説明

低反射ガラスおよびその製法

【構成】ガラス基板の表面上に、該薄膜がSiアルコキシド系化合物或いはSiアセチルアセトネート系化合物の中から少なくとも1種以上の化合物を二つ以上選択し、しかも該選択した二つ以上の化合物における平均分子量が異なるものであって、該二つ以上の化合物を溶剤と共に混合してコーティング溶液とし、該溶液の選択する二つ以上の化合物の混合割合の調整又は/及び該溶液を湿度環境を制御する中で被膜し、加熱成膜して成る、マイクロピット状表層又は凹凸状表層であるゾルゲル膜において、該層の膜厚が60〜160nm 、該状径が50〜200nm で、しかも屈折率が1.21〜1.40である低反射ガラス。並びにその製法。
【効果】手軽に容易な膜形成手段でもって薄膜を安価に効率よく得られ、該薄膜で特異な形状を有する頑固な表層となり、単層膜で低反射特性を有して充分その性能を発揮し、光学特性を損わず、密着性や耐候性等に優れ、建築用窓材をはじめ各種ガラス物品や種々の被覆膜に広く採用できる有用なものとなる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、マイクロピット状表層または凹凸状表層を有し、しかも大きさをコントロールすることができるゾルゲル膜である低反射ガラスならびにその製法に関し、該低反射ガラスは、刺激純度、反射の低下率等の光学特性が高性能であって、しかも単純かつ安全な工程でもって製造できるので安価であり、また大面積化も可能で均一な成膜となり、頑固な密着力で耐摩耗性あるいは耐久性等が優れたものとなり、ことに建築用窓材をはじめ、ことに屋内用の各種膜付きガラス物品において有用となる低反射ガラスおよびその製法を提供するものである。
【0002】
【従来の技術とその問題点】従来、大面積のガラスの反射率を低下させる方法として代表的なものとしては例えば、ガラス表面に、厚さ約100nm程度で屈折率がガラスより低い層を形成する方法、あるいは2層以上に積層した薄膜の多重干渉を利用して予め計算により設計された高屈折率膜・低屈折率膜を交互に積層した多層膜を形成する方法等がある。
【0003】先ず、前者の例としては、特公昭41ー666号公報あるいは特公平2ー14300号公報等に開示されているように、弗化水素等により、ガラス表面をエッチングする方法および珪弗化水素酸のシリカ過飽和水溶液によりシリカのポーラスな被膜を形成する方法がある。
【0004】これらの方法は、製造工程が簡単とは必ずしも言えず製造時間がかかる方法であり、低反射特性はよいとしても大面積化した際に製品面内あるいは製品間の光学特性のバラツキが多いといった問題点があり、比較的高価格な低反射ガラスとなるものである。さらに原料として弗酸を用いるため、人体に対して危険であり、取扱いが厄介である。
【0005】また、その他の方法としては、加熱処理により、燃焼や分解する有機高分子を金属アルコキシド溶液中に添加する方法があり、一度形成されたマイクロピット状が例えば400℃程度以上の加熱処理により緻密化を起こすため、熱処理条件をきびしく制御する必要があって、均一で頑固なマイクロピット状の被膜を得ることが非常に困難である。
【0006】さらに、前記した高屈折率膜・低屈折率膜を交互に積層し、薄膜の多重干渉を利用した反射の低いガラスを製造する方法は、実際に建築用あるいは産業用または車両用等に広く採用されているものの、複雑な作業工程を伴い、必ずしも高効率で経済性が良いとは言えないものであり、また多重干渉を利用した低反射ガラスは斜入射での反射率が高く、しかも刺激純度が高いため、ギラツキ感があるといった問題点もあるものである。さらにまた、例えば特公平3ー23493号公報には防汚性を有する低反射率ガラスが記載されているが、該膜の最終加熱温度は400℃以下、例えば160〜200℃程度にすることとなり、最上膜の硬度や強度が低いものしか得ることができないという問題点がある。
【0007】
【問題点を解決するための手段】本発明は、従来のかかる問題点に鑑みてなしたものであって、特定のSiアルコキシド系化合物あるいはSiアセチルアセトネート系化合物を選び、該化合物の平均分子量が異なるものから組み合わせ、混合割合を変化させたコーティング溶液とするようにし、被膜の際の相対湿度を制御する特定の湿度環境下での塗布条件で塗布し、焼成することにより、充分焼成をしても、独立してしっかりした特定の膜厚ならびに特定の径を有する特異な種々の表面表層、ことにマイクロピット状細孔様または凹凸状様あるいはこれらが適宜共存様の表面表層を有するゾルゲル膜をなし、高密着性であって耐久性や耐摩耗性とを併せ持ち、単層で薄膜の見かけの屈折率を低下させることができ、反射防止特性に優れてギラツキ感もなく、高安全で厄介な作業工程がなく、安価に効率よく得られることとなる等、種々の分野に採用できる利用価値の高い低反射ガラスおよびその製法を提供するものである。
【0008】すなわち、本発明は、ガラス基板の表面上に形成した薄膜において、該薄膜がSiアルコキシド系化合物あるいはSiアセチルアセトネート系化合物のなかから少なくとも1種以上の化合物を二つ以上選択し、しかも該選択した二つ以上の化合物における平均分子量が異なるものであって、該二つ以上の化合物を溶剤とともに混合してコーティング溶液とし、該溶液の選択する二つ以上の化合物の混合割合の調整または/および該溶液を相対湿度のコントロールのもとに被膜し、加熱成膜して成る、マイクロピット状表層または凹凸状表層であるゾルゲル膜において、該マイクロピット状表層または凹凸状表層の膜厚が60〜160nmで、かつ、該マイクロピット状または凹凸状の径が50〜200nmであり、しかもその屈折率が1.21〜1.40であることを特徴とする低反射ガラス。
【0009】ならびに、前記選択した二つ以上の化合物における異なる平均分子量としては、一つの低平均分子量の化合物が数千であって、他の一つ以上の高平均分子量の化合物が数万乃至数十万であることを特徴とする上述した低反射ガラス。
【0010】さらに、前記選択する二つ以上の化合物の混合割合の調整が、高平均分子量の化合物1molに対して、低平均分子量の化合物を酸化物換算で0.1〜30molであることを特徴とする上述した低反射ガラス。
【0011】また、ガラス基板の表面上に形成した薄膜において、該薄膜がSiアルコキシド系化合物あるいはSiアセチルアセトネート系化合物のなかから少なくとも1種以上の化合物を二つ以上選択し、しかも該選択した二つ以上の化合物における平均分子量が異なるものであって、該二つ以上の化合物を溶剤とともに混合してコーティング溶液とし、該溶液の選択する二つ以上の化合物の混合割合の調整または/および該溶液を相対湿度のコントロールのもとに被膜し、100°C以上の温度で加熱成膜して成る、マイクロピット状表層または凹凸状表層であるゾルゲル膜において、該マイクロピット状表層または凹凸状表層の膜厚を60〜160nmで、かつ該マイクロピット状または凹凸状の径が50〜200nmになるようにするとともに、その屈折率を1.21〜1.40にすることを特徴とする低反射ガラスの製法。
【0012】ならびに、前記コーティング溶液を、1〜10cPに粘度調製することを特徴とする上述した低反射ガラスの製法。さらに、前記コーティング溶液の酸化物換算固形分濃度が0.01〜10wt%であることを特徴とする上述した低反射ガラスの製法。
【0013】さらにまた、前記コーティング溶液を塗布するに際し、コントロールする前記相対湿度が、40〜90%であることを特徴とする上述した低反射ガラスの製法をそれぞれ提供するものである。
【0014】ここで、前記したように、Siアルコキシド系化合物あるいはSiアセチルアセトネート系化合物のなかから少なくとも1種以上の化合物を二つ以上選択したのは、該両化合物は安定性があって、溶液調製の際、例えば平均分子量の制御が容易であり、成膜した前記マイクロピット状表層、凹凸状表層の種々の表面形状を有する酸化物薄膜の透明性や硬度が高く、耐久性にも優れたものとなり、比較的安価で入手し易いものであるので該両化合物を用いることとした。
【0015】また、Siアルコキシド系化合物としては、Siにすべてアルコキシ基のみが結合した場合、すなわちメトキシド、エトキシド、イソプロポキシド等のみならず、その一部がメチル基、エチル基等に置換したもの、例えばモノメチルアルコキシド、モノエチルアルコキシド等を含むものである。さらにまた、Siアセチルアセトネート系化合物としては、Siにすべてアセチルアセトン基のみが結合した場合のみならず、その一部がメチルアルコキシ基、エチルアルコキシ基等に置換したものを含むものである。
【0016】さらに、具体的なものとしては、例えばテトラメトキシシラン〔Si(OMe)4 Me:CH3 〕、テトラエトキシシラン〔Si(OEt)4 Et:C25 〕、メチルトリエトキシシラン〔MeSi(OEt)3 〕、メチルトリメトキシシラン〔MeSi(OMe)3 〕等が好適であり、他には例えばジメチルジエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン等がある。
【0017】さらにまた、前記選択した二つ以上の化合物における平均分子量が異なるものとしたのは、被膜した薄膜の表層をマイクロピット状、凹凸状とするためであり、混合する2種以上の化合物の平均分子量は数千(具体的には800〜5,000程度、好ましくは2,000〜3,000程度)と数万から数十万(具体的には50,000〜400,000程度)の組み合わせがよいものである。
【0018】一方、平均分子量の制御は、溶液を調製する際において、触媒の種類(例えば塩酸、硝酸、酢酸等)、その添加量すなわちPH値(例えばPH=1〜6、好ましくは2〜4)および反応温度(例えば20〜80°C、好ましくは25〜70°C)等によって、加水分解反応過程あるいは縮重合過程をコントロールすることにより行うものである。ただし、化合物によってはそれぞれ反応時間等も異なり、必ずしもすべてに共通しない場合もあり得るものである。
【0019】また、マイクロピット状表層、凹凸状表層の形状の制御は、混合する2種以上の化合物の平均分子量が数千と数万から数十万である化合物の混合割合が、その溶質モル比(酸化物換算)で0.1〜30程度であり、0.1未満あるいは30を超えると平坦な平面形状となるものである。なかでも1〜20程度が好ましく、より好ましくはマイクロピット状表層では2〜5.5程度、凹凸状表層では5.5〜7程度である。また、前記表層におけるそれぞれの大きさは被膜する際の相対湿度により制御することがてき、約40%程度の場合約50nm程度となり、約90%程度の場合約200nm程度となる。
【0020】また、前記Siアルコキシド系化合物あるいはSiアセチルアセトネート系化合物のアルコール溶液中の濃度については、0.1wt%程度以上が好ましく、これ未満であれば均一な前記3種類の表面形状表層を有する被膜を次第に形成し難くなり、他方、10wt%程度を超えると、溶液が粘稠となり、前記3種類の表層形状はあるものの、クラックの発現等があり、加えて膜付け自体が困難となるものである。さらに本アルコール溶液におけるアルコール溶媒としては、イソプロピルアルコールあるいは1ーブタノール等が採用できるものである。
【0021】さらにまた、ガラス基板への膜付け法としては、ディッピング法、スプレー法、フローコート法あるいはスピンコート法等既知の塗布手段が適宜採用し得るものである。また前記コーティング溶液を被膜後、1層の薄膜を形成する毎に、約100°C程度の雰囲気温度下で約30分間以内程度の乾燥を行い、前記2種類の表層形状を有したゲル膜を形成することが好ましいものである。
【0022】またさらに、本発明の2種類の表面形状表層については、縮重合度の違いによる形成であって、膜を強固にするための焼成(例えば約500°C以上)によっても消失することもなく、しかも独立したピットあるいは凹凸状物が表面および基板との界面付近まで形成されており、走査電子顕微鏡による5千倍で明確に観察が可能である等、膜強度に優れるしっかりした前記2種類の表面形状表層とできるものである。
【0023】またさらに、該マイクロピット状表層または凹凸状表層の膜厚を60〜160nmで、かつ該マイクロピット状または凹凸状の径が50〜200nmになるようにするとともに、その屈折率を1.21〜1.40にするようにしたのは、先ず膜厚が60〜160nmの範囲外では充分な膜強度を有しつつバランスがある所期の低反射率とならないからであり、またマイクロピット状または凹凸状の径が50〜200nmの範囲内になるようにするのは、50nm未満では膜強度は強いものの低反射効果があまり出現せず、200nmを超えると膜強度が顕著な低下を示すとともに屈折率が下がりすぎ低反射効果が逆に悪化することとなるからであって、100〜150nm程度が好ましいものであり、さらに屈折率が1.21〜1.40の範囲内とするのは、低反射効果に最適な屈折率は1.21程度であるが該数値未満では膜強度が充分満足を得るものとならず、1.40を超えると所期の低反射効果を得ることができ難くなるからであり、1.3〜1.4または1.39程度が好ましいものである。いずれにしてもこれら膜厚、マイクロピット状または凹凸状の径ならびに屈折率が前記範囲内で適宜巧みに組み合わさることによって、所期の低反射ガラスを得ることができ、より好ましいものである。
【0024】また例えばHF等によるエッチングでは、その構造上エッチングされ易い部分とされ難い部分とがあって、エッチングされ易い部分がピット状のものとなるので、どちらかと言えば連続的であり、膜厚もピット制御も困難であり、前記倍率でのピット観察では観察が困難である。また例えばゾルゲル膜での有機高分子物、溶媒、水分の焼成等による多孔質化では、通常250〜300°C付近の焼成で膜全体が一度多孔質化するが、500°C以上で焼成した場合、膜の緻密、硬化が起こり、無孔化も同時に起こり、ピット状のものは膜表面および内部でなくなり、走査電子顕微鏡では3〜5万倍で観察しても、表面形状は平坦である等、従来法のものと本発明のマイクロピット状表層あるいは凹凸状表層とでは明らかに異なるものであった。
【0025】さらにまた、前記ガラス基板としては、無機質の透明板ガラスであって、無色または着色、ならびにその種類あるいは色調、形状等に特に限定されるものではなく、さらに曲げ板ガラスとしてはもちろん、各種強化ガラスや強度アップガラス、平板や単板で使用できるとともに、複層ガラスあるいは合せガラスとしても使用できることは言うまでもない。なお、ことに合せガラスに使用する際には空気側となる片面のみ成膜することが好ましい。
【0026】
【作用】前述したとおり、本発明のマイクロピット状表層あるいは凹凸状表層を有するゾルゲル膜、ならびにその形成法により、上述した特定系の二つの化合物を選び、該化合物の平均分子量を異なるものを少なくとも組み合わせることで、高温焼成しても、緻密化することなく、従来より独立性があって深見のある、明確でしっかりしたマイクロピット状あるいは凹凸状表層となり、しかも該2種類の表面表層の形状とその径を制御でき、付着性も向上し頑固な薄膜とすることでき、ガラス基板との界面は密着性を格段に向上せしめ、優れた耐久性を有するものとなり、透明で硬度が高く、しかも反射防止特性に優れており、光学特性等も充分に満足できるものとでき、高安全で厄介な作業工程がなく、安価に効率よく得られることとなるものである。
【0027】
【実施例】以下、実施例により本発明を具体的に説明する。ただし本発明は係る実施例に限定されるものではない。
【0028】実施例1大きさ約100mmx100mm、厚さ約3mmのクリア・フロートガラス基板を中性洗剤、水すすぎ等で順次洗浄し、乾燥した後、被膜用のガラス基板とした。
【0029】平均分子量が約3,000で固形分濃度が約30wt%のメチルトリエトキシシラン溶液約20.0gと、平均分子量が約100,000で固形分濃度が約6wt%のシリコンエトキシド溶液約28.6gをビーカーに入れ、低平均分子量の固形分/高平均分子量の固形分を約3.5のmol比とし、次いで1ーブタノール約150gで希釈し、約8時間攪拌後、約2週間熟成してコーティング溶液を得た。
【0030】つぎに、成膜ブースで囲まれた温度約23℃、相対湿度約60%の環境下で、前記ガラス基板を該溶液中に浸漬し引き上げ速度が約2.3mm/sのスピードで引き上げるディッピング法により、該溶液を前記ガラス基板の両表面に被膜し、約3分間程度静かに乾燥させた後、約270°Cで約10分間加熱してゲル膜を形成した。さらにこれを約550℃程度で約10分程度加熱し成膜した。
【0031】得られた薄膜は、走査電子顕微鏡(SEM)により、約2万倍の倍率で表面形状状態を観察したところ、図1に示すように、その径が約100〜150nm程度のマイクロピット状で細孔様の表層となっており、非常にポーラスな薄膜であった。またエリプソメータ等による測定から、屈折率が約1.33程度であって、膜厚が約105nmのSiO2 薄膜を成膜した。
【0032】該両面薄膜付ガラス基板の反射率は、JIS Z8722から図4に示すように、約550nmで約1.1%、可視光線反射率(D65光線ーY値)は約1.2%であり、非常に高性能な低反射ガラスとなった。
【0033】さらに該薄膜の膜強度は、比較的に強く、払拭等では膜にキズを発現するようなものではなかった。
実施例2実施例1と同様なガラス基板とコーティング溶液を用い、他は実施例1と同様にし、引き上げ速度を約3mm/sでディッピング成膜し、約3分間静かに乾燥させた後、約270℃で約10分加熱してゲル膜を形成した。これを約600℃で約10分間加熱処理して成膜した。
【0034】得られた薄膜は、実施例1と比べて緻密化が少々進んでいるものの、実施例1と同一条件で表面形状状態を観察したところ、図2に示すように、その径が約100nm前後程度のマイクロピット状で細孔様の表層となっており、ポーラスな薄膜であった。また実施例1と同様の測定から、屈折率が約1.395程度であって眼鏡等に広く使われている弗化マグネシウムに近い屈折率であり、膜厚が約100nmのSiO2 薄膜を成膜した。
【0035】該両面薄膜付ガラス基板の反射率は、図4に示すように、約550nmで約3%、可視光線反射率(D65光線ーY値)は約3.1%であって実施例1に比べると低反射特性はやや低いものの、所期の低反射ガラスとなった。
【0036】さらに、テーバー摩耗特性は、摩耗輪がCSー10Fで荷重が500gfの条件により、100回の回転でヘーズ(△H)値が約0.8%であって、耐摩耗性に優れた高硬度な低反射ガラスであった。
【0037】比較例1実施例1と同様なガラス基板に、実施例1の平均分子量が約100,000で溶質濃度が約0.4mol%のシリコンエトキシドのブタノール溶液を、実施例1と同様の環境下で、引き上げ速度を約3.5mm/sのスピードでガラス基板の両面にディッピング法被膜し、実施例1と同様な条件で熱処理し成膜した。
【0038】得られた薄膜は、実施例1と同様な測定と評価により、図3に示すように、非常に平坦な表面表層であって、その屈折率が約1.45と高く、膜厚が約95nmの両面膜付ガラスとなって、その反射率は、図4に示すように、約550nmで最低となり、可視光線反射率(D65光線ーY値)は約5.2%であり、必ずしも高性能な低反射ガラスとは言い難いものであった。
【0039】比較例2実施例2と同様な方法において、ディッピングの引き上げスピードを約0.5mm/sにして被膜し、実施例2と同条件で加熱成膜したところ、屈折率が約1.40で膜厚が約50nmであって、実施例2に近い表面表層を有する両面膜付ガラスとなって、その反射率は400nm以下の波長で最低となり、可視光線反射率(D65光線ーY値)は約5.7%であり、低反射ガラスとは言い難いものであった。
【0040】比較例3実施例2と同様な方法において、ディッピングの引き上げスピードを約6mm/sにして被膜し、実施例2と同条件で加熱成膜したところ、屈折率が約1.39で膜厚が約170nmであって、実施例2に近い表面表層を有する両面膜付ガラスとなって、その反射率は780nm以上の波長で最低となり、可視光線反射率(D65光線ーY値)は約7.1%であり、低反射ガラスとは言い難いものであった。
【0041】比較例4実施例1と同様な方法において、1ーブタノールを約50g再添加した溶液を使用し、ディッピングの引き上げスピードを約1mm/sにして被膜し、実施例1と同条件で加熱成膜したところ、屈折率が約1.33で膜厚が約50nmであって、実施例1に近い表面表層を有する両面膜付ガラスとなって、その反射率は400nm以下の波長で最低となり、可視光線反射率(D65光線ーY値)は約5%であり、低反射ガラスとは言い難いものであった。
【0042】比較例5実施例1と同様な方法において、ディッピングの引き上げスピードを約8mm/sにして被膜し、実施例1と同条件で加熱成膜したところ、屈折率が約1.33で膜厚が約180nmの実施例1に近い表面表層を有する両面膜付ガラスとなって、その反射率は780nm以上の波長で最低となり、可視光線反射率(D65光線ーY値)は約6.9%であり、低反射ガラスとは言い難いものであった。
【0043】
【発明の効果】以上前述したように、本発明によれば、手軽に容易な膜形成手段でもって薄膜を安価に効率よく得られ、該薄膜において特異な形状を有する頑固なマイクロピット状表層あるいは凹凸状表層が得られ、しかもその径を制御することができるようになり、単層膜で反射防止特性に優れており、格段にその性能を発揮して、光学特性を損なうことなく、密着性、耐候性等に優れるものとなる等、建築用窓材等をはじめ、各種ガラス物品など、種々の被覆膜に広く採用できる利用価値の高い、有用なマイクロピット状表層あるいは凹凸状表層を有する低反射ガラスならびにその製法を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1の低反射ガラスにおける、本発明のマイクロピット状表層を有するゾルゲル膜の表層面を、走査電子顕微鏡で観察処理した写真であって、マイクロピット状表層の状態を詳細に示す図である。
【図2】実施例2の低反射ガラスにおける、本発明のマイクロピット状表層を有するゾルゲル膜の表層面を、走査電子顕微鏡で観察処理した写真であって、マイクロピット状表層の状態を詳細に示す図である。
【図3】比較例1における、平坦表面を有するゾルゲル膜の表層面を、走査電子顕微鏡で観察処理した写真であり、平坦な表面状態を詳細に示す図である。
【図4】実施例1ならびに実施例2の低反射ガラス、比較例1のガラス、さらに通常のガラスにおける、各波長に対する反射率(%)を示す分光反射特性図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ガラス基板の表面上に形成した薄膜において、該薄膜がSiアルコキシド系化合物あるいはSiアセチルアセトネート系化合物のなかから少なくとも1種以上の化合物を二つ以上選択し、しかも該選択した二つ以上の化合物における平均分子量が異なるものであって、該二つ以上の化合物を溶剤とともに混合してコーティング溶液とし、該溶液の選択する二つ以上の化合物の混合割合の調整または/および該溶液を相対湿度のコントロールのもとに被膜し、加熱成膜して成る、マイクロピット状表層または凹凸状表層であるゾルゲル膜において、該マイクロピット状表層または凹凸状表層の膜厚が60〜160nmで、かつ、該マイクロピット状または凹凸状の径が50〜200nmであり、しかもその屈折率が1.21〜1.40であることを特徴とする低反射ガラス。
【請求項2】 前記選択した二つ以上の化合物における異なる平均分子量としては、一つの低平均分子量の化合物が数千であって、他の一つ以上の高平均分子量の化合物が数万乃至数十万であることを特徴とする請求項1記載の低反射ガラス。
【請求項3】 前記選択する二つ以上の化合物の混合割合の調整が、高平均分子量の化合物1molに対して、低平均分子量の化合物を酸化物換算で0.1〜30molであることを特徴とする請求項1および2記載の低反射ガラス。
【請求項4】 ガラス基板の表面上に形成した薄膜において、該薄膜がSiアルコキシド系化合物あるいはSiアセチルアセトネート系化合物のなかから少なくとも1種以上の化合物を二つ以上選択し、しかも該選択した二つ以上の化合物における平均分子量が異なるものであって、該二つ以上の化合物を溶剤とともに混合してコーティング溶液とし、該溶液の選択する二つ以上の化合物の混合割合の調整または/および該溶液を相対湿度のコントロールのもとに被膜し、100°C以上の温度で加熱成膜して成る、マイクロピット状表層または凹凸状表層であるゾルゲル膜において、該マイクロピット状表層または凹凸状表層の膜厚を60〜160nmで、かつ該マイクロピット状または凹凸状の径が50〜200nmになるようにするとともに、その屈折率を1.21〜1.40にすることを特徴とする低反射ガラスの製法。
【請求項5】 前記コーティング溶液を、1〜10cPに粘度調製することを特徴とする請求項4記載の低反射ガラスの製法。
【請求項6】 前記コーティング溶液の酸化物換算固形分濃度が0.01〜10wt%であることを特徴とする請求項4ならびに5記載の低反射ガラスの製法。
【請求項7】 前記コーティング溶液を塗布するに際し、コントロールする前記相対湿度が、40〜90%であることを特徴とする請求項4乃至6記載の低反射ガラスの製法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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