説明

低降伏比ウエブ薄肉H形鋼及びその製造方法

【目的】耐震設計による建物用鋼材に適用可能な、低降伏比のウエブ薄肉H形鋼を特定の化学成分の添加により製造する。
【構成】C:0.01〜0.10wt%、Si:0.01〜1.50wt%、Mn:0.05〜0.80wt%、Ti:0.04〜0.40wt%、(ただしTi/C≧4)、Al:0.005〜0.050wt%を含有する鋼を1200℃以上に加熱し、Ar3 点以上の温度で熱間加工した後、冷却速度を80℃/sec以下として引張強さ50〜62kgf/mm2 で降伏比が75%以下であるウエブ薄肉H形鋼を得る。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、引張強さが50〜62kgf/mm2を有し、降伏比が75%以下の建築用の低降伏比ウエブ薄肉H形鋼及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】一般にH形鋼の断面寸法はフランジ板厚がウエブ板厚よりも厚くなっているため、圧延過程ではウエブの冷却速度がフランジに比較して速くなり、圧延時及び冷却時にフランジとウエブとの温度差が生じる。この温度差によって、ウエブに座屈限界を超える圧縮応力が生じるとウエブ波が発生する。
【0003】ところで、ウエブ板厚の薄いサイズのH形鋼は、従来圧延板を用いた溶接法による製造が主体であったが、コストダウンの観点から圧延によるH形鋼が要望されるようになった。圧延法によるウエブ薄肉H形鋼の製造は従来のH形鋼にくらべて、ウエブとフランジの温度差が大きくなるため、冷却時にウエブ波が発生しやすくなる。このようなフランジとウエブの温度差を縮少しウエブ波を防止するために、温度の高いフランジを強制冷却することは有効な手段の一つである。しかし強制冷却によって低温変態生成物が形成され、機械的性質が変動し、降伏比が高くなってしまう問題があった。
【0004】また、近年、大地震による建物の倒壊防止を考慮した終局限界状態設計が採用されはじめており、このような用途の鉄骨鋼材には塑性変形能力の確保の面から降伏比の低いことが必要とされている。経済性に優れた圧延ウエブ薄肉H形鋼を耐震設計法による建物に活用するには低い降伏比を具備させることが必要である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、耐震設計による建物用鋼材に適用可能な、低降伏比のウエブ薄肉H形鋼を、特定の化学成分の添加により得ること、及びこのようなH形鋼、圧延と冷却を適正化した熱間圧延方法によって製造することを目的とするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明は、C :0.01〜0.10wt%Si:0.01〜1.50wt%Mn:0.05〜0.80wt%Ti:0.04〜0.40wt%(但しTi/C≧4)
Al:0.005〜0.050wt%を含み、残部Fe及び不可避的不純物からなり、引張強さが50〜62kgf/mm2 、降伏比が75%以下であることを特徴とする低降伏比ウエブ薄肉H形鋼である。さらに、上記成分に加えてCu:0.05〜0.50wt%Ni:0.05〜0.50wt%Cr:0.05〜0.50wt%、およびNb:0.005〜0.050wt%の1種又は2種以上を含むと、好ましい特性を得ることができる。
【0007】上記低降伏比の薄肉H形鋼を得るための本発明方法は、C :0.01〜0.10wt%Si:0.01〜1.50wt%Mn:0.05〜0.80wt%Ti:0.04〜0.40wt%(但しTi/C≧4)
Al:0.005〜0.050wt%を含み、残部Fe及び不可避的不純物からなる鋼を、1200℃以上の温度に加熱し、Ar3 点以上の温度で熱間加工した後、80℃/sec以下の冷却速度で冷却する工程で製造することを特徴とする引張強さが50〜62kgf/mm2、降伏比が75%以下の低降伏比ウエブ薄肉H形鋼の製造方法である。この発明方法において、さらに上記成分に加えて、Cu:0.05〜0.50wt%Ni:0.05〜0.50wt%Cr:0.05〜0.50wt%Nb:0.005〜0.050wt%のうちの1種又は2種以上を含み、残部Fe及び不可避的不純物からなる鋼を用いるとさらに好適である。
【0008】
【作用】本発明者らは、上記目的を達成するため種々の研究を重ねた結果、特定の化学成分を限定することによって、圧延法によって低降伏比ウエブ薄肉H形鋼が得られることを見出した。以下に本発明の添加元素の数値限定の理由を説明する。Cは強度の向上に有効な元素であるが、0.01wt%未満ではその効果が少なく0.01wt%を下限とした。一方、0.10wt%を超えると降伏強度、引張強度とも高くなりすぎるため0.10wt%を上限とした。
【0009】Siは熱間圧延後の冷却過程でのTiCの析出反応を促進するのに有効な元素で本発明では積極的に添加するのが0.01wt%未満ではこの効果が少ないので0.01wt%を下限とした。また1.5wt%を超えると析出したTiCが粗大化して強度上昇効果が得られなくなり、靭性の劣化も大きくなるので上限を1.50wt%とした。
【0010】MnはAr3 変態を遅滞させ、またTiCの析出反応を抑制し、TiC粒子の微細化に有効な元素である。0.05wt%未満ではその効果がなく0.05wt%を下限とした。また0.80wt%を超えると、引張強度が高くなりすぎるので上限を0.80wt%とした。TiはCと結合してTiCとなり、強度の向上及び低降伏比化に必要な固溶Cの低減に有効な元素で本発明では積極的に添加するが、0.04wt%未満ではこの効果が少ないので0.04wt%を下限とした。0.40wt%を超えると、強度が高くなりすぎるため0.40wt%を上限とした。さらに、低降伏比に有害である固溶Cを減少させるため、TiでCで固着させるためTi/Cを4以上とする必要がある。Ti/Cが高くなりすぎると靭性が劣化する傾向を有するため8以下が好適である。したがって、Ti/C≧4に限定する。
【0011】Alは強力な脱酸効果を有する元素であるが、0.005wt%未満では効果が少ないので、0.005wt%を下限とした。また、0.050wt%を超えて添加しても効果が飽和するので0.050wt%を上限とした。以上の元素以外に必要に応じて添加しうるものとして下記の元素がある。Cu、Ni、CrはAr3 変態を遅滞させる効果を通じて、TiCの微細化を図る上で適量の範囲で用いれば、析出効果量を高めるのに有用である。しかし、これらの元素が0.05wt%未満では効果が少ないので0.05wt%を下限とした。また、0.50wt%を超えると経済面の有利性を失うので0.50wt%を上限とした。
【0012】Nbは炭化物、窒化物となり、強靭化に有効な元素であるが、0.005wt%未満ではこの効果が少ないので、0.005wt%を下限とした。また0.050wt%を超えて添加しても効果が飽和するので0.050wt%を上限とした。次に製造条件について述べる。上記のような化学組成を有する鋼を転炉又は電気炉で溶製し鋳型で造塊にした後、分塊でブルーム又はビームブランクにする。分塊での均熱及び圧延は通常の方法でよい。また、ブルーム又はビームブランクは連続鋳造法により、溶鋼から直接製造してもよい。H形鋼圧延の加熱温度はTiCを固溶させるために1200℃以上が好ましい。1200℃より低いと溶体化が不十分となり、冷却後に十分な析出効果が得られないためである。しかし1350℃を超えるとオーステナイト粒が粗大化しすぎ圧延後の材質に悪影響をおよぼすのと、経済的にも不利になるので1350℃以下が好ましい。
【0013】仕上圧延温度は安定した降伏強度を得るためにAr3 点温度以上が好ましい。仕上圧延温度をAr3 点以上とするのは、この温度未満では加工組織が混入し、材質のバラツキが大きくなる場合があるためである。仕上圧延後の冷却は自然放冷でもよいが、安定した析出効果を得るため、2℃/sec以上80℃/sec以下の冷却速度で強冷冷却する。冷却速度が80℃/secを超えると、TiCの析出量が少なく、十分な析出効果が得られないためである。
【0014】
【実施例】表1に示す化学組成を有する溶鋼から連続鋳造法によりビームブランクとした。これを1250℃に加熱し、熱間圧延によって500×200×6×16mmサイズのウエブ薄肉H形鋼に圧延した。仕上圧延後、40℃/secで冷却したH形鋼のフランジ部よりJIS1号引張試験片を切出して機械的性質を測定した結果を表2、表3に示す。表2、表3に示すように本発明法によると、引張強さ50〜62kgf/mm2 の範囲で降伏比は75%以下が得られる。しかし比較例No.2、No.9、No.10、No.11、No.18、No.20、No.24、No.26〜No.28は化学組成或は製造条件が請求範囲外の場合で、機械的性質の引張強さ、降伏比の片方或は両方が請求範囲を外れている。
【0015】
【表1】


【0016】
【表2】


【0017】
【表3】


【0018】
【発明の効果】以上のように本発明によれば引張強さが50〜62kgf/mm2 で降伏比が75%以下のウエブ薄肉H形鋼を経済的な熱間圧延法によって製造することができるから、耐震設計の建築物に広く適用が可能で大きな経済効果をもたらす。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 C :0.01〜0.10wt%Si:0.01〜1.50wt%Mn:0.05〜0.80wt%Ti:0.04〜0.40wt%(但しTi/C≧4)
Al:0.005〜0.050wt%を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなり、引張強さが50〜62kgf/mm2 、降伏比が75%以下である低降伏比ウエブ薄肉H形鋼。
【請求項2】 さらに、Cu:0.05〜0.50wt%Ni:0.05〜0.50wt%Cr:0.05〜0.50wt%、およびNb:0.005〜0.050wt%のうちの1種又は2種以上を含む請求項1記載の低降伏比ウエブ薄肉H形鋼。
【請求項3】 請求項1記載の成分から成る鋼を1200℃以上の温度に加熱し、Ar3 点以上の温度で熱間加工した後、80℃/sec以下の冷却速度で冷却することを特徴とする引張強さが50〜62kgf/mm2、降伏比が75%以下である低降伏比ウエブ薄肉H形鋼の製造方法。
【請求項4】 鋼成分が請求項2記載の成分である請求項3記載の低降伏比ウエブ薄肉H形鋼の製造方法。