説明

低起泡性ポリエチレン製容器

【課題】
内溶液の起泡性を低減させるポリエチレン製容器を提供する。
【解決手段】
低起泡性容器は、最内面がメルトフローレート(190℃、2.16kg加重)0.1g/10min〜10g/10minであるポリエチレン樹脂で成型され、その最内表面のグロス値が10%〜60%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造用薬品や溶剤、その他の物質を充填、収納し、その輸送や貯蔵に用いられるポリエチレン製容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体分野で用いられるフォトレジスト液は、その溶液粘度が高く、一度気泡が生じてしまうと、なかなか気泡が消失されない。気泡を含んだフォトレジスト液がそのまま工程に使用されると、歩留まりが低下してしまう。
【0003】
また、半導体分野で用いられる希釈溶剤や反射防止膜用溶液などは、界面活性剤が含有されていることが多い。これらの薬液は、その充填時、保管時、輸送時などにわずかな振動でも気泡が生じやすい。充填時に気泡が生じやすいと、薬液の充填速度を低下させざるを得ず、充填サイクルタイムの長時間化、コストアップにつながってしまう。また、保管時や輸送時に容器内部で気泡が生じると、容器内圧が高くなり、開栓時に内容物が吹きこぼれやすくなる。この対策として、容器容量に対して薬液の充填率を低くさせることがある。しかし、容器容量の大型化や使用する容器数量の増加を招き、コストアップにつながる。さらに、気泡を含んだこれらの薬液をそのまま工程に使用すると、やはり歩留まりが低下してしまう。
【0004】
食品用などに用いられる一部の酵素でもやはり容器内部で気泡が生じやすく、開栓時の吹きこぼれなどが問題となることがある。
【0005】
これまで、上記のような問題が存在しながら、起泡の原因は内溶液の特性が大きく影響するため、その対策は内溶液や使用工程に重点をおいてなされてきた。
【0006】
これら薬液の充填容器としてはガラス瓶が挙げられる。ガラス瓶は内溶液の起泡性が低い部類に入る。しかし、ガラス瓶は重い、割れやすい、成形形状の自由度が低い、微粒子やメタルイオンなどの不純物溶出が多いなどのデメリットが数多くある。
【0007】
一方、ポリエチレン容器はこれらのデメリットはほとんどないが、内溶液の起泡性に関しては満足の行くものではなかった。
【0008】
容器から内溶液への溶出物の低減については、これまでに例えば特許文献1などで提案されてきている。
【0009】
特許文献2では、表面粗さ(Ra値)を用い、表面の平滑性を評価し、Ra値で10μm以下を平滑性良好としている。しかし詳細に実験したところ、Ra値とグロス値に相関関係は無く、1μm以下のスケールでの平滑性の差によって生じる、0.1μm以上の気泡のサイズや発生量をこのRa値では全く議論はできないことがわかった。
【0010】
このようにポリエチレン製容器の内表面積と内壁のグロス値による平滑性評価についてはこれまで全く議論や提案がなされていなかった。
【0011】
【特許文献1】特許第2749513号公報
【特許文献2】特開2004−331706号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明はこのような課題を解決するためになされたもので、内溶液の起泡性を低減させることを特徴とするポリエチレン製容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記の目的を達成するためになされた、特許請求の範囲の請求項1に記載された発明は、最内面が、190℃、2.16kg加重におけるメルトフローレート0.1g/10min〜10g/10minであるポリエチレン樹脂で成型され、その最内表面のグロス値が10%〜60%であることを特徴とする低起泡性容器である。
【0014】
ポリエチレンのメルトフローレート(190℃、2.16kg加重)が0.1g/10min〜10g/10minであるポリエチレン樹脂を用いることにより、その表面のグロス値が10%〜60%の容器が得られる。0.1g/10minを切るポリエチレンは非常に硬く、10%を超えるグロス値を得ることはできない。同じくメルトフローレートが10g/10min以下のポリエチレンは軟らかすぎて、溶融成形の場合にはドローダウンが激しく、成形が非常に困難であり、さらには耐ストレスクラッキング性が大幅に低下する。ポリエチレンのメルトフローレート(190℃、2.16kg加重)は、好ましくは0.3g/10min〜8.0g/10min、より好ましくは0.5g/10min〜7.0g/10minである。
【0015】
いかなる重合方法で得られたポリエチレンを用いる容器であっても、容器内壁のグロス値が10%以上であれば内溶液の起泡性がおさえられる。好ましくは15%以上であり、さらに好ましくは20%以上が良い。グロス値の測定方法は、日本電色工業製VGS−300Aを用い、鏡面光沢法で入射角、反射角ともに60度で行った。
【0016】
容器内壁のグロス値が10%以上であれば、容器内壁は好ましい平滑さを保ち、起泡性を低減させることができる。しかしながら、容器内壁のグロス値が60%以上のポリエチレン製容器を得ようとすると、成形中にポリエチレン樹脂で作られるパイプ、いわゆるパリソンが自重によって激しく伸ばされるドローダウンにより成形が非常に困難であり、仮に成形品が得られたとしても、激しい酸化劣化により著しく容器強度が低下してしまう。グロス値が10%以下になると、容器内壁の平滑性が失われ、気泡が生じやすくなってしまう。通常の市販ポリエチレン容器の内面グロス値は5%から8%程度である。
【0017】
請求項2に記載の発明は、少なくとも容器の最内表面を構成するポリエチレンが、ポリエチレンの重合時かつ容器製造時に必要な部材を除き、酸化防止剤かつ/または中和剤を無添加のポリエチレンであることを特徴とする請求項1記載の低起泡性容器である。
【0018】
酸化防止剤は、一般的にポリオレフィン樹脂に使われるのであり、フノール系、リン系、イオウ系などがあげられる。中和剤は、触媒の失活を目的として添加されるものであり、飽和脂肪酸系金属塩などがあげられる。
【0019】
請求項3に記載の発明は、ポリエチレンの密度が0.940g/cm3〜0.970g/cm3であることを特徴とする請求項1または2に記載の低起泡性容器である。
【0020】
ポリエチレンの密度が0.940cm3未満であると容器の剛性が不足し、外圧により容器が座屈してしまう。0.970cm3よりも大きいと耐ストレスクラッキング性が極端に低下するため、薬液の種類によっては容器が破壊されやすくなる。特に界面活性剤が処方されている内溶液の場合、容器に対する攻撃性が非常に高いため、この耐ストレスクラッキング性は非常に重要な項目となる。
【0021】
内溶液の起泡性は、パーティクルカウンターで計測した直径0.1μm以上の気泡数の合計が、1000個/ml以下がよい。気泡数が1000個/ml以下であれば、充填工程で作業性を損なうことはなく、低起泡性容器であるといえる。通常の容器の気泡数は3000個/ml以上の値を示す。
【0022】
パーティクルの測定は、容器容量に対し半量の超純水を充填し、15秒間振とうした後に行う。振とう直後の計測値に対し、一日容器を静置した後の計測値は大幅に、例えば1〜10個/ml前後に減少する。振とう直後のパーティクルの数値と、一日放置後のパーティクルの数値との差が、気泡数になる。一日容器を静置した後の計測値はそのほとんどが埃や溶出物などの微粒子であり、この大幅な減少分は振とうにより生じた気泡である。
【0023】
内溶液の起泡性は、容器内壁の状態および内溶液中の不純物に大きく左右されることがわかった。内壁の平滑性の問題であり、容器内壁の平滑性を向上させること、あるいは平滑性が高くない内壁であっても内表面積をその容器容量に対して極力小さくすることで起泡性は低減される。また、容器から内溶液への溶出物を低減させることによって内溶液の起泡性を低減させることである。これらのことにより、内溶液の起泡性を低減させることが可能である。
【0024】
容器内表面積を容器容量に対して極力小さくするということは、内溶液が容器内壁に接する可能性を極力低くすることが目的である。そうすることによって、平滑ではない内壁であっても内溶液の起泡性に与える影響を極力低くすることができる。これを数式で定義すると容器内表面積/容器容量の比となり、この値が極力小さい方が良い。しかしながら、この比が小さすぎる容器、つまり値が0.04cm2/ccよりも小さい容器は、容器容量が極端に大きい必要があり、容器の取扱などが非常に不便になってしまう。また、この比が4.2cm2/ccよりも大きい容器は、複雑な形状となり、気泡の発生を抑えることができなくなる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の低起泡性ポリエチレン容器を用いると、内溶液中に生ずる気泡を大幅に低減させることが可能となる。このため、本容器は半導体分野のフォトレジスト液や希釈溶剤、反射防止膜用溶液などに使用でき、また、食品用などのその他の分野でも幅広く使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本容器を構成するポリエチレンは、チーグラー型触媒、フィリップス型触媒、メタロセン型触媒などいずれの触媒を用いた重合方法でもかまわないが、いずれの場合であっても高活性型の触媒で重合されたものであることが望ましい。
【0027】
上記条件のポリエチレンは単体である必要はなく、上記樹脂特性条件に当てはまるように2種類以上のポリエチレンをブレンドして用いてもよい。
【0028】
本発明の容器を得るための成形方法は、インジェクションブロー法を含むいかなるブロー成形方法であっても良い。
【0029】
成形する際の樹脂温度は150℃〜230℃、好ましくは160℃〜220℃の範囲内であることが望ましい。樹脂温度が150℃以下のポリエチレンは非常に硬く、押出し成型機に非常に大きな負荷を与えて、容器を得ることが困難である。また、容器が得られたしても、非常にざらつきの大きな表面をもつ容器となり、目的とする内表面の平滑性が高い容器とは言えない。一方、230℃以上の樹脂温度では、ドローダウンが激しくて容器を得ることが困難であると同時に、ポリエチレンの酸化劣化が進行しやすくて容器強度が低下してしまう。
【0030】
上記条件のポリエチレンが内溶液に接する最内面に構成されていれば、容器は単層容器、多層容器のどちらであってもかまわない。最内面のポリエチレンは、着色剤で着色されていても良く、またポリエチレンワックス類も含有していてよい。ポリエチレンワックス類の添加は、グロス値を上げることに有効である。
【0031】
多層容器であるならば、内溶液に接することが無い層には、失活剤や酸化防止剤、紫外線防止剤、着色剤などの添加剤を添加してもよく、またポリエチレンでなくても構わない。
【0032】
容器容量は、上記容器内表面積/容器容量の比が0.04〜4.2cm2/ccの範囲内であればよく、10cc〜1000klの範囲が好ましい。
【実施例】
【0033】
以下、本発明の実施例および本発明適用外の比較例を詳細に記載する。なお、これらは一部の例であって、説明を代表するものではない。
【0034】
(実施例1)
密度が0.960g/cm3、メルトフローレートが0.50g/10minの物性を持つ無添加ポリエチレン単体を直径50mm、L/D=22の押出し機中で180℃に加熱して押出し、ブロー成形法にて容器内表面積/容器容量の比が1cm2/ccである200mlの容器を得た。この容器に100mlの超純水を充填し、パーティクルカウンターで計測した直径0.1μm以上の気泡の数は51.6個/ml、容器最内表面のグロス値は56であった。
【0035】
(実施例2)
密度が0.957g/cm3、メルトフローレートが0.31g/10minの物性を持つ無添加ポリエチレンと密度が0.964g/cm3、メルトフローレートが7g/10minの物性を持つ無添加ポリエチレンをメルトフローレートが0.58g/10minとなるようにブレンドしたものを上記と同様の成形条件で、同形状の容器を得た。この容器に100mlの超純水を充填し、パーティクルカウンターで計測した直径0.1μm以上の気泡の数は77.8個/ml、容器最内表面のグロス値は21であった。
【0036】
(実施例3)
密度が0.951g/cm3、メルトフローレートが0.20g/10minの物性を持つ無添加ポリエチレン単体を直径50mm、L/D=24の押出し機中で180℃に加熱して押出し、ブロー成形法にて容器内表面積/容器容量の比が0.40cm2/ccである4Lの容器を得た。この容器に2Lの超純水を充填し、パーティクルカウンターで計測した直径0.1μm以上の気泡の数は45.8個/ml、容器最内表面のグロス値は33であった。
【0037】
(実施例4)
密度が0.951g/cm3、メルトフローレートが0.20g/10minの物性を持つ無添加ポリエチレン単体を直径38mm、L/D=24の押出し機中で180℃に加熱して押出し、このポリエチレンを多層構造の最内層に配置してブロー成形法にて容器内表面積/容器容量の比が0.40cm2/ccである4Lの多層容器を得た。この容器にナフトキノンジアジド・ノボラック樹脂系フォトレジスト液を満量充填し、LCDプロセス工程に用いたところ、LCDのドット抜け不良の平均が3個/cm2であり、歩留まりは94%と良好であった。
【0038】
(比較例1)
密度が0.956g/cm3、メルトフローレートが0.07g/10minの物性を持ち、酸化防止剤であるジブチルヒドロキシトルエン(BHT)0.020wt%とジステアリルチオジプロピオネート(DSTP)0.030wt%を含有するポリエチレン単体を直径60mm、L/D=24の押出し機中で195℃に加熱して押出し、ブロー成形法にて容器内表面積/容器容量の比が1.4cm2/ccである20Lの容器を得た。この容器に10Lの超純水を充填し、パーティクルカウンターで計測した直径0.1μm以上の気泡の数は2538.1個/ml、容器最内表面のグロス値は8であった。
【0039】
(比較例2)
密度が0.951g/cm3、メルトフローレートが0.20g/10min.の物性を持ち、BHT0.020wt%とDSTP0.030wt%を含有するポリエチレン単体を直径50mm、L/D=24の押出し機中で180℃に加熱して押出し、ブロー成形法にて容器内表面積/容器容量の比が0.40cm2/cc である4Lの容器を得た。この容器にナフトキノンジアジド・ノボラック樹脂系フォトレジスト液を満量充填し、LCDプロセス工程に用いたところ、LCDのドット抜け不良基準8個/cm2の時、歩留まりは53%と大きく悪化した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
最内面が、190℃、2.16kg加重におけるメルトフローレート0.1g/10min〜10g/10minであるポリエチレン樹脂で成型され、その最内表面のグロス値が10%〜60%であることを特徴とする低起泡性容器。
【請求項2】
少なくとも容器の最内表面を構成するポリエチレンが、酸化防止剤または/および中和剤を無添加のポリエチレンであることを特徴とする請求項1記載の低起泡性容器。
【請求項3】
ポリエチレンの密度が0.940g/cm3〜0.970g/cm3であることを特徴とする請求項1または2に記載の低起泡性容器。

【公開番号】特開2007−22610(P2007−22610A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−209451(P2005−209451)
【出願日】平成17年7月20日(2005.7.20)
【出願人】(000100849)アイセロ化学株式会社 (20)
【Fターム(参考)】