説明

保存可能な生虫卵懸濁液の製造

本出願は、虫卵の懸濁液における幼虫形成能力および生存能力を保証する、新規および有利な浄化方法について記載する。豚鞭虫(T.suis)の虫卵を幼虫未形成の状態で、最初にpH約2以下の硫酸溶液中で処理する。それにより細菌およびウイルスを成功裏に死滅させる。酵母および真菌の数を減少させる。第2ステップでpH価を上げ、経口摂取可能な防腐剤を加える。それにより酵母および真菌を成功裏に死滅させる。また、第2浄化ステップで使用した懸濁培地を、さらに調製(幼虫形成)および保存のための培地としても使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、寄生蠕虫卵を含み、該虫卵が発育可能な生きた状態にある、治療用に適した懸濁液を製造するための浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
寄生虫感染が、動物宿主の免疫系活性化に影響を及ぼすことは公知である(D.M.McKay,Parasitology 2006,132:1−12参照)。この活性化は免疫系疾患の発症および経過にも影響する。疫学的調査において、衛生状態が良いため寄生虫感染率が低い地域と比べ、寄生虫感染率の高い地域では、自己免疫疾患がまれにしか発症しないことが証明されている。腸管の慢性炎症性疾患であるクローン病患者のサイトカインプロファイルにおいては、蠕虫感染によりTh2免疫細胞が刺激されうることが証明されている。Th1優位の自己免疫疾患であるクローン病は、蠕虫感染により予防できる、または影響を及ぼすことができる(Summers et al.,Am J Gastroenterol 2003,98:2034−2041参照)。また、Th1免疫細胞により引き起こされる他の疾患も、ヘリコバクターによる胃炎や自己免疫性脳脊髄炎がそうであるように、蠕虫感染により影響を受けうる。
【0003】
早くも1973年には、Beer(Parasitology 1973,67:253−262)により、線虫自体による病原性感染を伴うことなくヒトに免疫処置を施すのに適した線虫として、豚鞭虫(Trichuris suis)が適している可能性が報告されている。豚鞭虫はヒト鞭虫と近縁にあり、ヒトの消化管中で生存するが、増殖することはない。この自己限定性の感染は、治療手段を必要としない。したがって、豚鞭虫に感染させることにより免疫処置を施すことができる。
【0004】
R.J.S.Beer,Parasitology 1972,65:343−350には、虫卵の回収および浄化方法についての記載がある。幼虫包蔵卵を32℃、0.2%重クロム酸カリウム溶液中で培養し、毎日通気する。同様の浄化方法は独国特許発明第1063115号明細書に記載がある。ヒドロキシルラジカルあるいは酸素ラジカルを生ずる化学反応により、いかなる微生物およびウイルスも虫卵から取り除かれる。具体的には、いわゆるフェントン反応が記載されている。該反応では、塩化鉄(II)(FeCl)が過酸化水素(H)に作用して発生期酸素を生成し、その殺菌活性が利用される。
【0005】
Boes et al.,Veterinary Parasitology 1998:181−190には、雌虫から得られ、硫酸中で幼虫形成させた、豚回虫(Ascaris suum)卵の幼虫形成状態および感染力についての記載がある。
【0006】
Summersら(GUT 2005,54:87−90)も、前もって抗生物質(ペニシリン/ストレプトマイシン/アムホテリシンB)を含む緩衝液中で虫卵を5〜6週間かけて幼虫形成させた後、0.2%重クロム酸溶液を含むpH6〜7リン酸緩衝液により豚鞭虫卵を浄化した。
【0007】
このような殺菌・殺ウイルス性の薬品の使用には、一連の重大な欠点がある。
重クロム酸溶液またはフェントン試薬のいずれを使用した場合も、虫卵の損傷を回避するためには、該溶液は短時間のうちに除去されなければならない。さらに、実験により、あらかじめ浄化ステップを経ているにもかかわらず、浄化後の幼虫形成期間(22〜25℃、3カ月)に微生物が大量増殖することも、その後の幼虫包蔵卵保存期間(2〜8℃)に微生物が増殖することも、避けられないことが明らかになった。したがって、一旦このような殺菌・殺ウイルス性の薬品が除去されれば、豚鞭虫卵懸濁液中で微生物が新たに増殖すると考えられる。
【0008】
さらに、前記懸濁液からの重クロム酸塩の完全除去は必須である。しかしながら、その除去方法は極めて煩雑である。
【0009】
Summersが述べているように、虫卵の幼虫形成期間における微生物の大量増殖を防止する目的の抗生物質の添加が、この段階での微生物の大量増殖を防いでいる。その一方、この抗生物質の添加により微生物が確実に死滅するわけではない。次の浄化および保存ステップにおいて、抗生物質が除去されると、懸濁液を使用するまでに微生物が新たに大量増殖する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、ウイルスおよび微生物、特に細菌による汚染から浄化され、真菌胞子および酵母が増殖することなく保存できる幼虫包蔵卵懸濁液を調製することである。本明細書記載の方法により、虫卵が成虫へと発育する能力は保持される。この虫卵懸濁液は治療用に適している。
【0011】
驚いたことに、従来公知の方法とは対照的に、毒物(例えば重クロム酸カリウム、KCr)や殺菌剤を必要としないことから、浄化および保存を組み合わせた方法が上記問題の解決に特に適切であることが、本発明の範囲内で判明した。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の浄化方法では、分離された蠕虫卵、好ましくは豚鞭虫卵を、pH2以下の酸性溶液中、好ましくは硫酸(HSO)溶液中で1〜72時間培養する(実施例1参照)。最適な培養時間は2〜8時間、好ましくは3時間である。培養温度は4〜37℃、好ましくは25〜35℃である。
【0013】
ヒトに対して非病原性である寄生蠕虫の生虫卵が懸濁している保存可能な懸濁液を含み、該懸濁液の経口摂取後、十分な数の蠕虫が発育し、結果としてヒト制御性T細胞に刺激を与える、経口投与可能な医薬品を調製する方法の第1ステップにおいて、蠕虫卵懸濁液は最初にpH2以下の酸処理に付される。さらなるステップで、pHを4以上に上げ、薬理学的に許容できる防腐剤を加える。原理的には、最初に防腐剤を加え、次に酸処理を行なうことも可能である。しかしながら、最初に酸処理を行ない、次に防腐剤を加えることが好ましい。
【0014】
酸処理は、硫酸を加えることにより行うことが好ましい。該酸処理では、pHを約0.5〜2の範囲に低下させるのに十分な量の酸を加える。さらなる実施形態では、pHを約0〜1未満に低下させる。適切な酸は、塩酸、硝酸、好ましくは硫酸である。該酸処理は、虫卵への過度の損傷を回避するために、比較的短時間で行なうだけでもよい。また、この場合、酸処理における酸濃度と処理時間には関連性がある。pHを2未満、特に好ましくは0.6〜0.8にまで低下させることが好ましい。酸処理の処理時間は、数分から数時間、好ましくは120〜360分である。さらに虫卵が耐容できる短期の処理時間としては、虫卵の幼虫形成工程(22〜25℃、3カ月)も包含する。
【0015】
前記酸処理の後、適切な塩基、例えば水酸化ナトリウム(NaOH)の添加により、再びpHを4より高くする。その後、1つ以上の防腐剤を加えるが、原則として、食品あるいは医薬品の保存に適したあらゆる物質を使用することができる。クローン病の患者が確実に良好な耐容性を示す防腐剤を使用することが好ましい。
【0016】
前記防腐剤は、ソルビン酸、安息香酸、これらの酸の塩、パラ安息香酸エステル、p−ヒドロキシ安息香酸エステル、プロピレングリコール、およびこれらの防腐剤の組み合わせから成る群から選択することが好ましい。
【0017】
前記防腐剤としては、
0.01〜0.2%、特に0.1〜0.2%ソルビン酸、
0.1〜0.3%安息香酸、
0.02〜0.3重量%p−ヒドロキシ安息香酸エステル、
5〜20重量%プロピレングリコール、および
上述の濃度域にある上述の防腐剤の組み合わせ
から成る群より選択される1種以上の防腐剤を使用することが特に好ましい。
【0018】
また、強酸の代替として、上述の防腐剤、好ましくはソルビン酸およびその塩を添加した弱酸性溶液が、微生物およびウイルスの迅速な不活化にも適している。しかしながら、強酸よりも該弱酸溶液を使用すると、酸性度の低いpHであるため、虫卵の浄化、幼虫形成(22〜25℃、3カ月)、保存、患者への投与が単一の培地で実施できるという利点がある。このような長期的処理を弱酸を用いて行うと、虫卵の生存能力に及ぼす悪影響がない(実施例5参照)。この温和な方法では、pH1以上好ましくはpH2の防腐剤含有培地を使用するため、虫卵懸濁液の微生物学的純度は制限されない。
【0019】
前記方法により得られた、幼虫包蔵卵を含む防腐剤含有懸濁液は、液状の飲み薬として患者に投与するのに適している。適切な場合、着色剤、香料あるいは増粘剤のような薬学的に許容できる添加物を、虫卵懸濁液にさらに加えてもよい。
【0020】
したがって、本発明は、ヒトに対して非病原性である寄生蠕虫の生虫卵が懸濁している保存可能な懸濁液を含み、該寄生蠕虫が特に豚鞭虫であり、該懸濁液の経口摂取後、十分な数の蠕虫が発育し、結果として制御性T細胞に刺激を与え、コロニーを形成する微生物数(cfu=colony−forming unit)が、懸濁液1ml当たり1,000未満である、経口投与用医薬品に関する。該経口投与用医薬品に含まれる微生物数が、懸濁液1ml当たり100コロニー形成単位未満であることが好ましい。特に、該経口投与用医薬品に含まれる微生物数が、懸濁液1ml当たり10コロニー形成単位未満であることが好ましい。コロニー形成単位数は、慣用の微生物学的手法を用いて決定される。
【0021】
本明細書中では、微生物とは、細菌、ウイルス、真菌、酵母および原虫を意味し、健康に害を及ぼすような微生物は含まれてはならない。
【0022】
本発明の方法により、ヒトに対して非病原性である寄生蠕虫の虫卵が懸濁している保存可能な懸濁液を、医薬品投与に適した形態で提供することが可能となる。本発明による処理は、第1に、医薬品としての用途に適合する程度にまで、汚染微生物、特に細菌のみならず、真菌、ウイルス、適切な場合には、原虫をも死滅させる。しかしながら、第2に、この処理は十分に温和であるため、一旦経口摂取されれば該虫卵が患者の腸管内で発育する能力を保持でき、その結果免疫系に所望の刺激を引き起こす。
【発明の効果】
【0023】
本発明による医薬品は、特に腸管の様々な炎症性疾患、特に腸管の慢性炎症性疾患の治療に適している。該医薬品は、クローン病と呼ばれる腸管炎症性疾患の治療に特に有利な方法で利用することができる。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0024】
豚鞭虫卵懸濁液中の微生物の除去
ドイツ薬局方(DAB)(German Pharmacopoeia,section 2.6.12,last updated with the 24th Supplement in 2006)の規定に従い、豚鞭虫卵(Trichuris suis ova:TSO)を2,400虫卵/mlの濃度でリン酸緩衝液(pH7)に懸濁し、該懸濁液中の微生物数を測定した。その結果、微生物数は190,000cfu/mlであった。次に、該懸濁液を希HSO溶液を用いてpH2に再度調整した。30℃で3時間保存後、微生物数は20cfu/ml未満に減少した。
【0025】
次に、本方法の質を調査するために、ドイツ薬局方(DAB)に従い、規定の細菌、酵母および真菌の試験株を使用した。実施例2a、2bおよび2cに、試験結果を示す。
【実施例2】
【0026】
微生物数の測定
a.DAB2.6.13に規定されている栄養懸濁液に、表1に詳述する胞子形成試験細菌株および胞子非形成試験細菌株を植菌した。次に、これらを希HSO溶液を用いてpH2に再度調整し、30℃で6時間保存した。その後、微生物数を測定し、表1に示すデータを得た。
【0027】
【表1】

【0028】
b.DAB2.6.13に規定されている栄養懸濁液に、表2に詳述する試験酵母株を植菌した。次に、これらを希HSO溶液を用いて、pH2あるいはpH1に再度調整し、25℃で3時間あるいは48時間保存した。その後、微生物数を測定し、表2に示すデータを得た。
【0029】
【表2】

【0030】
c.DAB2.6.13に規定されている栄養懸濁液に、表3に詳述する試験糸状菌株を植菌した。次に、これらを希HSO溶液を用いて、pH2、pH1およびpH0に再度調整し、25℃で3時間あるいは48時間保存した。その後、微生物数を測定し、表3に示すデータを得た。
【0031】
【表3】

【0032】
実施例1および2a〜cから、pH2の希HSO溶液が、細菌を短時間に効率よく死滅させることが明らかになった。酵母および真菌を効率よく死滅させるには、培養時間を長くするか、あるいは酸性度の高いpH価にすることが必要である。
【0033】
驚いたことに、上述の浄化ステップは、さらに、ウイルスが除去された豚鞭虫卵懸濁液の調製に適している。
【実施例3】
【0034】
ウイルス除去
豚鞭虫卵(TSO)懸濁液の調製における、マウス白血病ウイルス(Murine leukemia virus:MuLV)、仮性狂犬病ウイルス(Pseudorabies virus:PRV)、ブタパルボウイルス(Porcine parvovirus:PPV)およびネコカリシウイルス(Feline calicivirus:FCV)の不活化。使用したこれらのウイルスはモデルウイルスである。
【0035】
植菌したサンプル中のウイルス力価を、終点滴定により測定した。この方法自体は公知であり、容易に識別可能な標識細胞を含むマイクロタイタープレートに、希釈サンプルを添加する。該希釈サンプルに含まれるウイルスが標識細胞に感染すると、細胞を融解するため、細胞の形態が変化する。該標識細胞の融解は、顕微鏡下で容易に観察することができる。
【0036】
TSOを含む0.01NのHSO溶液(pH2、30℃)に、エンベロープ試験ウイルス株および非エンベロープ試験ウイルス株を高濃度で加えた。10分、3時間および72時間培養後、ウイルス力価を測定した。10分後には、エンベロープウイルスであるPRVおよびMuLVはもはや感染力を持たなかった。また、3時間後には、非エンベロープウイルスであるFCVおよびPPVはもはや感染力を持たなかった。1NのNaOHで中和した対照試料においては、3時間培養後も、4種のウイルスすべてが毒性を保持していた。0.2%重クロム酸カリウムを含む0.01N硫酸溶液においては、重クロム酸カリウムの細胞傷害性により、該溶液を対照として分析することは不可能であった。
【0037】
pH0、好ましくは1未満に低下させたpHでの長時間培養においてのみ、真菌および酵母を顕著に減少させることが可能であった(実施例2、表2および表3参照)。強酸性培地中で行われるこの浄化方法は、新規ではあるが、虫卵の懸濁液における生存能力に悪影響を及ぼすという欠点がある。
【0038】
本発明の第2の特徴として、驚いたことに、保存目的で用いられる経口摂取可能な化学物質の添加が、高い幼虫形成率(embryonation coefficient:EC)をもたらすことが判明した。幼虫形成率は、虫卵の懸濁液における生存能力の明白な指標である。さらに、防腐剤の使用により、pH4においても、汚染微生物を不活性化することが可能であった。好ましいと判明した経口摂取可能な防腐剤は、安息香酸、ソルビン酸、これらの塩およびプロピレングリコールである(実施例4a〜e参照)。
【0039】
防腐剤の添加によってのみ、虫卵がより良好な耐容性を示す、酸性度が相当に低い培地の使用が可能となる。このようにして、単一の培地を用いて、虫卵を浄化し、幼虫形成し、保存し、患者に投与することが可能となる。したがって、培地を長期的に利用できる。希酸の使用および防腐剤の添加により、新たに発生する微生物によるTSO懸濁液の再汚染を防ぐことができる。新たに発生する微生物の増殖は、TSO懸濁液の不活性化および保存を組み合わせた上述の方法によって回避される。このように、この極めて温和な方法は、強酸の使用に基づく方法よりも明らかな利点がある。
【実施例4】
【0040】
様々な微生物のコロニー数の測定
pH2からpH4へのpH上昇および防腐剤の添加
実施例4a〜4eの実験条件:
各実施例において、各試料は、pH4のリン酸緩衝液中に、0.2%安息香酸、0.1%ソルビン酸、15%プロピレングリコールのいずれか、および10,000TSO/ml(±10%)を含むものであった。これらの試料に、以下の微生物を加えた。:
−アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)のみ
−シュードモナス・エルジノーサ(Pseudomonas aeruginosa)、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)およびエシェリキア・コリ(Escherichia coli)をアスペルギルス・ニガーと併用
【0041】
培養温度は25℃とした。テストプレートを1〜7日後に評価した。次の結果が得られた:
【0042】
【表4】

【0043】
【表5】

【0044】
【表6】

【0045】
【表7】

【0046】
【表8】

【0047】
真菌汚染が激しい場合、ソルビン酸、安息香酸および/またはp−ヒドロキシ安息香酸エステルを使用するか、またはこれらの防腐剤とプロピレングリコールとを組み合わせて使用することが好ましい。
【0048】
希酸および防腐剤を併用した微生物不活化のさらなる利点は、TSO懸濁液をさらに利用する際に、新たに発生する微生物による再汚染を防ぐことができることである。該微生物の増殖は、TSO懸濁液の不活性化および保存を組み合わせた上述の方法により回避される。
【0049】
さらに発展させて患者に投与するために調製する場合、pHを2〜7、好ましくは4〜6の範囲まで上げることが必要である。また、この第3ステップでは、適切な防腐剤の添加が必要である。使用する防腐剤は、経口投与に適していなければならない。この目的に適していることが確認されている防腐剤は、0.1〜0.2%ソルビン酸、0.1〜0.3%安息香酸、0.02〜0.3%p−ヒドロキシ安息香酸エステル、あるいは5〜20%プロピレングリコール水溶液である。また、上述の防腐剤の混合物も適している。
【0050】
驚いたことに、虫卵の懸濁液における生存能力がこの浄化方法により悪影響を受けないことが判明した。
【実施例5】
【0051】
虫卵の生存能力
40,000虫卵/mlの未成熟卵を、種類の異なる培地中で懸濁し、幼虫形成させた(22〜25℃)。60日および90日間かけて幼虫形成させた後、各々の懸濁液を顕微鏡下で観察し、幼虫形成率(embryonation coefficient:EC)を、虫卵総数および形態学的に無傷な幼虫包蔵卵数に基づいて計算した。幼虫形成率は虫卵の生存能力の指標である。幼虫形成初期には、未成熟卵のみが存在するため、幼虫形成率はゼロである。幼虫形成率は幼虫形成期間中に増加し、選択した培養条件において60日以降で最大に達する。概して、90%程度の数値が得られる。
【0052】
【表9】

【0053】
60日間かけて幼虫形成させた後、すべての培地において、幼虫包蔵卵が90%以上の割合を占めることが確認された。さらに30日間かけて幼虫形成させた後、防腐剤含有培地においては、防腐剤の濃度に関わらず、幼虫形成率は減少しなかった。一方、硫酸のpHが0.5である場合は、幼虫包蔵卵の割合の低下を早くも確認することができる。したがって、経口摂取可能な防腐剤、好ましくはソルビン酸およびその塩の添加により、虫卵に無害なpH価の利用が可能となる。したがって、本方法は安定保存に適した医薬品の製造に使用することができる(温和な方法)。
【0054】
さらに発展させて調製する場合、pHを2〜7、好ましくは4〜6の範囲まで上げ、適切な防腐剤の添加が必要である。使用する防腐剤は経口投与に適していなければならない。この目的に適していることが確認されている防腐剤は、0.1〜0.2%ソルビン酸、0.1〜0.3%安息香酸あるいは5〜20%プロピレングリコール水溶液である。また、上述の防腐剤の混合物も適している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトに対して非病原性の寄生蠕虫である豚鞭虫(Trichuris suis)の生虫卵が懸濁している保存可能な懸濁液を含み、該懸濁液の経口摂取後、十分な数の蠕虫が発育し、結果としてヒト制御性T細胞に刺激を与える経口投与用医薬品の調製方法であって、第1のステップで蠕虫卵懸濁液をpH2以下の酸処理に付し、さらなるステップでpHを4以上に調整し、薬理学的に許容できる防腐剤を加えることを特徴とする、経口投与用医薬品の調製方法。
【請求項2】
前記酸処理を硫酸の添加により行うことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
防腐剤が、ソルビン酸、安息香酸、これらの酸の塩、p−安息香酸エステル、プロピレングリコール、およびこれらの防腐剤の組み合わせから成る群より選択されることを特徴とする、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
0.01〜0.2%ソルビン酸、
0.1〜0.3%安息香酸、
0.02〜0.3重量%p−ヒドロキシ安息香酸エステル、
5〜20重量%プロピレングリコール、および
上述の濃度域にある上述の防腐剤の組み合わせ
から成る群より選択される1種以上の防腐剤を加えることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
適切な場合、薬学的に許容できる添加物をさらに懸濁液に加えることを特徴とする、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
ヒトに対して非病原性である寄生蠕虫の生虫卵が懸濁している保存可能な懸濁液を含み、該懸濁液の経口摂取後、十分な数の蠕虫が発育し、結果としてヒト制御性T細胞に刺激を与える経口投与用医薬品であって、コロニーを形成する微生物数が、懸濁液1ml当たり1,000未満であることを特徴とする、経口投与用医薬品。
【請求項7】
懸濁液1ml当たりに含まれる微生物数が100コロニー形成単位未満であることを特徴とする、請求項6に記載の経口投与用医薬品。
【請求項8】
懸濁液1ml当たりに含まれる微生物数が10コロニー形成単位未満であることを特徴とする、請求項7に記載の経口投与用医薬品。
【請求項9】
前記微生物が、細菌、ウイルス、真菌、酵母、および原虫から成る群より選択されることを特徴とする、請求項6〜8に記載の経口投与用医薬品。
【請求項10】
請求項1〜5に記載のいずれかの方法により調製可能であることを特徴とする、請求項6〜9に記載の医薬品。
【請求項11】
腸管の炎症性疾患、特に腸管の慢性炎症性疾患の治療用医薬品を製造するための、請求項1〜5のいずれかに記載の方法により調製した、寄生蠕虫である豚鞭虫の虫卵を懸濁した、保存可能な懸濁液の使用。
【請求項12】
腸管の炎症性疾患がクローン病であることを特徴とする、請求項11に記載の使用。

【公表番号】特表2010−523506(P2010−523506A)
【公表日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−501415(P2010−501415)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【国際出願番号】PCT/EP2008/002542
【国際公開番号】WO2008/119534
【国際公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【出願人】(509274005)ドクトル ファルク ファルマ ゲーエムベーハー (4)
【Fターム(参考)】