説明

作業車両の車軸駆動装置

【課題】芝刈機等の作業車両では、車軸駆動装置に複数の電動発電機を備える場合、軸構造が複雑となって組立性等が低下したり、走行負荷が大きいと高トルク低回転数域での発進時のトルク不足等のために良好な走行性能が得られない、という問題があった。
【解決手段】電動発電機は第一電動発電機24と第二電動発電機25より構成し、該第一電動発電機24と第二電動発電機25は単一の共通ロータ軸41を備えると共に、該共通ロータ軸41のロータ24b・25bに対して、前記第一電動発電機24の第一ステータ24aと第二電動発電機25の第二ステータ25aを前記コントローラ20により独立制御可能に対向配置し、該第二ステータ25aの稼働状態を切り替えることによって、第一電動発電機24からのトルクに第二電動発電機25からのトルクを加算した出力トルクTを、走行負荷Lの大きさに応じて変更可能としたトルク制御構成を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車軸を駆動するために複数の電動発電機を備えた作業車両の車軸駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、乗用芝刈機等の作業車両においては、該作業車両の車軸駆動装置に、電動機動作と発電機動作が可逆的に可能で電動機と発電機を兼用できる電動発電機を複数収容し、該複数の電動発電機を制御することにより、種々のモードの駆動や制動を可能とする電動駆動技術が公知となっている(例えば、特許文献1参照)。該電動駆動技術においては、車軸駆動装置内に第一電動発電機と第二電動発電機を設け、第一電動発電機の第一ロータと第二電動発電機の第二ロータとの間を、弾性体等の連結部材によって結合した上で、該第一ロータと第二ロータにそれぞれ対向配置された各ステータに電力を供給することにより、第一ロータと第二ロータを一体的に回転し、両電動発電機からのトルクを加算した出力トルクによって車軸を駆動できるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−194257号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、この従来の電動駆動技術では、第二ステータを制動用摩擦板として軸心方向に移動可能とすべく、第二ロータの回転筒の内部に第一ロータの回転軸を内挿した多重軸が形成されているため、軸構造が複雑となって組立性、メンテナンス性が低下し、部品点数が増えて部品コストも増加する、という問題があった。
更に、前記出力トルクは、駆動輪が走行中に接地面から受ける抵抗である走行負荷の大小に関係なく制御されるため、作業車両の車軸駆動装置に搭載されるような小型小出力の電動発電機では、走行負荷が大きい場合に、発進時等の高トルク低回転数域でトルクが不足して発進不能となったり、車両移動時等の低トルク高回転数域で回転数が不足して車体速度上限が低下したりして、良好な走行性能が得られない、という問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
すなわち、請求項1においては、車軸を駆動するために複数の電動発電機と、該複数の電動発電機の動作を制御するコントローラを備えた作業車両の車軸駆動装置において、前記電動発電機は第一電動発電機と第二電動発電機より構成し、該第一電動発電機と第二電動発電機は単一の共通ロータ軸を備えると共に、該共通ロータ軸のロータに対して、前記第一電動発電機の第一ステータと第二電動発電機の第二ステータを前記コントローラにより独立制御可能に対向配置し、該第二ステータの稼働状態を切り替えることによって、第一電動発電機からのトルクに第二電動発電機からのトルクを加算した出力トルクを、走行負荷の大きさに応じて変更可能としたトルク制御構成を有するものである。
請求項2においては、前記トルク制御構成において、前記第一ステータのみを稼働する形式の単独稼働状態と、前記第一ステータに加えて第二ステータも同時に稼働する形式の同時稼働状態との間を、前記走行負荷の大きさに応じて自動で切り替える自動操作モードと、前記単独稼働状態と同時稼働状態との間を走行負荷の大きさに関係なく手動で切り替える手動操作モードとを自在に変更するモード変更手段を備えるものである。
請求項3においては、前記走行負荷は、作業車両の走行駆動部で検知される負荷トルクとするものである。
請求項4においては、前記走行負荷は、車体速度と車輪速度の速度差の車体速度に対する割合であるスリップ率とするものである。
請求項5においては、アクセル操作時には、前記作業車両の走行負荷が所定の基準負荷より小さい場合は、前記第一ステータのみを稼働する単独稼働状態とし、稼働状態にない前記第二ステータによって回生電力を発生させるものである。
請求項6においては、アクセル操作時には、前記作業車両の旋回操作量が所定の基準操作量より小さい場合は、前記第一ステータのみを稼働する単独稼働状態とし、稼働状態にない前記第二ステータによって回生電力を発生させるものである。
請求項7においては、非アクセル操作時には、稼働状態にない前記第一ステータと第二ステータのうちの少なくとも一方によって回生電力を発生させるものである。
請求項8においては、前記電動発電機は、前記第一ステータと第二ステータを、ロータの永久磁石に対し、共通ロータ軸の軸心方向に所定の空隙をもって対向配置するアキシャルエアギャップ構造を有し、前記第一ステータと第二ステータとの間には、前記ロータの一部であって第一ステータ側と第二ステータ側の両側に永久磁石を設けた共通ロータ部を介設するものである。
請求項9においては、前記電動発電機は、前記ステータを、ロータの永久磁石に対し、共通ロータ軸の軸心方向に所定の空隙をもって対向配置するアキシャルエアギャップ構造と、共通ロータ軸の半径方向に所定の空隙をもって対向配置するラジアルエアギャップ構造とを併有するものである。
請求項10においては、前記第二電動発電機の電動機容量は、前記第一電動発電機の電動機容量よりも小さく設定するものである。
請求項11においては、前記車軸駆動装置は、各車軸を独立駆動可能に設けるものである。
請求項12においては、前記車軸駆動装置の少なくとも一部は、各車軸に連結する車輪のリム内に収容可能とするものである。
請求項13においては、前記共通ロータ軸と同一軸心上に減速装置を設けるものである。
請求項14においては、前記減速装置は、前記第一電動発電機・第二電動発電機と一体的に構成するものである。
請求項15においては、前記共通ロータ軸と同一軸心上に制動装置を設けるものである。
請求項16においては、前記ロータの少なくとも一部に、前記制動装置の制動用の摺動部を兼用させるものである。
請求項17においては、前記車軸駆動装置は、前記第一電動発電機と第二電動発電機からの電動動力を変速する変速装置を備えるものである。
請求項18においては、前記車軸駆動装置は、前記出力トルクを左右車軸に差動伝達する差動装置を備えるものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、以上のように構成したので、以下に示す効果を奏する。
すなわち、請求項1においては、車軸を駆動するために複数の電動発電機と、該複数の電動発電機の動作を制御するコントローラを備えた作業車両の車軸駆動装置において、前記電動発電機は第一電動発電機と第二電動発電機より構成し、該第一電動発電機と第二電動発電機は単一の共通ロータ軸を備えると共に、該共通ロータ軸のロータに対して、前記第一電動発電機の第一ステータと第二電動発電機の第二ステータを前記コントローラにより独立制御可能に対向配置し、該第二ステータの稼働状態を切り替えることによって、第一電動発電機からのトルクに第二電動発電機からのトルクを加算した出力トルクを、走行負荷の大きさに応じて変更可能としたトルク制御構成を有するので、多重軸等の複雑な軸を省略することができ、軸構造を単純にして組立性、メンテナンス性が向上すると共に、部品点数が減少して部品コストの低減を図ることができる。更に、作業車両の車軸駆動装置に搭載されるような小型小出力の電動発電機であって走行負荷が大きい場合であっても、該走行負荷に応じて第二ステータを稼働状態にしてトルクを加算し、前記出力トルクを大きく増加させることができ、発進時等の高トルク低回転数域でトルクが不足して発進不能となったり、車両移動時等の低トルク高回転数域で回転数が不足して車体速度上限が低下するのを確実に防止することができ、良好な走行性能を得ることができる。
請求項2においては、前記トルク制御構成において、前記第一ステータのみを稼働する形式の単独稼働状態と、前記第一ステータに加えて第二ステータも同時に稼働する形式の同時稼働状態との間を、前記走行負荷の大きさに応じて自動で切り替える自動操作モードと、前記単独稼働状態と同時稼働状態との間を走行負荷の大きさに関係なく手動で切り替える手動操作モードとを自在に変更するモード変更手段を備えるので、例えば、走行負荷が全般的に小さい場合は手動操作モードで単独稼働状態に設定し、走行負荷が全般的に大きい場合は手動操作モードで同時稼働状態に設定し、走行負荷が大きく変動するような場合は自動操作モードに設定するようにして、作業内容、接地面状態、車両運転者の熟練度等の諸条件に合わせて、各ステータの稼働状態をきめ細かく変更することができ、ステータの無駄な稼働時間を短縮して節電したり、各部品の損耗を軽減して部品寿命を延ばすことにより、ランニングコストの低減を図ることができる。
請求項3においては、前記走行負荷は、作業車両の走行駆動部で検知される負荷トルクとするので、駆動輪が接地面から受ける走行負荷を駆動輪近くで直接的に検知して把握することができ、前記第二ステータの稼働状態をより精度良く切り替えることにより、高トルク低回転数域でのトルク不足や低トルク高回転数域での回転数不足等を一層確実に防止し、更に良好な走行性能を得ることができる。
請求項4においては、前記走行負荷は、車体速度と車輪速度の速度差の車体速度に対する割合であるスリップ率とするので、駆動輪が接地面から受ける走行負荷を、光学センサ等で検知した作業車両の車体速度と駆動輪の車輪速度から算出するだけで把握することができ、前記第二ステータの稼働状態をより高速に切り替えることにより、高トルク低回転数域でのトルク不足や低トルク高回転数域での回転数不足等を一層確実に防止し、更に良好な走行性能を得ることができる。
請求項5においては、アクセル操作時には、前記作業車両の走行負荷が所定の基準負荷より小さい場合は、前記第一ステータのみを稼働する単独稼働状態とし、稼働状態にない前記第二ステータによって回生電力を発生させるので、アクセル操作時に、走行負荷が小さくて稼働状態にない第二ステータからの回生電力を一旦バッテリに充電し、該バッテリからの供給電力を使用して前記電動発電機に電動機動作を行わせることができ、作業車両の運動エネルギーを有効に利用して大きな省エネ効果を得ることができる。
請求項6においては、アクセル操作時には、前記作業車両の旋回操作量が所定の基準操作量より小さい場合は、前記第一ステータのみを稼働する単独稼働状態とし、稼働状態にない前記第二ステータによって回生電力を発生させるので、アクセル操作時に、旋回操作量が小さくて稼働状態にない第二ステータからの回生電力を一旦バッテリに充電し、該バッテリからの供給電力を使用して前記電動発電機に電動機動作を行わせることができ、作業車両の運動エネルギーを有効に利用して大きな省エネ効果を得ることができる。
請求項7においては、非アクセル操作時には、稼働状態にない前記第一ステータと第二ステータのうちの少なくとも一方によって回生電力を発生させるので、非アクセル操作時に、稼働状態にないステータのうちの少なくとも一方からの回生電力を一旦バッテリに充電し、該バッテリからの供給電力を使用して前記電動発電機に電動機動作を行わせることができ、作業車両の運動エネルギーを有効に利用して大きな省エネ効果を得ることができる。
請求項8においては、前記電動発電機は、前記第一ステータと第二ステータを、ロータの永久磁石に対し、共通ロータ軸の軸心方向に所定の空隙をもって対向配置するアキシャルエアギャップ構造を有し、前記第一ステータと第二ステータとの間には、前記ロータの一部であって第一ステータ側と第二ステータ側の両側に永久磁石を設けた共通ロータ部を介設するので、前記アキシャルエアギャップ構造によって、ロータの永久磁石とステータの磁極との対向面積を大きく確保することができ、磁石磁束量が増大して出力の向上を図ることができる。更に、ステータを、該ステータの長手方向が共通ロータ軸の半径方向に沿うように配置し、電動発電機の軸心方向の厚みを薄くして、車軸駆動装置の軸心方向の長さを短くすることができる。加えて、両側面に永久磁石を設けた共通ロータ部は、第一ステータと第二ステータの両ステータの両磁極からの作用を同時に受けることができ、その分だけ磁石磁束量が増大して電動発電機の出力を更に向上させることができる。
請求項9においては、前記電動発電機は、前記ステータを、ロータの永久磁石に対し、共通ロータ軸の軸心方向に所定の空隙をもって対向配置するアキシャルエアギャップ構造と、共通ロータ軸の半径方向に所定の空隙をもって対向配置するラジアルエアギャップ構造とを併有するので、ロータの永久磁石とステータの磁極との対向面積を大きく確保して電動発電機の小型化・軽量化が容易なアキシャルエアギャップ構造の部分と、共通ロータ軸のたわみや軸振動が小さく大型化が容易なラジアルエアギャップ構造の部分を、電動発電機仕様に合わせて自在に組み合わせることができ、汎用性・拡張性の高い電動発電機を得ることができる。
請求項10においては、前記第二電動発電機の電動機容量は、前記第一電動発電機の電動機容量よりも小さく設定するので、補助的な第二電動発電機の小型化・軽量化を図ることができ、車軸駆動装置も小型化・軽量化することができる。
請求項11においては、前記車軸駆動装置は、各車軸を独立駆動可能に設けるので、車軸毎に適正な電動機動作・発電機動作を行うことができ、走行性能・電力回生効率の向上を図ることができる。
請求項12においては、前記車軸駆動装置の少なくとも一部は、各車軸に連結する車輪のリム内に収容可能とするので、車輪と作業車両本体との間における車軸駆動装置の伸縮長を短縮することができ、作業車両の左右方向の小型化を図ることができる。
請求項13においては、前記共通ロータ軸と同一軸心上に減速装置を設けるので、共通ロータ軸と直結するようにして減速装置を設けることができ、共通ロータ軸から減速装置までの複雑な減速リンク機構が不要となり、該減速リンク機構を形成するための部品や設置するための配置空間を省略することができ、車軸駆動装置の部品コストの低減、メンテナンス性の向上、及び小型化・軽量化を更に進めることができる。
請求項14においては、前記減速装置は、前記第一電動発電機・第二電動発電機と一体的に構成するので、減速装置を前記第一電動発電機・第二電動発電機と同じケース内に収容することができ、減速装置収容のためのケースが不要となり、車軸駆動装置の小型化・軽量化を更に進めることができる。
請求項15においては、前記共通ロータ軸と同一軸心上に制動装置を設けるので、共通ロータ軸と直結するようにして制動装置を設けることができ、共通ロータ軸から制動装置までの複雑な制動リンク機構が不要となり、該制動リンク機構を形成するための部品や設置するための配置空間を省略することができ、車軸駆動装置の部品コストの低減、メンテナンス性の向上、及び小型化・軽量化を更に進めることができる。
請求項16においては、前記ロータの少なくとも一部に、前記制動装置の制動用の摺動部を兼用させるので、該摺動部を別途設ける必要がなくなり、部品点数を低減させることができ、車軸駆動装置の部品コストの低減、メンテナンス性の向上を更に進めることができる。
請求項17においては、前記車軸駆動装置は、前記第一電動発電機と第二電動発電機からの電動動力を変速する変速装置を備えるので、該第一電動発電機と第二電動発電機への供給電力の制御のみによる変速に比べて変速比が大きくとれ、作業内容、接地面状態等の諸条件に合わせて車体速度をきめ細かく変更することができ、走行性能を向上させることができる。
請求項18においては、前記車軸駆動装置は、前記出力トルクを左右車軸に差動伝達する差動装置を備えるので、左右の各駆動輪に常に等しいトルクを加えながら異なった回転速度を付与することができ、旋回や曲進が容易となり、走行性能を更に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明に係わる車軸駆動装置3を搭載した作業車両の全体平面図である。
【図2】車軸駆動ケースの支持構造を示す車軸駆動装置周囲の側面図である。
【図3】車軸駆動装置3の背面断面図である。
【図4】トルク制御システムのブロック図である。
【図5】トルク制御構成を示す出力トルクと車体速度の関係曲線図である。
【図6】トルク制御構成を示すフローチャートである。
【図7】車軸駆動装置3の別形態を示す車軸駆動装置3Aの背面断面図である。
【図8】車軸駆動装置3の別形態を示す車軸駆動装置3Bの模式図である。
【図9】車軸駆動装置3の別形態を示す車軸駆動装置3Cの模式図である。
【図10】車軸駆動装置3の別形態である車軸駆動装置4を搭載した作業車両の全体平面図である。
【図11】車軸駆動装置4の背面断面図である。
【図12】同じく拡大背面断面図である。
【図13】車軸駆動装置4の別形態を示す車軸駆動装置4Aの背面断面図である。
【図14】同じく拡大背面断面図である。
【図15】車軸駆動装置3の別形態である車軸駆動装置5の平面断面図である。
【図16】車軸駆動装置5の別形態を示す車軸駆動装置5Aの模式図である。
【図17】車軸駆動装置5の別形態を示す車軸駆動装置5Bの模式図である。
【図18】車軸駆動装置5の別形態を示す車軸駆動装置5Cの模式図である。
【図19】車軸駆動装置5の別形態を示す車軸駆動装置5Dの模式図である。
【図20】車軸駆動装置5の別形態を示す車軸駆動装置5Eの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
なお、以下の説明では、図1の矢印2で示す方向を作業車両1の前方、矢印28で示す方向を右方として、各部材の名称や位置関係を説明するものである。
【0009】
まず、本発明に関わる車軸駆動装置を左右に搭載した作業車両1の全体構成について、図1乃至図4により説明する。
該作業車両1は、乗用芝刈機であって、その前後方向に車体フレーム7が延設され、該車体フレーム7前端の左右端部には、前輪としてのキャスタ輪8・8が支持されると共に、前記車体フレーム7の前後途中部の下方には、図示せぬ回転刃等を内装するモアユニット9が配置され、該モアユニット9の後方の前記車体フレーム7上に、本体カバー10が搭載されている。
【0010】
該本体カバー10内において、前記車体フレーム7の左右両側板7a・7a間には、エンジン11、該エンジン11によって駆動されて発電する発電機12、及び該発電機12からの余剰電力や後述する回生電力を蓄えるためのバッテリ13が配設され、このうちのエンジン11には、ラジエータ11aや、該ラジエータ11aを冷却するためのラジエータファン11b等が付設されている。
【0011】
また、前記左右両側板7a・7aには、本発明に関わる左右の両車軸駆動装置3・3が、後述するようにしてそれぞれ固定されている。該車軸駆動装置3には車軸15が設けられ、該車軸15の外端にはハブ14が固設されており、該ハブ14が、後輪としての駆動輪6のリム6b内に配置されている。そして、該駆動輪6は、タイヤ6a、該タイヤ6a内周部に取り付けた環状の前記リム6b、及び該リム6bの円形開口内に固設されているホイル6cより構成されており、該ホイル6cに前記ハブ14をボルト16で締結することにより、各駆動輪6を車軸15に連結して各車軸駆動装置3によって独立駆動できるようにしている。
【0012】
ここで、前記車軸駆動装置3の車軸駆動ケース30の構成と支持構造について説明する。なお、左右の車軸駆動装置3・3は互いに略同一構造であるため、以下の説明では、右側の車軸駆動装置3、すなわち図1では前記矢印2に近い方の車軸駆動装置3についてのみ説明し、左側の車軸駆動装置3についての説明は省略する。
【0013】
前記車軸駆動ケース30は、左から順に、制動ケース部材31、内側カバー部材32、電動発電ケース部材33、減速ギアケース部材34、車軸ケース部材35、及び外側カバー部材36を、前記車軸15の軸心方向に沿って配設し、接合することにより構成される。このうちの電動発電ケース部材33の外周部の軸心方向途中には段差面33aが形成されており、前記電動発電ケース部材33、減速ギアケース部材34、車軸ケース部材35に対して、前記段差面33aから軸心方向にボルト37を螺入し、該ボルト37によって前記ケース部材33・34・35が締結されている。
【0014】
そして、前記車軸ケース部材35の内側外周部と減速ギアケース部材34の外側面によって形成された小段差部34aに、前記車体フレーム7の側板7aの内側面が当接するようにして、車軸駆動ケース30が側板7aに固定されている。
【0015】
該側板7aには、図2に示すように、下方に開いた側面視U字状の支持切欠き7bが形成されており、該支持切欠き7bの奥半部7cに前記減速ギアケース部材34の小段差部34aを当接した上で、該減速ギアケース部材34外周部の図示せぬフランジ部分を複数のボルト38で前記側板7aに締結固定することにより、車軸駆動ケース30を側板7aに固定できるようにしている。更に、前記支持切欠き7bの開口部7dを閉塞するように、補強板39が前後方向に橋架されてボルト78によって側板7aに締結固定され、該補強板39の上辺が、前記車軸駆動ケース30の下側の小段差部34aに当接されており、車軸駆動ケース30を、より確実に側板7aに固定することができる。
【0016】
すなわち、このように、前記側板7aに一方に開いた支持切欠き7bをに設け、該支持切欠き7bによって前記車軸駆動ケース30を支持する支持構造としたので、側板7a内に独立した支持孔を形成する場合に比べて加工が容易となり、作業車両1の製造コストの低減を図ることができると共に、必要に応じて、前記支持切欠き7bの開口部7dを閉塞する補強板39等の補強部材を設け、該補強板39によって前記車軸駆動ケース30を一方から押圧支持することにより、更に支持強度を高めることができ、作業車両1の適用範囲を拡大することができる。
【0017】
また、前記各車軸駆動装置3内には、電動発電機18が設けられており、該電動発電機18には前記バッテリ13からの電力が供給される。この供給電力は、前記発電機12からの発電電力や、後述するような電動発電機18毎の発電機動作による回生電力を前記バッテリ13に蓄えて成る直流電力を、作業車両1に設けたペダルやレバー等のアクセル操作具21のアクセル操作に連動させて、適正な大きさと周波数の交流電力に変換したものである。そして、該交流電力を各電動発電機18に供給することにより、電動発電機18毎に電動機動作させて各車軸15を独立駆動できるようにしている。
【0018】
すなわち、以上のように、前記車軸駆動装置3は、各車軸15を独立駆動可能に設けるので、車軸15毎に適正な電動機動作・発電機動作を行うことができ、走行性能・電力回生効率の向上を図ることができる。
【0019】
なお、該作業車両1には、丸形ハンドル等の旋回操作具22も設けられており、該旋回操作具22の旋回操作方向や旋回操作量Mに応じて、各車軸駆動装置3の電動発電機18への供給電力に差を設け、これにより、左右の駆動輪6・6を差動させて、作業車両1を旋回させるようにしている。
【0020】
また、前記モアユニット9には、回転刃駆動用のギア機構を収納するギアボックス9aが付設され、該ギアボックス9a内のギア機構を駆動する電動機26が、前記本体カバー10内で車体フレーム7の左右両側板7a・7aの間に配設されている。そして、該電動機26と前記ギアボックス9aの入力軸との間は、ユニバーサルジョイント付きの伝動軸27によって連結されており、前記バッテリ13からの供給電力で駆動される電動機26により、モアユニット9内の回転刃を駆動するようにしている。
【0021】
次に、前記各車軸駆動装置3の詳細構成について、図3により説明する。
なお、以下の説明で「軸心方向」とは、後述する共通ロータ軸の軸心方向を示すものであり、「軸心方向外側」とは、該軸心方向における駆動輪6寄り側、「軸心方向内側」とは、該軸心方向における駆動輪6と反対側を示すものとする。
【0022】
前記電動発電ケース部材33の内周面には、複数の電機子巻線を環状に並列してなる環状の第一ステータ24aと第二ステータ25aが軸心方向に並設固定され、該第一ステータ24aと第二ステータ25a内に、それぞれ、第一ロータ部24bと第二ロータ部25bが配置される。
【0023】
該第一ロータ部24bと第二ロータ部25bの外周面には、いずれも環状の永久磁石40が固設されると共に、該永久磁石は、それぞれ、前記第一ステータ24aと第二ステータ25aの内周面と、所定の空隙をもって対向するように配置されている。この左右の第一ロータ部24bと第二ロータ部25bは、同じロータ筒144aに形成されており、該ロータ筒144aが支持アーム144bを介して単一の共通ロータ軸41上に一体回転可能に固設されるようにして、ラジアルエアギャップ構造が形成される。そして、該ロータ筒144aと支持アーム144bとから、ロータ144が構成されている。
【0024】
これにより、前記第一ステータ24a・第一ロータ部24bより第一電動発電機24が形成され、前記第二ステータ25a・第二ロータ部25bより第二電動発電機25が形成され、これら第一電動発電機24と第二電動発電機25から、本発明に関わる電動発電機18が構成される。
【0025】
該電動発電機18においては、前記共通ロータ軸41は、軸心方向外側に向かって水平に、前記電動発電ケース部材33の軸受け42を介して、減速ギアケース部材34内に延設される。一方、該共通ロータ軸41は、反対の軸心方向内側に向かって水平に、前記内側カバー部材32を介して、制動ケース部材31内に延設されている。
【0026】
該制動ケース部材31内では、前記共通ロータ軸41が被制動軸とされ、その周りに制動装置17が周設されており、複雑な制動リンク機構を介することなく、直接的に共通ロータ軸41を制動できるようにしている。詳しくは、該制動装置17は、前記制動ケース部材31で軸心方向内側に開いた凹部内に配設され、該凹部は、カバー板31aによって覆われており、制動装置17を操作する制動操作軸43が、該制動装置17からカバー板31aを介して、電動発電ケース部材33の外部に突出されている。
【0027】
そして、該制動操作軸43の端部には、制動アーム44が固設され、該制動アーム44は、作業車両1の図示せぬブレーキペダル等の制動操作具に機械的に連係されるか、または、制動用アクチュエータに連係されており、該制動操作具か制動用アクチュエータを操作することで、制動アーム44を回動し、制動操作軸43を介して前記共通ロータ軸41を制動するようにしている。
【0028】
すなわち、前記共通ロータ軸41と同一軸心上に制動装置17を設けるので、共通ロータ軸41と直結するようにして制動装置17を設けることができ、共通ロータ軸41から制動装置17までの複雑な制動リンク機構が不要となり、該制動リンク機構を形成するための部品や設置するための配置空間を省略することができ、車軸駆動装置3の部品コストの低減、メンテナンス性の向上、及び小型化・軽量化を進めることができる。
【0029】
また、前記減速ギアケース部材34の外端と車軸ケース部材35の内端の接合部近傍の内周面には、軸受け45を介して、車軸15の内端フランジ15aが軸支される一方、車軸15が、該内端フランジ15aから軸心方向外側に向かって、前記共通ロータ軸41と同軸上において延設され、該車軸15の軸心方向途中部が、軸受け46を介して、前記車軸ケース部材35内に軸支される。そして、該車軸15は、前記外側カバー部材36を介して、電動発電ケース部材33に突出され、前述の如く、該車軸15に前記ハブ14が固設されている。
【0030】
該ハブ14は、前述の如く駆動輪6のリム6b内に配置され、更に、車軸駆動ケース30の少なくとも一部、本実施例では、外側カバー部材36及び車軸ケース部材35がリム6b内に配置されており、これにより、駆動輪6と車軸駆動装置3との間隔を短くすることができる。
【0031】
すなわち、前記車軸駆動装置3の少なくとも一部は、各車軸15に連結する車輪である駆動輪6のリム6b内に収容可能とするので、駆動輪6と作業車両1本体との間における車軸駆動装置3の伸縮長を短縮することができ、作業車両1の左右方向の小型化を図ることができる。
【0032】
また、前記電動発電ケース部材33の軸心方向外側に隣接する減速ギアケース部材34内には、遊星ギア機構から成る減速装置19が設けられている。該減速装置19においては、前記共通ロータ軸41の外端に、第一サンギア47が固設されると共に、該第一サンギア47と前記内端フランジ15aとの間にあって、前記共通ロータ軸41と同一軸心上には、第二サンギア48が相対回転可能に軸支されるようにして、減速装置19が、共通ロータ軸41の軸心周りに周設されている。そして、該第二サンギア48のボス部の内端部には、遊星ギアキャリア49が相対回転不能に外嵌されている。
【0033】
該遊星ギアキャリア49には、前記共通ロータ軸41と平行な遊星ギア軸50が植設され、該遊星ギア軸50上に、第一遊星ギア51が相対回転可能に外嵌されている。そして、該第一遊星ギア51は、前記第一サンギア47に常時噛合されると共に、前記減速ギアケース部材34の内周面に形成されたリングギアであるインターナルギア34bにも常時噛合されている。
【0034】
前記内端フランジ15aには、前記共通ロータ軸41と平行に遊星ギア軸52が支持され、該遊星ギア軸52を介して、第二遊星ギア53が内端フランジ15aに枢支されている。そして、該第二遊星ギア53は、前記第二サンギア48に常時噛合されると共に、前記インターナルギア34bにも常時噛合されている。
【0035】
このような遊星ギア機構を介することにより、前記共通ロータ軸41から伝達されてきた電動機動力は、複雑な制動リンク機構を介することなく直接的に減速された後、そのまま前記遊星ギア軸52に公転動力として伝達され、車軸15を回転駆動する。
【0036】
すなわち、前記共通ロータ軸41と同一軸心上に減速装置19を設けるので、共通ロータ軸41と直結するようにして減速装置19を設けることができ、共通ロータ軸41から減速装置19までの複雑な減速リンク機構が不要となり、該減速リンク機構を形成するための部品や設置するための配置空間を省略することができ、車軸駆動装置3の部品コストの低減、メンテナンス性の向上、及び小型化・軽量化を更に進めることができる。
【0037】
更に、前記減速装置19は、前記第一電動発電機24・第二電動発電機25と一体的に構成するので、減速装置19を前記第一電動発電機24・第二電動発電機25と同じケースである車軸駆動ケース30内に収容することができ、減速装置19収容のためのケースが不要となり、車軸駆動装置3の小型化・軽量化を更に進めることができる。
【0038】
次に、以上のような車軸駆動装置3において前記第一電動発電機24・第二電動発電機25のトルク制御システム54について、図3乃至図5により説明する。
図4に示すように、該トルク制御システム54においては、第一ドライバ154を介して前記第一電動発電機24が、第二ドライバ155を介して前記第二電動発電機25が、それぞれ、独立制御可能にコントローラ20と接続されている。更に、回生装置23を介して前記バッテリ13が接続され、該バッテリ13は、前記第一ドライバ154と第二ドライバ155に接続されており、該バッテリ13から放電される前記直流電力は、各ドライバ154・155内のインバータにより、前記コントローラ20からの制御信号に基づいて、適正な大きさと周波数の交流電力に変換された後、それぞれ、リード線を介して前記第一電動発電機24と第二電動発電機25に供給電力として送電されるようにしている。
【0039】
ここで、回生装置23とは、前記駆動輪6の回転エネルギーを、第一電動発電機24・第二電動発電機25の電動機動作用の回転エネルギーに変換する装置であり、前記第一ステータ24a・第二ステータ25aのうちで稼働状態にない方のステータによって、制動時や降坂時に回生電力を発生させ、該回生電力を前述のようにバッテリ13に蓄えるものである。
【0040】
更に、前記コントローラ20には、前記第一ステータ24a・第二ステータ25aの稼働状態の切り替えや操作モードを変更するモード変更具55、該モード変更具55により設定された稼働状態や操作モードを検知するモードセンサ64、交流電力の大きさや周波数を変化させてバッテリ13から電動発電機18への供給電力を増減するアクセル操作具21、該アクセル操作具21により設定されたアクセル量を検知するアクセルセンサ72、作業車両1の対地速度である車体速度を検知する光学センサ・ドップラーレーダ・測定車輪等を用いた車体速度センサ56、車軸15等の走行駆動部に取り付けて駆動輪6の実際の回転速度を検知する車輪速度センサ65、共通ロータ軸41等に取り付けて第一電動発電機24・第二電動発電機25からの出力トルクを検知する出力トルクセンサ57、車軸15等の走行駆動部に取り付けて走行負荷Lを検知する負荷トルクセンサ58、丸形ハンドル等の前記旋回操作具22、及び、該旋回操作具22による旋回操作方向や旋回操作量Mを検知する旋回センサ59が接続されている。
【0041】
このうちのモード変更具55には、稼働状態の切り替えや操作モードを変更するため、本実施例のようなレバー等の変更操作具55aが設けられており、該変更操作具55aを操作することで、走行負荷L・旋回操作量Mのいずれも小さいため前記第一電動発電機24の第一ステータ24aのみを稼働状態にして十分な出力トルクを得る単独稼働状態(位置67)と、走行負荷L・旋回操作量Mの少なくとも一方が基準値より大きいために第一電動発電機24の第一ステータ24aに加えて第二電動発電機25の第二ステータ25aも同時に稼働状態にして出力トルクの不足分を補う同時稼働状態(位置68)との間を、自在に切り替えることができる(以下、「手動操作モード」とする。)。更に、該同時稼働状態と前記単独稼働状態との間の切り替えを、このような手動ではなく、走行負荷L・旋回操作量Mの大きさに応じて自動的に行う自動操作モード(位置66)に設定することができる。
【0042】
前記位置67では、前述の如く、電動発電機18は手動操作モードにおける単独稼働状態に設定されるが、その場合の作業車両1の車体速度Vと電動発電機18からの出力トルクTは、図5に示すように、車体速度Vと第一電動発電機24のみからの出力トルクTとの関係を示すトルク特性曲線60によって囲まれる領域71内で変化させることができる。
【0043】
該領域71においては、前記単独稼働状態で前記アクセル操作具21を踏み込んでいくと、前記ドライバ154により、稼働状態にある第一ステータ24aへの供給電力が増加し、該第一ステータ24aで発生する磁極の強さが強くなるが、それに伴い、共通ロータ軸41の回転速度が速くなり、車体速度Vが0からVmax(1)まで増加する。
【0044】
この場合の共通ロータ軸41からの出力トルクTの上限は、発進時等の高トルク低回転数域に相当する、車体速度Vが0からV2までの低速度域69では、Tmax(1)に制限されると共に、車両移動時等の低トルク高回転数域に相当する、車体速度VがV2からVmax(1)までの中高速度域70では、前記Tmax(1)からT2まで減少するように、前記第一ステータ24aへの供給電力が、前記アクセルセンサ72からのアクセル信号、車体速度センサ56からの車体速度信号、及び出力トルクセンサ57からの出力トルク信号に基づいて、前記コントローラ20によって制御される。
【0045】
また、位置68では、前述の如く、電動発電機18は手動操作モードにおける同時稼働状態に設定されるが、その場合の車体速度Vと出力トルクTは、前記トルク特性曲線60を出力トルクTの増加方向または車体速度Vの増加方向に拡張した曲線部分(以下、「加算トルク部」とする。)によって囲まれる領域内で変化し、これらの加算トルク部と前記トルク特性曲線60から拡張トルク特性曲線60Aが形成される。
【0046】
前記低速度域69では、第二ステータ25aにも電力を供給するようにして、該第二ステータ25aによって加算された出力トルク部分に相当する第一加算トルク部61を形成してトルク不足を補うことで、過大な走行負荷Lに対応可能としている。この場合、該第一加算トルク部61の出力トルクTの上限が、車体速度Vが0からV1までは、前記Tmax(1)より大きな一定値のTmax(2)に拡張され、車体速度VがV1からV2までは、Tmax(2)からTmax(1)まで減少するように、前記第二ステータ25aへの供給電力が制御される。
【0047】
前記中高速度域70の高速部域にも、第二ステータ25aによって加算された出力トルク部分に相当する第二加算トルク部62を形成してトルク不足を補うようにしている。この場合、該第二加算トルク部62の出力トルクTの上限が、車体速度VがV3からVmax(1)まで、前記トルク特性曲線60より大きな一定値のT3に拡張されるように、前記第二ステータ25aへの供給電力が制御される。
【0048】
更に、前記車体速度Vmax(1)よりも高速域については、第二ステータ25aによって加算された車体速度部分に相当する第三加算トルク部63を形成して、車体速度Vの上限をVmax(1)から更に高速のVmax(2)まで拡張することにより、回転数が不足しないようにして車体速度上限を緩和できるようにしている。この場合、該第三加算トルク部63の出力トルクTの上限は、車体速度VがVmax(2)であっても、車体速度Vmax(1)時の出力トルクT2より若干低い出力トルクT1までしか減少しないように、前記第二ステータ25aへの供給電力が制御される。なお、第一電動発電機24のみからの出力トルクによる前記領域71は、該第一電動発電機24の第一ステータ24aへの供給電流値を制御することにより、高トルク特性曲線160で囲まれる領域まで拡大しておくことが可能であり、この場合も、前述のようにして、第二電動発電機25の第二ステータ25aによる加算トルク部を形成し、各速度域でのトルク不足を補うことができる。
【0049】
すなわち、車軸15を駆動するために複数の電動発電機と、該複数の電動発電機の動作を制御するコントローラ20を備えた作業車両1の車軸駆動装置3において、前記電動発電機は第一電動発電機24と第二電動発電機25より構成し、該第一電動発電機24と第二電動発電機25は単一の共通ロータ軸41を備えると共に、該共通ロータ軸41のロータ144に対して、前記第一電動発電機24の第一ステータ24aと第二電動発電機25の第二ステータ25aを前記コントローラ20により独立制御可能に対向配置し、該第二ステータ25aの稼働状態を切り替えることによって、第一電動発電機24からのトルクに第二電動発電機25からのトルクを加算した出力トルクTを、走行負荷Lの大きさに応じて変更可能としたトルク制御構成を有するので、多重軸等の複雑な軸を省略することができ、共通ロータ軸41の軸構造を単純にして組立性、メンテナンス性が向上すると共に、部品点数が減少して部品コストの低減を図ることができる。更に、作業車両1の車軸駆動装置3に搭載されるような小型小出力の電動発電機18で走行負荷Lが大きい場合であっても、該走行負荷Lに応じて第二ステータ25aを稼働状態にしてトルクを加算し、前記出力トルクTを大きく増加させることができ、発進時等の高トルク低回転数域である低速度域69でトルクが不足して発進不能となったり、車両移動時等の低トルク高回転数域である中高速度域70で回転数が不足して車体速度V上限が低下するのを確実に防止することができ、良好な走行性能を得ることができる。
【0050】
また、位置66では、前述の如く、自動操作モードに設定されるが、その場合の前記単独稼働状態と同時稼働状態との間の切り替えは、走行負荷Lや旋回操作量Mの大きさに基づいて行われる。このうちの走行負荷Lには、作業車両1の車軸15等の走行駆動部に直接取り付けた前記負荷トルクセンサ58からの負荷トルク信号に基づく負荷トルクを用い、該負荷トルクが大きいほど、走行中に電動発電機18にかかる負荷が増加する。更に、旋回操作量Mには、旋回操作具22の回転角度等が用いられ、該旋回操作量Mは、前記旋回センサ59からの旋回操作量信号に基づいて検知する。
【0051】
なお、前記走行負荷Lとしては、光学センサ等の前記車体速度センサ56からの車体速度信号に基づく車体速度Vと、前記車輪速度センサ65からの車輪速度信号に基づく車輪速度vとの速度差ΔVを、車体速度Vで除して得られるスリップ率を用いてもよく、該スリップ率の値が大きいほどスリップしやすく、走行負荷も大きい。そして、該スリップ率は、走行中に電動発電機18にかかる負荷そのものではないが、走行負荷の増減をスリップ現象を介して間接的かつ迅速に予測可能な指標となるものである。
【0052】
すなわち、前記走行負荷Lを、作業車両1の走行駆動部である車軸15で検知される負荷トルクとする場合には、駆動輪6が接地面から受ける走行負荷Lを、駆動輪6近くで直接的に検知して把握することができ、前記第二ステータ25aの稼働状態をより精度良く切り替えることにより、高トルク低回転数域である低速度域69でのトルク不足や低トルク高回転数域である中高速度域70での回転数不足等を一層確実に防止し、更に良好な走行性能を得ることができる。
【0053】
加えて、前記走行負荷Lを、車体速度Vと車輪速度vの速度差ΔVの車体速度Vに対する割合であるスリップ率とする場合には、駆動輪6が接地面から受ける走行負荷Lを、光学センサ等で検知した作業車両1の車体速度Vと駆動輪6の車輪速度vから算出するだけで把握することができ、前記第二ステータ25aの稼働状態をより高速に切り替えることにより、高トルク低回転数域である低速度域69でのトルク不足や低トルク高回転数域である中高速度域70での回転数不足等を一層確実に防止し、更に良好な走行性能を得ることができる。
【0054】
また、以上のような構成において、前記第二電動発電機25によって加算する加算トルク部61・62・63のための電動機出力は、前記第一電動発電機24によって得られる領域71を現出するのに必要な電動機出力よりも小さくて済むことから、第二電動発電機25の電動機容量を第一電動発電機24よりも小さく設定することができる。すなわち、必要に応じて、前記第二電動発電機25の電動機容量を、前記第一電動発電機24の電動機容量よりも小さく設定するので、補助的な第二電動発電機25の小型化・軽量化を図ることができ、車軸駆動装置3も小型化・軽量化することができる。
【0055】
次に、以上のようなトルク制御システム54における制御手順について、図4乃至図6により説明する。
トルク制御が開始されると、前記モードセンサ64からの操作モード信号、アクセル信号、車体速度信号、出力トルク信号、負荷トルクセンサ58からの負荷トルク信号、及び旋回センサからの旋回操作量信号が、前記コントローラ20に読み込まれる(ステップS1)。
【0056】
すると、このうちのアクセル信号に基づいて、アクセル操作の有無が判断される(ステップS2)。アクセル操作が行われていない場合には(ステップS2、NO)、前記第一ステータ24a・第二ステータ25aのいずれにも電力が供給されずに稼働状態にないと判断して、駆動輪6と一緒に回転する共通ロータ軸41に対向する第一ステータ24a・第二ステータ25aのいずれか一方のみを用いて電力を回生する単独電力回生、または第一ステータ24a・第二ステータ25aの両方を用いて電力を回生する同時電力回生が行われる(ステップS10)。該同時電力回生は、特に、急停止や急勾配で回生制動を有効に効かせたい場合等に行われる。
【0057】
そして、アクセル操作が行われている場合には(ステップS2、YES)、前記操作モード信号に基づいて自動操作モードか否かが判断される(ステップS3)。自動操作モードでない場合は(ステップS3、NO)、更に、前記操作モード信号に基づいて単独稼働状態が選択されたか否かが判断され(ステップS8)、単独稼働状態が選択されていない場合は(ステップS8、NO)、同時稼働状態に設定される(ステップS9)。該同時稼働状態では、前記車体速度信号・出力トルク信号に基づいて、車体速度と出力トルクは、前記拡張トルク特性曲線60Aにより囲まれた領域内で変化するように制御される。
【0058】
自動操作モードの場合は(ステップS3、YES)、負荷トルク信号に基づいて、走行負荷Lが、コントローラ20に記憶された基準負荷Loより大きいか否かが判断され(ステップS4)、走行負荷Lが基準負荷Loより大きい場合は(ステップS4、YES)、前記同時稼働状態に設定される(ステップS9)。
【0059】
走行負荷Lが基準負荷Lo以下の場合は(ステップS4、NO)、更に、旋回操作量信号に基づいて、旋回操作量Mが、コントローラ20に記憶された基準操作量Moより大きいか否かが判断され(ステップS5)、旋回操作量Mが基準操作量Moより大きい場合も(ステップS5、YES)、前記同時稼働状態に設定される(ステップS9)。
【0060】
旋回操作量Mが基準操作量Mo以下の場合(ステップS5、NO)、あるいは手動操作モードで単独稼働状態が選択されている場合は(ステップS8、YES)、単独稼働状態に設定される(ステップS6)。該単独稼働状態では、前記車体速度信号・出力トルク信号に基づいて、車体速度と出力トルクは、前記トルク特性曲線60により囲まれた領域71内で変化するように制御される。そして、該単独稼働状態に設定されると共に、稼働状態にない第二ステータ25aのみを用いて電力を回生する単独電力回生が行われる(ステップS7)。
【0061】
すなわち、以上のように、トルク制御構成において、前記第一ステータ24aのみを稼働する形式の単独稼働状態と、前記第一ステータ24aに加えて第二ステータ25aも同時に稼働する形式の同時稼働状態との間を、前記走行負荷Lの大きさに応じて自動で切り替える自動操作モードと、前記単独稼働状態と同時稼働状態との間を走行負荷Lの大きさに関係なく手動で切り替える手動操作モードとを自在に変更するモード変更手段であるモード変更具55を備えるので、例えば、走行負荷Lが全般的に小さい場合は手動操作モードで単独稼働状態に設定し、走行負荷Lが全般的に大きい場合は手動操作モードで同時稼働状態に設定し、走行負荷Lが大きく変動するような場合は自動操作モードに設定するようにして、作業内容、接地面状態、車両運転者の熟練度等の諸条件に合わせて、各ステータ24a・25aの稼働状態をきめ細かく変更することができ、ステータ24a・25aの無駄な稼働時間を短縮して節電したり、各部品の損耗を軽減して部品寿命を延ばすことにより、ランニングコストの低減を図ることができる。
【0062】
更に、アクセル操作時には、前記走行負荷Lが所定の基準負荷Loより小さい場合や、旋回操作量Mが所定の基準操作量Moより小さい場合は、前記第一ステータ24aのみを稼働する単独稼働状態とし、稼働状態にない前記第二ステータ25aによって回生電力を発生させるので、アクセル操作時に、走行負荷Lや旋回操作量Mが小さくて稼働状態にない第二ステータ25aからの回生電力を一旦バッテリ13に充電し、該バッテリ13からの供給電力を使用して前記電動発電機18に電動機動作を行わせることができ、作業車両1の運動エネルギーを有効に利用して大きな省エネ効果を得ることができる。
【0063】
加えて、非アクセル操作時には、稼働状態にない前記第一ステータ24aと第二ステータ25aのうちの少なくとも一方によって回生電力を発生させるので、非アクセル操作時に、稼働状態にないステータ24a・25aのうちの少なくとも一方からの回生電力を一旦バッテリ13に充電し、該バッテリ13からの供給電力を使用して前記電動発電機18に電動機動作を行わせることができ、作業車両1の運動エネルギーを有効に利用して大きな省エネ効果を得ることができる。
【0064】
なお、以下では、前記車軸駆動装置3と異なる点を中心に説明すると共に、各要素に用いた符号と同じ符号は、同一または同等の機能を有する要素を指すものであり、同じ符号を付した要素については、特に必要としない限り、説明を省略する。
【0065】
次に、前記車軸駆動装置3の電動発電機18の構造を変更した車軸駆動装置3A・3B・3Cについて、図7乃至図9により説明する。なお、いずれの場合も、前記車軸駆動装置3と同様に、電動発電機を挟んで軸心方向内外側に、制動装置17と減速装置19が収容されている。
【0066】
図7に示す車軸駆動装置3Aは、前記車軸駆動装置3において、ラジアルエアギャップ構造の電動発電機18に代えて、アキシャルエアギャップ構造の電動発電機18Aを設けたものである。
該電動発電機18Aは、前記電動発電ケース部材33と略同じ形状の電動発電ケース部材73内に収容されている。そして、該電動発電ケース部材73は、減速側ケース部75と、該減速側ケース部75の内端を覆う制動側ケース部74とから成り、該制動側ケース部74の内周面からは、環状の磁石支持部74aが共通ロータ軸41Aに向かって突設されている。該磁石支持部74aの軸心方向両側面に、それぞれ、電動発電機18Aを構成する第一電動発電機76の第一ステータ76aと、同じく電動発電機18Aを構成する第二電動発電機77の第二ステータ77aとが固定されている。
【0067】
該第一ステータ76a・第二ステータ77aを挟んで軸心方向両側に、それぞれ、第一電動発電機76の第一ロータ部76bと、第二電動発電機77の第二ロータ部77bが配置されており、該第一ロータ部76bと第二ロータ部77bの内側面に固定した永久磁石40に対して、それぞれ、第一ステータ76aと第二ステータ77aが所定の空隙をもって対向するように配置されている。一方、前記共通ロータ軸41Aには、支持アーム145bを介してロータ筒145aが固定され、該ロータ筒145aの両側端部から半径方向外側に立設するようにして、前記第一ロータ部76bと第二ロータ部77bが互いに平行に形成されている。そして、このようなロータ筒145aと支持アーム145bとから、ロータ145が構成されている。
【0068】
このようなアキシャルエアギャップ構造により、第一ステータ76aと第一ロータ部76bとの対向部分、及び第二ステータ77aと第二ロータ部77bとの対向部分を、共通ロータ軸41Aの半径方向に延設させて、ロータ部76b・77bの永久磁石40とステータ76a・77aの磁極との対向面積を大きく確保することができ、磁石磁束量が増大する。更に、ステータ76a・77aを、その長手方向が共通ロータ軸41Aの半径方向に沿うように配置することができ、該共通ロータ軸41Aの軸長を前記共通ロータ軸41よりも短くして、電動発電機18Aの軸心方向の厚みを薄くすることができる。
【0069】
また、図8に示す車軸駆動装置3Bは、アキシャルエアギャップ構造の前記電動発電機18Aに代えて、更に出力向上を図った同じアキシャルエアギャップ構造の電動発電機18Bを設けたものである。
該電動発電機18Bも、前記電動発電ケース部材33と略同じ形状の電動発電ケース部材85内に収容されている。そして、該電動発電ケース部材85の内周面から共通ロータ軸41Bに向かって、第一電動発電機80の第一ステータ80aと第二電動発電機81の第二ステータ81aが突設されている。
【0070】
一方、該共通ロータ軸41Bには、支持アーム146bを介してロータ筒146aが固定され、該ロータ筒146aの軸心方向内側から順に、前記第一電動発電機80の第一ロータ部80b、共通ロータ部82、及び第二電動発電機81の第二ロータ部81bが半径方向外側に立設するように形成されると共に、該第一ロータ部80b、共通ロータ部82、及び第二ロータ部81bは、それぞれ、前記第一ステータ80aの軸心方向内側、前記第一ステータ80aと第二ステータ81aとの間、及び第二ステータ81aの軸心方向外側に配置されている。そして、このようなロータ筒146aと支持アーム146bとから、ロータ146が構成されている。
【0071】
そして、前記第一ロータ部80bの第一ステータ80a側、共通ロータ部82の第一ステータ80a側と第二ステータ81a側、及び第二ロータ部81bの第二ステータ81a側のいずれにも、永久磁石40が固設されると共に、各永久磁石40は、第一ステータ80aと第二ステータ81aの各側面に対して、所定の空隙をもって対向するようにして配置されている。
【0072】
このようなアキシャルエアギャップ構造により、共通ロータ部82の軸心方向両側面に設けた永久磁石40の分だけ、対向する第一ステータ80aと第二ステータ81aの磁極との対向面積を大きくして、磁石磁束量を増大させることができる。すなわち、前記電動発電機18Bは、前記第一ステータ80aと第二ステータ81aを、ロータ146の永久磁石40に対し、前記共通ロータ軸41Bの軸心方向に所定の空隙をもって対向配置するアキシャルエアギャップ構造を有し、前記第一ステータ80aと第二ステータ81aとの間には、前記ロータ146の一部であって第一ステータ80a側と第二ステータ81a側の両側に永久磁石40を設けた共通ロータ部82を介設するので、前記アキシャルエアギャップ構造によって、ロータ146の永久磁石40とステータの磁極との対向面積を大きく確保することができ、磁石磁束量が増大して出力の向上を図ることができる。更に、ステータ80a・81aを、該ステータ80a・81aの長手方向が共通ロータ軸41Bの半径方向に沿うように配置し、電動発電機18Bの軸心方向の厚みを薄くして、車軸駆動装置3Bの軸心方向の長さを短くすることができる。加えて、両側面に永久磁石40を設けた共通ロータ部82は、第一ステータ80aと第二ステータ81aの両ステータの両磁極からの作用を同時に受けることができ、その分だけ磁石磁束量が増大して電動発電機18Bの出力を更に向上させることができる。
【0073】
また、図9に示す車軸駆動装置3Cは、ラジアルエアギャップ構造だけの前記電動発電機18や、アキシャルエアギャップ構造だけの前記電動発電機18A・18Bに代えて、両構造を併有する電動発電機18Cを設けたものである。
該電動発電機18Cでは、共通ロータ軸41Cの軸心方向中央にはアキシャルエアギャップ構造の第一電動発電機86が設けられ、該第一電動発電機86を挟んで軸心方向両側に、それぞれ、いずれもラジアルエアギャップ構造の第二内側電動発電機87と第二外側電動発電機88が設けられている。
【0074】
前記第一電動発電機86・第二内側電動発電機87・第二外側電動発電機88の各ステータ86a・87a・88aは、いずれも、前記電動発電ケース部材85の内周面から共通ロータ軸41Cに向かって突設される一方、該共通ロータ軸41Cに支持アーム147bを介して固定されたロータ筒147aには、断面視L字状のロータ部87b・88bが形成されている。このうちの第二内側ロータ部87bの水平部上の永久磁石40aには、前記第二内側ステータ87aが所定の空隙をもって対向配置され、第二外側ロータ部88bの水平部上の永久磁石40aには、前記第二外側ステータ88aが所定の空隙をもって対向配置され、更に、第二内側ロータ部87bと第二外側ロータ部88bの垂直部で前記第一ステータ86a側に固定された内外の永久磁石40b・40bには、第一ステータ86aが所定の空隙をもって対向配置されている。そして、このようなロータ筒147aと支持アーム147bとから、ロータ147が構成されている。
【0075】
このような組合せ構造により、アキシャルエアギャップ構造の前記第一電動発電機86では、第一ステータ86aと永久磁石40bとの対向部分を共通ロータ軸41Cの半径方向に延設させることができ、ラジアルエアギャップ構造の前記第二内側電動発電機87・第二外側電動発電機88では、共通ロータ軸41Cのたわみや軸振動を小さくすることができる。すなわち、前記電動発電機18Cは、前記ステータ86a・87a・88aを、ロータ147の永久磁石40a・40bに対し、共通ロータ軸41Cの軸心方向に所定の空隙をもって対向配置するアキシャルエアギャップ構造と、共通ロータ軸41Cの半径方向に所定の空隙をもって対向配置するラジアルエアギャップ構造とを併有するので、ロータ147の永久磁石40a・40bとステータ86a・87a・88aの磁極との対向面積を大きく確保して電動発電機18Cの小型化・軽量化が容易なアキシャルエアギャップ構造の部分と、共通ロータ軸41Cのたわみや軸振動が小さく大型化が容易なラジアルエアギャップ構造の部分を、電動発電機仕様に合わせて自在に組み合わせることができ、汎用性・拡張性の高い電動発電機を得ることができる。
【0076】
次に、前記車軸駆動装置3に、変速装置を新たに追加した車軸駆動装置4・4Aについて、図10乃至図14により説明する。なお、いずれの車軸駆動装置4・4Aにも、前記車軸駆動装置3と同様に、制動装置17、電動発電機18、減速装置19Aが収納されている。
【0077】
図11、図12に示す車軸駆動装置4について説明する。
該車軸駆動装置4の車軸駆動ケース91は、内側から順に、制動ケース部材31、内側カバー部材32、電動発電ケース部材92、変速ケース部材93、減速ギアケース部材103、車軸ケース部材35、及び外側カバー部材36より形成され、このうちの減速ギアケース部材103と車軸ケース部材35との接合部の内周面に軸支された前記内端フランジ15aの中心部に、凹部15bが形成され、該凹部15bに、前記電動発電ケース部材92内の電動発電機18から軸心方向外側に水平に延設されてきた共通ロータ軸94の先端ピン部94bが、相対回転可能に嵌入されている。そして、該共通ロータ軸94の途中部に、前記第二サンギア48が相対回転可能に軸支され、該第二サンギア48のボス部の内端部に遊星ギアキャリア49が相対回転不能に外嵌されるようにして、前記減速装置19Aが形成されている。そして、該減速装置19Aを収容する減速ギアケース部材103の内側半部から前記変速ケース部材93にかけて、新たに変速装置89が収納されている。
【0078】
該変速装置89においては、高速サンギア95、中立スリーブ96、低速サンギア97が、互いに相対回転可能に、内側から順に隣接配置されると共に、いずれも前記共通ロータ軸94に相対回転可能に外嵌されている。このうちの高速サンギア95と低速サンギア97には、それぞれキー溝状のラッチ溝95aとラッチ溝97aが形成され、該ラッチ溝95aとラッチ溝97aは、いずれも前記共通ロータ軸94の外周面に臨み、更に、前記中立スリーブ96にも、前記共通ロータ軸94の外周面に臨む環状のラッチ溝96aが備えられている。そして、該共通ロータ軸94には、シフタ98が外嵌されている。
【0079】
該シフタ98は、後述するフォーク101を嵌合するための環状のフォーク溝99aを有する摺動リング部材99と、先端にラッチ100aを形成したキー部材100とを一体的に組み合わせて成るものである。そして、前記摺動リング部材99は、前記高速サンギア95の軸心方向内側に軸心方向摺動可能に外嵌され、該摺動リング部材99に組み付けたキー部材100を、前記共通ロータ軸94の外周面に軸心方向延伸状に形成したキー溝94a内に嵌入することで、シフタ98を共通ロータ軸94に相対回転不能かつ軸心方向摺動可能に係合している。
【0080】
このようなシフタ98のキー部材100は、その軸心方向内側端部にて摺動リング部材99に係止される一方、軸心方向外側には弾性を有して延伸し、その延伸先端に形成したラッチ100aが、シフタ98の軸心方向の摺動により、前記高速サンギア95、中立スリーブ96、低速サンギア97の各ラッチ溝95a・96a・97aのいずれか一つに嵌入可能となっている。なお、高速サンギア95と低速サンギア97のラッチ溝95aとラッチ溝97aは、高速サンギア95と低速サンギア97の回転中に該ラッチ溝95aとラッチ溝97aが前記キー溝94aに合致した時に、そのラッチ溝95a・97aにラッチ100aが嵌入可能としている。
【0081】
そして、前記低速サンギア97のラッチ溝97aにラッチ100aが嵌入する時のシフタ98の位置を低速位置Lw、中立スリーブ96のラッチ溝96aにラッチ100aが嵌入する時のシフタ98の位置を中立位置N、高速サンギア95のラッチ溝95aにラッチ100aが嵌入する時のシフタ98の位置を高速位置Hとしている。
【0082】
ここで、前記摺動リング部材99の環状のフォーク溝99aには、前記フォーク101先端の嵌合ピン101aが、該フォーク溝99aに沿って摺動可能に嵌入されると共に、フォーク101の上端は、枢支軸101bを介して前記変速ケース部材93の壁部に枢支されている。該枢支軸101bの外端は、前記車軸駆動ケース91から突出され、該枢支軸101bの外端には、前記フォーク101と一体的に前記枢支軸101bを中心として回転可能な操作アーム101cが取り付けられている。
【0083】
そして、該操作アーム101cは、作業車両1に設けた図示せぬ、電動アクチュエータや油圧アクチュエータ等の変速アクチュエータに連係され、該変速アクチュエータは前記コントローラ20に接続されており、該コントローラ20には、自動変速モードと手動変速モード間を切り替える変速モード変更具と、低速走行、高速走行、中立を切り替える変速操作具が接続されている。
【0084】
一方、前記減速装置19の遊星ギアキャリア49には、前記車軸駆動装置3の遊星ギア軸50よりも長い遊星ギア軸50Aが、前記共通ロータ軸94と平行に植設され、該遊星ギア軸50A上に、遊星ギア部材102が相対回転可能に外嵌されている。該遊星ギア部材102には、前記高速サンギア95に常時噛合する高速遊星ギア102aと、前記低速サンギア97に常時噛合する低速遊星ギア102bとが形成されると共に、該高速遊星ギア102aと低速遊星ギア102bは、一体回転可能としている。
【0085】
このようにして、前記高速サンギア95と高速遊星ギア102aとを噛合して成る高速遊星ギア列95・102aと、前記低速サンギア97と低速遊星ギア102bとを噛合して成る低速遊星ギア列97・102bとが構成され、更に、該低速・高速の遊星ギア列における高速サンギア95と低速サンギア97は、前記シフタ98に対して係脱可能となっている。そして、該低速・高速の遊星ギア列は、いずれも、前記遊星ギア部材102、遊星ギアキャリア49、内端フランジ15aを共有している。
【0086】
これにより、前記遊星ギア部材102には、作業車両1の前記車体フレーム7に固設された車軸駆動ケース91による回転抑制力が、前記減速ギアケース部材103のインターナルギア103aを介して入力される一方で、シフタ98を高速位置Hにした場合は前記高速遊星ギア列95・102aを介して、シフタ98を低速位置Lwにした場合には前記低速遊星ギア列97・102bを介して、共通ロータ軸94の回転動力が入力される。
【0087】
すると、遊星ギア部材102は、インターナルギア103aからの入力と、高速遊星ギア列95・102aまたは低速遊星ギア列97・102bからの入力とを基に、共通ロータ軸94の軸心を中心に公転し、遊星ギアキャリア49と第二サンギア48が、遊星ギア部材102の公転に連れて、共通ロータ軸94の軸心を中心として回転する。そして、このうちの第二サンギア48は、前記第二遊星ギア53に常時噛合され、該第二遊星ギア53は、前記減速ギアケース部材103のインターナルギア103bにも常時噛合されている。
【0088】
これにより、該第二遊星ギア53にも、前記遊星ギア部材102と同様に、第二サンギア48からの回転動力と、インターナルギア103bを介した車軸駆動ケース91からの回転抑制力とが入力される。すると、第二遊星ギア53は、該両入力を基に、共通ロータ軸94の軸心を中心に公転し、前記車軸15の内端フランジ15aが、第二遊星ギア53の公転に連れて回転することにより、車軸15が該内端フランジ15aと一体に回転することとなる。
【0089】
すなわち、車軸駆動ケース91に、駆動輪6の車軸15と、該車軸15と同一軸心上に延設される共通ロータ軸94を有する電動発電機18と、前記車軸15に出力する高速用遊星ギア機構及び低速用遊星ギア機構とを収納し、該高速用遊星ギア機構及び低速用遊星ギア機構の両方のサンギア95・97を、前記共通ロータ軸94上に相対回転可能に設け、該共通ロータ軸94上に、相対回転不能かつ軸心方向摺動可能なシフタ98を備えており、該シフタ98は、前記共通ロータ軸94上の摺動により、該共通ロータ軸94の動力を高速用遊星ギア機構に伝達する高速位置Hと、該共通ロータ軸94の動力を低速用遊星ギア機構に伝達する低速位置Lwとに切替可能とするので、車軸駆動装置4において、電動発電機18の共通ロータ軸94と車軸15を同一軸心上に配置することができ、半径方向のコンパクト性を確保することができる。更に、変速装置89として、低速用遊星ギア機構と高速用遊星ギア機構との二つの遊星ギア機構を備えつつ、その変速機構において、軸心方向に摺動制御する部材としては、前記共通ロータ軸94に相対回転不能かつ軸心方向摺動可能に設けるシフタ98のみですみ、変速機構を簡素で経済的な構成にすることができる。
【0090】
更に、前記車軸駆動装置4は、このような構成から成る、前記第一電動発電機24と第二電動発電機25からの電動動力を変速する変速装置89を備えるので、該第一電動発電機24と第二電動発電機25への供給電力の制御のみによる変速に比べて変速比が大きくとれ、作業内容、接地面状態等の諸条件に合わせて車体速度をきめ細かく変更することができ、走行性能を向上させることができる。
【0091】
なお、前記車軸駆動装置3においては、車軸駆動ケース30で、減速ギアケース部材34よりも軸心方向外側にある車軸ケース部材35の内側外周部の小段差部34aに、前記車体フレーム7の側板7aが当接するようにして固設されているが、これに対し、車軸駆動装置4においては、減速ギアケース部材103よりも軸心方向内側にある変速ケース部材93の内側外周部に、大きな段差部93aが形成され、該段差部93aに、前記車体フレーム7の側板7aが固設されており、側板7aからの車軸駆動ケース91の外側突出長を長く設定している。これにより、車軸駆動装置4において、前記駆動輪6のリム6b内に収容可能な部分の長さを長くすることにより、駆動輪6と作業車両1本体との間における車軸駆動装置4の伸縮長を一層短縮することができ、作業車両1の左右方向の更なる小型化を図ることができる。
【0092】
また、図13、図14に示す車軸駆動装置4Aについて説明する。
該車軸駆動装置4Aは、前記車軸駆動装置4の変速装置89に代えて、中立位置Nを有さない変速装置90を設けたものである。該変速装置90においては、高速サンギア106が、前記電動発電機18から軸心方向外側に水平に延設されてきた共通ロータ軸94Aに相対回転可能に外嵌合され、該高速サンギア106に隣接して、低速サンギア108が、その内周面に沿って配設されるワンウェイクラッチ107を介して、共通ロータ軸94Aに外嵌されている。そして、該低速サンギア108と軸心方向反対側にて、高速サンギア106に隣接して、共通ロータ軸94A上にシフタ104が配置されている。
【0093】
該シフタ104は、共通ロータ軸94Aの外周面上にスプラインハブ105を固設し、該スプラインハブ105の外周面に形成されるスプラインに、摺動リング部材109の内周面に形成したスプラインを係合して、該スプラインハブ105上に該摺動リング部材109を相対回転不能かつ軸心方向摺動可能に外嵌してなるスプラインタイプのものである。更に、前記高速サンギア106の該摺動リング部材109への対峙側端部には、クラッチ歯部106aが形成されている。前記遊星ギア部材102の高速遊星ギア102aが高速サンギア106に、低速遊星ギア102bが低速サンギア108に、それぞれ、常時噛合しており、高速遊星ギア列106・102aと低速遊星ギア列108・102bが構成されている。
【0094】
そして、前記シフタ104は、スプラインハブ105上における摺動リング部材109の軸心方向摺動位置により、低速位置Lwと高速位置Hとに切替可能となっており、摺動リング部材109が高速サンギア106のクラッチ歯部106aから外れてスプラインハブ105のみに噛合している状態を、シフタ104の低速位置Lw、摺動リング部材109をスプラインハブ105及びクラッチ歯部106aに噛合した状態を、シフタ104の高速位置Hとしている。
【0095】
このような構成において、前記シフタ104が高速位置Hにある場合は、該摺動リング部材109及びスプラインハブ105を介して、高速サンギア106が共通ロータ軸94Aに相対回転不能に係合される。これにより、前記遊星ギア部材102には、高速遊星ギア列106・102aを介して共通ロータ軸94Aの回転動力が入力されると共に、車軸駆動ケース91からはインターナルギア103bを介して回転抑制力が入力され、その結果、遊星ギアキャリア49の回転が、前記減速装置19Aを介して車軸15へと伝達される。
【0096】
一方、前記シフタ104が低速位置Lwにある場合は、前記高速サンギア106は、共通ロータ軸94A上にて遊転可能であり、その間、前記低速サンギア108には、ワンウェイクラッチ107を介して共通ロータ軸94Aの回転動力が伝達される。ここで、ワンウェイクラッチ107は、共通ロータ軸94Aの回転速度が低速サンギア108の回転速度を上回る間は、共通ロータ軸94Aの回転力を低速サンギア108に伝達しない構成となっている。つまり、共通ロータ軸94Aの回転速度が低速サンギア108の回転速度と同期して初めて、該共通ロータ軸94Aの回転力が低速サンギア108へと伝達される。
【0097】
従って、前述した車軸駆動装置4では、共通ロータ軸94Aの回転速度が、目標とした低速サンギア97の回転速度と同期するまで、シフタ98を低速位置Lwにはせずに中立位置Nに保持する必要があるが、車軸駆動装置4Aでは、このような制御を必要しない。つまり、ワンウェイクラッチ107を上述のように構成することで、シフタ104は、低速位置Lwに保持されている間に、共通ロータ軸94Aの回転速度が低速サンギア108の回転速度と同期するまでは、低速遊星ギア列108・102bにも高速遊星ギア列106・102aにも共通ロータ軸94Aの回転力を伝達しない中立状態を保持することができ、共通ロータ軸94Aの回転速度が低速サンギア108の回転速度と同期した時点で、低速遊星ギア列108・102bに共通ロータ軸94Aの回転動力を伝達する低速設定状態に自然と切り替えることができる。
【0098】
すなわち、前記低速用の遊星ギア機構のサンギアである低速サンギア108と、前記共通ロータ軸94Aとの間にワンウェイクラッチ107が介設されており、前記シフタ104が前記低速位置Lwの時、前記共通ロータ軸94Aから該ワンウェイクラッチ107を介して該低速用の遊星ギア機構に前記電動発電機18の出力が伝達されるので、ワンウェイクラッチ107を、共通ロータ軸94Aの回転速度が低速サンギア108の回転速度より高い場合には動力伝達しない構成とすることができ、シフタ104を高速位置Hから低速位置Lwに切り換えた際に、該共通ロータ軸94Aの回転速度が該低速サンギア108の回転速度を上回っている間、すなわち、電動発電機18の回転速度が十分に低下していない間は、共通ロータ軸94Aから低速用の遊星ギア機構には動力が伝達されず、中立状態となっている。そして、該共通ロータ軸94Aの回転速度が該低速サンギア108の回転速度に同期するほどまで低下してから、該ワンウェイクラッチ107を介して、共通ロータ軸94Aの回転動力が低速用遊星ギア機構に伝達されるので、ショックを感じるような急激な車速変化や走行負荷を軽減することができるのである。
【0099】
次に、差動装置を備えた車軸駆動装置5・5A・5B・5C・5D・5Eについて、図15乃至図20により説明する。
図15に示す車軸駆動装置5について説明する。該車軸駆動装置5の車軸駆動ケース110は、差動装置116を収容する本体ケース部材111、該本体ケース部材111の前部右側面に固設された電動発電ケース部材112、及び該電動発電ケース部材112の外側開口を覆うカバー部材113より形成され、該カバー部材113と前記本体ケース部材111に、前記電動発電機18の共通ロータ軸114が、左右方向に、回転可能に軸支されている。詳しくは、該共通ロータ軸114は、その右端部が前記カバー部材113に設けた軸受け120によって支持されると共に、左方に向かって水平に前記本体ケース部材111内に延設され、その途中部が該本体ケース部材111内に設けた軸受け118によって支持されている。そして、該共通ロータ軸114の左端部には、制動装置117が周設されている。
【0100】
該制動装置117においては、前記共通ロータ軸114の左端に固設した小径の出力ギア121の基部には、円盤状のブレーキロータ部121aが形成され、該ブレーキロータ部121aとその右側の隔壁との間には、鉛直のブレーキカム軸122が、本体ケース部材111に鉛直途中部を回動自在に支持されて配設されている。該ブレーキカム軸122の下部は、平面断面視で半円状のカム部に形成され、非制動時には、その鉛直平坦面122aを前記ブレーキロータ部121aに対し平行に対峙させている。そして、該カム部を囲むようにしてL字状のブレーキシュー84が配置され、一方、前記ブレーキロータ部121aとその左側の外壁との間には、ブレーキパッド123が配置されている。
【0101】
このような構成において、前記ブレーキカム軸122の端部に連係された制動操作具か制動用アクチュエータを操作してブレーキ位置に設定すると、ブレーキカム軸122の鉛直平坦面122aがブレーキロータ部121aに対して平面視斜めになり、該鉛直平坦面122aの一端が前記ブレーキシュー84を押圧し、該ブレーキシュー84と前記ブレーキパッド123との間にブレーキロータ部121aを挟み込んで、共通ロータ軸114が制動される。逆に、非ブレーキ位置にすると、ブレーキカム軸122の鉛直平坦面122aがブレーキシュー84とブレーキロータ部121aに対して平行になり、ブレーキロータ部121aよりブレーキシュー84が離間して、共通ロータ軸114が回転可能となり、これにより制動装置117が構成される。
【0102】
該共通ロータ軸114に平行に、前記本体ケース部材111内にはカウンタ軸124と左右の車軸125・125が軸支されると共に、この共通ロータ軸114から左右の車軸125・125にかけては、一連の減速ギア列から成る減速装置119が内設されている。該減速装置119においては、前記カウンタ軸124に大径ギア128を固設して共通ロータ軸114の前記出力ギア121に噛合すると共に、このカウンタ軸124に小径のファイナルピニオン129を設けて前記差動装置116のリングギア127に噛合させ、これにより電動発電機18からの電動動力が減速されて差動装置116に伝達される。
【0103】
該差動装置116は、前記左右の車軸125・125と同一回転軸心を有するように車軸駆動装置5内に支持された中空の図示せぬデフケースと、該デフケース外周面に固設され前記カウンタ軸124上のファイナルピニオン129に噛合されるリングギア127と、該デフケース内において車軸125・125と直交配置されデフケースと一体的に回転するピニオン軸130と、該ピニオン軸130の両端に回転自在に配置されるピニオン131・131と、前記車軸125・125の内端側に固定され該ピニオン131・131に噛合されるデフサイドギア132・132とにより構成されている。これにより、前記電動発電機18から差動装置116を介して伝達されてきた電動動力の出力トルクを、左右の車軸125・125に差動的に伝達することができる。
【0104】
すなわち、前記車軸駆動装置5は、このようにして、前記出力トルクを左右の車軸125・125に差動伝達する差動装置116を備えるので、左右の各駆動輪6・6に常に等しいトルクを加えながら異なった回転速度を付与することができ、旋回や曲進が容易となり、走行性能を更に向上させることができる。
【0105】
また、図16に示す車軸駆動装置5Aは、前記車軸駆動装置5の減速装置119を構成する複数の平ギアの一部をベベルギアに変更したものである。
該車軸駆動装置5Aは、ラジアルエアギャップ構造の電動発電機18、該電動発電機18の共通ロータ軸114の一端に設けた制動装置117、左右の車軸125・125を差動連結する差動装置116、該差動装置116に前記共通ロータ軸114からの電動動力を減速して伝達する減速装置119Aより構成される。
【0106】
このうちの電動発電機18は、その共通ロータ軸114の軸心方向が、前記車軸駆動装置5とは異なり、前後方向となるように配置されているため、前記車軸駆動装置5では平ギアであった出力ギア121と大径ギア128に代えて、本車軸駆動装置5Aでは、ベベルギア134とベベルギア135をそれぞれ配置して互いに噛合し、ベベルギア列134・135を構成している。
【0107】
これにより、共通ロータ軸114から減速装置119Aのカウンタ軸124に対し、伝達方向を90度変えて電動動力を伝達することができ、作業車両1の仕様に合わせて電動発電機を自在に組み合わせ、汎用性・拡張性の高い車軸駆動装置を得ることができる。
【0108】
また、図17に示す車軸駆動装置5Bは、前記車軸駆動装置5Aの減速装置119Aの代わりに高低2段の変速装置133を設けると共に、該変速装置133の伝達軸であるカウンタ軸137上に前記制動装置117を設けたものである。
該車軸駆動装置5Bは、ラジアルエアギャップ構造の電動発電機18、該電動発電機18の共通ロータ軸114の後端に前記ベベルギア134・135を介して連結される変速装置133、該変速装置133のカウンタ軸137の一端に設けた制動装置117、左右の車軸125・125を差動連結する差動装置116より構成される。
【0109】
このうちの変速装置133においては、前記左右の車軸125・125に平行に、変速軸136とカウンタ軸137が軸支され、該変速軸136上には、左右に、小径の低速駆動ギア138と大径の高速駆動ギア139が相対回転可能に外嵌され、カウンタ軸137上には、左右に、大径の低速従動ギア140と小径の高速従動ギア141が固設されており、低速駆動ギア138と低速従動ギア140が噛合して低速ギア列138・140が形成され、高速駆動ギア139と高速従動ギア141が噛合して高速ギア列139・141が形成されている。
【0110】
そして、前記変速軸136上で低速駆動ギア138と高速駆動ギア139間には、スプラインハブ142が相対回転不能に係合され、該スプラインハブ142上には、図示せぬ摺動リング部材が軸心方向摺動自在かつ相対回転不能に係合されており、該摺動リング部材を左右摺動して、前記低速駆動ギア138のクラッチ歯部に噛合して前記低速ギア列138・140が選択されて低速段に変速され、高速駆動ギア139のクラッチ歯部に噛合して前記高速ギア列139・141が選択されて高速段に変速されるようにしている。更に、前記カウンタ軸137上で低速従動ギア140と高速従動ギア141間には、ファイナルギア143が固設されており、前記差動装置116のリングギア127に噛合されている。このようなカウンタ軸137の右端に、前記制動装置117が設けられており、該制動装置117によってカウンタ軸137を制動できるようにしている。
【0111】
これにより、前記変速装置133によって一層きめ細かな変速制御が行えることに加え、該変速装置133の左右方向の空間を利用して制動装置117を配置することができ、走行性能の向上と車軸駆動装置の前後方向の小型化を図ることができる。
【0112】
また、図18に示す車軸駆動装置5Cは、前記車軸駆動装置5Aの制動装置117の摺動部材を電動発電機18Dのロータ148の一部で兼用したものである。
該電動発電機18Dにおいては、前後方向に延設される前記共通ロータ軸114の前部には、第一支持アーム148bを介して第一ロータ筒148aが固定され、該共通ロータ軸114の後部には、第二支持アーム148dを介して第二ロータ筒148cが固定され、これら第一ロータ筒148a、第一支持アーム148b、第二ロータ筒148c、及び第二支持アーム148dからロータ148が構成されている。
【0113】
そして、前記第一ロータ筒148aの外周面に形成された第一ロータ部151bと、該第一ロータ部151bの外周面に所定の空隙をもって対向配置された第一ステータ151aより第一電動発電機151が形成されると共に、前記第二ロータ筒148cの外周面に形成された第二ロータ部152bと、該第二ロータ部152bの外周面に対向配置された第二ステータ152aより第二電動発電機152が形成され、これら第一電動発電機151と第二電動発電機152から、車軸駆動装置5Cの前記電動発電機18Dが構成される。
【0114】
更に、前記ロータ148の第一支持アーム148bの途中部には、該第一支持アーム148bを前記ブレーキシュー84とブレーキパッド123の間に介設するようにして制動装置117Aが周設されており、図示せぬ制動操作具か制動用アクチュエータを操作することにより、ブレーキシュー84と前記ブレーキパッド123との間に第一支持アーム148bを挟み込んで、前記共通ロータ軸114を制動できるようにしている。
【0115】
これにより、制動装置117で必要とされていた前記ブレーキロータ部121aを省略することができる。すなわち、前記ロータ148の少なくとも一部に、前記制動装置117Aの制動用の摺動部であるブレーキロータ部121aを兼用させるので、該ブレーキロータ部121aを別途設ける必要がなくなり、部品点数を低減させることができ、車軸駆動装置5の部品コストの低減、メンテナンス性の向上を更に進めることができる。
【0116】
また、図19に示す車軸駆動装置5Dは、前記車軸駆動装置5において、前記制動装置117の摺動部材をロータ149の一部で兼用すると共に、ラジアルエアギャップ構造の電動発電機18に代えて、アキシャルエアギャップ構造の前記電動発電機18Bを設けたものである。
該電動発電機18Bのロータ部80b・82・81bを形成するロータ筒149aは、ロータ149の支持アーム149bを介して前記共通ロータ軸114の左端に固設されると共に、該支持アーム149bの半径方向延出端には、該延出端を前記ブレーキシュー84とブレーキパッド123の間に介設するようにして前記制動装置117Aが周設されている。
【0117】
これにより、アキシャルエアギャップ構造の前記電動発電機18Bを用いた場合でも、前記車軸駆動装置5Cと同様に、ロータ149の少なくとも一部に、前記制動装置117Aの制動用の摺動部を兼用させて、前記ブレーキロータ部121aを省略できるようにしている。
【0118】
また、図20に示す車軸駆動装置5Eは、前記車軸駆動装置5Dの減速装置119を構成する複数の平ギアの一部をベベルギアに変更したものである。
該車軸駆動装置5Eにおいては、前記車軸駆動装置5Dと同様に、アキシャルエアギャップ構造の電動発電機18Eが設けられている。そして、該電動発電機18Eのロータ150は、共通ロータ軸114から半径方向に延設された第一支持アーム150a、第二支持アーム150b、第三支持アーム150cから成り、このうちの第一支持アーム150aの半径方向延出端に、該延出端を前記ブレーキシュー84とブレーキパッド123の間に介設するようにして前記制動装置117Aが周設されている。更に、該共通ロータ軸114の後端には、前記減速装置119Aのベベルギア列134・135が連結されている。
【0119】
これにより、アキシャルエアギャップ構造の前記電動発電機18Eを用いた場合に、前記車軸駆動装置5Dと同様に、ロータ150の少なくとも一部に、前記制動装置117Aの制動用の摺動部を兼用させると、前記ブレーキロータ部121aが省略できるばかりでなく、共通ロータ軸114から減速装置119Aのカウンタ軸124に向かって、伝達方向を90度変えて電動動力を伝達することができる。
【0120】
なお、以上述べた車軸駆動装置5・5A・5B・5C・5D・5Eにおいては、差動装置116を介して左右の車軸125に出力トルクを伝達しているが、該差動装置116を備えずに、各車軸125毎に設けた電動発電機、ここでは車軸駆動装置5・5A・5Bでは電動発電機18、車軸駆動装置5Cでは電動発電機18D、車軸駆動装置5Dでは電動発電機18B、車軸駆動装置5Eでは電動発電機18Eから、各車軸125に対して直接に出力トルクを伝達するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明は、車軸を駆動するために複数の電動発電機と、該複数の電動発電機の動作を制御するコントローラを備えた、全ての作業車両の車軸駆動装置に適用することができる。そして、電動発電機の種類としては、上述の実施形態では、ブラシレスDCモータ(BLDCモータ)としての、アキシャルエアギャップ構造やラジアルエアギャップ構造の表面永久磁石型同期モータ(SPMSM)を使用しているが、埋込永久磁石型同期モータ(IPMSM)や、誘導モータ(IM)であってもよく、単一の共通ロータ軸の周りにロータとステータを配置した構造であれば特に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0122】
1 作業車両
3・5 車軸駆動装置
6 駆動輪(車輪)
6b リム
15・125 車軸・走行駆動部
17・117・117A 制動装置
18・18A・18B・18C 電動発電機
19 減速装置
20 コントローラ
24・76・80・86・151 第一電動発電機
24a・76a・80a・86a・151a 第一ステータ
25・77・81・87・88・152 第二電動発電機
25a・77a・81a・87a・88a・152a 第二ステータ
40・40a・40b 永久磁石
41・41A・41B・41C 共通ロータ軸
55 モード変更具(モード変更手段)
82 共通ロータ部
89 変速装置
116 差動装置
121a ブレーキロータ部(摺動部)
144・145・146・147・148・149・150 ロータ
L 走行負荷
Lo 基準負荷
M 旋回操作量
Mo 基準操作量
T 出力トルク
V 車体速度
v 車輪速度
ΔV 速度差

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車軸を駆動するために複数の電動発電機と、該複数の電動発電機の動作を制御するコントローラを備えた作業車両の車軸駆動装置において、前記電動発電機は第一電動発電機と第二電動発電機より構成し、該第一電動発電機と第二電動発電機は単一の共通ロータ軸を備えると共に、該共通ロータ軸のロータに対して、前記第一電動発電機の第一ステータと第二電動発電機の第二ステータを前記コントローラにより独立制御可能に対向配置し、該第二ステータの稼働状態を切り替えることによって、第一電動発電機からのトルクに第二電動発電機からのトルクを加算した出力トルクを、走行負荷の大きさに応じて変更可能としたトルク制御構成を有することを特徴とする作業車両の車軸駆動装置。
【請求項2】
前記トルク制御構成において、前記第一ステータのみを稼働する形式の単独稼働状態と、前記第一ステータに加えて第二ステータも同時に稼働する形式の同時稼働状態との間を、前記走行負荷の大きさに応じて自動で切り替える自動操作モードと、前記単独稼働状態と同時稼働状態との間を走行負荷の大きさに関係なく手動で切り替える手動操作モードとを自在に変更するモード変更手段を備えることを特徴とする請求項1に記載の作業車両の車軸駆動装置。
【請求項3】
前記走行負荷は、作業車両の走行駆動部で検知される負荷トルクとすることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の作業車両の車軸駆動装置。
【請求項4】
前記走行負荷は、車体速度と車輪速度の速度差の車体速度に対する割合であるスリップ率とすることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の作業車両の車軸駆動装置。
【請求項5】
アクセル操作時には、前記作業車両の走行負荷が所定の基準負荷より小さい場合は、前記第一ステータのみを稼働する単独稼働状態とし、稼働状態にない前記第二ステータによって回生電力を発生させることを特徴とする請求項1から請求項4のうちのいずれか一項に記載の作業車両の車軸駆動装置。
【請求項6】
アクセル操作時には、前記作業車両の旋回操作量が所定の基準操作量より小さい場合は、前記第一ステータのみを稼働する単独稼働状態とし、稼働状態にない前記第二ステータによって回生電力を発生させることを特徴とする請求項1から請求項4のうちのいずれか一項に記載の作業車両の車軸駆動装置。
【請求項7】
非アクセル操作時には、稼働状態にない前記第一ステータと第二ステータのうちの少なくとも一方によって回生電力を発生させることを特徴とする請求項1から請求項6のうちのいずれか一項に記載の作業車両の車軸駆動装置。
【請求項8】
前記電動発電機は、前記第一ステータと第二ステータを、ロータの永久磁石に対し、共通ロータ軸の軸心方向に所定の空隙をもって対向配置するアキシャルエアギャップ構造を有し、前記第一ステータと第二ステータとの間には、前記ロータの一部であって第一ステータ側と第二ステータ側の両側に永久磁石を設けた共通ロータ部を介設することを特徴とする請求項1から請求項7のうちのいずれか一項に記載の作業車両の車軸駆動装置。
【請求項9】
前記電動発電機は、前記ステータを、ロータの永久磁石に対し、共通ロータ軸の軸心方向に所定の空隙をもって対向配置するアキシャルエアギャップ構造と、共通ロータ軸の半径方向に所定の空隙をもって対向配置するラジアルエアギャップ構造とを併有することを特徴とする請求項1から請求項7のうちのいずれか一項に記載の作業車両の車軸駆動装置。
【請求項10】
前記第二電動発電機の電動機容量は、前記第一電動発電機の電動機容量よりも小さく設定することを特徴とする請求項1から請求項9のうちのいずれか一項に記載の作業車両の車軸駆動装置。
【請求項11】
前記車軸駆動装置は、各車軸を独立駆動可能に設けることを特徴とする請求項1から請求項10のうちのいずれか一項に記載の作業車両の車軸駆動装置。
【請求項12】
前記車軸駆動装置の少なくとも一部は、各車軸に連結する車輪のリム内に収容可能とすることを特徴とする請求項1から請求項11のうちのいずれか一項に記載の作業車両の車軸駆動装置。
【請求項13】
前記共通ロータ軸と同一軸心上に減速装置を設けることを特徴とする請求項1から請求項12のうちのいずれか一項に記載の作業車両の車軸駆動装置。
【請求項14】
前記減速装置は、前記第一電動発電機・第二電動発電機と一体的に構成することを特徴とする請求項13に記載の作業車両の車軸駆動装置。
【請求項15】
前記共通ロータ軸と同一軸心上に制動装置を設けることを特徴とする請求項1から請求項14のうちのいずれか一項に記載の作業車両の車軸駆動装置。
【請求項16】
前記ロータの少なくとも一部に、前記制動装置の制動用の摺動部を兼用させることを特徴とする請求項15に記載の作業車両の車軸駆動装置。
【請求項17】
前記車軸駆動装置は、前記第一電動発電機と第二電動発電機からの電動動力を変速する変速装置を備えることを特徴とする請求項1から請求項16のうちのいずれか一項に記載の作業車両の車軸駆動装置。
【請求項18】
前記車軸駆動装置は、前記出力トルクを左右車軸に差動伝達する差動装置を備えることを特徴とする請求項1から請求項17のうちのいずれか一項に記載の作業車両の車軸駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2010−213385(P2010−213385A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−53976(P2009−53976)
【出願日】平成21年3月6日(2009.3.6)
【出願人】(000125853)株式会社 神崎高級工機製作所 (210)
【Fターム(参考)】