偏光フィルムおよびその製造方法
【課題】 生分解性に優れ、かつ薄型化や透明性、偏光特性に優れた偏光フィルムを提供すること。
【解決手段】 (a)α−1,4−グルカンおよびその修飾物の少なくとも1種、および
(b)二色性物質、を含む偏光層を有する、偏光フィルム。
【解決手段】 (a)α−1,4−グルカンおよびその修飾物の少なくとも1種、および
(b)二色性物質、を含む偏光層を有する、偏光フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物資源由来であって生分解性を有するα−1,4−グルカン類を含む偏光フィルム、ならびにこの偏光フィルムの製造方法、この偏光フィルムを用いた液晶表示装置およびエレクトロルミネッセンス表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
偏光フィルム(偏光板とも言われる。)は、液晶表示装置を構成する材料として、パソコン用表示装置、時計、電卓、車載用表示装置等に幅広く用いられている。一般的な偏光フィルムは、一軸延伸したフィルムを、ヨウ素や色素などの二色性物質を用いて染色させた偏光層を有する。この偏光層において、二色性物質がフィルム内で一定方向に配向することにより、偏光フィルムを透過した光は偏光となる。このような偏光フィルムは一般に、偏光層の両側あるいは片側に、トリアセテートフィルム等の保護層を有する。
【0003】
現在知られている代表的な偏光フィルムは、ポリビニルアルコールフィルムにヨウ素などの二色性物質を用いて染色したフィルムである。例えば、米国特許第2173304号明細書(特許文献1)には、ポリビニルアルコールからなる透明プラスチックと、いわゆる二色性物質とからなる、偏光子が記載されている。現在のところ、このようなポリビニルアルコールフィルムからなる偏光フィルムが一般に広く用いられている。
【0004】
しかし、ポリビニルアルコールは石油を原料として製造されるものである。またポリビニルアルコールを廃棄する場合、特殊な微生物を用いることによって分解することはできるものの、その分解性能は優れるものではない。そのため、ポリビニルアルコールは一般的には生分解性の素材としては認知されていない。一方、近年のエネルギー・資源枯渇問題の中で、様々な分野において、環境への負荷がより少ない、生物資源由来であって生分解性を持つ素材への置き換え、そして石油由来の素材から天然由来の素材への置き換えが望まれている。
【0005】
ところで、ヨウ素との親和性が高い物質として、澱粉が良く知られている。澱粉に通常30%程度含まれるアミロースは、ヨウ素を包接して青色を呈する(ヨウ素澱粉反応)。澱粉は、トウモロコシなどの穀類、じゃがいも等の芋類などの植物から製造される、生物由来物質である。澱粉は、環境に対する負荷が少ない、再生産可能な生物資源として注目されており、また生分解性が高いという利点もある。
【0006】
しかし、澱粉は皮膜形成能力に優れるものではなく、澱粉を用いて均一なフィルムを得ることは困難である。また、たとえフィルムが得られたとしても、得られるフィルムは一般に不透明なものであり、光学フィルム用途における性能を満たさない。また、澱粉から得られるフィルムは脆く、そして伸び特性も劣ることから、偏光フィルムの製造に欠かせない延伸操作を行うことが非常に困難である。
【0007】
このような澱粉の皮膜形成能力の悪さは、澱粉の組成に由来すると考えられる。澱粉は通常アミロース(グルコースが直鎖状に結合した構造のポリマー)とアミロペクチン(アミロースに枝分かれが生じた房状のポリマー)の両方の混合体からなる。直鎖状のアミロ−スは加工性、フィルム特性、成形性において合成プラスチックに匹敵する特性を備えているが、アミロペクチンは強度特性においてより劣った性能を示す。従って、混合体である天然澱粉をフィルムなどの形成に用いると、強度特性において不充分なものとなる。
【0008】
天然澱粉からアミロースを分離抽出することは可能ではあるが、しかしながらその操作は煩雑であり、また得られるアミロースの収率も低く、工業的製法にはなりえない。さらに、分離抽出により得られた天然アミロースは分子量分布が広く、また少量の枝分かれを含むことが原因で、十分な均一性や強度特性を持つ成形物やフィルムを得ることはできない。上記のような理由から、これまで天然澱粉は偏光フィルムの素材として利用されることはなかった。
【0009】
特開2003−195001号公報(特許文献2)には、一次元及び多次元のいずれかの周期構造を有し、該周期構造の少なくとも一部が有機化合物で形成されたことを特徴とする有機フォトニック結晶が記載されている。そしてここの有機化合物として生物分解性材料が挙げられている。しかしながら、ここでいう有機フォトニック結晶は主として、その結晶形態から生じるバンドギャップを利用するものである。従って、その光学的性質は本発明の偏光フィルターとは大きく異なるものであり、そしてこれらの発明の利用分野もまた異なるものである。さらにこの有機フォトニック結晶を構成する周期構造の大きさもまた本発明の偏光フィルターにおける配向とは大きく異なるものであり、このことからもこれらの光学的性質が異なることは明らかである。
【0010】
【特許文献1】米国特許第2173304号明細書
【特許文献2】特開2003−195001号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、上記問題点の解決を意図するものであり、生物資源由来であって生分解性を有し、かつ十分な強度および透明性を有する偏光フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、生物資源由来であってかつ生分解性に優れるα−1,4−グルカンを用いて偏光フィルムを作製することを見出し、本発明を完成させた。
【0013】
本発明は、
(a)α−1,4−グルカンおよびその修飾物の少なくとも1種、および
(b)二色性物質、
を含む偏光層を有する偏光フィルム、を提供するものであり、これにより上記目的が達成される。
【0014】
上記(a)α−1,4−グルカンおよびその修飾物の少なくとも1種の分子量が100kDa〜6000kDaであるのが好ましい。
【0015】
また、α−1,4−グルカンが酵素合成α−1,4−グルカンであるのが好ましい。
【0016】
また、α−1,4−グルカン修飾物が、エステル化、エーテル化および架橋からなる群から選択される1種またはそれ以上の修飾によって修飾されたα−1,4−グルカンであるのが好ましい。
【0017】
さらに、上記(b)二色性物質がヨウ素であるのが好ましい。
【0018】
本発明の偏光フィルムはさらに、偏光層の少なくとも1面上に設けられた保護層を有するのが好ましい。
【0019】
そして、本発明の偏光フィルムの1態様として、上記保護層および偏光層に含まれるα−1,4−グルカンの修飾置換度が連続的に変化するものが挙げられる。
【0020】
本発明の偏光フィルムの1態様として、
偏光層および保護層を有する偏光フィルムであって、
この保護層は、エステル化、エーテル化および架橋からなる群から選択される1種またはそれ以上の修飾によって修飾された、1種またはそれ以上のα−1,4−グルカン修飾物を含み、および
この偏光層は、保護層に含まれるα−1,4−グルカン修飾物を脱修飾させることによって得られた、α−1,4−グルカン、および(b)二色性物質、を含む、
偏光フィルム、が挙げられる。
【0021】
本発明の偏光フィルムの他の1態様として、
偏光層および保護層を有する偏光フィルムであって、
この偏光層は、α−1,4−グルカン、および(b)二色性物質、を含み、および
この保護層は、偏光層に含まれるα−1,4−グルカンを、エステル化、エーテル化および架橋からなる群から選択される修飾によって得られた、1種またはそれ以上のα−1,4−グルカン修飾物を含む、
偏光フィルム、が挙げられる。
【0022】
上記保護層が、ジアセチル化α−1,4−グルカン、トリアセチル化α−1,4−グルカン、アセチルブチリル化α−1,4−グルカンならびにこれらのコポリマーおよびターポリマーからなる群から選択される、1種またはそれ以上のα−1,4−グルカン修飾物を含むのが好ましい。
【0023】
本発明はまた、偏光フィルムの製造方法も提供する。偏光フィルムの製造方法の1態様として、
α−1,4−グルカンおよびその修飾物の少なくとも1種(a)を含むフィルムを形成する、フィルム形成工程、
形成されたフィルムを配向させる配向工程、および
配向されたフィルムを、二色性物質(b)を用いて染色する染色工程、
を包含する方法が挙げられる。
【0024】
偏光フィルムの製造方法の他の1態様として、
エステル化、エーテル化および架橋からなる群から選択される1種またはそれ以上の修飾によって修飾された、1種またはそれ以上のα−1,4−グルカン修飾物を含むフィルムを形成する、フィルム形成工程、
形成されたフィルムを配向させる配向工程、
配向されたフィルムを脱修飾させる、脱修飾工程、および
脱修飾れたフィルムを、二色性物質(b)を用いて染色する、染色工程、
を包含する方法が挙げられる。
【0025】
偏光フィルムの製造方法の他の1態様として、
エステル化、エーテル化および架橋からなる群から選択される1種またはそれ以上の修飾によって修飾された、1種またはそれ以上のα−1,4−グルカン修飾物を含むフィルムを形成する、フィルム形成工程、
形成されたフィルムの片面を脱修飾させる、脱修飾工程、
得られたフィルムを配向させる配向工程、および
配向されたフィルムを、二色性物質(b)を用いて染色して、脱修飾した部分を染色する、染色工程、
を包含する方法が挙げられる。
【0026】
偏光フィルムの製造方法の他の1態様として、
α−1,4−グルカンを含むフィルムを形成するフィルム形成工程、
形成されたフィルムの片面を、エステル化、エーテル化および架橋からなる群から選択される1種またはそれ以上の修飾を行う、修飾工程、
得られたフィルムを配向させる配向工程、および
配向されたフィルムを、二色性物質(b)を用いて染色して、α−1,4−グルカンを染色する、染色工程、
を包含する方法が挙げられる。
【0027】
上記染色工程は気相中で行なわれるのが好ましい。また、上記フィルム形成工程において、キャスト法、カレンダー法または溶融押出し法によってフィルムが形成されるのが好ましい。
【0028】
上記配向工程において、引張延伸、圧延延伸またはずり配向処理を行ってフィルムを配向させるのが好ましい。
【0029】
上記配向工程において、水性溶媒若しくは有機性溶媒またはこれらの混合物中にフィルムを浸漬し、次いで、浸漬したフィルムを、引張延伸または圧延延伸を行い配向させる方法も挙げられる。
【0030】
本発明の偏光フィルムは、液晶表示装置、エレクトロルミネッセンス表示装置などに用いることができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によって、α−1,4−グルカンを用いて偏光フィルムを製造することができる。α−1,4−グルカンは生分解性に優れ、また生物資源由来であるため、これを用いることによって環境への負荷の低減を図ることができる。また、α−1,4−グルカンからなるフィルムは透明性に優れ、そして優れた強度およびガスバリア性を有するため、光学材料として好適に用いることができる。
【0032】
さらに(b)二色性物質としてヨウ素を用いる場合、α−1,4−グルカンは、ヨウ素との親和性が高く、α−1,4−グルカン−ヨウ素複合体(包接化合物)を形成する性質を有する。この結果、α−1,4−グルカンのらせん構造内部の空洞部分にヨウ素を配向させることができる。このようにα−1,4−グルカンによるヨウ素の配向メカニズムは、ポリビニルアルコールを用いたヨウ素の配向メカニズムとは異なっている。この独自の配向メカニズムにより、薄型であり優れた光学特性を有する偏光フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
用語の定義
用語「分散度Mw/Mn」とは、重量平均分子量Mwに対する数平均分子量Mnの比(すなわち、Mw÷Mn)である。高分子化合物は、タンパク質のような特別の場合を除き、その由来が天然または非天然のいずれであるかに関わらず、その分子量は単一ではなく、ある程度の幅を持っている。そのため、高分子化合物の分子量の分散程度を示すために、高分子化学の分野では通常、分散度Mw/Mnが用いられている。この分散度は、高分子化合物の分子量分布の幅広さの指標である。分子量が完全に単一な高分子化合物であればMw/Mnは1であり、分子量分布が広がるにつれてMw/Mnは1よりも大きな値になる。本明細書中で「分子量」という用語は、特に断りのない限り重量平均分子量(Mw)を指す。
【0034】
用語「α−1,4−グルカン」とは、本明細書中で用いられる場合、D−グルコースを構成単位とする糖であって、α−1,4−グルコシド結合のみによって連結された糖単位を少なくとも2糖単位以上有する糖をいう。α−1,4−グルカンは、直鎖状の分子である。α−1,4−グルカンは、直鎖状グルカンとも呼ばれる。1分子のα−1,4−グルカンに含まれる糖単位の数を、重合度という。本明細書中で「重合度」という用語は、特に断りのない限り重量平均重合度を指す。α−1,4−グルカンの場合、重量平均重合度は、重量平均分子量を162で割ることによって算出される。
【0035】
用語「置換度」は、α−1,4−グルカン修飾物における、無水グルコース残基あたりの平均置換水酸基数を表わす。無水グルコース残基の水酸基は3つあり、それがすべて化学修飾によって置換された場合、置換度は3、平均して2個の水酸基が置換された場合は置換度が2となる。化学修飾がアセチル化の場合、置換度2のものをジアセテート、3のものをトリアセテートと呼ぶ。前述のように、置換度はあくまでも平均値であり、その中間の値も取り得ることから、本明細書中では、置換度が約2〜3の範囲のものを、ジアセテートまたはトリアセテートと呼ぶ。
【0036】
偏光フィルム
本発明の偏光フィルムは偏光層を有する。そして偏光層には、(a)α−1,4−グルカンおよびその修飾物の少なくとも1種(以下「α−1,4−グルカン類」と記載することもある。)、および(b)二色性物質、が含まれる。
【0037】
α−1,4−グルカン類は、グルコースが直鎖状に結合した構造のポリマーである。これは、当該分野で公知の方法で、天然澱粉から、あるいは酵素的な手法等で製造することができる。
【0038】
天然澱粉からα−1,4−グルカンを得る方法としては、たとえば天然澱粉中に存在するアミロペクチンのα−1,6−グルコシド結合のみに、枝切り酵素として既知のイソアミラ−ゼやプルラナ−ゼを選択的に作用させ、アミロペクチンを分解することにより、アミロ−スを得る方法(いわゆる澱粉酵素分解法)がある。別の例として、澱粉糊液からアミロ−ス/ブタノ−ル複合体を沈殿させて分離する方法がある。
【0039】
また公知の酵素合成法を用いて、α−1,4−グルカンを調製することもできる。酵素合成法の例としては、スクロースを基質として、アミロスクラーゼ(amylosucrase、EC 2.4.1.4)を作用させる方法がある。
【0040】
酵素合成法の別の例は、グルカンホスホリラーゼ(α−glucan phosphorylase、EC 2.4.1.1;通常、ホスホリラーゼといわれる)を用いる方法が挙げられる。ホスホリラーゼは、加リン酸分解反応を触媒する酵素である。
【0041】
本発明では、酵素合成α−1,4−グルカンを用いるのが好ましく、グルカンホスホリラーゼを用いて酵素合成されたα−1,4−グルカンを用いるのが特に好ましい。グルカンホスホリラーゼを用いて酵素合成された酵素合成α−1,4−グルカンは次のような特徴を有する:
(1)生物資源である糖質を原料として製造される;
(2)天然澱粉と同様にグルコース残基のみで構成されており、α−1,4−グルカンも、その分解中間体も、そして最終分解物に至るまで環境および生体に対して毒性がない;
(3)分子量分布が狭く(Mw/Mnが1.1以下)、製造条件を適切に制御することによって任意の重合度(約60〜約37000)を有するものが得られる;
(4)完全に直鎖であり、天然澱粉から分画したアミロースに認められるわずかな分岐構造をも含まない;
(5)皮膜の酸素透過性が低い;
(6)皮膜中の水分量が変動した場合であっても、強度等の物性が変化しにくい;
(7)必要に応じて澱粉と同様の化学修飾が可能である。
【0042】
上記のα−1,4−グルカンに化学修飾を施したものを用いることもできる。この修飾されたα−1,4−グルカンは、本明細書中において「α−1,4−グルカン修飾物」と記載することもある。化学修飾の例としては、エステル化、エーテル化および架橋などが挙げられる。α−1,4−グルカンを化学修飾する際において、これらの修飾を単独あるいは組み合わせて使用することができる。
【0043】
エステル化は、例えば、α−1,4−グルカンを各種溶媒中でまたは無溶媒で、エステル化試薬(例えば、酸無水物、有機酸、酸塩化物、ケテンまたは他のエステル化試薬)と反応させることによって行われ得る。このようなエステル化によって、例えば、酢酸エステル、プロピオン酸エステルなどのアシル化エステル修飾物が得られる。
エステル化によって、α−1,4−グルカンを構成するグルコース残基に含まれる水酸基の水素を置換することができるアシル基として、例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、バレリル基、イソバレリル基、ピバロイル基、ラウロイル基、ミリストイル基、ベンゾイル基、アクリロイル基、メタクリロイル基などが挙げられる。
【0044】
エーテル化は、例えば、α−1,4−グルカンを、アルカリ存在下でエーテル化剤(例えば、ハロゲン化アルキル、硫酸ジアルキルなど)と反応させることによって行われ得る。このようなエーテル化によって、例えば、カルボキシメチルエーテル、ヒドロキシプロピルエーテル、ヒドロキシエチルエーテル、ヒドロキシメチルエーテル、メチルエーテル、エチルエーテルの修飾物が得られる。
【0045】
架橋は、例えば、α−1,4−グルカンを、架橋剤(ホルマリン、エピクロロヒドリン、グルタルアルデヒド、各種ジグリシジルエーテル、各種エステルなど)と反応させることによって行われ得る。
【0046】
(a)α−1,4−グルカン類は、修飾を施していないものまたは修飾を施したものをそれぞれ単独で用いてもよく、またはそれらを併用して用いてもよい。また、2種以上の重合度の異なるα−1,4−グルカンおよび/またはその修飾物を併用してもよい。
【0047】
グルカンホスホリラーゼを用いて酵素合成された酵素合成α−1,4−グルカン類を、偏光フィルムの偏光層の形成素材として使用した場合に、次のような利点が得られる:
(I)生物資源由来で生分解性であることから、環境への負荷を低減できる。
(II)分子量分布が狭く任意の重合度のものを合成できるため、フィルムの物性を容易に制御することができる。
(III)枝分かれのない均一な構造であることから、フィルムの透明性が高く、高強度である。
(IV)酸素透過性が低いため、液晶表示装置やエレクトロルミネッセンス表示装置等に使用した場合、装置を構成する他の材料の酸化による劣化を防ぐことができる。
(V)水分の影響をうけにくく、高温高湿下でも十分な性能を発揮することができる。
【0048】
本発明で用いるα−1,4−グルカン類の平均分子量は、100kDa〜6000kDaであることが好ましい。平均分子量が100kDa以下では、単独で十分な強度を持つフィルムを形成させることが困難となるおそれがある。また、6000kDa以上では、酵素合成の際の収率が低く、また粘度が高いために成型が困難となるおそれがある。ただし2種以上の重合度のα−1,4−グルカン類を併用する場合はこの限りではなく、例えば上記範囲以外の平均分子量を有する低分子量グルカンと高分子量グルカンとを用いる場合、またはこれらと上記範囲内の平均分子量を有するグルカンとを用いる場合であっても、良好な形成性を得ることができる。
【0049】
さらに、異なる分子量を有するα−1,4−グルカン類2種以上を混合して用いることによって、偏光フィルムの偏光層の物性を制御することもできる。混合するα−1,4−グルカン類の分子量や、用いるα−1,4−グルカン類の比率を変化させることによって、柔軟性や伸びなどの物性をコントロールすることができる。
【0050】
また、α−1,4−グルカン類と、他の高分子材料とを混合して、偏光フィルムを調製してもよい。用いることができる他の高分子材料の例としては、多糖類としてプルラン、アルギン酸、カラギーナン、グアーガム、寒天、キトサン、セルロースおよびその誘導体、デキストリン、デンプン類およびその誘導体など、またタンパク質、例えばゼラチン、グルテン、卵白、卵黄など、あるいはポリ乳酸やポリ−ε−カプロラクトン等のポリエステル類、ポリエチレングリコール等のポリエーテル類、ポリビニルアルコールやポリエチレン等のポリオレフィン類、ポリアミド類、等の樹脂が挙げられる。
【0051】
本発明においては、偏光層がα−1,4−グルカンを含むのが特に好ましい。以下に記載する(b)二色性物質としてヨウ素を用いる場合において、α−1,4−グルカンは特に良好なヨウ素包接性を示すからである。
【0052】
(b)二色性物質は、α−1,4−グルカン類に添加して配向させることによって、偏光層に偏光性能を付与するものである。このような二色性物質として、例えば、ヨウ素、二色性染料、蛍光染料などが挙げられる。
【0053】
二色性染料として、例えばジスアゾ化合物、トリスアゾ化合物、およびこれらの含金属化合物などの、ポリビニルアルコール系偏光フィルムにおいて通常用いられる二色性染料が挙げられる。このような染料の具体例としては、例えば、C.I.ダイレクト・イエロー12、28、44、142、C.I.ダイレクト・ブルー1、71、78、168、202、C.I.ダイレクト・レッド2、31、79、81、117、247、C.I.ダイレクト・バイオレット9、51、C.I.ダイレクト・オレンジ26、39、107、C.I.ダイレクト・ブラウン106、223などが挙げられる。この他にも、例えばPET系偏光フィルムにおいて通常用いられる二色性染料なども用いることができる。蛍光染料として、例えば、テルフェニル、クアテルフェニル、ポリフェニル1、7H−ベンズイミダゾ(2,1−ア)ベンズ(デ)イソキノリン−7−オン(BBQ)などのオリゴフェニレン類、2−(4−ビフェニルイル)−5−フェニル−1,3,4−オキサジアゾール(PBD)、1,4−ビス(5−フェニルオキサゾール−2−イル)ベンゼン(POPOP)などのオキサゾールおよびオキザジアゾール誘導体、7−ヒドロキシクマリン、7−ヒドロキシ−4−メチルクマリン(4−MU)、7−ジエチルアミノ−4−メチルクマリン(DAMC)、クマリン120などのクマリン誘導体、キノリノール誘導体、フタロシアニン誘導体、フルオレンおよびその誘導体、アントラセンおよびその誘導体、ローダミン6G、ローダミン110などのキサンテン系(ピロニン系、ローダミン系、フルオレセイン系)色素、クレシルバイオレット、オキサジン1などのオキサジン系色素、トランス−4,4’−ジフェニルスチルベンなどのスチルベン系色素、シアニン系色素、ポリアセチレン系化合物、フェニレンビニレン系化合物、フェニレンエチニレン系化合物、五員環および六員環複素環化合物、などの蛍光染料を挙げることができる。
【0054】
これらの(b)二色性物質の量は、用いる(b)二色性物質の種類および偏光フィルムの用途によって異なるが、(a)α−1,4−グルカン類100重量部に対して通常0.01〜10重量部、好ましくは0.1〜8重量部の量で用いられる。
【0055】
本発明においては、(b)二色性物質としてヨウ素を用いることが好ましい。α−1,4−グルカン分子はらせん構造を有しており、そしてこのらせん構造は種々の物質を包接することができる。ヨウ素はグルカン分子の代表的な包接物質であり、またα−1,4−グルカンとの親和性も非常に高いという利点を有する。ヨウ素を(b)二色性物質として用いることによって、少量のα−1,4−グルカン類に対して十分な量のヨウ素を吸着・配向させることができる。このため、厚さの薄い偏光層であっても十分な偏光性能を有する偏光フィルムを製造することができる。このような偏光フィルムを用いることによって、表示装置等の薄型化を図ることができる。さらにヨウ素がα−1,4−グルカン類に包接されることによって、偏光層の染色安定性が高くなるという利点も有する。
【0056】
ヨウ素は、ヨウ素分子(I2)や、ヨウ化カリウムとして添加することができる。ヨウ素は、α−1,4−グルカン類100重量部に対して通常0.01〜10重量部、好ましくは0.1〜8重量部の量で含まれる。ヨウ素の含有量は蛍光X線分析を用いて測定することができる。
【0057】
なお従来のポリビニルアルコールでは、水溶液中でヨウ素とヨウ化カリウムの両方を含浸させる必要があり、作業が煩雑になっていた。それに対して、本発明のα−1,4−グルカンのフィルムは、(b)二色性物質としてヨウ素を用いることによって、ヨウ素の蒸気中で染色することが可能となり、染色工程が非常に容易になるという利点を有する。
【0058】
(b)二色性物質としてヨウ素を用いる場合は、ヨウ素が(a)α−1,4−グルカン類中に包接されるという優れた効果を得ることができるが、一方で本発明における(b)二色性物質の使用は、包接される化合物に限定されるものではない。
【0059】
本発明の偏光フィルムは、偏光層に、可塑剤、柔軟化剤、架橋剤、安定化剤等の種々の添加剤を含めてもよい。
【0060】
可塑剤の例として、例えばグリセリン、モノアセチン、ジアセチン、トリアセチン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル等が挙げられる。可塑剤を用いることによって、フィルムの成形性を高め、延伸を効果的に行うことができるという利点がある。
【0061】
柔軟化剤の例として、例えばグリセリン、モノアセチン、ジアセチン、トリアセチン等のグリセリン誘導体、エチレングリコ−ル、ジエチレングリコ−ル、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール等のエチレングリコ−ル誘導体、デキストリン、グルコース、フラクトース、スクロース、マルトオリゴ糖等の糖類、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル等の脂肪酸エステル類が挙げられる。柔軟化剤を用いることによって、フィルムに柔軟性を与え、伸びを向上させることができる。
【0062】
本発明の偏光フィルムは偏光層のみから構成されてもよい。このような態様の偏光フィルムの概略図を図1に示す。また本発明の偏光フィルムは、偏光層の少なくとも1面上に保護層を有していてもよい。保護層は、偏光層の片面にのみ設けてもよく、また偏光層の両面に設けてもよい。このような態様の偏光フィルムの概略図を図2および図3に示す。これらの保護層を設けることによって、摩耗などの物理的損傷から、偏光層を保護することができる。さらに、これらの保護層に、反射防止性能、防眩性能等などの種々の性能を付与させてもよい。
【0063】
保護層として、当該分野で公知に用いられている、セルローストリアセテートやセルロースアセテートブチレート等を含むフィルム、あるいはガラスなどを用いることができる。また、α−1,4−グルカンをアセチル化したジアセテートあるいはトリアセテートなどの、アセチル化α−1,4−グルカンを用いることもできる。保護層として、アセチル化α−1,4−グルカンを含むフィルムを用いるのがより好ましい。アセチル化α−1,4−グルカンのフィルムは、透明性および耐水性に優れている。さらに、偏光フィルムに用いるα−1,4−グルカンフィルムと同質の素材であるため、偏光層とのなじみが良いという利点も有する。
【0064】
アセチル化グルカンとして、例えば、ジアセチル化α−1,4−グルカン、トリアセチル化α−1,4−グルカン、アセチルブチリル化α−1,4−グルカンなどが挙げられる。アセチルブチリル化α−1,4−グルカンは、グルカンを構成する1のグルコース残基に含まれる3つの水酸基の水素が、1または2のアセチルおよびブチリルによって置換されたものである。これらのアセチル化α−1,4−グルカンは、上記したとおりα−1,4−グルカンをエステル化することによって得ることができる。また、これらのアセチル化グルカンは、2種またはそれ以上の修飾グルコース残基からなるポリマー、つまりコポリマー、ターポリマーなど、であってもよい。
【0065】
なお、上記のアセチル化グルカンは、修飾されていないα−1,4−グルカンとは異なり、ヨウ素を包接する能力はほとんど有しない。そのため、アセチル化α−1,4−グルカンを保護層の主成分として用いる場合、化学修飾されていないα−1,4−グルカンを含む層と、アセチル化α−1,4−グルカンを主成分として含む層とをあらかじめ複合化させ、次いでヨウ素を用いてこれを染色・配向を行うことによって、化学修飾されていないα−1,4−グルカンを含む層のみを選択的に染色することができる。こうして、保護層および偏光層を有する偏光フィルムを製造することもできる。また、アセチル化α−1,4−グルカンの代わりにエーテル化α−1,4−グルカンなどの他のα−1,4−グルカン修飾物を用いても同様の偏光フィルムを製造することができる。一般に、α−1,4−グルカン修飾物において置換度が0.4を超える場合は、α−1,4−グルカンのヨウ素包接能力はほとんど有さなくなるといえる。但し、α−1,4−グルカン修飾物がブロックコポリマー等である場合、例えばα−1,4−グルカンとアセチル化α−1,4−グルカンとのブロックコポリマーなど、はこの限りではない。
【0066】
偏光フィルムの製造方法
本発明の偏光フィルムの製造は、一般に以下に示す方法によって行うことができる。ただしその順番や組み合わせはこれに限ったものではなく、最適な方法を選択することができる。まず、α−1,4−グルカン類(a)を主成分とするフィルムを作製する。これを延伸し、次いで二色性物質(b)を加える。これにより二色性物質(b)がα−1,4−グルカン類(a)のフィルム中で配向することとなり、偏光性を有する偏光層が得られる。延伸と二色性物質添加の順序は何れが先であってもよく、またこれらを同時に行うこともできる。その後、必要に応じて、偏光層の少なくとも一面に保護層を形成することができる。
【0067】
偏光フィルムの製造方法の一例として、例えば、
α−1,4−グルカンおよびその修飾物の少なくとも1種(a)を含むフィルムを形成する、フィルム形成工程、
形成されたフィルムを配向させる配向工程、および
配向されたフィルムを、二色性物質(b)を用いて染色する染色工程、
を包含する方法が挙げられる。この方法は、二色性物質(b)としてヨウ素を用いる場合などに用いることができるが特に限定されるものではなく、二色性染料を用いる場合にも用いることができる。
【0068】
なお、本明細書中において、配向工程の後に染色工程を行う方法は、フィルムを延伸などによって配向させた状態のまま染色を行う態様も含むものとする。
【0069】
偏光フィルムの製造方法の他の例として、例えば、
α−1,4−グルカンおよびその修飾物の少なくとも1種(a)を含むフィルムを形成する、フィルム形成工程、
形成されたフィルムを、二色性物質(b)を用いて染色する染色工程、および
染色されたフィルムを配向させる配向工程、
を包含する方法が挙げられる。この方法は、二色性物質(b)として二色性染料などを用いる場合などに用いることができるが特に限定されるものではなく、ヨウ素を用いる場合にも用いることができる。
【0070】
なお、本明細書において、染色工程の後に配向工程を行う方法は、フィルムを、二色性物質を含む溶液などに浸漬した状態において延伸などの配向を行う態様を含むものとする。
【0071】
偏光フィルムの製造方法の他の例として、例えば、
エステル化、エーテル化および架橋からなる群から選択される1種またはそれ以上の修飾によって修飾された、1種またはそれ以上のα−1,4−グルカン修飾物を含むフィルムを形成する、フィルム形成工程、
形成されたフィルムを配向させる配向工程、
配向されたフィルムを脱修飾させる脱修飾工程、および
脱修飾れたフィルムを、二色性物質(b)を用いて染色する、染色工程、
を包含する方法が挙げられる。α−1,4−グルカン修飾物は、α−1,4−グルカンよりも容易に延伸配向させることができるという利点を有する。このような方法を用いることによって、偏光フィルムをより容易に調製することができる。
【0072】
上記方法によって、偏光層を形成することができる。こうして得られた偏光層をそのまま偏光フィルムとして用いてもよく、またこの偏光層の1面または両面に保護層を設けて、これを偏光フィルムとしてもよい。
【0073】
フィルムの製造方法としては、キャスト法、押出し法、カレンダー法などを選択することができる。重合度が高い水溶性のα−1,4−グルカン類の場合は、水溶液から基板上にキャストし、乾燥させることによってフィルムを得ることができる。重合度が低いα−1,4−グルカン類の場合は、アルカリや高温の条件で溶解させ、ゲル状態を経てフィルムを成型することができる。また、少量の水や可塑剤とともに混練し、ローラープレス等で圧延し成形することもできる。
【0074】
こうして製造されたフィルムを配向させる。配向させる方法として、例えば引張延伸、圧延延伸などの延伸処理、またはずり配向処理などが挙げられる。(a)α−1,4−グルカン類を含むフィルムを延伸させる方法としては、引張りによる方法や、ローラー等で圧延する方法が挙げられる。延伸は乾燥したフィルムを用いて空気中で行っても良いし、水や有機溶媒を含浸させた後に行っても良い。また、水や有機溶媒の溶液中で延伸を行っても良い。その際に二色性物質や各種の添加剤を含む溶液中で延伸することもできる。
【0075】
延伸によらずに(a)α−1,4−グルカン類のフィルムを配向させる方法として、ずり配向を用いることができる。これはフィルムの上面と下面に反対方向の剪断力(ずり)を与えて、(a)α−1,4−グルカン類の分子を一定方向に配向させるものである。これにより延伸と同様な効果を得ることができる。ずり配向を用いることによって、フィルム延伸による方法と比較して大幅に薄い偏光フィルムを形成することが可能となる。
【0076】
本発明の偏光フィルムに用いられる(a)α−1,4−グルカン類は、より低い延伸倍率であっても高い偏光度を発現できることが、本発明者らによって見いだされた。これは本発明の偏光フィルムの利点の1つである。例えば従来のポリビニルアルコール系のフィルムでは4〜5倍程度の延伸が必要であるのに対して、(a)α−1,4−グルカン類の場合、1.5〜2倍程度の延伸で同等な効果を得ることができるという優れた利点を有する。
【0077】
(b)二色性物質による染色は、乾式法や湿式法によって行うことができる。乾式法は気相中で(b)二色性物質を吸着させて染色する方法である。(b)二色性物質としてヨウ素(I2)を用いる場合はヨウ素の蒸気中にフィルムを暴露させることで吸着ができるため、このような乾式法は非常に簡便な方法である。ポリビニルアルコールの場合は、気相中でのヨウ素の吸着は起こらないか、または起こっても吸着速度が非常に小さいため、このような乾式法を採用することができない。また延伸したポリビニルアルコールのフィルムは結晶化のため白濁しており、たとえヨウ素を吸着できたとしても光が透過しないために光学フィルムとして使用することはできない。なお、この乾式法は、フィルムを延伸などによって配向させた後に染色する場合などに用いることができるが、特に限定されるものではない。
【0078】
湿式法は、(b)二色性物質を含む溶液中にフィルムを含浸させ、(b)二色性物質を吸着させて染色するものである。湿式法は、二色性染料、蛍光染料、ヨウ素、ヨウ化カリウムなどの種々の(b)二色性物質を用いることができる。(b)二色性物質を溶解する溶媒として、例えば蒸留水、イオン交換水などの水性溶媒、そして、アルコール類、ケトン類、エーテル類、エステル類、芳香族類などの有機溶媒、およびこれらの混合物を用いることができる。この湿式法は、フィルムを染色した後に、延伸などによって配向させる場合などに用いることができるが、特に限定されるものではない。
【0079】
乾式法と湿式法の中間的な方法として、水や有機溶媒等であらかじめ膨潤させた(a)α−1,4−グルカン類のフィルムに対して、気相中で(b)二色性物質を吸着させることによって染色する方法が挙げられる。このような中間的な方法を用いることもできる。
【0080】
また、(a)α−1,4−グルカン類のフィルムを作製する際に、あらかじめ(b)二色性物質を含有させておき、それを延伸あるいは、ずりによって配向させることもできる。
【0081】
本発明の偏光フィルムの偏光層に、架橋剤を用いて架橋処理を施してもよい。架橋剤を用いることによって、延伸したα-1,4−グルカンのフィルムの分子配向を固定化することができる。架橋剤の例としては、例えばホルマリン、エピクロロヒドリン、グルタルアルデヒド、各種ジグリシジルエーテル、各種エステル、ホウ酸等が挙げられる。
【0082】
偏光フィルムの製造方法において、必要に応じて、上記したような種々の添加剤を用いることができる。これらの添加剤の添加方法、順序については、添加剤の目的に応じて選択することができる。例えば可塑剤や柔軟化剤は、延伸を効率的に行うことを目的として、フィルムの作製時に添加することが好ましい。また、架橋剤はフィルムの延伸後、あるいは延伸と同時に添加することが好ましい。
【0083】
α−1,4−グルカンから得られた偏光フィルムに、保護層や機能性層を形成させる場合は、フィルム同士の貼りあわせやキャスト、溶融による製膜等の方法を用いることができる。貼り合せの際の接着剤は当該分野で公知のものを選択することができ、また、α−1,4−グルカンおよび/またはその修飾物を用いることが可能である。
【0084】
アセチル化α−1,4−グルカンなどの化学修飾したα−1,4−グルカンを含むフィルムを、保護層として用いる場合、化学修飾されていないα−1,4−グルカンを含むフィルムと、化学修飾したα−1,4−グルカン(アセチル化α−1,4−グルカンなど)を含むフィルムとを、あらかじめ複合化させ、これを染色・配向を行うことによって、偏光フィルムを製造することもできる。これらのフィルムの複合化方法としては、例えば、2種類のフィルムを貼りあわせる方法、一方のフィルム上に他方のフィルムをキャスト法、溶融押出し等によって形成させる方法などが挙げられる。
【0085】
偏光層と保護層とを有する偏光フィルムの製造方法の他の例として、例えばα−1,4−グルカン修飾物からなるフィルムを用いて、α−1,4−グルカン修飾物の修飾基を部分的に脱修飾する方法が挙げられる。例えばアセチル化α−1,4−グルカンからなるフィルムの何れか一方の表面のみを、アルカリ溶液などに接触させることによって、この接触させた面に近いα−1,4−グルカンの修飾基はけん化によって脱修飾されることとなる。α−1,4−グルカンの修飾基を脱修飾する方法として、α−1,4−グルカン修飾物がアセチル化α−1,4−グルカンである場合は、アルカリ溶液、アルカリ触媒溶液、またはこれらの混合物に、アセチル化α−1,4−グルカンのフィルムの片面のみを接触させてけん化する方法などが挙げられる。アルカリ溶液として、例えば水酸化ナトリウム水溶液(例えば1N水酸化ナトリウム水溶液など)、水酸化カリウム水溶液(例えば1N水酸化カリウム水溶液など)などが挙げられる。アルカリ触媒溶液として、例えばナトリウムメトキシドまたはナトリウムエトキシドなどのアルカリ触媒とアルコールなどの有機溶媒とを含む溶液が挙げられる。例えばアセチル化α−1,4−グルカンのフィルムの一面をガラスやプラスチック基板に貼りつけて保護した後に、このフィルムをアルカリ溶液に接触させることによって、アセチル化α−1,4−グルカンからなるフィルムの片面のみをけん化することができる。このような製造方法の概略説明図を図4に示す。
【0086】
このような偏光フィルムの製造方法の一例として、例えば、
エステル化、エーテル化および架橋からなる群から選択される1種またはそれ以上の修飾によって修飾された、1種またはそれ以上のα−1,4−グルカン修飾物を含むフィルムを形成する、フィルム形成工程、
形成されたフィルムの片面を脱修飾させる、脱修飾工程、
得られたフィルムを配向させる配向工程、および
配向されたフィルムを、二色性物質(b)を用いて染色して、脱修飾した部分を染色する、染色工程、
を包含する方法が挙げられる。この方法は、二色性物質(b)としてヨウ素を用いる場合などに用いることができるが特に限定されるものではなく、二色性染料を用いる場合にも用いることができる。
【0087】
このような偏光フィルムの製造方法の他の一例として、例えば、
エステル化、エーテル化および架橋からなる群から選択される1種またはそれ以上の修飾によって修飾された、1種またはそれ以上のα−1,4−グルカン修飾物を含むフィルムを形成する、フィルム形成工程、
形成されたフィルムの片面を脱修飾させる、脱修飾工程、
得られたフィルムを、二色性物質(b)を用いて染色して、脱修飾した部分を染色する、染色工程、および
染色されたフィルムを配向させる配向工程、
を包含する方法が挙げられる。この方法は、二色性物質(b)として二色性染料などを用いる場合などに用いることができるが特に限定されるものではなく、ヨウ素を用いる場合にも用いることができる。
【0088】
これらの製造方法によって、偏光層および保護層を有し、そして偏光層と保護層との間に物理的な境界部分を有しない偏光フィルム、つまり偏光層および保護層に含まれるα−1,4−グルカンの修飾置換度が連続的に変化している偏光フィルムを得ることができる。これらの製造方法によって得られる偏光フィルムは、エステル化、エーテル化および架橋からなる群から選択される1種またはそれ以上の修飾によって修飾された1種またはそれ以上のα−1,4−グルカン修飾物を含む保護層と、保護層に含まれるα−1,4−グルカン修飾物を脱修飾させることによって得られたα−1,4−グルカンおよび(b)二色性物質を含む偏光層と、を有する。
【0089】
偏光層と保護層とを有する偏光フィルムの製造方法の他の例として、例えばα−1,4−グルカンからなるフィルムを用いて、このα−1,4−グルカンフィルムを部分的に修飾する方法が挙げられる。例えばα−1,4−グルカンからなるフィルムの一表面をガラスまたはプラスチック基板などに貼りつけて保護した後に、これを酸無水物などのエステル化試薬に接触させることによって、エステル化試薬に接触させた面方向のα−1,4−グルカンを選択的に修飾することができる。α−1,4−グルカンを修飾する方法は、例えばエステル化、エーテル化など、上記したα−1,4−グルカンの修飾方法と同様の方法を行うことができる。このような製造方法の概略説明図を図5に示す。
【0090】
このような偏光フィルムの製造方法の一例として、例えば、
α−1,4−グルカンを含むフィルムを形成するフィルム形成工程、
形成されたフィルムの片面を、エステル化、エーテル化および架橋からなる群から選択される1種またはそれ以上の修飾を行う、修飾工程、
得られたフィルムを配向させる配向工程、および
配向されたフィルムを、二色性物質(b)を用いて染色して、α−1,4−グルカンを染色する、染色工程、
を包含する方法が挙げられる。この方法は、二色性物質(b)としてヨウ素を用いる場合に適した方法である。
【0091】
このような偏光フィルムの製造方法の他の一例として、例えば、
α−1,4−グルカンを含むフィルムを形成するフィルム形成工程、
形成されたフィルムの片面を、エステル化、エーテル化および架橋からなる群から選択される1種またはそれ以上の修飾を行う、修飾工程、
得られたフィルムを、二色性物質(b)を用いて染色して、α−1,4−グルカンを染色する、染色工程、および
染色されたフィルムを配向させる配向工程、
を包含する方法が挙げられる。この方法は、二色性物質(b)として二色性染料などを用いる場合に適した方法である。
【0092】
これらの製造方法によって、偏光層および保護層を有し、そして偏光層と保護層との間に物理的な境界部分を有しない偏光フィルム、つまり偏光層および保護層に含まれるα−1,4−グルカンの修飾置換度が連続的に変化している偏光フィルムを得ることができる。そしてこれらの製造方法によって得られる偏光フィルムは、α−1,4−グルカンおよび(b)二色性物質を含む偏光層と、この偏光層に含まれるα−1,4−グルカンをエステル化、エーテル化および架橋からなる群から選択される修飾によって得られた1種またはそれ以上のα−1,4−グルカン修飾物を含む保護層と、を有する。
【0093】
これらの、偏光層および保護層に含まれるα−1,4−グルカンの修飾置換度が連続的に変化している偏光フィルムは、偏光層および保護層の間に物理的な境界部分を有しないため、複数のフィルムを貼りあわせた場合に問題となるフィルム間の界面における反射や剥がれが生じないという利点を有している。
【0094】
本発明の偏光フィルムが偏光層のみである場合は、フィルムの厚さは5〜100μmであるのが好ましく、10〜50μmであるのがより好ましい。また、偏光フィルムが偏光層および保護層を有する場合は、フィルムの厚さは10〜300μmであるのが好ましく、20〜200μmであるのがより好ましい。この場合、偏光層は0.002〜100μmを有するのが好ましく、0.002〜50μmを有するのがより好ましい。偏光フィルムが偏光層および保護層を有する場合、ずり配向を用いることによって偏光層の厚さが0.002〜5μmほどに薄い偏光フィルムを調製することが可能となる。
【0095】
本発明のα−1,4−グルカンからなる偏光フィルムは、パソコンや電卓などの液晶表示装置や、エレクトロルミネッセンス表示装置などに用いることができる。また、サングラスや写真・ビデオ用のフィルターや、遮光フィルム等の用途などにおいても幅広く用いることができる。
【実施例】
【0096】
以下、実施例及び試験例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されることはない。
【0097】
(重合度) 試験例において、馬鈴薯塊茎由来の精製グルカンホスホリラーゼの調製方法、Streptococcus mutans由来スクロースホスホリラーゼの調製方法、α−1,4−グルカンの収率(%)の計算方法、重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)の測定方法は、特開2002−345458号の記載により公知である方法に従った。具体的に、合成したグルカンの分子量は次のように測定した。まず、合成したグルカンを1N水酸化ナトリウムで完全に溶解し、適切な量の塩酸で中和した後、グルカン約300μg分を、示差屈折計と多角度光散乱検出器を併用したゲル濾過クロマトグラフィーに供することにより重量平均分子量を求めた。詳しくは、カラムとしてShodex SB806M−HQ(昭和電工製)を用い、検出器としては多角度光散乱検出器(DAWN−DSP、Wyatt Technology社製)および示差屈折計(Shodex RI−71、昭和電工製)をこの順序で連結して用いた。カラムを40℃に保ち、溶離液としては0.1M硝酸ナトリウム溶液を流速1mL/分で用いた。得られたシグナルを、データ解析ソフトウェア(商品名ASTRA、Wyatt Technology社製)を用いて収集し、同ソフトを用いて解析することにより、重量平均分子量、数平均分子量を求めた。
【0098】
(置換度の測定) アセチル化α−1,4−グルカンの置換度は、「澱粉・関連糖質実験法」(中村ら、1986年、学会出版センター)の記載に従い、以下の方法で測定した。試料1gを300mlの三角フラスコに精秤し、75%のエタノール50mlを加え分散した。これに0.5Nの水酸化ナトリウム水溶液を40ml加え、密栓して48時間室温で振盪した。過剰のアルカリを0.5Nの塩酸で滴定し、ブランクとの差から置換度(DS)を求めた。置換度(DS)は無水グルコース残基あたりの平均置換水酸基数である。
【0099】
(引張試験) フィルムの引張強度は以下の方法で測定した。幅12.7mm×長さ152.4mmの大きさの試験片を26℃、相対湿度55%の恒温恒湿室に1日静置したのち、同じ場所で引張試験を行った。引張試験機(島津製作所製 オ−トグラフAGS−H)にあらかじめ厚みを測定した試験片を、持ち手間距離が100mmになるように固定し、10mm/minの速度で破断するまで引張った。各試験片について5本の試験結果を平均し、持ち手内部で切断した場合は除外した。引張強度は破断時の荷重をフィルムの断面積で割って求めた。
【0100】
(吸光度・偏光度) フィルムの吸光度および偏光度は、以下の方法で測定した。日本分光製の吸光度計V−550を用いて、波長200nmから900nmの範囲で、1nm刻みで測定し、吸光度スペクトルを得た。分光スペクトルの値から、JIS Z8701に基づいて透過率を求めた。偏光度は、偏光層からなる偏光フィルム2枚を平行および直行で重ねた時の透過率から、下記の式を用いて算出した。
【0101】
【数1】
【0102】
Tp:平行透過率(%)
Tc:直行透過率(%)
【0103】
(生分解性試験) タイテック社製BODテスターを用い、JIS K−0102で定められた条件に準じて以下のように試験を行った。緩衝液にサンプルと活性汚泥を加え、25℃で保持した。分解によって消費された酸素量を経時的に読み取り、それをもとに分解率(%)を求めた。すべてのサンプルについて2回の結果の平均値を用いた。
【0104】
製造例1:α−1,4−グルカンの合成
15mMリン酸緩衝液(pH7.0)、106mMスクロース、及びマルトオリゴ糖混合物(テトラップH、林原製)5.4mg/リットルを含有する反応液(1リットル)に、馬鈴薯塊茎由来の精製グルカンホスホリラーゼ(1単位/ml)と、Streptococcus mutans由来スクロースホスホリラーゼ(1単位/ml)を加えて37℃で16時間保温し、反応終了後、生成したα−1,4−グルカンの収率(%)、重量平均分子量(Mw)および分子量分布(Mw/Mn)を決定した。その結果、重量平均分子量が1250kDa、分子量分布(Mw/Mn)が1.03のα−1,4−グルカンを得た。
【0105】
製造例2:アセチル化α−1,4−グルカンの作成
還流器付反応容器で、ピリジン1Lに、製造例1で得られたα−1,4−グルカンの濃度が5重量%となるように加え、無水酢酸160mlを滴下して、100℃において60分反応させた。反応後、エタノールを添加して生成物を析出させ、ろ過後、数回水で洗浄し、精製した。得られたアセチル化α−1,4−グルカンの置換度は2.90であった。
【0106】
実施例1
α−1,4−グルカンからのフィルム作製
製造例1で得られた重量平均分子量が1250kDaのα−1,4−グルカンを5重量%で室温の蒸留水に溶解した。この溶液を基板上に流延し、30℃に保った乾燥機で乾燥させて、厚さ約100μmのα−1,4−グルカンフィルムを得た。
【0107】
α−1,4−グルカンフィルムからの偏光フィルムの作製
こうして得られたα−1,4−グルカンのフィルムを短冊状に切り取り、エタノールと水の混合溶媒(容量比で2:1)に漬けた。これを取り出して空気中で元の長さの1.5倍、2.0倍、2.5倍、3.0倍になるようにそれぞれ延伸し、乾燥させた。延伸したフィルムを緊張状態に保ったまま、ヨウ素(I2)の飽和蒸気に接触させてヨウ素を吸着させ、偏光フィルムを得た。
【0108】
実施例2
アセチル化α−1,4−グルカンフィルムからの偏光フィルムの作製
製造例2で得られたアセチル化α−1,4−グルカンを5重量%でクロロホルムに溶解した。この溶液をポリエステルの基板上に流延し、室温で乾燥させて、厚さ約100μmのフィルムを得た。このフィルムを基板から剥がした後に短冊状に切り取り、空気中で元の長さの5.0倍になるように延伸した。延伸したフィルムを緊張状態に保ったまま、メタノールに対してアルカリ触媒であるナトリウムメトキシドを0.15重量%で溶解した溶液に浸漬し、6時間緩やかに振盪攪拌した。その後フィルムをメタノールで洗浄し、乾燥して脱修飾されたα−1,4−グルカンの延伸フィルムを得た。その後、この延伸フィルムを緊張状態に保ったまま、ヨウ素(I2)の飽和蒸気に接触させてヨウ素を吸着させ、偏光フィルムを得た。
【0109】
実施例3
アセチル化α−1,4−グルカンからの片面けん化フィルム作製
製造例2で得られたアセチル化α−1,4−グルカンを5重量%でクロロホルムに溶解した。この溶液をポリエステルの基板上に流延し、室温で乾燥させて、厚さ約100μmのフィルムを得た。このフィルムを基板からはがさずに、30℃の1N水酸化ナトリウム溶液に12分間浸漬してけん化をおこなった後、流水で洗浄した。50℃の乾燥機で乾燥後、基板からフィルムをはがして、片面がけん化されたアセチル化α−1,4−グルカンフィルムを得た。
【0110】
片面けん化α−1,4−グルカンフィルムからの偏光フィルムの作製
こうして得られた片面をけん化したα−1,4−グルカンのフィルムを短冊状に切り取り、エタノールと水の混合溶媒(容量比で2:1)に漬けた。これを取り出して空気中で元の長さの2.5倍になるように延伸し、乾燥させた。延伸したフィルムを緊張状態に保ったまま、ヨウ素(I2)の飽和蒸気に接触させてヨウ素を吸着させ、偏光フィルムを得た。この偏光フィルムの偏光度を測定したところ、94.8%であった。
【0111】
比較例1:ポリビニルアルコールおよび澱粉からのフィルム作製
ポリビニルアルコール(重合度約2000、完全けん化物)は、5重量%で室温の蒸留水に分散し、その後攪拌しながら90℃まで昇温して完全に溶解させた。また澱粉(ハイアミロースコーンスターチ)を5重量%で室温の蒸留水に分散させ、オートクレーブを用いて130℃で溶解した。この溶液を実施例1と同様な方法で流延、乾燥した。その結果、ポリビニルアルコールの溶液からは厚さ約100μmのフィルムが得られた。それに対して、澱粉から得られたフィルムは非常に脆く、ひび割れが多数生じたため、以降の試験に用いることができなかった。
【0112】
比較例2:ポリビニルアルコールフィルムからの偏光フィルムの作製
比較例1で得られたポリビニルアルコールのフィルムを短冊状に切り取り、空気中で元の長さの2.0倍、3.0倍、4.0倍、5.0倍になるように延伸した。延伸倍率が3倍以上ではフィルムが白濁した。延伸したフィルムを緊張状態に保ったまま、実施例2と同様にヨウ素の蒸気に接触させたが、ヨウ素は吸着せず、偏光フィルムは得られなかった。
【0113】
比較例3:ポリビニルアルコールフィルムからの偏光フィルムの作製
比較例2で得られた延伸したポリビニルアルコールのフィルムを、緊張状態に保ったままヨウ素/ヨウ化カリウム/水の重量比が0.04/0.4/100の水溶液に25℃で60秒間浸漬した。次いでヨウ素/ヨウ化カリウム/水の重量比が4/4/100の水溶液に25℃で180秒間浸漬し、蒸留水で洗浄後、乾燥して偏光フィルムを得た。
【0114】
実施例4:α−1,4−グルカンおよびポリビニルアルコールのヨウ素との相互作用
α−1,4−グルカン、およびポリビニルアルコールとヨウ素との相互作用について、等温滴定型熱量計(Micro Cal社製VP-ITC)を用いて比較した。製造例1で得られたα−1,4−グルカン、およびポリビニルアルコール(重合度約2000、完全けん化物)を、0.05重量%となるように、ヨウ化カリウム(KI)溶液(200mM)に溶解し、高分子溶液を作成した。高分子溶液1419μlをVP-ITCのサンプルセルに入れ、10μlのヨウ素液(5.4mM I2、200mM KI)を270秒間隔で滴下し、高分子とヨウ素の相互作用による温度変化を測定した。さらに、ヨウ素液滴下によるヨウ素の希釈熱を測定するため、高分子を含まないKI溶液(200mM)をサンプルセルに入れ同様の実験を行った。また、ポリビニルアルコールの希釈熱を測定するため、ポリビニルアルコール溶液に、ヨウ素を含まないKI溶液(200mM)を滴下する実験も実施した。これら4つの滴定実験の実測データを図8〜11に示す。α−1,4−グルカンの場合(図8)、ヨウ素液の滴下に伴いヨウ素-アミロース複合体(包接化合物)形成に伴う、大きな発熱ピークが見られた。しかしながら、ポリビニルアルコールの場合(図9)、ヨウ素の希釈熱(図10)とポリビニルアルコールの希釈熱(図11)の合計と同程度の熱量しか検出されなかった。このことから、ポリビニルアルコールはα−1,4−グルカンと異なり、ヨウ素と複合体(包接化合物)を形成しないことが示された。
【0115】
試験1:フィルムの強度試験
上記実施例1および比較例1で得られたフィルムについて引張強度試験を行った。結果を表1に示す。α−1,4−グルカンからなるフィルムの方が、ポリビニルアルコールからなるフィルムに比べて高い強度を示した。
【0116】
【表1】
【0117】
試験2:フィルムの吸光度
上記実施例1および比較例1で得られた、ヨウ素染色前のフィルムについて吸光度の測定を行った。吸光度スペクトル結果を図6に示す。α−1,4−グルカンは波長が400nm以上の可視光領域の全域にわたって吸収がなく、また200〜400nmの紫外領域でも、ポリビニルアルコールに比べて非常に低い吸収しか持たないことが分かった。
【0118】
試験3:生分解性試験
製造例1のα−1,4−グルカンおよび澱粉(コーンスターチ)、ポリビニルアルコールの3種類について、生分解性試験を行った。分解率の経時変化のグラフを図7に示す。α−1,4−グルカンおよび澱粉は数日で分解が認められたのに対し、ポリビニルアルコールは12日経過してもほとんど分解しなかった。
【0119】
試験4:偏光度
実施例1で得られたα−1,4−グルカンの偏光フィルム、および比較例3で得られたポリビニルアルコールの偏光フィルムの偏光度を測定した。結果を表2に示す。表2によれば、α−1,4−グルカンは2倍程度の延伸倍率でも十分な偏光性をもち、ポリビニルアルコールの偏光フィルムに比べて、より低延伸倍率において十分な偏光効果を発揮できることが分かる。
【0120】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明の偏光フィルムは、生分解性に優れ、また生物資源由来であるα−1,4−グルカンを主成分として含むため、これを用いることによって環境への負荷の低減を図ることができる。加えて、本発明の偏光フィルムは、透明性に優れ、そして優れた強度およびガスバリア性を有し、光学材料として好適に用いることができる。
さらに、本発明に用いられるα−1,4−グルカン類は、(b)二色性物質として用いることができるヨウ素に対して独自の配向メカニズムを有する。これにより、薄型であって優れた光学特性を有する偏光フィルムを提供することができる。本発明の偏光フィルムは、近年の環境問題および携帯端末素子などのの小型化・軽量化の両方の課題を解決することができ、産業上の有用性が非常に高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】本発明の偏光フィルムの1例の概略図である。
【図2】本発明の偏光フィルムの1例の概略図である。
【図3】本発明の偏光フィルムの1例の概略図である。
【図4】本発明の偏光フィルムの製造方法の1例の概略図である。
【図5】本発明の偏光フィルムの製造方法の1例の概略図である。
【図6】フィルムの吸光度スペクトルを示すグラフである。
【図7】フィルムの分解率の経時変化を示すグラフである。
【図8】α−1,4−グルカンとヨウ素の相互作用による発熱/吸熱変化を示すグラフであるである。
【図9】ポリビニルアルコールとヨウ素の相互作用による発熱/吸熱変化を示すグラフである。
【図10】ヨウ素のヨウ化カリウム溶液への希釈による発熱/吸熱変化を示すグラフである。
【図11】ポリビニルアルコールのヨウ化カリウム溶液への希釈による発熱/吸熱変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0123】
1…偏光フィルム、
3…偏光層、
5…保護層、
7…フィルム、
8…フィルム。
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物資源由来であって生分解性を有するα−1,4−グルカン類を含む偏光フィルム、ならびにこの偏光フィルムの製造方法、この偏光フィルムを用いた液晶表示装置およびエレクトロルミネッセンス表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
偏光フィルム(偏光板とも言われる。)は、液晶表示装置を構成する材料として、パソコン用表示装置、時計、電卓、車載用表示装置等に幅広く用いられている。一般的な偏光フィルムは、一軸延伸したフィルムを、ヨウ素や色素などの二色性物質を用いて染色させた偏光層を有する。この偏光層において、二色性物質がフィルム内で一定方向に配向することにより、偏光フィルムを透過した光は偏光となる。このような偏光フィルムは一般に、偏光層の両側あるいは片側に、トリアセテートフィルム等の保護層を有する。
【0003】
現在知られている代表的な偏光フィルムは、ポリビニルアルコールフィルムにヨウ素などの二色性物質を用いて染色したフィルムである。例えば、米国特許第2173304号明細書(特許文献1)には、ポリビニルアルコールからなる透明プラスチックと、いわゆる二色性物質とからなる、偏光子が記載されている。現在のところ、このようなポリビニルアルコールフィルムからなる偏光フィルムが一般に広く用いられている。
【0004】
しかし、ポリビニルアルコールは石油を原料として製造されるものである。またポリビニルアルコールを廃棄する場合、特殊な微生物を用いることによって分解することはできるものの、その分解性能は優れるものではない。そのため、ポリビニルアルコールは一般的には生分解性の素材としては認知されていない。一方、近年のエネルギー・資源枯渇問題の中で、様々な分野において、環境への負荷がより少ない、生物資源由来であって生分解性を持つ素材への置き換え、そして石油由来の素材から天然由来の素材への置き換えが望まれている。
【0005】
ところで、ヨウ素との親和性が高い物質として、澱粉が良く知られている。澱粉に通常30%程度含まれるアミロースは、ヨウ素を包接して青色を呈する(ヨウ素澱粉反応)。澱粉は、トウモロコシなどの穀類、じゃがいも等の芋類などの植物から製造される、生物由来物質である。澱粉は、環境に対する負荷が少ない、再生産可能な生物資源として注目されており、また生分解性が高いという利点もある。
【0006】
しかし、澱粉は皮膜形成能力に優れるものではなく、澱粉を用いて均一なフィルムを得ることは困難である。また、たとえフィルムが得られたとしても、得られるフィルムは一般に不透明なものであり、光学フィルム用途における性能を満たさない。また、澱粉から得られるフィルムは脆く、そして伸び特性も劣ることから、偏光フィルムの製造に欠かせない延伸操作を行うことが非常に困難である。
【0007】
このような澱粉の皮膜形成能力の悪さは、澱粉の組成に由来すると考えられる。澱粉は通常アミロース(グルコースが直鎖状に結合した構造のポリマー)とアミロペクチン(アミロースに枝分かれが生じた房状のポリマー)の両方の混合体からなる。直鎖状のアミロ−スは加工性、フィルム特性、成形性において合成プラスチックに匹敵する特性を備えているが、アミロペクチンは強度特性においてより劣った性能を示す。従って、混合体である天然澱粉をフィルムなどの形成に用いると、強度特性において不充分なものとなる。
【0008】
天然澱粉からアミロースを分離抽出することは可能ではあるが、しかしながらその操作は煩雑であり、また得られるアミロースの収率も低く、工業的製法にはなりえない。さらに、分離抽出により得られた天然アミロースは分子量分布が広く、また少量の枝分かれを含むことが原因で、十分な均一性や強度特性を持つ成形物やフィルムを得ることはできない。上記のような理由から、これまで天然澱粉は偏光フィルムの素材として利用されることはなかった。
【0009】
特開2003−195001号公報(特許文献2)には、一次元及び多次元のいずれかの周期構造を有し、該周期構造の少なくとも一部が有機化合物で形成されたことを特徴とする有機フォトニック結晶が記載されている。そしてここの有機化合物として生物分解性材料が挙げられている。しかしながら、ここでいう有機フォトニック結晶は主として、その結晶形態から生じるバンドギャップを利用するものである。従って、その光学的性質は本発明の偏光フィルターとは大きく異なるものであり、そしてこれらの発明の利用分野もまた異なるものである。さらにこの有機フォトニック結晶を構成する周期構造の大きさもまた本発明の偏光フィルターにおける配向とは大きく異なるものであり、このことからもこれらの光学的性質が異なることは明らかである。
【0010】
【特許文献1】米国特許第2173304号明細書
【特許文献2】特開2003−195001号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、上記問題点の解決を意図するものであり、生物資源由来であって生分解性を有し、かつ十分な強度および透明性を有する偏光フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、生物資源由来であってかつ生分解性に優れるα−1,4−グルカンを用いて偏光フィルムを作製することを見出し、本発明を完成させた。
【0013】
本発明は、
(a)α−1,4−グルカンおよびその修飾物の少なくとも1種、および
(b)二色性物質、
を含む偏光層を有する偏光フィルム、を提供するものであり、これにより上記目的が達成される。
【0014】
上記(a)α−1,4−グルカンおよびその修飾物の少なくとも1種の分子量が100kDa〜6000kDaであるのが好ましい。
【0015】
また、α−1,4−グルカンが酵素合成α−1,4−グルカンであるのが好ましい。
【0016】
また、α−1,4−グルカン修飾物が、エステル化、エーテル化および架橋からなる群から選択される1種またはそれ以上の修飾によって修飾されたα−1,4−グルカンであるのが好ましい。
【0017】
さらに、上記(b)二色性物質がヨウ素であるのが好ましい。
【0018】
本発明の偏光フィルムはさらに、偏光層の少なくとも1面上に設けられた保護層を有するのが好ましい。
【0019】
そして、本発明の偏光フィルムの1態様として、上記保護層および偏光層に含まれるα−1,4−グルカンの修飾置換度が連続的に変化するものが挙げられる。
【0020】
本発明の偏光フィルムの1態様として、
偏光層および保護層を有する偏光フィルムであって、
この保護層は、エステル化、エーテル化および架橋からなる群から選択される1種またはそれ以上の修飾によって修飾された、1種またはそれ以上のα−1,4−グルカン修飾物を含み、および
この偏光層は、保護層に含まれるα−1,4−グルカン修飾物を脱修飾させることによって得られた、α−1,4−グルカン、および(b)二色性物質、を含む、
偏光フィルム、が挙げられる。
【0021】
本発明の偏光フィルムの他の1態様として、
偏光層および保護層を有する偏光フィルムであって、
この偏光層は、α−1,4−グルカン、および(b)二色性物質、を含み、および
この保護層は、偏光層に含まれるα−1,4−グルカンを、エステル化、エーテル化および架橋からなる群から選択される修飾によって得られた、1種またはそれ以上のα−1,4−グルカン修飾物を含む、
偏光フィルム、が挙げられる。
【0022】
上記保護層が、ジアセチル化α−1,4−グルカン、トリアセチル化α−1,4−グルカン、アセチルブチリル化α−1,4−グルカンならびにこれらのコポリマーおよびターポリマーからなる群から選択される、1種またはそれ以上のα−1,4−グルカン修飾物を含むのが好ましい。
【0023】
本発明はまた、偏光フィルムの製造方法も提供する。偏光フィルムの製造方法の1態様として、
α−1,4−グルカンおよびその修飾物の少なくとも1種(a)を含むフィルムを形成する、フィルム形成工程、
形成されたフィルムを配向させる配向工程、および
配向されたフィルムを、二色性物質(b)を用いて染色する染色工程、
を包含する方法が挙げられる。
【0024】
偏光フィルムの製造方法の他の1態様として、
エステル化、エーテル化および架橋からなる群から選択される1種またはそれ以上の修飾によって修飾された、1種またはそれ以上のα−1,4−グルカン修飾物を含むフィルムを形成する、フィルム形成工程、
形成されたフィルムを配向させる配向工程、
配向されたフィルムを脱修飾させる、脱修飾工程、および
脱修飾れたフィルムを、二色性物質(b)を用いて染色する、染色工程、
を包含する方法が挙げられる。
【0025】
偏光フィルムの製造方法の他の1態様として、
エステル化、エーテル化および架橋からなる群から選択される1種またはそれ以上の修飾によって修飾された、1種またはそれ以上のα−1,4−グルカン修飾物を含むフィルムを形成する、フィルム形成工程、
形成されたフィルムの片面を脱修飾させる、脱修飾工程、
得られたフィルムを配向させる配向工程、および
配向されたフィルムを、二色性物質(b)を用いて染色して、脱修飾した部分を染色する、染色工程、
を包含する方法が挙げられる。
【0026】
偏光フィルムの製造方法の他の1態様として、
α−1,4−グルカンを含むフィルムを形成するフィルム形成工程、
形成されたフィルムの片面を、エステル化、エーテル化および架橋からなる群から選択される1種またはそれ以上の修飾を行う、修飾工程、
得られたフィルムを配向させる配向工程、および
配向されたフィルムを、二色性物質(b)を用いて染色して、α−1,4−グルカンを染色する、染色工程、
を包含する方法が挙げられる。
【0027】
上記染色工程は気相中で行なわれるのが好ましい。また、上記フィルム形成工程において、キャスト法、カレンダー法または溶融押出し法によってフィルムが形成されるのが好ましい。
【0028】
上記配向工程において、引張延伸、圧延延伸またはずり配向処理を行ってフィルムを配向させるのが好ましい。
【0029】
上記配向工程において、水性溶媒若しくは有機性溶媒またはこれらの混合物中にフィルムを浸漬し、次いで、浸漬したフィルムを、引張延伸または圧延延伸を行い配向させる方法も挙げられる。
【0030】
本発明の偏光フィルムは、液晶表示装置、エレクトロルミネッセンス表示装置などに用いることができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によって、α−1,4−グルカンを用いて偏光フィルムを製造することができる。α−1,4−グルカンは生分解性に優れ、また生物資源由来であるため、これを用いることによって環境への負荷の低減を図ることができる。また、α−1,4−グルカンからなるフィルムは透明性に優れ、そして優れた強度およびガスバリア性を有するため、光学材料として好適に用いることができる。
【0032】
さらに(b)二色性物質としてヨウ素を用いる場合、α−1,4−グルカンは、ヨウ素との親和性が高く、α−1,4−グルカン−ヨウ素複合体(包接化合物)を形成する性質を有する。この結果、α−1,4−グルカンのらせん構造内部の空洞部分にヨウ素を配向させることができる。このようにα−1,4−グルカンによるヨウ素の配向メカニズムは、ポリビニルアルコールを用いたヨウ素の配向メカニズムとは異なっている。この独自の配向メカニズムにより、薄型であり優れた光学特性を有する偏光フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
用語の定義
用語「分散度Mw/Mn」とは、重量平均分子量Mwに対する数平均分子量Mnの比(すなわち、Mw÷Mn)である。高分子化合物は、タンパク質のような特別の場合を除き、その由来が天然または非天然のいずれであるかに関わらず、その分子量は単一ではなく、ある程度の幅を持っている。そのため、高分子化合物の分子量の分散程度を示すために、高分子化学の分野では通常、分散度Mw/Mnが用いられている。この分散度は、高分子化合物の分子量分布の幅広さの指標である。分子量が完全に単一な高分子化合物であればMw/Mnは1であり、分子量分布が広がるにつれてMw/Mnは1よりも大きな値になる。本明細書中で「分子量」という用語は、特に断りのない限り重量平均分子量(Mw)を指す。
【0034】
用語「α−1,4−グルカン」とは、本明細書中で用いられる場合、D−グルコースを構成単位とする糖であって、α−1,4−グルコシド結合のみによって連結された糖単位を少なくとも2糖単位以上有する糖をいう。α−1,4−グルカンは、直鎖状の分子である。α−1,4−グルカンは、直鎖状グルカンとも呼ばれる。1分子のα−1,4−グルカンに含まれる糖単位の数を、重合度という。本明細書中で「重合度」という用語は、特に断りのない限り重量平均重合度を指す。α−1,4−グルカンの場合、重量平均重合度は、重量平均分子量を162で割ることによって算出される。
【0035】
用語「置換度」は、α−1,4−グルカン修飾物における、無水グルコース残基あたりの平均置換水酸基数を表わす。無水グルコース残基の水酸基は3つあり、それがすべて化学修飾によって置換された場合、置換度は3、平均して2個の水酸基が置換された場合は置換度が2となる。化学修飾がアセチル化の場合、置換度2のものをジアセテート、3のものをトリアセテートと呼ぶ。前述のように、置換度はあくまでも平均値であり、その中間の値も取り得ることから、本明細書中では、置換度が約2〜3の範囲のものを、ジアセテートまたはトリアセテートと呼ぶ。
【0036】
偏光フィルム
本発明の偏光フィルムは偏光層を有する。そして偏光層には、(a)α−1,4−グルカンおよびその修飾物の少なくとも1種(以下「α−1,4−グルカン類」と記載することもある。)、および(b)二色性物質、が含まれる。
【0037】
α−1,4−グルカン類は、グルコースが直鎖状に結合した構造のポリマーである。これは、当該分野で公知の方法で、天然澱粉から、あるいは酵素的な手法等で製造することができる。
【0038】
天然澱粉からα−1,4−グルカンを得る方法としては、たとえば天然澱粉中に存在するアミロペクチンのα−1,6−グルコシド結合のみに、枝切り酵素として既知のイソアミラ−ゼやプルラナ−ゼを選択的に作用させ、アミロペクチンを分解することにより、アミロ−スを得る方法(いわゆる澱粉酵素分解法)がある。別の例として、澱粉糊液からアミロ−ス/ブタノ−ル複合体を沈殿させて分離する方法がある。
【0039】
また公知の酵素合成法を用いて、α−1,4−グルカンを調製することもできる。酵素合成法の例としては、スクロースを基質として、アミロスクラーゼ(amylosucrase、EC 2.4.1.4)を作用させる方法がある。
【0040】
酵素合成法の別の例は、グルカンホスホリラーゼ(α−glucan phosphorylase、EC 2.4.1.1;通常、ホスホリラーゼといわれる)を用いる方法が挙げられる。ホスホリラーゼは、加リン酸分解反応を触媒する酵素である。
【0041】
本発明では、酵素合成α−1,4−グルカンを用いるのが好ましく、グルカンホスホリラーゼを用いて酵素合成されたα−1,4−グルカンを用いるのが特に好ましい。グルカンホスホリラーゼを用いて酵素合成された酵素合成α−1,4−グルカンは次のような特徴を有する:
(1)生物資源である糖質を原料として製造される;
(2)天然澱粉と同様にグルコース残基のみで構成されており、α−1,4−グルカンも、その分解中間体も、そして最終分解物に至るまで環境および生体に対して毒性がない;
(3)分子量分布が狭く(Mw/Mnが1.1以下)、製造条件を適切に制御することによって任意の重合度(約60〜約37000)を有するものが得られる;
(4)完全に直鎖であり、天然澱粉から分画したアミロースに認められるわずかな分岐構造をも含まない;
(5)皮膜の酸素透過性が低い;
(6)皮膜中の水分量が変動した場合であっても、強度等の物性が変化しにくい;
(7)必要に応じて澱粉と同様の化学修飾が可能である。
【0042】
上記のα−1,4−グルカンに化学修飾を施したものを用いることもできる。この修飾されたα−1,4−グルカンは、本明細書中において「α−1,4−グルカン修飾物」と記載することもある。化学修飾の例としては、エステル化、エーテル化および架橋などが挙げられる。α−1,4−グルカンを化学修飾する際において、これらの修飾を単独あるいは組み合わせて使用することができる。
【0043】
エステル化は、例えば、α−1,4−グルカンを各種溶媒中でまたは無溶媒で、エステル化試薬(例えば、酸無水物、有機酸、酸塩化物、ケテンまたは他のエステル化試薬)と反応させることによって行われ得る。このようなエステル化によって、例えば、酢酸エステル、プロピオン酸エステルなどのアシル化エステル修飾物が得られる。
エステル化によって、α−1,4−グルカンを構成するグルコース残基に含まれる水酸基の水素を置換することができるアシル基として、例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、バレリル基、イソバレリル基、ピバロイル基、ラウロイル基、ミリストイル基、ベンゾイル基、アクリロイル基、メタクリロイル基などが挙げられる。
【0044】
エーテル化は、例えば、α−1,4−グルカンを、アルカリ存在下でエーテル化剤(例えば、ハロゲン化アルキル、硫酸ジアルキルなど)と反応させることによって行われ得る。このようなエーテル化によって、例えば、カルボキシメチルエーテル、ヒドロキシプロピルエーテル、ヒドロキシエチルエーテル、ヒドロキシメチルエーテル、メチルエーテル、エチルエーテルの修飾物が得られる。
【0045】
架橋は、例えば、α−1,4−グルカンを、架橋剤(ホルマリン、エピクロロヒドリン、グルタルアルデヒド、各種ジグリシジルエーテル、各種エステルなど)と反応させることによって行われ得る。
【0046】
(a)α−1,4−グルカン類は、修飾を施していないものまたは修飾を施したものをそれぞれ単独で用いてもよく、またはそれらを併用して用いてもよい。また、2種以上の重合度の異なるα−1,4−グルカンおよび/またはその修飾物を併用してもよい。
【0047】
グルカンホスホリラーゼを用いて酵素合成された酵素合成α−1,4−グルカン類を、偏光フィルムの偏光層の形成素材として使用した場合に、次のような利点が得られる:
(I)生物資源由来で生分解性であることから、環境への負荷を低減できる。
(II)分子量分布が狭く任意の重合度のものを合成できるため、フィルムの物性を容易に制御することができる。
(III)枝分かれのない均一な構造であることから、フィルムの透明性が高く、高強度である。
(IV)酸素透過性が低いため、液晶表示装置やエレクトロルミネッセンス表示装置等に使用した場合、装置を構成する他の材料の酸化による劣化を防ぐことができる。
(V)水分の影響をうけにくく、高温高湿下でも十分な性能を発揮することができる。
【0048】
本発明で用いるα−1,4−グルカン類の平均分子量は、100kDa〜6000kDaであることが好ましい。平均分子量が100kDa以下では、単独で十分な強度を持つフィルムを形成させることが困難となるおそれがある。また、6000kDa以上では、酵素合成の際の収率が低く、また粘度が高いために成型が困難となるおそれがある。ただし2種以上の重合度のα−1,4−グルカン類を併用する場合はこの限りではなく、例えば上記範囲以外の平均分子量を有する低分子量グルカンと高分子量グルカンとを用いる場合、またはこれらと上記範囲内の平均分子量を有するグルカンとを用いる場合であっても、良好な形成性を得ることができる。
【0049】
さらに、異なる分子量を有するα−1,4−グルカン類2種以上を混合して用いることによって、偏光フィルムの偏光層の物性を制御することもできる。混合するα−1,4−グルカン類の分子量や、用いるα−1,4−グルカン類の比率を変化させることによって、柔軟性や伸びなどの物性をコントロールすることができる。
【0050】
また、α−1,4−グルカン類と、他の高分子材料とを混合して、偏光フィルムを調製してもよい。用いることができる他の高分子材料の例としては、多糖類としてプルラン、アルギン酸、カラギーナン、グアーガム、寒天、キトサン、セルロースおよびその誘導体、デキストリン、デンプン類およびその誘導体など、またタンパク質、例えばゼラチン、グルテン、卵白、卵黄など、あるいはポリ乳酸やポリ−ε−カプロラクトン等のポリエステル類、ポリエチレングリコール等のポリエーテル類、ポリビニルアルコールやポリエチレン等のポリオレフィン類、ポリアミド類、等の樹脂が挙げられる。
【0051】
本発明においては、偏光層がα−1,4−グルカンを含むのが特に好ましい。以下に記載する(b)二色性物質としてヨウ素を用いる場合において、α−1,4−グルカンは特に良好なヨウ素包接性を示すからである。
【0052】
(b)二色性物質は、α−1,4−グルカン類に添加して配向させることによって、偏光層に偏光性能を付与するものである。このような二色性物質として、例えば、ヨウ素、二色性染料、蛍光染料などが挙げられる。
【0053】
二色性染料として、例えばジスアゾ化合物、トリスアゾ化合物、およびこれらの含金属化合物などの、ポリビニルアルコール系偏光フィルムにおいて通常用いられる二色性染料が挙げられる。このような染料の具体例としては、例えば、C.I.ダイレクト・イエロー12、28、44、142、C.I.ダイレクト・ブルー1、71、78、168、202、C.I.ダイレクト・レッド2、31、79、81、117、247、C.I.ダイレクト・バイオレット9、51、C.I.ダイレクト・オレンジ26、39、107、C.I.ダイレクト・ブラウン106、223などが挙げられる。この他にも、例えばPET系偏光フィルムにおいて通常用いられる二色性染料なども用いることができる。蛍光染料として、例えば、テルフェニル、クアテルフェニル、ポリフェニル1、7H−ベンズイミダゾ(2,1−ア)ベンズ(デ)イソキノリン−7−オン(BBQ)などのオリゴフェニレン類、2−(4−ビフェニルイル)−5−フェニル−1,3,4−オキサジアゾール(PBD)、1,4−ビス(5−フェニルオキサゾール−2−イル)ベンゼン(POPOP)などのオキサゾールおよびオキザジアゾール誘導体、7−ヒドロキシクマリン、7−ヒドロキシ−4−メチルクマリン(4−MU)、7−ジエチルアミノ−4−メチルクマリン(DAMC)、クマリン120などのクマリン誘導体、キノリノール誘導体、フタロシアニン誘導体、フルオレンおよびその誘導体、アントラセンおよびその誘導体、ローダミン6G、ローダミン110などのキサンテン系(ピロニン系、ローダミン系、フルオレセイン系)色素、クレシルバイオレット、オキサジン1などのオキサジン系色素、トランス−4,4’−ジフェニルスチルベンなどのスチルベン系色素、シアニン系色素、ポリアセチレン系化合物、フェニレンビニレン系化合物、フェニレンエチニレン系化合物、五員環および六員環複素環化合物、などの蛍光染料を挙げることができる。
【0054】
これらの(b)二色性物質の量は、用いる(b)二色性物質の種類および偏光フィルムの用途によって異なるが、(a)α−1,4−グルカン類100重量部に対して通常0.01〜10重量部、好ましくは0.1〜8重量部の量で用いられる。
【0055】
本発明においては、(b)二色性物質としてヨウ素を用いることが好ましい。α−1,4−グルカン分子はらせん構造を有しており、そしてこのらせん構造は種々の物質を包接することができる。ヨウ素はグルカン分子の代表的な包接物質であり、またα−1,4−グルカンとの親和性も非常に高いという利点を有する。ヨウ素を(b)二色性物質として用いることによって、少量のα−1,4−グルカン類に対して十分な量のヨウ素を吸着・配向させることができる。このため、厚さの薄い偏光層であっても十分な偏光性能を有する偏光フィルムを製造することができる。このような偏光フィルムを用いることによって、表示装置等の薄型化を図ることができる。さらにヨウ素がα−1,4−グルカン類に包接されることによって、偏光層の染色安定性が高くなるという利点も有する。
【0056】
ヨウ素は、ヨウ素分子(I2)や、ヨウ化カリウムとして添加することができる。ヨウ素は、α−1,4−グルカン類100重量部に対して通常0.01〜10重量部、好ましくは0.1〜8重量部の量で含まれる。ヨウ素の含有量は蛍光X線分析を用いて測定することができる。
【0057】
なお従来のポリビニルアルコールでは、水溶液中でヨウ素とヨウ化カリウムの両方を含浸させる必要があり、作業が煩雑になっていた。それに対して、本発明のα−1,4−グルカンのフィルムは、(b)二色性物質としてヨウ素を用いることによって、ヨウ素の蒸気中で染色することが可能となり、染色工程が非常に容易になるという利点を有する。
【0058】
(b)二色性物質としてヨウ素を用いる場合は、ヨウ素が(a)α−1,4−グルカン類中に包接されるという優れた効果を得ることができるが、一方で本発明における(b)二色性物質の使用は、包接される化合物に限定されるものではない。
【0059】
本発明の偏光フィルムは、偏光層に、可塑剤、柔軟化剤、架橋剤、安定化剤等の種々の添加剤を含めてもよい。
【0060】
可塑剤の例として、例えばグリセリン、モノアセチン、ジアセチン、トリアセチン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル等が挙げられる。可塑剤を用いることによって、フィルムの成形性を高め、延伸を効果的に行うことができるという利点がある。
【0061】
柔軟化剤の例として、例えばグリセリン、モノアセチン、ジアセチン、トリアセチン等のグリセリン誘導体、エチレングリコ−ル、ジエチレングリコ−ル、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール等のエチレングリコ−ル誘導体、デキストリン、グルコース、フラクトース、スクロース、マルトオリゴ糖等の糖類、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル等の脂肪酸エステル類が挙げられる。柔軟化剤を用いることによって、フィルムに柔軟性を与え、伸びを向上させることができる。
【0062】
本発明の偏光フィルムは偏光層のみから構成されてもよい。このような態様の偏光フィルムの概略図を図1に示す。また本発明の偏光フィルムは、偏光層の少なくとも1面上に保護層を有していてもよい。保護層は、偏光層の片面にのみ設けてもよく、また偏光層の両面に設けてもよい。このような態様の偏光フィルムの概略図を図2および図3に示す。これらの保護層を設けることによって、摩耗などの物理的損傷から、偏光層を保護することができる。さらに、これらの保護層に、反射防止性能、防眩性能等などの種々の性能を付与させてもよい。
【0063】
保護層として、当該分野で公知に用いられている、セルローストリアセテートやセルロースアセテートブチレート等を含むフィルム、あるいはガラスなどを用いることができる。また、α−1,4−グルカンをアセチル化したジアセテートあるいはトリアセテートなどの、アセチル化α−1,4−グルカンを用いることもできる。保護層として、アセチル化α−1,4−グルカンを含むフィルムを用いるのがより好ましい。アセチル化α−1,4−グルカンのフィルムは、透明性および耐水性に優れている。さらに、偏光フィルムに用いるα−1,4−グルカンフィルムと同質の素材であるため、偏光層とのなじみが良いという利点も有する。
【0064】
アセチル化グルカンとして、例えば、ジアセチル化α−1,4−グルカン、トリアセチル化α−1,4−グルカン、アセチルブチリル化α−1,4−グルカンなどが挙げられる。アセチルブチリル化α−1,4−グルカンは、グルカンを構成する1のグルコース残基に含まれる3つの水酸基の水素が、1または2のアセチルおよびブチリルによって置換されたものである。これらのアセチル化α−1,4−グルカンは、上記したとおりα−1,4−グルカンをエステル化することによって得ることができる。また、これらのアセチル化グルカンは、2種またはそれ以上の修飾グルコース残基からなるポリマー、つまりコポリマー、ターポリマーなど、であってもよい。
【0065】
なお、上記のアセチル化グルカンは、修飾されていないα−1,4−グルカンとは異なり、ヨウ素を包接する能力はほとんど有しない。そのため、アセチル化α−1,4−グルカンを保護層の主成分として用いる場合、化学修飾されていないα−1,4−グルカンを含む層と、アセチル化α−1,4−グルカンを主成分として含む層とをあらかじめ複合化させ、次いでヨウ素を用いてこれを染色・配向を行うことによって、化学修飾されていないα−1,4−グルカンを含む層のみを選択的に染色することができる。こうして、保護層および偏光層を有する偏光フィルムを製造することもできる。また、アセチル化α−1,4−グルカンの代わりにエーテル化α−1,4−グルカンなどの他のα−1,4−グルカン修飾物を用いても同様の偏光フィルムを製造することができる。一般に、α−1,4−グルカン修飾物において置換度が0.4を超える場合は、α−1,4−グルカンのヨウ素包接能力はほとんど有さなくなるといえる。但し、α−1,4−グルカン修飾物がブロックコポリマー等である場合、例えばα−1,4−グルカンとアセチル化α−1,4−グルカンとのブロックコポリマーなど、はこの限りではない。
【0066】
偏光フィルムの製造方法
本発明の偏光フィルムの製造は、一般に以下に示す方法によって行うことができる。ただしその順番や組み合わせはこれに限ったものではなく、最適な方法を選択することができる。まず、α−1,4−グルカン類(a)を主成分とするフィルムを作製する。これを延伸し、次いで二色性物質(b)を加える。これにより二色性物質(b)がα−1,4−グルカン類(a)のフィルム中で配向することとなり、偏光性を有する偏光層が得られる。延伸と二色性物質添加の順序は何れが先であってもよく、またこれらを同時に行うこともできる。その後、必要に応じて、偏光層の少なくとも一面に保護層を形成することができる。
【0067】
偏光フィルムの製造方法の一例として、例えば、
α−1,4−グルカンおよびその修飾物の少なくとも1種(a)を含むフィルムを形成する、フィルム形成工程、
形成されたフィルムを配向させる配向工程、および
配向されたフィルムを、二色性物質(b)を用いて染色する染色工程、
を包含する方法が挙げられる。この方法は、二色性物質(b)としてヨウ素を用いる場合などに用いることができるが特に限定されるものではなく、二色性染料を用いる場合にも用いることができる。
【0068】
なお、本明細書中において、配向工程の後に染色工程を行う方法は、フィルムを延伸などによって配向させた状態のまま染色を行う態様も含むものとする。
【0069】
偏光フィルムの製造方法の他の例として、例えば、
α−1,4−グルカンおよびその修飾物の少なくとも1種(a)を含むフィルムを形成する、フィルム形成工程、
形成されたフィルムを、二色性物質(b)を用いて染色する染色工程、および
染色されたフィルムを配向させる配向工程、
を包含する方法が挙げられる。この方法は、二色性物質(b)として二色性染料などを用いる場合などに用いることができるが特に限定されるものではなく、ヨウ素を用いる場合にも用いることができる。
【0070】
なお、本明細書において、染色工程の後に配向工程を行う方法は、フィルムを、二色性物質を含む溶液などに浸漬した状態において延伸などの配向を行う態様を含むものとする。
【0071】
偏光フィルムの製造方法の他の例として、例えば、
エステル化、エーテル化および架橋からなる群から選択される1種またはそれ以上の修飾によって修飾された、1種またはそれ以上のα−1,4−グルカン修飾物を含むフィルムを形成する、フィルム形成工程、
形成されたフィルムを配向させる配向工程、
配向されたフィルムを脱修飾させる脱修飾工程、および
脱修飾れたフィルムを、二色性物質(b)を用いて染色する、染色工程、
を包含する方法が挙げられる。α−1,4−グルカン修飾物は、α−1,4−グルカンよりも容易に延伸配向させることができるという利点を有する。このような方法を用いることによって、偏光フィルムをより容易に調製することができる。
【0072】
上記方法によって、偏光層を形成することができる。こうして得られた偏光層をそのまま偏光フィルムとして用いてもよく、またこの偏光層の1面または両面に保護層を設けて、これを偏光フィルムとしてもよい。
【0073】
フィルムの製造方法としては、キャスト法、押出し法、カレンダー法などを選択することができる。重合度が高い水溶性のα−1,4−グルカン類の場合は、水溶液から基板上にキャストし、乾燥させることによってフィルムを得ることができる。重合度が低いα−1,4−グルカン類の場合は、アルカリや高温の条件で溶解させ、ゲル状態を経てフィルムを成型することができる。また、少量の水や可塑剤とともに混練し、ローラープレス等で圧延し成形することもできる。
【0074】
こうして製造されたフィルムを配向させる。配向させる方法として、例えば引張延伸、圧延延伸などの延伸処理、またはずり配向処理などが挙げられる。(a)α−1,4−グルカン類を含むフィルムを延伸させる方法としては、引張りによる方法や、ローラー等で圧延する方法が挙げられる。延伸は乾燥したフィルムを用いて空気中で行っても良いし、水や有機溶媒を含浸させた後に行っても良い。また、水や有機溶媒の溶液中で延伸を行っても良い。その際に二色性物質や各種の添加剤を含む溶液中で延伸することもできる。
【0075】
延伸によらずに(a)α−1,4−グルカン類のフィルムを配向させる方法として、ずり配向を用いることができる。これはフィルムの上面と下面に反対方向の剪断力(ずり)を与えて、(a)α−1,4−グルカン類の分子を一定方向に配向させるものである。これにより延伸と同様な効果を得ることができる。ずり配向を用いることによって、フィルム延伸による方法と比較して大幅に薄い偏光フィルムを形成することが可能となる。
【0076】
本発明の偏光フィルムに用いられる(a)α−1,4−グルカン類は、より低い延伸倍率であっても高い偏光度を発現できることが、本発明者らによって見いだされた。これは本発明の偏光フィルムの利点の1つである。例えば従来のポリビニルアルコール系のフィルムでは4〜5倍程度の延伸が必要であるのに対して、(a)α−1,4−グルカン類の場合、1.5〜2倍程度の延伸で同等な効果を得ることができるという優れた利点を有する。
【0077】
(b)二色性物質による染色は、乾式法や湿式法によって行うことができる。乾式法は気相中で(b)二色性物質を吸着させて染色する方法である。(b)二色性物質としてヨウ素(I2)を用いる場合はヨウ素の蒸気中にフィルムを暴露させることで吸着ができるため、このような乾式法は非常に簡便な方法である。ポリビニルアルコールの場合は、気相中でのヨウ素の吸着は起こらないか、または起こっても吸着速度が非常に小さいため、このような乾式法を採用することができない。また延伸したポリビニルアルコールのフィルムは結晶化のため白濁しており、たとえヨウ素を吸着できたとしても光が透過しないために光学フィルムとして使用することはできない。なお、この乾式法は、フィルムを延伸などによって配向させた後に染色する場合などに用いることができるが、特に限定されるものではない。
【0078】
湿式法は、(b)二色性物質を含む溶液中にフィルムを含浸させ、(b)二色性物質を吸着させて染色するものである。湿式法は、二色性染料、蛍光染料、ヨウ素、ヨウ化カリウムなどの種々の(b)二色性物質を用いることができる。(b)二色性物質を溶解する溶媒として、例えば蒸留水、イオン交換水などの水性溶媒、そして、アルコール類、ケトン類、エーテル類、エステル類、芳香族類などの有機溶媒、およびこれらの混合物を用いることができる。この湿式法は、フィルムを染色した後に、延伸などによって配向させる場合などに用いることができるが、特に限定されるものではない。
【0079】
乾式法と湿式法の中間的な方法として、水や有機溶媒等であらかじめ膨潤させた(a)α−1,4−グルカン類のフィルムに対して、気相中で(b)二色性物質を吸着させることによって染色する方法が挙げられる。このような中間的な方法を用いることもできる。
【0080】
また、(a)α−1,4−グルカン類のフィルムを作製する際に、あらかじめ(b)二色性物質を含有させておき、それを延伸あるいは、ずりによって配向させることもできる。
【0081】
本発明の偏光フィルムの偏光層に、架橋剤を用いて架橋処理を施してもよい。架橋剤を用いることによって、延伸したα-1,4−グルカンのフィルムの分子配向を固定化することができる。架橋剤の例としては、例えばホルマリン、エピクロロヒドリン、グルタルアルデヒド、各種ジグリシジルエーテル、各種エステル、ホウ酸等が挙げられる。
【0082】
偏光フィルムの製造方法において、必要に応じて、上記したような種々の添加剤を用いることができる。これらの添加剤の添加方法、順序については、添加剤の目的に応じて選択することができる。例えば可塑剤や柔軟化剤は、延伸を効率的に行うことを目的として、フィルムの作製時に添加することが好ましい。また、架橋剤はフィルムの延伸後、あるいは延伸と同時に添加することが好ましい。
【0083】
α−1,4−グルカンから得られた偏光フィルムに、保護層や機能性層を形成させる場合は、フィルム同士の貼りあわせやキャスト、溶融による製膜等の方法を用いることができる。貼り合せの際の接着剤は当該分野で公知のものを選択することができ、また、α−1,4−グルカンおよび/またはその修飾物を用いることが可能である。
【0084】
アセチル化α−1,4−グルカンなどの化学修飾したα−1,4−グルカンを含むフィルムを、保護層として用いる場合、化学修飾されていないα−1,4−グルカンを含むフィルムと、化学修飾したα−1,4−グルカン(アセチル化α−1,4−グルカンなど)を含むフィルムとを、あらかじめ複合化させ、これを染色・配向を行うことによって、偏光フィルムを製造することもできる。これらのフィルムの複合化方法としては、例えば、2種類のフィルムを貼りあわせる方法、一方のフィルム上に他方のフィルムをキャスト法、溶融押出し等によって形成させる方法などが挙げられる。
【0085】
偏光層と保護層とを有する偏光フィルムの製造方法の他の例として、例えばα−1,4−グルカン修飾物からなるフィルムを用いて、α−1,4−グルカン修飾物の修飾基を部分的に脱修飾する方法が挙げられる。例えばアセチル化α−1,4−グルカンからなるフィルムの何れか一方の表面のみを、アルカリ溶液などに接触させることによって、この接触させた面に近いα−1,4−グルカンの修飾基はけん化によって脱修飾されることとなる。α−1,4−グルカンの修飾基を脱修飾する方法として、α−1,4−グルカン修飾物がアセチル化α−1,4−グルカンである場合は、アルカリ溶液、アルカリ触媒溶液、またはこれらの混合物に、アセチル化α−1,4−グルカンのフィルムの片面のみを接触させてけん化する方法などが挙げられる。アルカリ溶液として、例えば水酸化ナトリウム水溶液(例えば1N水酸化ナトリウム水溶液など)、水酸化カリウム水溶液(例えば1N水酸化カリウム水溶液など)などが挙げられる。アルカリ触媒溶液として、例えばナトリウムメトキシドまたはナトリウムエトキシドなどのアルカリ触媒とアルコールなどの有機溶媒とを含む溶液が挙げられる。例えばアセチル化α−1,4−グルカンのフィルムの一面をガラスやプラスチック基板に貼りつけて保護した後に、このフィルムをアルカリ溶液に接触させることによって、アセチル化α−1,4−グルカンからなるフィルムの片面のみをけん化することができる。このような製造方法の概略説明図を図4に示す。
【0086】
このような偏光フィルムの製造方法の一例として、例えば、
エステル化、エーテル化および架橋からなる群から選択される1種またはそれ以上の修飾によって修飾された、1種またはそれ以上のα−1,4−グルカン修飾物を含むフィルムを形成する、フィルム形成工程、
形成されたフィルムの片面を脱修飾させる、脱修飾工程、
得られたフィルムを配向させる配向工程、および
配向されたフィルムを、二色性物質(b)を用いて染色して、脱修飾した部分を染色する、染色工程、
を包含する方法が挙げられる。この方法は、二色性物質(b)としてヨウ素を用いる場合などに用いることができるが特に限定されるものではなく、二色性染料を用いる場合にも用いることができる。
【0087】
このような偏光フィルムの製造方法の他の一例として、例えば、
エステル化、エーテル化および架橋からなる群から選択される1種またはそれ以上の修飾によって修飾された、1種またはそれ以上のα−1,4−グルカン修飾物を含むフィルムを形成する、フィルム形成工程、
形成されたフィルムの片面を脱修飾させる、脱修飾工程、
得られたフィルムを、二色性物質(b)を用いて染色して、脱修飾した部分を染色する、染色工程、および
染色されたフィルムを配向させる配向工程、
を包含する方法が挙げられる。この方法は、二色性物質(b)として二色性染料などを用いる場合などに用いることができるが特に限定されるものではなく、ヨウ素を用いる場合にも用いることができる。
【0088】
これらの製造方法によって、偏光層および保護層を有し、そして偏光層と保護層との間に物理的な境界部分を有しない偏光フィルム、つまり偏光層および保護層に含まれるα−1,4−グルカンの修飾置換度が連続的に変化している偏光フィルムを得ることができる。これらの製造方法によって得られる偏光フィルムは、エステル化、エーテル化および架橋からなる群から選択される1種またはそれ以上の修飾によって修飾された1種またはそれ以上のα−1,4−グルカン修飾物を含む保護層と、保護層に含まれるα−1,4−グルカン修飾物を脱修飾させることによって得られたα−1,4−グルカンおよび(b)二色性物質を含む偏光層と、を有する。
【0089】
偏光層と保護層とを有する偏光フィルムの製造方法の他の例として、例えばα−1,4−グルカンからなるフィルムを用いて、このα−1,4−グルカンフィルムを部分的に修飾する方法が挙げられる。例えばα−1,4−グルカンからなるフィルムの一表面をガラスまたはプラスチック基板などに貼りつけて保護した後に、これを酸無水物などのエステル化試薬に接触させることによって、エステル化試薬に接触させた面方向のα−1,4−グルカンを選択的に修飾することができる。α−1,4−グルカンを修飾する方法は、例えばエステル化、エーテル化など、上記したα−1,4−グルカンの修飾方法と同様の方法を行うことができる。このような製造方法の概略説明図を図5に示す。
【0090】
このような偏光フィルムの製造方法の一例として、例えば、
α−1,4−グルカンを含むフィルムを形成するフィルム形成工程、
形成されたフィルムの片面を、エステル化、エーテル化および架橋からなる群から選択される1種またはそれ以上の修飾を行う、修飾工程、
得られたフィルムを配向させる配向工程、および
配向されたフィルムを、二色性物質(b)を用いて染色して、α−1,4−グルカンを染色する、染色工程、
を包含する方法が挙げられる。この方法は、二色性物質(b)としてヨウ素を用いる場合に適した方法である。
【0091】
このような偏光フィルムの製造方法の他の一例として、例えば、
α−1,4−グルカンを含むフィルムを形成するフィルム形成工程、
形成されたフィルムの片面を、エステル化、エーテル化および架橋からなる群から選択される1種またはそれ以上の修飾を行う、修飾工程、
得られたフィルムを、二色性物質(b)を用いて染色して、α−1,4−グルカンを染色する、染色工程、および
染色されたフィルムを配向させる配向工程、
を包含する方法が挙げられる。この方法は、二色性物質(b)として二色性染料などを用いる場合に適した方法である。
【0092】
これらの製造方法によって、偏光層および保護層を有し、そして偏光層と保護層との間に物理的な境界部分を有しない偏光フィルム、つまり偏光層および保護層に含まれるα−1,4−グルカンの修飾置換度が連続的に変化している偏光フィルムを得ることができる。そしてこれらの製造方法によって得られる偏光フィルムは、α−1,4−グルカンおよび(b)二色性物質を含む偏光層と、この偏光層に含まれるα−1,4−グルカンをエステル化、エーテル化および架橋からなる群から選択される修飾によって得られた1種またはそれ以上のα−1,4−グルカン修飾物を含む保護層と、を有する。
【0093】
これらの、偏光層および保護層に含まれるα−1,4−グルカンの修飾置換度が連続的に変化している偏光フィルムは、偏光層および保護層の間に物理的な境界部分を有しないため、複数のフィルムを貼りあわせた場合に問題となるフィルム間の界面における反射や剥がれが生じないという利点を有している。
【0094】
本発明の偏光フィルムが偏光層のみである場合は、フィルムの厚さは5〜100μmであるのが好ましく、10〜50μmであるのがより好ましい。また、偏光フィルムが偏光層および保護層を有する場合は、フィルムの厚さは10〜300μmであるのが好ましく、20〜200μmであるのがより好ましい。この場合、偏光層は0.002〜100μmを有するのが好ましく、0.002〜50μmを有するのがより好ましい。偏光フィルムが偏光層および保護層を有する場合、ずり配向を用いることによって偏光層の厚さが0.002〜5μmほどに薄い偏光フィルムを調製することが可能となる。
【0095】
本発明のα−1,4−グルカンからなる偏光フィルムは、パソコンや電卓などの液晶表示装置や、エレクトロルミネッセンス表示装置などに用いることができる。また、サングラスや写真・ビデオ用のフィルターや、遮光フィルム等の用途などにおいても幅広く用いることができる。
【実施例】
【0096】
以下、実施例及び試験例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されることはない。
【0097】
(重合度) 試験例において、馬鈴薯塊茎由来の精製グルカンホスホリラーゼの調製方法、Streptococcus mutans由来スクロースホスホリラーゼの調製方法、α−1,4−グルカンの収率(%)の計算方法、重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)の測定方法は、特開2002−345458号の記載により公知である方法に従った。具体的に、合成したグルカンの分子量は次のように測定した。まず、合成したグルカンを1N水酸化ナトリウムで完全に溶解し、適切な量の塩酸で中和した後、グルカン約300μg分を、示差屈折計と多角度光散乱検出器を併用したゲル濾過クロマトグラフィーに供することにより重量平均分子量を求めた。詳しくは、カラムとしてShodex SB806M−HQ(昭和電工製)を用い、検出器としては多角度光散乱検出器(DAWN−DSP、Wyatt Technology社製)および示差屈折計(Shodex RI−71、昭和電工製)をこの順序で連結して用いた。カラムを40℃に保ち、溶離液としては0.1M硝酸ナトリウム溶液を流速1mL/分で用いた。得られたシグナルを、データ解析ソフトウェア(商品名ASTRA、Wyatt Technology社製)を用いて収集し、同ソフトを用いて解析することにより、重量平均分子量、数平均分子量を求めた。
【0098】
(置換度の測定) アセチル化α−1,4−グルカンの置換度は、「澱粉・関連糖質実験法」(中村ら、1986年、学会出版センター)の記載に従い、以下の方法で測定した。試料1gを300mlの三角フラスコに精秤し、75%のエタノール50mlを加え分散した。これに0.5Nの水酸化ナトリウム水溶液を40ml加え、密栓して48時間室温で振盪した。過剰のアルカリを0.5Nの塩酸で滴定し、ブランクとの差から置換度(DS)を求めた。置換度(DS)は無水グルコース残基あたりの平均置換水酸基数である。
【0099】
(引張試験) フィルムの引張強度は以下の方法で測定した。幅12.7mm×長さ152.4mmの大きさの試験片を26℃、相対湿度55%の恒温恒湿室に1日静置したのち、同じ場所で引張試験を行った。引張試験機(島津製作所製 オ−トグラフAGS−H)にあらかじめ厚みを測定した試験片を、持ち手間距離が100mmになるように固定し、10mm/minの速度で破断するまで引張った。各試験片について5本の試験結果を平均し、持ち手内部で切断した場合は除外した。引張強度は破断時の荷重をフィルムの断面積で割って求めた。
【0100】
(吸光度・偏光度) フィルムの吸光度および偏光度は、以下の方法で測定した。日本分光製の吸光度計V−550を用いて、波長200nmから900nmの範囲で、1nm刻みで測定し、吸光度スペクトルを得た。分光スペクトルの値から、JIS Z8701に基づいて透過率を求めた。偏光度は、偏光層からなる偏光フィルム2枚を平行および直行で重ねた時の透過率から、下記の式を用いて算出した。
【0101】
【数1】
【0102】
Tp:平行透過率(%)
Tc:直行透過率(%)
【0103】
(生分解性試験) タイテック社製BODテスターを用い、JIS K−0102で定められた条件に準じて以下のように試験を行った。緩衝液にサンプルと活性汚泥を加え、25℃で保持した。分解によって消費された酸素量を経時的に読み取り、それをもとに分解率(%)を求めた。すべてのサンプルについて2回の結果の平均値を用いた。
【0104】
製造例1:α−1,4−グルカンの合成
15mMリン酸緩衝液(pH7.0)、106mMスクロース、及びマルトオリゴ糖混合物(テトラップH、林原製)5.4mg/リットルを含有する反応液(1リットル)に、馬鈴薯塊茎由来の精製グルカンホスホリラーゼ(1単位/ml)と、Streptococcus mutans由来スクロースホスホリラーゼ(1単位/ml)を加えて37℃で16時間保温し、反応終了後、生成したα−1,4−グルカンの収率(%)、重量平均分子量(Mw)および分子量分布(Mw/Mn)を決定した。その結果、重量平均分子量が1250kDa、分子量分布(Mw/Mn)が1.03のα−1,4−グルカンを得た。
【0105】
製造例2:アセチル化α−1,4−グルカンの作成
還流器付反応容器で、ピリジン1Lに、製造例1で得られたα−1,4−グルカンの濃度が5重量%となるように加え、無水酢酸160mlを滴下して、100℃において60分反応させた。反応後、エタノールを添加して生成物を析出させ、ろ過後、数回水で洗浄し、精製した。得られたアセチル化α−1,4−グルカンの置換度は2.90であった。
【0106】
実施例1
α−1,4−グルカンからのフィルム作製
製造例1で得られた重量平均分子量が1250kDaのα−1,4−グルカンを5重量%で室温の蒸留水に溶解した。この溶液を基板上に流延し、30℃に保った乾燥機で乾燥させて、厚さ約100μmのα−1,4−グルカンフィルムを得た。
【0107】
α−1,4−グルカンフィルムからの偏光フィルムの作製
こうして得られたα−1,4−グルカンのフィルムを短冊状に切り取り、エタノールと水の混合溶媒(容量比で2:1)に漬けた。これを取り出して空気中で元の長さの1.5倍、2.0倍、2.5倍、3.0倍になるようにそれぞれ延伸し、乾燥させた。延伸したフィルムを緊張状態に保ったまま、ヨウ素(I2)の飽和蒸気に接触させてヨウ素を吸着させ、偏光フィルムを得た。
【0108】
実施例2
アセチル化α−1,4−グルカンフィルムからの偏光フィルムの作製
製造例2で得られたアセチル化α−1,4−グルカンを5重量%でクロロホルムに溶解した。この溶液をポリエステルの基板上に流延し、室温で乾燥させて、厚さ約100μmのフィルムを得た。このフィルムを基板から剥がした後に短冊状に切り取り、空気中で元の長さの5.0倍になるように延伸した。延伸したフィルムを緊張状態に保ったまま、メタノールに対してアルカリ触媒であるナトリウムメトキシドを0.15重量%で溶解した溶液に浸漬し、6時間緩やかに振盪攪拌した。その後フィルムをメタノールで洗浄し、乾燥して脱修飾されたα−1,4−グルカンの延伸フィルムを得た。その後、この延伸フィルムを緊張状態に保ったまま、ヨウ素(I2)の飽和蒸気に接触させてヨウ素を吸着させ、偏光フィルムを得た。
【0109】
実施例3
アセチル化α−1,4−グルカンからの片面けん化フィルム作製
製造例2で得られたアセチル化α−1,4−グルカンを5重量%でクロロホルムに溶解した。この溶液をポリエステルの基板上に流延し、室温で乾燥させて、厚さ約100μmのフィルムを得た。このフィルムを基板からはがさずに、30℃の1N水酸化ナトリウム溶液に12分間浸漬してけん化をおこなった後、流水で洗浄した。50℃の乾燥機で乾燥後、基板からフィルムをはがして、片面がけん化されたアセチル化α−1,4−グルカンフィルムを得た。
【0110】
片面けん化α−1,4−グルカンフィルムからの偏光フィルムの作製
こうして得られた片面をけん化したα−1,4−グルカンのフィルムを短冊状に切り取り、エタノールと水の混合溶媒(容量比で2:1)に漬けた。これを取り出して空気中で元の長さの2.5倍になるように延伸し、乾燥させた。延伸したフィルムを緊張状態に保ったまま、ヨウ素(I2)の飽和蒸気に接触させてヨウ素を吸着させ、偏光フィルムを得た。この偏光フィルムの偏光度を測定したところ、94.8%であった。
【0111】
比較例1:ポリビニルアルコールおよび澱粉からのフィルム作製
ポリビニルアルコール(重合度約2000、完全けん化物)は、5重量%で室温の蒸留水に分散し、その後攪拌しながら90℃まで昇温して完全に溶解させた。また澱粉(ハイアミロースコーンスターチ)を5重量%で室温の蒸留水に分散させ、オートクレーブを用いて130℃で溶解した。この溶液を実施例1と同様な方法で流延、乾燥した。その結果、ポリビニルアルコールの溶液からは厚さ約100μmのフィルムが得られた。それに対して、澱粉から得られたフィルムは非常に脆く、ひび割れが多数生じたため、以降の試験に用いることができなかった。
【0112】
比較例2:ポリビニルアルコールフィルムからの偏光フィルムの作製
比較例1で得られたポリビニルアルコールのフィルムを短冊状に切り取り、空気中で元の長さの2.0倍、3.0倍、4.0倍、5.0倍になるように延伸した。延伸倍率が3倍以上ではフィルムが白濁した。延伸したフィルムを緊張状態に保ったまま、実施例2と同様にヨウ素の蒸気に接触させたが、ヨウ素は吸着せず、偏光フィルムは得られなかった。
【0113】
比較例3:ポリビニルアルコールフィルムからの偏光フィルムの作製
比較例2で得られた延伸したポリビニルアルコールのフィルムを、緊張状態に保ったままヨウ素/ヨウ化カリウム/水の重量比が0.04/0.4/100の水溶液に25℃で60秒間浸漬した。次いでヨウ素/ヨウ化カリウム/水の重量比が4/4/100の水溶液に25℃で180秒間浸漬し、蒸留水で洗浄後、乾燥して偏光フィルムを得た。
【0114】
実施例4:α−1,4−グルカンおよびポリビニルアルコールのヨウ素との相互作用
α−1,4−グルカン、およびポリビニルアルコールとヨウ素との相互作用について、等温滴定型熱量計(Micro Cal社製VP-ITC)を用いて比較した。製造例1で得られたα−1,4−グルカン、およびポリビニルアルコール(重合度約2000、完全けん化物)を、0.05重量%となるように、ヨウ化カリウム(KI)溶液(200mM)に溶解し、高分子溶液を作成した。高分子溶液1419μlをVP-ITCのサンプルセルに入れ、10μlのヨウ素液(5.4mM I2、200mM KI)を270秒間隔で滴下し、高分子とヨウ素の相互作用による温度変化を測定した。さらに、ヨウ素液滴下によるヨウ素の希釈熱を測定するため、高分子を含まないKI溶液(200mM)をサンプルセルに入れ同様の実験を行った。また、ポリビニルアルコールの希釈熱を測定するため、ポリビニルアルコール溶液に、ヨウ素を含まないKI溶液(200mM)を滴下する実験も実施した。これら4つの滴定実験の実測データを図8〜11に示す。α−1,4−グルカンの場合(図8)、ヨウ素液の滴下に伴いヨウ素-アミロース複合体(包接化合物)形成に伴う、大きな発熱ピークが見られた。しかしながら、ポリビニルアルコールの場合(図9)、ヨウ素の希釈熱(図10)とポリビニルアルコールの希釈熱(図11)の合計と同程度の熱量しか検出されなかった。このことから、ポリビニルアルコールはα−1,4−グルカンと異なり、ヨウ素と複合体(包接化合物)を形成しないことが示された。
【0115】
試験1:フィルムの強度試験
上記実施例1および比較例1で得られたフィルムについて引張強度試験を行った。結果を表1に示す。α−1,4−グルカンからなるフィルムの方が、ポリビニルアルコールからなるフィルムに比べて高い強度を示した。
【0116】
【表1】
【0117】
試験2:フィルムの吸光度
上記実施例1および比較例1で得られた、ヨウ素染色前のフィルムについて吸光度の測定を行った。吸光度スペクトル結果を図6に示す。α−1,4−グルカンは波長が400nm以上の可視光領域の全域にわたって吸収がなく、また200〜400nmの紫外領域でも、ポリビニルアルコールに比べて非常に低い吸収しか持たないことが分かった。
【0118】
試験3:生分解性試験
製造例1のα−1,4−グルカンおよび澱粉(コーンスターチ)、ポリビニルアルコールの3種類について、生分解性試験を行った。分解率の経時変化のグラフを図7に示す。α−1,4−グルカンおよび澱粉は数日で分解が認められたのに対し、ポリビニルアルコールは12日経過してもほとんど分解しなかった。
【0119】
試験4:偏光度
実施例1で得られたα−1,4−グルカンの偏光フィルム、および比較例3で得られたポリビニルアルコールの偏光フィルムの偏光度を測定した。結果を表2に示す。表2によれば、α−1,4−グルカンは2倍程度の延伸倍率でも十分な偏光性をもち、ポリビニルアルコールの偏光フィルムに比べて、より低延伸倍率において十分な偏光効果を発揮できることが分かる。
【0120】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明の偏光フィルムは、生分解性に優れ、また生物資源由来であるα−1,4−グルカンを主成分として含むため、これを用いることによって環境への負荷の低減を図ることができる。加えて、本発明の偏光フィルムは、透明性に優れ、そして優れた強度およびガスバリア性を有し、光学材料として好適に用いることができる。
さらに、本発明に用いられるα−1,4−グルカン類は、(b)二色性物質として用いることができるヨウ素に対して独自の配向メカニズムを有する。これにより、薄型であって優れた光学特性を有する偏光フィルムを提供することができる。本発明の偏光フィルムは、近年の環境問題および携帯端末素子などのの小型化・軽量化の両方の課題を解決することができ、産業上の有用性が非常に高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】本発明の偏光フィルムの1例の概略図である。
【図2】本発明の偏光フィルムの1例の概略図である。
【図3】本発明の偏光フィルムの1例の概略図である。
【図4】本発明の偏光フィルムの製造方法の1例の概略図である。
【図5】本発明の偏光フィルムの製造方法の1例の概略図である。
【図6】フィルムの吸光度スペクトルを示すグラフである。
【図7】フィルムの分解率の経時変化を示すグラフである。
【図8】α−1,4−グルカンとヨウ素の相互作用による発熱/吸熱変化を示すグラフであるである。
【図9】ポリビニルアルコールとヨウ素の相互作用による発熱/吸熱変化を示すグラフである。
【図10】ヨウ素のヨウ化カリウム溶液への希釈による発熱/吸熱変化を示すグラフである。
【図11】ポリビニルアルコールのヨウ化カリウム溶液への希釈による発熱/吸熱変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0123】
1…偏光フィルム、
3…偏光層、
5…保護層、
7…フィルム、
8…フィルム。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)α−1,4−グルカンおよびその修飾物の少なくとも1種、および
(b)二色性物質、
を含む偏光層を有する、偏光フィルム。
【請求項2】
前記(a)α−1,4−グルカンおよびその修飾物の少なくとも1種の分子量が100kDa〜6000kDaである、請求項1記載の偏光フィルム。
【請求項3】
α−1,4−グルカンが酵素合成α−1,4−グルカンである、請求項1または2記載の偏光フィルム。
【請求項4】
α−1,4−グルカン修飾物が、エステル化、エーテル化および架橋からなる群から選択される1種またはそれ以上の修飾によって修飾されたα−1,4−グルカンである、請求項1〜3いずれかに記載の偏光フィルム。
【請求項5】
前記(b)二色性物質がヨウ素である、請求項1〜4いずれかに記載の偏光フィルム。
【請求項6】
さらに、偏光層の少なくとも1面上に設けられた保護層を有する、請求項1〜5いずれかに記載の偏光フィルム。
【請求項7】
前記保護層および偏光層に含まれるα−1,4−グルカンの修飾置換度が連続的に変化する、請求項6記載の偏光フィルム。
【請求項8】
偏光層および保護層を有する偏光フィルムであって、
該保護層は、エステル化、エーテル化および架橋からなる群から選択される1種またはそれ以上の修飾によって修飾された、1種またはそれ以上のα−1,4−グルカン修飾物を含み、および
該偏光層は、保護層に含まれるα−1,4−グルカン修飾物を脱修飾させることによって得られたα−1,4−グルカン、および(b)二色性物質、を含む、
偏光フィルム。
【請求項9】
偏光層および保護層を有する偏光フィルムであって、
該偏光層は、α−1,4−グルカン、および(b)二色性物質、を含み、および
該保護層は、偏光層に含まれるα−1,4−グルカンを、エステル化、エーテル化および架橋からなる群から選択される修飾によって得られた、1種またはそれ以上のα−1,4−グルカン修飾物を含む、
偏光フィルム。
【請求項10】
前記保護層が、ジアセチル化α−1,4−グルカン、トリアセチル化α−1,4−グルカン、アセチルブチリル化α−1,4−グルカンならびにこれらのコポリマーおよびターポリマーからなる群から選択される、1種またはそれ以上のα−1,4−グルカン修飾物を含む、請求項6〜9いずれかに記載の偏光フィルム。
【請求項11】
α−1,4−グルカンおよびその修飾物の少なくとも1種(a)を含むフィルムを形成する、フィルム形成工程、
形成されたフィルムを配向させる配向工程、および
配向されたフィルムを、二色性物質(b)を用いて染色する染色工程、
を包含する、偏光フィルムの製造方法。
【請求項12】
エステル化、エーテル化および架橋からなる群から選択される1種またはそれ以上の修飾によって修飾された、1種またはそれ以上のα−1,4−グルカン修飾物を含むフィルムを形成する、フィルム形成工程、
形成されたフィルムを配向させる配向工程、
配向されたフィルムを脱修飾させる脱修飾工程、および
脱修飾れたフィルムを、二色性物質(b)を用いて染色する、染色工程、
を包含する、偏光フィルムの製造方法。
【請求項13】
エステル化、エーテル化および架橋からなる群から選択される1種またはそれ以上の修飾によって修飾された、1種またはそれ以上のα−1,4−グルカン修飾物を含むフィルムを形成する、フィルム形成工程、
形成されたフィルムの片面を脱修飾させる、脱修飾工程、
得られたフィルムを配向させる配向工程、および
配向されたフィルムを、二色性物質(b)を用いて染色して、脱修飾した部分を染色する、染色工程、
を包含する、偏光フィルムの製造方法。
【請求項14】
α−1,4−グルカンを含むフィルムを形成するフィルム形成工程、
形成されたフィルムの片面を、エステル化、エーテル化および架橋からなる群から選択される1種またはそれ以上の修飾を行う、修飾工程、
得られたフィルムを配向させる配向工程、および
配向されたフィルムを、二色性物質(b)を用いて染色して、α−1,4−グルカンを染色する、染色工程、
を包含する、偏光フィルムの製造方法。
【請求項15】
前記染色工程が気相中で行なわれる、請求項11〜14いずれかに記載の偏光フィルムの製造方法。
【請求項16】
前記フィルム形成工程において、キャスト法、カレンダー法または溶融押出し法によってフィルムが形成される、請求項11〜15いずれかに記載の偏光フィルムの製造方法。
【請求項17】
前記配向工程において、引張延伸、圧延延伸またはずり配向処理を行ってフィルムを配向させる、請求項11〜16いずれかに記載の偏光フィルムの製造方法。
【請求項18】
前記配向工程において、水性溶媒若しくは有機性溶媒またはこれらの混合物中にフィルムを浸漬し、次いで、浸漬したフィルムを、引張延伸または圧延延伸を行い配向させる、請求項11〜17いずれかに記載の偏光フィルムの製造方法。
【請求項19】
請求項11〜18いずれかに記載の偏光フィルムの製造方法によって得られる偏光フィルム。
【請求項20】
請求項1〜10いずれかまたは請求項19記載の偏光フィルムを備える液晶表示装置。
【請求項21】
請求項1〜10いずれかまたは請求項19記載の偏光フィルムを備えるエレクトロルミネッセンス表示装置。
【請求項1】
(a)α−1,4−グルカンおよびその修飾物の少なくとも1種、および
(b)二色性物質、
を含む偏光層を有する、偏光フィルム。
【請求項2】
前記(a)α−1,4−グルカンおよびその修飾物の少なくとも1種の分子量が100kDa〜6000kDaである、請求項1記載の偏光フィルム。
【請求項3】
α−1,4−グルカンが酵素合成α−1,4−グルカンである、請求項1または2記載の偏光フィルム。
【請求項4】
α−1,4−グルカン修飾物が、エステル化、エーテル化および架橋からなる群から選択される1種またはそれ以上の修飾によって修飾されたα−1,4−グルカンである、請求項1〜3いずれかに記載の偏光フィルム。
【請求項5】
前記(b)二色性物質がヨウ素である、請求項1〜4いずれかに記載の偏光フィルム。
【請求項6】
さらに、偏光層の少なくとも1面上に設けられた保護層を有する、請求項1〜5いずれかに記載の偏光フィルム。
【請求項7】
前記保護層および偏光層に含まれるα−1,4−グルカンの修飾置換度が連続的に変化する、請求項6記載の偏光フィルム。
【請求項8】
偏光層および保護層を有する偏光フィルムであって、
該保護層は、エステル化、エーテル化および架橋からなる群から選択される1種またはそれ以上の修飾によって修飾された、1種またはそれ以上のα−1,4−グルカン修飾物を含み、および
該偏光層は、保護層に含まれるα−1,4−グルカン修飾物を脱修飾させることによって得られたα−1,4−グルカン、および(b)二色性物質、を含む、
偏光フィルム。
【請求項9】
偏光層および保護層を有する偏光フィルムであって、
該偏光層は、α−1,4−グルカン、および(b)二色性物質、を含み、および
該保護層は、偏光層に含まれるα−1,4−グルカンを、エステル化、エーテル化および架橋からなる群から選択される修飾によって得られた、1種またはそれ以上のα−1,4−グルカン修飾物を含む、
偏光フィルム。
【請求項10】
前記保護層が、ジアセチル化α−1,4−グルカン、トリアセチル化α−1,4−グルカン、アセチルブチリル化α−1,4−グルカンならびにこれらのコポリマーおよびターポリマーからなる群から選択される、1種またはそれ以上のα−1,4−グルカン修飾物を含む、請求項6〜9いずれかに記載の偏光フィルム。
【請求項11】
α−1,4−グルカンおよびその修飾物の少なくとも1種(a)を含むフィルムを形成する、フィルム形成工程、
形成されたフィルムを配向させる配向工程、および
配向されたフィルムを、二色性物質(b)を用いて染色する染色工程、
を包含する、偏光フィルムの製造方法。
【請求項12】
エステル化、エーテル化および架橋からなる群から選択される1種またはそれ以上の修飾によって修飾された、1種またはそれ以上のα−1,4−グルカン修飾物を含むフィルムを形成する、フィルム形成工程、
形成されたフィルムを配向させる配向工程、
配向されたフィルムを脱修飾させる脱修飾工程、および
脱修飾れたフィルムを、二色性物質(b)を用いて染色する、染色工程、
を包含する、偏光フィルムの製造方法。
【請求項13】
エステル化、エーテル化および架橋からなる群から選択される1種またはそれ以上の修飾によって修飾された、1種またはそれ以上のα−1,4−グルカン修飾物を含むフィルムを形成する、フィルム形成工程、
形成されたフィルムの片面を脱修飾させる、脱修飾工程、
得られたフィルムを配向させる配向工程、および
配向されたフィルムを、二色性物質(b)を用いて染色して、脱修飾した部分を染色する、染色工程、
を包含する、偏光フィルムの製造方法。
【請求項14】
α−1,4−グルカンを含むフィルムを形成するフィルム形成工程、
形成されたフィルムの片面を、エステル化、エーテル化および架橋からなる群から選択される1種またはそれ以上の修飾を行う、修飾工程、
得られたフィルムを配向させる配向工程、および
配向されたフィルムを、二色性物質(b)を用いて染色して、α−1,4−グルカンを染色する、染色工程、
を包含する、偏光フィルムの製造方法。
【請求項15】
前記染色工程が気相中で行なわれる、請求項11〜14いずれかに記載の偏光フィルムの製造方法。
【請求項16】
前記フィルム形成工程において、キャスト法、カレンダー法または溶融押出し法によってフィルムが形成される、請求項11〜15いずれかに記載の偏光フィルムの製造方法。
【請求項17】
前記配向工程において、引張延伸、圧延延伸またはずり配向処理を行ってフィルムを配向させる、請求項11〜16いずれかに記載の偏光フィルムの製造方法。
【請求項18】
前記配向工程において、水性溶媒若しくは有機性溶媒またはこれらの混合物中にフィルムを浸漬し、次いで、浸漬したフィルムを、引張延伸または圧延延伸を行い配向させる、請求項11〜17いずれかに記載の偏光フィルムの製造方法。
【請求項19】
請求項11〜18いずれかに記載の偏光フィルムの製造方法によって得られる偏光フィルム。
【請求項20】
請求項1〜10いずれかまたは請求項19記載の偏光フィルムを備える液晶表示装置。
【請求項21】
請求項1〜10いずれかまたは請求項19記載の偏光フィルムを備えるエレクトロルミネッセンス表示装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−146057(P2006−146057A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−339068(P2004−339068)
【出願日】平成16年11月24日(2004.11.24)
【出願人】(591173213)三和澱粉工業株式会社 (33)
【出願人】(000000228)江崎グリコ株式会社 (187)
【出願人】(000205627)大阪府 (238)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年11月24日(2004.11.24)
【出願人】(591173213)三和澱粉工業株式会社 (33)
【出願人】(000000228)江崎グリコ株式会社 (187)
【出願人】(000205627)大阪府 (238)
【Fターム(参考)】
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