説明

作動媒体の安定化剤、作動媒体組成物および熱交換方法

【課題】圧縮機にて潤滑油の存在下で圧縮されるトリフルオロイオドメタンを含む作動媒体を安定化できる安定化剤、前記安定化剤を含有する作動媒体組成物、ならびに前記安定化剤を用いた熱交換方法の提供。
【解決手段】圧縮機にて潤滑油の存在下で圧縮されるトリフルオロイオドメタンを含む作動媒体の安定化剤であって、ニトロ基を有する炭化水素類を有効成分とする安定化剤。トリフルオロイオドメタンを含む作動媒体と、前記安定化剤とを含有する作動媒体組成物。圧縮機にて、トリフルオロイオドメタンを含む作動媒体を、潤滑油および前記安定化剤の存在下で圧縮する工程を含む熱交換方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オゾン層への影響が少なく、地球温暖化への影響が小さい、トリフルオロイオドメタンを含む作動媒体の安定化剤、前記安定化剤および作動媒体を含む作動媒体組成物、ならびに該作動媒体組成物を用いた熱交換方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、クロロトリフルオロメタンやジクロロジフルオロメタンなどのクロロフルオロカーボン類(CFC類)、クロロジフルオロエタン等のヒドロクロロフルオロカーボン類(HCFC類)は、熱伝達に用いられる作動媒体(たとえば冷凍空調機器、自動車用空調機器等の冷却システムに用いられる冷媒や、廃熱回収発電などに用いられる作動流体、ヒートパイプを始めとする潜熱輸送装置に用いられる作動媒体や二次冷却媒体など)や、発泡剤、各種精密部品等の洗浄用溶剤、クリーニング用溶剤、溶剤、噴射剤等の様々な分野で用いられている。
しかしながら、CFC類やHCFC類は、大気中に放出された場合に、成層圏のオゾン層を破壊し、その結果、人類を含む地球上の生態系に重大な悪影響を及ぼすことが指摘され、規制対象となっている。そのため、現在、CFC類やHCFC類の代わりに、オゾン層破壊を生じる危険性のない、塩素を含まないジフルオロメタン、テトラフルオロエタン、ペンタフルオロエタンなどのヒドロフルオロカーボン類(HFC類)が好適に使用されるようになっている。
しかし、オゾン層を破壊する危険性のないHFC類ではあるが、大気中に放出された場合に、地球温暖化を引き起こす可能性が指摘されている。特に、自動車用空調機器用冷媒として一般的に使用されている1,1,1,2−テトラフルオロエタン(HFC−134a)は、地球温暖化係数が1300(100年値)と大きい。そのため、オゾン層破壊の可能性少なく、かつ地球温暖化の可能性が低い化合物の開発が急務となっている。
HFC−134aに代わる媒体としては、たとえば、自然界に存在する二酸化炭素(CO)や、地球温暖化係数が120(100年値)とHFC−134aの約10分の1と低い1,1―ジフルオロエタン(HFC−152a)が検討されている。
しかし、二酸化炭素は機器圧力が極めて高くなってしまうため、自動車用空調機器等の作動媒体へ応用するには多くの解決すべき課題が指摘されている。また、HFC−152aは燃焼範囲を有しており、安全性を確保するための課題が指摘されている。
【0003】
また、トリフルオロイオドメタン等のイオドカーボン類は、オゾン層への影響が少なく、地球温暖化への影響が小さい化合物の一つとして注目されている。たとえばトリフルオロイオドメタンは、機器圧力がHFC−134aと同様であり、かつオゾン層への影響が少なく、地球温暖化係数が比較的低いとされている。
そのため、イオドカーボン類を作動媒体に用いることが提案されており、たとえば、特許文献1においては、トリフルオロイオドメタンおよびトリフルオロイオドメタンとプロパン、プロピレン、シクロプロパン、ジメチルエーテル、メチルメチレンアミン、ジフルオロメタン、1,1,1−トリフルオロエタン、1,1−ジフルオロエタン、フルオロエタンとの混合媒体が提案され、特許文献2においては、トリフルオロイオドメタン、ジフルオロメタン、およびペンタフルオロエタン混合作動媒体が提案されている。また、特許文献3においては一般式CBrClで表されるフルオロイオドカーボンを含む混合媒体が提案され、特許文献4においてはトリフルオロイオドメタン、1,1,1,2−テトラフルオロエタン、1,1−ジフルオロエタン混合媒体が提案されている。
しかし、イオドカーボン類は、ヨウ素原子と炭素原子との結合エネルギーが他のハロゲン原子と炭素原子との結合エネルギーに比べると極めて小さいため、ヨウ素原子と炭素原子との結合が容易に切断されやすく、分解しやすい問題がある。
特に、イオドカーボン類を作動媒体として用いた場合に、当該イオドカーボン類の分解は冷凍空調機器、自動車用空調機器等の機器性能の低下を引き起こすおそれがある。
すなわち、作動媒体、たとえば冷凍空調機器、自動車用空調機器等に用いられる冷媒は、一般に、作動媒体を圧縮して高温高圧のガスとする圧縮機、該圧縮機で圧縮された作動媒体を凝縮させ、低温の液体とする凝縮器、該凝縮器によって凝縮された作動媒体を断熱膨張させる膨張手段、該膨張手段により膨張した作動媒体の冷熱を交換する熱交換器等を備えた装置内を循環する。このとき、圧縮機にて、潤滑剤の存在下で圧縮され、高温高圧状態とされるため、トリフルオロイオドメタンの分解が生じやすい。また、トリフルオロイオドメタンだけでなく、潤滑油の酸化も生じやすい。
トリフルオロイオドメタンの分解や潤滑油の酸化は、冷凍空調機器、自動車用空調機器等の機器性能の低下を引き起こすおそれがある。また、これらの分解や酸化により生じる生成物は、当該機器を構成する金属材料の腐食や膨張機器の閉塞等を引き起こすおそれがある。
【0004】
特許文献5〜6には、トリフルオロイオドメタンの分解を防止するために、ラジカル連鎖禁止剤を配合することが提案されている。これらの特許文献においては、具体的なラジカル連鎖禁止剤としては、ヒンダードフェノール構造、アリールアミン構造、ヒンダードピペリジン構造、チオエーテル構造、ホスファイト構造の化合物が単独あるいは組み合わせて使用できると記載されている。また、特許文献7においては、イオドカーボン類の安定化のために、イソプレン類、プロパジエン類、テルペン類等を配合することが提案されている。また、特許文献8においては、トリフルオロイオドメタンの安定化剤として、フェノール化合物や、フェノール化合物とエポキシ化合物との組み合わせが提案されている。
しかしながら、これらの特許文献に用いられている化合物では、トリフルオロイオドメタンの分解を充分に防止することは難しい。
一方、特許文献9においては、炭素数1〜2のイオドカーボンと沸点70℃以下の低沸点脂肪族炭化水素からなる合成樹脂用発泡剤が提案されており、必要に応じて、該合成樹脂発泡剤の分解抑制剤としてニトロ化合物、芳香族炭化水素、脂肪族不飽和炭化水素、エポキシ化合物、フェノール化合物などを配合できることが記載されている。ただし、特許文献9には分解抑制剤の具体的効果は記載されていない。また、特許文献9は合成樹脂発泡剤、特にポリウレタン又はポリイソシアヌレート発泡剤に関するものであるため、該分解抑制剤が冷凍空調機器等の作動媒体に使用された際の効果を類推することは不可能である。
【特許文献1】特開平4−323294号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開平8−277389号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】米国特許第5,611,210号明細書(特許請求の範囲)
【特許文献4】米国特許第6,270,689号明細書(特許請求の範囲)
【特許文献5】特開平9−59612号公報(特許請求の範囲)
【特許文献6】特開平9−111231号公報(特許請求の範囲)
【特許文献7】国際公開第2006/069362号パンフレット(特許請求の範囲)
【特許文献8】米国特許出願公開第2006/0033072号明細書(特許請求の範囲)
【特許文献9】特開2000−191816号公報(発明の実施の形態)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、圧縮機にて潤滑油の存在下で圧縮されるトリフルオロイオドメタンを含む作動媒体を安定化できる安定化剤、前記安定化剤を含有する作動媒体組成物、ならびに前記安定化剤を用いた熱交換方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下の態様を有する。
[1]圧縮機にて潤滑油の存在下で圧縮されるトリフルオロイオドメタンを含む作動媒体の安定化剤であって、
ニトロ基を有する炭化水素類を有効成分とする安定化剤。
[2]前記ニトロ基を有する炭化水素類が、ニトロアルカン類および/またはニトロ基を有する芳香族炭化水素類である[1]に記載の安定化剤。
[3]さらにエポキシ化合物を含む[1]または[2]に記載の安定化剤。
[4]トリフルオロイオドメタンを含む作動媒体と、[1]〜[3]のいずれか一項に記載の安定化剤とを含有する作動媒体組成物。
[5]圧縮機にて、トリフルオロイオドメタンを含む作動媒体を、潤滑油および[1]〜[3]のいずれか一項に記載の安定化剤の存在下で圧縮する工程を含む熱交換方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の安定化剤によれば、圧縮機にて潤滑油の存在下で圧縮されるトリフルオロイオドメタンを含む作動媒体を安定化できる。また、当該作動媒体を圧縮する際の潤滑油の酸化も抑制できる。したがって、これらの作動媒体および潤滑油が用いられる冷凍空調機器、自動車用空調機器等の機器の性能の低下や、当該機器を構成する金属材料の腐食等を防止できる。
また、本発明の作動媒体組成物および熱交換方法は、圧縮機にて潤滑油の存在下で圧縮される際の作動媒体の安定性に優れる。また、作動媒体としてトリフルオロイオドメタンを含むため、オゾン層への影響が少なく、地球温暖化への影響が小さい。したがって、冷凍空調機器、自動車用空調機器等の冷却システム用の冷媒や廃熱回収発電などの作動流体、ヒートパイプを始めとする潜熱輸送装置用作動媒体や二次冷却媒体等として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
<安定化剤>
本発明の安定化剤は、ニトロ基を有する炭化水素類(以下、ニトロ基含有炭化水素類ということがある。)を有効成分とするものである。
ここで、本明細書および特許請求の範囲において、「ニトロ基を有する炭化水素類」とは、ニトロ基を有する炭化水素を基本骨格とする化合物であり、ニトロ基を有する炭化水素のほか、ニトロ基を有する炭化水素の水素原子の一部または全部が、ニトロ基以外の置換基で置換された化合物を包含する。
ニトロ基含有炭化水素類における「炭化水素」は、飽和炭化水素であってもよく、不飽和炭化水素であってもよい。また、芳香族炭化水素であってもよく、芳香族性を有さない炭化水素(脂肪族炭化水素)であってもよい。
ニトロ基含有炭化水素類が有していてもよい「ニトロ基以外の置換基」としては、水酸基、アルコキシ基、アルキルカルボニル基等が挙げられる。
【0009】
ニトロ基含有炭化水素類としては、公知乃至周知の化合物が例示されるが、ニトロアルカンおよび/またはニトロ基を有する芳香族炭化水素類が好ましい。
ニトロアルカンとしては、炭素数1〜3のニトロアルカンが好ましく、具体的には、ニトロメタン、ニトロエタン、1−ニトロプロパン、2−ニトロプロパン等が挙げられる。
ニトロ基を有する芳香族炭化水素類としては、ベンゼン環を有する炭化水素に1〜3個のニトロ基が結合した化合物が好ましい。ベンゼン環を有する炭化水素としては、ベンゼン、アルキルベンゼン等が挙げられる。該化合物は、ニトロ基以外の置換基を有していてもよく、有していなくてもよい。該化合物として、具体的には、ニトロベンゼン、o−、m−又はp−ジニトロベンゼン、トリニトロベンゼン、o−、m−又はp−ニトロトルエン、o−、m−又はp−エチルニトロベンゼン、2,3−、2,4−、2,5−、2,6−、3,4−又は3,5−ジメチルニトロベンゼン、o−、m−又はp−ニトロアセトフェノン、o−、m−又はp−ニトロフェノール、o−、m−又はp−ニトロアニソール等が挙げられる。
これらはいずれか一種を単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0010】
本発明の安定化剤は、さらにエポキシ化合物を含むことが好ましい。これにより、トリフオロイオドメタンの分解をより効果的に防止でき、作動媒体の安定性がさらに向上する。
エポキシ化合物としては、公知乃至周知の化合物が例示され、たとえば、エチレンオキサイド、1,2−ブチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、スチレンオキサイド、シクロヘキセンオキサイド、グリシドール、エピクロルヒドリン、グリシジルメタアクリレート、フェニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、メチルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル等のモノエポキシ系化合物、ジエポキシブタン、ビニルシクロヘキセンジオキサイド、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントルグリシジルエーテル等のポリエポキシ系化合物等が挙げられる。
これらはいずれか一種を単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
本発明の安定化剤中、エポキシ化合物の含有量は、ニトロ基含有炭化水素類の含有量100質量部に対し、0.1〜50質量部が好ましく、0.5〜20質量部がより好ましい。
【0011】
本発明の安定化剤は、ニトロ基を有する炭化水素類およびエポキシ化合物以外に、さらに、他の安定化剤として、たとえばフェノール類、アミン類、α―メチルスチレンやp−イソプロペニルトルエン、イソプレン類、プロパジエン類、テルペン類等の炭化水素等を含有してもよい。
フェノール類としては、水酸基以外にアルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、カルボキシル基、カルボニル基、ハロゲン等各種の置換基を含むフェノール類も含むものである。たとえば、2,6−ジーt−ブチルーp−クレゾール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、チモール、p−t−ブチルフェノール、o−メトキシフェノール、m−メトキシフェノール、p−メトキシフェノール、オイゲノール、イソオイゲノール、ブチルヒドロキシアニソール、フェノール、キシレノール等の1価のフェノールあるいはt−ブチルカテコール、2,5−ジ−t−アミノハイドロキノン、2,5−ジ−t−ブチルハイドロキノン等の2価のフェノール等が例示される。
アミン類としては、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ジイソプロピルアミン、ジイソブチルアミン、ジーn−プロピルアミン、ジアリルアミン、トリエチルアミン、N−メチルアニリン、ピリジン、モルホリン、N−メチルモルホリン、トリアリルアミン、アリルアミン、α―メチルベンジルアミン、メチルアミン、ジ゛メチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ジプロピルアミン、ブチルアミン、イソブチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミン、ジベンチルアミン、トリベンチルアミン、2−エチルヘキシルアミン、アニリン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルエニリン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ジエチレントリアミン、テトラエチレンペンタミン、ベンジルアミン、ジベンジルアミン、ジフェニルアミン、ジレチルヒドロキシルアミン等が例示される。
これらはいずれか一種を単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
本発明の安定化剤中、上記他の安定化剤の含有量は、ニトロ基含有炭化水素類およびエポキシ化合物の合計量100質量部に対し、0.1〜20質量部が好ましく、0.5〜10質量部がより好ましい。
【0012】
本発明の安定化剤の使用方法、つまり本発明の安定化剤を用いたトリフルオロイオドメタンを含む作動媒体の安定化方法としては、たとえば、圧縮機にて潤滑油の存在下でトリフルオロイオドメタンを含む作動媒体を圧縮する工程を、前記本発明の安定化剤の存在下で行う方法が挙げられる。
かかる方法において、安定化剤は、予め、作動媒体および潤滑剤の一方または両方に添加してもよく、また、単独で圧縮機内に添加してもよい。
このとき、安定化剤の使用量は、特に限定されないが、トリフルオロイオドメタン(100質量部)に対して、0.001〜20質量部が好ましく、 0.01〜10質量部がより好ましく、0.05〜5質量部がさらに好ましい。上記範囲の下限値以上であると、本発明の効果が充分に得られ、上限値以下であると、作動媒体特性、冷媒性能等の点で好ましい。
作動媒体および潤滑剤については、詳しくは下記本発明の作動媒体組成物の項で説明する。
【0013】
<作動媒体組成物>
本発明の作動媒体組成物は、トリフルオロイオドメタンを含む作動媒体と、前記本発明の安定化剤とを含有する。
【0014】
作動媒体中、トリフルオロイオドメタンの割合は、たとえば25〜100質量%が好ましく、25〜75質量%がより好ましい。
作動媒体は、トリフルオロイオドメタン以外に、作動媒体として従来公知の化合物を含有してもよい。かかる化合物としては、たとえば、トリフルオロイオドメタン以外のイオドカーボン類、ヒドロフルオロカーボン類(HFC類)、不飽和HFC類、環状HFC類、環状不飽和HFC類等のハロゲン化化合物、二酸化炭素、炭化水素類等が挙げられる。
トリフルオロイオドメタン以外のイオドカーボン類としては、たとえばペンタフルオロイオドエタン、ジフルオロイオドメタン等が挙げられる。
HFC類としては、たとえばジフルオロメタン、ジフルオロエタン、トリフルオロエタン、テトラフルオロエタン、ペンタフルオロエタン等が挙げられる。
不飽和HFC類としては、たとえば3,3,3−トリフルオロプロピレン、1,3,3,3-テトラフルオロプロピレン、2,3,3,3−テトラフルオロプロピレン、1,2,3,3−テトラフルオロプロピレン、1,1,3,3,3−ペンタフルオロプロピレン、1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピレン等が挙げられる。
炭化水素類としては、たとえばプロパン、ブタン、イソブタン、ペンタン等が挙げられる。
これらはいずれか一種を単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0015】
本発明の作動媒体組成物中、前記安定化剤の含有量は、特に限定されないが、トリフルオロイオドメタン(100質量部)に対して、0.001〜20質量部が好ましく、0.01〜10質量部がより好ましく、0.05〜5質量部がさらに好ましい。上記範囲の下限値以上であると、本発明の効果が充分に得られ、上限値以下であると、作動媒体特性等の点で好ましい。
【0016】
本発明の作動媒体組成物は、さらに、潤滑油を含有してもよい。
潤滑油としては、一般に、作動媒体を圧縮する圧縮機に用いられている公知乃至周知の化合物を利用できる。
本発明において、潤滑油は、100℃における動粘度が、2〜150mm/s(cSt)であることが好ましく、4〜100mm/sであることがより好ましい。また、40℃における動粘度が2〜300mm/sであることが好ましく、4〜150mm/sであることがより好ましい。
ここで、本発明において、潤滑油の動粘度とは、JIS K2283に規定される動粘度試験方法により測定される値である。
【0017】
潤滑油の具体例としては、たとえばエステル系潤滑油、エーテル系潤滑油、ポリグリコール油などの含酸素系合成油、フッ素系潤滑油、鉱物油、炭化水素系合成油などが例示される。
エステル系潤滑油としては、二塩基酸エステル油、ポリオールエステル油、コンプレックスエステル油、ポリオール炭酸エステル油などが例示される。
二塩基酸エステルとしては、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸などの炭素数5〜10の二塩基酸と、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノールなどの直鎖または分枝アルキル基を有する炭素数1〜15の一価アルコールとのエステルが好ましい。具体的には、グルタル酸ジトリデシル、アジピン酸ジ(2−エチルヘキシル)、アジピン酸ジイソデシル、アジピン酸ジトリデシル、セバシン酸ジ(3−エチルヘキシル)などが挙げられる。
【0018】
ポリオールエステル油としては、ジオールまたは水酸基を3〜20個有するポリオールと、炭素数6〜20の脂肪酸とのエステルが好ましい。
ここで、ジオールとしては、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、1,5−ペンタジオール、ネオペンチルグリコール、1,7−ヘプタンジオール、1,12−ドデカンジオールなどが挙げられる。
水酸基を3〜20個有するポリオールとしては、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ペンタエリスリトール、グリセリン、ソルビトール、ソルビタン、ソルビトールグリセリン縮合物などが挙げられる。
炭素数6〜20の脂肪酸としては、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、エイコサン酸、オレイン酸などの直鎖または分枝のもの、あるいはα炭素原子が4級であるいわゆるネオ酸などが挙げられる。
ポリオールエステル油は、遊離の水酸基を有していてもよい。
ポリオールエステル油としては、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ペンタエリスルトールなどのヒンダードアルコールのエステルで、トリメチロールプロパントリペラルゴネート、ペンタエリスリトール2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールテトラペラルゴネートなどが好ましい。
【0019】
コンプレックスエステル油とは、脂肪酸および二塩基酸と、一価アルコールおよびポリオールとのエステルであって、これらの脂肪酸、二塩基酸、一価アルコール、ポリオールとしては、前述のものが同様に使用できる。
【0020】
ポリオール炭酸エステル油とは、炭酸とポリオールとのエステルである。ここでいうポリオールとしては、ジオールを単独重合または共重合したポリグリコール、前述のポリオールエステルの説明で例示したものと同様のポリオール、またはポリオールにポリグリコールを付加したものなどが使用できる。
ジオールとしては、前述のポリオールエステルの説明で例示したものと同様のものが使用できる。ポリグリコールとしては、ポリアルキレングリコール、そのエーテル化合物、およびそれらの変性化合物などが好ましく使用される。
ポリアルキレングリコールとしては、エチレンオキシド、プロピレンオキシドなどの炭素数2〜4のアルキレンオキシドを、水や水酸化アルカリを開始剤として重合させる方法などにより得られるものが挙げられる。また、ポリアルキレングリコールの水酸基をエーテル化したものも使用できる。このポリアルキレングリコール中のオキシアルキレン単位は、1分子中において同一でもよく、2種以上のオキシアルキレン単位が含まれていてもよい。1分子中に少なくともオキシプロピレン単位が含まれることが好ましい。
【0021】
ポリグリコール油としては、ポリアルキレングリコールをベースとするポリアルキレングリコール油が好ましい。ポリアルキレングリコールとしては、たとえば、メタノール、ブタノール、ペンタエリスリトール、グリセロール等の1価または多価アルコール上に炭素数2〜4のアルキレンオキシドが付加した化合物等の、ヒドロキシ基開始ポリアルキレングリコールが挙げられる。また、該ヒドロキシ基開始ポリアルキレングリコールの末端が、メチル基等のアルキル基でキャップされたものも挙げられる。
【0022】
フッ素系潤滑油としては、後述する鉱物油やポリα−オレフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレンなどの合成油の水素原子をフッ素原子にて置き換えた化合物、パーフルオロポリエーテル油およびフッ素化シリコーン油などが例示される。
鉱物油としては、たとえば、原油を常圧蒸留または減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、白土処理などの精製処理を適宜組み合わせて精製したパラフィン系鉱物油やナフテン系鉱物油などが使用できる。
炭化水素系合成油としては、たとえば、ポリ−α−オレフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレンが使用できる。
【0023】
これらの各種潤滑油は、1種のみの使用もでき、2種以上の混合使用もできる。
本発明においては、作動媒体との相溶性を考慮すると、鉱物油および/またはポリグリコール油が好ましく、ナフテン系鉱物油および/またはポリアルキレングリコール油がより好ましい。中でも、本発明の安定化剤により顕著な酸化防止効果が得られることから、ポリアルキレングリコール油が好ましい。
本発明の作動媒体組成物中、潤滑油の含有量は、特に限定されず、用途、圧縮機の形式等によっても異なるが、通常、作動媒体(100質量部)に対して、10〜100質量部が好ましく、20〜50質量部がより好ましい。
【0024】
本発明の作動媒体組成物は、上記以外に、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の添加剤を含有してもよい。該添加剤としては、たとえば、耐酸化性向上剤、耐熱性向上剤、金属不活性剤等の添加剤や潤滑油使用されている耐荷重添加剤、消泡剤、極圧剤、防錆剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤などの各種添加剤が挙げられる。
【0025】
<熱交換方法>
本発明の熱交換方法は、圧縮機にて、トリフルオロイオドメタンを含む作動媒体を、潤滑油および前記本発明の安定化剤の存在下で圧縮する工程を含む。
本発明の熱交換方法は、たとえば、図1に概略構成図を示す熱交換サイクルシステムに適用できる。
図1に示す熱交換サイクルシステム20は、作動媒体の蒸気(作動媒体蒸気)Gを圧縮して該作動媒体蒸気Gを高温高圧の作動媒体蒸気Hとする圧縮機21と、圧縮機21から排出された作動媒体蒸気Hを冷却し、液化して低温高圧の作動媒体Iとする凝縮器22と、凝縮器22から排出された作動媒体Iを膨張させて低温低圧の作動媒体Jとする膨張弁23と、膨張弁23から排出された作動媒体Jの冷熱を交換し、該作動媒体を高温低圧の蒸気(作動媒体蒸気G)とする熱交換器(蒸発器)24と、熱交換器24に熱源流体Kを供給するポンプ25と、凝縮器22に負荷流体Lを供給するポンプ26とを具備して概略構成されるシステムである。
【0026】
熱交換サイクルシステム20においては、以下の工程(i)〜(iv)が繰り返される。
(i)熱交換器24から排出された作動媒体蒸気Gを、圧縮機21にて潤滑油の存在下で圧縮して高温高圧の作動媒体蒸気Hとする工程。
(ii)圧縮機21から排出された作動媒体蒸気Hを、凝縮器22にて、負荷流体Lによって冷却し、液化して低温高圧の作動媒体Iとする工程。この際、負荷流体Lは加熱されて流体L’となり、凝縮器22から排出される。
(iii)凝縮器22から排出された作動媒体Iを膨張弁23にて膨張させて低温低圧の作動媒体Jとする工程。
(iv)膨張弁23から排出された作動媒体Jを、熱交換器24にて熱源流体Kによって加熱して高温低圧の作動媒体蒸気Gとする工程。この際、熱源流体Kは冷却されて流体K’となり、熱交換器24から排出される。
【0027】
前記(i)の工程において、作業媒体蒸気Gは、圧縮により高温高圧の蒸気(例えば、温度120〜170℃、圧力1〜2MPa程度の蒸気)とされる。
本発明においては、前記(i)の、作動媒体蒸気Gを、圧縮機21にて圧縮する際に、潤滑油とともに前記本発明の安定化剤を存在させることにより、作動媒体を安定化でき、たとえばトリフルオロイオドメタンの分解を抑制できる。また、潤滑油の酸化も防止できる。
安定化剤は、予め、作動媒体および潤滑剤の一方または両方に添加してもよく、また、単独で圧縮機内に添加してもよい。
安定化剤の使用量は、特に限定されないが、トリフルオロイオドメタン(100質量部)に対して、0.001〜20質量部が好ましく、0.01〜10質量部がより好ましく、0.05〜5質量部がさらに好ましい。上記範囲の下限値以上であると、本発明の効果が充分に得られ、上限値以下であると作動媒体特性、冷媒性能等の点で好ましい。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例にのみに限定されるものではない。
下記実施例および比較例において使用した測定方法を以下に示す。
[トリフルオロイオドメタンの純度]
トリフルオロイオドメタンの純度および酸分は、それぞれ、JIS K1560の「4.4 純度」および「4.6 酸分」の規定に準拠して測定した。
[潤滑油の動粘度および全酸価]
潤滑油の動粘度および全酸価は、それぞれ、JIS K2211(冷凍機油)に規定される測定方法、すなわち、JIS K2283(原油及び石油製品−動粘度試験方法及び粘度指数算出方法)に規定される動粘度試験方法、ならびにJIS K2501(石油製品及び潤滑油−中和価試験方法)に規定される全酸価試験方法および強酸価試験方法に準拠して測定した。
【0029】
[実施例1〜8、比較例1〜10]
ステンレス(SUS−316)製耐圧容器(ポータブルリアクター、TVS−N2タイプ、内容積200mL;耐圧テクノ社製)内に、パイレックス(登録商標)硝子製内挿管を導入した。
一方、ポリテトラフルオロエチレン製のスペーサに、3種類(鉄、銅、アルミニウム)の金属片(直径3mmの穴の開いた、30mm×30mm×3mmの板状)を、各金属片が相互に直接接触することがない様にSUS製ボルトで固定し、これを、前記耐圧容器内に投入した。
次に、前記耐圧容器内に、表1に示す潤滑油50gおよび安定化剤を投入した後、該耐圧容器に蓋をして完全に密閉状態とした後、該耐圧容器を−50℃に冷却して潤滑油を固化させた。次に、耐圧容器内を真空排気した後、トリフルオロイオドメタン50gを充填して作動媒体組成物とした。
耐圧容器からの漏洩のないことを確認した後、該耐圧容器を熱風循環型恒温槽内へ設置し、125℃で14日間保持(エージング)した。
14日間経過した後、耐圧容器を取り出し、トリフルオロイオドメタンの純度および酸分、ならびに潤滑油の全酸価を、前記測定方法により測定した。
また、対照(試験前)として、安定化剤を添加しない以外は上記と同様にして作動媒体組成物を調製し、該作動媒体組成物について、上記と同様、トリフルオロイオドメタンの純度および酸分、ならびに潤滑油の全酸価を測定した。
それらの結果を表2に示す。表2中、純度が低いほど、または酸分の値が大きいほど、トリフルオロイオドメタンが分解していることを示す。また、全酸価の値が大きいほど、潤滑油が酸化していることを示す。
【0030】
【表1】

【0031】
表1中のナフテン系鉱物油は、スニソ 5GS(出光興産(株)製、100℃における動粘度:8.09mm/s、40℃における動粘度:95.9mm/s、流動点:−27.5℃)である。
また、ポリアルキレングリコール油は、HFC134a用カーエアコン用コンプレッサーオイル ND−oil 8((株)デンソー製)
また、安定化剤の配合量(%)は、トリフルオロイオドメタン(100質量%)に対する割合(質量%)である。
【0032】
【表2】

【0033】
潤滑油としてナフテン系鉱物油を配合し、安定化剤の配合量(対トリクロロイオドメタン)が同じである実施例1、3および比較例6〜9、ならびに潤滑油としてナフテン系鉱物油を使用し、安定化剤を配合しなかった比較例3を比較すると、実施例1、3は、純度は比較例3、6〜9と同等以上であり、酸分、全酸価はともに、比較例6〜9に比べて大幅に改善されていた。
一方、ニトロ基含有炭化水素類以外の安定化剤を配合した比較例6〜9は、安定化剤を配合しなかった比較例3よりも酸分や全酸価の値が悪くなっていた。この結果から、ニトロ基含有炭化水素類以外の安定化剤を配合することにより、逆にトリフルオロイオドメタンの分解および潤滑油の酸化が促進されたことが推測される。
同様に、潤滑油としてナフテン系鉱物油を配合し、安定化剤のトータルの配合量(対トリクロロイオドメタン)が同じである実施例2、4〜7と比較例1、2とを比較すると、実施例2、4〜7は、純度、酸分、全酸価のすべての項目が、比較例1、2に比べて大幅に改善されていた。また、実施例2、4〜7のうち、ニトロ基含有炭化水素類とエポキシ化合物とを併用した実施例5〜7は純分の結果が特に良好で、試験前とほぼ同等の純分が維持されていた。
また、潤滑油としてポリアルキレングリコール油を配合した実施例8と比較例4とを比較すると、実施例8は、比較例4に比べて、純度、酸分、全酸価のすべての項目が改善されており、特に全酸価の結果が良好であった。
上記の結果から、ニトロ基含有炭化水素類を含む安定化剤により、トリフルオロイオドメタンの分解および潤滑油の酸化を効果的に抑制できたことが確認できた。
【0034】
また、潤滑油を配合し、安定剤を配合しなかった比較例3〜4と、潤滑油および安定剤の両方を配合しなかった比較例5とを比較すると、潤滑油を配合した比較例3〜4の方が、トリフルオロイオドメタンの純分が大幅に低下していた。この結果から、潤滑油が存在する系において、トリフルオロイオドメタンの分解が促進されることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】熱交換サイクルシステムの一例を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0036】
20…熱交換サイクルシステム、21…圧縮機、22…凝縮器、23…膨張弁、24…熱交換器、25…ポンプ、26…ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機にて潤滑油の存在下で圧縮されるトリフルオロイオドメタンを含む作動媒体の安定化剤であって、
ニトロ基を有する炭化水素類を有効成分とする安定化剤。
【請求項2】
前記ニトロ基を有する炭化水素類が、ニトロアルカンおよび/またはニトロ基を有する芳香族炭化水素類である請求項1に記載の安定化剤。
【請求項3】
さらにエポキシ化合物を含む請求項1または2に記載の安定化剤。
【請求項4】
トリフルオロイオドメタンを含む作動媒体と、請求項1〜3いずれか一項に記載の安定化剤とを含有する作動媒体組成物。
【請求項5】
圧縮機にて、トリフルオロイオドメタンを含む作動媒体を、潤滑油および請求項1〜3いずれか一項に記載の安定化剤の存在下で圧縮する工程を含む熱交換方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−159310(P2010−159310A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−120340(P2007−120340)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】