し、そのうえを万遍なく木槌で叩いた後、亀裂、割れの有無を観察);いずれも異常無し。
3)鉛筆加傷試験(JISK-5400 6.14 に準拠、成形品2試料の表面につき1試料適宜4点計8点を各種硬度の鉛筆で加傷し、該部を鏡下観察); いずれも8Hの硬度まで傷は認められない、9Hにおいて辛うじて確認される。
4)表面粗さ( 表面形状測定器により成形品2試料の各任意の2点、計4点について測定し平均する、1点の基準長さ25mm);平均粗さRa 5.37 μm5)光沢度試験 (JIS-K5400 6.7 に準拠、成形品2試料各2点計4点の60度表面光沢度を測定し平均する);平均12.32%6)耐汚染試験〔1〕 (JIS-K6902 2.6 に準拠、成形品2試料の表面各1点にコーヒーを滴下し、各種手段で洗浄払拭);いずれも水洗により簡単に除去できる。
7)耐汚染試験〔2〕 (同上、表面にマニキュアを塗布し、各種手段で洗浄払拭);いずれも水洗では除去不能、クレンザー掛けにより除去可、成形品表面はクレンザーによる傷は認められない。
【0019】〔比較例1〕実施例と同様な手順で、但し成形枠としての板ガラスのサンドンブラスティングを対向面全面に行い、その後のフッ酸処理および強化処理を省略して成形枠を形成し、同様に人工大理石の原液を注入、硬化、熱処理、離型し、同様の試験を実施した。なおサンドブラスティング後強化処理に賦した板ガラスは殆どが加熱過程または風冷過程で破損したので、成形枠としては不適当と判断し、以降の試験を中止した。
1)離型時の板ガラス/ 成形品の剥離性; 剥離困難ないし不可 ( 5試料中 3試料に板ガラスの割れあり)。
2)板ガラスの強度試験; 2枚に割れ、2 枚に亀裂発生。
3)鉛筆加傷試験; 8Hの硬度まで傷は認められない、9Hにおいて観察される。
4)表面粗さ; 平均粗さRa 7.85 μm5)光沢度試験; 平均4.29%6)耐汚染試験〔1〕; いずれも水洗により除去。
7)耐汚染試験〔2〕; いずれもクレンザー掛けによっても若干痕跡有り、なお成品表面はクレンザーによる傷は認められない。
該比較例においては板ガラスが破損し易く、また成形品も荒摺りの感があってソフトな感触に欠け、防汚性においても劣る。
【0020】〔比較例2〕実施例と同様な手順で、但し成形枠としての板ガラスのサンドブラスティングおよびフッ酸処理を省略し、強化処理のみを施して成形枠を形成し、同様に人工大理石の原液を注入、硬化、熱処理、離型し、同様に試験した。
1)離型時の板ガラス/ 成形品の剥離性; 剥離性はいずれもきわめて良好。
2)板ガラスの強度試験; いずれも異常なし。
3)鉛筆加傷試験; いずれも5Hの硬度まで傷は認められない。6Hにおいて観察される。
4)表面粗さ; 平均粗さRa 0.05 μm5)光沢度試験; 平均86.4%6)耐汚染試験〔1〕; いずれも布により容易に払拭できる。
7)耐汚染試験〔2〕; クレンザー掛けによって簡単に除去、なお成形品表面はクレンザーによる擦り傷が残留する。
【0021】該比較例においては鉛筆加傷試験、防汚性試験におけるクレンザー掛けによって傷または曇りが目立つ。以上のとおり実施例は板ガラス面を研削した後、ケミカルエッチングを施すことによって強化が容易となり、離型に際しての破損の恐れを無くすとともに、表面の凹凸も鋭角的でなく丸みが生じるので離型性も良好で、成形品もソフトな美観を呈する。
【0022】
【発明の効果】本発明によれば成形枠としての板ガラス面を研削した後、該粗面にケミカルエッチングを施すことによって離型性を改善するとともに離型に際しての破損の恐れを無くし、成形品は平滑なものに較べ見掛けの硬度を向上し、従来法による粗面に比較してソフトな美観を呈し、耐汚染性も向上する。
【0023】さらに前記ケミカルエッチングにより板ガラスの強化処理も容易となり、繰返し使用に際する破損の危惧をさらに減ずることができ、加えて板ガラスの封止材と接する周辺部を平滑面のまま残せば離型性がより改善され、離型に際して封止材や成形品の残査付着があっても払拭除去が容易であるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明における型枠としての板ガラスをサンドブラスティングした際の表面凹凸を示す部分拡大断面図である。
【図2】板ガラスをサンドブラスティング後さらにフッ酸処理した際の表面凹凸を示す部分拡大断面図である。
【符号の説明】
1----凸部 2----凹部
3----クラック 4----緩やかな凸部
5----緩やかな凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】板ガラスを対向隔設し、その周囲を注入部を除いて封止して成形枠を形成し、前記注入部に人工大理石の原液を注入し硬化せしめ、離型してなる人工大理石の製法において、前記板ガラスはその内面側を予め機械的研削手段により粗面を形成して摺りガラスとし、次いでケミカルエッチング処理し緩やかな凹凸粗面と為して、人工大理石成形品の粗面の平均粗さRaを 2μm ないし50μm となるべく調整し、更に板ガラスに強化処理を施し、艶を適度に抑制した面を形成した人工大理石を得ことを特徴とする人工大理石の製法。
【請求項2】板ガラス対向面の封止材と接する周辺部を平滑面としたことを特徴とする請求項1記載の人工大理石の製法。

【図1】
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【図2】
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【特許番号】第2925370号
【登録日】平成11年(1999)5月7日
【発行日】平成11年(1999)7月28日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−191573
【出願日】平成3年(1991)7月31日
【公開番号】特開平5−31733
【公開日】平成5年(1993)2月9日
【審査請求日】平成8年(1996)10月28日
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【出願人】(591166813)高水化学工業株式会社 (1)
【参考文献】
【文献】特開 昭63−297006(JP,A)
【文献】特開 平2−51434(JP,A)
【文献】実開 昭59−48813(JP,U)