説明

作業車のエンジン制御装置

【課題】本発明では、作業機の昇降検出で面倒なエンジン出力モードの切り換えを自動的に行うようにして、確実に低燃費な作業が行えることを課題とする。
【解決手段】エンジン2の出力モードを複数設けると共に、エンジン2の出力モードを選択するエンジンモード選択手段97を設け、作業車に装着した作業機の昇降を検出する昇降検出手段68を設け、前記エンジンモード選択手段97でパワーモードPを選択して走行中、前記昇降検出手段68が作業の上昇を検出すると、エンジン出力モードを省エネモードSに切り換える構成とし、昇降検出手段68が作業機の下降を検出すると、エンジン出力モードをパワーモードPに切り換えるように構成したことを特徴とする作業車のエンジン制御装置の構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業機を昇降可能に装着した作業車のエンジン制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
建設機械などの作業車両において、特開2007−231849号公報に記載の如く、所定のパワーを確保するスタンダードモードのエンジン出力トルクカーブと、スタンダードモードより燃料消費量を低減させる燃料消費量低減モードのエンジン出力トルクカーブとを運転席に設けるスイッチで切換える技術がある。
【0003】
また、特開2009−57978号公報には、変速機の選択されている速度段と、作業機の位置又は姿勢と、車両の走行速度とに基づいて、掘削が行われているか否かが判定され、また、車両の前後方向の傾斜角と、走行速度と、アクセルペダルの開度と、走行加速度とに基づいて、登坂走行が行われているかが判定され、掘削又は登坂走行が行われている時は高パワー出力能力で、それ以外の時は低パワー出力能力で、エンジンが運転されるホイールローダが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−231849号公報
【特許文献2】特開2009−57978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記の運転席に設けるスイッチでエンジンを適宜にスタンダードモードから燃料消費量低減モードに切り換えて作業を行うことは面倒であり、燃料消費量低減モードで使用中に出力不足を判断するとスタンダードモードに切り換えることが有っても逆にスタンダードモードから燃料消費量低減モードに切り換えることはあまり行わない。
【0006】
また、軽作業時に燃料消費量低減モードに自動的に切り換える制御は、軽作業の判断が面倒で正確でない。
このために、本発明では、作業機の昇降検出で面倒なエンジン出力モードの切り換えを自動的に行うようにして、確実に低燃費な作業が行えるトラクタを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記本発明の課題は、次の技術手段により解決される。
請求項1に記載の発明は、エンジン(2)の出力モードを複数設けると共に、エンジン(2)の出力モードを選択するエンジンモード選択手段(97)を設け、作業車に装着した作業機の昇降を検出する昇降検出手段(68)を設け、前記エンジンモード選択手段(97)でパワーモード(P)を選択して走行中、前記昇降検出手段(68)が作業の上昇を検出すると、エンジン出力モードを省エネモード(S)に切り換える構成とし、昇降検出手段(68)が作業機の下降を検出すると、エンジン出力モードをパワーモード(P)に切り換えるように構成したことを特徴とする作業車のエンジン制御装置としたものである。
【0008】
請求項2に記載の発明は、エンジン(2)の一定回転を維持するアイソクロナスモードと、負荷に応じて回転が変動するドループモードを設け、アイソクロナスモードで作業走行中に作業機が上昇するとドループモードに切り換え、作業機が降下するとアイソクロナスモードに復帰するように構成したことを特徴とする請求項1に記載の作業車のエンジン制御装置としたものである。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に記載の発明は、作業機を使用する高負荷状態と非使用の軽負荷状態を作業機の昇降検出手段(68)で判定するので、判定が単純で正確に軽負荷状態を判断して省燃費作業へ自動的に切り換える。特に、エンジンモード選択手段(97)でパワーモード(P)を選択していても、作業機が上昇すると省エネモード(S)に切り換える構成としているので、更なる低燃費状態となる。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1の効果に加え、作業機を降下して作業機を使用する場合はアイソクロナスモードで重負荷に耐える作業を継続でき、作業機を使用しない非作業時にはドループモードでエンジン回転を低下して燃料消費を少なくでき、全作業を通して省燃費となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本実施例トラクタの全体側面図である。
【図2】トラクタの操縦席周りの拡大斜視図である。
【図3】スイッチボックスの正面図である。
【図4】ミッションケースの動力伝動線図である。
【図5】制御のブロック図である。
【図6】エンジンの出力線図である。
【図7】制御のフローチャート図である。
【図8】制御のフローチャート図である。
【図9】電動トラクタと側面図である。
【図10】電動トラクタの伝動機構図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1には、本発明を実施した作業車として農業機械であるトラクタ1を示している。
トラクタ1は、機体前部のボンネット内にエンジン2を搭載し、このエンジン2の回転動力をミッションケース3内の変速装置に伝え、この変速装置で減速された回転動力を前輪4と後輪5とに伝えるようにしている。機体上の操縦席6周りはキャビン7で覆われている。
【0013】
図2と図3に示すごとく、キャビン7の内部で操縦席6の前側にはステアリングハンドル8を立設し、その左側下部に前後進レバー9を設けている。操縦席6の左側には駐車ブレーキレバー10と作業機への動力を出力するPTO軸の変速を行う第一PTO変速レバー11と第二PTO変速レバー12とを配置している。
【0014】
ステアリングハンドル8の下側床面には、左右の前後輪4,5をそれぞれ制動する左ブレーキペダル56と右ブレーキペダル57と全輪を一斉に制動する全ブレーキペダル58を設け、その後右側にエンジンの回転を制御するアクセルペダル13を設けている。このアクセルペダル13は走行速度を調整するために使用する。
【0015】
このアクセルペダル13を踏み込んで加速する場合には通常作業モードBのドループ制御で使用し、それ以外では走行モードAのドループ制御でエンジン2を制御する。また、省エネモードで走行中にアクセルペダル13を踏み込むと通常作業モードBに切り換えて加速を行う。
【0016】
なお、左ブレーキペダル56と右ブレーキペダル57を同時に踏込むと、ブレーキを制動すると共に主変速の変速段を低速側へ変速してエンジンブレーキも作用させる。また、左ブレーキペダル56と右ブレーキペダル57を所定限界踏込み量以上に踏込むと、エンジン回転数を低下させる。この際に、左ブレーキペダル56と右ブレーキペダル57の踏み込みをやめて元に戻すと、エンジン回転を復帰させ、前後輪4,5への動力伝動とPTO出力軸への動力伝動を復帰させた後にブレーキを解除するようにする。
【0017】
ステアリングハンドル8の前側には、走行速度を表示するメータパネル72(図5)や作業機の使用状況等を表示する操作パネル73(図5)を配置したフロントパネル14を設けている。
【0018】
操縦席6の右側には、スロットルレバー15を立設し、最手前のアイドリング位置から前側に倒すとエンジン2の回転が上昇する。このスロットルレバー15は作業時のエンジン回転数を設定するに使用する。16はシーソー式の第一エンジン回転記憶スイッチで、上側に倒すと第一の記憶回転数になり下側に倒すと第二の記憶回転数になり、指を離すと中立位置に戻る。17はシーソー式の第二エンジン回転記憶スイッチで、上側に倒すと回転数が上昇し下側に倒すと回転数が低下し、スイッチを放した時点の回転数が記憶される構成である。
【0019】
エンジン2の回転数の設定は、第一エンジン回転記憶スイッチ16を上側或いは下側に倒して第二エンジン回転記憶スイッチ17を上側或いは下側へ倒して回転数を上昇或いは降下させて両スイッチ16,17を放すとそのときの回転数が第一エンジン回転記憶スイッチ16の設定回転数として記憶される構成である。
【0020】
スロットルレバー15の隣に副変速レバー18を立設している。この副変速レバー18の変速は、低速、中速、高速の三段と路上走行の変速位置が有り、低速、中速、高速の三段でミッションケース3内のメカ変速部を低速・中速・高速に変速すると共に主変速が八段に変速可能で、路上走行位置では、高速の変速段で主変速が3速以上の変速段を使って変速可能で路上走行に適した速度になる。
【0021】
主変速は油圧制御による四段変速と同じく油圧制御による高・低二段変速の組み合わせで計八段の変速段数を有し、その変速段による平均車速は、前記副変速レバー18の低速・中速・高速と組み合わせて、合計二十四段の変速段となる。主変速の変速段の変更は、後述する走行変速上昇スイッチ33と走行変速降下スイッチ34で行う。
【0022】
19と20は、外部油圧取出用のサブコントロールレバーで、作業機の油圧シリンダ等へ油圧オイルを供給する場合に使用する。21と22は、予備のサブコントロールレバー取付用溝である。23は、ドラフト比調整ダイアルで、左に回すとポジション側となって、負荷に対する作業機の昇降変化量が少なくなり耕耘深さを浅くし、逆に右に回すとドラフト側となって、負荷に対する作業機の昇降変化量が大きくなり耕耘深さを深くする。
【0023】
24は、上げ調整ダイアルで、左に回すと三点リンクの上昇高さが低くなる。作業機によっては最も高く上げるとトラクタ本体に当たる場合やあまり高く上げない方が作業続行のために作業効率が良い場合に、この上げ調整ダイアル24で調整する。25は、傾き調整ダイアルで、左に回すと作業機が右上がりになり、逆に右に回すと作業機が右下がりになる。
【0024】
26は、四WD切換スイッチで、走行ローダとスーパーフルターン及び二WDターンの位置があり、走行ローダでは通常は二WDでぬかるみや急な坂道或いは凹凸道になると自動的に四WDに切り換わり、又ブレーキをかけたり運転中に停止したりしても四WDの状態になる。二WDは後輪の二輪駆動で、四WDは前後四輪の駆動である。スーパーフルターンは四WDの時の旋回で前輪の速度が増速されてクイックな旋回が可能になり、二WDターンでは四WDの時の旋回で前輪の駆動が抜かれて後輪の片ブレーキ旋回となり、固い圃場においてクイックでスムースな旋回が出来る。
【0025】
27は水平シリンダの昇降スイッチで、三点リンクの水平シリンダを動かすことが出来て作業機の着脱に使用する。28はPTOスイッチで、押して右に回すとPTOクラッチが入り、入った状態で押すと自動で左に回りPTOクラッチが切れる。29はPTO自動スイッチで、左に回すと手動になりPTOクラッチを入れるとPTO軸が常時回転し、右に回すと自動になり走行クラッチを踏んだり三点リンクを上げたりすると回転が止まる。このPTO自動スイッチ29は、主に水田作業時に利用する。
【0026】
30はデフロックスイッチで、外側へ一度押すとデフロックになりもう一度外へ押すとデフロック解除になる。内側には押せなく、外側へ押す度に切り換わる。
31は作業機昇降レバーで、前側が下降で後側が上昇になる。32は作業機昇降スイッチで、後側を1回押すことで前記上げ調整ダイアル24で設定した最上位置に上昇し、前側を1回押すと作業機昇降レバー31で設定した位置まで下降する。
【0027】
33は走行変速上昇スイッチ、34は走行変速降下スイッチで、始動変速段を設定するスイッチで、走行変速上昇スイッチ33を1回押す毎に始動変速段をシフトアップし、走行変速降下スイッチ34を1回押す毎に始動変速段をシフトダウンする。この走行変速上昇スイッチ33と走行変速降下スイッチ34は、前記副変速レバー18を路上走行にした場合にも同様に副変速が高速で主変速が3速を基準にして始動変速段を上下に変更する。
【0028】
36はスイッチボックスで、蓋を開けると、図3の各種調整スイッチを配置している。このスイッチボックス36内で、37は作業機の上昇・降下モニターランプで、作業機の昇降時に点灯して表示するようにしている。38はATシフト感度ダイアルで、ATシフト作業スイッチ42を押して自動変速にした場合に、車速を増減速する感度を変更するダイアルである。
【0029】
39は作業機の降下速度を調整する降下速度ダイアルで、右に回すと作業機が速く降下するので軽い作業機の場合に使用し、逆に左に回すと作業機がゆっくりと降下するので重い作業機の場合に使用する。
【0030】
40は走行ブレーキ調整ダイアルで、オートブレーキ入切スイッチ48の入時に作用する旋回ブレーキのかかり具合を調整する。
ATシフト路上スイッチ41は、路上走行時すなわち副変速が高速での主変速を自動変速し、ATシフト作業スイッチ42は、作業走行時すなわち副変速が中・低速での主変速を自動変速し、入にすると、副変速レバー18の変速位置に応じて主変速を前回に最も長く使用した変速段へ自動的に変速し、切にすると、副変速レバー18の変速位置に応じて任意に設定する主変速の変速段に変速するようになる。
【0031】
43は主変速の接続感度変速スイッチで、主変速を変速した時の接続フィーリングを変更し、入でモニタが点灯し緩やかな変速をし、切でモニタが消灯し急接続する。この接続感度変速スイッチ43を切にしてプラウ等の牽引系の作業をすると、主変速の変速接続時間が短くなって軽快に作業を行える。
【0032】
44は接続感度PTOスイッチで、ロータリ、牧草1、牧草2があり、ロータリにするとPTOのつながりが速くなり、ロータリが直ぐには土の抵抗に負けない回転力で回るようになり、牧草1或いは牧草2にするとPTOのつながりが緩やかになって、牧草作業機やスノーブロワーなどで使用する。
【0033】
45は水平感度スイッチで、作業機の自動水平制御装置の動作感度が変わり、スイッチを押すと自動水平制御の動きが遅くなり、再びスイッチを押すと元に戻る。
46はバックアップ入切スイッチで、入にすると後進時に作業機が自動で上昇する。47はオートリフト入切スイッチで、入にしてハンドルを回すと自動で作業機が上昇する。48はオートブレーキ入切スイッチで、入にしてハンドルを回すと自動で旋回内側の後輪のみにブレーキがかかる。
【0034】
49は水平切換スイッチで、自動水平にすると水平センサで自動的に作業機の水平を保持し、手動にすると傾き調整ダイアル25で調整が可能になり、平行にするとトラクタ本体に対して三点リンクを常に平行に維持し、傾斜にすると地面に対して三点リンクを一定の傾斜角に保持する。
【0035】
50は3P切換スイッチで、三点リンクへのリフトシリンダ取付位置による制御切換選択を行う。51はオートアクセルスイッチで、入りにした状態で作業機を上昇するとエンジンの回転数が1700rpmまで低下する。
【0036】
図4は、駆動力の伝動機構を示す線図で、エンジン2から前輪4と後輪5への動力伝動構成を説明する。
エンジン2の出力軸に直結した入力軸110には、第一ギヤ111を固着し、前後進切換クラッチ101を装着している。前後進切換クラッチ101の一方の第二ギヤ112は第一変速軸113に固着した第三ギヤ114に噛み合って減速し、前後進切換クラッチ101の他方の第四ギヤ115はカウンタギヤ117を介して第一変速軸113に固着した第五ギヤ118に噛み合って逆転で動力を伝動している。
【0037】
すなわち、前後進切換クラッチ101を第二ギヤ112側に入れる(繋ぐ)と入力軸110の回転が逆方向回転で第一変速軸113に伝動され、第四ギヤ115側に入れると入力軸110の回転が順方向回転で第一変速軸113に伝動され、第二ギヤ112と第四ギヤ115の両方から離れたニュートラル状態が動力伝動を断ったメインクラッチ切状態で、油圧バルブの制御によってこのメインクラッチ切状態を保持出来るようにしている。すなわち、自動制御或は前後進レバー9によって作動する前後進切換クラッチ101がメインクラッチとして機能している。
【0038】
前記第一変速軸113には前後進切換クラッチ101の伝動下手側に、一速/三速切換用第一変速クラッチ102と二速/四速切換用第二変速クラッチ103を装着している。この一速/三速切換用第一変速クラッチ102と二速/四速切換用第二変速クラッチ103を走行変速上昇スイッチ33と走行変速降下スイッチ34によって変速操作する。
【0039】
第一変速クラッチ102の第一クラッチギヤ120と第二クラッチギヤ122は第二カウンタ軸119に固着した第三クラッチギヤ121と第四クラッチギヤ123に噛み合い、一速用に減速したり三速用に少し増速したりして第一変速軸113の回転を第二カウンタ軸119に伝動している。さらに、第二変速クラッチ103の第五クラッチギヤ124と第六クラッチギヤ126は第二カウンタ軸119に固着した第七クラッチギヤ125と第八クラッチギヤ127に噛み合い、二速用に少し増速したり四速用に大きく増速したりして第一変速軸113の回転を第二カウンタ軸119に伝動している。
【0040】
第二カウンタ軸119の伝動下手側に第三カウンタ軸129をカップリング128で連結して回転をそのままで伝動している。この第三カウンタ軸129には小ギヤ130と大ギヤ131を固着している。この小ギヤ130と大ギヤ131は第二変速軸132に装着した高・低速切換クラッチ107のクラッチ大ギヤ133とクラッチ小ギヤ134にそれぞれ噛み合い、第三カウンタ軸129の回転を高速或いは低速で第二変速軸132に伝動している。自動制御或は高・低変速レバー109によって変速操作される高・低速切換クラッチ107が本発明のサブクラッチとして機能する。
【0041】
第二変速軸132の伝動下手側端部に第六ギヤ136を固着し、この第六ギヤ136と第三駆動軸143に回動可能に軸支した大小ギヤ152の大ギヤ部138を噛み合わせて減速伝動している。
【0042】
大小ギヤ152の小ギヤ部139は、ベベルギヤ軸142に軸支した二連副変速クラッチ135の第七ギヤ137に噛み合わせて減速伝動している。さらに、第七ギヤ137と一体に設けた第八ギヤ141を第五カウンタ軸216に固着した第二大ギヤ144に噛み合わせて減速伝動している。
【0043】
第五カウンタ軸216にはさらに第二小ギヤ145が固着され、この第二小ギヤ145がベベルギヤ軸142の第三大ギヤ140と噛み合ってさらに減速伝動されている。従って、第二変速軸132の回転は第六ギヤ136→大ギヤ部138→小ギヤ部139→第七ギヤ137→第八ギヤ141→第二大ギヤ144→第二小ギヤ145→第三大ギヤ140と順次減速されながら伝動されていく。
【0044】
副変速レバー18で操作される二連副変速クラッチ135の第一シフター217と第二シフター218はベベルギヤ軸142へ軸方向にスライド可能に係合していて、第一シフター217を第七ギヤ137側へスライドして係合すると第七ギヤ137の回転がベベルギヤ軸142に伝わり、第二シフター218が第八ギヤ141側へスライドして係合すると第八ギヤ141の回転がベベルギヤ軸142に伝わって、順次減速されてベベルギヤ軸142が低速で回転することになる。
【0045】
ベベルギヤ軸142の回転は第一ベベルギヤ148と第二ベベルギヤ149を経てデフギヤ219に伝動され、デフギヤ219から車軸150と遊星ギヤ151を経て後輪5へ伝動される。
【0046】
以上の説明を要約すると、入力軸110の回転は、まず前後進切換クラッチ101で正転或いは逆転に切り替えられ、一速/三速切換用第一変速クラッチ102と二速/四速切換用第二変速クラッチ103で一速から四速まで4段に変速され、高・低速切換クラッチ107で高速と低速の2段に変速され、さらに二連副変速クラッチ135で高・中・低速の3段に変速されて、ベベルギヤ軸142に伝動される。すなわち、入力軸110の回転が4×2×3=24段に変速されて車軸150へ伝動されるのである。
【0047】
前輪4への駆動力伝動は、ベベルギヤ軸142に第九ギヤ147を固着し、この第九ギヤ147を中継ギヤ190に噛み合わせさらに第三駆動軸143に固着した第十ギヤ146に噛み合わせて第三駆動軸143を駆動する。第三駆動軸143を第二カップリング170で前輪増速クラッチ163を装着した変速軸160に連結している。前輪増速クラッチ163の第十一ギヤ167と第十二ギヤ168は第七カウンタ軸164に固着した第十三ギヤ165と第十四ギヤ166に噛み合わせて、通常の前輪駆動から前輪増速に切り替えるようにしている。なお、前輪増速クラッチ163を中立にすると、前輪4の駆動が断たれて後輪のみの駆動になる。
【0048】
第七カウンタ軸164は第三カップリング191で前輪駆動軸169に連結し、さらに、第四カップリング192と延長軸194及び第五カップリング193で前輪駆動ベベル軸171に連結している。
【0049】
前輪駆動ベベル軸171の動力は、前第一ベベルギヤ172、前第二ベベルギヤ173、前デフギヤ174、前第三ベベルギヤ175、前第四ベベルギヤ176、垂直軸177、前第五ベベルギヤ178、前第六ベベルギヤ179、前遊星ギヤ180を経て前輪4を駆動している。
【0050】
次に、図5の制御ブロック図で、制御信号の流れを説明する。
まず、エンジンコントローラ60には、走行モードAと通常作業モードBと重作業モードCを選択するエンジンモード選択スイッチ97からモード信号が入力し、エンジン排気温度センサ61から排気の温度が入り、エンジン回転センサ62からエンジン回転数が入り、エンジンオイル圧力センサ63からエンジン潤滑オイルの圧力が入り、エンジン水温センサ64から冷却水の温度が入り、レール圧センサ55からコモンレールの圧力が入り、オートアクセルスイッチ51から省エネ或はパワーの運転モードが入り、エンジン2のエンジン回転センサ62から出力軸の回転数が入り、出力トルクセンサ100から出力トルクが入る。
【0051】
エンジンコントローラ60からは、燃料高圧ポンプ66に駆動信号が出力され、高圧インジェクタ65に燃料供給調整制御信号が出力される。
尚、オートアクセルスイッチ51で切り換える省エネモードSは、前記走行モードAと通常作業モードBと重作業モードCにおいて、燃料の供給を少なくした出力トルクモードで、図6に示す如く、エンジン回転の全域で駆動トルクが通常のパワーモードPよりも低下する。
【0052】
エンジンコントローラ60では運転中モード(パワーモードP或は省エネモードS)のエンジン負荷率としてモード毎の出力トルクの理論出力トルクに対する割合が算出される。
【0053】
走行状態を判断して、定常走行である場合には自動的に省エネモードSに変更するようにしてなるべく低燃費で走行出来るようにしても良い。定常走行の判断は、アクセルペダル13の操作変化が少なく負荷率が規定範囲内或はエンジン回転が規定範囲内に在る場合にする。
【0054】
オートアクセルスイッチ51は、パワーモードP或は省エネモードSへの切換を行うが、パワーモードPで運転中にエンジン負荷率が規定負荷率よりも低い場合には省エネモードSに自動的に切り換え、省エネモードSで運転中にエンジン負荷率が規定負荷率よりも高くなった場合にはパワーモードPに自動的に切り換えるようにする。
【0055】
また、後で詳しく述べるように、作業機を上昇させた際に省エネモードSに自動的に切り換え、作業機を降下すると元の設定運転モードに切り替えるようにすることで、非作業時の燃費向上を図る。
【0056】
コモンレールを有するディーゼルエンジン2のエンジンコントローラ60は、回転数と出力トルクの関係において、前記エンジンモード選択スイッチ97で切り換える走行モードAと通常作業モードB及び重作業モードCの三種類の制御モードを有する構成としている。
【0057】
走行モードAは、エンジン回転数の変動で出力も変動するドループ制御である。農作業を行わず移動走行する場合に使用するものである。例えば、ブレーキを掛けて走行速度を減速したり停止したりすると、この走行負荷の増大に伴ってエンジン回転数が低下するため走行速度の減速や停止を安全に行うことができるものである。
【0058】
通常作業モードBは、負荷が変動してもエンジン回転数が一定で出力を負荷に応じて変更するアイソクロナス制御である。通常の農作業を行う場合に使用するものである。例えば、耕転作業時に耕地が固く耕転刃に抵抗が掛かるときであり、出力が変動して回転数を維持するときである。
【0059】
重作業モードCは、通常作業モードBと同様に負荷が変動してもエンジン回転数一定で出力を負荷に応じて変更するアイソクロナス制御に加え、負荷限界近くになると回転数を上昇させて出力を上げる重負荷制御を加えた制御である。特に、負荷限界近くで農作業を行う場合に使用するものである。例えば、トラクタで耕転作業を行っている際に、特に、固い耕地に遭遇してもエンジン出力が通常の限界を越えて増大するので作業を中断することがなく、効率の良い作業が可能となる。
【0060】
作業機昇降コントローラ67には、作業機昇降レバー31に設ける作業機昇降センサ59の操作信号とリフトアームセンサ68の昇降信号と上げ調整ダイアル24の上げ位置規制信号と降下速度調整ダイアル39の降下速度設定信号がそれぞれ入力し、メイン上昇ソレノイド69とメイン下降ソレノイド70に作業機昇降信号が出力し作業機昇降シリンダ71を作動する。
【0061】
前記エンジンコントローラ60と作業機昇降コントローラ67及び後述する走行系コントローラ87は制御信号が交信されて、メータパネル72にエンジンの状態や作業機の昇降状態や走行装置の走行速度等が表示され、操作パネル73に各レバーやペダルの操作位置等が表示される。
【0062】
走行系コントローラ87は、変速1クラッチ圧力センサ74と変速2クラッチ圧力センサ75と変速3クラッチ圧力センサ76と変速4クラッチ圧力センサ77からクラッチ入信号即ち変速段が入力し、高速クラッチ圧力センサ78と低速クラッチ圧力センサ79から変速位置が入力し、前進クラッチ圧力センサ80と後進クラッチ圧力センサ81からメインクラッチBの前進・中立・後進が入力する。
【0063】
前後進レバー操作位置センサ82と副変速レバー操作位置センサ83から変速操作位置信号が入力し、ミッションオイル油温センサ85からミッションオイルの温度が入力し、ブレーキペダル操作位置センサ86からブレーキペダルの踏込み信号が入力し、エンジンパワー選択スイッチ84からモード切換信号が入力し、走行変速上昇スイッチ33と走行変速降下スイッチ34から設定変速段信号が入力し、アクセル変速設定スイッチ52からエンジンの上・下限回転数が入力し、スロットルレバー15のアクセルセンサ54からアクセル指示信号が入力する。
【0064】
さらに、ATシフト路上スイッチ41とATシフト作業スイッチ42からシフト信号が走行系コントローラ87に入力する。走行系コントローラ87からの出力は、前後進切換ソレノイド88に前後進切換クラッチ101の切換信号が出力し、リニア昇圧ソレノイド89に前後進切換ソレノイド88を駆動する油圧のリリーフ圧調整信号が出力してクラッチ接続のショックを低減し、クラッチソレノイド90に入・切信号が出力し、一速/三速切換用第一変速クラッチ102を駆動する油圧シリンダの変速1−3切換ソレノイド91に一速或いは三速の入信号が出力する。
【0065】
変速1−3昇圧ソレノイド92に一速/三速クラッチを駆動する油圧のリリーフ圧調整信号が出力してクラッチ接続のショックを低減し、二速/四速切換用第二変速クラッチ103を駆動する油圧シリンダの変速2−4切換ソレノイド93に二速或いは四速の入信号が出力し、変速2−4昇圧ソレノイド94に二速/四速クラッチを駆動する油圧のリリーフ圧調整信号が出力してクラッチ接続のショックを低減し、高・低速切換クラッチ107を駆動する油圧シリンダを作動する高速クラッチ切換ソレノイド95と低速クラッチ切換ソレノイド96に高速クラッチの入信号及び低速クラッチの入信号が出力する。
【0066】
図7は、走行モードAと通常作業モードBと重作業モードCにおいて、燃料消費率を低下させる省エネモードSと出力トルクを最大にするパワーモードPを自動的に切換える自動制御フローチャートで、オートアクセルスイッチ51をオンにすることで制御が行われる。
【0067】
ステップS1で各センサと操作スイッチ類を読み込み、ステップS2でオートアクセルスイッチ51によるエンジン制御モードを判定する。
省エネモードSであれば、ステップS3でPTOスイッチ28のオン・オフを判定し、オン(YES)であれば、ステップS4の省エネSで走行モードA(ドループ制御)を行いリターンする。
【0068】
ステップS3の判定がオフ(NO)であれば、ステップS5で走行モードA(ドループ制御)を行い、ステップS6でアクセル変速中を判定し、変速中でない(NO)であればそのままリターンし、変速中(YES)であればステップS7の加速操作中を判定し、加速操作中(YES)であればステップSス8でパワーモードPでの通常作業モードB(アイソクロナス制御)を行ってリターンし、加速操作中でない(NO)であればステップS9の定常運転の判定に移る。
【0069】
ステップS9の判定が定常運転(YES)であればステップS10で走行モードA(ドループ制御)で制御してリターンし、定常運転でない(NO)であればステップS11で再度運転モードの判定を行い、省エネモードSであればステップS10に移行し、省エネで走行モードA(ドループ制御)で制御してリターンし、パワーモードPであれば、ステップS12で走行モードA(ドループ制御)で制御してリターンする。
【0070】
前記ステップS2の判定でパワーモードPであれば、ステップS13でPTOスイッチ28の入りを判定し、スイッチ入り(YES)であればステップS14でパワーモードPでの通常作業モードB(アイソクロナス制御)で制御してリターンし、スイッチ切り(NO)であればステップS15でパワーモードPでの走行モードA(ドループ制御)で制御し、ステップS6の判定に移行する。
【0071】
図8は、オートアクセルスイッチ51をオンで、作業機の昇降に伴って行われるパワーモードPと省エネモードSを自動的に選択する自動制御のフローチャートである。
ステップS20で各センサと操作スイッチ類を読み込み、ステップS21で現在選択しているエンジン制御モードがパワーモードPであるかを判定し、判定がパワーモードPでない(NO)であればステップS35で省エネモードSを選択してリターンする。ステップS21の判定がパワーモードPである(YES)であれば、ステップS22で負荷率が80%以下であるかを判定し、以下(YES)であればステップS23で省エネモードSを選択し、判定が80%以上(NO)であればステップS24でパワーモードPを選択し、ステップS25の作業機上げ操作中を判定する。
【0072】
リフトアームセンサ68からの昇降信号で作業機上げ(下げ)操作中が判定され、ステップS25の判定が作業機上げ操作中(YES)であれば、ステップS26でエンジン回転速度を規定回転数に低下し、ステップS27で省エネモードSでのドループ制御を選択してリターンする。
【0073】
ステップS25の判定が作業機上げ操作中でない(NO)であれば、ステップS28で前後進レバー9の後進判定が行われ、後進であれば(YES)、ステップS26に移行し、後進でない(NO)であれば、ステップS29の作業機下げ操作中判定に移行する。ステップS29の作業機下げ操作中判定が下げ操作中であれば(YES)、ステップS30に移行し、下げ操作中でなければ(NO)、リターンする。
【0074】
さらに、ステップS30で上げ操作直前はパワーモードPであったかを判定し、パワーモードPであれば(YES)ステップS31でパワーモードPでのアイソクロナス制御を選択し、ステップS32で両ブレーキ操作中を判定し、判定が両ブレーキ操作中でない(NO)であればステップS33で副変速位置が路上走行であるかの判定する。判定が路上走行でない(NO)であればステップS34でエンジン回転を復帰してリターンする。
【0075】
ステップS30の判定がNOであるか、ステップS32の判定がYESであるか、ステップS33の判定がYESであれば、ステップS26に移行してエンジン回転速度を規定回転数に低下し、ステップS27で省エネモードSを選択してリターンする。
【0076】
上記の自動制御は、オートアクセルスイッチ51を省エネ見切り換えている場合の制御で、制御のどの段階でもオートアクセルスイッチ51をパワーに切り換えると、省エネモードSへの切り換えを行わないようにする。
【0077】
図9と図10に示すトラクタ1は、基本構成は従来のトラクタと同一で、回転各部をモータで駆動する電動トラクタである。
左右の前輪4,4を駆動する単独の前輪駆動モータ223と、左右の後輪5,5とPTO軸227に駆動力を出力するミッションケース224に対して小型の第一モータ221と大型の第二モータ222の二個を装着し、作業機を装着する三点リンクを昇降する昇降モータ225を設けている。各モータ221,222,223,225は、ボンネット226内に搭載したバッテリ220から電力が供給される。
【0078】
前輪駆動モータ223と第一モータ221と第二モータ222は、キャビン7のフロア下側の車体に取り付けている。また、大型の第二モータ222は、左右の後輪5,5の中央に位置している。
【0079】
前輪駆動モータ223は、二WDで駆動する際には、走行抵抗のあまりかからない状態で発電機として回生電力をバッテリ220に送るようにしている。また、前輪駆動モータ223と第一モータ221と第二モータ222は、下り坂走行時及び走行ブレーキ時に発電機として回生電力をバッテリ220に送るようにしている。第一モータ221と第二モータ222は、PTO軸227の回転停止時にも回生電力をバッテリ220に送る。
【0080】
ミッションケース224に装着の第一モータ221と第二モータ222は、油圧クラッチで駆動切換を行うミッションケース224を介して牽引とPTO軸227の駆動を分担しているので、作業状態によって大きな駆動力を必要とする側の駆動を大型の第二モータ222が分担するようにしている。例えば、牽引スイッチを押すと、第二モータ222が走行駆動を分担するようにする。また、PTOスイッチを切ってもっぱら牽引をする場合には、小型の第一モータ221も走行駆動を補助する。
【符号の説明】
【0081】
2 エンジン
68 昇降検出手段(リフトアームセンサ)
97 エンジンモード選択手段
P パワーモード
S 省エネモード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン(2)の出力モードを複数設けると共に、エンジン(2)の出力モードを選択するエンジンモード選択手段(97)を設け、作業車に装着した作業機の昇降を検出する昇降検出手段(68)を設け、前記エンジンモード選択手段(97)でパワーモード(P)を選択して走行中、前記昇降検出手段(68)が作業の上昇を検出すると、エンジン出力モードを省エネモード(S)に切り換える構成とし、昇降検出手段(68)が作業機の下降を検出すると、エンジン出力モードをパワーモード(P)に切り換えるように構成したことを特徴とする作業車のエンジン制御装置。
【請求項2】
エンジン(2)の一定回転を維持するアイソクロナスモードと、負荷に応じて回転が変動するドループモードを設け、アイソクロナスモードで作業走行中に作業機が上昇するとドループモードに切り換え、作業機が降下するとアイソクロナスモードに復帰するように構成したことを特徴とする請求項1に記載の作業車のエンジン制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−127473(P2011−127473A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−285310(P2009−285310)
【出願日】平成21年12月16日(2009.12.16)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】