説明

位相差フィルムとそれを備える画像表示装置

【課題】複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体単位を構成単位として有する重合体とゴム質重合体との組成物からなる光学フィルムは、ゴム質重合体の割合を増やして可とう性を向上すると、逆波長分散性が減少してしまうため、可とう性と波長依存性の改善が不十分であった。
【解決手段】逆波長分散性を発現する複素芳香族ビニル単量体単位と可とう性を発現するゴム質重合体をグラフト重合した、グラフトゴム(B)5〜50質量%含む樹脂(A)とすることにより、可とう性の改善と波長分散性の改善が両立できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも可視光領域において、波長が短くなるほど複屈折が小さくなる波長分散性(逆波長分散性)を示す位相差フィルムと、この位相差フィルムを備える画像表示装置とに関する。
【背景技術】
【0002】
高分子の配向により生じる複屈折を利用した光学部材が、画像表示分野において幅広く使用されている。このような光学部材の一つに、色調の補償、視野角の補償などを目的として画像表示装置に組み込まれる位相差板(位相差フィルム)がある。例えば、反射型の液晶表示装置(LCD)では、複屈折により生じた位相差に基づく光路長差(リターデーション)が波長の1/4である位相差板(λ/4板)が使用される。有機電界発光表示装置(OLED)では、外光の反射防止を目的として、偏光板とλ/4板とを組み合わせた反射防止板が用いられることがある(特許文献1を参照)。これら複屈折性を示す光学部材は、今後のさらなる用途拡大が期待される。
【0003】
従来、光学部材には、トリアセチルセルロース(TAC)に代表されるセルロース誘導体、ポリカーボネート、ポリシクロオレフィンが主に用いられてきたが、これら一般的な高分子は、光の波長が短くなるほど複屈折が大きくなる(即ち、位相差が増大する)波長分散性を示す。表示特性に優れる画像表示装置とするためには、これとは逆に、光の波長が短くなるほど複屈折が小さくなる(即ち、位相差が減少する)波長分散性を示す光学部材が望まれる。本明細書では、少なくとも可視光領域において光の波長が短くなるほど複屈折が小さくなる波長分散性を、当業者の慣用の呼び名に従い、また、一般的な高分子ならびに当該高分子により形成された光学部材が示す波長分散性とは逆であることに基づいて、「逆波長分散性」と呼ぶ。
【0004】
特許文献1には、複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体単位、例えばN−ビニルカルバゾール単位、を構成単位として有する重合体を含む逆波長分散性を示す光学フィルムが開示されている。
【0005】
これら逆波長分散性を示す光学フィルムは、正の固有複屈折を有する構成単位と、負の固有複屈折を有する構成単位とを含み、延伸を加えることによって、双方の構成単位により生じる複屈折が互いに打ち消し合う。このとき、複屈折が打ち消し合う程度が波長によって異なるために、逆波長分散性が発現する。N−ビニルカルバゾール単位は、複屈折が打ち消し合う程度を波長によって変化させる上記作用が大きい。
【0006】
また、特許文献2および3には、複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体単位、例えばN−ビニルカルバゾール単位、を構成単位として有する重合体とゴム質重合体との組成物からなる、可とう性の改善を試みられた逆波長分散性を示す光学フィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−162850号公報
【特許文献2】特開2011−008041号公報
【特許文献3】特開2011−145485号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体単位を構成単位として有する重合体とゴム質重合体との組成物からなる光学フィルムは、ゴム質重合体の割合を増やして可とう性を向上すると、逆波長分散性が減少してしまうため、位相差板における波長依存性の改善が不十分となる問題があった。
【0009】
本発明は、可とう性に優れ、且つ優れた逆波長分散性を示す新規な位相差フィルムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の位相差フィルムは、ゴム質重合体にグラフト部を有し、複素芳香族ビニル単量体を構成単位として含むグラフトゴムを5〜50質量%含む樹脂(A)からなる層を有する、Re(447)/Re(590)が0.60〜0.99である波長分散性を示す。
[フィルム面内の遅相軸方向の屈折率をnx、フィルム面内の進相軸方向の屈折率をny、フィルムの厚さをdとしたときに、面内位相差はRe=(nx−ny)×dで表され、Re(447)は、波長447nmにおける面内位相差、Re(590)は、波長590nmにおける面内位相差を表す。]
本発明の位相差フィルムは、前記ゴム質重合体が、共役ジエン単量体を重合して構築される共役ジエン単量体構造単位を含むことが好ましい。
【0011】
本発明の位相差フィルムは、前記樹脂(A)が、環状オレフィン重合体、スチレン重合体、ポリエステル、アクリル重合体、ポリカーボネートまたは、セルロースアシレートを50〜95質量%含むことが好ましい。
【0012】
本発明の位相差フィルムは、前記アクリル重合体が主鎖に環構造を有することが好ましい。
【0013】
本発明の位相差フィルムは、前記環構造が、無水マレイン酸構造、マレイミド構造、無水グルタル酸構造、グルタルイミド構造または、ラクトン環構造であることが好ましい。
【0014】
本発明の別の形態は、上記の位相差フィルムを有する楕円偏光板である。
【0015】
本発明の別の形態は、上記の位相差フィルムを有する画像表示装置である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、可とう性と逆波長分散性に優れた位相差フィルムが提供され、LCD、OLEDなどの画像表示装置、即ち本発明の画像表示装置、は、さらなる小型化、軽量化などの要求に対する対応性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書における「樹脂」は「重合体」よりも広い概念である。樹脂は、例えば1種または2種以上の重合体からなってもよいし、必要に応じて、重合体以外の材料、例えば紫外線吸収剤、酸化防止剤、フィラーなどの添加剤、相溶化剤、安定化剤などを含んでいてもよい。
[樹脂(A)]
本発明の位相差フィルムに用いられる樹脂(A)は、ゴム質重合体にグラフト部を有し、複素芳香族ビニル単量体を構成単位として含むグラフトゴム(B)を5〜50質量%含む限り限定されない。
【0018】
樹脂(A)における、グラフトゴム(B)の含有量は5〜50質量%であり、好ましくは5〜40質量%であり、より好ましくは8〜35質量%であり、さらに好ましくは10〜30質量%である。グラフトゴム(B)の含有量が5質量%未満であると、位相差フィルムの可とう性が不十分となって、製造時に破断が起こりやすくなるなどの機械的強度が不足するおそれや、複素芳香族ビニル単量体単位に由来する光学特性が不十分となるおそれがある。一方、50質量%を超えると、樹脂(A)の耐熱性や安定性が不十分となって、位相差値や波長分散性などの光学特性に変化が生じ、画像表示装置としての表示性能が悪化するおそれがある。
【0019】
樹脂(A)は、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレンなどのポリオレフィン重合体;ノルボルネン重合体などの環状オレフィン重合体;塩化ビニル、塩素化ビニル重合体などのハロゲン含有重合体;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル;ポリスチレン、ポリビニルトルエン、ポリスチレン、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、ポリ(p−メチルスチレン)などのスチレン重合体;ポリメチルメタクリレートなどのアクリル重合体;ポリカーボネート;ポリアリレート;ポリエーテルスルホン;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610などのポリアミド;セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートなどのセルロースアシレート;ポリアセタール;ポリフェニレンオキシド;ポリフェニレンスルフィド;ポリエーテルエーテルケトン;ポリエーテルニトリル;ポリサルホン;ポリエーテルサルホン;ポリオキシベンジレン;ポリアミドイミド等の重合体を含み、これらの重合体を2種以上含んでいてもよい。重合体として好ましくは、環状オレフィン重合体、スチレン重合体、ポリエステル、アクリル重合体、ポリカーボネートまたは、セルロースアシレートであり、アクリル重合体、ポリカーボネート、セルロースアシレートがより好ましく、アクリル重合体は、透明性、高い光線透過率や低い屈折率の波長依存性などの優れた光学特性や加工性に優れていることから特に好ましい。
【0020】
樹脂(A)における、前記重合体の含有量は50〜95質量%含むことが好ましく、より好ましくは60〜95質量%であり、さらに好ましくは65〜92質量%であり、特に好ましくは70〜90質量%である。50質量%未満であると、光線透過率などの光学特性が不十分となるおそれがあり、95質量%を超えると、可とう性などの機械的強度が不十分となるおそれや、グラフトゴム(B)の複素芳香族ビニル単量体の構成単位に由来する光学特性が不十分となるおそれがある。
【0021】
樹脂(A)は耐熱性、物性、光学特性と損なわない範囲で紫外線吸収能を有してもよい。具体的には、樹脂(A)を製造する時の単量体成分として紫外線吸収性単量体および/または紫外線安定性単量体を用いる方法や、紫外線吸収剤および/または紫外線安定剤を上記樹脂(A)に配合する方法がある。またこれらは、樹脂(A)を含む位相差フィルムに支障がない限り、これらの方法を併用してもかまわない。また、上記紫外線吸収機能を持続させるためには、紫外線吸収性単量体と紫外線安定性単量体を併用することや、紫外線吸収剤と紫外線安定剤を併用する事が好ましい。また、紫外線吸収性単量体および/または紫外線安定性単量体と合わせて、紫外線吸収剤および/または紫外線安定剤を併用することも好ましい。
【0022】
上記紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系化合物、サリシケート系化合物、ベンゾエート系化合物、トリアゾール系化合物およびトリアジン系化合物等が挙げられる。ベンゾフェノン系化合物としては、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、4−n−オクチルオキシ−2−ヒドロキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−オクチルオキシベンゾフェノン、ビス(5−ベンゾイル−4−ヒドロキシ−2−メトキシフェニル)メタン、1,4−ビス(4−ベンゾイル−3−ヒドロキシフェノン)−ブタン等が挙げられる。サリシケート系化合物としては、p−t−ブチルフェニルサリシケート等が挙げられる。ベンゾエート系化合物としては、2,4−ジ−t−ブチルフェニル−3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシベンゾエート等が挙げられる。また、トリアゾール系化合物としては、2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]、2−(3,5−ジ−tert−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−p−クレゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール、2−ベンゾトリアゾール−2−イル−4,6−ジ−tert−ブチルフェノール、2−[5−クロロ(2H)−ベンゾトリアゾール−2−イル]−4−メチル−6−t−ブチルフェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ジ−t−ブチルフェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−メチル−6−(3,4,5,6−テトラヒドロフタルイミジルメチル)フェノール、メチル3−(3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート/ポリエチレングリコール300の反応生成物、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(直鎖及び側鎖ドデシル)−4−メチルフェノール、2−(5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシ−C7−9側鎖及び直鎖アルキルエステルが挙げられる。さらに、トリアジン系化合物としては、2−モノ(ヒドロキシフェニル)−1,3,5−トリアジン化合物や2,4−ビス(ヒドロキシフェニル)−1,3,5−トリアジン化合物、2,4,6−トリス(ヒドロキシフェニル)−1,3,5−トリアジン化合物が挙げられ、具体的には、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−エトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−(2−ヒドロキシ−4−プロポキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−(2−ヒドロキシ−4−ブトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−ブトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−ヘキシルオキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−オクチルオキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−ドデシルオキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−ベンジルオキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−ブトキシエトキシ)−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(2−ヒドロキシ−4−ブトキシフェニル)−6−(2,4−ジブトキシフェニル)−1,3−5−トリアジン、2,4,6−トリス(2−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4,6−トリス(2−ヒドロキシ−4−エトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4,6−トリス(2−ヒドロキシ−4−プロポキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4,6−トリス(2−ヒドロキシ−4−ブトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4,6−トリス(2−ヒドロキシ−4−ブトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4,6−トリス(2−ヒドロキシ−4−ヘキシルオキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4,6−トリス(2−ヒドロキシ−4−オクチルオキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4,6−トリス(2−ヒドロキシ−4−ドデシルオキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4,6−トリス(2−ヒドロキシ−4−ベンジルオキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4,6−トリス(2−ヒドロキシ−4−エトキシエトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4,6−トリス(2−ヒドロキシ−4−ブトキシエトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4,6−トリス(2−ヒドロキシ−4−プロポキシエトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4,6−トリス(2−ヒドロキシ−4−メトキシカルボニルプロピルオキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4,6−トリス(2−ヒドロキシ−4−エトキシカルボニルエチルオキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4,6−トリス(2−ヒドロキシ−4−(1−(2−エトキシヘキシルオキシ)−1−オキソプロパン−2−イルオキシ)フェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4,6−トリス(2−ヒドロキシ−3−メチル−4−メトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4,6−トリス(2−ヒドロキシ−3−メチル−4−エトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4,6−トリス(2−ヒドロキシ−3−メチル−4−プロポキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4,6−トリス(2−ヒドロキシ−3−メチル−4−ブトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4,6−トリス(2−ヒドロキシ−3−メチル−4−ブトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4,6−トリス(2−ヒドロキシ−3−メチル−4−ヘキシルオキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4,6−トリス(2−ヒドロキシ−3−メチル−4−オクチルオキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4,6−トリス(2−ヒドロキシ−3−メチル−4−ドデシルオキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4,6−トリス(2−ヒドロキシ−3−メチル−4−ベンジルオキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4,6−トリス(2−ヒドロキシ−3−メチル−4−エトキシエトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4,6−トリス(2−ヒドロキシ−3−メチル−4−ブトキシエトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4,6−トリス(2−ヒドロキシ−3−メチル−4−プロポキシエトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4,6−トリス(2−ヒドロキシ−3−メチル−4−メトキシカルボニルプロピルオキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4,6−トリス(2−ヒドロキシ−3−メチル−4−エトキシカルボニルエチルオキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4,6−トリス(2−ヒドロキシ−3−メチル−4−(1−(2−エトキシヘキシルオキシ)−1−オキソプロパン−2−イルオキシ)フェニル)−1,3,5−トリアジン等が挙げられる。中でも、樹脂と相溶性が高く吸収特性が優れている点から、2,4−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−6−[2−ヒドロキシ−4−(3−アルキルオキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシ)−5−α−クミルフェニル]−s−トリアジン骨格(アルキルオキシ;オクチルオキシ、ノニルオキシ、デシルオキシなどの長鎖アルキルオキシ基)を有する紫外線吸収剤が挙げられる。また、2,4,6−トリス(ヒドロキシフェニル)−1,3,5−トリアジン骨格を有する紫外線吸収剤が好ましく用いられ、2,4,6−トリス(2−ヒドロキシ−4−長鎖アルキルオキシ基置換フェニル)−1,3,5−トリアジン骨格や2,4,6−トリス(2−ヒドロキシ−3−アルキル−4−長鎖アルキルオキシ基置換フェニル)−1,3,5−トリアジン骨格を有する紫外線吸収剤が特に好ましいトリアジン系紫外線吸収剤である。市販品としては、例えば、トリアジン系紫外線吸収剤として「チヌビン1577」「チヌビン460」「チヌビン477」(BASFジャパン製)、トリアゾール系紫外線吸収剤として「アデカスタブLA−31」(ADEKA製)等が挙げられる。
【0023】
これらは単独で、または2種類以上の組み合わせて使用することができる。また、紫外線吸収剤と合わせて、上記紫外線吸収性単量体を共重合する手法を併用することも好ましい。紫外線安定性単量体紫外線吸収剤の配合量は特に限定されないが、位相差フィルム中に0〜25質量%であることが好ましく、より好ましくは0.05〜10質量%であり、さらに好ましくは0.1〜6質量%である。添加量が少なすぎると耐候性向上の寄与が低く、また多すぎると機械的強度の低下や黄変を引き起こす場合がある。
【0024】
樹脂(A)は、その他の添加剤を含んでいてもよい。樹脂(A)中のその他の添加剤の含有割合は、好ましくは0〜10質量%、より好ましくは0.01〜5質量%、さらに好ましくは0.02〜2質量%であり、特に好ましくは0.05〜1質量%である。その他の添加剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系、リン系、イオウ系等の酸化防止剤;耐光安定剤、耐候安定剤、熱安定剤等の安定剤;位相差上昇剤、位相差低減剤、位相差安定剤等の位相差調整剤;ガラス繊維、炭素繊維等の補強材;近赤外線吸収剤;トリス(ジブロモプロピル)ホスフェート、トリアリルホスフェート、酸化アンチモン等の難燃剤;アニオン系、カチオン系、ノニオン系の界面活性剤等の帯電防止剤;無機顔料、有機顔料、染料等の着色剤;有機フィラーや無機フィラー;樹脂改質剤;可塑剤;滑剤などが挙げられる。
【0025】
上記酸化防止剤は、公知の酸化防止剤が使用できる。フェノール系酸化防止剤としては、例えば、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)アセテート、n−オクタデシル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、n−ヘキシル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルベンゾエート、n−ドデシル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルベンゾエート、ネオドデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ドデシル−β−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、エチル−α−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)イソブチレート、オクタデシル−α−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)イソブチレート、オクタデシル−α−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2−(n−オクチルチオ)エチル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、2−(n−オクチルチオ)エチル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルアセテート、2−(n−オクタデシルチオ)エチル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルアセテート、2−(n−オクタデシルチオ)エチル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、2−(2−ヒドロキシエチルチオ)エチル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、ジエチルグリコールビス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−フェニル)プロピオネート、2−(n−オクタデシルチオ)エチル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ステアルアミド−N,N−ビス−[エチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、n−ブチルイミノ−N,N−ビス−[エチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2−(2−ステアロイルオキシエチルチオ)エチル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、2−(2−ステアロイルオキシエチルチオ)エチル−7−(3−メチル−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ヘプタノエート、1,2−プロピレングリコールビス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、エチレングリコールビス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ネオペンチルグリコールビス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、エチレングリコールビス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルアセテート)、グリセリン−1−n−オクタデカノエート−2,3−ビス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルアセテート)、ペンタエリスリトールテトラキス−[3−(3′,5′−ジ−t−ブチル−4′−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,1,1−トリメチロールエタントリス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ソルビトールヘキサ−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2−ヒドロキシエチル−7−(3−メチル−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2−ステアロイルオキシエチル−7−(3−メチル−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ヘプタノエート、1,6−n−ヘキサンジオールビス−[(3′,5′−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリトリトールテトラキス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナメート)、3,9−ビス[1,1−ジメチル−2−[β−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル]2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]−ウンデカン、2,4−ジ−t−アミル−6−[1−(3,5−ジ−t−アミル−2−ヒドロキシフェニル)エチル]フェニルアクリレート及び2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレートが挙げられる。
【0026】
チオエーテル系酸化防止剤としては、例えば、ペンタエリスリチルテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネート、ジミリスチル−3,3’−チオジプロピオネート、ジステアリル−3,3’−チオジプロピオネートが挙げられる。
【0027】
リン系酸化防止剤としては、例えば、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト、2−[[2,4,8,10−テトラキス(1,1−ジメチルエチル)ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサフォスフェピン−6−イル]オキシ]−N,N−ビス[2−[[2,4,8,10−テトラキス(1,1ジメチルエチル)ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサフォスフェピン−6−イル]オキシ]−エチル]エタナミン、ジフェニルトリデシルフォスファイト、トリフェニルフォスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリストールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジフォスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)フォスファイトが挙げられる。
【0028】
前記アクリル重合体は、構成単位に(メタ)アクリル酸エステル単位を有する熱可塑性アクリル重合体であり、本発明の効果を損なわない限り特に限定されず、公知の熱可塑性アクリル重合体を用いることが出来る。アクリル重合体の(メタ)アクリル酸エステル単位の含有量は10質量%以上が好ましく、更に好ましくは30質量%以上、特に好ましくは50質量%以上である。また、アクリル重合体が主鎖に環構造を有する場合には、全構成単位に占める(メタ)アクリル酸エステル単位の割合と環構造の含有率との合計は30質量%以上が好ましく、より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、特に好ましくは90質量%以上である。
【0029】
(メタ)アクリル酸エステル単量体の好ましい具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステル;(メタ)アクリル酸ベンジル;(メタ)アクリル酸クロロメチル;(メタ)アクリル酸2−クロロエチル;(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニルオキシエチル;(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル;(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル;(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル;(メタ)アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシルおよび(メタ)アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチルなどが挙げられ、これらの(メタ)アクリル酸エステル単量体由来の構造単位のうち1種を単独で含んでいてもよいし、2種以上併存してもよい。中でも、熱安定性や光学特性に優れる点で(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく、メタクリル酸メチルが最も好ましい。
【0030】
アクリル重合体は主鎖に環構造を有していてもよい。この場合、樹脂(A)のTgが高くなり、当該樹脂からなる層を有する位相差フィルムの耐熱性が向上する。このように主鎖に環構造を有するアクリル重合体を含む樹脂(A)からなる層を有する位相差フィルムは画像表示装置における光源などの発熱部近傍への配置が容易になるなど光学部材としての用途に好適である。
【0031】
環構造の種類は特に限定されないが、例えば、無水マレイン酸構造、N−置換マレイミド構造、無水グルタル酸構造、グルタルイミド構造およびラクトン環構造から選ばれる少なくとも1種である。
【0032】
以下の一般式(1)に、無水マレイン酸構造およびN−置換マレイミド構造を示す。
【0033】
【化1】

【0034】
上記一般式(1)におけるR、Rは互いに独立して水素原子、またはメチル基であり、Xは酸素原子または窒素原子である。Xが酸素原子であるとき、R3は存在せず、Xが窒素原子のとき、Rは、水素原子、炭素数1から6の直鎖アルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ベンジル基またはフェニル基である。
【0035】
が酸素原子のとき一般式(1)により示される環構造は無水マレイン酸構造となる。無水マレイン酸構造は、例えば、無水マレイン酸と(メタ)アクリル酸エステルとを共重合体して形成できる。
【0036】
が窒素原子のとき、一般式(1)により示される環構造はN−置換マレイミド構造となる。N−置換マレイミド構造は、例えば、フェニルマレイミドなどのN−置換マレイミドと(メタ)アクリル酸エステルとを重合体して形成できる。
【0037】
以下の一般式(2)に無水グルタル酸構造およびグルタルイミド構造を示す。
【0038】
【化2】

【0039】
上記一般式(2)におけるR、Rは互いに独立して水素原子、またはメチル基であり、Xは酸素原子または窒素原子である。Xが酸素原子であるとき、Rは存在せず、Xが窒素原子のとき、Rは、水素原子、炭素数1から6の直鎖アルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ベンジル基またはフェニル基である。
【0040】
が酸素原子のとき一般式(1)により示される環構造は無水グルタル酸構造となる。無水グルタル酸構造は、例えば、(メタ)アクリル酸エステルと(メタ)アクリル酸との共重合体を分子内で脱アルコール環化縮合させて形成できる。
【0041】
が窒素原子のとき、一般式(2)により示される環構造はグルタルイミド構造となる。グルタルイミド構造は、例えば、(メタ)アクリル酸エステル重合体をメチルアミンなどのイミド化剤によりイミド化して形成できる。
【0042】
なお、一般式(1)、(2)の説明において例示した環構造を形成する各方法では、各々の環構造を形成に用いる重合体が全て(メタ)アクリル酸エステル単位を構成単として有するため、当該方法により得た樹脂はアクリル樹脂(A)となる。
【0043】
アクリル系重合体が主鎖に有していてもよいラクトン環構造は特に限定されず、例えば、4から8員環であってもよいが、環構造の安定性に優れることから5員環または6員環であることが好ましく、6員環であることがより好ましい。6員環であるラクトン環構造は、例えば、特開2004−168882号公報に開示されている構造であるが、前駆体の重合収率が高いこと、前駆体の環化縮合反応により、高いラクトン環含有率を有するアクリル系重合体が得られること、メタクリル酸メチル単位を構成単位として有する重合体を前駆体にできること、などの理由から以下の一般式(3)に示される構造が好ましい。
【0044】
【化3】

【0045】
上記一般式(3)において、R、RおよびRは、互いに独立して、水素原子または炭素数1から20の範囲の有機残基である。当該有機残基は酸素原子を含んでいてもよい。
【0046】
一般式(3)における有機残基は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基などの炭素数1から20の範囲のアルキル基、エテニル基、プロペニル基などの炭素数1から20の範囲の不飽和脂肪族炭化水素基、フェニル基、ナフチル基などの炭素数1から20の範囲の芳香族炭化水素基であり、上記アルキル基、上記不飽和脂肪族炭化水素基、上記芳香族炭化水素基は、水素原子の一つ以上が、水酸基、カルボキシル基、エーテル基、およびエステル基から選ばれる少なくとも1種類の基により置換されていてもよい。
【0047】
アクリル重合体におけるラクトン環構造を除く上記環構造の含有率は特に限定されないが、例えば5〜90%であり、好ましくは10〜70%であり、よりこの好ましくは10〜60%であり、さらに好ましくは10〜50%である。
【0048】
アクリル重合体が主鎖にラクトン環構造を有する場合、当該樹脂におけるラクトン環構造の含有率は特に限定はされないが、例えば5〜90%であり、好ましくは10〜80%であり、より好ましくは10〜70%であり、さらに好ましくは20〜60%である。
【0049】
アクリル重合体における環構造の含有率が過渡に小さくなると、フィルムの耐熱性の低下や、耐溶剤性および表面硬度が不十分となることがある。一方、上記含有率が過渡に大きくなると、フィルムの成形性や機械的特性が低下する。
【0050】
主鎖に環構造を有するアクリル重合体は公知の方法により製造できる。環構造が無水マレイン酸構造あるいはN−置換マレイミド構造であるアクリル重合体は、例えば、特開昭57−153008号公報、特開2007−31537号公報に記載の方法により製造できる。環構造が無水グルタル酸構造あるいはグルタルイミド構造であるアクリル重合体は、例えば、WO2007/26659号公報あるいはWO2005/108438号公報に記載の方法により製造できる。環構造がラクトン環構造であるアクリル重合体は、例えば、特開2006−96960号公報、特開2006−171464号公報あるいは特開2007−63541号公報に記載の方法により製造できる。
【0051】
アクリル重合体は、上述した(メタ)アクリル酸エステル単量体由来以外の構造単位を含んでも良く、(メタ)アクリル酸エステル単量体以外の単量体を含む単量体混合物を重合して得られる。(メタ)アクリル酸エステル単量体以外の単量体としては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、α−ヒドロキシメチルスチレン、α−ヒドロキシエチルスチレン、クロロスチレン、アクリロニトリル、N−ビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルチオフェン、ビニルイミダゾール、N−ビニルカルバゾール、メチルビニルケトン、エチレン、プロピレン、4−メチル−1−ペンテン、酢酸ビニル、メタリルアルコール、アリルアルコール、2−ヒドロキシメチル−1−ブテンなどのアリルアルコール、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などの(メタ)アクリル酸、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチルなどの2−(ヒドロキシアルキル)アクリル酸エステル、2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸などの2−(ヒドロキシアルキル)アクリル酸などが挙げられ、これらの単量体は1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0052】
アクリル重合体の重量平均分子量は、例えば1,000〜500,000の範囲であり、好ましくは5,000〜300,000の範囲であり、より好ましくは10,000〜250,000の範囲であり、さらに好ましくは50,000〜200,000の範囲である。
【0053】
アクリル重合体のガラス転移温度(Tg)は、例えば100℃以上であり、好ましくは110℃以上であり、より好ましくは120℃以上であり、さらに好ましくは130℃以上である。ガラス転移温度の上限としては成形加工性が乏しくなることから200℃以下が好ましい。
[グラフトゴム(B)]
本発明のグラフトゴム(B)は、本発明の位相差フィルムの可とう性の改善させる効果と逆波長分散性を付与する機能を有するものである。
【0054】
本発明のグラフトゴム(B)は、ゴム質重合体にグラフト部を有し、複素芳香族ビニル単量体を構成単位として含む限り限定されない。
【0055】
本発明のグラフトゴム(B)は、シアン化ビニル系単量体の構造単位をさらに含むことがより好ましい。上記構造単位を有するグラフトゴム(B)は、前記アクリル重合体との相溶性に優れるため、アクリル重合体中でより均一に分散することができる。このため、位相差フィルムとしての耐折曲げ性(可とう性)をより改善することができる。さらには、グラフトゴム(B)はアクリル重合体中での凝集が少ないため、フィルターの目詰まりなどを起こすことなく濾過を行うことができる。これにより、異物の少ない位相差フィルムを提供することができる。
【0056】
尚、複素芳香族ビニル系単量体の構造単位とは、複素芳香族ビニル系単量体を重合することにより構築される重合体構造単位(繰り返し構造単位)のことである。同様に、シアン化ビニル系単量体の構造単位とは、シアン化ビニル系単量体を重合することにより構築される重合体構造単位(繰り返し構造単位)のことである。
【0057】
複素芳香族ビニル系単量体としては、ビニル基と複素芳香族骨格とを有する化合物であれば特には限定されないが、例えば、ビニルピリジン、ビニルチオフェン、ビニルイミダゾール、ビニルカルバゾールなどがあげられる。中でもN−ビニルカルバゾールが逆波長分散性を発現する上で好ましい。
【0058】
シアン化ビニル系単量体としては、ビニル基とシアノ基とを有する化合物であれば特には限定されないが、例えば、アクリロニトリルやメタクリロニトリルなどが挙げられる。
【0059】
また、位相差フィルムの可とう性を改善するため、ゴム質重合体は架橋構造を有していることがより好ましい。
【0060】
架橋構造を有するゴム質重合体としては、例えば、1分子あたり2個以上の非共役二重結合を有する多官能性単量体を含む単量体組成物を重合することによって得ることができる。
【0061】
多官能性単量体としては、メタクリル酸アリル、アクリル酸アリル、メタクリル酸ジシクロペンテニル、アクリル酸ジシクロペンテニル、ジメタクリル酸1,4−ブタンジオール、ジメタクリル酸エチレングリコール、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ジアリルフタレート、ジアリルマレート、ジビニルアジペート、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラメタクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレートおよびジプロピレングリコールジアクリレートなどが挙げられ、これらは1種類のみ用いてもよいし、2種以上併用してもよい。中でも、メタクリル酸アリル、アクリル酸アリル、メタクリル酸ジシクロペンテニルがより好ましい。
【0062】
ゴム質重合体の製造時における多官能性単量体の使用量は、好ましくはゴム質重合体の製造に用いる単量体組成物の0.01〜15%の範囲であり、より好ましくは0.1〜10%の範囲である。多官能性単量体を上記範囲内で使用することにより、得られる位相差フィルムは良好な耐折曲性を示す。
【0063】
ゴム質重合体は、上記多官能性単量体を含む単量体組成物を重合することにより得られる場合、架橋弾性を示す。これにより、可とう性が改善され、フィルム成形性および耐折曲げ性に優れる位相差フィルムを得ることができる。
【0064】
架橋構造を有するゴム質重合体としては、例えばアクリルゴム、共役ジエン系ゴム、オレフィン系ゴムの構造(繰り返し構造単位)が挙げられる。
【0065】
架橋構造を有するアクリルゴムは、多官能性単量体とアクリル酸エステル単量体由来の構造単位を含むゴム質重合体であり、アクリル酸エステル単量体としてはアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸メトキシエチル、アクリル酸エトキシエチル、アクリル酸ブトキシエチルなどが挙げられる。
【0066】
アクリルゴムにおける前記アクリル酸エステル単量体由来の構造単位の含有量は50質量%以上であれば特に限定されず、50質量%未満であると可とう性の改善が不十分となるおそれがある。
【0067】
アクリル酸エステル単量体以外の単量体成分としては特に制限されず、ジメチルシロキサン、フェニルメチルシロキサン等のシリコーン成分;スチレン、α−メチルスチレン等のスチレン成分;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の二トリル成分;ウレタン成分;エチレン成分;プロピレン成分;イソブテン成分;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルなどのメタクリル酸エステル成分;1,3−ブタジエン、イソプレンなどの共役ジエン成分等が挙げられる。
【0068】
架橋構造を有する共役ジエン系ゴムは、共役ジエン単量体を重合して構築される共役ジエン単量体構造単位を含むゴム質重合体であり、共役ジエン単量体としては、1,3−ブタジエン(以下、単に「ブタジエン」と記する場合がある)、イソプレン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−クロロ−1,3−ブタジエン、ミルセン等が挙げられ、これらは1種類のみ用いてもよいし、2種以上併用してもよい。共役ジエン単量体としては、ブタジエン、イソプレンがより好ましい。
【0069】
共役ジエン単量体以外の成分としては特に制限されず、ジメチルシロキサン、フェニルメチルシロキサン等のシリコーン成分;スチレン、α−メチルスチレン等のスチレン成分;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の二トリル成分;ウレタン成分;エチレン成分;プロピレン成分;イソブテン成分;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルなどのメタクリル酸エステル成分;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ベンジル等のアクリル酸エステル成分等が挙げられる。
【0070】
また、グラフトゴム(B)は、アクリル重合体を構成する、(メタ)アクリル酸エステル単位、(メタ)アクリル酸単位および(メタ)アクリル酸エステルまたは(メタ)アクリル酸の誘導体に由来する構成単位を有していてもよい。
【0071】
グラフトゴム(B)が、アクリル重合体を構成する重合体構造単位の構造を有していることにより、樹脂(A)中でのグラフトゴム(B)の分散性がより改善され、グラフトゴム(B)の凝集などによって生じる異物の副生をより抑制することができる。これにより、例えば、フィルム成形時における濾過工程をより短時間で行うことができる。
【0072】
グラフトゴム(B)は、多層構造を有していることがより好ましく、具体的にはコア部とシェル部とを有するいわゆるコア・シェル構造を有するグラフトゴム(B)であることがより好ましい。尚、多層構造は何層であっても特にかまわないが、合成の容易さの点で、2層若しくは3層がより好ましい。つまり、グラフトゴム(B)は、中心の部分(コア)に多官能性単量体由来の構造を含むゴム質重合体を有し、中心の部分を囲む部分(シェル)には、樹脂(A)を構成するアクリル重合体との相溶性が高く、且つ位相差フィルムとした場合における逆波長分散性を発現させる構造であるグラフト部を有することが好ましい。これより、グラフトゴム(B)は、樹脂(A)中でより均一に分散することができ、位相差フィルムとした場合の耐折曲げ性(可とう性)をより改善することができる。さらには、グラフトゴム(B)は樹脂(A)中での凝集が少ないため、フィルターの目詰まりなどを起こすことなく濾過を行うことができる。これにより、異物による欠点の少ない位相差フィルムを提供することができる。
【0073】
このようなコア・シェル構造を有するグラフトゴム(B)は、例えば、上記多官能性単量体を含む単量体組成物を重合してゴム質重合体を得た後、反応せずに残った反応性官能基(二重結合)をグラフト交叉点として、複素芳香族ビニル系単量体とシアン化ビニル系単量体をグラフト重合させることにより得ることができる。
【0074】
上記シェル部としては、樹脂(A)を構成する重合体との相溶性が高い構造であり、且つ位相差フィルムとした場合の逆波長分散性を発現させることができれば特には限定されない。具体的には、複素芳香族ビニル系単量体の構造単位とシアン化ビニル系単量体の構造単位とを有するシェル部が挙げられる。
【0075】
シアン化ビニル系単量体(特にアクリロニトリル)の構造単位は、環構造を含有するアクリル重合体との相性が良いため、シェル部にシアン化ビニル系単量体の構造単位を導入すると、グラフトゴム(B)の樹脂(A)中における分散性が向上する。また、複素芳香族ビニル系単量体(特にN−ビニルカルバゾール)の構造単位により、樹脂(A)からなる位相差フィルムは強い逆波長分散性を示す。更には、複素芳香族ビニル系単量体はアクリロニトリルとの共重合性が良く、アクリロニトリルと共重合させることで、アクリロニトリルに起因する着色を抑制することができる。
【0076】
上記シェル部の構造としては、具体的には、樹脂(A)が上記ラクトン環含有重合体である場合、例えば、アクリロニトリル(以下、ANと記す)とN−ビニルカルバゾール(以下、VCzと記す)とからなる単量体組成物を重合して構築される構造(以下、AN/VCz構造と記す)などが挙げられる。この場合、ANとVCzとの割合は、好ましくはAN/VCz=5/95〜50/50の範囲であり、より好ましくは10/90〜40/60の範囲である。上記範囲内であれば、ラクトン環含有重合体との相溶性は良好であり、グラフトゴム(B)はラクトン環含有重合体中に均一に分散することができる。
【0077】
上記コア部と上記シェル部との割合は、質量比で、好ましくはコア部/シェル部=20/80〜80/20の範囲であり、より好ましくは40/60〜60/40の範囲である。コア部が20質量%未満では、得られるグラフトゴム(B)から形成したフィルムの耐折曲性が悪化する傾向があり、80質量%を超えると、フィルムの硬度および成形性が低下する傾向がある。
【0078】
グラフトゴム(B)の平均粒子径は、好ましくは10〜1000nmの範囲であり、より好ましくは30〜500nmの範囲であり、さらに好ましくは50〜300nmの範囲内である。平均粒子径が10nm未満では、フィルムとした場合に、十分な可とう性が得られない傾向があり、平均粒子径が1000nmを超えると、フィルム製造時における濾過処理工程においてフィルターにグラフトゴム(B)が詰まりやすくなる傾向がある。尚、グラフトゴム(B)の平均粒子径は、市販の粒度分布測定装置、例えば、Particle Sizing Systems社製粒度分布測定装置:Submicron Particle Sizer NICOMP380等を用いて測定することができる。
【0079】
グラフトゴム(B)の製造方法は特には限定されず、従来公知の乳化重合法、乳化−懸濁重合法、懸濁重合法、塊状重合法または溶液重合法により、上記単量体組成物を1段もしくは多段で重合させることにより、グラフトゴム(B)を製造することができる。これらの中では、乳化重合法がより好ましい。
【0080】
乳化重合によりグラフトゴム(B)を製造する場合、乳化重合後の重合液を塩析や再沈によりグラフトゴム(B)を凝集させた後、濾過、洗浄を行う。洗浄後、グラフトゴム(B)を乾燥し、アクリル重合体と混合することによって樹脂(A)を製造することができる。また、洗浄後、グラフトゴム(B)を乾燥せずに、得られるグラフトゴム(B)のケーキをメチルイソブチルケトンなどの有機溶剤に再分散させ、その再分散液にアクリル重合体を溶解、もしくは再分散液と重合体溶液(アクリル重合体を有機溶剤で溶解させた溶液)とを混合し、その後、水および/または有機溶剤を脱揮することによっても樹脂(A)を製造することができる。
【0081】
グラフトゴム(B)の重合時における重合開始剤としては、従来公知の有機系過酸化物、無機系過酸化物、アゾ化合物などの開始剤を使用することができる。具体的には、例えば、t−ブチルハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、スクシン酸パーオキサイド、パーオキシマレイン酸t−ブチルエステル、クメンハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド等の有機過酸化物や、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等の無機過酸化物、アゾビス(2−メチルプロピオナミジン)ジハイドロクロライド、アゾビスイソブチロニトリル等の油溶性開始剤などが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。
【0082】
重合開始剤は、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート、アスコルビン酸、ヒドロキシアセトン酸、硫酸第一鉄、硫酸第一鉄とエチレンジアミン四酢酸2ナトリウムの錯体などの還元剤と組み合わせた通常のレドックス型開始剤として使用してもよい。
【0083】
有機系過酸化物は、重合系にそのまま添加する方法、単量体に混合して添加する方法、乳化剤水溶液に分散させて添加する方法など、公知の添加法で添加することができるが、透明性の点から、単量体に混合して添加する方法あるいは乳化剤水溶液に分散させて添加する方法が好ましい。
【0084】
また、有機系過酸化物は、重合安定性、粒子径制御の点から、2価の鉄塩等の無機系還元剤および/またはホルムアルデヒドスルホキシル酸ソーダ、還元糖、アスコルビン酸等の有機系還元剤と組み合わせたレドックス系開始剤として使用することが好ましい。
【0085】
上記乳化重合に使用される界面活性剤にも特に限定はなく、通常の乳化重合用の界面活性剤であれば使用することができる。具体的には、例えばアルキルスルホン酸ナトリウム、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、脂肪酸ナトリウム等の陰イオン性界面活性剤や、アルキルフェノール類、脂肪族アルコール類とプロピレンオキサイド、エチレンオキサイドとの反応生成物等の非イオン性界面活性剤等が示される。これらの界面活性剤は単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。更に必要であれば、アルキルアミン塩等の陽イオン性界面活性剤を使用してもよい。
【0086】
得られるグラフトゴム(B)のラテックスは、通常の凝固、洗浄および乾燥の操作により、または、スプレー乾燥、凍結乾燥などによる処理により、分離、回収することができる。
【0087】
グラフトゴム(B)は樹脂組成物中に1種類のみ含まれていてもよいし、2種類以上含まれていてもよい。
[位相差フィルム]
本発明の位相差フィルムは、ゴム質重合体にグラフト部を有し、複素芳香族ビニル単量体を構成単位として含むグラフトゴム(B)を5〜50質量%含む樹脂(A)からなる層を有し、フィルム面内の遅相軸方向の屈折率をnx、フィルム面内の進相軸方向の屈折率をny、フィルムの厚さをdとしたときに、Re=(nx−ny)×dで表される波長447nmにおける面内位相差Re(447)と波長590nmにおける面内位相差Re(590)の比、Re(447)/Re(590)が0.60〜0.99である波長分散性を示す。
【0088】
本発明の位相差フィルムは、Re(447)/Re(590)で表される波長分散性が0.60〜0.99であり、0.65〜0.98がより好ましく、0.70〜0.96がさらに好ましく、0.75〜0.95が特に好ましい。波長分散性が上記範囲を外れると、画像表示装置に用いたときにコントラストが低下するおそれがある。
【0089】
本発明の位相差フィルムは、Re=(nx−ny)×dで表される波長590nmにおける面内位相差Re(590)が、20nm〜500nmが好ましく、30nm〜400nmがより好ましく、50nm〜300nmがさらに好ましい。本発明の位相差フィルムをλ/4板として用いられる場合は、110nm〜150nmが好ましく、λ/2板として用いられる場合は260nm〜290nmであることが好ましい。
【0090】
本発明の位相差フィルムの膜厚は、10μm〜350μmであることが好ましい。10μm未満であると、フィルムとして十分な強度が得られず、生産時に破断しやすくなる。一方、350μmよりも厚くなると、可とう性が不十分となり、生産時に割れが生じるおそれや、画像表示装置の薄膜化に不適切となるおそれがある。
【0091】
本発明の位相差フィルムは高い光線透過率を有する。JIS K7361−1に準拠して測定した全光線透過率は好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは92%以上である。
【0092】
本発明の位相差フィルムは、JIS K7136に準拠して測定した内部ヘイズは、好ましくは5%以下であり、より好ましくは3%以下であり、さらに好ましくは1%以下であり、特に好ましくは0.5%以下である。ヘイズが5%を越えると透過率が低下し、光学用途に適さないことがある。
本発明の位相差フィルムの応力光学係数(Cr)は0.30×10−9Pa−1以上が好ましい。Crが0.30×10−9Pa−1未満であると必要とする複屈折を誘起する為の応力が大きくなり、フィルムの破断を招きやすく好ましくない。上限は特に制限は無いが、通常6.50×10−9Pa−1以下である。ここで応力光学係数Crとは、樹脂を成形して得た未延伸フィルム(原反フィルム)を、そのTg以上の温度で延伸する際に加える応力σに対する、得られた位相差フィルムの位相差の傾きのことである。
【0093】
本発明の位相差フィルムは、着色が少なく、b値が好ましくは5以下であり、より好ましくは3以下であり、さらに好ましくは1以下であり、特に好ましくは0.5以下である。
【0094】
本発明の位相差フィルムは、ガラス転移温度が110℃〜200℃であることが好ましい。より好ましくは115℃〜200℃、さらに好ましくは120℃〜200℃、特に好ましくは125℃〜190℃、最も好ましくは130℃〜180℃である。110℃未満であると、厳しくなる使用環境に対して耐熱性が不足し、フィルムが変形して位相差のムラが発生しやすくなることがあるため好ましくない。また、200℃を超えると、フィルムを得るための成形加工性が悪かったり、フィルムの可撓性が大きく低下する場合がある。
【0095】
本発明の位相差フィルムの表面には、必要に応じて、各種の機能性コーティング層が形成されていてもよい。機能性コーティング層は、例えば、帯電防止層、粘接着剤層、接着層、易接着層、防眩(ノングレア)層、光触媒層などの防汚層、反射防止層、ハードコート層、紫外線遮蔽層、熱線遮蔽層、電磁波遮蔽層、ガスバリヤー層などである。また、本発明の位相差フィルムに、上記機能性コーティング層を有する部材が積層されていてもよい。当該部材の積層は、粘着剤や接着剤を介して行うことができる。
【0096】
本発明の位相差フィルムの用途は特に限定されないが、λ/4板やλ/2板、偏光板などの他の光学部材と組み合わせて、反射防止板や円偏光板、楕円偏光板とすることができる。
【0097】
本発明の位相差フィルムを備える偏光板(本発明の楕円偏光板)の構造は特に限定されず、偏光子の一方の面に本発明の位相差フィルムが積層された構造であってもよいし、一対の偏光子保護フィルムによって偏光子が挟持された偏光板に本発明の位相差フィルムが積層された構造であってもよい。本発明の楕円偏光板の構造の典型的な一例は、ポリビニルアルコールフィルムをヨウ素または二色性染料などの二色性物質により染色した後に一軸延伸して得た偏光子に接着剤層または易接着層を介して、片面に本発明の位相差フィルムを、もう一方の面に偏光子保護フィルムを接合させた構造である。
【0098】
偏光子は特に限定されず、例えば、ポリビニルアルコールフィルムを染色、延伸して得た偏光子;脱水処理したポリビニルアルコールあるいは脱塩酸処理したポリ塩化ビニルなどのポリエン偏光子;多層積層体あるいはコレステリック液晶を用いた反射型偏光子;薄膜結晶フィルムからなる偏光子;などの公知の偏光子である。なかでも、ポリビニルアルコールを染色、延伸して得た偏光子が好ましい。偏光子の厚さは特に限定されず、一般に5〜100μm程度である。
【0099】
偏光子と本発明の位相差フィルムとが接合されている場合、接合に用いる接着剤は特に限定されない。接着剤は、例えばポリウレタン、ポリエステル、ポリアクリルなどの樹脂を基材とする接着剤、あるいはアクリル系、シリコン系、ゴム系などの各種の粘着剤である。偏光子と位相差フィルムとは、楕円偏光板としての機能が損なわれない限り、加熱圧着により接合してもよい。
【0100】
偏光子と位相差フィルムとを接合する方法は公知の方法に従えばよく、例えば、流延法、マイヤーバーコート法、グラビアコート法、ダイコート法、ディップコート法、噴霧法などにより、偏光子および/または位相差フィルムの接着面に接着剤を塗布した後に、両者を重ね合わせればよい。なお、接着剤を塗布する際の流延法とは、塗布対象であるフィルムを移動させながら、その表面に接着剤を流下し、広げる方法である。
【0101】
偏光子と位相差フィルムとを接合する際には、位相差フィルムにおける偏光子を接合させる面を易接着処理してもよい。この場合、両者の接着性が向上する。易接着処理は、例えば、プラズマ処理、コロナ処理、紫外線照射処理、フレーム(火炎)処理、ケン化処理、アンカー層形成処理である。2以上の処理を併用してもよい。なかでも、コロナ処理、アンカー層形成処理およびこれらを併用する方法が好ましい。
【0102】
本発明の楕円偏光板は、偏光子および本発明の位相差フィルムの他に、任意の部材を有していてもよい。当該部材は、例えば、TACフィルム、ポリカーボネートフィルム、環状ポリオレフィンフィルム、アクリル樹脂フィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリナフタレンテレフタレートフィルムである。なかでも、偏光板としての光学特性に優れることから、アクリル樹脂フィルムが好ましい。また、画像表示装置の視野角特性が向上することから、面内および厚さ方向の位相差(波長590nmの光に対する厚さ100μmあたりの位相差)の値が10nm以下である低位相差フィルムあるいは特定の位相差を有する位相差フィルムを有する形態も好ましい。これら任意のフィルムは、偏光子保護フィルムとして機能してもしなくてもよい。
【0103】
本発明の楕円偏光板は、その表面特性、例えば耐傷つき特性の向上を目的として、ハードコート層を有していてもよい。ハードコート層は、例えば、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、アクリルシリコーン樹脂、紫外線硬化樹脂、ウレタン系ハードコート剤からなる。紫外線硬化樹脂は、例えば紫外線硬化アクリルウレタン、紫外線硬化エポキシアクリレート、紫外線硬化(ポリ)エステルアクリレート、紫外線硬化オキセタンである。ハードコート層の厚さは、通常0.1〜100μmである。ハードコート層を形成する前に、その下地となる層にプライマー処理を行ってもよく、当該層に、反射防止処理あるいは低反射処理などの公知の防眩処理を行ってもよい。
【0104】
本発明の楕円偏光板は、少なくとも一方の最外層に粘着剤層を有していてもよく、この場合、本発明の偏光板を液晶セルあるいは他の光学部材などと接着できる。粘着剤層は、例えばアクリル樹脂、シリコーンポリマー、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリエーテル、フッ素樹脂、ゴムなどをベースとする粘着剤を含む。
【0105】
粘着剤層は公知の方法により形成できる。例えば、トルエンや酢酸エチルなどの溶剤を含む溶媒に粘着剤を溶解または分散させて、濃度10〜40%程度の粘着剤溶液を調製し、調製した溶液を流延または塗工して粘着剤層とすればよい。粘着剤層は、上記調製した溶液をセパレータに流延または塗工して得た層を、セパレータから転写して形成することもできる。
【0106】
粘着剤層とその下地となる層との間に、両者の密着性を向上させるためにアンカー層を設けてもよい。アンカー層は、例えばポリウレタン、ポリエステル、分子内にアミノ基を有するポリマーからなる。なかでも、分子内にアミノ基を有するポリマーからなるアンカー層が好ましい。ポリマー内のアミノ基が、粘着剤中の極性基(例えばカルボキシル基)と反応する、あるいは当該極性基とイオン性の相互作用を示すため、良好な密着性が確保される。
【0107】
分子内にアミノ基を有するポリマーは、例えばポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、ポリビニルアミン、ポリビニルピリジン、ポリビニルピロリジンであり、ジメチルアミノエチルアクリレートなどのアミノ基を含有する単量体の重合物であってもよい。
【0108】
本発明の楕円偏光板は、液晶表示装置をはじめとする画像表示装置に用いることができる。本発明の楕円偏光板を液晶表示装置に用いる場合、当該楕円偏光板は、液晶セルの視認側あるいはバックライト側のいずれか一方のみに配置されても、双方の側に配置されてもよい。
【0109】
本発明の楕円偏光板を使用できる画像表示装置は特に限定されず、例えば、反射型、透過型、半透過型の液晶表示装置;TN型、STN型、OCB型、HAN型、VA型、IPS型などの各種の駆動方式を有する液晶表示装置;有機電界発光表示装置(OELD);プラズマディスプレイ(PD);電界放出ディスプレイ(FED)である。
【0110】
本発明の楕円偏光板を備える画像表示装置(本発明の画像表示装置)の構成は特に限定されず、光学補償シート、バックライト部などの部材を、必要に応じて適宜備えればよい。
[位相差フィルムの製造方法]
本発明の位相差フィルムの製造方法は特に限定されず、フィルム成形の方法としては、溶液キャスト法(溶液流延法)、Tダイ法やインフレーション法等の溶融押出法、カレンダー法、圧縮成形法等、公知のフィルム成形方法が挙げられる。これらの中でも、溶液キャスト法(溶液流延法)、溶融押出法が好ましい。
【0111】
溶液キャスト法(溶液流延法)に用いられる溶媒としては、例えば、クロロホルム、ジクロロメタン等の塩素系溶媒;トルエン、キシレン、ベンゼン、及びこれらの混合溶媒等の芳香族系溶媒;メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール等のアルコール系溶媒;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルフォキシド、ジオキサン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、アセトン、酢酸エチル、ジエチルエーテル;等が挙げられる。これら溶媒は1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0112】
溶液キャスト法(溶液流延法)を行うための装置としては、例えば、ドラム式キャスティングマシン、バンド式キャスティングマシン、スピンコーター等が挙げられる。
【0113】
溶融押出法としては、Tダイ法、インフレーション法等が挙げられ、その際の、フィルムの成形温度は、好ましくは150〜350℃、より好ましくは200〜300℃である。
【0114】
また、上記アクリル系重合体と、上記弾性有機微粒子と、必要により、その他の重合体やその他の添加剤等の混合物を、Tダイ等から溶融押出しし、得られるフィルム状物の少なくとも片面をロール若しくはベルトに接触させて製膜する方法が、表面性状の良好なフィルムが得られる点で好ましい。更には、フィルムの表面平滑性及び表面光沢性を向上させる観点から、上記混合物を溶融押出成形して得られるフィルム状物の両面をロール表面若しくはベルト表面に接触させてフィルム化する方法が好ましい。
【0115】
尚、上記ロールは、「タッチロール」若しくは「冷却ロール」と呼ばれることがあるが、本明細書中における用語「ロール」とは、これらの両方の意味を包含する。
【0116】
ここで、フィルム状物の両面をロール若しくはベルト表面に最初に接触させる際のフィルム状物の温度は、当該フィルム状物のガラス転移温度以上の温度、好ましくは当該ガラス転移温度よりも約20℃以上高い温度である。
【0117】
上記ロール若しくはベルト表面の材質としては、冷却効率が良いこと、及び平滑性に優れたフィルムが得易いことから、金属が好ましい。具体的にはステンレス、鋼鉄等が挙げられる。鋼鉄を用いる場合には、その表面にクロームメッキ等の処理が施されていてもよい。またロールは、その表面が鏡面となっているものがより好ましい。
【0118】
上記フィルム状物と接触させる際の上記ロール若しくはベルト表面の温度は特に限定されないが、フィルムに成形し易い点で、一定温度に保持されていることが好ましい。
【0119】
また、使用する上記ロールの本数は特には限定されないが、3〜4本を使用し、多段でフィルム厚み及び表面状態を調整することが望ましい。
【0120】
尚、ロール表面若しくはベルト表面との接触はフィルム状物の一方の面に接触した後に他方の面に接触させることにより段階的に行ってもよいが、両面を同時に接触させることが好ましい。
【0121】
このようにして得られるフィルムは、十分な厚み精度、表面平滑性を有しているが、更に厚み精度及び表面平滑性を向上させるために、その両面若しくは片面を、ロール表面若しくはベルト表面に接触させた状態で加熱し、ロール表面若しくはベルト表面に接触させた状態のままで冷却してもよい。
【0122】
尚、本実施形態においては、フィルム化の前に、用いるアクリル重合体等のフィルム原料を予備乾燥させることがより好ましい。予備乾燥は、例えば、原料をペレット等の形態にして、熱風乾燥機等を用いて行われる。予備乾燥は、押し出される樹脂の発泡を防ぐことができるので非常に有用である。
【0123】
また、押出機内で加熱溶融されたフィルム原料を、ギアポンプやフィルターを通して、Tダイに供給することが好ましい。ギアポンプの使用は、樹脂の押出量の均一性を向上させ、厚みムラを低減させる効果が高く、非常に有用である。また、フィルターの使用は、樹脂中の異物を除去し、欠陥の無い外観に優れたフィルムを得るのに有用である。
ポリマーフィルターにより、樹脂組成物中に存在する異物を除去できるため、得られたフィルムの外観上の欠点を低減できる。なお、ポリマーフィルターによる濾過時には、樹脂組成物は高温の溶融状態となる。このため、ポリマーフィルターを通過する際に樹脂組成物が劣化し、劣化により形成されたガス成分や着色劣化物が組成物中に流れだして、得られたフィルムに、穴あき、流れ模様、流れスジなどの欠点が観察されることがある。この欠点は、特に樹脂フィルムの連続成形時に観察されやすい。このため、ポリマーフィルターで濾過した樹脂組成物を成形する際には、その成形温度は、樹脂組成物の溶融粘度を低下させ、ポリマーフィルターにおける樹脂組成物の滞留時間を短くするために、例えば255〜300℃であり、260〜320℃が好ましい。
【0124】
ポリマーフィルターの構成は特に限定されないが、ハウジング内に多数枚のリーフディスク型フィルターを配したポリマーフィルターを好適に用いることができる。リーフディスク型フィルターの濾材は、金属繊維不織布を焼結したタイプ、金属粉末を焼結したタイプ、金網を数枚積層したタイプ、あるいはそれらを組み合わせたハイブリッドタイプのいずれでもよいが、金属繊維不織布を焼結したタイプが最も好ましい。
【0125】
ポリマーフィルターによる濾過精度は特に限定されないが、通常15μm以下、好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下である。濾過精度が1μm以下になると、樹脂組成物の滞留時間が長くなることで当該組成物の熱劣化が大きくなる他、樹脂フィルムの生産性が低下する。一方、濾過精度が15μmを超えると、樹脂組成物中の異物を除去することが難しくなる。
【0126】
ポリマーフィルターにおける、時間あたりの樹脂処理量に対する濾過面積は特に限定されず、樹脂組成物の処理量に応じて適宜設定できる。上記濾過面積は、例えば、0.001〜0.15m2/(kg/時間)である。
【0127】
ポリマーフィルターの形状は特に限定されず、例えば、複数の樹脂流通口を有し、センターポール内に樹脂の流路を有する内流型;断面が複数の頂点もしくは面においてリーフディスクフィルタの内周面に接し、センターポールの外面に樹脂の流路がある外流型;などがある。特に、樹脂の滞留箇所の少ない外流型を用いることが好ましい。
【0128】
ポリマーフィルターにおける樹脂組成物の滞留時間に特に制限はないが、好ましくは20分以下であり、より好ましくは10分以下であり、さらに好ましくは5分以下である。また、濾過時におけるフィルター入口圧およびフィルター出口圧は、例えば、それぞれ、3〜15MPaおよび0.3〜10MPaであり、圧力損失(フィルターの入口圧と出口圧の圧力差)は、1MPa〜15MPaの範囲が好ましい。圧力損失が1MPa以下になると、樹脂組成物がフィルターを通過する流路に偏りが生じやすく、得られた樹脂フィルムの品質が低下する傾向がある。一方、圧力損失が15MPaを超えると、ポリマーフィルターの破損が起こり易くなる。
【0129】
ポリマーフィルターに導入される樹脂組成物の温度は、その溶融粘度に応じて適宜設定すればよく、例えば250〜300℃であり、好ましくは255〜300℃であり、さらに好ましくは260〜300℃である。
【0130】
ポリマーフィルターを用いた濾過処理により、異物、着色物の少ない樹脂フィルムを得る具体的な工程は、特に限定されない。例えば、(1)クリーン環境下で樹脂組成物の形成および濾過処理を行い、引き続いてクリーン環境下で樹脂組成物の成形を行うプロセス、(2)異物または着色物を有する樹脂組成物を、クリーン環境下で濾過処理した後、引き続いてクリーン環境下で樹脂組成物の成形を行うプロセス、(3)異物または着色物を有する樹脂組成物を、クリーン環境下で濾過処理すると同時に成形を行うプロセス、などが挙げられる。それぞれの工程毎に、複数回、ポリマーフィルターによる樹脂組成物の濾過処理を行ってもよい。
【0131】
ポリマーフィルターによって樹脂組成物を濾過する際には、押出機とポリマーフィルターとの間にギアポンプを設置して、フィルター内の樹脂組成物の圧力を安定化することが好ましい。
【0132】
更には、Tダイ等から押し出されるフィルム状物を2つのロールで挟み込んで冷却し、フィルムを成膜する際、2つのロールの内の一方が、表面が平滑な剛体性の金属ロールであり、もう一方が、表面が平滑な弾性変形可能な金属製弾性外筒を備えたフレキシブルロールであることが特に好ましい。
【0133】
剛体性のロールとフレキシブルなロールとで、Tダイ等から押し出されるフィルム状物を挟み込んで冷却して成膜することにより、表面の微小な凹凸やダイライン等が矯正されて、表面の平滑な、厚みムラが5μm以下であるフィルムを得ることができる。
【0134】
ここで、Tダイ等から押し出されるシート状の溶融樹脂を剛体性のロールとフレキシブルなロールとで挟み込みながら冷却して、厚さが薄いフィルムを成形する場合、一方のロールが弾性変形可能であったとしても、何れのロール表面も金属で構成されているために、ロールの面同士が接触してロール外面に傷が付き易い。また、ロールそのものが破損し易い。従って、このような方法で成形する場合、フィルムの厚さは10μm以上とすることが好ましく、50μm以上とすることがより好ましく、更に好ましくは80μm以上、特に好ましくは100μm以上である。
【0135】
また、Tダイ等から押し出されるフィルム状物を剛体性のロールとフレキシブルなロールとで挟み込みながら冷却して、厚さが厚いフィルムを成形する場合、フィルムの冷却が不均一になり易く、光学的特性が不均一になり易い。従って、このような方法で成形する場合、フィルムの厚さは500μm以下とすることが好ましく、より好ましくは400μm以下、更に好ましくは300μm以下である。
【0136】
尚、厚さが100μmより薄いフィルムを製造する場合には、このような挟み込み成形で比較的厚さの厚い原料フィルムを得た後、一軸延伸若しくは二軸延伸して所定の厚さのフィルムを製造することが好ましい。実施態様の一例を挙げれば、このような挟み込み成形で厚さ150μmの原料フィルムを製造した後、縦横二軸延伸により、厚さ40μmのフィルムを製造することができる。
【0137】
本発明に係る位相差フィルムを得るための延伸方法としては、従来公知の延伸方法が適用できる。例えば、自由幅一軸延伸、定幅一軸延伸等の一軸延伸;逐次二軸延伸、同時二軸延伸等の二軸延伸;斜め延伸;フィルムの延伸時にその片面又は両面に収縮性フィルムを接着して積層体を形成し、その積層体を加熱延伸処理してフィルムに延伸方向と直交する方向の収縮力を付与することにより、延伸方向と厚さ方向とにそれぞれ配向した分子群が混在する複屈折性フィルムを得る延伸等が挙げられる。耐折り曲げ性が向上する点で、二軸延伸が好ましい。さらに、フィルム面内の任意の直交する二方向に対する耐折れ曲げ性が向上するという点で、同時二軸延伸が好ましい。面内の任意の直交する二方向としては、例えば、フィルム面内の遅相軸と平行方向及びフィルム面内の遅相軸と垂直な方向が挙げられる。尚、所望の位相差値、所望の耐折れ曲げ性に応じて、延伸倍率、延伸温度、延伸速度等の延伸条件を適宜設定すればよく、特に限定はされない。
【0138】
また、フィルム面内の遅相軸方向の屈折率をnx、フィルム面内でnxと垂直方向の屈折率をny、フィルム厚さ方向の屈折率をnzとした場合、nx>ny=nzもしくはnx=nz>nyを満たす位相差フィルムが得られる点で、自由幅一軸延伸が好ましい。また、nx=ny>nzもしくはnx=ny<nzを満たす位相差フィルムが得られる点で二軸延伸が好ましい。さらには、nx>nyで0<(nx−nz)/(nx−ny)<1を満足する位相差フィルムが得られるという点で、フィルムに延伸方向と直交する方向の収縮力を付与する延伸方法が好ましい。
【0139】
延伸等を行う装置としては、例えば、ロール延伸機、テンター型延伸機、小型の実験用延伸装置として引張試験機、一軸延伸機、逐次二軸延伸機、同時二軸延伸機等が挙げられ、これら何れの装置を用いても、本発明に係る位相差フィルムを得ることができる。
【0140】
延伸温度としては、フィルム原料の樹脂重合体組成物、又は延伸前のアクリル重合体を主成分とするフィルムの高温側のガラス転移温度(Tg)近辺で行うことが好ましい。具体的には、(Tg−30)℃〜(Tg+50)℃で行うことが好ましく、より好ましくは(Tg−20)℃〜(Tg+20)℃、さらに好ましくは(Tg−10)℃〜(Tg+10)℃である。特に二軸延伸においては、(Tg−5℃)〜(Tg+15℃)で行うことが好ましい。(Tg−30)℃よりも低いと、十分な延伸倍率が得られないために好ましくない。(Tg+50)℃よりも高いと、樹脂の流動(フロー)が起こり安定な延伸が行えなくなるために好ましくない。
【0141】
面積比で定義した延伸倍率は、好ましくは1.1〜25倍の範囲、より好ましくは1.2〜10倍の範囲、さらに好ましくは1.3〜5倍の範囲で行われる。1.1倍よりも小さいと、延伸に伴う位相差性能の発現や靭性の向上につながらないために好ましくない。25倍よりも大きいと、延伸倍率を上げるだけの効果が認められない。
【0142】
ある方向に延伸する場合、その一方向に対する延伸倍率は、好ましくは1.05〜10倍の範囲、より好ましくは1.1〜5倍の範囲、さらに好ましくは1.2〜3倍の範囲で行われる。1.05倍よりも小さいと、所望の位相差値が得られない場合があり好ましくない。10倍よりも大きいと、延伸倍率を上げるだけの効果が認められず、また延伸中にフィルムの破断が起こる場合があり好ましくない。
【0143】
延伸速度(一方向)としては、好ましくは10〜20000%/分の範囲、より好ましくは100〜10000%/分の範囲である。10%/分よりも遅いと、十分な延伸倍率を得るために時間がかかり、製造コストが高くなるために好ましくない。20000%/分よりも早いと、延伸フィルムの破断等が起こるおそれがあるために好ましくない。
【0144】
樹脂フィルムの光学特性および機械的特性を安定させるために、延伸後、必要に応じて熱処理(アニーリング)を実施してもよい。
【実施例】
【0145】
以下に、実施例および比較例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、以下では特にことわりのない場合、「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」をそれぞれ示す。また、実施例において便宜上、下記略称を用いて説明する。
【0146】
MMA:メタクリル酸メチル
EMA:メタクリル酸エチル
MHMA:2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル
MA:アクリル酸メチル
St:スチレン
AN:アクリロニトリル
NVCz:N−ビニルカルバゾール
[重量平均分子量および数平均分子量]
樹脂の重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用い、以下の測定条件に従って求めた。
【0147】
測定システム:東ソー製GPCシステムHLC−8220
展開溶媒:クロロホルム(和光純薬工業製、特級)
溶媒流量:0.6mL/分
標準試料:TSK標準ポリスチレン(東ソー製、PS−オリゴマーキット)
測定側カラム構成:ガードカラム(東ソー製、TSK guardcolumn SuperHZ−L)、分離カラム(東ソー製、TSK Gel Super HZM−M)、2本直列接続
リファレンス側カラム構成:リファレンスカラム(東ソー製、TSK gel SuperH−RC)
[ガラス転移温度]
樹脂およびフィルムのガラス転移温度(Tg)は、JIS K7121の規定に準拠して求めた。具体的には、示差走査熱量計(リガク製、Thermo plus EVO DSC−8230)を用い、窒素ガス雰囲気下、約10mgのサンプルを常温から200℃まで昇温(昇温速度20℃/分)して得られたDSC曲線から、始点法により評価した。リファレンスには、α−アルミナを用いた。
【0148】
[平均粒子径]
平均粒子径の測定には、Particle Sizing Systems社製粒度分布測定装置Submicron Particle Sizer NICOMP380を用いた。
【0149】
[屈折率異方性]
波長590nmの光に対するフィルムの面内位相差Re(590)は、位相差測定装置(王子計測機器製、KOBRA−WR)を用いて求めた。具体的には、測定項目として入射角依存性(単独N計算)を選択し、傾斜中心軸を遅相軸に、入射角を40°として、アッベ屈折率計で測定したフィルムの平均屈折率、膜厚dを入力して測定した。フィルムの膜厚dは、デジマチックマイクロメータ(ミツトヨ製)を用いて測定した。
【0150】
光学フィルムにおける面内位相差Reは、nxはフィルムの面内における遅相軸方向(フィルム面内において最大の屈折率を示す方向)の屈折率、nyはフィルムの面内における進相軸方向(フィルム面内におけるnxと垂直な方向)の屈折率、dはフィルムの厚さ(nm)としたときに、式Re=(nx−ny)×dより示される値である。
【0151】
位相差フィルムの波長分散性は波長447nmの光に対する面内位相差Re(447)と波長590nmの光に対するフィルムの面内位相差Re(590)を測定し、Re(447)/Re(590)から求めた。
【0152】
[はさみカット性]
可とう性の指標であるはさみカット性は、以下のようにして評価した。
樹脂ペレットまたは樹脂組成物を、手動式加熱プレス機(井元製作所製、IMC−180C型)を用いて、240℃、30MPaで5分間溶融プレス成形して、厚さ140μmの未延伸フィルム(原反フィルム)を作製した。得られたフィルムに対しはさみが垂直になるように入れてフィルムを切り、切り口にクラックが全く入らないものを○、クラックが入るものを×とした。
【0153】
(製造例1)〔アクリル樹脂(A−1)の製造〕
撹拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入管、滴下ロートを備えた反応容器に、MHMA15部、MMA27部、MA10部、NVCz6部、トルエン37部およびメタノール2部を仕込んだ。この反応容器に窒素ガスを導入しながら、95℃まで昇温させ、還流開始したところで、重合開始剤としてt−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(アルケマ吉富社製;「ルペロックス(登録商標)575」)0.029部を添加し、同時に、MHMA15部、MMA27部、トルエン17部およびt−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.082部の混合物の滴下を開始した。この混合物を8時間かけて滴下しながら、還流下、約90℃〜100℃で溶液重合を行った。
【0154】
また、重合開始5時間より23.3部のトルエンを3時間かけて滴下し、重合液を希釈した。
【0155】
得られた共重合体溶液に、リン酸オクチル/ジオクチル混合物(堺化学工業社製;商品名「Phoslex A−8」)0.24部を添加し、80℃〜105℃の還流下で2時間、環化縮合反応を行った。
【0156】
その後、21.4部のメチルイソブチルケトン(MIBK)を添加し、得られた共重合体溶液を希釈した。
【0157】
次いで、得られた共重合体溶液を熱交換器に通して240℃まで昇温させ、バレル温度240℃、減圧度13.3〜400hPa(10〜300mmHg)、リアベント数1個およびフォアベント数4個(上流側から第1、第2、第3、第4ベントと称する)、先端部にリーフディスク型のポリマーフィルター(濾過精度5μm)が配置されたベントタイプスクリュー二軸押出機(L/D=52)に、樹脂量換算で8部/時の処理速度で導入し、脱揮を行った。その際、別途準備しておいた酸化防止剤/環化触媒失活剤の混合溶液を0.305部/時の投入速度で第2ベントの後ろから、イオン交換水を0.04部/時の投入速度で第3ベントの後ろから、それぞれ投入した。酸化防止剤/環化触媒失活剤の混合溶液は、0.0214部のチバスペシャリティケミカルズ製Irganox1010、0.0214部のADEKA製アデカスタブAO−412Sおよび0.322部のオクチル酸亜鉛(日本化学工業製、ニッカオクチクス亜鉛18%)をトルエン2.51部に溶解して調製した。(なお、Irganox1010、およびAO−412Sは樹脂中に各々0.025%含まれている。)
該脱揮工程後、樹脂(分子内環化メタクリル系共重合体)をペレット化して、樹脂(A−1)のペレットを得た。得られた樹脂(A−1)の重量平均分子量は10.2万、Tgは132℃であった。
【0158】
(製造例2)〔アクリル樹脂(A−2)の製造〕
攪拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた反応釜に、メタクリル酸メチル(MMA)10.9部、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)19.1部、メタクリル酸エチル(EMA)24.6部、重合溶媒としてトルエン43部およびメタノール1.5部、ならびに酸化防止剤(アデカスタブ2112、ADEKA製)0.027部を仕込み、これに窒素を通じつつ、88℃まで昇温させた。昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤としてt−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(アルケマ吉富製、商品名:ルペロックス575)0.008部を添加した。この添加と同時に、0.8重量部のトルエンに上記t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.044部を溶解させた溶液の滴下を開始し、当該溶液を8時間かけて滴下した。当該溶液の滴下開始後、3時間が経過したところで、21.1部のトルエンの滴下を開始し、当該トルエンは4時間かけて滴下した。この間、約95〜100℃の還流下で溶液重合を進行させ、上記滴下後、さらに1時間の熟成を行った。
【0159】
次に、得られた重合溶液に、環化縮合反応の触媒(環化触媒)として、リン酸ステアリル(堺化学工業製、Phoslex A−18)0.16部を加え、約80〜95℃の還流下において2時間、ラクトン環構造を形成するための環化縮合反応を進行させた。
【0160】
次に、得られた重合溶液を、製造例1と同様に脱揮を行った。その際、別途準備しておいた酸化防止剤/環化触媒失活剤の混合溶液を1.1部/時の投入速度で第2ベントの後から、イオン交換水を0.4部/時の投入速度で第1および第3ベントの後から、それぞれ投入した。酸化防止剤/環化触媒失活剤の混合溶液には、酸化防止剤として0.6部のイルガノックス1010(チバスペシャリティケミカルズ製)および0.6部のアデカスタブAO−412S(ADEKA製)と、失活剤として4.2重量部のオクチル酸亜鉛(日本化学産業製、ニッカオクチクス亜鉛3.6%)とを、トルエン94.7部に溶解させた溶液を用いた。
【0161】
次に、製造例1と同様にペレット化して、ラクトン環構造を主鎖に有する(メタ)アクリル重合体(A−2)のペレットを得た。重合体(A−2)の重量平均分子量は10万、Tgは126℃であった。
【0162】
(製造例3)〔グラフトゴム(B−1)の製造〕
攪拌機を備えた耐圧反応容器に、脱イオン水70部、ピロリン酸ナトリウム0.5部、オレイン酸カリウム0.2部、硫酸第一鉄0.005部、デキストロース0.2部、p−メンタンハイドロパーオキシド0.1部、1,3−ブタジエン28部からなる反応混合物を加え、65℃に昇温し、2時間重合を行った。次に、該反応混合物にp−メンタンハイドロパーオキシド0.2部を加え、1,3−ブタジエン72部、オレイン酸カリウム1.33部、脱イオン水75部を2時間で連続滴下した。重合開始から21時間反応させて、平均粒子径0.240μmのブタジエン系ゴム重合体ラテックスを得た。
冷却器と攪拌機とを備えた重合容器に、脱イオン水120部、上記ブタジエン系ゴム重合体ラテックスを固形分として50部、オレイン酸カリウム1.5部、ソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート(SFS)0.6部を投入し、重合容器内を窒素ガスで十分置換した。
【0163】
続いて、内温を70℃に昇温させた後、NVCz17.5部、AN13.5部、MMA19.0部からなる混合モノマー溶液と、クメンハイドロキシパーオキサイド0.27部、脱イオン水20部からなる重合開始剤溶液とを別々に2時間かけて連続滴下しながら重合を行った。滴下終了後、内温を80℃に昇温して2時間重合を継続させた。次に内温が40℃になるまで冷却した後に300メッシュ金網を通過させてグラフトゴムの乳化重合液を得た。
得られたグラフトゴムの乳化重合液を塩化カルシウムで塩析、凝固し、水洗、乾燥して、粉体状のグラフトゴム(B−1)を得た。
【0164】
(製造例4)〔グラフトゴム(B−2)の製造〕
冷却器と攪拌機とを備えた重合容器に、脱イオン水120部、製造例1と同様の手法で得たブタジエン系ゴム重合体ラテックスを固形分として50部、オレイン酸カリウム1.5部、ソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート(SFS)0.6部を投入し、重合容器内を窒素ガスで十分置換した。
【0165】
続いて、混合モノマー溶液をNVCz7.6部、AN15.6部、St26.8部とする以外は製造例3と同様の手法で粉体状のグラフトゴム(B−2)を得た。
(製造例5)〔グラフトゴム(B−3)の製造〕
冷却器と攪拌機とを備えた重合容器に、脱イオン水120部、製造例1と同様の手法で得たブタジエン系ゴム重合体ラテックスを固形分として50部、オレイン酸カリウム1.5部、ソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート(SFS)0.6部を投入し、重合容器内を窒素ガスで十分置換した。
【0166】
続いて、混合モノマー溶液をSt36.8部、AN13.5部とする以外は製造例3と同様の手法で粉体状のグラフトゴム(B−3)を得た。
【0167】
(実施例1)
製造例1で作製した重合体(A−1)のペレット86部と、製造例3で作製したグラフトゴム(B−1)14部とをドライブレンドして得た混合物を、ラボプラストミル(東洋精機製、R−60H)を用いて250℃で溶融混練(回転速度100rpm、5分間)して、樹脂組成物(C−1)を形成した。
【0168】
次に、形成した樹脂組成物(C−1)を、手動式加熱プレス機(井元製作所製、IMC−180C型)を用いて、240℃、30MPaで5分間溶融プレス成形して、厚さ140μmの未延伸フィルム(原反フィルム)を作製した。作製した原反フィルムのTgは129℃であり、すなわち、樹脂組成物(C−1)のTgは129℃であった。次に、作製した未延伸フィルムを50mm×80mmのサイズに切り出した後、切り出したフィルムを、恒温槽付きオートグラフ(島津製作所製、AG−X)を用いて延伸し、厚さ100μmの位相差フィルムを形成した。具体的には、切り出したフィルムをオートグラフにセットする際のチャック間距離を40mmに設定し、チャックに取り付けた当該フィルムをそのTg+5℃で3分間予熱した後、当該温度にて延伸倍率が2倍となるように自由端一軸延伸した。
【0169】
このようにして得た位相差フィルムの屈折率異方性を評価したところ、Re(447)は84.6nm、Re(590)は95.6nmであり、Re(447)/Re(590)は0.89であった。また、未延伸フィルムのはさみカット性は○であった。
【0170】
(実施例2)
重合体(A−1)のペレット76部と、製造例4で作製したグラフトゴム(B−2)24部とする以外は実施例1と同様にして樹脂組成物(C−2)を形成した。
【0171】
次に、形成した樹脂組成物(C−2)を、240℃、30MPaで5分間溶融プレス成形して、厚さ140μmの未延伸フィルム(原反フィルム)を作製した。作製した原反フィルムのTgは128℃であった。当該フィルムをそのTg+5℃で3分間予熱した後、当該温度にて延伸倍率が2倍となるように自由端一軸延伸した。
【0172】
このようにして得た位相差フィルムの屈折率異方性を評価したところ、Re(447)は60.1nm、Re(590)は73.7nmであり、Re(447)/Re(590)は0.82であった。また、未延伸フィルムのはさみカット性は○であった。
【0173】
(実施例3)
重合体(A−1)のペレット62部と、製造例4で作製したグラフトゴム(B−2)38部とする以外は実施例1と同様にして樹脂組成物(C−3)を形成した。
【0174】
次に、形成した樹脂組成物(C−3)を、240℃、30MPaで5分間溶融プレス成形して、厚さ140μmの未延伸フィルム(原反フィルム)を作製した。作製した原反フィルムのTgは125℃であった。当該フィルムをそのTg+5℃で3分間予熱した後、当該温度にて延伸倍率が2倍となるように自由端一軸延伸した。
【0175】
このようにして得た位相差フィルムの屈折率異方性を評価したところ、Re(447)は46.7nm、Re(590)は62.2nmであり、Re(447)/Re(590)は0.75であった。また、未延伸フィルムのはさみカット性は○であった。
【0176】
(実施例4)
重合体(A−2)のペレット72部と、製造例4で作製したグラフトゴム(B−2)28部とする以外は実施例1と同様にして樹脂組成物(C−4)を形成した。
【0177】
次に、形成した樹脂組成物(C−4)を、240℃、30MPaで5分間溶融プレス成形して、厚さ140μmの未延伸フィルム(原反フィルム)を作製した。作製した原反フィルムのTgは127℃であった。当該フィルムをそのTg+5℃で3分間予熱した後、当該温度にて延伸倍率が2倍となるように自由端一軸延伸した。
【0178】
このようにして得た位相差フィルムの屈折率異方性を評価したところ、Re(447)は107.6nm、Re(590)は120.1nmであり、Re(447)/Re(590)は0.90であった。また、未延伸フィルムのはさみカット性は○であった。
【0179】
(実施例5)
重合体(A−2)のペレット78部と、製造例4で作製したグラフトゴム(B−2)22部とする以外は実施例1と同様にして樹脂組成物(C−5)を形成した。
【0180】
次に、形成した樹脂組成物(C−5)を、240℃、30MPaで5分間溶融プレス成形して、厚さ140μmの未延伸フィルム(原反フィルム)を作製した。作製した原反フィルムのTgは126℃であった。当該フィルムをそのTg+5℃で3分間予熱した後、当該温度にて延伸倍率が2倍となるように自由端一軸延伸した。
【0181】
このようにして得た位相差フィルムの屈折率異方性を評価したところ、Re(447)は148.2nm、Re(590)は156.5nmであり、Re(447)/Re(590)は0.95であった。また、未延伸フィルムのはさみカット性は○であった。
【0182】
(比較例1)
重合体(A−1)のペレットを、240℃、30MPaで5分間溶融プレス成形して、厚さ140μmの未延伸フィルム(原反フィルム)を作製した。作製した原反フィルムのTgは131℃であった。当該フィルムをそのTg+5℃で3分間予熱した後、当該温度にて延伸倍率が2倍となるように自由端一軸延伸した。
【0183】
このようにして得た位相差フィルムの屈折率異方性を評価したところ、Re(447)は60.5nm、Re(590)は68.0nmであり、Re(447)/Re(590)は0.89であった。また、未延伸フィルムのはさみカット性は×であった。
【0184】
(比較例2)
重合体(A−1)のペレット96部と、製造例5で作製したグラフトゴム(B−3)4部とする以外は実施例1と同様にして樹脂組成物(C−6)を形成した。
【0185】
次に、形成した樹脂組成物(C−6)を、240℃、30MPaで5分間溶融プレス成形して、厚さ140μmの未延伸フィルム(原反フィルム)を作製した。作製した原反フィルムのTgは129℃であった。当該フィルムをそのTg+5℃で3分間予熱した後、当該温度にて延伸倍率が2倍となるように自由端一軸延伸した。
【0186】
このようにして得た位相差フィルムの屈折率異方性を評価したところ、Re(447)は100.8nm、Re(590)は109.2nmであり、Re(447)/Re(590)は0.92であった。また、未延伸フィルムのはさみカット性は×であった。
【0187】
(比較例3)
重合体(A−1)のペレット76部と、製造例5で作製したグラフトゴム(B−3)24部とする以外は実施例1と同様にして樹脂組成物(C−7)を形成した。
【0188】
次に、形成した樹脂組成物(C−7)を、240℃、30MPaで5分間溶融プレス成形して、厚さ140μmの未延伸フィルム(原反フィルム)を作製した。作製した原反フィルムのTgは128℃であった。当該フィルムをそのTg+5℃で3分間予熱した後、当該温度にて延伸倍率が2倍となるように自由端一軸延伸した。
【0189】
このようにして得た位相差フィルムの屈折率異方性を評価したところ、Re(447)は199.0nm、Re(590)は199.0nmであり、Re(447)/Re(590)は1.00であった。また、未延伸フィルムのはさみカット性は○であった。
【0190】
(比較例4)
重合体(A−2)のペレットを、240℃、30MPaで5分間溶融プレス成形して、厚さ140μmの未延伸フィルム(原反フィルム)を作製した。作製した原反フィルムのTgは126℃であった。当該フィルムをそのTg+5℃で3分間予熱した後、当該温度にて延伸倍率が2倍となるように自由端一軸延伸した。
【0191】
このようにして得た位相差フィルムの屈折率異方性を評価したところ、Re(447)は303.2nm、Re(590)は297.3nmであり、Re(447)/Re(590)は1.02であった。また、未延伸フィルムのはさみカット性は×であった。
【0192】
(比較例5)
重合体(A−2)のペレット76部と、製造例5で作製したグラフトゴム(B−3)24部とする以外は実施例1と同様にして樹脂組成物(C−8)を形成した。
【0193】
次に、形成した樹脂組成物(C−8)を、240℃、30MPaで5分間溶融プレス成形して、厚さ140μmの未延伸フィルム(原反フィルム)を作製した。作製した原反フィルムのTgは125℃であった。当該フィルムをそのTg+5℃で3分間予熱した後、当該温度にて延伸倍率が2倍となるように自由端一軸延伸した。
【0194】
このようにして得た位相差フィルムの屈折率異方性を評価したところ、Re(447)は364.8nm、Re(590)は352.4nmであり、Re(447)/Re(590)は1.04であった。また、未延伸フィルムのはさみカット性は○であった。
【0195】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0196】
本発明の位相差フィルムは、従来の複屈折性を有する光学フィルムと同様に、液晶表示装置(LCD)、有機電界発光表示装置(OLED)をはじめとする画像表示装置に広く使用できる。また、本発明の位相差フィルムの使用により、画像表示装置の表示特性が向上する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム質重合体にグラフト部を有し、複素芳香族ビニル単量体を構成単位として含むグラフトゴム(B)を5〜50質量%含む樹脂(A)からなる層を有する、Re(447)/Re(590)が0.60〜0.99である波長分散性を示す位相差フィルム。
[フィルム面内の遅相軸方向の屈折率をnx、フィルム面内の進相軸方向の屈折率をny、フィルムの厚さをdとしたときに、面内位相差はRe=(nx−ny)×dで表され、Re(447)は、波長447nmにおける面内位相差、Re(590)は、波長590nmにおける面内位相差を表す]
【請求項2】
前記ゴム質重合体が、共役ジエン単量体を重合して構築される共役ジエン単量体構造単位を含む請求項1に記載の位相差フィルム。
【請求項3】
前記樹脂(A)が、環状オレフィン重合体、スチレン重合体、ポリエステル、アクリル重合体、ポリカーボネートまたは、セルロースアシレートを50〜95質量%含む請求項1または2に記載の位相差フィルム。
【請求項4】
前記アクリル重合体が主鎖に環構造を有する請求項3記載の位相差フィルム。
【請求項5】
前記環構造が、無水マレイン酸構造、マレイミド構造、無水グルタル酸構造、グルタルイミド構造または、ラクトン環構造である請求項4記載の位相差フィルム。
【請求項6】
請求項1〜5に記載の位相差フィルムを有する楕円偏光板。
【請求項7】
請求項1〜5に記載の位相差フィルムを有する画像表示装置。