説明

低圧鋳造用保持炉

【課題】 加圧部及び/または出湯部の内壁面の亀裂及び破損、並びに、前記内壁面への固着物の除去作業時における前記内壁面の損傷を防止し、溶湯に対する圧力制御の良好な精度を維持し、金型への溶湯の汚染防止を可能とした低圧鋳造用保持炉を提供する。
【解決手段】 溶湯保持室11と加圧室12との間に位置する溶湯流路口24を開閉する遮断弁37を備えるとともに、加圧室12が互いに底部で連通する加圧部32と出湯部33とを備え、かつ、溶湯保持室11内及び加圧室12内にチューブヒータ22,36を配置した低圧鋳造用保持炉1において、加圧部32及び/または出湯部33の内壁面が、円筒状のファインセラミックス製一体焼成物からなる内張部材34,35で形成された構成としてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばアルミニウム、アルミニウム合金鋳物の製造に好適な低圧鋳造用保持炉に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、種々の低圧鋳造用保持炉が公知である(例えば、特許文献1,2参照。)。
【特許文献1】特開平11−138250号公報
【特許文献2】特許第3392544号公報
【0003】
特許文献1には、溶湯保持室と加圧室との間に位置する溶湯流路口を開閉する遮断弁を備え、前記加圧室が溶湯の上面に圧縮気体により圧力を作用させる加圧部と加圧された溶湯を金型のキャビティに流し込む出湯部とに区画された低圧鋳造用保持炉が開示されている。この低圧鋳造用保持炉は、外側から内側に向かって、鉄皮、耐火層、断熱層、さらに溶湯収納容器からなる多層の内張り構造を有し、前記溶湯収納容器はアルミナ系の不定形耐火物として一体型バスに形成されたものである。
【0004】
特許文献2には、溶湯流路口の溶湯保持室側における開口周縁部に形成された弁座設置部に前述した溶湯収納容器とは別部材として形成された弁座をその上面が前記溶湯収納容器の内周面と面一となるように設け、この弁座に遮断弁の先端を接離させることにより前記溶湯流路口を開閉するようにした低圧鋳造用保持炉が開示されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の低圧鋳造用保持炉の場合、溶湯と直接接触する前記溶湯収納容器の一体型バスを形成する不定形耐火物が通気性を有するため、鋳造工程の繰り返しにおいて、前記不定形耐火物内への溶湯の浸透は避けられず、この浸透により前記不定形耐火物に亀裂や破損が生じる。特に、この亀裂や破損が加圧部や出湯部に発生すると、鋳造作業に支障を来すという問題がある。具体的には、加圧部における亀裂や破損の発生の結果、鋳造作業に直接影響する圧力制御が不安定になり、安定した連続操業が不可能になり、最悪の場合、操業停止に追い込まれる。また、この亀裂や破損により、加圧用気体の外部への漏出を招くことになり、この結果、圧力制御の精度も低下する。一方、出湯部で亀裂や破損が発生すると、加圧部での制御圧力を維持した状態で溶湯が金型内のキャビティに充填されず、鋳造物は不良品となる。さらに、加圧部及び出湯部の内壁面には、溶湯が固着してゆくため、定期的にこの内壁面への固着物の除去が必要となるが、前記不定形耐火物は脆く、この固着物の除去作業時に前記不定形耐火物の表面を損傷させ易いという問題がある。
【0006】
特許文献2に記載の低圧鋳造用保持炉の場合、前述した問題に加え、前記弁座の上面と前記溶湯収納容器の内周面とが面一になっているため、溶湯保持室内で生じた不純物、特に、溶湯流路口の周辺における沈殿物が加圧室内に流入し、この結果、溶湯を汚染するという問題がある。
【0007】
本発明は、斯かる従来の問題をなくすことを課題としてなされたもので、加圧部及び/または出湯部の内壁面の亀裂及び破損、並びに、前記内壁面への固着物の除去作業時における前記内壁面の損傷を防止し、溶湯に対する圧力制御の良好な精度を維持し、金型への溶湯の汚染防止を可能とした低圧鋳造用保持炉を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、第1発明は、溶湯保持室と加圧室との間に位置する溶湯流路口を開閉する遮断弁を備えるとともに、前記加圧室が互いに底部で連通する加圧部と出湯部とを備え、かつ、前記溶湯保持室内及び前記加圧室内にチューブヒータを配置した低圧鋳造用保持炉において、前記加圧部及び/または出湯部の内壁面が、円筒状のファインセラミックス製一体焼成物からなる内張部材で形成された構成とした。
【0009】
第2発明は、第1発明の構成に加えて、前記ファインセラミックス製一体焼成物が、窒化珪素からなる構成とした。
【0010】
第3発明は、第1または第2発明の構成に加えて、前記溶湯流路口を構成する弁座が、その下部を溶湯流路口の弁座設置部に固定され、上端部を周囲の溶湯保持室底面よりも高く位置させるよう設けられた構成とした。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る低圧鋳造用保持炉によれば、加圧部及び/または出湯部の内壁面の亀裂及び破損、並びに、前記内壁面への固着物の除去作業時における前記内壁面の損傷を防止し、溶湯に対する圧力制御の良好な精度を維持すること等が可能になるという効果を奏する。
【0012】
また、内壁面を窒化珪素からなる内張部材で形成することにより、加圧部及び/または出湯部の内壁面の耐久性をより一層向上させることが可能になるという効果を奏する。
【0013】
さらに、弁座をその上端面が周囲の溶湯保持室の底面よりも高位置とすることにより、溶湯保持室内における沈殿物の加圧室内への流入が抑制され、加圧室における溶湯の汚染を最小限に止めることが可能になるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に、本発明の実施形態を図面にしたがって説明する。
図1〜4は、本発明に係る低圧鋳造用保持炉1を示し、この低圧鋳造用保持炉1は、並列配置され、底部が互いに連通した溶湯保持室11と加圧室12とを備えている。
【0015】
溶湯保持室11は、上部に保持室蓋21を備えるとともに、耐火物からなる内壁の側面部にチューブヒータ22及び温度センサ23を備え、図示しない金属溶解炉から供給され、内部に貯えた溶湯を一定温度範囲内に保持可能に形成されている。また、溶湯保持室11の底部には加圧室12に通じる溶湯流路口24が形成され、その上端の内周部に形成された弁座設置部25には、上端面が周囲の溶湯保持室底面よりも高位置となるように設けられた円筒状ファインセラミックス製、例えば窒化珪素製の一体焼成物である弁座26が固定されている。そして、この弁座26の上方には保持室蓋21を気密に、かつ昇降可能に貫いて、溶湯流路口24を開閉する遮断弁27が設けられている。即ち、遮断弁27は、下降時に弁座26に密着して溶湯流路口24を閉じ、上昇時に弁座26から離れて溶湯流路口24を開く。
【0016】
加圧室12は、溶湯流路口24に通じる下部流通路31を介して互いに底部で連通する加圧部32と出湯部33とを備え、下部流通路31の内壁面は耐火物で形成され、加圧部32と出湯部33の内壁面は、耐火物からなる壁面を覆うように設けられた円筒状のファインセラミックス製一体焼成物、例えば窒化珪素からなる内張部材34,35で形成されている。また、下部流通路31には、チューブヒータ36が設けられ、加圧部32の上部密閉蓋37に加圧用気体供給口38が設けられるとともに、この上部密閉蓋37からレベルセンサ39が吊持されている。そして、加圧部32内の溶湯面レベルが一定範囲内に維持されるとともに、溶湯の上部空間が加圧されるようになっている。さらに、出湯部33の上部に固定される下部ダイベース41上には、金型42が固定され、出湯部33と金型42のキャビティ43とは下部ダイベース41の通湯孔44を介して連通している。
【0017】
なお、図1において、二点鎖線Uは湯面上限レベルを示し、二点鎖線Lは湯面下限レベルを示している。
【0018】
上記構成からなる低圧鋳造用保持炉1において、溶湯流路口24が開かれた状態で、溶湯保持室11から加圧室12に溶湯が供給され、湯面が前述した二点鎖線U及びL間に保たれるとともに、チューブヒータ22及び36により溶湯は一定温度範囲内に保たれる。そして、遮断弁27により溶湯流路口24が閉じられ、加圧用気体供給口38より送り込まれる加圧用気体、例えばN,Ar等の不活性ガスにより加圧部32が加圧され、加圧部32内の湯面低下とともに、出湯部33から通湯孔44を介して金型42のキャビティ43内に溶湯が圧入され、鋳造が行われる。
【0019】
前述したように、加圧部32及び出湯部33は、内壁面が、耐火物からなる壁面を覆うように設けられた円筒状のファインセラミックス製一体焼成物、例えば窒化珪素からなる内張部材34,35で形成されているため、溶湯の浸透による内壁面の亀裂や破損が防止され、内壁面に固着した不純物の除去作業時における内壁面の損傷が低減でき、内壁面の耐久性の向上が可能となっている。また、加圧部32において、加圧用気体の漏出が防止され、加圧用気体による圧力制御の精度を向上させることができるとともに、出湯部33において、内壁面への溶湯の浸透、及び、内壁面の亀裂及び破損の回避により所望量の溶湯を確実にキャビティ43内に充填可能となり、良好な鋳物製品の製造が可能となっている。さらに、内張部材34,35を円筒状のファインセラミックス製のなかでも、特に高温強度、高温耐摩耗性及び耐熱衝撃性に優れた窒化珪素製の一体焼成物とすることにより、加圧部32及び出湯部33の内壁面の耐久性を、より一層向上させることが可能となっている。その他、溶湯流路口24の弁座設置部25に、窒化珪素製の一体焼成物である弁座26を設けることにより前記同様に、その耐久性を向上させ得るとともに、弁座26が、その上端面を周囲の溶湯保持室11の底面よりも高位置とするように設けられることにより、溶湯保持室11内における沈殿物の加圧室12内への流入が抑制され、加圧室12における溶湯の汚染を最小限に止めることが可能となっている。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明に係る低圧鋳造用保持炉1は、例えばアルミニウム、アルミニウム合金鋳物の製造に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る低圧鋳造用保持炉の断面図である。
【図2】図1の円I内の部分拡大図である。
【図3】図1の円II内の部分拡大図である。
【図4】図1の円III内の部分拡大図である。
【符号の説明】
【0022】
1 低圧鋳造用保持炉
11 溶湯保持室
12 加圧室
21 保持室蓋
22 チューブヒータ
23 温度センサ
24 溶湯流路口
25 弁座設置部
26 弁座
27 遮断弁
31 下部流通路
32 加圧部
33 出湯部
34,35 内張部材
36 チューブヒータ
37 上部密閉蓋
38 加圧用気体供給口
39 レベルセンサ
41 下部ダイベース
42 金型
43 キャビティ
44 通湯孔
U 湯面上限レベル
L 湯面下限レベル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶湯保持室と加圧室との間に位置する溶湯流路口を開閉する遮断弁を備えるとともに、前記加圧室が互いに底部で連通する加圧部と出湯部とを備え、かつ、前記溶湯保持室内及び前記加圧室内にチューブヒータを配置した低圧鋳造用保持炉において、前記加圧部及び/または出湯部の内壁面が、円筒状のファインセラミックス製一体焼成物からなる内張部材で形成されたことを特徴とする低圧鋳造用保持炉。
【請求項2】
前記ファインセラミックス製一体焼成物が、窒化珪素からなることを特徴とする請求項1に記載の低圧鋳造用保持炉。
【請求項3】
前記溶湯流路口を構成する弁座が、その下部を溶湯流路口の弁座設置部に固定され、上端面を周囲の溶湯保持室底面よりも高位置にするように設けられたことを特徴とする請求項1または2に記載の低圧鋳造用保持炉。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−150370(P2006−150370A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−340866(P2004−340866)
【出願日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【出願人】(391003727)株式会社トウネツ (12)
【Fターム(参考)】