説明

作業機械

【課題】油圧ポンプの個体差に起因した油圧ポン吸収トルクのばらつきによって生じる作業機械毎の作業量のばらつきを抑制する。
【解決手段】第2の学習モードスイッチがオンされて第2の学習が指示され、第2学習制御条件が成立し、かつ、その他所定の条件が整うと、油圧ポンプの個体差によって生じる油圧ポンプの傾転のばらつきを是正するための補償指令圧ΔPcompを算出して記憶する。そして、通常の作業時に、補償指令圧ΔPcompを用いた補正された駆動電流iを電磁比例減圧弁4に出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ショベルなどの作業機械に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、操作レバーの操作量に応じた傾転制御信号によりポンプ傾転を制御するようにした装置が知られている(たとえば特許文献1参照)。この特許文献1に記載の装置では、操作レバーの操作量に応じた傾転制御信号を出力して比例電磁弁を駆動し、この比例電磁弁の駆動によって切換弁に作用するパイロット圧(指令圧)を調整し、切換弁の駆動によりポンプ傾転を目標ポンプ傾転に制御するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第WO2005/100793号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した特許文献に記載の装置では、指令圧の目標値と実測値とのズレに基づいて傾転制御信号(目標駆動電流)を補正することにより、比例電磁弁の個体差による傾転誤差を補正している。しかし、指令圧が同じであっても、ポンプ間の個体差によりポンプ傾転が油圧ポンプ毎に異なるおそれがある。そのため、エンジントルクカーブとポンプトルクカーブとのマッチング点でエンジンが運転される重負荷作業では、同一型式の作業機械であっても、油圧ポンプの吸収トルクに差が生じてマッチング点でのエンジン回転数が作業機械間でずれ、その結果、作業量に差が生じるおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下では、実施の形態の図面の符号を参考のために付して説明するが、これにより本発明が実施の形態に限定されるものではない。
請求項1の発明は、目標エンジン回転数を指示するエンジン回転数指示手段15と、前記エンジン回転数指示手段15で指示されたエンジン回転数に基づき、予め定めた出力トルクカーブに沿った出力で運転されるエンジン21と、前記エンジン21の実回転数と前記目標エンジン回転数との偏差を第1偏差として算出する第1偏差算出手段621と、前記エンジン21で駆動され、傾転が調節される可変容量油圧ポンプ1と、電磁比例減圧弁4から出力される指令圧で前記可変容量油圧ポンプ1の傾転を調節する傾転調節手段3と、操作レバー12の操作量に応じた目標傾転を出力する目標傾転出力手段9と、前記目標傾転と前記第1偏差とに基づいて、前記電磁比例減圧弁4を駆動する傾転制御信号を演算する傾転制御信号演算手段60Aと、前記可変容量油圧ポンプ1の個体差を補償する学習を行う学習手段60Bとを備える。
そして、前記学習手段60Bは、前記学習を指示する指示手段13と、前記出力トルクカーブの設計値と前記可変容量油圧ポンプの負荷トルクカーブの設計値とが交差するマッチング点における運転条件で作業機械を運転した状態で、前記エンジン21の実回転数と前記マッチング点における基準回転数との偏差を第2偏差として算出する第2偏差算出手段631と、前記マッチング点における運転条件で作業機械が運転されているとき、前記第2偏差が予め定めた閾値未満となるように前記傾転調節信号を増減して傾転を増減する傾転増減手段632,S406〜S415と、前記傾転増減手段で前記第2偏差が予め定めた閾値未満になるように傾転制御信号を増減して傾転を増減したとき、傾転増減を行う制御量の積算値を算出する増減量算出手段S416と、前記積算値を記憶媒体642に記憶する記憶制御手段S416とを備え、前記第2偏差算出手段631と、前記傾転増減手段632,S406〜S415と、前記増減量算出手段S406〜S415と、前記記憶制御手段S416とは、前記指示手段13により前記学習が指示されているときに動作することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、可変容量油圧ポンプの個体差に起因した高負荷作業時の作業量のばらつきを抑制することができる。本発明での油圧ポンプの個体差とは、同一作業負荷、同一運転条件下で実傾転がばらつき、ポンプ吸収トルクがばらつくことを指称する。このばらつきにより、エンジン出力トルクカーブとポンプ吸収トルクカーブとのマッチング点でのエンジン回転数がばらつく。本発明は、このようなマッチング点でのエンジン回転数のばらつきを抑制し、以て、作業量のばらつきを抑制するものである。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1A】本発明の実施の形態に係る作業機械の傾転制御装置の構成を示す図
【図1B】図1Aに示すレギュレータの詳細図
【図1C】目標駆動電流と傾転角の関係を示すグラフ
【図2】本発明が適用される油圧ショベルの側面図
【図3】ポジコン圧から目標ポンプ傾転を算出するための目標ポンプ傾転テーブルを示す図
【図4】目標ポンプ傾転から目標指令圧を算出するための目標指令圧テーブルを示す図
【図5】目標指令圧から目標駆動電流を算出するための目標駆動電流テーブルを示す図
【図6】図1Aの電磁比例減圧弁の特性図
【図7】電磁比例減圧弁の指令圧とポンプ傾転の関係を示す図
【図8】エンジンの出力トルクカーブと油圧ポンプ等の負荷トルクの曲線との関係を示す図
【図9】ハイパワーモード時の油圧ポンプの負荷トルク線図を示す図
【図10】エンジンコントローラを示すブロック図
【図11】ポンプコントローラを示すブロック図
【図12】コントローラ内での処理の一例を示すメインフローチャート
【図13】図12の第1の学習制御の詳細を示すフローチャート
【図14】図12の第2の学習制御の詳細を示すフローチャート
【図15】図12の通常制御の詳細を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1〜図15を参照して本発明による作業機械の一実施の形態について説明する。図1は、本発明による作業機械に係る傾転制御装置の構成を示す図である。この傾転制御装置は、たとえば図2の油圧ショベルに搭載される。図2に示すように油圧ショベルは、走行体101と、旋回可能な旋回体102と、旋回体に回動可能に軸支されたブームBM,アームAM,バケットBKからなる作業装置103とを有する。
【0009】
図1において、エンジン21により駆動される可変容量形の油圧ポンプ1からの圧油は、制御弁11を介して作業装置103のブームシリンダBMCに供給される。制御弁11は操作レバー12の操作により駆動され、操作レバー12の操作量に応じてブームシリンダBMCへの圧油の流れが制御される。なお、操作レバー12は後述するように油圧ポンプ1の目標ポンプ傾転θ0も指令する。
【0010】
油圧ポンプ1の傾転(吐出容積)はレギュレータ3により調節される。図1Bはレギュレータ3の詳細を示す。レギュレータ3は、ポンプコントローラ60から出力された目標駆動電流i0により油圧ポンプ1の傾転角を目標駆動電流i0が示す目標ポンプ傾転角に一致するよう制御するものであり、電磁比例減圧弁4と、サーボ弁61と、サーボピストン62とを有している。電磁比例減圧弁4はポンプコントローラ60から目標駆動電流i0を入力し、その目標駆動電流i0に比例した指令圧を出力し、サーボ弁61はその指令圧により作動してサーボピストン62の位置を制御し、サーボピストン62は油圧ポンプ1の斜板1aを駆動し、その傾転角を制御する。
【0011】
油圧ポンプ1の吐出圧力は、チェックバルブ63を介してサーボ弁61の入力ポートに導かれるとともに、通路54を介してサーボピストン62の小径室62aに常時作用している。パイロットポンプ66の吐出圧力が電磁比例減圧弁4の入力ポートに導かれ、電磁比例減圧弁4が作動することにより減圧されて指令圧となる。この指令圧は通路67を通ってサーボ弁61のパイロットピストン61aに作用する。また、油圧ポンプ1の吐出圧力がパイロットポンプ66の吐出圧力より低いとき、パイロットポンプ66の吐出圧力がサーボアシスト圧としてチェックバルブ69を介してサーボ弁61の入力ポートに導かれる。
【0012】
図1Cに電磁比例減圧弁4に与えられる目標駆動電流i0と油圧ポンプ1の斜板1aの傾転角(以下、適宜、単に油圧ポンプ1の傾転角あるいはポンプ傾転という)との関係を示す。
【0013】
目標駆動電流i0がR1以下のとき電磁比例減圧弁4は作動せず、電磁比例減圧弁4からの指令圧は0である。このためサーボ弁61のスプール61bはスプリング61cによって図示左方向に押され、油圧ポンプ1の吐出圧力(あるいはパイロットポンプ66の吐出圧)がチェックバルブ63、スリーブ61d、スプール61bを通ってサーボピストン62の大径室62bに作用する。サーボピストン62の小径室62aにも、通路54を通って油圧ポンプ1の吐出圧力が作用しているが、面積差によってサーボピストン62は図示右方に移動する。
【0014】
サーボピストン62が図示右方に移動すると、フィードバックレバー71はピン72を支点として図示反時計方向に回転する。フィードバックレバー71の先端は、ピン73でスリーブ61dと連結しているため、スリーブ61dは図示左方向に移動する。サーボピストン62の移動は、スリーブ61dとスプール61bの開口部の切り欠きが閉じるまで行われ、それが完全に閉じるとサーボピストン62は停止する。
【0015】
これらの作動により油圧ポンプ1の傾転角は最小位置になり、油圧ポンプ1の吐出流量が最少になる。
【0016】
目標駆動電流i0がR1よりも大きくなり電磁比例減圧弁4が作動すると、電磁比例減圧弁4の作動量に応じた指令圧が通路67を通ってサーボ弁61のパイロットピストン61aに作用し、スプール61bをスプリング61cの力とつりあう位置まで図示右方に移動させる。スプール61bが移動するとサーボピストン62の大径室62bは、スプール61b内部の通路を経由してタンク75につながる。サーボピストン62の小径室62aには、通路54を通じて常時油圧ポンプ2の吐出圧力(あるいはパイロットポンプ66の吐出圧)が作用しているためサーボピストン62は図示左方に移動し、大径室62bの作動油はタンク75に戻される。
【0017】
サーボピストン62が図示左方に移動すると、フィードバックレバー71はピン72を支点として図示時計方向に回転し、サーボ弁61のスリーブ61dは図示右方向に移動する。サーボピストン62の移動は、スリーブ61dとスプール61bの開口部の切り欠きが閉じるまで行われ、それが完全に閉じるとサーボピストン62は停止する。
【0018】
これらの作動により油圧ポンプ1の傾転角が大きくなり、油圧ポンプ1の吐出流量が増加する。また、油圧ポンプ1の吐出流量の増加量は指令圧の上昇量、つまり目標駆動電流i0の増加量に比例する。
【0019】
目標駆動電流i0が低下し電磁比例減圧弁4からの指令圧が低下すると、サーボ弁61のスプール61bはスプリング61cの力とつりあう位置まで図示左方に戻され、油圧ポンプ2の吐出圧力(あるいはパイロットポンプ66の吐出圧)がサーボ弁61のスリーブ61d、スプール61bを通ってサーボピストン62の大径室62bに作用し、小径室62aとの面積差によってサーボピストン62は図示右方に移動する。
【0020】
サーボピストン62が図示右方に移動すると、フィードバックレバー71はピン72を支点として図示反時計方向に回転し、サーボ弁61のスリーブ61dは図示左方向に移動する。サーボピストン62の移動は、スリーブ61dとスプール61bの開口部の切り欠きが閉じるまで行われ、それが完全に閉じるとサーボピストン62は停止する。
【0021】
これらの作動によりポンプ1の傾転角が小さくなり、油圧ポンプ1の吐出流量が減少する。油圧ポンプ1の吐出流量の減少量は指令圧の低下量、つまり目標駆動電流i0の低下量に比例する。
なお、電磁比例減圧弁4の二次圧力である指令圧は、油圧ポンプ1の傾転を制御する圧力であり、傾転制御圧とも呼ぶ。
【0022】
エンジン21は、油圧ポンプ1、サブポンプ66の他に冷却ファン用油圧ポンプ31も駆動する。油圧ポンプ31は、不図示の冷却ファンの不図示のファンモータを駆動するための圧油を供給する可変容量型の油圧ポンプである。メインリリーフ弁32は、油圧ポンプ1で供給される圧油の最高圧力を規定する。
【0023】
コントローラ10は、エンジンを制御するエンジンコントローラ40と、ポンプ傾転を制御するポンプコントローラ60とを備えている。エンジンコントローラ40と、ポンプコントローラ60の詳細は後述する。
【0024】
コントローラ10には、電磁比例減圧弁4の二次圧力である指令圧を検出する圧力センサ5と、キースイッチ7と、後述する第1の学習モードを指示する第1の学習モードスイッチ8と、操作レバー12の操作量に応じた制御圧力(例えばポジコン圧Pn)を検出する圧力センサ9とが接続されている。また、コントローラ10には、後述する第2の学習モードを指示する第2の学習モードスイッチ13と、作業モードを切り換える作業モード選択スイッチ14と、エンジン21の回転数を設定するエンジンコントロールダイアル15と、油圧ポンプ1の吐出圧力を検出する圧力センサ25と、エンジン21の回転数を検出する回転数センサ26とが接続されている。
【0025】
本実施の形態の油圧ショベルの作業モードとして、たとえば、通常の掘削作業時に選択されるパワーモードと、重掘削作業時に選択されるハイパワーモードと、軽負荷時に選択されるエコノミーモードとが設けられている。
【0026】
本発明によるポンプ傾転制御装置が対象となる油圧ポンプ1は、傾転角センサを搭載せず、レバー操作量に応じた目標傾転に基づいてポンプ傾転が制御される。基本的には次の(a)〜(c)により電磁比例減圧弁4の駆動電流が決定される。
(a)図3の目標ポンプ傾転テーブルを用いて、圧力センサ9で検出したポジコン圧Pn、すなわち、操作レバー12の操作量に応じて目標傾転θ0が決定され、
(b)図4の目標指令圧テーブルを用いて、(a)で決定した目標傾転θ0となるようにサーボ弁61を駆動する目標指令圧P0が決定され、
(c)図5の目標駆動電流テーブルを用いて、決定された目標指令圧P0を電磁比例減圧弁4が出力するのに必要な駆動電流i0を決定する。
【0027】
しかし、目標駆動電流i0でポンプ傾転を制御するだけでは、電磁比例減圧弁4の個体差に起因した傾転のずれが発生する。そこで、本実施の形態では、以下(1)で説明する第1の学習制御により電磁比例減圧弁4の個体差を補償する。第1の学習制御では、目標指令圧P0に対する目標駆動電流i0のテーブル(図5参照)を学習する。操作レバー12の操作量に応じた目標指令圧P0を用いて更新後の目標駆動電流テーブルを参照すれば、電磁比例減圧弁4の個体差を補償することができる。
【0028】
また、第1の学習制御による目標駆動電流テーブルから読み出した目標駆動電流i0で電磁比例減圧弁4を駆動して目標指令圧P0を発生した場合、油圧ポンプ1の個体差に起因した傾転ずれが発生して、後述するようにエンジン回転数にずれが生じる。そこでこの実施の形態では、油圧ポンプ1の個体差に起因したエンジン回転数のずれを以下(2)で説明する第2の学習制御により補償する。
【0029】
第2の学習制御では、ポンプ個体差を補償するための補償指令圧ΔPcompを取得し、第1の学習制御で取得した目標駆動電流テーブルを参照する際の目標指令圧P0に補償指令圧ΔPcompを加算する。すなわち、目標指令圧P0に補償指令圧ΔPcompを加算した目標指令圧P0finalで目標駆動電流テーブルを参照することにより、ポンプ個体差を補償した駆動電流i0finalを取得することができる。
【0030】
以下、第1および第2の学習制御を説明する。
(1)電磁比例減圧弁の個体差による傾転ずれを補償するための第1の学習制御
電磁比例減圧弁4の入出力特性の一例を図6に、電磁比例減圧弁4から出力される指令圧Paに対するポンプ傾転θaの特性の一例を図7に示す。図6において、特性A0は基準特性であり、電磁比例減圧弁4への駆動電流iの増加に伴い、指令圧Pは増加する。このような電磁比例減圧弁4の特性には個体差があり、基準特性A0に対して許容公差±Δα内でばらつき、たとえば、図示のように実際の特性Aは基準特性A0に対してずれる。
【0031】
このため、たとえば目標指令圧P3cを発生させようとして基準特性A0に基づき電磁比例減圧弁4に駆動電流i3を出力すると実際の指令圧はP3となり、目標指令圧P3cと実際の指令圧P3とが乖離する。その結果、図7に示すように実際のポンプ傾転θ3と目標ポンプ傾転θ3cとが異なり、操作レバー12の操作に応じた良好な作業を行うことができなくなる。すなわち、電磁比例減圧弁4の個体差によりレバー操作量に対するポンプ傾転がばらつくおそれがある。
【0032】
そこでこの実施の形態では、通常運転時において、電磁比例減圧弁4の個体差による傾転誤差を補償する補正を行う。すなわち、後述する第1の学習制御により、目標傾転θ0から定まる目標指令圧P0に対する目標駆動電流i0の目標駆動電流テーブル(図5)を更新する。
【0033】
(2)ポンプ個体差によるエンジン回転数ずれを補償するための駆動電流の補正
油圧ショベルのような作業機械では、フラットなエンジントルクカーブ(いわゆる、アイソクロナス特性)を有するエンジンを使用している。作業機械用エンジンはまた、定格最高トルクを超える回転数領域では、急激にトルクが低減するドループ特性を有している。作業機械では、このようなエンジントルクカーブを利用して、作業負荷トルクとエンジントルクとのマッチング制御を行い、エンジントルクと作業負荷トルクとが合致したマッチング点でエンジンおよび油圧ポンプが運転される。
【0034】
一方、油圧ショベルのような作業機械では、重掘削、軽掘削のような作業負荷に応じて、目標回転数に対するポンプ目標トルク線図を有している。したがって、上述したマッチング制御において、ポンプ目標トルク線図から算出されるポンプ吸収トルクの目標値に対して実際のポンプ傾転がポンプ毎にずれると、マッチング点におけるポンプ吸収トルクがずれてしまい、エンジン回転数がポンプ間で異なってしまう。その結果、最大作業量が作業機械ごとにばらつくことがある。
【0035】
実施の形態の油圧ショベルでは、図8に示すように、エンジンコントロールダイアル15で指示した所定目標回転数Naにおけるエンジン最大定格出力からエンジン回転数の増加に応じて出力トルクが減少するように、エンジン21の出力トルクカーブTCeが設定されている。また、油圧ポンプ1のポンプ吸収トルクに関しては、目標回転数に対する目標トルクカーブが作業モードごとに設定されている。例えば、図9はハイパワーモード時の目標トルクカーブTCpを示している。
【0036】
重掘削作業などの高負荷状態で油圧ショベルが運転されたとき、図8に示すように、油圧ポンプ1の負荷トルクカーブTCpとエンジン21の出力トルクカーブTCeとの交点KPrで油圧ポンプ1およびエンジン21が運転制御される。このような運転制御は次のようなエンジン制御とポンプ傾転制御により実現される。
【0037】
電子ガバナ22は、トルクレギュレーション特性のプロファイルに基づいて、ポンプ負荷に応じて燃料噴射や噴射タイミングを制御してエンジンを駆動する。作業機械が高負荷作業を行うとき、エンジン21は、ポンプ負荷に応じてエンジン回転数が高速側に増速されてドループ特性領域で運転されることがある。このとき、エンジン実回転数Nacと目標回転数N0との偏差に基づいて油圧ポンプ1の傾転を大きくするような制御(スピードセンシング制御)が行われる。このスピードセンシング制御に伴いポンプ吸収トルクが増減し、エンジン21の燃料噴射がトルクレギュレーション特性のプロファイルに基づいて制御される。このような油圧ポンプ1とエンジン21の駆動制御により、油圧ショベルは図8のマッチング点KPrで運転される。
【0038】
油圧ポンプ1の個体差によるポンプ傾転のばらつきは、図9に示す基準ポンプ吸収トルクカーブTCpに対してポンプ吸収トルクカーブTCp1,TCp2のように表れる。したがって、図8において、油圧ポンプ1の負荷トルクカーブTCp1,TCp2とエンジン21の出力トルクカーブTCeとが交差するマッチング点が、基準となるポンプ吸収トルクカーブTCpの場合の交点KPrに対して、交点Kp1,Kp2のように変動する。そのため、マッチング点におけるエンジン21の実回転数N1,N2が基準回転数Nrから乖離する。
【0039】
図8および図9において、エンジン回転数Naは、エンジンコントロールダイアル15で指示されたエンジン回転数、エンジン回転数Nrは、マッチング点KPrにおけるエンジン回転数であり、設計上定まる基準エンジン回転数である。N1は、マッチング点KP1におけるエンジン回転数、N2は、マッチング点KP2におけるエンジン回転数を表している。
【0040】
そこで、本発明では、上述したマッチング点のエンジン回転数がポンプの個体差でばらつかないように、電磁比例減圧弁4へ印加する駆動電流を補正する。この実施形態では、マッチング点におけるエンジン回転数のずれを補償するために第2の学習制御を行い、目標駆動電流テーブル(図5)を参照して駆動電流を算出する際に使用される目標指令圧P0を、油圧ポンプ1の個体差に応じて学習して補償指令圧ΔPcompを取得する。第2の学習制御で取得した補償指令圧ΔPcompは固定値であり、後述するように通常制御時に記憶部642(図11)から読み出して使用される。
なお、目標駆動電流テーブル(図5)は第1の学習制御で更新される。
【0041】
図10と図11に基づいて、コントローラ10に設けられたエンジンコントローラ40と、ポンプコントローラ60を説明する。
【0042】
−エンジンコントローラ40−
図10はエンジンコントローラ40の一例を示すブロック図である。エンジンコントローラ40には、作業モード選択スイッチ14からの作業モード信号と、エンジンコントロールダイアル15からの目標エンジン回転数指令信号と、回転数センサ26からの実エンジン回転数信号が入力される。
【0043】
作業モード選択スイッチ14は、ハイパワーモード(HPモード)、パワーモード(Pモード)、エコノミモード(Eモード)の3つのモードを選択する。エンジンコントロールダイアル15は、目標エンジン回転数指令信号を出力する。回転数センサ26は、エンジンの実回転数を検出して実エンジン回転数信号を出力する。
【0044】
エンジンコントローラ40は、目標回転数演算部41と、トルクレギュレーション設定部42と、燃料噴射量演算部43と、ガバナ制御部44とを有し、電子ガバナ22にガバナ駆動信号を出力する。
【0045】
目標回転数演算部41は、作業モード信号と、目標エンジン回転数指令信号とに基づいて、目標エンジン回転数指令信号を生成する。トルクレギュレーション設定部42は、目標エンジン回転数指令信号に基づいて、トルクレギュレーション特性のプロファイルを設定する。この実施の形態のトルクレギュレーション特性は、図8に示すように、低負荷側ではアイソクロナス特性を有し、高負荷側ではドループ特性を有する特性である。
【0046】
燃料噴射量演算部43は、トルクレギュレーション設定部42で設定されたトルクレギュレーション特性のプロファイルと実エンジン回転数信号とに基づいて、燃料噴射量と噴射タイミングを定義した噴射信号を生成してガバナ制御部44に出力する。ガバナ制御部44は、噴射信号に基づいて電子ガバナ駆動信号を生成して電子ガバナ22を駆動する。これにより、エンジンコントローラ10は、エンジン駆動信号を電子ガバナ22に供給し、エンジン21は電子ガバナ22により所望の出力で運転される。
【0047】
(2)ポンプコントローラ60
図11はポンプコントローラ60の一例を示すブロック図である。符号60Bが第2の学習制御で使用される構成を示し、符号60Aは、それ以外のポンプ傾転制御で使用される構成を示す。
【0048】
ポンプコントローラ60には、ポジコン圧力センサ9からの実ポジコン圧信号Pnと、作業モード選択スイッチ14からの作業モード指令信号と、第2の学習モードスイッチ13からの第2の学習モード指令信号と、エンジンコントロールダイアル15からの目標エンジン回転数指令信号と、回転数センサ26からのエンジンの実回転数信号と、指令圧(傾転制御圧力)センサ5からの実指令圧信号とが入力される。また、ポンプ圧力センサ25からポンプ圧力も入力されている。
【0049】
ポジコン圧信号Pnは目標ポンプ傾転テーブル601に入力される。目標ポンプ傾転テーブル601は、図3の目標ポンプ傾転テーブルに対応し、ポジコン圧Pnから目標傾転θ0を算出する。目標ポンプ傾転テーブル601から出力された目標傾転θ0は傾転最小値選択部602に入力されている。
【0050】
作業モード選択信号は、目標エンジン回転数−ポンプ吸収トルクテーブル603と、作業モード−エンジン回転数テーブル604に入力されている。作業モード−エンジン回転数テーブル604は、入力された作業モードに応じてエンジン回転数の上限値を選択してエンジン回転数最小値選択部605に入力する。このエンジン回転数最小値選択部605には、エンジンコントロールダイアル15で設定された目標エンジン回転数も入力されており、エンジン回転数最小値選択部605は、作業モードに応じた上限エンジン回転数と目標エンジン回転数のいずれか小さい回転数を選択する。
【0051】
エンジン回転数最小値選択部605で選択された目標エンジン回転数は後段の加算点621に入力されている。この加算点621には実エンジン回転数も入力され、加算点621は実エンジン回転数と目標エンジン回転数との偏差を算出する。このエンジン回転数偏差は、エンジン回転数偏差−補正トルクテーブル606に入力され、エンジン回転数偏差−補正トルクテーブル606は、エンジン回転数偏差に応じた補正トルクΔTを算出して加算点622に入力する。
【0052】
目標エンジン回転数−ポンプ吸収トルクテーブル603は、ハイパワーモード用のテーブルHP、通常作業モード用のテーブルP、エコノミ作業モード用のテーブルEを有し、入力された作業モード選択信号に基づいていずれかのテーブルが選択される。テーブル603の3つのハイパワーモード用のテーブルHP、通常作業モード用のテーブルP、エコノミ作業モード用のテーブルEは、いずれも目標エンジン回転数から目標ポンプ吸収トルクを算出するテーブルである。これらのテーブルでは、エンジン最小値選択部605で選択された目標エンジン回転数に応じた目標ポンプ吸収トルクが算出される。目標エンジン回転数−ポンプ吸収トルクテーブル603で算出した目標トルクは、後段の加算点622に入力される。
【0053】
なお、目標エンジン回転数−ポンプ吸収トルクテーブル603に設定されているハイパワーモード用テーブルHPは、図9のポンプ目標トルク線図に対応するテーブルである。
【0054】
加算点622は、作業モード毎に決定されたポンプ吸収トルクTと、エンジン回転数偏差に応じてテーブル606で算出された補正トルクΔTとを加算する。加算後のトルク(T+ΔT)が目標トルクT0として後段の割り算器607に入力される。この割り算器607にはポンプ吐出圧力Pも入力されており、割り算器607は、入力された目標トルクT0をポンプ吐出圧力Pで除すことにより目標傾転θ0を算出する。この目標傾転θ0は傾転最小値選択部602に入力される。
【0055】
傾転最小値選択部602には、ポジコン圧Pnに基づいて算出された目標傾転θ0と、割り算器607で算出された目標傾転θ0とが入力され、いずれか小さい目標傾転θ0minを出力する。傾転最小値選択部602で選択された目標傾転θ0minは目標傾転θ0−目標指令圧P0テーブル608に入力され、目標傾転θ0−目標指令圧P0テーブル608は、入力された目標傾転θ0minから目標指令圧P0を算出して後段の加算点623に入力する。
【0056】
加算点623には、後述する第2の学習制御で得られてメモリ642に記憶されている目標オフセット指令圧積算値ΔPcompも入力され、加算点623では、テーブル608で得られた目標指令圧P0にメモリ642に記憶されている目標オフセット指令圧積算値ΔPcompが加算される。加算後の最終目標指令圧P0finalは、後段の目標指令圧P0−目標駆動電流i0テーブル609と、加算点625に入力されている。加算点625では、加算点623で加算された最終目標指令圧P0finalと実傾転制御圧との偏差が算出される。加算点625で算出された目標指令圧と実傾転制御圧との偏差は、指令圧偏差−補正駆動電流テーブル610に入力されている。指令圧偏差−補正駆動電流テーブル610は、加算点625から入力された指令圧偏差に応じて補正駆動電流Δifdを算出して加算点626に出力する。
【0057】
加算点626には、目標指令圧P0−目標駆動電流i0テーブル609で算出された目標駆動電流i0と、指令圧偏差−補正駆動電流テーブル610で算出された補正駆動電流Δifdとが入力されている。加算点626は、次式(1)により目標駆動電流i0finalを算出して電磁弁駆動制御部641に入力する。
目標駆動電流i0final=目標駆動電流i0+補正駆動電流Δifd …(1)
電磁弁駆動制御部641は、入力された目標駆動電流i0finalを増幅して電磁比例減圧弁4に電磁弁駆動信号を出力する。
【0058】
ポンプコントローラ60はさらに学習制御部60Bを備えている。この学習制御部60Bは、実エンジン回転数Nacと基準エンジン回転数Nrとの偏差を算出する加算点631と、エンジン回転数偏差−補正傾転指令圧テーブル632と、第2の学習モードスイッチ13により第2の学習モードが選択されていない通常制御中に切換接点Wに切り替わり、第2の学習モードが選択されている第2の学習制御中に切換接点Tに切り替わるスイッチ633とを有している。
【0059】
加算点631の出力であるエンジン回転数偏差ΔNは後段のエンジン回転数偏差−補正傾転指令圧テーブル632に入力される。このエンジン回転数偏差−補正傾転指令圧テーブル632は、入力されたエンジン回転数偏差ΔNに応じた補正指令圧ΔPcorを後段のスイッチ633に出力する。切換接点Wには、後述するオフセット指令圧積算値ΔPcompを記憶したメモリ642が接続されている。切換接点Tには、テーブル632が接続され、補正指令圧ΔPcorが入力される。
【0060】
第1の学習制御により、目標指令圧P0−目標駆動電流i0テーブル609が更新され、第2の学習制御により、メモリ642にオフセット指令圧積算値ΔPcompが記憶される。オフセット指令圧積算値ΔPcompは後述する補償指令圧である。
【0061】
図12は、本実施の形態に係るコントローラ10での処理の一例を示すフローチャートである。このフローチャートはキースイッチ7のオンにより電源スイッチがオンされるとスタートする。まず、ステップS1では、学習モードスイッチ8からの信号に基づいて、第1の学習モードが選択されたか否かを判定する。ステップS1が否定されると、ステップS5に進み、通常制御を実行する。ステップS1が肯定されるとステップS2で第1の学習制御を実行する。第1の学習モードを実行した後、ステップS3に進む。第3のステップSでは、第2の学習モードスイッチ13からの信号に基づいて、第2の学習モードが選択されたか否かを判定する。肯定されるとステップS4で第2の学習制御を実行する。ステップS3が否定されるとステップS5に進み、通常制御を実行する。
【0062】
上述したように第1の学習モードとは、電磁比例減圧弁4の個体差を補償する学習制御であり、第2の学習モードとは、油圧ポンプ1の個体差を補償する学習制御である。
【0063】
(1)第1の学習制御
図13は、第1の学習制御処理を示すフローチャートである。ステップS201で目標ポンプ傾転θ0に学習制御用の基準傾転θ01を代入する。ステップS202では、予め定めた図4に示す目標指令圧テーブルに基づいて、基準傾転θ01に応じた目標指令圧P01を算出する。ステップS203で、図5に示す目標駆動電流テーブルに基づいて、目標指令圧P01に応じた目標駆動電流i01を求める。ステップS204では目標駆動電流i01を電磁比例減圧弁4へ出力する。次いで、ステップS205において、指令圧センサ5で検出した電磁比例減圧弁4の指令圧Pa1を読み取って記憶する。
【0064】
ステップS206で目標ポンプ傾転θ0に学習制御用の基準傾転θ02を代入する。ステップS207では、予め定めた図4に示す目標指令圧テーブルに基づいて、基準傾転θ02に応じた目標指令圧P02を算出する。ステップS208で、図5示す目標駆動電流テーブルに基づいて、目標指令圧P02に応じた目標駆動電流i02を求める。ステップS209では目標駆動電流i02を電磁比例減圧弁4へ出力する。次いで、ステップS210において、指令圧センサ5で検出した電磁比例減圧弁4の指令圧Pa2を読み取って記憶する。
【0065】
なお、基準傾転θ01は油圧ポンプ1の最小傾転側の基準値であり、基準傾転θ02は油圧ポンプ1の最大傾転側の基準値である。
【0066】
以上のステップS201〜ステップS210の処理では、
(1)図4の目標指令圧テーブルを参照して、基準傾転θ01、θ02に基づいて目標指令圧P01,P02が決定され、
(2)図5の目標駆動電流テーブルを参照して、目標指令圧P01,P02に基づいて目標駆動電流i01,i02が決定され、
(3)目標駆動電流i01,i02で電磁比例減圧弁4を駆動したときの実指令圧Pa1,Pa2が取得される。
【0067】
ステップS211では、図5の目標駆動電流テーブル上で、目標駆動電流io1と実指令圧Pa1との交点Pi1をプロットし、目標駆動電流i02と実指令圧Pa2との交点Pi2をプロットし、これら両交点Pi1とPi2とを結ぶ線分を新たな目標駆動電流テーブルとして更新する。すなわち、図5の目標駆動電流テーブルを学習により、実線の更新前特性から一点鎖線の更新後特性に書き換える。
以上が第1の学習制御である。
【0068】
(2)第2の学習制御(ポンプ個体差補償処理)
上述したように、本実施の形態では、ポンプ個体差による作業量のずれを補償するため補償指令圧ΔPcompを学習する。学習した補償指令圧ΔPcompは、上述した目標駆動電流テーブル609から目標駆動電流i0を算出する際に使用する目標指令圧P0に加算される。以下、このポンプ個体差補償指令圧ΔPcompについて説明する。
【0069】
図12を参照すると、ステップS3において第2の学習モードスイッチ13がONされて第2の学習モードが設定されていると判定されたとき、ステップS4において第2の学習制御を実行する。
【0070】
図14は第2の学習制御の処理を示すフローチャートである。
ステップS401において、下記条件(a1)〜(a4)を含む第2の学習制御条件が成立しているか否かを判定する。
(a1) ハイパワーモードが作業モード選択スイッチ14によって選択されている
(a2) 第2の学習モードを指示する第2の学習モードスイッチ13がオンされている
(a3) エンジンコントロールダイアル15でエンジン21の回転数が最大値に設定されている
(a4) 旋回体102の旋回操作がされていないこと
なお、以下の(a5)を条件に加えることが望ましい
(a5) 不図示の油温センサで検出された作動油の温度が所定の温度範囲内である
【0071】
上記条件(a2)の第2の学習モードスイッチ13は、オペレータが第2の学習制御を実行する意思を作業機械に入力するための指示スイッチである。上記条件(a4)は次の理由で条件とされている。旋回体102が旋回するときは、エンジン21に対する公知の減馬力制御がなされるので、この減馬力制御実行中に補償指令圧ΔPcompを算出すると正確な駆動電流を算出することができない。そのため、上記条件(a4)を採用して、旋回中は補償指令圧ΔPcompの演算処理を行わない、すなわち、第2の学習制御を行わないようにしている。
なお、上記条件(a5)における所定の温度範囲とは、たとえば、掘削作業時の作動油温度として想定される温度範囲である。
【0072】
コントローラ10は、ステップS401において上述した条件(a1)〜(a4)が全て揃っていると判断すると、ステップS440において、図11で説明したスイッチ633をT位置へ切換え、ステップS402に進む。ステップS402において、不図示の冷却ファンの回転数が最も速くなるように、すなわち冷却ファン用油圧ポンプ31の圧油の吐出量が最も多くなるように冷却ファン用油圧ポンプ31のポンプ傾転を制御する。これは、エンジン21の負荷が最も大きな状態とするためである。
【0073】
以上の状態で、オペレータが操作レバー12をブーム上げ方向にフル操作して油圧ポンプ1からの圧油をリリーフ弁32からリリーフさせる。このリリーフ状態をブーム上げリリーフ状態と呼ぶ。
【0074】
コントローラ10は、ステップS403において、操作レバー12がブーム上げ操作されてブーム上げリリーフ状態となったか否かを、圧力センサ9で検出したポジコン圧Pnおよび圧力センサ25で検出した油圧ポンプ1の吐出圧力から判断する。コントローラ10は、ステップS403においてブーム上げリリーフ状態となったと判断すると、ステップS404において冷却ファンの回転数が安定するまで待機すると共に、ステップS405において回転数センサ26によるエンジン21の回転数の検出値が安定するまで待機する。
【0075】
その後、コントローラ10は、回転数センサ26で検出されるエンジン21の実回転数が設計上の基準回転数に近づくように、電磁比例減圧弁4へ印加する駆動電流を調整する。
【0076】
図14において、ステップS403〜ステップS405が全て肯定判定されるとステップS406に進む。ステップS406では、回転数センサ26で検出されたエンジン21の実回転数と設計上の基準回転数との偏差がたとえばb[rpm]以内であるか否かを判断する。ステップS406が肯定判断されるとステップS407へ進み、タイマフラグAがゼロか否かを判定し、ゼロであればステップS408においてタイマAをセットしてタイマAによる時間の計時を開始する。その後、ステップS409において、タイマフラグAに1をセットし、ステップS410において、タイマAがa秒を計時しているか否かを判定する。a秒が経過するまでは、ステップS406〜409を繰り返し実行する。
【0077】
ステップS407でタイマフラグAが0でないと判定されたときは、ステップS408,409をスキップしてステップS410に進む。
【0078】
ここで、ステップS406における所定回転数b[rpm]、およびステップS410における所定時間a秒間は、エンジン21の回転数を検出する際に行うフィルタ処理(ローパスフィルタ)の特性に応じて設定される。
【0079】
ステップS406が否定判断されるとステップS421へ進み、タイマAをリセットして計時を終了し、ステップS422において、タイマフラグAにゼロをセットする。その後、ステップS423において、前回のオフセットからa秒経過したかを判定し、否定されるとステップ406に戻る。ステップS423において、前回のオフセットからa秒が経過していればステップS424に進み、傾転制御圧(指令圧)をオフセットする。ステップS424でオフセットされるとステップ425においてオフセットを積算し、オフセット積算値Aを算出してステップS406に戻る。
【0080】
ステップS424における指令圧のオフセットは、たとえば、エンジン21の回転数が所定量、たとえばL[rpm]増減する程度の負荷に相当するポンプ傾転の変更量に対応する値とする。
【0081】
ステップS410が肯定判断されるとステップS411へ進み、回転数センサ26で検出されたエンジン21の実回転数と設計上の基準回転数との偏差がたとえばd[rpm]以内であるか否かを判断する。ステップS411が肯定判断されるとステップS412へ進み、タイマフラグBがゼロか否かを判定し、ゼロであればステップS413においてタイマBをセットしてタイマBによる時間の計時を開始する。その後、ステップS414において、タイマフラグBに1をセットし、ステップS415において、タイマBがc秒を計時しているか否かを判定する。c秒が経過するまでは、ステップS411〜414を繰り返し実行する。
【0082】
ここで、ステップS411における所定回転数d[rpm]、およびステップS415における所定時間c秒間は、エンジン21の回転数を検出する際に行うフィルタ処理(ローパスフィルタ)の特性に応じて設定される。
【0083】
ステップS411が否定判断されるとステップS431へ進み、タイマBをリセットして計時を終了し、ステップS432において、タイマフラグBにゼロをセットする。その後、ステップS433において、前回のオフセットからd秒経過したかを判定し、否定されるとステップ411に戻る。ステップS433において、前回のオフセットからd秒が経過していればステップS434に進み、傾転制御圧(指令圧)をオフセットする。ステップS434でオフセットされるとステップ435においてオフセットを積算し、オフセット積算値Bを算出してステップS411に戻る。
【0084】
ステップS424における指令圧のオフセットは、たとえば、エンジン21の回転数が所定量、たとえばM[rpm]増減する程度の負荷に相当するポンプ傾転の変更量に対応する値とする。
【0085】
ステップS424におけるオフセットにより増減するエンジン回転数Lは、ステップS434におけるオフセットにより増減するエンジン回転数Mに比べて大きく設定されている。したがって、ステップS406からS410までの処理はエンジン回転数の粗調整であり、ステップS411から415までの処理はエンジン回転数の微調整である。
【0086】
ステップS415が肯定されると、ステップS416に進み、ステップS425のオフセット積算値AとステップS435のオフセット積算値Bを加算して補償指令圧ΔPcompとして図11のメモリ642に記憶される。
なお、ステップS424およびステップS435を一度も実行しない場合は、補償指令圧ΔPcompとしてゼロを不図示のメモリに記憶する。ステップS416が実行されるとステップS441に進む、スイッチ633をW位置に切換えて、本プログラムによる第2の学習が終了する。
【0087】
(3)通常制御
図12のステップS1およびステップS3が否定判定されるとステップS5において通常制御が開始される。
図15は通常制御処理を示すフローチャートである。ステップS501で圧力センサ9で検出したポジコン圧Pnを読込む。なお、以下では、ポジコン圧の検出値がPn3であったとして説明する。次いで、ステップS502で、あらかじめ定められた図11の目標ポンプ傾転テーブル601(図3の目標ポンプ傾転テーブルに対応する)によりポジコン圧Pnに対応する目標ポンプ傾転θ0(=θ03)を求める。次いで、ステップS503で、前述した図11の目標指令圧テーブル608(図4の目標指令圧テーブルに対応する)に基づいて、目標ポンプ傾転θ0(=θ03)に対応した目標指令圧力P0(=P03)を求める。ステップS504では、目標指令圧力P0(=P03)に図14の第2の学習制御で得られてメモリ642に記憶されているオフセット指令圧積算値ΔPcompを次式(2)のように、図11の加算点623で積算する。
目標指令圧力P0+オフセット指令圧積算値ΔPcomp=
最終目標指令圧P0final …(2)
【0088】
ステップS505では、新たな目標指令圧P0finalを使用して図11の目標駆動電流テーブル609(図5の目標駆動電流テーブルに対応する)を参照して目標駆動電流i0を算出する。
ステップS506において、実傾転制御圧Paを読み込み、新たな目標指令圧P0との偏差を次式(3)のように、図11の加算点625で算出する。
指令圧偏差ΔPa=目標指令圧力P0final−Pa …(3)
【0089】
ステップS507では、図11に示す指令圧と駆動電流の変換テーブル610に基づいて、式(3)で算出した指令圧偏差ΔPaを駆動電流偏差Δiに変換する。
ステップS508では、駆動電流偏差ΔiとステップS505で算出した駆動電流i0を次式(4)により、図11の加算点626で加算して最終駆動電流i0finalを算出する。
最終駆動電流i0final=駆動電流偏差Δi+駆動電流i0 …(4)
【0090】
ステップS509において、最終駆動電流i0finalを電磁比例減圧弁4に印加して電磁比例減圧弁4を駆動する。これにより、油圧ポンプ1の傾転は、電磁比例減圧弁4の個体差と油圧ポンプ1の個体差をキャンセルするように調整される。
【0091】
以上説明した通常制御においては、作業モード、目標エンジン回転数、ポンプ負荷などに拘わらず、オフセット指令圧積算値ΔPcompが目標指令値P0に加算される。
【0092】
上述した実施の形態によれば、以下のような作用効果を奏する。
(1)第2の学習モードスイッチ13がオンされたこと、すなわち、第2の学習制御が指示され、その他所定の条件が整うと、油圧ポンプ1の個体差によって生じる油圧ポンプ1の最大吸収トルクの差を是正するための補償指令圧(オフセット指令圧積算値)ΔPcompの算出を開始するように構成した。これにより、工場出荷時に補償指令圧ΔPcompを算出してメモリ642に記憶させておくことができる。
【0093】
(2)エンジン21の実回転数が設計上の基準回転数に近づくように補償指令圧ΔPcompを算出するように構成した。これにより、センサ類を特に追加することなく補償指令圧ΔPcompを算出できるので、コスト増を抑制できる。
【0094】
(3)ハイパワーモードが作業モード選択スイッチ14によって選択され、かつ、エンジンコントロールダイアル15でエンジン21の回転数が最大値に設定され、かつ、ブーム上げリリーフ状態である最大負荷状態での補償指令圧ΔPcompを学習するように構成した。これにより、作業負荷が高い状態における油圧ショベル毎の作業量の差が抑制されるので、機体毎の油圧ショベルの性能差を抑制でき、油圧ショベルの品質を向上できる。
【0095】
(4)第1の学習制御により電磁比例減圧弁4の個体差が補償されるようにした。これにより電磁比例減圧弁4毎の特性のばらつきに拘わらず、ポンプ傾転を精度よく制御することができる。その結果、油圧作業機械の微操作性や操作フィーリングを向上することができ、作業効率を向上することができる。
【0096】
−変形例−
(1)第2の学習制御では、油圧ポンプ1の個体差の補償を目標指令圧P0のオフセット指令圧積算値ΔPcompを学習するものとした。しかし、目標駆動電流i0を学習して油圧ポンプ1の個体差を補償するようにしてもよい。
(2)本発明は第1の学習制御が必須ではない。したがって、油圧ショベルや作業機械に第2の学習制御のみを実装してもよい。
(3)上述の説明では、オフセット指令圧積算値を算出するにあたり、粗調整によるオフセット指令圧積算と微調整によるオフセット指令圧積算を行うようにした。すなわち、2段階のオフセット積算を行った。しかしながら、2段階のオフセット積算を1段階のオフセット積算に代えてもよい。
【0097】
(4)以上説明した実施の形態では、第2の学習制御で記憶したオフセット指令圧積算値は通常制御において常に加算されるものとした。しかし、本発明の目的が高負荷作業時の作業量のばらつきを抑制することにあるから、高負荷作業時にのみ、学習したオフセット指令圧積算値を加算した目標指令圧P0を使用するように構成してもよい。
(5)上述の説明では、作業機械の一例として油圧ショベルについて説明したが、本発明を油圧ショベル以外の他の作業機械(たとえばホイールローダなど)に適用してもよい。
(6)上述した各実施の形態および変形例は、それぞれ組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0098】
1 可変容量油圧ポンプ 3 レギュレータ
4 電磁比例減圧弁 5 指令圧センサ
8 第1の学習モードスイッチ 9 ポジコン圧力センサ
10 コントローラ 12 操作レバー
13 第2の学習モードスイッチ 14 作業モード選択スイッチ
15 エンジンコントロールダイアル 21 エンジン
22 ガバナ 25 ポンプ圧センサ
26 回転数センサ 31 可変容量油圧ポンプ
32 メインリリーフ弁 40 エンジンコントローラ
60 ポンプコントローラ 60A 通常制御部
60B 第2学習制御部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
目標エンジン回転数を指示するエンジン回転数指示手段と、
前記エンジン回転数指示手段で指示されたエンジン回転数に基づき、予め定めた出力トルクカーブに沿った出力で運転されるエンジンと、
前記エンジンの実回転数と前記目標エンジン回転数との偏差を第1偏差として算出する第1偏差算出手段と、
前記エンジンで駆動され、傾転が調節される可変容量油圧ポンプと、
電磁比例減圧弁から出力される指令圧で前記可変容量油圧ポンプの傾転を調節する傾転調節手段と、
操作レバーの操作量に応じた目標傾転を出力する目標傾転出力手段と、
前記目標傾転と前記第1偏差とに基づいて、前記電磁比例減圧弁を駆動する傾転制御信号を演算する傾転制御信号演算手段と、
前記可変容量油圧ポンプの個体差を補償する学習を行う学習手段とを備え、
前記学習手段は、
前記学習を指示する指示手段と、
前記出力トルクカーブの設計値と前記可変容量油圧ポンプの負荷トルクカーブの設計値とが交差するマッチング点における運転条件で作業機械を運転した状態で、前記エンジンの実回転数と前記マッチング点における基準回転数との偏差を第2偏差として算出する第2偏差算出手段と、
前記マッチング点における運転条件で作業機械が運転されているとき、前記第2偏差が予め定めた閾値未満となるように前記傾転調節信号を増減して傾転を増減する傾転増減手段と、
前記傾転増減手段で前記第2偏差が予め定めた閾値未満になるように傾転制御信号を増減して傾転を増減したとき、傾転増減を行う制御量の積算値を算出する増減量算出手段と、
前記積算値を記憶媒体に記憶する記憶制御手段とを備え、
前記第2偏差算出手段と、前記傾転増減手段と、前記増減量算出手段と、前記記憶制御手段とは、前記指示手段により前記学習が指示されているときに動作することを特徴とする作業機械。
【請求項2】
請求項1に記載の作業機械において、
前記指示手段により前記学習が指示されていない通常作業状態において前記目標傾転と前記第1偏差とに基づいて前記傾転制御信号を演算する際、前記記憶媒体に記憶されている前記積算値に基づく補正演算を実行する補正手段をさらに有することを特徴とする作業機械。
【請求項3】
請求項1または2に記載の作業機械において、
前記制御量は前記電磁比例減圧弁から出力される指令圧の目標値であることを特徴とする作業機械。
【請求項4】
請求項1または2に記載の作業機械において、
前記制御量は前記電磁比例減圧弁に印加する駆動電流であることを特徴とする作業機械。


【図1A】
image rotate

【図1B】
image rotate

【図1C】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate


【公開番号】特開2013−40487(P2013−40487A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−177839(P2011−177839)
【出願日】平成23年8月16日(2011.8.16)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】