説明

低抵抗金属固定抵抗器の製造方法

【課題】低抵抗金属固定抵抗器の、接合品質が安定しており、生産性にすぐれた、製造設備が高価でない製造方法を提供する。
【解決手段】抵抗合金よりなる抵抗素子部と導電率の高い金属導体よりなる接続端子部が結合されてなる低抵抗金属固定抵抗器の製造方法であって、導電性金属よりなる薄板状体の側面と抵抗合金よりなる薄板状体の側面とを突き合わせ、突き合わせ部に回転する摩擦攪拌接合工具のプローブを埋入して、前記回転プローブを前記突き合わせ部に平行に移動させることにより摩擦攪拌接合して、導電性金属よりなる薄板状体と、抵抗合金よりなる薄板状体が接合された結合薄板状体を形成する工程と、前記結合薄板状体をその接合方向に対し直交方向に細断する工程とを含む低抵抗金属固定抵抗器の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は抵抗合金よりなる抵抗素子部と導電率の高い金属導体よりなる接続端子部を結合してなる低抵抗金属固定抵抗器の、生産性及び接合品質が高く製造設備が安価な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境に配慮した自動車として、ハイブリッドカー、電気自動車および燃料電池自動車が開発され実用化されている。
そのような自動車にあっては、従来に増して電装モジュールの重要性が高まっている。そこに用いられる電子受動部品の一つである低抵抗金属固定抵抗器は、回路を流れる電流を検出する機能を有する重要部品である。
【0003】
低抵抗金属固定抵抗器は低抵抗金属材料、例えばCu−Mn−Ni合金やNi−Cr合金板と電極材であるCu板との異種接合材料間の接合により製造される。
【0004】
しかし、板材を個別に接合するリベット接合やスポット溶接は、生産性やコストから今後の電気自動車等に対応することは困難であり、接合の信頼性も高くない。
一方、このような電気抵抗体の量産製造法として、特許文献1に示すように、帯状の低抵抗金属材料と帯状の電極材とを連続的に溶接し、次に横方向に切断することが提案されている。溶接方法としては電子ビーム溶接、ローラシーム溶接をすることが提案されている。
【0005】
電子ビーム溶接は高真空を要するため生産性が悪く設備が大きくなり、設備コストが大きい。さらに溶融プロセスであるため、材料の組み合わせによっては接合品質の信頼性が低いという問題がある。ローラシーム溶接は、電気効率が悪く、大きな電気設備が必要で機械が高価という問題がある。また、やはり溶接プロセスであるため、材料の組み合わせによっては接合品質の信頼性が低いという問題がある。
【0006】
他方、摩擦攪拌接合により異種金属板や型材を接合できることが知られている。摩擦攪拌接合は真空を要せず、設備も小型にできるというメリットがある。しかしCu−Mn−Ni合金板とCu板の摩擦攪拌接合や、Ni−Cr合金板とCu板の突き合わせ摩擦攪拌接合については知られていない。
【0007】
更に、異種金属板の突き合わせ摩擦攪拌接合において、高温変形抵抗の異なる材料を接合する際には、接合強度を高める目的で、高温変形抵抗が大きい材料をアドバンシングサイド(AS)に高温変形抵抗が小さい材料をリトリーティングサイド(RS)に配して突き合わせ線に沿って接合することが知られている(特許文献2)。
【0008】
その他にも異種材料の摩擦攪拌接合においてアドバンシングサイド(AS)に、高融点材料を配する(特許文献3)、高軟化温度材料を配する(特許文献4)、硬質材料を配する(特許文献5)、高温変形抵抗大の材料を配する(特許文献6)ことが知られている。
【0009】
しかし、低抵抗金属材料であるCu−Mn−Ni合金板と導電率の高い金属導体Cu板との組み合わせを主とする摩擦攪拌接合においては、上記知見に基づき接合すると接合不良となって高品質な抵抗器を安定して製造することができない。
【0010】
このように、低抵抗金属固定抵抗器を製造するに際し、上記従来技術では、接合品質が安定せず、生産性や設備コストの面で課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平6−224014号公報
【特許文献2】特開2004−34140号公報
【特許文献3】特開平11−58040号公報
【特許文献4】特開2004−66331号公報
【特許文献5】特開2004−255420号公報
【特許文献6】特開2004−34140号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、今後需要が増大すると思われる車載用等の低抵抗金属固定抵抗器の、接合品質が安定しており、生産性にすぐれた、製造設備が高価でない製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に記載の発明は、抵抗合金よりなる抵抗素子部と導電率の高い金属導体よりなる接続端子部が結合されてなる低抵抗金属固定抵抗器の製造方法であって、導電性金属よりなる薄板状体の側面と抵抗合金よりなる薄板状体の側面とを突き合わせ、突き合わせ部に回転する摩擦攪拌接合工具のプローブを埋入して、前記回転プローブを前記突き合わせ部に平行に移動させることにより摩擦攪拌接合して、導電性金属よりなる薄板状体と、抵抗合金よりなる薄板状体が接合された結合薄板状体を形成する工程と、前記結合薄板状体をその接合方向に対し直交方向に細断する工程とを含むことを特徴とする低抵抗金属固定抵抗器の製造方法である。
【0014】
請求項2に記載の発明は、抵抗合金よりなる抵抗素子部の両側に導電率の高い金属導体よりなる接続端子部を結合してなる低抵抗金属固定抵抗器の製造方法であって、一の導電性金属よりなる薄板状体の側面と抵抗合金よりなる互いに平行した辺を有する薄板状体の一平行側面とを突き合わせ、前記抵抗合金よりなる薄板状体の他の平行な一側面と他の導電性金属よりなる薄板状体の側面とを突き合わせ、各々の前記突き合わせ部には逐次又は同時にそれぞれ回転する摩擦攪拌接合工具のプローブを埋入して、前記回転プローブを前記突き合わせ部に平行に移動させることにより、摩擦攪拌接合して一の導電性金属よりなる薄板状体と、抵抗合金よりなる薄板状体、他の導電性金属よりなる薄板状体がこの順に側面同士結合された結合薄板状体を形成し、前記結合薄板状体をその接合方向に対し直交方向に細断することにより個々の抵抗部品を得ることを特徴とする低抵抗金属固定抵抗器の製造方法である。
【0015】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2記載の低抵抗金属固定抵抗器の製造方法であって、導電性金属よりなる薄板状体がAS(アドバンシング サイド)に配され、かつ接合工具であるツールの回転軸が導電性金属よりなる薄板状体上または突き合わせ線上にて突き合わせ摩擦攪拌接合することを特徴とする低抵抗金属固定抵抗器の製造方法である。
【0016】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載の低抵抗金属固定抵抗器の製造方法であって、前記抵抗合金がMn(マンガン)10.0〜13.0%、Ni(ニッケル)1.0〜4.0%、残りがCu(銅)、及び不可避的不純物からなる合金であり、前記導電率の高い金属導体がCuであることを特徴とする低抵抗金属固定抵抗器の製造方法である。
【0017】
以下本発明を詳細に説明する。
低抵抗金属固定抵抗器とは前述のように電流を測定するために用いられる電気抵抗値が数十μΩから数mΩ程度の金属系の材料製の電気抵抗器をいう。
【0018】
低抵抗金属固定抵抗器は電流値を測定するための、接続端子部と抵抗素子部にてなる。
構造は各種あるが、接続端子部/抵抗素子部/接続端子部が各々板状であり一平面状に接合されている物が製造が容易で好ましい。
【0019】
抵抗素子部を形成する抵抗合金は適当な電気抵抗を有する合金であって、Cu−Mn系合金、Ni−Cu系合金、Ni−Cr系合金、Fe−Cr系合金、Mn−Cu−Ni系合金が例示される。
【0020】
Mn(マンガン)10.0〜13.0%、Ni(ニッケル)1.0〜4.0%、残りがCu(銅)、及び不可避的不純物からなる合金は電気抵抗値が長期にわたって安定で、その抵抗率の温度係数が極めて小さく、電気的接続が必要な箇所の間での熱伝導を最小限に抑え、歪み感度が低いため特に好ましい。特に銅86%、マンガン12%、ニッケル2%からなる合金はマンガニン(商標)と呼ばれるが、抵抗材料として好ましい。
【0021】
抵抗合金よりなる薄板状体は抵抗合金が薄板状に加工されたものであり、抵抗合金よりなる薄板状体は少なくとも互いに平行な表面と裏面を有していることが好ましい。又、接続端子部/抵抗素子部/接続端子部が各々板状であり一平面状に突き合わせにて接合されている抵抗器を製造するには、抵抗合金よりなる薄板状体の表面に垂直又は略垂直な平面状の側面を有していることが好ましい。更に、低抵抗金属固定抵抗器の電気抵抗は抵抗合金の長さに比例するため、抵抗合金よりなる薄板状体は表面に対し垂直又は略垂直な互いに平行で一定の距離を有する二側面を有していることが好ましい。したがって抵抗合金よりなる薄板状体は薄い直方体、又は、等幅の帯状体等が好ましい。寸法は限定されないが、例示すれば厚みが0.3mm〜数mm、幅は数mm〜10cm、長さは10cm〜数百mである。
【0022】
接続端子部を形成する導電率の高い金属導体は、Cu、Al、Ag、Au等が例示されるが安定性、コスト等からCuが好ましい。導電性金属よりなる薄板状体は導電率の高い金属導体が薄板状に加工されたものであり、導電性金属よりなる薄板状体は上下の面が平行で間隔が小さくかつ、突き合わせにて接合されるので少なくとも表面に垂直又は略垂直な平面状の側面を有していることが好ましい。更に抵抗合金よりなる薄板状体は抵抗合金と接合後打ち抜くにせよ材料効率上、平行な2側面を有していることが好ましい。したがって導電性金属よりなる薄板状体は薄い直方体、等幅の帯状体等が好ましい。
寸法は限定されないが、例示すれば厚みが0.3mm〜数mm、幅は数mm〜10cm、長さは10cm〜数百mである。
【0023】
薄板状の抵抗合金と薄板状の金属導体は通常は同じ厚さのものを組み合わせ接合されるが、厚みが異なっていてもよい。むしろ厚みの異なる抵抗合金よりなる薄板状体と金属導体の薄板状を組み合わせ、接合後抵抗合金上に摩擦撹拌接合時に形成される金属導体のオーバーレイ層を研削等により除去することも、抵抗器の電気抵抗値を一定に制御するのに有効な場合がある。この場合抵抗合金よりなる薄板状体と金属導体の薄板状との厚みは、数μmから数mm、好ましくは数十μmから数百μm異なることが好ましい。
【0024】
摩擦攪拌接合に用いる摩擦攪拌接合工具(ツール)は、摩擦攪拌接合するための回転と押し当て力を付与するためのツール本体の先端に円柱状の回転子の端面、ショルダー面と称される、を有し、更にショルダー面に突設されたピン状プローブを有している。
本願発明において、ショルダー面は限定されない。ショルダー面外周は円形が好ましく用いられ、ショルダー面は平面、回転対称な曲面、又は渦巻き面等が好ましく用いられる。
【0025】
摩擦撹拌接合により、抵抗合金よりなる薄板状体と導電性金属よりなる薄板状体の側面同士を接合するには、抵抗合金よりなる薄板状体と導電性金属よりなる薄板状体の側面同士を突き合わせ、突き合わせ部又はその近傍に薄板状体の表面から回転する上記摩擦攪拌接合工具のプローブを埋入して、ショルダー面下及びプローブが埋入された部分を可塑化させることにより行う。
【0026】
本願発明において、プローブの形状も限定されない。通常円柱状、円錐台状、半球状等が用いられるが、撹拌効率を上げるためねじ状、断面多角形状、切削刃をプローブの回転軸に対し垂直に突出形成させたもの等が用いられてもよい。
【0027】
ツールの材質は限定されないが、高温での連続加工に耐え、接合対象となる抵抗合金や導電率の高い金属導体と化学的に親和し溶解や反応しにくい物が好ましく、例えばNi基合金等が好ましい。
【0028】
摩擦撹拌装置は特に限定されないが、摩擦攪拌接合ツールを回転させる駆動機構、ツールを回転軸方向に移動させる駆動機構、ツールを埋入させるために回転軸方向に荷重を加える荷重機構を備えると共に、薄板状体をツール回転軸に対し、相対的に移動させる移動機構、及び両板状体を加工時に押さえつける係止機構を有しているものが好ましく、移動軸としては定盤軸(X)と横行軸(Y)と昇降軸(Z)の機械3軸からなるもの、又は、定盤軸(X)と横行軸(Y)と昇降軸(Z)と揺動軸(A)の機械4軸からなるもの、あるいは更に旋回軸(C)を合せた5軸制御のもの等が好ましく用いられる。ツールが埋入される薄板の裏側には荷重を支えるための裏当てがあてがわれて用いられる。
【0029】
一般に、プローブを埋入させるための摩擦攪拌接合工具(ツール)の回転軸の位置は突き合わせ面(加工時には表面に突合わせ線として表われる)部ではなく、いずれかの薄板状体に偏っていてもよい。この偏りをツールオフセットという。ツールオフセット量は突合せ面とツール回転軸との距離をいう。ツールオフセット量はプローブの半径以下であることが好ましい。
【0030】
埋入したプローブを突合せ部に平行に移動させことにより、順次接合されていく。摩擦攪拌接合することにより機械的強度が安定した、電気的に信頼性があり、且つ安価な接合が可能となる。
【0031】
ところで一般に、図1に示すように摩擦撹拌接合では、プローブの回転方向と接合方向とが一致している側を「AS、前進側又はアドバンシングサイド( a d v a n c i n g s i d e )」と呼び、一方、このアドバンシングサイドとは反対の側を「RS、後退側又はリトリーティングサイド( r e tre a t i n g s i d e )」と呼ぶ。
【0032】
抵抗合金よりなる薄板状体と導電性金属よりなる薄板状体の側面同士を接合するには、導電性金属よりなる薄板状体をアドバンシングサイド(AS)に配して突き合わせ摩擦攪拌接合することが好ましい。
特に前記抵抗合金がMn(マンガン)10.0〜13.0%、Ni(ニッケル)1.0〜4.0%、残りがCu(銅)、及び不可避的不純物からなる合金、例えばマンガニン(商標)すなわちCu86%、 Mn12%、Ni2%からなる合金であり、前記導電率の高い金属導体がCu(銅)である場合は銅の薄板状体をアドバンシングサイド(AS)に配して突き合わせ摩擦攪拌接合することが好ましい。
逆方向では接合品質が良好なものが得られない場合があるからである。この理由は、あきらかではないが熱伝導率が関与しているものと推測される。
【0033】
又 この場合ツールの回転軸の中心は導電性金属よりなる薄板状体上又は突き合わせ面上であることが好ましい。ツールの回転軸の中心が抵抗合金よりなる薄板状体上にある場合は接合品質の良好なものが得られない場合があるからである。その理由として、ツール回転軸が抵抗合金側では、プローブの損耗が顕著であることが挙げられる。
あるいはツールと熱伝導率の低い抵抗合金との接触面積の増加による過度な接合温度の上昇が、接合品質に影響していることが推測される。
【0034】
このようにして抵抗合金よりなる薄板状体と導電性金属よりなる薄板状体の側面同士が摩擦攪拌接合された結合薄板材料が製造される。
【0035】
抵抗合金よりなる薄板状体と導電性金属よりなる薄板状体が接合された結合薄板材料に対し、更に、抵抗合金よりなる薄板状体部分を挟むように導電性金属よりなる薄板状体の側面を抵抗合金よりなる薄板状体の未接合の側面に突合わせ、導電性金属よりなる薄板状体が摩擦攪拌接合される。
【0036】
尚、この状態で接合されたものを、その接合方向に対し直交方向に裁断、打ち抜き等することにより細断して、抵抗合金の他端に、抵抗合金を挟むように、導電性金属片を摩擦攪拌接合以外の手段で接合して抵抗器を製造してもよい。
しかし通常は2箇所目の接合も以下のように摩擦攪拌接合されるのが好ましい。
【0037】
抵抗合金よりなる薄板状体と導電性金属よりなる薄板状体が接合された結合薄板材料に対し、更に、抵抗合金よりなる薄板状体部分を挟むように導電性金属よりなる薄板状体の側面を抵抗合金よりなる薄板状体の未接合の側面に突合わせ、導電性金属よりなる薄板状体が摩擦攪拌接合する場合においても、抵抗合金よりなる薄板状体と導電性金属よりなる薄板状体の側面同士を接合するには、導電性金属よりなる方形薄板状体をアドバンシングサイド(AS)に配して突き合わせ摩擦攪拌接合することが好ましい。
【0038】
特に前記抵抗合金がMn(マンガン)10.0〜13.0%、Ni(ニッケル)1.0〜4.0%、残りがCu(銅)、及び不可避的不純物からなる合金、例えばマンガニン(商標)すなわちCu86%、 Mn12%、Ni2%からなる合金であり、前記導電率の高い金属導体が純銅、である場合は純銅の薄板状体をアドバンシングサイド(AS)に配して突き合わせ摩擦攪拌接合することが好ましい。
この場合においてもツールの回転軸の中心は導電性金属よりなる薄板状体上又は突き合わせ面上であることが好ましい。ツールの回転軸の中心が抵抗合金よりなる薄板状体上にある場合は接合品質の良好なものが得られない場合があるからである。
【0039】
上述したことを用いて接続端子部/抵抗素子部/接続端子部が各々板状であり一平面状に突き合わせにて接合されている抵抗器を製造するには、抵抗合金よりなる抵抗素子部の両側に導電率の高い金属導体よりなる接続端子部を結合してなる低抵抗金属固定抵抗器を製造すればよく、一の導電性金属よりなる薄板状体の側面と抵抗合金よりなる互いに平行した辺を有する薄板状体の一平行側面とを突き合わせ、前記抵抗合金よりなる薄板状体の他の平行な一側面と他の導電性金属よりなる方形薄板状体の側面とを突き合わせ、各々の前記突き合わせ部にそれぞれ回転する摩擦攪拌接合工具のプローブを埋入して、前記回転プローブを前記突き合わせ部に平行に移動させることにより、摩擦攪拌接合して一の導電性金属よりなる薄板状体と、抵抗合金よりなる薄板状体、他の導電性金属よりなる薄板状体がこの順に側面同士結合された結合薄板状体を形成することができる。
その後、後述するが、前記結合薄板状体をその接合方向に対し直交方向に細断することにより、個々の低抵抗金属固定抵抗器を得ることができる。
【0040】
上記接合をするに際しては、導電性金属よりなる薄板状体と、抵抗合金よりなる薄板状体と、導電性金属よりなる薄板状体との摩擦攪拌接合部分は抵抗合金よりなる方形薄板状体の両側面の2箇所あるが、接合を同時に行っても良いし、逐次行っても良い。
【0041】
かくして導電性金属よりなる薄板状体と、抵抗合金よりなる薄板状体と、導電性金属よりなる薄板状体とがこの順に側面同士接合された結合薄板状体が製造される。
【0042】
前記結合薄板状体をその接合方向に対し直交方向に裁断、打ち抜き等することにより細断して、個々の抵抗器が得られる。裁断、打ち抜き等は金属板に対し通常用いる方法、例えば、プレス加工やワイヤ放電加工等が使用できる。
【発明の効果】
【0043】
請求項1に記載の発明によれば、摩擦攪拌接合することにより生産性にすぐれ、製造設備が高価にならない低抵抗金属固定抵抗器が製造される。
【0044】
請求項2に記載の発明によれば、安定した品質のものが得られることで、高品質な低抵抗金属固定抵抗器が安価に製造される。
【0045】
請求項3に記載の発明によれば、接続強度の安定した低抵抗金属固定抵抗器が安価に製造される。
【0046】
請求項4に記載の発明によれば、抵抗素子材料がMn(マンガン)10.0〜13.0%、Ni(ニッケル)1.0〜4.0%、残りがCu(銅)、及び不可避的不純物からなる合金であり、接続端子材料がCu(銅)にてなるため、抵抗の温度係数が小さい品質が安定した低抵抗金属固定抵抗器が安価に製造される。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】摩擦攪拌接合におけるASとRSを示す模式的な説明図である。
【図2】摩擦攪拌接合におけるツールオフセットを示す模式的な説明図である。
【図3】実施例1の接続部の写真である。
【図4】実施例2の接続部の写真である。
【図5】実施例3の接続部の写真である。
【図6】実施例4の接続部の写真である。
【図7】実施例5の接続部の写真である。
【図8】実施例6の接続部の写真である。
【図9】実施例7の接続部の写真である。
【図10】簡易引張試験片を表す模式図である。
【図11】比較例1の接続部の写真である。
【図12】比較例2の接続部の写真である。
【図13】比較例3の接続部の写真である。
【図14】比較例4の接続部の写真である。
【図15】引張試験のダンベル打抜試験片形状を表す図である。
【図16】実施例12の接続部の写真である。
【図17】電気抵抗を測定する状態を表す写真である。
【図18】比較例5の電子ビームで接合した接続部の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下、本発明の実施例を挙げて本発明を更に説明する。
1.摩擦攪拌接合条件の検討
純銅直方体形状薄板(板厚2mm、幅30mm、長さ200mm)とマンガニン直方体形状薄板(板厚2mm幅30mm、長さ200mm)を被接合体として板側面を突き合わせ接合した。
摩擦攪拌接合工具(ツール)はNi系合金製にてなり、ショルダー面は直径10mmの円板で、プローブはショルダー面の中心に突設され、径が3mm又は4mmで、高さ1.9mm又は0.9mmの円柱状の物を用いた。
上記ツールを、定盤軸(X)と横行軸(Y)と昇降軸(Z)と揺動軸(A)の機械4軸からなる摩擦攪拌接合装置に取り付けて接合した。
ツール前進角:2度
以上の条件にて
押しつけ荷重:500Kg重(4903.3N)〜700kg重(6864.7N)
ツール回転数:500〜2000rpm
ツール移動速度:100〜500mm/min
ツールオフセット量:0〜1.5mm
の範囲内で条件を組み合わせて適切範囲を求め、上記組み合わせの適切な範囲で接合した。
【実施例1】
【0049】
プローブ径4mm
プローブ長1.9mm
1000rpm
200mm/min
押しつけ荷重:700kg(6864.7N)
純銅薄板をアドバンシングサイドに配置。
ツールオフセット量:0.0mm
結果を図3に示す。写真のように外観上接合は良好であった。
【実施例2】
【0050】
プローブ径4mm
プローブ長1.9mm
1000rpm
200mm/min
押しつけ荷重:700kg
純銅薄板をアドバンシングサイドに配置。
ツールオフセット量:純銅側に1.1mm
結果を図4に示す。写真のように外観上接合は良好であった。
【実施例3】
【0051】
プローブ径3mm
プローブ長さ1mm
1000rpm
100mm/min
押しつけ荷重:500kg(4903.3N)
純銅薄板をアドバンシングサイドに配置。
ツール回転軸は純銅薄板上に配置。
ツールオフセット量:純銅側に0.6mm
結果を図5に示す。写真のように外観上接合は良好であった。
【実施例4】
【0052】
プローブ径3mm
プローブ長さ1.9mm
1000rpm
100mm/min
押しつけ荷重:500kg(4903.3N)
純銅薄板をアドバンシングサイドに配置。
ツール回転軸は純銅薄板上に配置。
ツールオフセット量:純銅側に0.6mm
結果を図6に示す。写真のように外観上接合は良好であった。
【実施例5】
【0053】
プローブ径3mm
プローブ長さ1.9mm
1000rpm
100mm/min
押しつけ荷重:500kg(4903.3N)
純銅薄板をアドバンシングサイドに配置。
ツール回転軸は突き合わせ線上に配置。
ツールオフセット量:0
結果を図7に示す。写真のように外観上接合は良好であった。
【実施例6】
【0054】
プローブ径3mm
プローブ長さ1.9mm
1500rpm
200mm/min
押しつけ荷重:500kg(4903.3N)
純銅薄板をアドバンシングサイドに配置。
ツール回転軸は純銅薄板上に配置。
ツールオフセット量:0.6mm
結果を図8に示す。写真のように外観上接合は良好であった。
【実施例7】
【0055】
プローブ径3mm
プローブ長さ1.9mm
1500rpm
200mm/min
押しつけ荷重:500kg(4903.3N)
純銅薄板をアドバンシングサイドに配置。
ツール回転軸は突き合わせ線上に配置。
ツールオフセット量:0
結果を図9に示す。写真のように外観上接合は良好であった。
【0056】
実施例4、5、6、7で得られた接合サンプルにつきワイヤ放電加工により図10の様に長さ方向の中央部に接合部を配置して幅27.6〜28.9mm、長さ77mmの長方形状に切断した。切断は容易であった。
この結果摩擦攪拌接合した抵抗合金よりなる薄板状体と導電性金属よりなる薄板状体が接合された結合薄板材料の直交方向の切断が容易であり、電極が抵抗の両端に接続された場合においても同様に直交方向に切断し抵抗器が得られることが裏付けられた。
切断片につき簡易引張試験を行った。結果を表1に示す。
【0057】
【表1】

(比較例1)
【0058】
実施例1において、アドバンシングサイドにマンガニン薄板を配置したことに変えたこと以外は実施例1と同様の条件で接合した。接合条件を表2に示す。
結果を図11に示す。接合部には乱れが認められた。
(比較例2)
【0059】
実施例2において、アドバンシングサイドにマンガニン薄板を配置したことに変えたこと以外は実施例2と同様の条件で接合した。接合条件を表2に示す。
結果を図12に示す。接合部には乱れが認められた。
(比較例3)
【0060】
実施例3において、アドバンシングサイドにマンガニン薄板を配置したことに変えたこと以外は実施例3と同様の条件で接合した。接合条件を表2に示す。
結果を図13に示す。接合部には乱れが認められた。
(比較例4)
【0061】
プローブ径3mm
プローブ長さ1.9mm
1500rpm
300mm/min
押しつけ荷重:500kg(4903.3N)
マンガニン薄板をアドバンシングサイドに配置。
ツールオフセット量:マンガニン側に0.3mm
接合条件を表2に示す。結果を図14の写真に示す。矢印箇所の接合時に異常音が発生した。接合後確認するとツールのプローブ部が折損していた。
【0062】
(実施例8〜11)
表2に示す条件で接合した。接合部外観は全て良好であった。結合薄板材料につき図15で示すダンベル状にワイヤ放電加工により切り抜き引張強度を測定した。結果を表2に示す。
【0063】
【表2】

【0064】
このように摩擦攪拌接合により強い安定した引張強度が得られており、とりわけ純銅等の電極材料をアドバンシングサイド(AS)に配し、ツールの回転軸を純銅等の電極材料側に配した摩擦攪拌接合により、高品質な接合が安定してできることが分かった。
(実施例12)
【0065】
純銅直方体形状薄板(板厚2mm、幅37mm板、長さ200mm)2枚とマンガニン直方体形状薄板(板厚2mm、幅10mm、長さ200mm)を被接合体として薄板側面同士を以下の条件にて突き合わせ接合した。
摩擦攪拌接合工具(ツール)はNi系合金製にてなる、ショルダー面は直径10mmの円板で、プローブはショルダー面の中心に突設された径が3mmで、高さ1.9mmの円柱状の物を用いた。
上記ツールを、定盤軸(X)と横行軸(Y)と昇降軸(Z)と揺動軸(A)の機械4軸からなる公知の摩擦攪拌接合装置に取り付けて接合使用した。
ツール前進角:2度
押しつけ荷重:500kg重(4903.3N)
ツール回転数:1400rpm
ツール移動速度:100mm/min
ツールの回転軸:純銅板上
ツールオフセット量:0.3mm
純銅薄板をアドバンシングサイドに配置。
ツール回転軸は純銅薄板上に配置。
【0066】
上記条件にて、純銅直方体形状薄板と、マンガニン直方体形状薄板とを突き合わせ摩擦攪拌接合した。次に更にマンガニン直方体形状薄板の他の側面に、他の純銅直方体形状薄板とを突き合わせて、上記条件で摩擦攪拌接合し、純銅板/マンガニン板/純銅板が接合された接合体を得た。図16に外観を示す。接合体の一部を図15に示すダンベル形状にワイヤ放電加工にて切り出し、引張試験を行った。最大引張応力は186MPa、継手効率は85%であった。
【0067】
上記接合体から同様に切り出した他のダンベル形状の試験片につき図17の様にして電気抵抗を測定した。電気抵抗は0.279mΩであった。抵抗温度係数は256ppm/Kであった。
(比較例5)
【0068】
純銅の直方体形状薄板(板厚2mm、幅30mm板、長さ200mm)2枚とマンガニンの直方体形状薄板(板厚2mm、幅10mm板、長さ200mm)を被接合体として、マンガニン薄板を両純銅薄板で挟み込み、薄板側面を突き合わせ真空下、電子ビームにて接合速度2m/minにて接合した。外観を図18に示す。上記接合体から実施例12と同様に切り出した他のダンベル形状の試験片につき同様に電気抵抗を測定した。電気抵抗は0.292mΩであった。抵抗温度係数は230ppm/Kであった。尚溶接部は溝状の凹みができていた。
【0069】
このように、高価で大型の電子ビーム装置にて接合して得られた抵抗器に対し摩擦攪拌接合にて接合した実施例12により得られた抵抗器は電気抵抗、抵抗温度係数においても実質上遜色ないものが得られた。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本願発明によれば、車載用等に今後一層需要の増大する低抵抗金属固定抵抗器を、品質良く安定して安価に製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抵抗合金よりなる抵抗素子部と導電率の高い金属導体よりなる接続端子部が結合されてなる低抵抗金属固定抵抗器の製造方法であって、導電性金属よりなる薄板状体の側面と抵抗合金よりなる薄板状体の側面とを突き合わせ、突き合わせ部に回転する摩擦攪拌接合工具のプローブを埋入して、前記回転プローブを前記突き合わせ部に平行に移動させることにより摩擦攪拌接合して、導電性金属よりなる薄板状体と、抵抗合金よりなる薄板状体が接合された結合薄板状体を形成する工程と、前記結合薄板状体をその接合方向に対し直交方向に細断する工程とを含むことを特徴とする低抵抗金属固定抵抗器の製造方法。
【請求項2】
抵抗合金よりなる抵抗素子部の両側に導電率の高い金属導体よりなる接続端子部を結合してなる低抵抗金属固定抵抗器の製造方法であって、一の導電性金属よりなる薄板状体の側面と抵抗合金よりなる互いに平行した辺を有する薄板状体の一平行側面とを突き合わせ、前記抵抗合金よりなる薄板状体の他の平行な一側面と他の導電性金属よりなる薄板状体の側面とを突き合わせ、各々の前記突き合わせ部には逐次又は同時にそれぞれ回転する摩擦攪拌接合工具のプローブを埋入して、前記回転プローブを前記突き合わせ部に平行に移動させることにより、摩擦攪拌接合して一の導電性金属よりなる薄板状体と、抵抗合金よりなる薄板状体、他の導電性金属よりなる薄板状体がこの順に側面同士結合された結合薄板状体を形成し、前記結合薄板状体をその接合方向に対し直交方向に細断することにより個々の抵抗部品を得ることを特徴とする低抵抗金属固定抵抗器の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の低抵抗金属固定抵抗器の製造方法であって、
導電性金属よりなる薄板状体がAS(アドバンシング サイド)に配され、かつ接合工具であるツールの回転軸が導電性金属よりなる薄板状体上または突き合わせ線上にて突き合わせ摩擦攪拌接合することを特徴とする低抵抗金属固定抵抗器の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の低抵抗金属固定抵抗器の製造方法であって、前記抵抗合金がMn(マンガン)10.0〜13.0%、Ni(ニッケル)1.0〜4.0%、残りがCu(銅)、及び不可避的不純物からなる合金であり、前記導電率の高い金属導体がCuであることを特徴とする低抵抗金属固定抵抗器の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2013−52425(P2013−52425A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−193000(P2011−193000)
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 溶接学会全国大会講演概要 第89集
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度経済産業省、戦略的基盤技術高度化支援事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(592197706)株式会社特殊金属エクセル (9)
【出願人】(512109161)地方独立行政法人大阪府立産業技術総合研究所 (13)
【出願人】(000105350)コーア株式会社 (201)
【Fターム(参考)】