説明

伝送品質評価補助装置

【課題】複数の分配器と複数の位相器と有線の通信線で構成され、位相器の位相を調整することで、伝送路で相関が高い環境から、相関の低い環境まで、無線免許の取得や、大規模な送受信系の構築を行わずに伝送特性を評価するための伝送路を構築することができる伝送品質評価補助装置を提供する。
【解決手段】同一時刻かつ同一周波数チャネルを用いて、信号の多重送受信を行う通信装置間の伝送品質を評価するために、通信装置間の伝送路を模擬する伝送品質評価補助装置であって、送信装置から信号を入力する複数の入力ポートと、入力ポートのそれぞれに接続され、入力信号を分配する分配器と、受信装置に対して信号を出力する複数の出力ポートと、出力ポートのそれぞれに接続され、出力信号を合成する合成器と、分配器のそれぞれと合成器それぞれとの間を有線で接続する通信線と、通信線それぞれの途中に接続された位相器とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の出力ポートと複数の入力ポートで送受信を行う通信装置の伝送品質を評価するための、実際に使用する伝送路に代わり、擬似的に有線で構築される伝送路を用いることで伝送路を模擬する伝送品質評価補助装置に関する。
【背景技術】
【0002】
通信速度を飛躍的に高めることが可能な技術としてMIMO(Multiple input multiple output)通信が知られている。これは、同一の周波数チャネル、同一の時刻に複数の信号を送信側通信装置(送信装置)の複数の出力ポートから送信し、受信側通信装置(受信装置)の複数の入力ポートから異なる受信信号を得ることで、通信速度を高める技術である。この技術は、有線・無線通信技術において入出力のポート数に比例して通信速度を高めることができる。高速無線アクセスシステムとしては、例えば無線LANの標準化規格IEEE 802.11nにおいて、MIMO通信が導入されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
MIMO通信における通信速度は、伝搬環境に依存して決定されるため、いつでもどこでも同様の通信速度を達成することができない。図14に無線通信の場合の構成を示す。図14において、101は送信装置、103−1〜Nは送信アンテナ素子、104−1〜Mは受信アンテナ素子、102は受信装置である。無線通信による無線伝送路においても、各アンテナ同士をつなぐパスの相関が低い(マルチパス環境)ほど通信速度を増加させることができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】守倉正博、久保田周治、「改訂三版802.11高速無線LAN教科書」、インプレスR&D、2008年3月27日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、実際の伝搬環境においてMIMO通信の特性を確認するためには、無線通信であれば、電波免許の取得、光通信においては、レーザおよび大規模な光ファイバ送受信装置の構築、メタルケーブルにおける通信においても、様々な接続形態を試みる必要があり、いずれの場合においても、検証のための伝送路構築に多大な負担を必要とし、実伝送路の構築には、大きな困難があるという問題がある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、複数の分配器と複数の位相器と有線の通信線で構成され、位相器の位相を調整することで、伝搬環境で相関が高い環境から、相関の低い環境まで、無線免許の取得や、大規模な送受信系の構築を行わずに伝送特性を評価するための伝搬環境を構築することができる伝送品質評価補助装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、同一時刻かつ同一周波数チャネルを用いて、信号の多重送受信を行う通信装置間の伝送品質を評価するために、前記通信装置間の伝送路を模擬する伝送品質評価補助装置であって、送信装置から信号を入力する複数の入力ポートと、前記入力ポートのそれぞれに接続され、入力信号を分配する分配器と、受信装置に対して信号を出力する複数の出力ポートと、前記出力ポートのそれぞれに接続され、出力信号を合成する合成器と、前記分配器のそれぞれと前記合成器それぞれとの間を有線で接続する通信線と、前記通信線それぞれの途中に接続された位相器とを備えたことを特徴とする。
【0008】
本発明は、前記位相器それぞれの位相回転量を調節する位相調整装置をさらに備えたことを特徴とする。
【0009】
本発明は、前記入力ポートの数と、前記出力ポートの数をそれぞれ2の階乗とし、前記入力ポートと、前記出力ポートの間の接続関係を行列とみなした際に、直交行列の−1に対応する位置の前記位相器の位相回転量のみを制御することを特徴とする。
【0010】
本発明は、同一時刻かつ同一周波数チャネルを用いて、信号の多重送受信を行う通信装置間の伝送品質を評価するために、前記通信装置間の伝送路を模擬する伝送品質評価補助装置であって、送信装置から信号を入力する複数の入力ポートと、前記入力ポートのそれぞれに接続され、入力信号を分配する分配器と、受信装置に対して信号を出力する複数の出力ポートと、前記出力ポートのそれぞれに接続され、出力信号を合成する合成器と、前記分配器のそれぞれと前記合成器それぞれとの間を有線で接続する通信線とを備え、前記入力ポートの数と、前記出力ポートの数をそれぞれ2の階乗とし、前記入力ポートと、前記出力ポートの間の接続関係を行列とみなした際に、直交行列の−1に対応する位置の通信線それぞれの途中に位相器を備えたことを特徴とする。
【0011】
本発明は、前記位相器の位相回転量を任意の速度で変化させることを特徴とする。
【0012】
本発明は、前記位相器の位相回転量を変化させ、模擬した伝送路の相関を任意の速度で変化させることを特徴とする。
【0013】
本発明は、前記入力ポートと、前記出力ポートの間に、減衰器をさらに接続したことを特徴とする。
【0014】
本発明は、前記減衰器の減衰量を任意の速度で変化させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、複数の送受信ポートで通信を行うMIMO通信の伝送装置を評価する際に、分配器と位相器と合成器で構成される有線の伝送路により擬似的な伝送路を形成するようにしたため、MIMO通信の伝搬環境の良い状況から悪い状況までを簡易に再現し、その状況における評価を実施することができるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1の実施形態の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の第2の実施形態の構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の第3の実施形態の構成を示すブロック図である。
【図4】本発明の第3の実施形態の構成の変形例を示すブロック図である。
【図5】測定に用いたパラメータを示す説明図である。
【図6】位相回転量0°の結果を示す説明図である。
【図7】位相回転量50°の結果を示す説明図である。
【図8】位相回転量180°の結果を示す説明図である。
【図9】本発明の第4の実施形態の構成を示すブロック図である。
【図10】本発明の第5の実施形態の構成を示すブロック図である。
【図11】本発明の第6の実施形態における相関値と位相回転量の関係を定義したテーブルの構成を示す説明図である。
【図12】本発明の第7の実施形態の構成を示すブロック図である。
【図13】本発明の第8の実施形態の構成を示すブロック図である。
【図14】無線伝送路を用いる場合の送信装置と受信装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<第1の実施形態>
以下、図面を参照して、本発明の第1の実施形態による伝送品質評価補助装置を説明する。図1は同実施形態の構成を示すブロック図である。この図において、符号101、102は、図14に示す送信装置101、受信装置102と同一の装置である。図1に示す装置構成が、図14に示す装置構成と異なる点は、図14に示す無線伝送路を図1に示す伝送品質評価補助装置111により模擬的に構成した点である。
【0018】
第1の実施形態における伝送品質評価補助装置111は、複数(N個;Nは2以上の自然数)の入力ポート105−1〜Nと、複数(N個)の分配器106−1〜Nと、複数の位相器107と、複数のケーブル108と、複数(M個;Mは2以上の自然数)の合成器109−1〜Mと、複数(M個)の出力ポート110−1〜Mで構成される。
【0019】
具体的な接続方法は、図1に示すように、入力ポート105それぞれに分配器106を接続される。分配器106は、位相器107が接続されたケーブルが接続される。出力ポート110それぞれに合成器109が接続される。合成器109は、各分配器に接続されているケーブルが接続される。そして、伝送品質評価補助装置111を用いてMIMO通信を評価する際には、送信装置101の各送信ポートを各入力ポート105−1〜Nに接続する。また、受信装置102の受信ポートに各出力ポート110−1〜Mに接続することで評価を行うことが可能になる。
【0020】
なお、送信装置101または受信装置102が無線送受信機である場合、それらの送信ポートまたは受信ポートには通常、アンテナ素子が接続されているが、伝送品質評価補助装置111の入力ポートまたは出力ポートを接続する場合には、アンテナ素子を外して、直接する、またはコネクタ接続する方法を用いる。あるいは、伝送品質評価補助装置111の入力ポート105−1〜Nと出力ポート110−1〜Mにもアンテナ素子を接続し、送信装置101または受信装置102のアンテナ素子と、伝送品質評価補助装置111のアンテナ素子間で信号を送受信するようにしてもよい。
【0021】
次に、伝送品質評価補助装置111を構成する各装置について説明する。入力ポート105および出力ポート110は、通信で用いるコネクタで構成されるポートである。分配器106は入力ポートからの信号を分配する数だけ分配する。位相器107は入力ポートからの信号の位相回転量を変更する。ケーブル108は信号を伝達する。合成器109は複数の信号を合成し出力する。
【0022】
次に、MIMO通信の評価方法について説明する。MIMO通信を行う際の通信容量の劣化要因の1つとして、伝送路の相関がある。相関が高い場合には伝搬環境が悪くなり、相関が低い場合には伝搬環境が良くなる。相関は伝送路における各伝送パスの位相回転量で決定される。従って、図1における位相器107の回転量を変更することで、様々な伝搬環境を構築することができる。このときの、i番目の分配器106−iからj番目の合成器109−jの間の伝搬係数をhjiとする。このとき、この経路に位相器107が含まれていたとすると、
ij=aijexp(j(θij+φij)) ・・・(1)
ここで、aijは分配器106−iから合成器109−jの間の減衰係数、θij[rad]は、分配器106−iから合成器109−jの間の回路特性による位相回転項、φij[rad]は位相器107により設定する位相回転である。
【0023】
次に、位相回転量の調整方法の一例を示す。伝搬環境の善し悪しを決定する式として、式(2)に示す行列式を用いる。
C=det(H) ・・・(2)
Hは式(1)で示される伝搬係数で構成される行列である。MIMO通信では、伝搬チャネルとも呼ばれる。Hは式(3)のように表すことができる。
【数1】

ここで、Mは出力数、Nは入力数を示している。式(2)の行列式は、各位相器107の回転量を調整することで変化させることが可能であるので、例えば、行列式を大きくなるように位相器を調整することで良い伝搬環境を作ることができ、行列式を小さくするにように位相器を調整することで悪い伝搬環境を作ることができる。従って、伝搬環境が良い状態から悪い状態まですべてに対してMIMO通信を評価することが可能である。
【0024】
なお、入力する信号として、無線信号を入力してもよいし、光信号を入力してもよいし、電力を入力してもよい。
【0025】
このように、第1の実施形態における伝送品質評価補助装置111は、入力ポート105−1〜N、出力ポート110−1〜M、分配器106−1〜N、位相器107、ケーブル108、合成器109−1〜Mを用いることにより、有線による仮想的な伝送路を構築することでMIMO通信における伝送特性を評価することができる。
【0026】
<第2の実施形態>
次に、図2を参照して、本発明の第2の実施形態による伝送品質評価補助装置を説明する。図2は、同実施形態の構成を示すブロック図である。図2に示す伝送品質評価補助装置112において、図1に示す伝送品質評価補助装置111と同一の部分には同一の符号を付し、その説明を省略する。この図に示す装置が図1に示す装置と異なる点は、位相器107のそれぞれの位相を調節する位相調節装置121を備えた点である。位相調節装置121は、位相器107それぞれの位相回転量を調節することにより簡易に相関の異なる伝送路を構築する。
【0027】
このように、第2の実施形態における伝送品質評価補助装置112は、各位相器の位相回転量を位相調節装置を用いて調節することにより簡易に相関の異なる伝送路を構築することがきる。
【0028】
<第3の実施形態>
次に、図3を参照して、本発明の第3の実施形態による伝送品質評価補助装置を説明する。図3は、同実施形態の構成を示すブロック図である。図3に示す伝送品質評価補助装置113において、図1に示す伝送品質評価補助装置111と同一の部分には同一の符号を付し、その説明を省略する。この図に示す装置が図1に示す装置と異なる点は、入力ポート数と出力ポート数を2の階乗(図3に示す例ではポート数がそれぞれ4)とし、入力ポート105−1〜4と出力ポート110−1〜4の間の接続関係を行列とみなした際に、直交行列の−1に対応する位置の位相器107のみを連動させて調整することにより様々な伝搬環境を作るようにした点である。
【0029】
ここで、直交行列の−1に対応する位相器107の位置および個数について説明する。直交行列(符号)とは、独立した通信チャネルを確保するために使用される行列(符号)であり、Walsh行列(符号)とも呼ばれる。直交行列Wは、式(4)〜式(7)で表される行列であり、n=2(m=1,2,3,4,・・・)でのみ現れる。
【数2】

n=8以降は、式(8)によって生成される。
【数3】

【0030】
上記に示す直交行列と伝搬チャネルHを対応させ、直行行列の−1に対応する位置の位相器107のみを調節するだけで良い伝搬環境から悪い伝搬環境までのMIMO伝送の評価を行うことが可能となる。ここで、行列の行と列が、それぞれ、伝送品質評価補助装置113の入力ポート105−1〜4並びに出力ポート110−1〜4に対応し、行列の各要素が、該当する入力ポート並びに出力ポートを繋ぐ有線を指定することになる。なぜならば、直交行列の行列式はすべて最大になるから、直行行列の−1に対応する位置の位相器107のみの調節で、伝搬環境の調整を最大限変化させることができるのである。
【0031】
すなわち、最も良い伝搬環境で評価したい場合には、直行行列の−1に対応する位置の位相器107の位相回転量を他のパスに比べて180°になるように調整すればよい。また、最も悪い伝搬環境で評価したい場合には、直行行列の−1に対応する位置の位相器107の位相回転量を他のパスに比べて0°になるように調整すればよい。したがって、一部(直行行列の−1に対応する位置)の位相器107のみ調整することで最も良い伝搬環境から最も悪い伝搬環境まですべて評価することが可能になる。
【0032】
ただし、事前に直交行列の1に対応するパスの位相器107を調整し各パスの位相差を0°にする必要がある。これは、位相器107でなく、ケーブルの種類を変更して合わせてもよい。
【0033】
また、図4に示すように、伝送品質評価補助装置114内に位相調節装置121を設け、直交行列の−1に対応する位相器107のみの位相回転量を位相調節装置121により制御してもよい。
【0034】
次に、第3の実施形態における伝送品質評価補助装置113を用いた測定結果について説明する。MIMO伝送の評価するために測定で用いたパラメータを図5に示す。また、図6、図7、図8に直行行列の−1に対応する位置の位相器107の位相回転量を0°(図6)、50°(図7)、180°(図8)にした時の各送信ストリームの信号点配置の結果を示す。ここでいうストリームとは、MIMO技術によって空間多重を行う際の各データを示している。
【0035】
図6に示すように、位相回転量0°の結果は、すべてのパスの位相回転量が同一になり、行列式が小さくなるため伝搬環境が悪くなり、復号してもほとんど誤っている。また、図7に示すように、位相回転量50°の結果は、位相回転量を変化させることで行列式の値が大きくなり、若干誤るものの大体が正しく受信されている。さらに、図8に示すように、位相回転量180°の結果は、行列式の値が最も大きくなるために伝搬環境がよくなり復号の結果誤りがほとんどなく受信することができていることが分かる。
【0036】
このように、第3の実施形態における伝送品質評価補助装置113、114は、少ない位相器107のみを調節するだけで、良い伝搬環境から悪い伝搬環境まで評価することができる。
【0037】
<第4の実施形態>
次に、図9を参照して、本発明の第4の実施形態による伝送品質評価補助装置を説明する。図9は、同実施形態の構成を示すブロック図である。図9に示す伝送品質評価補助装置115において、図1に示す伝送品質評価補助装置111と同一の部分には同一の符号を付し、その説明を省略する。この図に示す装置が図1に示す装置と異なる点は、入力ポート数と出力ポート数を2の階乗(図9に示す例ではポート数がそれぞれ4)とし、入力ポート105−1〜4と出力ポート110−1〜4の間の接続関係を行列とみなした際に、直交行列の−1に対応する位置のみに位相器17を接続するようにした点である。ただし、予め直交行列の1に対応する各パスの位相回転量差を0°としておく。
【0038】
このように、第4の実施形態における伝送品質評価補助装置115は、予め、直交行列の1に対応する各パスの位相回転量差を0°と構成することで、少ない位相器107のみで構成することができる。
【0039】
<第5の実施形態>
次に、図10を参照して、本発明の第5の実施形態による伝送品質評価補助装置を説明する。図10は、同実施形態の構成を示すブロック図である。図10に示す伝送品質評価補助装置116において、図2に示す伝送品質評価補助装置112と同一の部分には同一の符号を付し、その説明を省略する。この図に示す装置が図2に示す装置と異なる点は、位相器107の位相を任意の速度で変化させる位相変化装置122をさらに備えた点である。
【0040】
位相変化装置122は、位相調節装置121の動作を制御して、位相器107に位相回転量を任意の速度で変化させる。位相変化装置122によって、各位相器107の位相回転量を時系列で任意に変化させる制御を加えることにより、時系列で位相回転量が変化する伝搬環境を作ることができる。従って、位相回転量に時間変動がある場合の評価を行うことが可能となる。
【0041】
このように、第5の実施形態における伝送品質評価補助装置116は、位相器107の位相回転量を任意の速度で変化させる位相変化装置122を用いて、時間ごとの位相回転量を制御することで実環境に近い伝送路の時変動がある状態での評価を行うことができる。
【0042】
<第6の実施形態>
次に、図11を参照して、本発明の第6の実施形態による伝送品質評価補助装置を説明する。図11は、同実施形態における伝送品質評価補助装置内に記憶された相関値と位相回転量の関係を定義したテーブルの構成を示す説明図である。位相回転量を調整することによって様々な伝送路を作ることは可能であるが、その組合せは膨大である。そこで、第6の実施形態は、各相関値(1、2、3、4、5:1が相関が低く、5が相関が高い)と各相関値を達成可能な位相回転量の組合せを定義したテーブルを予め伝送品質評価補助装置内に記憶しておくようにしたものである。
【0043】
このように、複数の相関値を作ることができる位相回転量の組合せをいくつか予め用意して装置内部に記憶しておき、その組合せの中でのみ位相器107の位相回転量の調整を行うことで、簡単にMIMO通信を評価することができる。
【0044】
<第7の実施形態>
次に、図12を参照して、本発明の第7の実施形態による伝送品質評価補助装置を説明する。図12は、同実施形態の構成を示すブロック図である。図12に示す伝送品質評価補助装置117において、図10に示す伝送品質評価補助装置116と同一の部分には同一の符号を付し、その説明を省略する。この図に示す装置が図10に示す装置と異なる点は、位相器107に代えて、減衰機能を有した位相器119を用いることで位相だけでなく、減衰量も変化させて評価するようにした点である。
【0045】
このように、減衰器を有した位相器119を接続することにより、各伝送路の伝搬損失を変化させることができる。実際の伝送においては、各パスの伝搬損失が一致することはまれであるので、減衰器を有した位相器119を用いることで、より実環境に近い伝送路で評価することができる。
【0046】
<第8の実施形態>
次に、図13を参照して、本発明の第8の実施形態による伝送品質評価補助装置を説明する。図13は、同実施形態の構成を示すブロック図である。図13に示す伝送品質評価補助装置118において、図12に示す伝送品質評価補助装置117と同一の部分には同一の符号を付し、その説明を省略する。この図に示す装置が図12に示す装置と異なる点は、位相調節装置121、位相変化装置122のそれぞれに代えて、位相/減衰調節装置123と位相/減衰変化装置124を備え、位相だけでなく減衰も調節するようにした点である。
【0047】
このように、位相と減衰を調節することが可能な位相/減衰調節装置123と、任意の速度で位相および減衰を変化させることができる位相/減衰変化装置124を設けることにより位相および減衰を任意に制御することが可能になり簡易で実伝送路に近い環境で評価することができる。
【0048】
以上説明したように、MIMO(Multiple-Input Multiple-Output)技術などのように、複数の送信ポートを有する送信装置から、複数の受信ポートを有する受信装置に対し、有線または無線により信号伝送を行うシステムにおいて伝送品質を評価する際には、様々な状態の伝送路を模擬できる必要がある。前述した伝送品質評価補助装置は、各入力ポートがそれぞれ分配器に接続され、各出力ポートがそれぞれ合成器に接続される構成となっており、さらに、各分配器は入力を各合成器に対し分配する構成で、各合成器は入力を合成して出力する構成となっている。また、分配器と合成器の間は、有線の通信線で接続され、分配器と合成器の間に位相器が配されている。
【0049】
この時、i番目の分配器からj番目の合成器の間の、位相器による位相シフト量φijと、伝搬係数hjiの関係は、式(1)で与えられ、この伝搬環境hjiを基に、伝搬チャネルHが与えられ(式(3))、さらに伝搬環境を表す量Cが与えられる(式(2))。前述の説明で明らかなように、各位相器の位相シフト量φijを調整することにより、伝送品質評価補助装置が模擬する伝搬環境を制御することができる。そこで、送信装置の各送信ポートを伝送品質評価補助装置の各入力ポートに、伝送品質評価補助装置の各出力ポートを受信装置の各受信ポートに接続し、各位相器の位相シフト量を調整すれば、対象の送受信システムにおいて、様々な状態の伝送路を模擬することができ、容易に伝送品質の評価が可能になる。すなわち、本発明の伝送品質評価補助装置では、複数の送信ポートを有する送信装置から、複数の受信ポートを有する受信装置に対し、有線または無線により信号伝送を行うシステムにおいて、伝搬環境の良い状況から悪い状況までを簡易に再現できるという効果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
複数の出力ポートと複数の入力ポートで送受信を行う通信装置の伝送品質を評価するための、実際に使用する伝送路に代わり、擬似的に有線で構築される伝送路を用いることで伝送路を模擬することが不可欠な用途に適用できる。
【符号の説明】
【0051】
101・・・送信装置、102・・・受信装置、105−1〜N・・・入力ポート、106−1〜N・・・分配器、107・・・位相器、108・・・ケーブル、109−1〜M・・・合成器、110−1〜M・・・出力ポート、111、112、113、114、115、116、117、118・・・伝送品質評価補助装置、119・・・減衰器を含む位相器、121・・・位相調節装置、122・・・位相変化装置、123・・・位相/減衰調節装置、124・・・位相/減衰変化装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一時刻かつ同一周波数チャネルを用いて、信号の多重送受信を行う通信装置間の伝送品質を評価するために、前記通信装置間の伝送路を模擬する伝送品質評価補助装置であって、
送信装置から信号を入力する複数の入力ポートと、
前記入力ポートのそれぞれに接続され、入力信号を分配する分配器と、
受信装置に対して信号を出力する複数の出力ポートと、
前記出力ポートのそれぞれに接続され、出力信号を合成する合成器と、
前記分配器のそれぞれと前記合成器それぞれとの間を有線で接続する通信線と、
前記通信線それぞれの途中に接続された位相器と
を備えたことを特徴とする伝送品質評価補助装置。
【請求項2】
前記位相器それぞれの位相回転量を調節する位相調整装置をさらに備えたことを特徴とする請求項1に記載の伝送品質評価補助装置。
【請求項3】
前記入力ポートの数と、前記出力ポートの数をそれぞれ2の階乗とし、
前記入力ポートと、前記出力ポートの間の接続関係を行列とみなした際に、直交行列の−1に対応する位置の前記位相器の位相回転量のみを制御することを特徴とする請求項1または2に記載の伝送品質評価補助装置。
【請求項4】
同一時刻かつ同一周波数チャネルを用いて、信号の多重送受信を行う通信装置間の伝送品質を評価するために、前記通信装置間の伝送路を模擬する伝送品質評価補助装置であって、
送信装置から信号を入力する複数の入力ポートと、
前記入力ポートのそれぞれに接続され、入力信号を分配する分配器と、
受信装置に対して信号を出力する複数の出力ポートと、
前記出力ポートのそれぞれに接続され、出力信号を合成する合成器と、
前記分配器のそれぞれと前記合成器それぞれとの間を有線で接続する通信線とを備え、
前記入力ポートの数と、前記出力ポートの数をそれぞれ2の階乗とし、
前記入力ポートと、前記出力ポートの間の接続関係を行列とみなした際に、直交行列の−1に対応する位置の通信線それぞれの途中に位相器を備えたことを特徴とする伝送品質評価補助装置。
【請求項5】
前記位相器の位相回転量を任意の速度で変化させることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の伝送品質評価補助装置。
【請求項6】
前記位相器の位相回転量を変化させ、模擬した伝送路の相関を任意の速度で変化させることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の伝送品質評価補助装置。
【請求項7】
前記入力ポートと、前記出力ポートの間に、減衰器をさらに接続したことを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の伝送品質評価補助装置。
【請求項8】
前記減衰器の減衰量を任意の速度で変化させることを特徴とする請求項7に記載の伝送品質評価補助装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−39170(P2012−39170A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−174396(P2010−174396)
【出願日】平成22年8月3日(2010.8.3)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】