説明

低分子化合物とアルギニンとを含有するウイルス不活化用組成物

【課題】ヒトや動物の皮膚や粘膜組織を障害することなく、生体の表層で増殖するウイルスを高度に不活化し、あるいは基材の表面等に残存するウイルスを簡便に不活化するための組成物を提供すること。
【解決手段】(A)0.02〜0.3Mのアルギニンと、
(B)以下の(B-1)〜(B-3)のいずれかとを含有し、pHが3.8〜5.5であることを特徴とするウイルス不活化用組成物:
(B-1)0.01〜10 mMのフラボノイド類、ポリフェノール類又はアスコルビン酸誘導体、
(B-2)0.005〜0.5質量%のアルギニン誘導体、及び
(B-3)0.1〜2.5質量%の天然物の抽出液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルギニンと特定の低分子化合物とを特定濃度で含有するウイルス不活化用組成物に関する。詳しくは、ヒトや動物の皮膚や粘膜組織に存在するウイルスを、従来の殺菌消毒剤のように炎症性の障害を与える心配なく、高度に不活化可能なウイルス不活化用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトや動物に大規模な感染を引き起こし、重篤な症状や経済的な打撃を与えるウイルス感染症を抑制するには、医師により処方された抗ウイルス剤による治療だけでなく、一般市民が容易にかつ安価に入手できる製品を用いて、自ら主体的に、安全に感染予防をはかることが重要である(非特許文献1)。
インフルエンザウイルス、ヘルペスウイルス、HIVなど、ウイルスの感染力が強いにも関わらず、ウイルス自体は比較的容易に不活化され得る場合、特にこの自主的な感染予防対策が有効となる。このような考えに基づき、アフリカ諸国のHIV感染リスクの高い人々に対し、界面活性剤を主成分とした処方箋不要の安価な消毒剤を用いるHIV感染抑制臨床研究が複数例実施されたが、一時的なウイルス不活化効果は確認されたものの、被験者の粘膜組織に炎症を生じたことから、HIV感染を逆に高めてしまうという、悲劇的な結果を招いた(非特許文献2〜4)。
界面活性剤は一般に、ウイルスを高度に不活化できるが、界面活性剤の持つ組織障害性は生体の免疫応答を誘導する傾向があるため、粘膜組織上でウイルスが増殖する疾患の場合には、その適用は極めて限定される。
【0003】
一方、欧米諸国でも、食酢やレモンジュース、ライムジュースなどの身近な酸性製品を用いてウイルスを不活化し、感染症を手軽に予防できると従来から信じられてきたが、最近、その効果と安全性を検証する臨床試験が実施され、それらには感染症の予防効果が殆どなく、むしろ新たな感染症や急性の障害を起こすなどの副作用が顕著であるとわかった(非特許文献5、6)。従来から安全な特効薬と信じられてきたが、乳酸菌(lactobacilli)を感染局所に投与し、乳酸菌の産生するペプチド性因子や酸性pHを利用して粘膜組織の防御効果を高める療法についても、乳酸菌に混在する病原性微生物による感染症を起こす、あるいは、乳酸菌がHIVの増殖を促進する生体由来因子を活性化させるなど、予想外の危険性があるとわかってきた(非特許文献6)。生体が乳酸菌フローラを活用するように、酸性pH環境を用いて粘膜組織をウイルスや微生物感染から守るべく、酸性緩衝剤を含むゲルを局所に投与して酸性環境をより強く安定して保つ試みが、HIV感染予防を目的とした臨床研究において複数例進行中である(非特許文献7)。
いわゆる生体防御機構の促進剤(mucosal environment protection enhancer)を目指す例だが、この酸性緩衝剤ゲルが本当に酸性pHに基づいてウイルスを不活化するのか、現段階でも結論は得られていない。このゲルの場合、酸性pHは実際には機能せず、ゲルの物理障壁が有効だと結論付ける報告もある(非特許文献8)。
【0004】
一方、漢方療法では、ある種の植物や動物由来の天然物がウイルスを高度に不活化する、あるいはウイルス感染した細胞や組織中でのウイルス増殖を高度に抑制する、などが多数知られており、ウイルス不活化天然物を探索する試みは今でも盛んである(非特許文献9)。
しかし、天然物由来であっても、ウイルスに対する不活化効果と生体に対する安全性の両立する成分を見出すことは容易ではない。さらに、多くの場合はそれら活性天然物の作用機構が判然とせず、そのことが天然物由来成分の感染症治療薬、あるいは感染抑制剤としての開発を難しくしている(非特許文献9)。
他方、生体構成アミノ酸の一種であるアルギニンは、アミノ酸ゆえに生体にとって極めて安全な成分でありながら、その濃度とpHとを適切に調整することで、高度なウイルス不活化効果を発揮することがわかっている(特許文献1、非特許文献10、11)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−263231号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Annu. Rev. Pharmacol. Toxicol. 49, 349-375 (2009)
【非特許文献2】BMC Infectious Disease 6: 90 (2006)
【非特許文献3】Lancet Infectious Disease 8, 685-697 (2008)
【非特許文献4】Journal of Antimicrobial Chemotherapy 55, 420-423 (2005)
【非特許文献5】Journal of Woman's Health 16, 1041-1051 (2007)
【非特許文献6】Sexual Health 33, 73-79 (2004)
【非特許文献7】Clinical Infectious Disease 32, 476-482 (2001)
【非特許文献8】Sexually Transmitted Diseases 29, 655-664 (2002)
【非特許文献9】Virologica Sinica 23, 305-314 (2008)
【非特許文献10】Journal of Pharmaceutical Sciences, 97, 3067-3073 (2008)
【非特許文献11】International Journal of Pharmaceutics 361, 92-98 (2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ヒトや動物の皮膚や粘膜組織を障害することなく、生体の表層で増殖するウイルスを高度に不活化し、あるいは基材の表面等に残存するウイルスを簡便に不活化するための組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが鋭意検討した結果、ポリフェノール、フラボノイド、アスコルビン酸類などの良く知られた低分子化合物類、アルギニン誘導体又は天然物の抽出液とアルギニンとを組み合わせ、特定pHと特定濃度にすることで、上記目的を達成し得ることを見出した。
すなわち、本発明は、(A)0.02〜0.3Mのアルギニンと、
(B)以下の(B-1)〜(B-3)のいずれかとを含有し、pHが3.8〜5.5であることを特徴とするウイルス不活化用組成物を提供する:
(B-1)0.01〜10 mMのフラボノイド類、ポリフェノール類又はアスコルビン酸誘導体、
(B-2)0.005〜5質量%のアルギニン誘導体、及び
(B-3)0.1〜2.5質量%の天然物の抽出液。
本発明はまた、
(A)0.02〜0.3Mのアルギニンと、
(B)以下の(B-1)〜(B-3)のいずれかとを含有し、pHが3.8〜5.5であることを特徴とするウイルス不活化用組成物:
(B-1)0.01〜10 mMのフラボノイド類、ポリフェノール類又はアスコルビン酸誘導体、
(B-2)0.005〜5質量%のアルギニン誘導体、及び
(B-3)0.1〜2.5質量%の天然物の抽出液
を、ウイルスに接触させる工程を含む、ウイルス不活化方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、各成分を希薄な濃度に制限することで、各成分は生体に対する強い生理作用を示さず、組織障害性などの副作用の心配はなく、ウイルスを効果的に不活化できる。本発明によれば、ヒトや動物に障害を与えることなく、生体の表層で増殖するウイルスを不活化できる。本発明によればまた、生体に触れる可能性のある基材表面に残留したウイルスや、植物の組織等の固体表面に存在するウイルス、液剤やシロップ剤等の薬剤や液状の食品、例えば清涼飲料水やマヨネーズといった液体中に存在するウイルス、又は空気等の気体中に存在するウイルスを、その周辺の生体や個体の特性に悪影響を与えることなく、短時間に不活化することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の組成物は、(A)アルギニンと、(B)(B-1)フラボノイド類、ポリフェノール類又はアスコルビン酸誘導体、(B-2)アルギニン誘導体、又は(B-3)天然物の抽出液のいずれかとを特定量含有する。(B)としては(B-3)天然物の抽出液が好ましい。
【0011】
(A)アルギニン
本発明のウイルス不活化用組成物中のアルギニンの濃度は、0.02 M以上であればウイルス不活化に有効であるが、ウイルス不活化の有効性と経済性とから上限は0.3Mとする。好ましくは0.03〜0.25 M、更に好ましくは0.05〜0.2 Mである。
アルギニンはL-体、D-体のいずれも使用できる。アルギニンはまた酸付加塩の形態で使用することもできる。酸付加塩を形成し得る酸としては、塩酸、硫酸等があげられる。
【0012】
(B-1)フラボノイド類、ポリフェノール類又はアスコルビン酸誘導体
本発明のウイルス不活化用組成物中のポリフェノール類、フラボノイド類又はアスコルビン酸誘導体の濃度は、生体への刺激性や細胞毒性などの好ましくない作用を発揮する心配の無い程度の低濃度に留められる。具体的には、0.01〜10 mM、好ましくは0.02〜5 mM、より好ましくは0.05〜1 mMである。なお、ポリフェノール類はフラボノイド類を含む概念であることから、本発明において、ポリフェノール類とは、フラボノイド類以外のポリフェノール類をいう。
フラボノイド類、ポリフェノール類及びアスコルビン酸誘導体は生体への利用実績が豊富であり、医薬品、医薬品添加剤、医薬部外品添加剤、あるいは食品添加剤として承認されているものも多いが、本発明で使用可能なものとしては以下のものがあげられる。
フラボノイド類としては、(-)エピカテキンガレート、(-)エピガロカテキンガレート、(-)エピガロカテキン、(-)エピカテキン、(-)ガロカテキンガレート、などである。(-)エピカテキンガレート、(-)エピガロカテキンガレートが好ましい。
ポリフェノール類としては、カフェ酸、カフェ酸フェネチルエステル、タンニン、セサミン、セサミノール及びこれらと塩基との塩等があげられる。塩を形成する塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等があげられる。カフェ酸、カフェ酸フェネチルエステルが好ましい。
アスコルビン酸誘導体としては、デヒドロアスコルビン酸、リン酸-アスコルビン酸、アスコルビン酸グルコシド、ステアリン酸アスコビルやアスコルビン酸-2リン酸-6パルミチン酸のようなエステル類、及びこれらと塩基との塩等があげられる。塩を形成する塩基としては、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等があげられる。デヒドロアスコルビン酸が好ましい。
【0013】
(B-2)アルギニン誘導体
本発明のウイルス不活化用組成物中のアルギニン誘導体の濃度は、0.005〜5%である。該誘導体が界面活性効果を有する場合は、0.005 %以上であれば有効である。しかし、不必要に高濃度で用いると刺激性を発揮する可能性があることから、0.005〜0.5 %、好ましくは0.0075〜0.25 %、更に好ましくは0.01〜0.1 %である。該誘導体が界面活性効果を有さない場合は、好ましくは0.2〜5%、より好ましくは0.5〜3%である。
アルギニン誘導体の中には、医薬品、医薬品添加剤、食品添加剤、あるいは香粧品原料として承認されているものも多いが、本発明で使用可能なアルギニン誘導体としては炭素数8〜16個のアシル鎖を持つアシルアルギニン及びこれらと酸又は塩基との塩等があげられる。塩を形成する酸としては、塩酸等があげられる。塩を形成する塩基としては、水酸化ナトリウム等があげられる。炭素数8〜16個のアシル鎖を持つアシルアルギニンの具体例としては、ココイルアルギニンエチルエステル、ラウロイルアルギニンエチルエステル等があげられる。ココイルアルギニンエチルエステル、ラウロイルアルギニンエチルエステルが好ましい。
【0014】
(B-3)天然物の抽出液
天然物の抽出液の中には、上記(B-1)の少なくとも一成分を含有するものがある。このような天然物の抽出液も本発明において使用できる。例えば、緑茶抽出液にはフラボノイド類、すなわち、カテキン類が高濃度に含まれることがわかっており、エピガロカテキンガレート、エピカテキンガレート、エピガロカテキン、エピカテキンの4種類で代表される主要カテキン類の含量は約0.3 %との報告がある(FFI Reports、2010年2月25日アクセス:www.saneigenffi.co.jp/foods/img1/catechin.pdf)。緑茶抽出液を添加する場合は、本発明のウイルス不活化用組成物中の天然物の抽出液の含量を0.1〜2.5 %に、好ましくは0.2〜1.5 %に、更に好ましくは0.4〜1.2 %に調整する。これは、本発明の組成物中の主要カテキン類の含量に換算すると、0.0003 %〜0.0075 %となり、モル濃度では0.007〜0.175 mMという濃度に相当する。この濃度は(B-1)に関して上で説明した濃度よりも低い。これは、如何なる理論にも制限されるものではないが、天然物の抽出液には、主要カテキン類に加えて、その他のカテキン類、カテキン以外のポリフェノール類、アスコルビン酸類などが含まれており、主要カテキン類と相まって、更に強い効果を発揮することが期待されるためである。
【0015】
天然物の抽出液としては、各種の植物抽出エキスや精油類を配合可能である。植物抽出エキスとしては、緑茶エキス、紅茶エキス、茶エキス、ドクダミエキス、オウバクエキス、メリロートエキス、オドリコソウエキス、カンゾウエキス、シャクヤクエキス、サボンソウエキス、ヘチマエキス、キナエキス、ユキノシタエキス、クララエキス、コウホネエキス、ウイキョウエキス、サクラソウエキス、バラエキス、ジオウエキス、レモンエキス、シコンエキス、アロエエキス、ショウブ根エキス、ユーカリエキス、スギナエキス、セージエキス、タイムエキス、海藻エキス、キューカンバーエキス、チョウジエキス、キイチゴエキス、メリッサエキス、ニンジンエキス、カロットエキス、マロニエエキス、モモエキス、桃葉エキス、クワエキス、ヤグルマギクエキス、ハマメリス抽出液、シルク抽出液、ノコギリソウエキス、ホツプエキス、ローズマリーエキス、トウヒエキス、チンピエキス、オトギリソウエキス、ユズエキス、ダイダイエキス、サイカチエキス、ビワエキス、スイカズラエキス、ヨロイグサエキス、ボダイジユエキス、マロニエエキス、ヨモギエキス、カミツレエキス、ケイヒエキス等が挙げられる。
【0016】
精油としては、ハツカ油、ジヤスミン油、シヨウ脳油、ヒノキ油、トウヒ油、リユウ油、テレピン油、ケイ皮油、ベルガモツト油、ミカン油、シヨウブ油、パイン油、ラベンダー油、ベイ油、クローブ油、ヒバ油、バラ油、ユーカリ油、レモン油、タイム油、ペパーミント油、セージ油、メントール、シネオール、オイゲノール、シトラール、シトロネラール、ボルネオール、リナロール、ゲラニオール、カンフアー、チモール、スピラントール、ピネン、リモネン、テレペン系化合物等が挙げられる。
【0017】
天然物の抽出液としては、緑茶抽出液が好ましい。緑茶抽出液は、例えば、緑茶の茶葉6 gを90 ℃の熱水中に5分間浸漬した後、茶葉を除くことにより得られるものを使用できる。あるいは、茶葉を30〜50 容量%のエタノールで抽出し、同様に茶葉を除くことにより得られるものを使用できる。このようにして得られた緑茶抽出液は、上記主要カテキン類を約0.3 %含有する。
【0018】
本発明のウイルス不活化用組成物のpH(25℃)は、適切な緩衝液成分を用いて、3.8〜5.5に、好ましくは3.9〜5.3に、更に好ましくは4.0〜4.8である。アルギニン誘導体が界面活性作用を有する場合は、刺激性を伴わずにウイルス不活化効果を発揮し得るpH域を微酸性からpH 5.5を超える中性pHにまで調整できる。しかし、アルギニン誘導体がより低濃度で有効性を発揮するために、pH 5.5以下に調整するのが望ましい。
pH調整に用いる緩衝液成分としては、乳酸、乳酸ナトリウム、クエン酸、クエン酸ナトリウム、グリコール酸、コハク酸、酒石酸、dl−リンゴ酸、ホウ酸、ホウ砂、リン酸水素ナトリウム、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、2−アミノ−2−メチル−1,3−プロパンジオール、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリエタノールアミン、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素アンモニウム等などが挙げられる。緩衝液成分は、沈殿物を形成しないように、CaやMgを含まないのが良い。
【0019】
本発明のウイルス不活化用組成物は、一般的に医薬品、医薬部外品、化粧品、食品に使用が認められた成分を、本発明の効果を損なわない範囲で含むことができる。このような成分として、防腐殺菌剤、抗炎症剤、保湿剤、酸化防止剤、キレート剤等があげられる。
【0020】
防腐殺菌剤としてはフェノキシエタノール、ビサボロール、安息香酸、サリチル酸、石炭酸、ソルビン酸、パラオキシ安息香酸エステル、パラクロルメタクレゾール、ヘキサクロロフェン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化クロルヘキシジン、トリクロロカルバニリド、トリクロサン、イソプロピルメチルフェノール、感光素等などが挙げられる。
【0021】
抗炎症剤としては、グアイアズレン、グアイアズレンスルホン酸ナトリウム、グアイアズレンスルホン酸エチル、グリチルレチン酸、グリチルレチン酸グリセリン、グリチルレチン酸ステアリル、グリチルレチン酸ピリドキシン、ステアリン酸グリチルレチニル、3-サクシニルオキシグリチルレチン酸二ナトリウム、グリチルリチン酸、グリチルリチン酸モノアンモニウム、グリチルリチン酸ジカリウム、グリチルリチン酸三ナトリウム、アラントイン、アミノカプロン酸、塩化リゾチームなどが挙げられる。
【0022】
保湿剤としては、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ペンタンジオール、ヘキシレングリコール、オクタンジオール、エリスリトール、キシリトール、マルチトール、マルトース、マンニット、水アメ、ブドウ糖、果糖、乳糖、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム、アデノシンリン酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、胆汁酸塩、ピロリドンカルボン酸塩、グルコサミン、シクロデキストリン、トレハロースなどが挙げられる。
【0023】
また保湿剤としてアミノ酸とその誘導体が挙げられる。具体的には、グリシン、セリン、スレオニン、フェニルアラニン、システイン、メチオニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、ヒスチジン、アルギニン、プロリンなどの脂肪族、芳香族の中性・酸性・塩基性アミノ酸であり、これらは塩になっているものでもよく、そのような塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、トリエタノールアミン塩などが挙げられる。アミノ酸の誘導体としては、例えば、アセチルグルタミン酸、アセチルメチオニン、アセチルシステイン、N,N' -ジアセチル-L-シスチンジメチルエステル、ピロリドンカルボン酸ナトリウム塩などが挙げられる。
酸化防止剤としては、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、没食子酸プロピル、アスコルビン酸などが挙げられる。
キレート剤としては、エデト酸二ナトリウム、エタンヒドロキシジホスフエート、ピロリン酸塩、ヘキサメタリン酸塩、クエン酸、酒石酸、グルコン酸等が挙げられる。
【0024】
本発明のウイルス不活化用組成物はまた、油脂類や乳化剤や高分子類も製剤上必要な範囲で含有できる。
油脂類としては、液状油剤として、メドフォーム剤、マカデミナナッツ油、ツバキ油、トウモロコシ油、ミンク油、オリーブ油、アボガド油、サザンカ油、ヒマシ油、サフラワー油、キョウニン油、ホホバ油、ブドウ油、ヒマワリ油、アルモンド油、ナタネ油、ゴマ油、小麦胚芽油、米胚芽油、米ヌカ油、綿実油、大豆油、落花生油、茶実油、月見草油、卵黄油、トリグリセリン、トリオクタン酸グリセリン、トリイソパルミチン酸グリセリンなどが挙げられる。固形油剤として、セタノール、セトステアリルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、カカオ脂、ヤシ油、パーム油、パーム核油、硬化油、硬化ヒマシ油、モクロウ、シアバターなどが挙げられる。
【0025】
ロウ類としては、ミツロウ、キャンデリラロウ、綿ロウ、カルナウバロウ、鯨ロウ、ヌカロウ、ラノリン、還元ラノリン、硬質ラノリン、ホホバロウ、セラックロウなどが挙げられる。
エステル油類としては、オクタン酸セチルなどのオクタン酸エステル、ラウリン酸ヘキシルなどのラウリン酸エステル、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸オクチルドデシルなどのミリスチン酸エステル、パルミチン酸オクチルなどのパルミチン酸エステル、ステアリン酸イソセチルなどのステアリン酸エステル、イソステアリン酸イソプロピルなどのイソステアリン酸エステル、イソパルミチン酸オクチルなどのイソパルミチン酸エステル、オレイン酸イソデシルなどのオレイン酸エステルなどが挙げられる。
炭化水素油としては、流動パラフィン、オゾケライト、スクワラン、パラフィン、イソパラフィン、セレシン、ワセリン、マイクロクリスタリンワックスなどが挙げられる。
シリコーン油としては、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサンなどの鎖状シリコーン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサンなどの環状シリコーンなどが挙げられる。
ステロールとしては、コレステロール、シトステロール、フィトステロール、ラノステロールなどが挙げられる。
【0026】
乳化剤としては、例えば、POEソルビタンモノオレエート、POEソルビタンモノステアレート、POEソルビタンモノオレート、POEソルビタンテトラオレエートなどのPOEソルビタン脂肪酸エステル類、POEソルビットモノラウレート、POEソルビットモノオレエート、POEソルビットペンタオレエート、POEソルビットモノステアレートなどのPOEソルビット脂肪酸エステル類、POEグリセリンモノステアレート、POEグリセリンモノイソステアレート、POEグリセリントリイソステアレートなどのPOEグリセリン脂肪酸エステル類、POEモノオレエート、POEジステアレート、POEモノジオレエート、ジステアリン酸エチレングリコールなどのPOE脂肪酸エステル類、POEラウリルエーテル、POEオレイルエーテル、POEステアリルエーテル、POEベヘニルエーテル、POE2オクチルドデシルエーテル、POEコレスタノールエーテルなどのPOEアルキルエーテル類、POEオクチルフェニルエーテル、POEノニルフェニルエーテル、POEジノニルフェニルエーテルなどのPOEアルキルフェニルエーテル類、プルロニックなどのプロアロニック型類、POE・POPセチルエーテル、POE・POP2デシルテトラデシルエーテル、POE・POPモノブチルエーテル、POE・POP水添ラノリン、POE・POPグリセリンエーテルなどのPOE・POPアルキルエーテル類、POEヒマシ油、POE硬化ヒマシ油、POE硬化ヒマシ油モノイソステアレート、POE硬化ヒマシ油トリイソステアレート、POE硬化ヒマシ油モノピログルタミン酸モノイソステアリン酸ジエステル、POE硬化ヒマシ油マレイン酸などのPOEヒマシ油硬化ヒマシ油誘導体、POEソルビットミツロウなどのPOEミツロウ・ラノリン誘導体、ショ糖脂肪酸エステル、トリオレイルリン酸などが挙げられる。
【0027】
高分子類としては、水溶性高分子であるアラビアゴム、グァーガム、カラヤガム、カラギーナン、ペクチン、クインスシード(マルメロ)、デンプン(コメ、トウモロコシ、バイレショ、コムギ)、アルゲコロイド(褐藻エキス)などの植物系高分子、デキストラン、サクシノグルカン、プルランなどの微生物系高分子、コラーゲン、カゼイン、アルブミン、ゼラチンなどの動物系高分子、カルボキシメチルデンプン、メチルヒドロキシプロピルデンプンなどのデンプン系高分子、メチルセルロース、ニトロセルロース、エチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、セルロース硫酸ナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、結晶セルロース、セルロース末などのセルロース系高分子、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステルなどのアルギン酸系高分子、カルボキシビニルポリマー、アルキル変性カルボキビニルポリマーなどのビニル系高分子、ポリオキシエチレン系高分子、ポリオキエチレンポリオキシプロピレン共重合体系高分子、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチルアクリレート、ポリアクリルアミドなどのアクリル系高分子、ベントナイト、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、ラポナイト、ヘクトライト、無水ケイ酸などの無機系水溶性高分子などが挙げられる。
本発明のウイルス不活化用組成物はさらに、必要に応じて、適当な香料、色素等を、透明性や安定性を損なわない範囲で含むことができる。
【0028】
本発明のウイルス不活化用組成物は、噴霧容器に収納して噴霧したり、刷毛等を使用して塗布したり、不織布に浸して適用対象部位に湿布したり、上記組成物を浸した不織布をマスクと着用者との間に挟んだりして、ウイルスが含まれている固体対象物に接触させることができる。本発明のウイルス不活化用組成物を、ウイルスを含む可能性のある液体に接触させる場合、必要により、本発明の組成物と該液体とを攪拌ないし混合する。攪拌ないし混合手段は特に限定されない。液体が油脂等の油性物質の場合、上記組成物と液体とを十分に接触させるために、乳化剤等を添加してもよい。乳化剤は上に記載したとおりである。
【0029】
本発明により、不活化する対象のウイルスとしては特に限定されず、例えば、インフルエンザウイルス、ヘルペスウイルス、ライノウイルス、コロナウイルスがあげられる。本発明は、特に脂質エンベロップを有するウイルスに対して強い効果を発揮する。
なお、本明細書において、特に記載の無い限り、「%」は、本発明のウイルス不活化用組成物の全質量を基準とした質量%を意味する。
【実施例1】
【0030】
ポリフェノール性低分子化合物(カフェ酸)とアルギニンとを共存させることによるウイルス不活化効果の増進
0.5 % ウシ胎児血清を添加したMEM培地(Eagle's minimum essential medium)中で、Vero細胞を用いてHerpes simplex virus type 1, strain F(HSV-1)を増殖させ、濃いウイルス液を調製した。該ウイルス液は、使用するまで-80 ℃で保管した。該ウイルス溶液のウイルス濃度は、約108 PFU (Plaque Forming Units)/mlであった。
一方、カフェ酸(シグマアルドリッチ製)及びアルギニンを用い、表1に示す種々の濃度のサンプル溶液を調製した。サンプル溶液は全て、20 mM酢酸ナトリウム緩衝液でpH 4.0(25℃)に調整した。
【0031】
氷冷下、各サンプル溶液190 μlを、1.5 ml用プラスチックチューブ(アシストチューブ)に採取した。ここへ、上で調製したHSV-1ウイルスのサンプル溶液10μlを添加し、直ちに攪拌混合してウイルス不活化反応を開始させた。その後、30 ℃で5分間保温した。保温終了後、1 %ウシ血清を含むダルベッコ等張リン酸緩衝液(Ca、Mg不含)で100倍希釈してpHを中和し、ウイルス不活化反応を停止させた。この反応液を、1 %ウシ血清を含むダルベッコ等張リン酸緩衝液(Ca、Mg不含)で適宜希釈し、Plaque Assay(Virus Res. 13, 271-282 (1989))を用いて感染力を有するウイルス量(残存ウイルス量)を測定した。
これと同時に、同じウイルス液10μlを、ダルベッコ等張リン酸緩衝液(Ca、Mg不含)190μlに添加し、30℃で5分間保温した。保温終了後、前記Plaque Assayを用いて感染力を有するウイルス量を測定した。これをウイルス不活化反応が進行しなかった場合のウイルス量、すなわち、不活化前のウイルス量とした。
【0032】
0.1 mMカフェ酸単独で不活化したときの残存ウイルス量は、不活化前のウイルス量の0.3 %に低下した。その他の各サンプル溶液による不活化効率を、この0.1 mMカフェ酸単独による不活化効率に対する相対値で示した。結果を表1に示す。
0.1、0.5、1.0 mMのカフェ酸のみを添加した各サンプル溶液の場合、不活化効率は1〜1.4倍にとどまり、カフェ酸には濃度依存的な不活化効率の上昇は認められなかった。
一方、0.2 Mアルギニンを各サンプル溶液に共存させると、カフェ酸の添加濃度依存的に不活化効率は上昇し、1 mMでは最初の7.8倍に達した。すなわち、アルギニンとカフェ酸が共存して初めて、カフェ酸は濃度依存的にウイルスを不活化することがわかった。
【0033】
【表1】

【実施例2】
【0034】
ポリフェノール性低分子化合物(カフェ酸フェネチルエステル)とアルギニンとを共存させることによるウイルス不活化効果の増進
カフェ酸をカフェ酸フェネチルエステル(シグマアルドリッチ製)に変更し、濃度を表2に記載のものに変更したこと以外は実施例1と同様にして、各サンプル溶液のウイルス不活化効率を測定した。各サンプル溶液の不活化効率を、0.01 mMカフェ酸フェネチルエステル単独での不活化効率に対する相対値で示した。結果を表2に示す。
0.01 mMカフェ酸フェネチルエステル単独で不活化したときの残存ウイルス量は、不活化前の0.3 %に低下した。カフェ酸フェネチルエステルのみの濃度を0.1 mMまで上昇させても、不活化効率はまったく変化しなかった。
一方、0.2 Mアルギニンを各サンプル溶液に共存させたとき、カフェ酸フェネチルエステルの添加濃度依存的に不活化効率は上昇し、0.1 mMでは最初の243倍を越える高値にまで達した。すなわち、アルギニンとカフェ酸フェネチルエステルが共存して初めて、カフェ酸フェネチルエステルは濃度依存的にウイルスを不活化することがわかった。
【0035】
【表2】

【実施例3】
【0036】
アスコルビン酸誘導体とアルギニンとを共存させるによるウイルス不活化効果の増進
カフェ酸をデヒドロアスコルビン酸(和光純薬製)に変更し、濃度を表3に記載のものに変更したこと以外は実施例1と同様にして、各サンプル溶液のウイルス不活化効率を測定した。各サンプル溶液の不活化効率を、0.1 mMデヒドロアスコルビン酸単独での不活化効率に対する相対値で示した。結果を表3に示す。
0.1 mMデヒドロアスコルビン酸単独で不活化したときの残存ウイルス量は、不活化前の7.3 %に低下した。デヒドロアスコルビン酸の濃度を10 mMまで上昇させても、不活化効率はまったく変化しなかった。
一方、0.2 Mアルギニンを各サンプル溶液に共存させたとき、デヒドロアスコルビン酸の添加濃度依存的に不活化効率が上昇し、10 mMでは最初の7200倍を越える高値にまで達した。すなわち、アルギニンとデヒドロアスコルビン酸が共存して初めて、デヒドロアスコルビン酸は濃度依存的にウイルスを不活化することがわかった。
【0037】
【表3】

【実施例4】
【0038】
カテキン類とアルギニンとを共存させることによるウイルス不活化効果の増進
カフェ酸を、(-)エピカテキンガレート又は(-)エピガロカテキンガレート(いずれも和光純薬製)に変更し、濃度を表4に記載のものに変更したこと以外は実施例1と同様にして、各サンプル溶液のウイルス不活化効率を測定した。各サンプル溶液の不活化効率を、0.1 mM(-)エピカテキンガレート又は(-)エピガロカテキンガレート単独での不活化効率に対する相対値で示した。結果を表4に示す。
0.1 mM(-)エピカテキンガレート又は(-)エピガロカテキンガレート単独で不活化したときの残存ウイルス量は、ぞれぞれ、不活化前の0.04 %、0.02 %に低下した。(-)エピカテキンガレートの濃度を0.5 mMに上昇させると、不活化効率は最初の27倍に、(-)エピガロカテキンガレートの濃度を0.5 mMに上昇させると、不活化効率は最初の268倍に、それぞれ上昇した。
一方、0.2 Mアルギニンを各サンプル溶液に共存させたとき、不活化効率は、アルギニン無添加の場合の不活化効率の59倍に上昇し、更に0.5 mMでは最初の6408倍を越える高値に達した。また、(-)エピガロカテキンガレートについても、0.2 Mアルギニンを共存させると、0.1 mM(-)エピガロカテキンガレートの不活化効率は12倍に上昇し、更に0.5 mMでは最初の2650倍を越える高値に達した。すなわち、アルギニンを共存させることにより、カテキン類の不活化効果を劇的に上昇させることがわかった。
【0039】
【表4】

【実施例5】
【0040】
緑茶抽出液とアルギニンとを共存させることによるウイルス不活化効果の増進
0.1 % ウシ血清アルブミンおよび4 μg/ml アセチル化トリプシンを添加したMEM培地(Eagle's minimum essential medium)中で、MDCK細胞を用い、Influenza virus A/Aichi (H3N2)を増殖させ、濃いウイルス溶液を調製した。該ウイルス溶液は、使用するまで-80 ℃で保管した。該ウイルス溶液のウイルス濃度は、約108 PFU (Plaque Forming Units) /mlであった。
【0041】
一方、市販の緑茶抽出液(丸善製薬株式会社製、ロット番号9095671J1)を、pH 4.0の20 mM酢酸ナトリウム緩衝液で20倍希釈してpH 4.0(25℃)に調整した。この緑茶抽出希釈液を、10 mMクエン酸ナトリウム緩衝液で更に希釈し、緑茶抽出希釈液の最終的な濃度を0.1〜2.5 %に調整した。
このようにして得られた種々の濃度緑茶抽出希釈液のpHを4.2又は4.8に調整し、アルギニン無添加のサンプル溶液とした。
同時に、上で得られた種々の濃度緑茶抽出希釈液にアルギニンを添加して0.115 Mとした後に、pHを4.2又は4.8(25℃)に調整し、アルギニンを添加したサンプル溶液とした。
【0042】
氷冷下、各サンプル溶液190 μlを、1.5 ml用プラスチックチューブ(アシストチューブ)に採取した。ここへ、上で調製したInfluenza virus A液 10μlを添加、直ちに攪拌混合してウイルス不活化反応を開始させた後、30 ℃で5分間保温した。保温終了後、0.1 %ウシ血清アルブミンを含むダルベッコ等張リン酸緩衝液(Ca、Mg不含)で100倍希釈してpHを中和し、ウイルス不活化反応を停止させた。この反応液を、0.1 %ウシ血清アルブミンを含むダルベッコ等張リン酸緩衝液(Ca、Mg不含)で適宜希釈し、MDCK細胞を用いるPlaque Assay(Intern. J. Mol. Med. 3, 527-530 (1999))と同様にPlaque Assayを用いて感染力を有するウイルス量(残存ウイルス量)を定量した。
これと同時に、同じウイルス溶液10μlを、ダルベッコ等張リン酸緩衝液(Ca、Mg不含)190μlに添加し、30℃で5分間保温した。保温終了後、前記Plaque Assayを用いて感染力を有するウイルス量を測定した。これをウイルス不活化反応が進行しなかった場合のウイルス量、すなわち、不活化前のウイルス残存量とした。
【0043】
0.1 %緑茶抽出液単独で不活化したときの残存ウイルス量は、不活化前の0.1 %(pH 4.2)、あるいは1.5 %(pH 4.8)に低下した。その他のサンプル溶液のウイルス不活化効率を、これらの不活化効率に対する相対値として示した。結果を表5に示す。
pH 4.2、4.8のいずれにおいても、0.1〜2.5 %緑茶抽出液単独では、インフルエンザウイルス不活化効率の濃度依存的な上昇は明瞭には観察されなかった。
0.115 Mアルギニンを共存させると、緑茶抽出液濃度、0.1〜2.5 %において、pH 4.2では最初の3〜9倍に、pH 4.8では最初の1.27〜3.28倍に達した。すなわち、アルギニンの共存は緑茶抽出液のインフルエンザ不活化効果を上昇させることがわかった。
【0044】
【表5】

【実施例6】
【0045】
アルギニン誘導体とアルギニンとを共存させることによるウイルス不活化効果の増進
実施例1と同様に、10 mMクエン酸ナトリウム緩衝液にてpH 4.0(25℃)に調整された0.005 %のアルギニン誘導体(ココイルアルギニンエチルエステル、Cocoyl Arginine Ethylester、CAE;味の素(株)製)、および0.058〜0.287 Mのアルギニンを含む各サンプルのヘルペスウイルス不活化効果を測定し、実施例1と同様に、各サンプルの不活化効率を0.005 % CAE単独の不活化効率に対する相対値で示した(表6)。
0.005 % CAE単独で不活化したときの残存ウイルス量は、不活化前の0.4 %に低下した。0.058 Mアルギニン単独の不活化効率は0.005 % CAE単独の0.03倍に過ぎなかったが、この両者を混合すると、不活化効率は1.13倍に上昇した。0.005 % CAEに0.115 Mアルギニンを混合すると、不活化効率は20倍に達し、0.172、0.230、0.287 Mアルギニンを混合すると、不活化効率は同じく最初の283倍を超える高値を示した。すなわち、アルギニン誘導体とアルギニンとの共存は、ヘルペスウイルスの不活化効果を劇的に上昇させることがわかった。
【0046】
【表6】

【実施例7】
【0047】
アルギニン誘導体とアルギニンとを共存させることによるウイルス不活化効果の増進
実施例5と同様に、10 mMクエン酸ナトリウム緩衝液にてpH 4.8(25℃)に調整された0.01 %、あるいは0.02 %のアルギニン誘導体(ココイルアルギニンエチルエステル、Cocoyl Arginine Ethylester、CAE;味の素(株)製)、および0 Mまたは0.115 Mのアルギニンを含む各サンプルのインフルエンザウイルス不活化効果を測定し、実施例5と同様に、各サンプルの不活化効率を0.01 % CAE単独の不活化効率に対する相対値で示した(表7)。
0.01 % CAE単独で不活化したときの残存ウイルス量は、不活化前の3.1 %に低下した。ここに0.115 Mのアルギニンを共存させると、ウイルス不活化効果は一挙に82倍に上昇した。また、0.02 % CAE単独の不活化効果は4倍に過ぎなかったが、ここに0.115 Mアルギニンを共存させると、同様に63倍へと不活化効果は上昇した。すなわち、pH 4.8においても、アルギニン誘導体とアルギニンとの共存は、ウイルス不活化効果を劇的に上昇させることがわかった。
【0048】
【表7】

【0049】
〔比較例1〕
カフェインとアルギニンの混合によるウイルス不活化効果の変化
10 mMクエン酸ナトリウム緩衝液にてpH 4.0(25℃)に調整された0.5〜2 mMのカフェイン(和光純薬製)と0.2 Mのアルギニンとを混合したサンプルを調整し、実施例1と同様に、各サンプルの不活化効率を0.5 mMカフェイン単独の不活化効率に対する相対値で示した(表8)。
0.5 mMカフェイン 単独で不活化したときの残存ウイルス量は、不活化前の3.4 %に低下した。カフェイン濃度を単独で2 mMまで上昇させても、不活化効率は全く変化しなかった。
一方、0.2 Mアルギニン単独の不活化効率は0.5 mMカフェインの1075倍と高かったが、ここに濃度を変えたカフェインを共存させても、不活化効率は上昇することなく、むしろ低下する傾向を示した(253〜717倍)。これら結果より、カフェインとアルギニンとを共存させても、ウイルス不活化効果を改善することはできないとわかった。
【0050】
【表8】

【0051】
〔比較例2〕
実施例1のアルギニンの代わりに0.2 M NaClを用いて、カフェ酸とNaClとの共存効果を調べた。20 mM酢酸ナトリウム緩衝液にてpH 4.0(25℃)に調整された0.1〜1 mMのカフェ酸(シグマアルドリッチ製)と0.2 MのNaClとを混合したサンプルを調製し、実施例1と同様に、各サンプルの不活化効率を0.1 mMカフェ酸単独の不活化効率に対する相対値で示した(表9)。
0.1 mMカフェ酸単独で不活化したときの残存ウイルス量は、不活化前の0.13 %に低下した。0.1 mMカフェ酸に0.2 M NaClを共存させると、ウイルス不活化効率は0.01倍にまで劇的に低下した。カフェ酸濃度を0.5、1.0 mMまで上昇させても、不活化効率は全く回復しなかった(それぞれ、0.009倍、0.007倍)。pH 4.0の0.2 M NaClの不活化効率は0.011倍であり、各濃度のカフェ酸の共存させた各サンプルの不活化効率とほぼ同程度であったことから、NaClの特性に支配されてしまったことがわかった。
最近、200MPaを超える高圧ウイルス不活化処理において、不活化検体にNaClやスクロースを共存させると、不活化効果が顕著に阻害されることが報告された(International Journal of Food Microbiology 130, 61-64 (2009))。比較例2で示されたNaCl共存下でのウイルス不活化効果の劇的な低下は、高圧ウイルス不活化処理で観察されたウイルス安定化効果と類似の現象である。
一方、実施例1〜7で示されたとおり、アルギニンの共存は、共存相手である各化合物に濃度依存的なウイルス不活化効果を発揮させたり、不活化効率を増進させたりしており、NaClなどの塩類やポリオール類について報告された安定化作用のちょうど正反対の効果である。
【0052】
【表9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)0.02〜0.3Mのアルギニンと、
(B)以下の(B-1)〜(B-3)のいずれかとを含有し、pHが3.8〜5.5であることを特徴とするウイルス不活化用組成物:
(B-1)0.01〜10 mMのフラボノイド類、ポリフェノール類又はアスコルビン酸誘導体、
(B-2)0.005〜5質量%のアルギニン誘導体、及び
(B-3)0.1〜2.5質量%の天然物の抽出液。
【請求項2】
天然物の抽出液が緑茶抽出液である請求項1記載のウイルス不活化用組成物。
【請求項3】
フラボノイド類が、(-)エピカテキンガレート又は(-)エピガロカテキンガレートである請求項1記載のウイルス不活化用組成物。
【請求項4】
ポリフェノール類が、カフェ酸又はカフェ酸フェネチルエステルである請求項1記載のウイルス不活化用組成物。
【請求項5】
アスコルビン酸誘導体が、デヒドロアスコルビン酸である請求項1記載のウイルス不活化用組成物。
【請求項6】
アルギニン誘導体が、炭素数8〜16個のアシル鎖を持つアシルアルギニンである請求項1記載のウイルス不活化用組成物。
【請求項7】
アシルアルギニンがココイルアルギニンエチルエステルである請求項6記載のウイルス不活化用組成物。
【請求項8】
アシルアルギニンがラウロイルアルギニンエチルエステルである請求項6記載のウイルス不活化用組成物。
【請求項9】
(A)0.02〜0.3Mのアルギニンと、
(B)以下の(B-1)〜(B-3)のいずれかとを含有し、pHが3.8〜5.5であることを特徴とするウイルス不活化用組成物:
(B-1)0.01〜10 mMのフラボノイド類、ポリフェノール類又はアスコルビン酸誘導体、
(B-2)0.005〜5質量%のアルギニン誘導体、及び
(B-3)0.1〜2.5質量%の天然物の抽出液
を、ウイルスに接触させる工程を含む、ウイルス不活化方法。

【公表番号】特表2013−520398(P2013−520398A)
【公表日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−538897(P2012−538897)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【国際出願番号】PCT/JP2011/055168
【国際公開番号】WO2011/105633
【国際公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】