説明

作物栽培用空調装置

【課題】 作物の生長点の近傍に通風ダクトからの冷気または暖気を吹出す作物栽培用作物栽培用空調装置の提供。
【解決手段】 本発明に係る作物栽培用空調装置4は、空調機5からの冷気または暖気を吹出す通風ダクト6を配置し、この通風ダクト6を上下に水平移動可能な昇降装置9を備える。これにより冷気または暖気を作物の生長点の近傍に吹出して生長に必要な温度帯を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は作物栽培用空調装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、作物を栽培室で育成する場合、作物の生育に適した温度にするために栽培室を暖房または冷房している。この場合、例えば、栽培室内を均一に温度調整できるように、栽培室内に、軟質塩化ビニールチューブを通風ダクトとして設置し、これを冷気または暖気を送気する空調装置に連結し、栽培室に冷気または暖気を送っている。例えば、特開平6−343352号公報(特許文献1)では、作物を植栽する細長い畝の両側部に、軟質塩化ビニールチューブを設け、通風ダクトの吹出口から冷温風を吹出すものが提案されている。
【0003】
【特許文献1】特開平6−343352号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
作物の生育にとっては、特に若い芽の生えている箇所(生長点)の温度環境を最適温度に管理することが重要である。作物の生長点は、作物の生育状況に応じて位置が変化していく。例えば、先端に生長点がある作物では、作物が生育して背が高くなると、作物の生長点が高い位置に移動するが、作物を植栽する細長い畝の両側部に、軟質塩化ビニールチューブを通風ダクトとして設け、この通風ダクトの吹出口から冷温風を吹出すものでは、斯かる作物の生育に対して、必ずしも適切な温度管理ができているとはいえない。
【0005】
また、通風ダクトに軟質塩化ビニールチューブを用いた場合、空調装置の風圧により、軟質塩化ビニールチューブを膨らませる必要があり、チューブ内での動圧損失が大きくなって、大容量の送風機が必要になる。
【0006】
また、畝の両側に通風ダクトを設置すると、畝の両側の作業スペースが狭くなり、作業性が悪くなる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る作物栽培用空調装置は、冷気または暖気を送気する送気口を備えた空調機と、栽培地に作物を植栽した栽培室内で、栽培地の上方で横向きに寝かせた状態で配設され、長手方向に沿って多数の吹出口が形成された通風ダクトと、空調機の送気口と通風ダクトとを連結するフレキシブルダクトと、通風ダクトを横向きに寝かせた状態で昇降させる昇降装置とを備えたものである。
【0008】
また、昇降装置は、通風ダクトを上方から吊下げた吊下げ部材と、この吊下げ部材を巻取る巻取部材と、巻取部材を動作させる駆動装置とで構成してもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る作物栽培用空調装置によれば、通風ダクトと空調機を屈曲自在なフレキシブルダクトで連結し、昇降装置により通風ダクトを横向きに寝かせた状態で昇降させるようにしたので、作物の生育に応じて高さが変わる生長点の近傍に通風ダクトの吹出口の高さを調整することができる。これにより、生長点の近傍を作物の生育に最適な温度環境に調整することが容易になる。
【0010】
また、昇降装置を、通風ダクトを上方から吊下げた吊下げ部材と、この吊下げ部材を巻取る巻取部材と、巻取部材を動作させる駆動装置とで構成したものは、吊下げ部材を巻上げて通風ダクトを上方に位置させると、通風ダクトおよび通風ダクトを支持する部材を作業空間から退けることができ、通風ダクトが栽培地の作業空間を狭くすることがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態に係る作物栽培用空調装置を図面に基づいて説明する。
【0012】
この実施形態では、作物栽培用空調装置4は、図1に示すように、ビニールやガラス等で外壁を構成した栽培室1に設置している。栽培室1の室内には栽培地2に作物3を植栽しており、この実施形態では、栽培地2に複数条の整列した状態で作物3を植栽している(図5参照)。
【0013】
作物栽培用空調装置4は、空調機5と、通風ダクト6と、フレキシブルダクト8と、通風ダクト6を昇降させる昇降装置9とを備えている。
【0014】
空調機5は、冷気または暖気を送気する送気口7を備えたものである。空調機5には、例えば、図1に示すように、内部に熱交換器10と送風機11とを備え、上方に送気口7を備えたものを用いることができる。空調機5は、この熱交換器10で熱交換された冷気または暖気を送風機11で送気口7から送気する。なお、図示は省略するが、空調機5の下方には、栽培室1の空気を取入れる吸気口がある。
【0015】
通風ダクト6は、図1に示すように、栽培地2の上方において、横向きに寝かせた状態で配設されており、通風ダクト6には、長手方向に沿って多数の吹出口15が形成されている。
【0016】
この実施形態では、通風ダクト6は、図3に示すように、グラスウール保温材12の内外面をアルミ箔の内面材13と外面材14で被覆した直管の断熱ダクトを用いている。
【0017】
この実施形態では、図5(a)、(b)に示すように、通風ダクト6は、栽培地2に複数条に整列した状態で植栽した作物3の間で、作物3と平行に配置している。また、通風ダクト6に形成した吹出口15は、通風ダクト6の中心に向かうように断熱層を貫通して左右に1個ずつ形成される。これにより、1本の通気ダクト6の吹出口15から左右に吹き出された冷気や暖気を、ダクト下方で栽培されている二列の作物の生長点近傍に同時に吹き付けることができる。
【0018】
図4(a)に示す如く、単機の送風機11に複数の通風ダクト6を連結する場合、送風機11の送気口7に共通ダクト30を連結し、共通ダクト30に設けた複数の出口に1本ずつフレキシブルダクト8を介して通風ダクト6の入口側を連結する。送風機11からの送風は共通ダクト30とフレキシブルダクト8を介して各通風ダクト6に給送される。また、隣接する通風ダクト6の出口側となる末端同士をフレキシブルダクト31で連通させてループ化することができる。この場合、隣接する各通風ダクト6のそれぞれ末端での送風動圧が互いに捕捉し合って、それぞれ末端での動圧低下が回避され、各通風ダクト全長に亘る吹出口15からの吹出し風速・風量の均一化を図ることができる。また、図4(b)に示す如く、共通ダクト30にフレキシブルダクト8を介して連結された1本の通風ダクト6の末端と、共通ダクト30を長尺なフレキシブルダクト32で連結してループダクトを構成することも有効である。
【0019】
フレキシブルダクト8は、空調機5の送気口7と通風ダクト6とを連結する屈曲自在なダクト部材である。この実施形態では、フレキシブルダクト8には、通風ダクト6と同様の断熱ダクトを用いている。空調機5の送気口7及び通風ダクト6との連結は、継目から冷気または暖気が漏れないようにする。
【0020】
次に、昇降装置9を説明する。昇降装置9は、通風ダクト6を横向きに寝かせたほぼ水平な状態のまま昇降させる。この実施形態では、昇降装置9は、この通風ダクト6を上方から吊下げた吊下げ部材17と、この吊下げ部材17を巻取る巻取部材16と、巻取部材16を動作させる駆動装置18とで構成している。また、斯かる昇降装置9を取付けるために、通風ダクト6は、外周に支持リング20を巻きつけている。
【0021】
吊下げ部材17は、チェーンやロープ、ひも等でよく、図2に示すように、一端を通風ダクト6の外周に巻付けた支持リング20に取付けている。支持リング20を使用することにより、可撓性のある通風ダクト6の支持を安定させている。なお、吊下げ部材17は、通風ダクト6の外周に巻付けた支持リング20に取付けて、一端を通風ダクト6に連結したものを例示したが、支持リング20を介さずに、吊下げ部材17の一端を通風ダクト6に直接取付けてもよい。
【0022】
吊下げ部材17の他端は、巻取部材16に巻付けている。この巻取部材16は、図2に示すように、通風ダクト6の上方において、通風ダクト6と平行に延在した回転軸であり、栽培室1の梁1aに支持具19で可逆転自在に取付けている。巻取部材16には、図1に示すように、通風ダクト6に取付けた多数の吊下げ部材17をそれぞれ巻付けている。巻取部材16の一端には、歯車21を取付けている。
【0023】
駆動装置18は、巻取部材を動作させるものであり、この実施形態では、図1に示すように、巻取部材16の一端に取付けた歯車21に無端状の操作用チェーン22を掛け回している。この場合、操作用チェーン22を一の方向に引いて歯車21を回転させると、巻取部材16が回転し、巻取部材16に吊下げ部材17が巻き付いて、通風ダクト6が上方に移動する。操作用チェーン22を逆方向に引いて歯車21を逆方向に回転させると、巻取部材16が逆方向に回転し、巻取部材16から吊下げ部材17が送り出され、通風ダクト6が下方へと移動する。
【0024】
なお、駆動装置18は、操作用チェーン22で構成し、手動で操作するものを例示したが、斯かる操作用チェーン22をモータおよびモータの速度比や回転方向を切り替えるギヤ機構を介して駆動させるようにして、巻取部材16を動作させて吊下げ部材17の巻取りや引出し動作を機械で行うようにしてもよい。また、巻取部材16にモータおよびモータの速度比や回転方向を切り替えるギヤ機構を連結して駆動させるようにしてもよい。また、この実施形態では、巻取部材16を一本の回転軸から構成して吊下げ部材17を一本の回転軸に巻付けて説明したが、各吊下げ部材17にそれぞれ巻取部材16、駆動装置18を設けてもよい。
【0025】
以下、この作物栽培用空調装置4を備えた栽培室1で、作物3を育てる場合を具体的に説明する。
【0026】
栽培室1の栽培地2に作物3を植栽してすぐは、作物3は背が低い状態にある。このような場合は、通風ダクト6を作物3の丈(または草丈)に合わせて下降させ、通風ダクト6の吹出口15を作物3の生長点の近傍に調整する。そして、空調機5からの冷気または暖気を通風ダクト6の吹出口15より吹出して作物3の生長点の近傍を冷暖房して、作物3の生育に最適な温度環境を作るとよい。作物3が生育するにつれて、作物の丈が高くなっていくが、この作物栽培用空調機4は、作物の生育にあわせて昇降装置9で吊下げ部材17を巻上げて、通風ダクト6を作物3の生長点の近傍に位置させるとよい。これにより、作物3の生育に合わせて作物3の生長点の近傍に冷気または暖気を送ることができ、作物3の生長点の近傍において作物3の生育に最適な温度環境を作り出すことができる。
【0027】
また、作物栽培用空調装置4は、昇降装置9を、通風ダクト6を上方から吊下げた吊下げ部材17と、この吊下げ部材17を巻取る巻取部材16と、巻取部材16を動作させる駆動装置18とで構成しているので、吊下げ部材17を巻上げて通風ダクト6を上方に位置させると、通風ダクト6及び通風ダクト6を支持する部材を作業空間から退けることができ、通風ダクト6が栽培地2の作業空間を狭くすることがない。
【0028】
また、この実施形態では、通風ダクト6を、栽培地2に複数条に整列した状態で植栽した作物3の間で、通風ダクト6を昇降させる際に、通風ダクト6が作物3の幹に干渉しないので、作物3の幹を傷めることがない。また、通風ダクト6の両側に吹出口15を設けて、両側の作物3に対して、冷気または暖気を送るようにしたので、栽培室1に設置する通風ダクト6の数を減らすことができる。
【0029】
また、作物3の生長点に暖気を送る場合は、通風ダクト6を作物3の生長点より少し下方に位置させるとよく、また、作物3の生長点に冷気を送る場合は、通風ダクト6を作物3の生長点より少し上方に位置させるとよい。これにより、冷気または暖気の対流を有効に利用して効率よく作物3の生長点の近傍を作物3の生育に最適な温度環境に調整することができる。また、合わせて、作物3に暖気を送る場合は、通風ダクト6を作物の生長点より少し下方に位置させるので、日射量の少ない冬季に通風ダクト6で日射を遮ることなく、暖気の上昇特性を利用して、効率よく作物3の生長点に必要な温度と日射量を確保することができる。また、日射量の多い夏季に、作物3の生長点に冷気を送る場合は、通風ダクト6を作物3の生長点より少し上方に位置させるので、通風ダクト6で過剰な日射量を遮蔽すると共に、冷気の下降特性を利用して効率的に作物3の生長点を冷やすことができる。
【0030】
また、通風ダクト6に、内面材13と外面材14の間にグラスウール保温材12を装填したグラスウールダクトを用いたものは、、ビニールチューブを用いる場合に比べ、ダクト形状を安定させるための動圧損失が少なくて済み、空調機5の出力を低く抑えることができ、ランニングコストを低下させることができる。
【0031】
以上、本発明の一実施形態に係る作物栽培用空調装置を説明したが、本発明に係る作物栽培用空調装置は、上記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加えることができるのは勿論である。
【0032】
例えば、図7に示す作物栽培用空調装置4は、通風ダクト6の入口側に、冷気または暖気に渦巻き状の旋回力を付与して整流する整流手段23を設けたものである。図7に示す例では、整流手段23として、通風ダクト6の入口側に、内周面に渦巻き状の回転気流を発生させる整流ダクト24を取付けている。この整流ダクト24は、通風ダクト6と内周面が同一サイズの円形のダクトで構成しており、図8に示すように、内周面に螺旋状の突起25を設けている。突起25は、整流ダクト24の全長に亘り巾が同じ螺旋板で、整流ダクト24の片端から他端へ螺旋状に延在するように内面材13に固定している。
【0033】
これにより、送風機11からの冷気または暖気は、図7に示すように、まず、円筒状の整流ダクト24に流入する。このとき、整流ダクト24内では、内周面近くを流れる冷気または暖気の外側領域気流が、突起25に当たり突起25の螺旋方向により渦巻き状に旋回力を受けて整流され、そのまま通風ダクト6内へ給送される。
【0034】
このように、冷気または暖気は、整流ダクト24において渦巻き状に整流され、通風ダクト6内を軸方向に進行する。通風ダクト6を進行する渦巻き状の冷気または暖気は、その外側領域気流が渦巻くことで、通風ダクト6内を低空気抵抗で円滑性よく進行する。その結果、通風ダクト6を流れる冷気または暖気は、入口側と末端側とで流速の差を少なくでき、通風ダクト6の各吹出口15からの冷気または暖気の風速・風量の差を小さくすることができる。これにより、栽培室1内をより均一に温度制御することができる。また、動圧損失が少なくなるので、風量の少ない送風機を使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施形態に係る冷房時の栽培室を示す概念図である。
【図2】昇降装置の概念図である。
【図3】通風ダクトの縦断面図である。
【図4】(a)は通風ダクトの平面図である。(b)は通風ダクトの他の平面図である。
【図5】(a)は冷房時の通風ダクトと作物の関係を示す模式図である。(b)は暖房時の通風ダクトと作物の関係を示す模式図である。
【図6】図1相当の暖房時の栽培室を示す概念図である。
【図7】図4相当の渦巻き整流発生用整流ダクトを取付けた状態を示す通風ダクトの平面図である。
【図8】図7の整流ダクトの斜視図である。
【符号の説明】
【0036】
1 栽培室
2 畝
3 作物
4 作物栽培用空調装置
5 空調機
6 通風ダクト
7 送気口
8 フレキシブルダクト
9 昇降装置
11 送風機
12 グラスウール
15 吹出口
16 巻取部材
17 吊下げ部材
18 駆動装置
23 整流手段
24 整流ダクト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷気または暖気を送気する送気口を備えた空調機と、
栽培地に作物を植栽した栽培室内で、栽培地の上方で横向きに寝かせた状態で配設され、長手方向に沿って多数の吹出口が形成された通風ダクトと、
前記空調機の送気口と通風ダクトとを連結するフレキシブルダクトと、
前記通風ダクトを横向きに寝かせた状態で昇降させる昇降装置とを備えた作物栽培用空調装置。
【請求項2】
前記昇降装置が、通風ダクトを上方から吊下げた吊下げ部材と、この吊下げ部材を巻取る巻取部材と、巻取部材を動作させる駆動装置とを備えていることを特徴とする請求項1に記載の作物栽培用空調装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−185147(P2007−185147A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−6439(P2006−6439)
【出願日】平成18年1月13日(2006.1.13)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【Fターム(参考)】