説明

介護用車いす

【課題】段差を乗り越える際でも後輪(補助車輪)のキャスター支軸が垂直な状態を保持し、車いすの方向転換を平坦な場所と同様に僅かな力で行うことができる6輪型車いすの提供。
【解決手段】前輪および後輪(補助車輪)がキャスター付きの6輪型車いすにおいて、前輪を持ち上げることによって脚体が傾斜しても後輪(補助車輪)9が常に垂直状態を保持されるようにリンク機構10とスプリング10−3を介して該後輪(補助車輪)を脚体後部に接続する。リンク機構は、補助車輪支持部材と脚体の後端部との間、および補助車輪支持部材と脚体後端部との間に設けた2組のリンクで構成し、スプリングは補助車輪支持部材と脚体後端部の車輪支持部材との間に掛け、脚体が前記リンク機構により前記スプリングに抗して傾斜して前輪側が接地面より浮上し、補助車輪支持部材に取付けられた補助車輪のキャスターがリンク機構とスプリングの作用により常に垂直に保持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、身体障害者用、高齢者用として好適な介護用車いすに係り、より詳しくは車いす本体の中央部とその前後に一対のキャスター付き車輪を備えたいわゆる6輪型の介護用車いすに関する。
【背景技術】
【0002】
車いす本体の中央部とその前後に一対のキャスター付き車輪を備えたいわゆる6輪型の車いすとしては、例えば特許文献1〜4に記載のものが知られている。これら従来の6輪型車いすは、室内での敷居や歩道上での段差を乗り越えるためには人手を借りなければならないが、本体中央部の車輪に重心をおく配置構成となしているため、小回りが効き、かつ後輪(補助車輪)の作用により段差乗越え性能にも優れている。又、この種の車いすは浴室やトイレ等のいわゆる水廻り用車いすとしての機能も有している。
【特許文献1】特開2002−263140号公報
【特許文献2】特開2004−113486号公報
【特許文献3】特開2004−166772号公報
【特許文献4】特開2004−202264号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、前記した特許文献1〜4に記載された車いすを含む従来の6輪型車いすは、本体中央部の車輪を除く他の車輪、すなわち前輪および後輪(補助車輪)にはキャスター付き車輪が用いられているのが大半であり、段差のない平坦な場所では小回りが効き、走行も安定するという利点を有するが、この種の6輪型車いすの場合は室内での敷居や歩道上での段差を乗り越える際、キャスター付き前輪を持ち上げると必然的に座席が後方傾斜となるためにキャスター付き後輪(補助車輪)に加重がかかると同時に当該後輪のキャスター支軸が傾斜する結果、キャスターとしての回転機能が失われて当該車いすの方向転換が困難になるという課題があった。
【0004】
本発明は、このような従来の課題を解決するためになされたもので、室内での敷居や歩道上で段差を乗り越える際でも後輪(補助車輪)のキャスター支軸が常に垂直な状態を保持されて、当該車いすの方向転換を平坦な場所と同様に僅かな力でスムースに行うことができる6輪型車いすを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る介護用車いすは、本体中央部の車輪を除く前輪および後輪(補助車輪)がキャスター付き車輪の6輪型車いすにおいて、前輪を持ち上げることによって脚体が傾斜してもキャスター付き後輪(補助車輪)が常に垂直状態を保持されるようにリンク機構を介して該キャスター付き後輪(補助車輪)を脚体後部に接続したもので、その要旨は、背もたれ部を有する後部フレーム部と、座部を有するサイドフレーム部と、前記サイドフレーム部に着脱可能に接続された一対のステップパイプよりなる本体部分と、両端部にそれぞれ一対の車輪を取付けてなる脚体を連結支持部材を介して一体化して構成され、かつ前記脚体の後部に一対のキャスター付き補助車輪が設けられた6輪型の介護用車いすにおいて、前記脚体の後端部と相対向する面に下向きの垂直部分を有する略L形部材の略水平部分に前記キャスター付き補助車輪を垂直に支持した補助車輪支持部材が、前記脚体の後端部にリンク機構とスプリングを介して相互に上下方向に可動に接続され、かつ前記リンク機構は、前記補助車輪支持部材の垂直部分の上端部と前記脚体部との間および、前記補助車輪支持部材の垂直部分の下端部と前記脚体後端部のキャスター付き車輪支持部材の上部との間に横設された2組のリンクで構成され、前記スプリングは前記補助車輪支持部材の垂直部分の上端部と前記脚体後端部の車輪支持部材の下端部との間に掛けられ、前記脚体が前記リンク機構により前記スプリングに抗して傾斜して前輪側が接地面より浮上し、前記補助車輪支持部材に取付けられた補助車輪のキャスターが前記リンク機構とスプリングの作用により常に垂直に保持される仕組みとなしたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の6輪型車介護用車いすは上記のごとく構成してなるから、車いすの脚体が水平状態の時はもとより、前輪を持ち上げることによって脚体が傾斜してもその傾斜角度に関係なくキャスター付き後輪(補助車輪)が常に垂直状態を保持されてキャスターの回転機能が失われることがないため、傾斜路での直進性や段差の乗越え性能が優れているのみならず、室内での敷居や歩道上で段差を乗り越える際に脚体が傾斜しても当該車いすの方向転換を平坦な場所と同様に僅かな力でスムースに行うことができるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
図1は本発明に係る介護用車いすの一実施例を示す側面図、図2は同上介護用
車いすの正面図、図3は同上介護用車いすの要部を示す斜視図、図4は同上介護用車いすの前輪が持ち上げられた状態における脚体とキャスター付き後輪(補助車輪)の接続状態を示す側面図であり、1は後部フレーム部、1−1は背もたれ、2はサイドフレーム部、3は座面板、3−1は座面シート、4はステップパイプ、5は脚体、5−1は直線状脚パイプ、5−2はU字形連結パイプ、6は連結支持部材、7は主輪、7−1は主輪支持部材、8はキャスター付き前輪、8−1は前輪支持部材、9はキャスター付き後輪(補助車輪)、9−1は後輪(補助車輪)支持部材、10は後輪接続機構、10−1は断面凹形リンク、10−2は板状リンク、10−3はスプリング、11ははね上げ式肘掛けである。
【0008】
すなわち、図1〜図3に示す本発明に係る介護用車いすは、背もたれ1−1を有する後部フレーム部1と、座面板3および座面シート3−1からなる座面部を支持するサイドフレーム部2が一本のパイプで構成され、かつ左右のサイドフレーム部2の先端に一対のステップパイプ4が着脱可能に接続されている。座面部を構成する座面板3と座面シート3−1は、両端部を左右のサイドフレーム部2にねじ3−2にて着脱可能に固着された座面板3の上面に座面シート3−1が貼付けられた構造となしている。また、ステップパイプ4はその下端に前後方向に回動自在に取付けたブラケット4−1にステップ4−3をビス止めし、使用時はステップ4−3が水平に支持され、不使用時はステップパイプ4側に傾斜支持されるように設けられ、該ステップパイプ4の上端部がサイドフレーム部2のパイプに着脱可能に内嵌されるようになっている。
【0009】
脚体5は、2本一対の直線状脚パイプ5−1を所定の間隔を隔てて相平行するごとくU字形連結パイプ5−2にて一体に構成され、その前端部には直線状脚パイプ5−1に外嵌固着された前輪支持部材8−1にキャスター付き前輪8が取付けられ、その後端部には直線状脚パイプ5−1に外嵌固着された略L形の主輪支持部材7−1に主輪7が取付けられ、その脚体5の側面中央部に配置した連結支持部材6を介して前記座面板3および座面シート3−1からなる座面部が該脚体5と一体に接続構成されている。その脚体5と連結支持部材6および座面部の接続構造は、連結支持部材6の下部に設けた凹部6−1に脚体5の直線状脚パイプ5−1とU字形連結パイプ5−2を嵌合させ、当該嵌合部分の直線状脚パイプ5−1およびU字形連結パイプ5−2と連結支持部材6をボルト6−2にて締結し、同連結支持部材6の上部に形成した水平板部6−3の部分を座面板3の裏面にねじ6−4にて締結した構造となしている。
【0010】
一方、前記脚体5の後部に設ける一対のキャスター付き後輪(補助車輪)9は、それぞれ脚体5の後端部と相対向する面に下向きの垂直部分9−1aを有する外観が略L形の後輪(補助車輪)支持部材9−1の略水平部分9−1bに垂直に突出させた支持筒部9−1cに該キャスター部が垂直に取付けられ、前記脚体5の後端部に固着された主輪支持部材7−1に断面逆凹形リンク10−1および板状リンク10−2とからなるリンク機構と、スプリング10−3を介して相互に上下方向に可動に接続されている。すなわち、前記リンク機構は後輪(補助車輪)支持部材9−1の垂直部分9−1aの上部と、脚体5の後部に固着した主輪支持部材7−1の上部との間にねじ10−1a、10−1bにて跨設した断面逆凹形リンク10−1と、前記後輪(補助車輪)支持部材9−1の垂直部分9−1aの下端部と前記主輪支持部材7−1の上部との間に傾斜させて設けた板状リンク10−2とで構成され、かつ前記スプリング10−3は前記後輪(補助車輪)支持部材9−1の垂直部分9−1aの上端部と前記脚体後端部の主輪支持部材7−1の下端部との間に掛けられ、前記脚体5が前記リンク機構により前記スプリング10−3に抗して傾斜してキャスター付き前輪8が接地面より浮上すると同時に、前記後輪(補助車輪)支持部材9−1に取付けられたキャスター付き後輪(補助車輪)9が該後輪(補助車輪)支持部材9−1と共に僅かに後方に移動することにより、当該キャスター付き後輪(補助車輪)9のキャスターが前記リンク機構とスプリング10−3の作用により常に垂直に保持される仕組みとなしている。 なお、ここではリンク機構を構成する断面逆凹形リンク10−1の脚体5側端部を、脚体5の後端部に外嵌固着した主輪支持部材7−1に枢着しているが、断面逆凹形リンク10−1の脚体5側端部は脚体5自体に直接枢着してもよい。この場合は、主輪支持部材7−1を脚体5の後端部の下面に直接あるいはブラケット等を用いて取付けることができる。また、主輪7、キャスター付き前輪8、キャスター付き後輪(補助車輪)9は、ここではそれぞれ2個一対の車輪(合計12輪)を採用した場合を例示したが、それぞれ1個の車輪(合計6輪)でもよいことはいうまでもない。
【0011】
左右一対のはね上げ式肘掛け11は、図1に示すごとく、L字形に曲げ加工した1本のパイプ11−1の一端が後部フレーム部1に上下方向に回動可能に枢着され、他端はサイドフレーム部2に取着された接合突起11−1aに着脱可能に嵌合され、かつ該サイドフレーム部2の端部に回動可能に枢着したL形ストッパー11−1bを前記接合突起11−1aの真下に位置させることによってロック(抜け止め)され、L形ストッパー11−1bを横方向に回動位置させることによってロックが解除されてはね上げることができるように構成されている。
【0012】
上記構成の介護用車いすにおいて、室内での敷居や歩道上での段差を乗り越える際にキャスター付き前輪8を持ち上げるために、後部フレーム部1のハンドル部を把持して該いす本体に対し下向きに押圧力を付与すると、図4に示すように脚体5が前記リンク機構によりスプリング10−3に抗して傾斜してキャスター付き前輪8が接地面より浮上すると同時に、前記後輪(補助車輪)支持部材9−1に取付けられたキャスター付き後輪(補助車輪)9が該後輪(補助車輪)支持部材9−1と共に僅かに後方に移動することにより、当該キャスター付き後輪(補助車輪)9のキャスターは前記リンク機構とスプリング10−3の作用により常に垂直に保持されるので、座席が後方傾斜してキャスター付き後輪(補助車輪)9に加重がかかってもキャスターとしての回転機能が失われることはなく、当該車いすの方向転換を平坦な場所と同様に僅かな力でスムースに行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0013】
本発明の6輪型車介護用車いすは上記のごとく、車いすの脚体が水平状態の時はもとより、前輪を持ち上げることによって脚体が傾斜してもその傾斜角度に関係なくキャスター付き後輪(補助車輪)が常に垂直状態を保持されてキャスターの回転機能が失われることがないため、傾斜路での直進性や段差の乗越え性能が優れるのみならず、室内での敷居や歩道上で段差を乗り越える際に脚体が傾斜しても当該車いすの方向転換を平坦な場所と同様に僅かな力でスムースに行うことができるという優れた効果を奏する。したがって、本発明の介護用車いすは特に前輪持ち上げ時の方向転換性能がより優れることにより介護用車いすとして極めて実用性に富む。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る介護用車いすの一実施例を示す側面図である。
【図2】同上介護用車いすの正面図である。
【図3】同上介護用車いすの要部を示す斜視図である。
【図4】同上介護用車いすの前輪が持ち上げられた状態における脚体とキャスター付き後輪(補助車輪)の接続状態を示す側面図である。
【符号の説明】
【0015】
1 後部フレーム部
1−1 背もたれ
2 サイドフレーム部
3 座面板
3−1 座面シート
3−2 ねじ
4 ステップパイプ
4−1 ブラケット
4−3 ステップ
5 脚体
5−1 直線状脚パイプ
5−2 U字形連結パイプ
6 連結支持部材
6−1 凹部
6−2 ボルト
6−3 水平板部
6−4 ねじ
7 主輪
7−1 主輪支持部材
8 キャスター付き前輪
8−1 前輪支持部材
9 キャスター付き後輪(補助車輪)
9−1 後輪(補助車輪)支持部材
10 後輪接続機構
10−1 断面凹形リンク
10−2 板状リンク
10−3 スプリング
11 はね上げ式肘掛け
11−1 パイプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
背もたれ部を有する後部フレーム部と、座部を有するサイドフレーム部と、前記サイドフレーム部に着脱可能に接続された一対のステップパイプよりなる本体部分と、両端部にそれぞれ一対の車輪を取付けてなる脚体を連結支持部材を介して一体化して構成され、かつ前記脚体の後部に一対のキャスター付き補助車輪が設けられた6輪型の介護用車いすにおいて、前記脚体の後端部と相対向する面に下向きの垂直部分を有する略L形部材の略水平部分に前記キャスター付き補助車輪を垂直に支持した補助車輪支持部材が、前記脚体の後端部にリンク機構とスプリングを介して相互に上下方向に可動に接続され、かつ前記リンク機構は、前記補助車輪支持部材の垂直部分の上端部と、前記脚体の後端部との間、および前記補助車輪支持部材の垂直部分の下端部と前記脚体後端部の車輪支持部材の上部との間に設けた2組のリンクで構成され、前記スプリングは前記補助車輪支持部材の垂直部分の上端部と前記脚体後端部の車輪支持部材の下端部との間に掛けられ、前記脚体が前記リンク機構により前記スプリングに抗して傾斜して前輪側が接地面より浮上し、前記補助車輪支持部材に取付けられた補助車輪のキャスターが前記リンク機構とスプリングの作用により常に垂直に保持される仕組みとなしたことを特徴とする介護用車いす。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−69258(P2010−69258A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−243345(P2008−243345)
【出願日】平成20年9月22日(2008.9.22)
【出願人】(000102234)ウチヱ株式会社 (6)