説明

作物害虫の誘引性を低減した肥料及びその製造方法

【課題】 この発明は、ハエ類、コナダニなどの低誘引性肥料を得ることを目的としたものである。
【解決手段】 この発明は、有機質資材単独又は有機質資材に無機質資材を加えて加水、発酵させ、n−吉草酸の濃度を1.1ppm以下とし、無機質資材を加えて肥料成分を調整し、造粒、乾燥したことを特徴とする作物害虫の誘引性を低減した肥料により目的を達成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、有機質資材を材料とした肥料において、作物害虫の誘引性を低減する特性を有する肥料を目的とした作物害虫の誘引性を低減する肥料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来茶、山茶花又は椿の種子から搾油した粕の造粒物を腹足類に属する軟体動物忌避剤とする提案がある。
【0003】
また、赤外線を発するゼオライトにタンニン酸、サポニンを含有する植物抽出物をバインダーにより含浸接着した忌避剤が知られている。
【0004】
次にタンニン、サポニン及びニコチン酸アミドからなる化合物群から選択される少なくとも一種の海洋性動物に対し忌避効果があることが知られている。
【特許文献1】特開平8−175925
【特許文献2】特開2001−226212
【特許文献3】特開平6−49278
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記従来の技術中、特許文献1に記載する発明は、ナメクジ類、カタツムリ類などの軟体動物忌避剤として有効なことが知られているが、この発明の目的物たるハエ類、コナダニ等に対する効果は不明である。
【0006】
また特許文献2に記載する発明は、ナメクジ、カタツムリ、ミミズなど軟体動物忌避剤として知られている。
【0007】
更に特許文献3に記載する発明は、海洋性動物(フジツボ、カキ、イガイ、節足、軟体動物、海綿動物の忌避剤として有効なことが知られている。
【0008】
前記は軟体動物の忌避に有効であるが、ハエ類、コナダニ類に有効か否か不明である。またサポニンが有効であることは記載されているが、サポニンの導入方法が未定であり、その対策についても皆無であるなどの問題点があった。
【0009】
前記のように、軟体生物、例えばナメクジ又はカタツムリなどに有効な物が、直ちにハエなどに有効とはいえない。
【0010】
更にハエ類、コナダニなどの誘引性を低減する点については全然記載がない問題点があった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明は、有機質資材の誘引物質としてn−吉草酸を特定したのみならず、その有効量に対しても1.1ppm以下に特定し、ハエ類の誘引性を低減した。またサポニン含有植物油粕の有機質資材質量%に対し、粗サポニンを0.35質量%以上に特定することにより、ハエ類などの誘引性を低減することに成功し、前記従来達成できなかった(従来未解決であった)ハエ類について有効な肥料を得ることに成功したのである。
【0012】
即ち肥料の発明は、有機質資材単独又は有機質資材に無機質資材を加えて加水、発酵させ、n−吉草酸の濃度を1.1ppm以下とし、かつ肥料成分を調整して、造粒、乾燥したことを特徴とする作物害虫の誘引性を低減した肥料であり、有機質資材単独又は有機質資材に無機質資材を加え、更にサポニン含有植物油粕を添加し、有機質資材質量%に対し、粗サポニン含有率を0.35質量%以上に調整した後、造粒、乾燥したことを特徴とする作物害虫の誘引性を低減した肥料である。また、有機質資材単独又は有機質資材に無機質資材を加えて加水、発酵させ、n−吉草酸の濃度を1.1ppm以下とした発酵物資材に、サポニン含有植物油粕を添加し、有機質資材質量%に対し、粗サポニン含有率を0.35質量%以上とし、かつ肥料成分を調整した後、造粒、乾燥したことを特徴とする作物害虫の誘引性を低減した肥料である。
【0013】
次に製造方法の発明は、有機質資材を配合、混合し、一定量加水後、積み上げて発酵させ、毎日もしくは1日おきに撹拌して発酵に必要な量の空気を混入した後、前記発酵物資材のn−吉草酸を検出し、その量が1.1ppm以下になった時に発酵を中止し、無機質資材を加え肥料成分を調整し、混合、加水、造粒、乾燥することを特徴とした作物害虫の誘引性を低減した肥料の製造方法であり、有機質資材に、サポニン含有植物油粕を添加し、有機質資材質量%に対し、粗サポニン含有率を0.35質量%以上とし、無機質資材を加え肥料成分を調整した後、配合、混合、加水、造粒して乾燥することを特徴とした作物害虫の誘引性を低減した肥料の製造方法である。
【0014】
また、有機質資材を配合、混合し、一定量加水後、積み上げて発酵させ、毎日もしくは1日おきに撹拌して発酵に必要な量の空気を混入した後、前記発酵物資材のn−吉草酸を検出し、その量が1.1ppm以下になった時に発酵を中止して得た肥料に、サポニン含有植物油粕を添加し、有機質資材質量%に対し、粗サポニンを0.35質量%以上とし、かつ無機質資材を加え肥料成分を調整した後、配合、加水、造粒して乾燥することを特徴とした作物害虫の誘引性を低減した肥料の製造方法である。当該肥料において、有機質資材は、単一又は複数の有機質資材を混合するものであり、有機質資材の割合は、製品に対し、10質量%〜100質量%とするものである。
【0015】
前記発明において、n−吉草酸の濃度を1.1ppmとしたのは、実験上6.8ppmでは、イエバエの産卵数が200あったのに対し、1.1ppmでは、5以下であったからである。従って、6.8ppm未満ならば、イエバエの誘引性を低減できる可能性があり、3.0ppm位にすればイエバエの誘引性を更に低減できる可能性がある。この実用的境界については今後の研究により明らかにする。
【0016】
また粗サポニンの含有量についても、0.14質量%では50個の産卵があったので、0.35質量%としたもので、或いは0.2質量%が境界をなす可能性がある。
【0017】
この発明において、有機質資材が主要資材であるけれども、無機質資材は0〜90質量%まで混合できる。
【0018】
前記において、この発明の発酵物資材に無機質資材を混合する際の無機質資材の混合量は、肥料成分を勘案して定める。従って有機質資材に肥料成分が多い場合には、無機質資材の混合量を少なくする。この点は従来行われているように、肥料を使用すべき植物に対応して定める。
【0019】
この発明における造粒は、従来使用されている押出成形(ペレット)、圧縮成型(ブリケッティング)、転動造粒(ドラム又は皿形造粒)又はこれらの組合せ方式(アグレット造粒)を使用することができるが、造粒方法に限定されるものではない。
【0020】
前記造粒方式によって造粒水分含有率は、例えば10%〜40%の間で、適宜採用している。
【0021】
この発明では、サポニン含有物として、植物油粕を使用したが、他の物質、例えばヒトデを使用しても、ハエ類の誘引性を低減できる可能性がある。
【発明の効果】
【0022】
この発明によれば、肥料中に含まれるn−吉草酸の濃度を1.1ppm以下にしたので、ハエ類、コナダニ等の誘引性を著しく低減する効果がある。
【0023】
またサポニン含有植物油粕を添加し、有機質資材質量%に対し、粗サポニン含有率を0.35質量%以上としたので、ハエ類の誘引性を低減できる効果がある。
【0024】
更に、n−吉草酸濃度1.1ppmの肥料の、有機質資材質量%に対し、粗サポニンを0.35質量%以上とした場合においても、ハエ類の誘引性を低減できる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
この発明は、有機質資材を2以上混合、加水、発酵し、ガス検知管で測定したn−吉草酸の濃度が1.1ppm以下になるまで発酵を継続し、濃度が0.38ppmになった時に発酵を中止して得た発酵物資材と、無機質資材とを混合し、肥料成分を調整後、造粒、乾燥して粒状肥料製品を得た。
【0026】
また他の発明は、有機質資材に、無機質資材を等量加え、これにサポニン含有植物油粕を添加し、有機質資材質量%に対し、粗サポニンを0.35質量%に調整した後、造粒、乾燥して、この発明の製品を得た。
【0027】
次に前記発酵有機質資材(n−吉草酸濃度0.38ppm)より得た肥料に、有機質資材質量%に対し、粗サポニンを0.35質量%混合し、造粒、乾燥してこの発明の製品を得た。
【実施例1】
【0028】
植物油粕、魚粕、動物粕粉末等を等量宛混合した有機質資材に水を加えて、水分含有量が20%〜45%になるように調整し、自然発酵させる。この間毎日又は1日おきに十分切りかえして酸素が十分行きわたるようにする。発酵開始から1ヶ月〜2ヶ月の間に、ガス検知管を用いてn−吉草酸の濃度を測定し、該濃度が0.38ppm以下になった時点で発酵を中止し、発酵物資材を得る。そこで発酵物資材に尿素、硫安、燐安、過石、塩加、硫加、苦土肥料、微量要素複合肥料、化成肥料、粘土鉱物などを1種又は複数種(例えば10質量%程度)混合し、加水(造粒水分含有率10%〜40%)、造粒、乾燥すれば、この発明の肥料が完成する。
【0029】
前記において、n−吉草酸の濃度が1.1%以下になる日数は、有機質資材の材質によって異なるが、発酵開始日数と、n−吉草酸の濃度とは、表1のような関係があるので、目安をつけることができる。
【表1】

【0030】
前記表1において、n−吉草酸の濃度と、酢酸濃度とは相関するので、酢酸濃度により、イエバエ誘引低減性の目安とすることができる。
【0031】
前記における臭気測定方法は次の方法を用いた。
【0032】
底面から高さ12cmの壁面に径1cmの穴を開けた円筒の容器(高さ20cm、上面直径18cm、底面直径15cm)にて、臭気測定サンプルをすりきり一杯充填したノイバウェルポットを容器の中に入れ、蓋をした後、1分放置後、容器壁面の穴よりガス検知管で臭気を測定。
【実施例2】
【0033】
有機質資材に等量の無機質資材を混合してなる有機質・無機質の混合肥料原料に、サポニン含有植物油粕を添加し、有機質資材質量%に対し、粗サポニンを0.35質量%以上に調整して、混合物とし、この混合物に造粒水分含有率10%〜40%になるように加水した後造粒し、乾燥することにより、この発明の肥料製品を得た。この場合のハエ類の誘引低減効果は表2のとおりである。
【表2】

【実施例3】
【0034】
有機質資材(植物油粕、魚粕、動物粕粉末等)を混合、加水、発酵させて得たn−吉草酸の少ない発酵物資材に、有機質資材質量%に対し、粗サポニンを0.35質量%混合して、混合肥料原料とする。
【0035】
前記混合肥料原料に加水して造粒水分含有率10%〜40%とした後、造粒、乾燥してこの発明の肥料を製造した所、表3の結果を得た。
【表3】

【0036】
前記のように、発酵40日以上で、イエバエ誘引性低減が確認された。
【0037】
即ち有機質資材を発酵させただけでは発酵期間40日は、未だ不十分(表1)であったが、サポニン含有植物油粕を添加することにより誘引性の低減が認められた。
【0038】
[試験例1]
ケナガコナダニの誘引低減性効果確認試験を下記の要領により行った所、表4の結果を得た。
【表4】

【0039】
前記のように、発酵40日以上で、ケナガコナダニ誘引性低減が確認された。
【0040】
即ち、有機質資材(未発酵)にサポニン含有植物油粕を添加するだけでは、不十分であったが、発酵期間を40日以上とすることにより、誘引性の低減が認められた。
【0041】
前記肥料は、タネバエ、イエバエ、コナダニなどに有効であることが認められた。
【0042】
試験方法
(1)シャーレにろ紙を半分に切ったものを約1cm離して並べ、ろ紙に水1mlを加え湿らせた。
【0043】
(2)湿らせたろ紙の上に各種肥料サンプルを約1g計量し、スパチュラで幅1cmに広げて置き、中央の色紙(黒)の上にダニを25頭ずつ筆で放飼した。
【0044】
(3)デシケーター内に肥料及びケナガコナダニの入ったシャーレを設置した。なお、シャーレのフタは外した。
【0045】
(4)試験開始(ケナガコナダニ放飼)1日及び3日後にシャーレ内の肥料(ろ紙含)に寄生しているダニ数を実体顕微鏡で調査し、誘引低減率を求めた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機質資材単独又は有機質資材に無機質資材を加えて加水、発酵させ、n−吉草酸の濃度を1.1ppm以下とし、かつ肥料成分を調整して、造粒、乾燥したことを特徴とする作物害虫の誘引性を低減した肥料。
【請求項2】
有機質資材単独又は有機質資材に無機質資材を加えて加水、発酵させ、n−吉草酸の濃度を1.1ppm以下とした発酵物資材に、サポニン含有植物油粕を添加し、有機質資材質量%に対し、粗サポニン含有率を0.35質量%以上とし、かつ肥料成分を調整した後、造粒、乾燥したことを特徴とする作物害虫の誘引性を低減した肥料。
【請求項3】
有機質資材を配合、混合し、一定量加水後、積み上げて発酵させ、毎日もしくは1日おきに撹拌して発酵に必要な量の空気を混入した後、前記発酵物資材のn−吉草酸を検出し、その量が1.1ppm以下になった時に発酵を中止し、無機質資材を加え肥料成分を調整し、混合、加水、造粒、乾燥することを特徴とした作物害虫の誘引性を低減した肥料の製造方法。
【請求項4】
有機質資材に、サポニン含有植物油粕を添加し、有機質資材質量%に対し、粗サポニン含有率を0.35質量%以上とし、無機質資材を加え肥料成分を調整した後、配合、混合、加水、造粒して乾燥することを特徴とした作物害虫の誘引性を低減した肥料の製造方法。
【請求項5】
有機質資材を配合、混合し、一定量加水後、積み上げて発酵させ、毎日もしくは1日おきに撹拌して発酵に必要な量の空気を混入した後、前記発酵物資材のn−吉草酸を検出し、その量が1.1ppm以下になった時に発酵を中止して得た肥料に、サポニン含有植物油粕を添加し、有機質資材質量%に対し、粗サポニンを0.35質量%以上とし、かつ無機質資材を加え肥料成分を調整した後、配合、加水、造粒して乾燥することを特徴とした作物害虫の誘引性を低減した肥料の製造方法。
【請求項6】
有機質資材は、単一又は複数の有機質資材を混合することを特徴とした請求項3、4又は5記載の作物害虫の誘引性を低減した肥料の製造方法。
【請求項7】
有機質資材の割合を、製品に対し、10質量%〜100質量%とすることを特徴とした請求項3、4、5又は6記載の作物害虫の誘引性を低減した肥料の製造方法。

【公開番号】特開2006−36584(P2006−36584A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−218406(P2004−218406)
【出願日】平成16年7月27日(2004.7.27)
【出願人】(392027933)朝日工業株式会社 (7)
【Fターム(参考)】