説明

保温性布帛および繊維製品

【課題】優れた保温性だけでなく優れた制電性をも有する保温性布帛および該保温性布帛を用いてなる繊維製品を提供すること。
【解決手段】基布の少なくとも片面上に、アルミニウムなどの金属系微粒子を含む樹脂を付着させて保温性布帛を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた保温性だけでなく優れた制電性をも有する保温性布帛および該保温性布帛を用いてなる繊維製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、布帛の保温性を高めるために、布帛の厚さを厚くする、布帛の組織密度を上げるといった方法が一般に行われてきた。また、最近では、赤外線吸収剤を含む樹脂層を布帛に積層した保温性布帛が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
しかしながら、これらの布帛では保温性には優れるものの、制電性の点でまだ十分ではないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−96663号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は優れた保温性だけでなく優れた制電性をも有する保温性布帛および該保温性布帛を用いてなる繊維製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、基布の少なくとも片面上に金属系微粒子を含む樹脂層を形成することにより、人体からの熱線を前記金属系微粒子が反射することにより優れた保温性が得られ、また同時に静電気の発生が抑制されることを見出し、さらに鋭意検討を重ねることにより本発明を完成するに至った。
【0006】
かくして、本発明によれば「基布の少なくとも片面上に、金属系微粒子を含む樹脂が付着してなることを特徴とする保温性布帛。」が提供される。
その際、前記金属系微粒子がアルミニウムであることが好ましい。また、前記樹脂が、樹脂が部分的に付着するパターンで基布に付着していることが好ましい。また、前記樹脂に赤外線吸収剤が含まれることが好ましい。また、前記基布に、単糸繊維繊度が1.0dtex以下であり、かつフィラメント数が60本以上のマルチフィラメントが含まれることが好ましい。また、前記基布に撥水加工および/またはカレンダー加工が施されていることが好ましい。
【0007】
本発明の保温性布帛において、摩擦耐電圧が3500V以下であることが好ましい。また、通気度が0.2〜10.0cc/cm・secの範囲内であることが好ましい。
また、本発明によれば、前記の保温性布帛を用いてなる、スポーツウエア、アウトドアウエア、レインコート、紳士衣服、婦人衣服、作業衣、防護服、人工皮革、履物、鞄、カーテン、テント、寝袋、防水シート、およびカーシートの群より選ばれるいずれかの繊維製品が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、優れた保温性だけでなく優れた制電性をも有する保温性布帛および該保温性布帛を用いてなる繊維製品が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の保温性布帛において、基布を構成する繊維は特に限定されず、ポリエステル繊維、アセテート繊維、ポリアミド繊維、アラミド繊維、炭素繊維、綿や羊毛などの天然繊維などいずれでもよい。なかでも、ポリエチレンテレフタレートやポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ステレオコンプレックスポリ乳酸、第3成分を共重合させたポリエステルなどからなるポリエステル繊維がリサイクル性の点で好ましい。なお、かかるポリエステルとしては、マテリアルリサイクルまたはケミカルリサイクルされたポリエステルや、バイオマスすなわち生物由来の物質を原材料として得られたモノマー成分を使用してなるポリエチレンテレフタレートであってもよい。さらには、特開2004−270097号公報や特開2004−211268号公報に記載されているような、特定のリン化合物およびチタン化合物を含む触媒を用いて得られたポリエステルでもよい。該ポリマー中には、本発明の目的を損なわない範囲内で必要に応じて、微細孔形成剤、カチオン染料可染剤、着色防止剤、熱安定剤、蛍光増白剤、艶消し剤、着色剤、吸湿剤、無機微粒子が1種または2種以上含まれていてもよい。
【0010】
前記繊維の形態としては、短繊維でもよいし長繊維(マルチフィラメント)でもよいが、優れた保温性を得る上で長繊維(マルチフィラメント)が好ましい。特に、前記繊維が、単糸繊維繊度が1.0dtex以下(より好ましくは0.0001〜0.9dtex)であり、フィラメント数が60本以上(より好ましくは60〜200本)、総繊度が30〜200dtex(より好ましくは30〜100dtex)のマルチフィラメントであると、優れた保温性が得られ好ましい。単糸繊維径が1μm以下の、ナノファイバーと称される超極細繊維であってもよい。
【0011】
なお、前記繊維が、通常の仮撚捲縮加工が施された仮撚捲縮加工糸、空気加工糸、2種以上の構成糸条を空気混繊加工や複合仮撚加工させた複合糸であってもよい。単繊維の断面形状も特に限定されず、丸、三角、扁平、くびれ付き扁平、中空など公知の断面形状でよい。
【0012】
前記基布の布帛組織は特に限定されず織物、編物、不織布などいずれでもよい。特に蓄熱性を高める上で、前記基布が、編密度が30〜150コース/2.54cmかつ20〜130ウエール/2.54cmの編物であるか、下記式により定義されるカバーファクターCFが300〜3500(より好ましくは300〜1000)の織物であることが好ましい。
CF=(DWp/1.1)1/2×MWp+(DWf/1.1)1/2×MWf
[DWpは経糸総繊度(dtex)、MWpは経糸織密度(本/2.54cm)、DWfは緯糸総繊度(dtex)、MWfは緯糸織密度(本/2.54cm)である。]
【0013】
ここで、織物組織および編物組織としては特に限定されないが、よこ編組織としては、平編、ゴム編、両面編、パール編、タック編、浮き編、片畔編、レース編、添え毛編等が例示され、たて編組織としては、シングルデンビー編、シングルアトラス編、ダブルコード編、ハーフ編、ハーフベース編、サテン編、ハーフトリコット編、裏毛編、ジャガード編等などが例示され、織物組織としては、平織、綾織、朱子織等の三原組織、変化組織、たて二重織、よこ二重織等の片二重組織、たてビロードなどが例示されるがこれらに限定されない。層数も単層でもよいし、2層以上の多層でもよい。なお、これらの織物や編物は常法により製造することができる。
【0014】
また、前記基布には、通常の染色加工、減量加工、起毛加工、撥水加工、カレンダー加工、エンボス加工、蓄熱加工、吸汗加工などの後加工を適宜施しても良い。なかでも、優れた蓄熱性を得る上で撥水加工および/またはカレンダー加工を施すことが好ましい。
【0015】
前記基布の目付としては、30〜900gr/m(より好ましくは30〜90gr/m)の範囲内であることが好ましい。該目付が30gr/mよりも小さいと保温性が損われるおそれがある。逆に、該目付が900gr/mよりも大きいと軽量性が損われるおそれがある。
【0016】
本発明の保温性布帛において、前記基布の少なくとも片面(好ましくは片面のみ)上に、金属系微粒子を含む樹脂が付着している。
前記金属系微粒子としては、平均1次粒子径(BET法により測定される球相当径)が1〜50μmの金属系微粒子であれば特に限定されないが、人体からの熱線を効果的に反射し、また同時に静電気の発生を効果的に抑制する上でアルミニウムからなる金属系微粒子が好ましい。
【0017】
また、前記樹脂に含まれる金属系微粒子の含有量としては、樹脂重量対比(固形分比)0.5重量%以上(より好ましくは0.5〜30重量%)であることが好ましい。金属系微粒子の含有量が0.5重量%未満の場合、十分な保温性が得られないおそれがある。
【0018】
ここで、前記樹脂に赤外線吸収剤を樹脂重量対比(固形分比)0.5重量%以上(より好ましくは0.5〜30重量%)含ませることも好ましい。かかる赤外線吸収剤としては、波長700〜2000nmの赤外線領域で10%以上の吸収率を有する物質であれば特に限定されず、金属酸化物系微粒子、カーボンブラック、有機化合物の赤外線吸収色素などが例示される。特に、優れた赤外線吸収性能を得る上で、また、優れた意匠性を得る上でカーボンブラックが好ましい。
【0019】
また、前記樹脂層に、シリカ粒子、酸化チタン粒子などの無機微粒子を含ませてもよい。特に、平均1次粒子径(BET法により測定される球相当径)が1〜50μmのシリカ粒子を、樹脂層の樹脂重量対比(固形分比)1.0重量%以上(より好ましくは1.0〜10.0重量%)含ませると、樹脂層に露出(突起)した前記無機微粒子により人体(肌)と布帛との接触面積が小さくなり摩擦係数が小さくなり、さらに優れた肌触りが得られ好ましい。
【0020】
前記樹脂層を形成する樹脂の種類としては、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、塩化ビニル樹脂、ナイロン樹脂など公知のバインダー樹脂でよい。また、樹脂の基布に対する付着量は、樹脂固形分基準で基布に対して0.01〜40g/m(より好ましくは5〜30g/m)の範囲内であることが好ましい。
【0021】
かかる樹脂層は基布全面に付着していてもよいが、特開2003−96663号公報に記載されているように、格子状、飛島状、市松格子状、縞上など、基布の少なくとも片面(好ましくは片面のみ)上に部分的に付着していると、樹脂層が積層されていない個所の通気性が高まるので、ムレ感を低減することができ好ましい。その際、保温性布帛の通気性としては0.2cc/cm・sec以上(好ましくは0.2〜10.0cc/cm・sec、特に好ましくは0.2〜3.0cc/cm・sec)であることが好ましい。
【0022】
本発明の保温性布帛は例えば以下の製造方法により製造することができる。すなわち、前記の基布に、金属系微粒子と、必要に応じて金属系微粒子以外の赤外線吸収剤などの無機微粒子とを含む樹脂配合組成物(樹脂層)を付与する。
【0023】
かかる配合組成物は水系、溶剤系のいずれで構成してもよいが、加工工程の作業環境上水系の方が好ましい。溶剤としては、トルエン、イソプロピルアルコール、ジメチルホルムアミド、メチルエチルケトン、酢酸エチルなどが例示される。この配合組成物には、エポキシ系などの架橋剤を併用してもよい。さらに、基布本体に対する付着性を向上させる等の目的で適当な添加剤をさらに配合してもよい。
【0024】
基布への配合組成物の付与手段としては、グラビヤコーテイング法、スクリーンプリント法などの、公知の付与手段を用いることができる。
その際、前記配合組成物を基布の少なくとも片面の全面に付与してもよい(すなわち、基布の少なくとも片面の全面に樹脂層を形成してもよい)が、格子パターン、飛島パターン、縞パターン、水玉パターンなどの樹脂が部分的に付着するパターンで付与すると、布帛の通気性が損なわれず好ましい。
【0025】
かくして得られた保温性布帛において、基布の少なくとも片面上に形成された樹脂層に含まれる金属系微粒子により人体からの熱線が反射されるので優れた保温性が得られ、また同時に前記金属系微粒子により静電気の発生が抑制されるので優れた制電性が得られる。その際、布帛の摩擦耐電圧としては3500V以下(より好ましくは3000V以下、特に好ましくは500〜2900V)であることが好ましい。また、樹脂層が部分的に積層している場合は優れた通気性を有する。
【0026】
次に、本発明の繊維製品は、前記の保温性布帛を用いてなる、スポーツウエア、アウトドアウエア、レインコート、紳士衣服、婦人衣服、作業衣、防護服、人工皮革、履物、鞄、カーテン、テント、寝袋、防水シート、およびカーシートの群より選ばれるいずれかの繊維製品である。その際、金属系微粒子を含む樹脂層が人体側に位置するよう、前記の保温性布帛を用いることが好ましい。
【0027】
かかる繊維製品は前記の保温性布帛を用いているので、優れた保温性だけでなく優れた制電性をも有し、冬場や極寒作業室など寒くかつ静電気が発生しやすい環境下で好適に使用される。
【実施例】
【0028】
本発明の実施例および比較例を詳述するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
<目付>
JISL1096 6.4により測定した。
<保温性>
23℃、45%RHの環境下で、発泡スチロール製試料台の上に試料を設置し、該試料と試料台との間に熱電対温度センサーを挿入した。
次いで、試料表面(基布表面)の上方30cmの距離から試料表面を、Panasonic社製写真用ランプ「PRF−500WB」で10分間照射し、前記熱電対温度センサーで温度を測定した。
<赤外線反射性>
人体からの熱線反射性の代用特性として、(社)遠赤外線協会の認定規則である45度パラレル再放射法(財団法人 日本紡績検査協会(略称/ボーケン))により、赤外線をサンプルに2分放射しサーモグラフィ撮影を行うことにより、目視判定で比較品との明確な色の差(温度差0.5℃以上)がある場合、反射性が良好であると評価した。
<通気性>
JIS L1096 6.27.1 A法(フラジール法)により通気性(cc/cm・sec)を測定した。
<織物のカバーファクターCF>
下記式により、織物のカバーファクターCFを算出した。
CF=(DWp/1.1)1/2×MWp+(DWf/1.1)1/2×MWf
[DWpは経糸総繊度(dtex)、MWpは経糸織密度(本/2.54cm)、DWfは緯糸総繊度(dtex)、MWfは緯糸織密度(本/2.54cm)である。]
<肌触り>
試験者3人が、布帛の樹脂層が形成された面の肌触りを官能評価し、下記の3段階に評価した。
「肌触りが優れている。」:布帛表面が平坦であり、肌触りが優れている。
「普通」:普通である。
「肌触りが悪い。」:布帛表面が平坦でなく、肌触りが悪い。
<摩擦帯電圧>
JIS L1096により摩擦帯電圧(V)を測定した。
【0029】
[実施例1]
ポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント仮撚捲縮加工糸56dtex/72fil(単糸繊維繊度0.8dtex)を経糸および緯糸に用いて公知の平組織の生機を織成した後、撥水加工剤を含む通常の染色工程にて分散染料により青色に染色した後、カレンダー加工を施すことにより、基布(目付78gr/m、カバーファクターCF1830)を得た。
次いで、カーボンブラック(平均1次粒子径0.1μm)を固形分比で5重量%、アルミニウム粒子(平均1次粒子径10μm)を固形分比で20重量%含有するウレタン系樹脂を、通常のグラビアプリントロール機を使用して、前記基布のカレンダー加工を施された面に、格子状にプリントすることにより樹脂層を積層し、保温性布帛を得た。
得られた布帛は、保温性評価で下記の比較例1で得られたものより4.9℃高く、保温性に優れたものであり、また、下記の比較例1で得られたものより赤外線反射性も良好であった。また、通気性は1.7cc/cm・secであった。また、摩擦帯電圧は2800Vであった。また、肌触りが優れていた。
次いで、該布帛を、樹脂層が人体側に位置するように用いてTシャツ(スポーツウエア)を得て使用したところ、保温性および制電性に優れ、また、ムレ感もなく、さらには、肌触りもよく着用快適性に優れるものであった。
【0030】
[比較例1]
実施例1において、樹脂層を積層しないこと以外は実施例1と同様にした。
【0031】
[比較例2]
実施例1において、アルミニウム粒子を含有しないこと以外は実施例1と同様にした。
得られた布帛は、保温性評価で比較例1で得られたものより4.2℃高く保温性に優れるが、赤外線反射性はないものであった。また、摩擦帯電圧は5500Vと制電性に劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明によれば、優れた保温性だけでなく優れた制電性をも有する保温性布帛および該保温性布帛を用いてなる繊維製品が提供され、その工業的価値は極めて大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基布の少なくとも片面上に、金属系微粒子を含む樹脂が付着してなることを特徴とする保温性布帛。
【請求項2】
前記金属系微粒子がアルミニウムである、請求項1に記載の保温性布帛。
【請求項3】
前記樹脂が、樹脂が部分的に付着するパターンで基布に付着している、請求項1または請求項2に記載の保温性布帛。
【請求項4】
前記樹脂に赤外線吸収剤が含まれる、請求項1〜3のいずれかに記載の保温性布帛。
【請求項5】
前記基布に、単糸繊維繊度が1.0dtex以下であり、かつフィラメント数が60本以上のマルチフィラメントが含まれる、請求項1〜4のいずれかに記載の保温性布帛。
【請求項6】
前記基布に撥水加工および/またはカレンダー加工が施されてなる、請求項1〜5のいずれかに記載の保温性布帛。
【請求項7】
摩擦耐電圧が3500V以下である、請求項1〜6のいずれかに記載の保温性布帛。
【請求項8】
通気度が0.2〜10.0cc/cm・secの範囲内である、請求項1〜7のいずれかに記載の保温性布帛。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の保温性布帛を用いてなる、スポーツウエア、アウトドアウエア、レインコート、紳士衣服、婦人衣服、作業衣、防護服、人工皮革、履物、鞄、カーテン、テント、寝袋、防水シート、およびカーシートの群より選ばれるいずれかの繊維製品。

【公開番号】特開2012−153995(P2012−153995A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−13045(P2011−13045)
【出願日】平成23年1月25日(2011.1.25)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】