説明

伸縮性ファスナーストリンガー及びスライドファスナー

【課題】噛合状態にあるエレメント列が突き上げ力を受けてもチェーン割れが生じず、エレメント列の噛合状態を安定して維持するスライドファスナーに用いられる伸縮性ファスナーストリンガーを提供。
【解決手段】伸縮性ファスナーストリンガーは、テープ主体部及びエレメント取付部を有するファスナーテープと、前記エレメント取付部に取着された連続ファスナーエレメント3とを備え、前記ファスナーテープは、弾性糸が織り込まれ又は編み込まれて伸縮性を有し、前記ファスナーエレメントは、噛合頭部3aと、同噛合頭部から延出した上下脚部3bと、隣り合うファスナーエレメントの上下脚部間を連結する連結部3dとを有してなるファスナーストリンガー1であって、前記噛合頭部のテープ長さ方向の寸法Hと、前記上下脚部3b,3cのテープ長さ方向の寸法dとの比である山出し率の値が1.80より大きく2.33以下に設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スポーツ用衣類等の伸縮性を有する衣類に使用されるスライドファスナー用のファスナーストリンガーに関し、特に、エレメント取付部が伸長してもチェーン割れの発生を防ぐことが可能なスライドファスナー用ファスナーストリンガーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来からスライドファスナーは、衣類やかばん類を始め、様々な分野に用いられており、例えば、編生地製の衣類やスポーツ用衣類等の伸縮性に富む衣類に対しても多く使用されてきている。このような伸縮性に富む各種衣類に使用されるスライドファスナーは、その衣類に対して体裁良く取り付けために、更には衣類の伸縮にスライドファスナーを対応させるために、スライドファスナーテープを織成又は編成するにあたって、その織組織又は編組織、或いは構成糸条の材質等を選択して、ファスナーテープに伸縮性を付与することが行われている。また一般に、スライドファスナーは、編成したファスナーテープよりも織成したファスナーテープを用いて形成された方が見栄えが良いことが知られている。
【0003】
また、スライドファスナーのファスナーテープに対してテープ長手方向の伸縮性を付与する場合、一般にファスナーテープのテープ主体部には、例えば幾つかの経糸に弾性糸を用いることによってテープ長手方向に適度な伸縮性が付与されるものの、同ファスナーテープの一側縁部に形成されてファスナーエレメントが取り付けられるエレメント取付部は伸縮しないように構成されている。
【0004】
その理由としては、例えばファスナーテープのテープ主体部とエレメント取付部とに伸縮性を付与した場合に、ファスナーテープのエレメント取付部が伸縮すると、同エレメント取付部に取り付けられたエレメント列も同様に伸縮する。このため、左右のエレメント列が噛合している状態でファスナーテープを伸長させたときに、エレメント列がテープ長さ方向へある程度以上に伸びてしまうと、エレメント同士の噛合が外れてしまい、スライドファスナーが左右に開くチェーン割れと呼ばれる不具合が発生し易くなる。このため、一般的なスライドファスナーにおいては、ファスナーテープのエレメント取付部が非伸縮性に構成されていることが多い。
【0005】
しかしながら、例えばファスナーテープのテープ主体部は伸縮性を有し、エレメント取付部は非伸縮性に形成されたスライドファスナーを、例えば伸縮性に富む衣類に取り付けた場合、ユーザーがその伸縮性衣類を着用して身体を屈伸させる等の運動を行ったときに、テープ主体部は衣類の伸縮に応じて伸びたり縮んだりするものの、エレメント取付部が伸縮することはない。このため、衣類のスライドファスナーが取り付けられた部分において突っ張り現象が生じたり、また着用上、外観上にて著しい違和感が生じることがあった。
【0006】
かかる不具合を解消すべく、例えば特開昭63−294804号公報(特許文献1)や特開2008−43432号公報(特許文献2)には、テープ主体部だけでなく、エレメント取付部縁辺にも伸縮性を付与したスライドファスナーが開示されている。
【0007】
例えば、前記特許文献1に開示されているスライドファスナーは、ファスナーテープが織成されるときに、ファスナーテープのテープ主体部及びエレメント取付部を構成する経糸として、一定の間隔で規則的に配された弾性糸(スパンデックスのカバードヤーン)と、それ以外の部分に配された非弾性糸とを有している。また、ファスナーテープのエレメント取付部には、芯紐を内部に挿通したコイル状のエレメント列が縫糸により縫着されており、その芯紐としては、弾性糸がポリエステルの嵩高加工糸(非弾性糸)よりなる被覆層で被覆された構造を有するものが用いられている。
【0008】
このような構成を有する特許文献1のスライドファスナーは、エレメント取付部にもテープ主体部と同様に弾性糸が一定の間隔で規則的に配されているため、例えばファスナーテープの長手方向に4kgの荷重を加えたときにエレメント取付部が10%以上伸びるような伸度を有している。
【0009】
また一方で、エレメント取付部に配する弾性糸の配列本数の割合がテープ主体部の割合と同等であり、エレメント取付部にも非弾性糸が数多く織り込まれていること、芯紐が非弾性糸からなる被覆層によって被覆されて芯紐自体の伸度が抑制されていること、及び、非弾性の縫糸によりエレメント列と芯紐とがエレメント取付部に縫着されていることによって、ファスナーストリンガーが最も伸長したときにおける隣接するエレメント間のピッチが、同エレメント列の噛合頭部におけるテープ長手方向の長さの2倍未満となるように規制されている。
【0010】
これにより、特許文献1のスライドファスナーは、伸縮性を有する衣類に取り付けた場合に、衣類の伸縮に順応してスライドファスナー取付部が伸縮するため、突っ張り現象や違和感が生じず、良好な着用感や良好な外観を得ることが可能となる。また、ファスナーテープのエレメント取付部に伸縮性を付与すると同時に、エレメント列の最大の伸び幅を前述のように制限しているため、エレメント取付部が伸長しても、ファスナーエレメントの噛合が外れてスライドファスナーにチェーン割れが生じることを防ぐことができる。
【0011】
更に、前記特許文献2には、特許文献1に記載されているスライドファスナーよりも伸縮性が高められたスライドファスナーが記載されている。例えばスポーツ用衣類などは、製品の価値を高めるために、より高い伸縮性を有することが望まれており、また開発されている。このため、このような高伸縮性を有する衣類に取着されるスライドファスナーに対しても、より高い伸縮性が求められるようになってきている。
【0012】
そこで、特許文献2に記載されているスライドファスナー(ファスナーストリンガー)では、ファスナーテープのテープ主体部及びエレメント取付部に、経糸として弾性糸と非弾性糸とが併用して織り込まれており、且つ、エレメント取付部における弾性糸の非弾性糸に対する織込割合が、テープ主体部における弾性糸の非弾性糸に対する織込割合よりも大きく設定されている。
【0013】
このようにエレメント取付部における弾性糸の織込割合をテープ主体部と変化させて、テープ主体部における弾性糸の織込割合よりも大きくすることにより、エレメント取付部の伸縮性を大幅に向上させることができる。具体的には、特許文献2のスライドファスナーは、ファスナーテープの長手方向に1kgの荷重を加えたときにエレメント取付部が10%以上伸びるような伸度を有することができるとしている。
【0014】
このように特許文献2のスライドファスナーは、前記特許文献1のスライドファスナーに比べて、より軽い荷重でエレメント取付部を伸長させることができ、エレメント取付部の伸度(伸縮性)に非常に優れている。従って、例えば高い伸縮性を備えた生地に特許文献2のスライドファスナーを縫着しても、生地の伸縮動作に滑らかに追随してファスナーテープを容易に伸縮させることができ、突っ張り現象や違和感を生じさせずに、良好な着用感や良好な外観を得ることが可能となる。
【0015】
しかも、特許文献2のファスナーストリンガーでは、エレメント取付部、エレメント列、及び芯紐の長手方向の伸び幅を、最も伸長したときにおけるファスナーエレメント間のピッチが、同エレメント列の噛合頭部におけるテープ長手方向の長さの2倍未満となるように制限している。これにより、左右のエレメント列を噛合させた状態でエレメント取付部を伸長させても、ファスナーエレメントの噛合が外れてチェーン割れが生じることを防ぐことができるとしている。
【特許文献1】特開昭63−294804号公報
【特許文献2】特開2008−43432号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
前記特許文献1や前記特許文献2には、ファスナーテープがテープ長さ方向に伸長可能な地組織を有するスライドファスナーが開示されており、このスライドファスナーのエレメント列を形成する各ファスナーエレメントの構成については詳細に記載されていないものの、その開示内容からすると、従来から用いられている一般的なコイル状の連続ファスナーエレメントを用いてエレメント列が形成されているものとされる。
【0017】
この場合、一般的な従来のコイル状ファスナーエレメントは、断面が円形状の合成樹脂製モノフィラメントを用いて形成される。このコイル状のファスナーエレメントの形成について詳しく説明すると、先ず、線径(断面直径)が例えば0.6mmφのモノフィラメントに屈曲加工を行って、モノフィラメントをコイル状に捲き回し、その後、スタンピング成形を行って偏平状態に塑性変形させることにより、同モノフィラメントに局所的に左右に膨らむ膨出部を形成し、コイル状の連続ファスナーエレメントが形成される。
【0018】
従来、このようにして形成されたコイル状のファスナーエレメントにおいて、モノフィラメントの線径が0.6mmφの場合には、エレメント列の噛合強度やスライダーの摺動性などを考慮して、一般的に、噛合頭部のテープ長さ方向における寸法(山長さH)が1.08mmに設定され、隣接するファスナーエレメントのテープ長さ方向におけるピッチPが1.40mmに設定される。また、線径が異なるモノフィラメントを用いる場合においても、モノフィラメントの線径に対する山長さHやピッチPの相対的な大きさ(割合)は、基本的に一定とされる。
【0019】
なお、コイル状ファスナーエレメントを、上述のような伸縮性を有するファスナーテープに縫着する場合には、ファスナーテープをテープ長さ方向に引っ張って所定の張力を付与した状態でコイル状ファスナーエレメントの取り付けが行われる。このため、得られたスライドファスナーは、エレメント縫着時のファスナーテープの張力が解かれるため、ファスナーエレメントのテープ長さ方向におけるピッチPは、一般的に1.37mm程度に収縮する。
【0020】
ここで、上述のようなファスナーテープやエレメント列がテープ長さ方向に伸長するスライドファスナーにおいて、通常のコイル状ファスナーエレメントによってエレメント列が形成されている場合、左右のエレメント列が噛合している状態では、各ファスナーエレメントの噛合頭部が、噛合相手側のエレメントの上下脚部間に入り込むことによって、左右のエレメント列の噛合頭部同士が係合している。
【0021】
このため、例えばスライドファスナーが、エレメント列の噛合状態時にファスナーテープをテープ幅方向の外側へ向けて引っ張る力(横引き力)を受けても、ファスナーエレメントのピッチPは拡がらずに左右の噛合頭部同士がしっかりと係合しているため、左右のエレメント列の噛合が外れることはなく、エレメント列の噛合状態を維持することが可能である。
【0022】
しかしながら、例えば伸縮性を有するスライドファスナーが、エレメント列の噛合状態時に同エレメント列をテープ表裏方向へ押圧する力(突き上げ力)を受けた場合、ファスナーテープが伸縮性を有するためにエレメント列が局所的にテープ表裏方向に湾曲又は屈曲する。その結果、ファスナーエレメントのピッチPが、エレメント列の湾曲又は屈曲した部分にて容易に広がってしまう。
【0023】
これにより、ファスナーエレメントの噛合頭部は、突き上げ力を受ける前は、所定ピッチで取り付けられていた噛合相手側のファスナーエレメントの噛合頭部と係合していたものの、突き上げ力を受けてファスナーエレメントのピッチPが広がったときには、その突き上げ力を受けた部位の噛合頭部は、噛合相手側のファスナーエレメントとの係合が外れてエレメント列の噛合状態を維持できなくなる。このため、エレメント列にチェーン割れが生じ易くなるという問題があった。
【0024】
本発明は上記従来の課題に鑑みてなされたものであって、その具体的な目的は、伸縮性を有するファスナーテープにエレメント列が取着されたスライドファスナーにあって、噛合状態にあるエレメント列が突き上げ力を受けても、チェーン割れが生じることを防いでエレメント列の噛合状態を安定して維持することが可能なスライドファスナー、特に、同スライドファスナーに用いられる伸縮性ファスナーストリンガーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0025】
上記目的を達成するために、本発明により提供される伸縮性ファスナーストリンガーは、基本的な構成として、テープ主体部及びエレメント取付部を有するファスナーテープと、同ファスナーテープの前記エレメント取付部に取着された連続ファスナーエレメントとを備え、前記ファスナーテープは、前記テープ主体部と前記エレメント取付部とに弾性糸が織り込まれ又は編み込まれて伸縮性を有し、前記ファスナーエレメントは、噛合頭部と、同噛合頭部からテープ幅方向に延出し、前記エレメント取付部に取着される上下脚部と、隣り合うファスナーエレメントの上下脚部間を連結する連結部とを有してなるスライドファスナー用伸縮性ファスナーストリンガーであって、前記噛合頭部のテープ長さ方向における寸法を山長さHとし、前記上下脚部のテープ長さ方向における寸法を脚部長さdとしたときの前記山長さHと前記脚部長さdとの比である山出し率(=山長さH/脚部長さd)の値が、1.80より大きく、2.33以下に設定されてなることを最も主要な特徴とするものである。
【0026】
本発明に係るファスナーストリンガーにおいて、前記山長さH及び前記脚部長さdの和と、互いに隣接する前記ファスナーエレメントのテープ長さ方向における噛合頭部間のピッチPとの比である噛み合い率(=(山長さH+脚部長さd)/ピッチP)の値が、1.23より大きく、1.50以下に設定されていることが好ましい。
【0027】
また、本発明のファスナーストリンガーにおいて、前記ファスナーエレメントは、縫製糸により前記エレメント取付部に縫着されていることが好ましく、この場合、前記ファスナーエレメントの前記上下脚部間に、伸縮性を有する芯紐が挿通されていることが好ましい。
【0028】
一方、本発明のファスナーストリンガーにおいて、前記ファスナーエレメントは、前記ファスナーテープが織成又は編成されると同時に織り込まれ、又は編み込まれて取着されていても良い。
【0029】
更に本発明によれば、上述の構成を有するファスナーストリンガーを含んでなるスライドファスナーが提供される。
【発明の効果】
【0030】
本発明者等は、伸縮性を有するファスナーテープに連続ファスナーエレメントが取着された伸縮性スライドファスナーが噛合状態時に突き上げ力を受けても、同スライドファスナーにチェーン割れが発生することを防止する手段について鋭意検討を重ねた。
【0031】
その結果、噛合頭部のテープ長さ方向における寸法を示す山長さHを従来よりも大きく設定すれば、エレメント列が突き上げ力を受けてファスナーエレメントのピッチPが広がっても、エレメント列の噛合状態を安定して維持できること、及び、そのときの山長さHを上下脚部のテープ長さ方向における寸法(脚部長さd)に対して相対的に定めることによって規格化できることを見出し、更に、実験を重ねて山長さHと脚部長さdとの比についての適切な数値範囲を規定することによって、本発明を完成させるに至った。
【0032】
即ち、本発明により提供される伸縮性ファスナーストリンガーは、エレメント列を形成するファスナーエレメントについて、噛合頭部のテープ長さ方向における寸法を示す山長さHと、上下脚部のテープ長さ方向における寸法を示す脚部長さdとの比である山出し率(=山長さH/脚部長さd)の値が、1.80より大きく、2.33以下に、好ましくは1.85以上2.13以下に設定されて形成されている。なお、本発明における伸縮性ファスナーストリンガーとは、弾性を備えて伸縮可能なファスナーストリンガーをいい、具体的には、ファスナーストリンガーの左右エレメント列を噛合させたファスナーチェーンに対して、その長手方向にテープ長さ30cm当たり1kgの荷重を加えて伸長させた後、荷重を取り除いたときに、同ファスナーチェーンが元の寸法(30cm)に戻ることが可能なファスナーストリンガーをいう。
【0033】
ここで、従来のコイル状又はジグザグ状の連続ファスナーエレメントが取着された一般的なスライドファスナーは、前述のように、山長さHが1.08mmに設定されている。また、ファスナーエレメントを形成するモノフィラメントが円形断面を有する場合、前記脚部長さdは、モノフィラメントの線径(断面直径)の寸法に相当するため、0.6mmとなる。従って、従来のスライドファスナーに取着されていた連続ファスナーエレメントにおける山出し率の値は、1.80となっていた。
【0034】
即ち、本発明のファスナーストリンガーは、ファスナーエレメントについて規定した山出し率を、従来の1.80よりも大きく、好ましくは1.85以上に設定することによって、エレメント列が突き上げ力を受けてファスナーエレメントのピッチPが広がっても、各ファスナーエレメントが有する噛合頭部のテープ長さ方向における寸法が従来よりも大きいため、左右のファスナーエレメントの噛合頭部同士の係合を維持でき、エレメント列にチェーン割れが生じることを防止することができる。
【0035】
なお、本発明のファスナーストリンガーは、理論上、ファスナーエレメントのピッチPが、突き上げ力などを受けていない通常状態のときに比べて123%〜146%程度伸長しても、エレメント列にチェーン割れが生じることを防止することができる。
【0036】
一方、ファスナーエレメントの山出し率の設定を大きくし過ぎると、即ち、各ファスナーエレメントの噛合頭部におけるテープ長さ方向における寸法が大きくなり過ぎると、テープ長さ方向に隣接するファスナーエレメントの噛合頭部同士が重なり合うために、左右のエレメント列を噛合させることが困難になることが考えられ、また、例えばスライダーを摺動させて左右のエレメント列を噛合又は分離させるときに、スライダーの摺動抵抗が大きくなってその摺動性が低下し、スライドファスナーの開閉操作を円滑に行うことができなくなる。
【0037】
このため、ファスナーエレメントの山出し率は、テープ長さ方向に隣接するファスナーエレメントの噛合頭部同士が重なり合わないようにするとともに、スライドファスナーの操作性を考慮して、前述のように2.33以下に、好ましくは2.13以下に設定されて形成されている。
【0038】
このような本発明のファスナーストリンガーにおいて、山長さH及び脚部長さdの和と、ファスナーエレメントの噛合頭部間のピッチPとの比である噛み合い率(=(山長さH+脚部長さd)/ピッチP)の値は、1.23より大きく、1.50以下に、好ましくは、1.28より大きく1.46以下に、特に好ましくは1.30に設定されている。
【0039】
このようにピッチPを用いて規定された噛み合い率は、エレメント列の噛合状態において、ファスナーエレメントの噛合頭部が噛合相手側のファスナーエレメントの上下脚部間に入り込んでいる割合を示しており、同噛み合い率が1.23より大きく、好ましくは1.28より大きく設定されることにより、ファスナーエレメントの噛合頭部が噛合相手側のファスナーエレメントの上下脚部間に、より深く入り込むため、エレメント列が突き上げ力を受けてもエレメント列にチェーン割れが生じることをより効果的に防止することができる。
【0040】
一方、この噛み合い率が1.50以下に、好ましくは1.46以下に設定されることにより、隣接するファスナーエレメントの噛合頭部同士が重なり合うことを確実に防止するとともに、スライドファスナーの操作性が低下することも防止できる。
【0041】
本発明のファスナーストリンガーにおいて、前記ファスナーエレメントは、縫製糸により前記エレメント取付部に縫着されている。このように縫製糸によりファスナーエレメントが、伸縮性を有するファスナーテープのエレメント取付部に縫着されていることにより、ファスナーエレメントを安定して縫着できるとともに、スライドファスナーの伸縮性を容易に確保することができる。
【0042】
この場合、ファスナーエレメントの上下脚部間に、伸縮性を有する芯紐が挿通されていることにより、ファスナーエレメントの縫着が安定して確実に成されるとともに、エレメント列の噛合動作の安定化を図ることができる。
【0043】
また、本発明のファスナーストリンガーにおいて、前記ファスナーエレメントは、前記ファスナーテープが織成又は編成されると同時に織り込まれ、又は編み込まれて取着されていても、ファスナーエレメントを安定して取着できるとともに、スライドファスナーの伸縮性を確保することができる。
【0044】
そして、上記のような構成を有するファスナーストリンガーを含む本発明のスライドファスナーであれば、適切な伸縮性を有するとともに、左右のエレメント列が噛合状態にあるときに突き上げ力を受けても、左右のファスナーエレメントの噛合頭部同士の係合を安定して維持して、エレメント列にチェーン割れが生じることを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
なお、本発明は、以下で説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明と実質的に同一な構成を有し、かつ、同様な作用効果を奏しさえすれば、多様な変更が可能である。例えば、下記実施形態においては、織成されたファスナーテープのエレメント取付部にコイル状の連続ファスナーエレメントが縫着されたファスナーストリンガーについて説明しているが、本発明はこれに限定されず、例えばコイル状のファスナーエレメントに代えてジグザグ状のファスナーエレメントを縫着してファスナーストリンガーを形成しても良い。
【0046】
更に、本発明のスライドファスナーは、ファスナーテープが織成された後に、同ファスナーテープのエレメント取付部に連続ファスナーエレメントを縫着したものに限定されず、ファスナーテープが編成されたものであっても良いし、また、ファスナーテープが織成又は編成されると同時に連続ファスナーエレメントが織り込まれ、又は編み込まれたものであっても良い。
【0047】
ここで、図1は、本実施形態に係るファスナーストリンガーの構成とファスナーテープの織組織とを模式的に示す図であり、図2は、同ファスナーストリンガーのエレメント列が噛合した状態の断面を模式的に示す断面図であり、同断面図は、後述する図3に示したII−II線にてファスナーストリンガーを切断したときの断面を示している。また、図3は、同ファスナーストリンガーにおける山長さH、脚部長さd、及びピッチPを説明する説明図であり、図4は、図3に示したIV−IV線部分断面図である。
【0048】
本実施形態に係るファスナーストリンガー1は、テープ主体部2a及びエレメント取付部2bを有するファスナーテープ2と、縫製糸5によってエレメント取付部2bに縫着されたコイル状の連続ファスナーエレメント3と、同ファスナーエレメント3内に挿通され、縫製糸5によってファスナーエレメント3とともに縫着された芯紐7とを備えている。
【0049】
なお、本発明におけるエレメント取付部2bとは、テープ幅方向において、少なくとも芯紐7にかかるファスナーテープ2の部分(芯紐7が重なるテープ部分)を含む領域であり、特に、連続ファスナーエレメント3にかかるテープ部分(ファスナーエレメント3列が重なるテープ部分)の領域を指している。
【0050】
本実施形態における前記ファスナーテープ2は、前記特許文献1に用いられているファスナーテープと基本的に同じ構成を有している。即ち、同ファスナーテープ2は、テープ主体部2aの一方の側縁に沿ってエレメント取付部2bが形成されている。このファスナーテープ2のテープ主体部2aとエレメント取付部2bとには、経糸として弾性糸8と非弾性糸9とが併用して織り込まれおり、且つ、緯糸として非弾性糸10が織り込まれている。
【0051】
本実施形態において、経糸として用いられる弾性糸8には、ポリウレタン弾性糸8にポリエステルフィラメント糸を巻き付けることによって構成されたスパンデックスのカバードヤーンが用いられており、また、経糸及び緯糸として用いられる非弾性糸9,10には、ポリエステル加工糸が用いられている。
【0052】
なお、本発明では、弾性糸8及び非弾性糸9,10の材質は特に限定されず、例えば前記弾性糸8としては、その他のエラストマーからなるゴム糸や、そのゴム糸に紡績糸やフィラメントを巻き付けたカバードヤーン等から適宜選択することができる。また、経糸又は緯糸に用いられる非弾性糸9,10についても、紡績糸、モノフィラメント、マルチフィラメント等の従来から一般的に用いられているものを使用することができる。
【0053】
また、弾性糸8及び非弾性糸9,10の太さについても特に限定されないが、例えばファスナーテープ2に好適な強度を付与でき、且つ、連続ファスナーエレメント3をエレメント取付部2bに縫着するときに、ミシン針を挿通可能にするような太さで形成された弾性糸8及び非弾性糸9,10を用いることが好ましい。
【0054】
本実施形態において、テープ主体部2aの経糸には、図1に示したように、非弾性糸9が6本配列される毎に、2本の弾性糸8が引き揃えて配列されており、且つ、弾性糸8よりも非弾性糸9の本数の割合が多くなるように弾性糸8が所定の間隔で規則的に織り込まれている。これにより、テープ主体部2aは、テープ長手方向の伸縮性をテープ幅方向に均等に得ることができる。
【0055】
一方、エレメント取付部2bには、7本の弾性糸8と2本の非弾性糸9とが織り込まれており、ファスナーテープ2の端縁となる耳部に配される経糸には非弾性糸9が用いられ、ファスナーテープ2自体の形態を安定させている。また、この非弾性糸9からテープ主体部2a側に向けて、弾性糸8と非弾性糸9とが交互に1回以上繰り返して配列され、更に、その交互に配列された弾性糸8又は非弾性糸9よりもテープ主体部2a側の領域には、弾性糸8が連続的に並べて配列されている。
【0056】
これにより、本実施形態のエレメント取付部2bは、非弾性糸9の本数の割合が弾性糸8よりも小さくなるように構成されるため、エレメント取付部2bにおける弾性糸8の非弾性糸9に対する織込割合が、テープ主体部2aにおける弾性糸8の非弾性糸9に対する織込割合よりも大きくなる。なお、本発明において、テープ主体部2a及びエレメント取付部2bにおける弾性糸8と非弾性糸9の配列位置は、特に限定されるものではなく、必要に応じて適宜変更することが可能である。
【0057】
また本実施形態のファスナーストリンガー1において、前記連続ファスナーエレメント3は、例えばポリアミドやポリエステルなどの合成樹脂からなり、断面が0.6mmφの円形状を有するモノフィラメントを用いて形成されている。具体的には、同モノフィラメントに屈曲加工を行ってコイル状に捲き回し、その後、同モノフィラメントにスタンピング成形を行って、所定間隔毎に偏平状態に塑性変形させた部位を形成することによって、コイル状の連続ファスナーエレメント3が形成されている。
【0058】
このようにして形成された連続ファスナーエレメント3は、噛合頭部3aと、噛合頭部3aからテープ幅方向に延出した上下脚部3b,3cと、隣り合うファスナーエレメント3同士で一方のファスナーエレメント3の上脚部3bと他方のファスナーエレメント3の下脚部3cとを連結する連結部3dと、を有している。また、同連続ファスナーエレメント3は、上下脚部3b,3c間に伸縮性を有する芯紐7が挿通され、且つ、その噛合頭部3aがファスナーテープ2のテープ側縁から突出した状態で、芯紐7とともに縫製糸5にて二重環縫いされることによって、エレメント取付部2bに縫着され、これによって、エレメント列4が形成されている。
【0059】
なお、本実施形態において、連続ファスナーエレメント3を縫着する縫製糸5には、ポリエステルのモノフィラメントを撚り合せて構成された非弾性の撚糸が用いられている。また、芯紐7は、ポリウレタン弾性糸8にポリエステルフィラメント糸を巻き付けて構成されたスパンデックスのカバードヤーンを9本撚り合わせた撚糸により形成されている。
【0060】
上述のようにしてファスナーテープ2のエレメント取付部2bに縫着されたエレメント列4は、上下脚部3b,3c間に芯紐7が挿通されているため、エレメント取付部2bへの取り付けが安定し、また、後述するスライドファスナー21を構成したときに左右のエレメント列4を噛合させる際の噛合動作を安定化させることができる。
【0061】
この場合、同エレメント列4は、エレメント取付部2bに縫着された状態で、且つ、ファスナーテープ2が伸長していない状態で、互いに隣接するファスナーエレメント3のテープ長さ方向における噛合頭部3a間のピッチPが1.37mmとなるように形成されている。
【0062】
更に、ファスナーエレメント3が縫着された本実施形態のファスナーストリンガー1は、ファスナーテープ2に弾性糸8と非弾性糸9とが前述のように織り込まれているため、例えば30cm当たりのファスナーストリンガーに対してテープ長手方向に1kgの荷重を加えたときに10%以上伸びることが可能な伸縮性を有しており、且つ、その荷重を取り除いたときに、同ファスナーストリンガー1が元の状態(元の長さ)に戻ることができるように形成されている。
【0063】
このような本実施形態のファスナーストリンガー1において、連続ファスナーエレメント3の噛合頭部3aのテープ長さ方向における寸法を山長さHとし、上下脚部3b,3cのテープ長さ方向における寸法を脚部長さdとしたときに(図3及び図4を参照)、その山長さHは、1.18mmに設定されている。また、脚部長さdは、本実施形態の場合ではモノフィラメントの線径に相当するため、0.60mmに設定されている。従って、本実施形態では、山長さHと脚部長さdとの比である山出し率(=山長さH/脚部長さd)の値が、1.97に設定されている。
【0064】
このように、本実施形態のファスナーストリンガー1は、山出し率の値が1.80より大きく、特に、1.85以上に設定されているため、図3及び図4に示したように、噛合頭部3aのテープ長さ方向における寸法が従来のファスナーストリンガー1よりも大きくなる。このため、左右のエレメント列4が噛合している状態で同エレメント列4が突き上げ力を受けたときに、エレメント列4が局所的にテープ表裏方向に湾曲又は屈曲してファスナーエレメント3のピッチPが拡がったとしても、左右のファスナーエレメント3の噛合頭部3a同士の係合を安定して維持でき、エレメント列4にチェーン割れが生じるのを防止することができる。
【0065】
また、ファスナーストリンガー1は、山出し率の値が2.33以下に、特に2.13以下に設定されているため、各エレメント列4において、テープ長さ方向に隣接するファスナーエレメント3の噛合頭部3a同士が重なり合うことはない。このため、同ファスナーストリンガー1を用いて後述するスライドファスナー21を構成したときに、スライダー22の摺動性が低下することはなく、スライドファスナー21の開閉操作を円滑に行うことができる。
【0066】
その上、本実施形態のファスナーストリンガー1において、ファスナーテープ2に縫着された連続ファスナーエレメント3のピッチPは1.37mmに設定されているため、山長さH及び脚部長さdの和と、ピッチPとの比である噛み合い率(=(山長さH+脚部長さd)/ピッチP)の値が、1.30に設定されている。
【0067】
このように、本実施形態のファスナーストリンガー1は、噛み合い率の値が1.23より大きく、特に1.28より大きく設定されているため、左右のエレメント列4が噛合したときに、一方のファスナーエレメント3の噛合頭部3aが、噛合相手である他方のファスナーエレメント3の上下脚部3b,3c間に深く入り込むことができる。このため、噛合状態にあるエレメント列4が突き上げ力を受けてファスナーエレメント3のピッチPが拡がったとしても、左右のファスナーエレメント3の噛合頭部3a同士の係合をより確実に維持することができる。
【0068】
また、ファスナーストリンガー1は、噛み合い率の値が1.50以下に、特に1.46以下に設定されているため、隣接するファスナーエレメント3の噛合頭部3a同士が重なり合うことを確実に防止できるとともに、スライドファスナー21を構成したときにスライダー22の操作性が低下することも防止できる。
【0069】
次に、上記のような本実施形態のファスナーストリンガー1を用いて構成されたスライドファスナー21について説明する。ここで、図5は、本実施形態に係るスライドファスナーを模式的に示した正面図である。
【0070】
図5に示したスライドファスナー21は、前記ファスナーストリンガー1のエレメント列4に、引手22aを有するスライダー22が挿通されている。また、エレメント列4の上端部には、止部としての上止め23が装着されるとともに、同エレメント列4の下端部には、両下端部を分離不能に結合する下止め24が装着されており、エレメント列4に挿通されたスライダー22は、上止め23と下止め24との間を摺動可能に配置されている。なお、本発明においては、前記下止め24に代えて、エレメント列4の下端部を分離可能とする蝶棒、箱棒及び箱体から構成される開離嵌挿具を設けてスライドファスナーを構成しても良い。
【0071】
このような本実施形態のスライドファスナー21は、ファスナーテープ2のテープ主体部2aとエレメント取付部2bとに弾性糸8が所定の割合で織り込まれているため、上述したような適切な伸縮性を有している。
【0072】
また、同スライドファスナー21は、連続ファスナーエレメント3の山出し率と噛み合い率とが、それぞれ所定の範囲内の上述した値に設定されている。このため、左右のエレメント列4が噛合状態にあるときに突き上げ力を受けて、ファスナーエレメント3のピッチPが拡がったとしても、左右のファスナーエレメント3の噛合頭部3a同士の係合を安定して維持して、エレメント列4にチェーン割れが生じることを防止することができる。また、隣接するファスナーエレメント3の噛合頭部3a同士が重なり合わないため、左右のエレメント列4を噛合又は分離させるときに、スライダーの摺動操作を円滑に行うことができる。
【0073】
なお、本実施形態では、直径が0.6mmのモノフィラメントを用いて連続ファスナーエレメントが形成されているが、本発明において、モノフィラメントの線径(即ち、脚部長さd)や噛合頭部の山長さH、ファスナーエレメントのピッチPなどの個々の値は限定されず、山長さHと脚部長さdとの比である山出し率が、所定の範囲内の値に設定されていれば良い。従って、例えば直径が0.8mmのモノフィラメントを用いて連続ファスナーエレメントを形成する場合であっても、山出し率が1.80より大きく、2.33以下(好ましくは1.85以上2.13以下)となるように、噛合頭部の山長さHを設定して連続ファスナーエレメントを形成すれば良い。
【0074】
また、本実施形態のファスナーストリンガーは、ファスナーエレメントの噛合頭部がファスナーテープのエレメント取付部側の端縁から突出した通常のスライドファスナーに用いられているが、本発明は、例えばファスナーエレメントを、その噛合頭部がファスナーテープのテープ主体部側に配されるようにエレメント取付部に取着し、同ファスナーテープをテープ主体部とエレメント取付部との境界部にてU字状に折り返して、噛合頭部をファスナーテープのU字状折返部から外方に突出させた、いわゆる隠しスライドファスナーに対しても同様に適用することができる。
【実施例】
【0075】
以下、実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
先ず、ポリウレタン弾性糸にポリエステルフィラメント糸を巻き付けることによって構成されたスパンデックスのカバードヤーンとポリエステル加工糸とをそれぞれ弾性糸と非弾性糸として用いて、テープ長さが80cm以上となるファスナーテープを織成した。
【0076】
このとき、得られたファスナーテープのテープ主体部を形成する経糸には、非弾性糸が6本配列される毎に、2本の弾性糸が引き揃えて配列されている。また、エレメント取付部には、7本の弾性糸と2本の非弾性糸とが織り込まれており、ファスナーテープ端縁に配される経糸には非弾性糸が用いられ、同非弾性糸からテープ主体部側に向けて、1本の弾性糸、1本の非弾性糸、6本の弾性糸が順番に配列されている。このようなファスナーテープを2本で一組とし、この左右一組のファスナーテープを四組分用意した。
【0077】
次に、左右一組のファスナーテープに縫着するコイル状の連続ファスナーエレメントとして、以下の表1に示す山高さH及び脚部長さdを有し、且つ、ファスナーテープへの縫着前のピッチが1.40mmに設定された4種類のポリエステル製モノフィラメントからなる連続ファスナーエレメント(実施例1,2,3及び比較例)を1組ずつ用意した。
【0078】
そして、四組の左右一組のファスナーテープに、実施例1,2,3及び比較例の連続ファスナーエレメントをそれぞれエレメント取付部に縫着することによって、80cm以上の長さを有する4種類のファスナーストリンガーを作製した。このとき、それぞれの連続ファスナーエレメントを各ファスナーテープに縫着する際には、以下の方法を採用した。
【0079】
即ち、先ず、ファスナーテープに所定の大きさでテープ長手方向の張力を加えることによってファスナーテープを直線状の形態に保持する。次に、芯紐が上下脚部間に挿通された連続ファスナーエレメントに所定の大きさの張力をかけ、同ファスナーエレメントを、直線状に保持されているファスナーテープのエレメント取付部上に載置する。その後、芯紐及びエレメント取付部にミシン針を刺通して、連続ファスナーエレメントを、縫製糸で二重環縫いすることによってエレメント取付部に縫着する。
【0080】
このようにしてファスナーテープに縫着された連続ファスナーエレメントは、ファスナーエレメントの縫着時にファスナーテープ等に加えられていた張力が、縫着後に解除されてテープ長さ方向に収縮するため、縫着後の連続ファスナーエレメントのピッチPは、表1に示したように1.37mmとなる。
【0081】
このようにして得られた実施例1,2,3及び比較例の各ファスナーストリンガーについて、それぞれの山高さH、脚部長さd、及びピッチPを測定して所定の値になっていること確認し、その後、これらの山高さH、脚部長さd、及びピッチPの値を基づいて、山出し率と噛み合い率とを計算した。その計算結果も以下の表1に重ねて示す。
【0082】
【表1】

【0083】
上述のようにして得られた実施例1,2、3及び比較例の各ファスナーストリンガーについて、その突上強度を調査する試験を行った。その試験方法としては、専用の試験装置を用いて、先ず、ファスナーストリンガーの左右のエレメント列を噛合させて、同エレメント列を上側に向けた状態でファスナーテープの上下方向に所定の大きさの荷重を与え、荷重を加えた状態で、ファスナーストリンガーの左右のファスナーテープを試験装置のグリップ部で把持する。
【0084】
このとき、噛合状態のエレメント列と、左右のファスナーテープを把持する左右のグリップ部との間の幅寸法が3mmとなるように、左右のグリップ部の位置を調整する。更に、左右のグリップ部でファスナーテープを把持した後、噛合している左右のエレメント列にテープ裏面側から表面側に向けて突き上げる突き上げ力を徐々に加える。
【0085】
そして、突き上げ力を増大させていき、左右のエレメント列の噛合が外れてエレメント列が分離したときの突き上げ力の大きさを、各ファスナーストリンガーの突上強度として測定した。なお、今回の突上強度の試験では、エレメント列に突き上げ力を加える際に、ファスナーテープに対して荷重を与えない状態の場合と、ファスナーテープの上下(長手方向)に離間する方向に1.0kg,2.0kg,及び3.0kgの荷重を加えた状態の場合とについて、突上強度の測定を行った。その測定結果も、上記表1に重ねて示す。
【0086】
上記表1に示したように、山出し率及び噛み合い率が、それぞれ本発明の範囲である1.80<山出し率≦2.33以下、及び、1.23<噛み合い率≦1.50となる実施例1、実施例2及び実施例3のファスナーストリンガーは、従来の寸法で作製された比較例のファスナーストリンガーに比べて、突上強度が向上していることが確認され、荷重を与えないときの突上強度が何れも200Nよりも大きい値を示した。
【0087】
特に、伸縮性を有するスライドファスナーでは、一般的に、少なくとも1.0kgの荷重を加えたときの突上強度として100N以上であることが求められているが、実施例1、実施例2及び実施例3のファスナーストリンガーでは、2.0kgの荷重を加えたときの突上強度も100N以上の値を示しており、エレメント列が突き上げ力を受けても同エレメント列にチェーン割れが生じ難いことが判った。
【0088】
更に、山出し率及び噛み合い率が、より好ましい範囲である1.85<山出し率≦2.13以下、1.28<噛み合い率≦1.46を満足する実施例2のファスナーストリンガーについては、突上強度が大幅に向上することも明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明に係るファスナーストリンガーの構成とファスナーテープの織組織とを模式的に示す図である。
【図2】同ファスナーストリンガーのエレメント列が噛合した状態の断面を模式的に示す断面図である。
【図3】同ファスナーストリンガーにおける山長さH、脚部長さd、及びピッチPを説明する説明図である。
【図4】図3に示したIV−IV線部分断面図である。
【図5】本発明に係るスライドファスナーを模式的に示した正面図である。
【符号の説明】
【0090】
1 ファスナーストリンガー
2 ファスナーテープ
2a テープ主体部
2b エレメント取付部
3 ファスナーエレメント
3a 噛合頭部
3b 上脚部
3c 下脚部
3d 連結部
4 エレメント列
5 縫製糸
7 芯紐
8 弾性糸
9 非弾性糸(経糸)
10 非弾性糸(緯糸)
21 スライドファスナー
22 スライダー
22a 引手
23 上止め
24 下止め

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テープ主体部(2a)及びエレメント取付部(2b)を有するファスナーテープ(2) と、同ファスナーテープ(2) の前記エレメント取付部(2b)に取着された連続ファスナーエレメント(3) とを備え、前記ファスナーテープ(2) は、前記テープ主体部(2a)と前記エレメント取付部(2b)とに弾性糸(8) が織り込まれ又は編み込まれて伸縮性を有し、前記ファスナーエレメント(3) は、噛合頭部(3a)と、同噛合頭部(3a)からテープ幅方向に延出し、前記エレメント取付部(2b)に取着される上下脚部(3b,3c) と、隣り合うファスナーエレメント(3) の上下脚部(3b,3c) 間を連結する連結部(3d)とを有してなるスライドファスナー用伸縮性ファスナーストリンガー(1) であって、
前記噛合頭部(3a)のテープ長さ方向における寸法を山長さHとし、前記上下脚部(3b,3c) のテープ長さ方向における寸法を脚部長さdとしたときの前記山長さHと前記脚部長さdとの比である山出し率(=山長さH/脚部長さd)の値が、1.80より大きく、2.33以下に設定されてなることを特徴とする伸縮性ファスナーストリンガー。
【請求項2】
前記山長さH及び前記脚部長さdの和と、互いに隣接する前記ファスナーエレメント(3) のテープ長さ方向における噛合頭部(3a)間のピッチPとの比である噛み合い率(=(山長さH+脚部長さd)/ピッチP)の値が、1.23より大きく、1.50以下に設定されてなる請求項1記載の伸縮性ファスナーストリンガー。
【請求項3】
前記ファスナーエレメント(3) は、縫製糸(5) により前記エレメント取付部(2b)に縫着されてなる請求項1又は2記載の伸縮性ファスナーストリンガー。
【請求項4】
前記ファスナーエレメント(3) の前記上下脚部(3b,3c) 間に、伸縮性を有する芯紐(7) が挿通されてなる請求項3記載の伸縮性ファスナーストリンガー。
【請求項5】
前記ファスナーエレメント(3) は、前記ファスナーテープ(2) が織成又は編成されると同時に織り込まれ、又は編み込まれてなる請求項1又は2記載の伸縮性ファスナーストリンガー。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の伸縮性ファスナーストリンガー(1) を含んでなることを特徴とするスライドファスナー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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