説明

保護部材及び植生部材

【課題】植生植物を保護するための植生保護空間を形成する保護部材、及び、その保護部材を用いた植生部材を提供すること。
【解決手段】植生植物Pを保護するための植生保護空間Rを形成するための植生部材100は、植物Pの植生を行う植生帯10と、植生帯10上に植生保護空間Rを形成する保護部材20とからなっている。保護部材20は、前記植生帯10上に設置される少なくとも2つの保護パネル21とからなり、植生帯10と保護パネル21との間に植生保護空間Rを区画形成することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植生植物の植生を保護する空間を形成するための保護部材及び当該保護部材を使用した植生部材に関する。
【背景技術】
【0002】
自然破壊防止や景観保持のため、法面や平地などの植生領域に植物を植生するには、植物を植生するための植生帯を植生領域に設置するのが一般的である。しかし、植生帯の設置場所が山奥深く入った道路の法面等であって、鹿などの野生動物が出没する地帯では、植生帯に植生された植物が野生動物に食い荒らされるといった食害被害が頻繁に起こっている。つまり、野生動物が植生領域に侵入して、生え揃ってきた植生植物の芽を食い荒らしたり、踏みつけることによって、植生植物が枯れたり、成長不良を起こしたりして、植生領域に十分な植生を行えなくなってしまうという問題があった。
【0003】
従来、このような野生動物による食害を防止するために、野生動物に対して忌避材を使用する方法が提案されていた。例えば、特許文献1では、植生基材又は植生基材を収容した植生袋に忌避機能を有するように構成している。しかし、忌避材が風雨により流亡してしまったり、植生植物自体によって無力化されてしまったりする可能性が非常に高いので、この忌避機能を長期に亘って維持することは困難であると思われる。
【0004】
これに対して、特許文献2には、草食動物による食害防止装置Aが開示されている。本願に添付の図9に示すとおり、食害防止装置Aは、食害防止植生材保護エリア1を網状体2によって覆い、この網状体2は、スペーサ3を介して保護エリア1から浮かせた状態で配置されている。即ち、網状体2で植生植物を覆うことによって、鹿などの野生動物が植物を網状体2の上から食べることを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−20459号公報
【特許文献2】特開2004−73192号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2の食害防止装置で植生領域を形成するには、まず、植生領域に植生帯を設置した後に当該植生帯上にスペーサを設置し、且つ、設置されたスペーサの上に網状体を張らなくてはならなかった。即ち、食害を保護しつつ植生領域を形成するための施工は、3工程をも必要とする複雑な作業であり、作業時間がかかることが問題であった。
【0007】
本発明は、上記欠点を解決するためになされたものであり、その目的は、植生植物を保護するための植生保護空間を形成するために、植生領域(又は植生帯)に容易に設置可能な保護部材、及び、前記保護部材により保護された植生領域を容易に形成可能な植生部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の保護部材は、植生帯上に植生保護空間を形成するための保護部材であって、前記植生帯上に設置される少なくとも2つの保護パネルを組み合わせてなり、前記少なくとも2つの保護パネルと前記植生帯との間に前記植生保護空間を区画形成可能であることを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の保護部材は、請求項1に記載の保護部材において、前記少なくとも2つの保護パネルのうち一方の保護パネルと他方の保護パネルとは回動可能に連結されており、この連結部を軸として前記保護パネルを回動させることにより、前記保護パネル同士が互いに重なるように折り畳み可能であることを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の保護部材は、請求項2に記載の保護部材において、当該保護部材と別の保護部材とを回動可能に連結するための連結手段をさらに備えていることを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載の植生部材は、植生を行う植生帯と、請求項1から3のいずれかに記載の保護部材を備えてなることを特徴とする。
【0012】
請求項5に記載の植生部材は、植生を行う植生帯と、請求項2又は3に記載の保護部材とを備えてなり、この保護部材は、前記植生帯上に複数取り付けられており、これら保護部材をそれぞれ折り畳んだとき、隣り合う保護部材が互いに重なり合うように折り畳み可能であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載の発明によれば、保護部材は、少なくとも2つの保護パネルを組み合わせてなり、保護パネルが植生帯上に設置されることで、2つの保護パネルと植生帯との間に植生保護空間が形成可能である。即ち、植生保護空間内にある植物又は植物の一部を、野生動物による食害又は踏み付け等による損傷から保護することができる。さらに、各保護パネルの一辺を植生帯に取り付けるだけで、保護部材を植生帯に取り付けることができるので、植生保護空間を植生帯上に簡単且つ迅速に形成することが可能である。即ち、施工における作業性を改善する。
【0014】
請求項2に記載の発明によれば、一方の保護パネルが他方の保護パネルに対して回動可能に連結されていることにより、一方の保護パネルと他方の保護パネルとがなす角度を調整することで、保護部材によって形成される植生保護空間の高さを任意に変更することが可能である。また、保護パネルを回動させて、保護パネル同士が互いに重なるように折り畳むことで、出荷、輸送又は保管などの状況に応じて、保護部材をコンパクトな折り畳み形態に変形させることができる。
【0015】
請求項3に記載の発明によれば、保護部材同士が回動可能に連結するための連結手段を備えていることによって、複数の保護部材が連なる連結体を構成することができる。この連結体は、隣接する折り畳み形態の保護部材同士を回動させて折り畳むことで、全体としてコンパクトな形態に変形可能である。そして、このコンパクトな形態から複数の保護部材を植生帯上に設置するときには、連結体の一端側を植生帯に固定した上で連結体を他端側に引っ張って展開することにより、複数の保護部材を植生帯上の所定の設置位置に一度に配置することができる。従って、複数の保護部材を植生帯上に容易且つ迅速に設置することができる。
【0016】
請求項4に記載の発明によれば、請求項1から3のいずれかの保護部材の効果を植生部材として発揮することができる。従って、植生帯に植生された植生植物を、野生動物による食害又は踏み付け等による損傷から保護することができる。また、植生帯及び保護部材を植生領域に同時に設置することができる。即ち、請求項3に係る植生部材では、植生帯を植生領域に展開するという1工程のみを実施すれば、植生領域への植生と、植生植物の保護の両方を行うことができる。従って、本発明は植生領域への植生とその保護を容易且つ迅速に行うことを可能にする。
【0017】
請求項5に記載の発明によれば、請求項2又は3の保護部材の効果に加えて、植生部材自体が折り畳み可能であるので、出荷、輸送又は保管などの状況に応じて、植生部材をコンパクトな折り畳み形態に変形させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態の植生部材が植生領域に設置されている状態を示す全体斜視図。
【図2】図1の植生部材の保護部材を示し、(a)はその全体斜視図、(b)はその平面図、(c)はその正面図、(d)は折り畳み形態の正面図。
【図3】図1の植生部材の部分拡大正面図であって、(a)は保護部材が角度α1で植生帯上に設置されている状態、(b)は保護部材が角度α2で植生帯上に設置されている状態。
【図4】図1の植生部材の概略正面図を示し、(a)は部分的に折り畳まれた形態、(b)は完全な折り畳み形態、(c)は別の部分的に折り畳まれた形態。
【図5】(a)は本発明の一実施例における保護部材の側面図であり、(b)は(a)の保護部材を備える植生部材の側面図。
【図6】本発明の一実施例における保護部材の全体斜視図。
【図7】本発明の一実施例における保護部材の全体斜視図。
【図8】(a)は、本発明の一実施例における保護部材の全体斜視図であり、(b)は当該保護部材の折り畳み形態を示す正面図。
【図9】先行技術の食害防止装置を示し、(a)はその部分斜視図、(b)はその縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の説明において参照する各図の形状は、好適な形状寸法を説明する上での概念図又は概略図であり、寸法比率等は実際の寸法比率とは必ずしも一致しない。つまり、本発明は、図面における寸法比率に限定されるものではない。
【0020】
(実施例1)
図1は、本発明の一実施形態の植生部材100が植生領域Qに設置されている状態を示しており、複数の植生部材100(100−1、100−2、100−3)が、例えば道路などの法面Qに略平行に並んで設置されている。植生部材100は、植生植物Pが植生された長手状の植生帯10と、植生帯10上に連結(固定)された複数の保護部材20とを備える。各保護部材20同士は連結手段201で回動可能に連結されており、全体として連結体200を構成している。なお、各保護部材20の底辺と植生帯10の表面とは、リング、針金、アンカー又は接着剤などの固定手段(図示せず)で固定されている。
【0021】
図1に示すとおり、植生帯10と保護部材20とで略三角形状の開口101が形成され、当該開口101が植生帯10の幅方向両側に開口するような態様で、複数の保護部材20が近接して植生帯10上に設置されている。なお、当該開口101の内部が植生植物Pを保護するための植生保護空間Rに該当する。
【0022】
本発明はこの実施形態に限定されない。例えば、開口101が植生帯10の長手方向両側に開口するような態様で、保護部材20を植生帯10上に設置することも可能である。また、各保護部材20間の距離を離して設置することも可能である。さらに、図1では、植生部材100が、斜面の接線(斜面の傾きに沿った傾斜線)と略直交するように植生領域Qに設置されているが、斜面の接線に沿って植生領域Qに設置することも可能である。即ち、保護部材を植生帯上に任意に設置するとともに、植生部材を植生領域に任意に設置することが可能である。
【0023】
そして、図1に示すように、野生動物が出没する地帯では、鹿Dのような野生動物が植生帯10に植生された植物Pを食べるために、植生部材100に対して近寄ってくる。なお、植生帯10については一般的なものが採用でき、肥料や植生植物の種子を含んだものであってもよい。また、野生動物は鹿Dに限定されず、猪、猿など草食又は雑食動物が含まれる。
【0024】
図2(a)〜(c)に示すとおり、保護部材20は、平面視略矩形状及び正面視略逆V字形状であり、矩形平板状のほぼ同一形状を有する第1保護パネル21aと第2保護パネル21bとからなる。当該保護部材20は、ヒンジ状又は蝶番状の連結部22を介して2つの保護パネル21a及び21b(以下、第1保護パネル21a、第2保護パネル21bと示す)を連結することによって構成されている。
【0025】
図2(b)に示すとおり、各保護パネル21a、21bは、それぞれ4つの辺23a、23bを有する矩形平板状のパネルであり、複数の線材24a、24bが対向する2つの辺の間に架設されている。複数の線材24a、24bは所定間隔dで略平行に並設されており、この間隔dは、鹿などの野生動物の身体の一部(例えば、口先、頭部、脚部など)が通過して植生植物に当接できないように十分狭く設定されている。また、当該線材24a、24bはその上に野生動物が乗ってもその動物の重さによって撓まない程度の剛性を有する部材(本実施例では鋼材)からなる。このように複数の線材24からなる保護パネル21a、21bは、「柵状枠体」の形状をなしている。
【0026】
図2(c)に示すとおり、第1保護パネル21aと第2保護パネル21bとで角度αをなし、その下端側が開放されている。そして、開放端(植生帯10が配置される面)から高さHを有する。角度αは可変であり、角度αの変化に伴い高さHも変化しうる。後述するように、開放端と保護パネル21a、21bとの間に植生保護空間Rを形成し、高さHが植生保護空間Rの高さに対応する。
【0027】
そして、連結部22において、第1保護パネル21aの線材24aの先端にリング状の複数の連結リング22aが形成されており、当該複数の連結リング22a内を第2保護パネル21bの一辺23bが貫通することによって、第1保護パネル21aと第2保護パネル21bとが連結部22を軸として回動可能に連結されている。さらに、保護部材20の第2保護パネル21b側の端部から、連結手段201を構成するリング状(又はフック状)の突出部26が突出している。後述するように、当該突出部26が他の保護部材20の第1保護パネル21a側の端部の辺23aと回動可能に連結されることにより、保護部材20同士を連結する。
【0028】
図2(d)に示すとおり、第1保護パネル21aと第2保護パネル21bの両方又はいずれか一方を他方の保護パネル21に対して近づけるように回動させることで、第1保護パネル21aと第2保護パネル21bとが重なり合って、保護部材20はコンパクトな平板状に折り畳まれる。
【0029】
なお、本実施形態では、保護部材20の線材24a、24bは、剛性を有する直線状の鋼材からなるが、本発明において、材質及び形状はこれに限定されない。例えば、線材をプラスチック又は合成樹脂の材料とすることができる。または、剛性を有さない材料で構成することも可能である。
【0030】
図3(a)(b)は、植生植物Pが植生されている植生部材100の部分拡大正面図である。隣接する保護部材20同士は、連結手段201を介して互いに回動可能に連結されている。なお、本実施形態では、連結手段201は、連結部22と同様のヒンジ構造又は蝶番構造を有するが、回動可能に連結可能であればこれに限定されない。そして、保護部材20の各保護パネル21a、21bの下端に位置する辺23a、23bがそれぞれ植生帯10の表面にアンカー(図示せず)によって固定されている。それによって、保護部材20によって植生帯10上に植生保護空間Rを形成している。野生動物はその口先、頭部、脚部などを保護部材20内に通過させることはできないので、植生保護空間R内にある植生植物Pを保護することができる。
【0031】
図3(a)では、保護部材20は角度α1を有し、第1保護パネル21aと第2保護パネル21bとで植生帯10上に高さH1、幅W1を有する植生保護空間Rを形成している。即ち、H1までの高さの植物Pを食害から保護することができる。
【0032】
他方、図3(b)では、保護パネル21a、21b間の角度をα1よりも小さいα2となるように、保護部材20が植生帯10に設置されている。保護部材20は、高さH2(>H1)及び幅W2(<W1)を有し、高さH1よりも高い植物を保護することができる。このとき、W2<W1なので、より多くの保護部材20が植生帯10に設置される。従って、使用者は、植生すべき植物Pの種類等に応じて、保護パネル21間の角度αを調整することで、植生保護空間Rの高さHを変更することができる。なお、植生保護空間Rの高さH=保護パネルの辺L×sin((180°−α)/2)で表される。
【0033】
なお、図3(a)及び(b)に示すとおり、植生植物Pの先端は、保護パネル21の線材24の隙間からはみ出しており、野生動物は植生植物Pの先端部を食べたり踏みつけたりすることが可能である。しかしながら、植生植物Pは、その根元又は根が損傷されずに残っていれば再生可能であり、該植生植物Pの根元又は根は保護部材20で構成される植生保護空間R内に位置している。つまり、野生動物が植生植物Pの先端部を食べたとしても植生植物Pへの影響は少ない。従って、図3(a)及び(b)に示す植生部材100において、保護部材20は食害によって植生植物Pが枯れることから植生植物Pを保護している。
【0034】
図4(a)は、図1の複数の保護部材20が設置された植生部材100が部分的に折り畳まれた形態を示し、図4(b)は完全に折り畳まれた形態の植生部材100を示している。植生帯10は表面10a及び裏面10bを有しており、複数の保護部材20が植生帯10の表面10aに固定されている。
【0035】
図4(a)に示すとおり、各保護部材20の第1保護パネル21a及び第2保護パネル21bを矢印Xの方向に回動させると、それに伴い植生部材10が下方(又は上方(図4(c)参照))に撓み変形する。そして、連結体200の連結手段201を軸として保護部材20同士を折り畳み方向(矢印Y)に回動させると、図4(b)に示すとおり、隣接する保護部材20が重なり合い、且つ、植生帯10も同様に折り畳まれて、植生部材100全体がコンパクトな折り畳み形態に変形する。なお、図4(c)に示すとおり、植生帯10を上方にも折り畳むことができ、輸送又は保管等の状況に応じて任意に折り畳み形態を選択することができる。
【0036】
そして、図4(b)の折り畳み形態から、植生部材100を植生領域Qに設置するには、植生部材100の一端(左端又は右端)の保護部材20を開方向に展開し、当該植生部材100の一端を植生領域Qにアンカーなどで固定した上で、植生部材100を長手方向の他端側に引っ張っていくと、植生部材100は平面状に展開され、図1のように植生部材100を植生領域Q上に設置することができる。なお、植生部材100の出荷時に折り畳み形態とることが多く、植生帯100には未発芽の種Sが埋め込まれている。
【0037】
なお、本発明は上述の実施形態に限定されず、保護部材同士が連結手段で連結されていなくても、保護部材と保護部材との間で植生帯を折曲することによって、図4(a)〜(c)のように植生部材を折り畳み形態に変形させることが可能である。
【0038】
以下、本発明の一実施形態の保護部材20及び(該保護部材20を備える)植生部材100の作用効果について説明する。
【0039】
本実施形態の保護部材20を植生植物Pが植生される植生帯10に設置することで、保護パネル21a及び21bの各線材24a及び24bの間隔dが鹿Dなどの野生動物の身体の一部が入らないように十分小さく設定されているので、野生動物は植生保護空間R内の植生植物Pに接触することができず、野生動物による食害を防ぐことができる。また、保護部材20は第1保護パネル21aと第2保護パネル21bとからなるので、各保護パネル21a、21bの開放端側の一辺23a、23bを植生帯10にアンカー等で取り付ける工程だけで、保護部材20を植生帯10上に設置することができる。従って、複数の保護部材20を植生帯10上に容易且つ迅速に設置することができる。
【0040】
本実施形態の保護部材20では、連結部22を軸として保護パネル21a、21bを回動させて折り畳むことができるので、出荷、輸送又は保管などの状況に応じて、保護部材20をコンパクトな折り畳み形態に変形させることができる。また、保護部材20を植生帯10上に設置するときに、保護パネル21aと保護パネル21bとの角度αを調整することで、植生保護空間Rの高さHを調整することができる。即ち、植生植物の種類又は植生に必要な高さに応じて、植生保護空間Rの高さHを簡単に変更することができる。さらに、保護部材20を植生帯10に複数近接して並べた場合に、角度αを鋭角にすればするほど野生動物が乗るための足場がなくなっていき、野生動物を植生領域内に侵入することを防止するという効果を奏することも考えられる。
【0041】
本実施形態の保護部材20において、両保護パネル21a、21bを連結するための連結部22(連結リング22a及び辺23b)が保護パネル21a、21bに一体的に形成されている。即ち、保護部材20を構成する部材は、第1保護パネル21a及び第2保護パネル21bのみであり、保護部材20は非常に簡易な構造を有し、従来のものよりも容易に且つ低コストで製造可能である。
【0042】
特許文献2のような従来の食害防止装置では、鹿などの野生動物が植生領域に侵入して食害防止装置の網状体の上に乗ると、野生動物の重みによって網状体が撓むことが考えられる。この網状体の撓み部分から外に出た植生植物の一部が野生動物によって食べられてしまう虞がある。さらに、網状体が撓んで、網状体と植生植物とが当接することよって、植物の幹をへし折ったり、芽がちぎれたりして、植生植物に損傷を与える虞がある。これに対して、本実施形態の保護部材20では、線材24a、24bが剛性を有していることにより、保護パネル21a、21bは保護部材20上に乗った鹿Dの重みで撓み変形しないように構成されている。つまり、植生植物P1が線材24a、24bの撓みによって部分的に保護パネル21a、21b上に露出されて食べられてしまうことを防ぎ、且つ、撓んだ線材24a、24bが植生植物に当接して損傷させることを防ぐことができる。
【0043】
また、本実施形態の保護部材20において、各保護部材20同士が連結手段201で回動可能に連結され、連結体200を構成していることで、保護パネル21a、21bを重ね合わせた状態の隣接する保護部材20同士を回動させて、連結体200自体をコンパクトな折り畳み形態に変形させることができる。従って、複数の保護部材20を連結体200としてコンパクトな形態で出荷、輸送又は保管等することができる。また、複数の保護部材20を植生帯10上に設置する場合には、一端側の保護部材20を植生帯10上に固定した上で連結体200を他端側に展開すると、各保護部材20を植生帯10上の所定の設置位置に一度に配置することができる。従って、植生帯10への複数の保護部材20の設置を容易且つ迅速に行うことができる。
【0044】
本実施形態の植生部材100は、保護部材20によって、植生帯10に植生された植生植物Pを野生動物による食害や踏み付け等から保護することができる。特に、若芽や種子から発芽したばかりの植生植物Pは、外部からの影響に弱く、食害などにより損傷を受けたら容易に枯れてしまうが、本実施形態の植生部材100では、種子や若芽の状態の植生植物Pを野生動物から保護部材20で保護しつつ、種子から植生保護空間Rの高さH付近にまで安全に成長させることができる。
【0045】
また、本実施形態の植生部材100では、植生帯10に複数の保護部材20が固定されており、植生帯10及び複数の保護部材20を同時に植生領域Qに設置することができるので、植生領域Qを植生するための施工を容易且つ迅速に行うことができる。特に植生領域Qが急な斜面を有する法面である場合には、先行技術(特許文献2)のように植生帯を法面に配置した後にアンカー等で食害防止装置を植生帯上に複数固定する作業は、危険性を伴う困難なものであり、なお且つ、非常に時間及びコストがかかるものである。これに対して、本実施形態の植生部材100では、植生部材100の植生帯10を法面に設置するだけで、植生帯10と同時に複数の保護部材20をも植生領域Qに設置可能である。即ち、設置作業が困難な状況においても、施工の容易化及び迅速化を実現する。
【0046】
さらに、図4で説明したとおり、本実施形態の植生部材100は、折り畳み形態から平面状の展開形態に相互に変形可能である。つまり、必要に応じて、植生部材100を輸送及び収納に有利なコンパクトな形態に変形させることができる。そして、図1のように植生領域Qに植生部材100を設置する際には、折り畳み形態から展開形態に簡単且つ迅速に変形可能であり、植生部材100を植生領域Qに容易且つ迅速に設置することができる。特に、急な傾斜を有する法面に植生するときには、折り畳み形態において、植生部材100の一端側を法面の高所に固定して、植生部材100の他端側を低所側へと引っ張るように展開すると、法面の高所から低所にかけて植生部材100で植生領域Qを簡単に覆うことができる。
【0047】
なお、本発明は上述の一実施形態に限定されない。以下に本発明の実施例1の構成を一部変更した実施例2〜6を示すが、実施例2〜6は、実施例1と共通する構成において、上述の作用効果を奏するものであることは言うまでもない。
【0048】
(実施例2)
本発明の保護パネルにおいて、実施例1の第1保護パネルと第2保護パネルとはほぼ同一の形状を有しているが、本発明はこれに限定されず、その大きさの比率を任意に設定することが可能である。例えば、実施例2として、図5(a)に保護部材20Aを示す。保護部材20Aは、正面視において、第1保護パネル21aAの辺23aAの方が、第2保護パネル21bAの辺23bAよりも長くなるように構成されている。
【0049】
図5(b)は、傾斜角θを有する法面Qに設置された植生部材100Aを示す。ここで、第1保護パネル21aAと植生帯10Aとの角度をβとする。図5(b)に示すとおり、急な斜面を有する植生領域Qに植生部材100Aを設置すると、斜面の下側に位置する第1保護パネル21aAの上では、法面Qの傾斜面よりもさらに急な傾斜面(傾斜角=θ+β)を形成する。そして、第1保護パネル21aAの辺23aAの方が第2保護パネル21bAの辺23bAよりも長いので、斜面における第1保護パネル21aAにより形成される傾斜面が占める割合が実質的に大きくなる。つまり、法面Qの傾斜角θよりも急な傾斜面を植生保護空間Rの上に形成することができるので、野生動物が植生領域内に侵入する頻度を減少させることができる。
【0050】
(実施例3)
本発明の保護パネルにおいて、実施例1の保護パネル21は矩形平板形状を有しているが、本発明はこれに限定されず、その形状を任意に設定することが可能である。例えば、実施例3として、図6に保護部材20Bを示す。当該保護部材20Bは、上方に膨らむように湾曲した保護パネル21aB、21bBから構成され、これも湾曲した「柵状枠体」の形状をなしている。実施例1の保護部材20と比較すると、折り畳み形態において嵩張るが、正面視における中心(連結部22B)からの左右方向への高さの変化(減少)をより緩やかにすることができ、全体としてより高い植生保護空間を形成することが可能である。
【0051】
(実施例4)
本発明の保護パネルにおいて、実施例1の保護パネル21は剛性の線材24を備えてなるが、本発明はこれに限定されない。例えば、図7に示すとおり、保護部材20Cを保護パネル21aC、21bCが網材24Cからなるように構成することも可能である。つまり、当該保護部材20Cは、「格子状枠体」の形状をなしており、実施例1の保護部材20と共通する構成において、同様の作用効果を奏しつつ本発明の課題を解決するものである。
【0052】
(実施例5)
図8(a)に示すとおり、保護パネル21aD、21bDが複数のパネルに分割されるように保護部材20Dを構成することも可能である。当該保護部材20Dでは、第1保護パネル21aDは、分割体21−1aDと分割体21−2aDと分割体21−3aDとに分割され、各々がヒンジ状又は蝶番状の接続部25−1aD、25−2aDを介して回動可能に接続されている。図8(a)の展開された形態において、これら分割体同士は、クランプなどの固定手段(図示せず)により1平面になるように固定されている。図示のとおり、第2保護パネル21bDも第1保護パネル21aDと同様に構成されている。そして、図8(b)に示すように、両保護パネルの各分割体間の固定を解除し、各分割体同士をその接続部を軸として回動させて重ね合わせるとともに、連結部22Dを軸として各保護パネル同士を重ね合わせることで、保護部材20Dを折り畳み形態に変形させることが可能である。従って、当該保護部材20D又は保護部材20Dを備える植生部材(図示せず)は、出荷、輸送又は保管などの状況に応じて、さらにコンパクトに折り畳み変形可能である。
【0053】
(実施例6)
実施例1〜5において、各保護パネル同士が回動可能に連結されているが、本発明はこれに限定されない。即ち、本発明の保護部材は、保護パネル同士が回動不能に連結固定されていても、植生領域(又は植生帯)に容易且つ迅速に設置し、植生保護空間を形成することが可能であり、本発明の課題を解決することができる。また、保護部材同士が回動可能に連結されていることに本発明は限定されない。例えば、保護部材同士を連結しないで(連結体を構成しないで)、各保護部材を所定間隔で植生帯に設置することも可能である。言うまでもないが、この形態の植生部材(又は保護部材)も植生領域(又は植生帯)に容易且つ迅速に設置して植生保護空間を形成することが可能であり、本発明の課題を解決することができる。
【0054】
なお、本発明は上述した複数の実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的範囲に属する限りにおいて種々の態様で実施しうるものである。
【符号の説明】
【0055】
10 植生帯
20 保護部材
21a 第1保護パネル
21b 第2保護パネル
22 連結部
24a 線材
24b 線材
100 植生部材
200 連結体
201 連結手段
D 鹿(野生動物)
P 植生植物
Q 植生領域
R 植生保護空間
【0056】
[付記]
本願発明に関する好ましい限定を以下に列挙する。
(イ)請求項1〜4における「保護パネル」が柵状又は格子状の枠体として構成されていること。
柵状又は格子状の枠体であることで、必要十分な通風(通気性)及び通光性を確保でき、動物による食害防止と、植物の育成との両立を図ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植生帯上に植生保護空間を形成するための保護部材であって、
前記植生帯上に設置される少なくとも2つの保護パネルを組み合わせてなり、前記少なくとも2つの保護パネルと前記植生帯との間に前記植生保護空間を区画形成可能であることを特徴とする保護部材。
【請求項2】
前記少なくとも2つの保護パネルのうち一方の保護パネルと他方の保護パネルとは回動可能に連結されており、この連結部を軸として前記保護パネルを回動させることにより、前記保護パネル同士が互いに重なるように折り畳み可能であることを特徴とする請求項1に記載の保護部材。
【請求項3】
当該保護部材と別の保護部材とを回動可能に連結するための連結手段をさらに備えていることを特徴とする請求項2に記載の保護部材。
【請求項4】
植生を行う植生帯と、請求項1から3のいずれか一項に記載の保護部材を備えてなることを特徴とする植生部材。
【請求項5】
植生を行う植生帯と、複数の請求項2又は3に記載の保護部材とを備えてなり、この保護部材は、前記植生帯上に取り付けられており、
これら保護部材をそれぞれ折り畳んだとき、隣り合う保護部材が互いに重なり合うように折り畳み可能であることを特徴とする植生部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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